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No.40416の一覧
[0] 鴉の瞳と放浪人 【異世界モノ・チート無し】 (旧題・らいぶら)ただいま書き溜め中[市民](2014/09/21 16:25)
[1] 2話[市民](2014/09/08 15:24)
[2] 3話[市民](2014/09/09 18:31)
[3] 4話[市民](2014/09/15 17:04)
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[40416] 鴉の瞳と放浪人 【異世界モノ・チート無し】 (旧題・らいぶら)ただいま書き溜め中
Name: 市民◆cdad5612 ID:e5e8070d 次を表示する
Date: 2014/09/21 16:25
 小鳥が細長いクチバシを水瓶に突っ込んでいる。
 鳥の多くは水を飲むときクチバシで水を掬い頭をあげてごっくんと飲むのだが、どうしても一度に飲める量が限られるので何度もそれを繰り返すことになる。
 砂色をした掌ほどのその鳥は、しきりにクチバシを開閉させ、時折頭を左右に傾げていた。

 何度もかっくんかっくんと同じ動きを重ねている姿はなんだか間抜けに見えてしまう。
 知性を感じさせないからだ。
 とすると、おそらくあれは喋らないタイプの鳥だろう。
 人語を解する鳥というのは、最低でも10歳の子供並の知能があるというらしいから。

 そこまで考えると、そういえば“あの鳥”は喋るタイプの鳥だったな、と思った。
 俺の境遇を大きく変えた“あの鳥”は、はたして何を考えていたのだろうか?


「おおい、着いたよ。積荷と一緒に降りてきてくれ」
「わかりました」


 幌の外から聞こえてきた男の声に返事をし、俺は木箱を持ち上げて馬車から降りた。
 年期の入った木製の足場がぎしりと軋み音をたてたが、骨組みは頑丈で頼りがいがあり、俺はバランスを崩すことなく地を踏むことができた。
 幌の日陰から出ると、容赦のない熱気が俺の肌を舐める。
 降ろした木箱の上に左手で紅葉型の影をつくりながら、肌を焼く暑さとはこの事だと思った。
 たまらず、俺は建物の陰に逃げ込んだ。背中に接した土壁はひんやりとして気持ちがいい。

 ここ一帯の住居は土を固めて建てられており、砂色の家が所狭しと林立している。
 地面には灰色の砂利が撒かれ、踏み固められていた。
 下から、灰色、砂色、そして空の青と色の変化が続いていて、どこぞの国旗のようだ。
 広間ではバザールが行われているようで、道沿いに露店が開かれているのが見えた。
 客を引く商人も品を選ぶ客も太陽の日光に劣らずの熱気を孕んでいて、皆一様に活き活きとしている。

 こうした光景を見ると、改めて自分が日常からかけ離れた場所に迷い込んでしまったのだと思い知らされる。


「どうだい。活気のある場所でしょ。ここは、この街の中央広場の一画なんだ。ここに着いた人はみんな、いい町だと口をそろえて言うんだよ」


 丸顔に髭を蓄えた褐色肌の男が俺の隣に並んだ。
 厚手の服に白いターバンを巻いている彼は、にこやかな表情で俺を見降ろす。
 俺が「そうですね」と言うと、彼はその言葉が出てくるのを知っていたように「そうだろう、そうだろう」と頷いて丸みを帯びた腹を撫でた。


「私はこの町の生まれでね。いつも仕事ついでに寄るんだけど、戻って来るたびにまったく良いところだと惚れ直すよ」
「なるほど。ご家族はこの町に?」
「そうだよ。妻と娘が一人いるんだ。ちょうど、君の背中にあるのが家だね」
「あっ」


 もたれ掛っていた壁から急いで背中を離す。


「すみません」
「いやいや、構わないよ。家を避暑地につかわれる事なんてしょっちゅうあることだし。良い家でしょ?」


 言葉につられるように俺は男の家を見上げた。
 なるほど大きな家だ。
 豪邸とは何かを説明する時にこの家を見せれば「なるほどこれがか」と納得させてしまうだろう。
 二階建てのそれは、長方形のブロックの上に立方体が置かれた造りになっていて、影の形がちょうど凸型になっている。
 その横幅は大型バスを3台縦並びにして入れてもまだ余裕があるだろう程長い。


「中はとても涼しい。断熱性のある白瑛石の壁の上に砂の壁を重ねてあるんだ。こんな立派な家はそうない」
「そうですね。俺もこんな家は始めて見ました」


 誇らしげに語る男に、俺は口元に笑みをつくって肯首した。
 しかし、おだてておいて、その実、俺にはこの家が他と比べどれほど良いものなのかよく理解できていないでいる。
 なにせ比較するための判断材料がないのだ。
 『普通の家』というものを知らないと、この家がどれだけ秀でているかなどわかる筈もない。
 それでも、俺がこれを見極める手段があるとすれば、

『ラヒム・アッサラーム(37) 人間/男 商人 Lv.32/48 』

 ラヒムと言うこの男性の頭上に浮かぶこの文字。これの他にない。
 視線を移すと、馬車の荷台から木箱を運ぶ男達が目に映った。

『ブレックス(17) 人間/男 使用人 Lv.18/41』
『ガーター(21) 人間/男 傭兵 Lv28/60』

 彼等の頭上にも、同じように文字が見える。ハッキリと白い文字が見えている。
 彼等だけではない。町を歩く人々の全ての頭上に、文字が浮かんでいる。
 人々が歩くと、頭上の文字は上下に揺れたり交差して、それが波打つ海のように見えた。


「君はどうやら見る目がある男のようでよかった。娘はあまりこの家を気に入っていないみたいでね」


 ラヒムさんの声に俺はハッとして注目を彼に戻した。


「へぇ、なんでですか?」


 話を聞いていなかったときは「なんで?」「どうして?」と返事をするのがいい。
 何時の日か親父が言っていた助言だった。
 『絶対に聞いてなかったなんて言うなよ。女の子は話を聞いてなかったってわかると怒るからな』とも言っていた気がする。
 生憎ラヒムさんは女性ではなかったが、幸い話はスムーズに続いた。


「娘は大きい物より小さく細かな物のほうが良いと感じるらしい。例えば、装飾や細工が入った宝石箱だとかね。この家はのっぺりとしてセンスがないそうだ」
「なるほど。たしかに装飾品は手が込んで見えます。ただ、俺はこういうシンプルなのも好きですよ」


 凸型の建物は、小学校に似ていて馴染みがあるから。
 口に出さずに付け足す。


「おお! そうかそうか!」


 ラヒムさんは俺の言葉に鼻の穴を膨らませ、上機嫌に声をだして笑った。
 彼は「そうだ」と思い出したように腰に下げられた巾着から黒い筒を取り出す。


「そうすると君に売ってもらったこれは素晴らしい値打ちものだ。シンプルで、優れた機能が施されている。たしか、ええと……なんという名前だったかな?」
「魔法瓶ですか?」
「そうだ、マホービン! 長い時間水を冷たいままにできる、まさに魔法の道具だ!」


 ラヒムさんは光沢をもった円筒の表面をその大きく肉付きの良い手で撫でた。
 円筒の片側には、先から四センチほどで白いラインが入っており、右に回すと蓋が外れるようになっている。
 容量は0.5ℓで、蓋を回すとき「キュッ」とゴムが擦れる音がする、安物の水筒だ。
 それはまぎれも無く、俺が今夏購入したばかりの水筒だった。


「私はかれこれ30年ほど商人をやってきたけど、こんな品いままで見たことが無いよ」


 デパートに行けば2000円そこらで買える水筒を、ラヒムさんはまるで宝石を扱うかのように目を輝かせて見ている。
 水筒程度でここまで驚いてくれるのなら、『実は、異世界から来たんですよ』なんていったら、どんな反応を見せてくれるだろうか?


「……あっついなぁ」


 見上げた青い空は高く遠く、見慣れたものとは違って見えた。いくら同じメーカーの商品でも、買い直した物と使い慣れた物とでは感じが違うのと同じで、どこか別物のように感じる。
 ああ、遠くの場所に来てしまったんだなぁ、と改めて感慨深く思った。
 思考が、数時間前まで遡る。



「 「 「 「 「 「 「 「 「



 試験前というのは、あまり気分の良い時期じゃない。それも、前期試験の試験期間となればやたらに高い気温のせいで、憂鬱になる。
 例えば、アスファルトから照り返す熱気に「明日のテスト用紙が突然燃えてなくならないかな」と頭をとろけさせている今日は特に。


「暑いなぁ。こんな時に勉強なんてさせて、どういうつもりなんだろうね。ただでさえ暑いのに、頭が茹で上がっちゃうよ」


 隣を歩いている丸雄が悪態を吐いた。
 白い肌に丸顔の丸雄は、その頬を林檎みたいに赤く上気させている。
 身長が低い丸雄はその体をすっぽりと影に入れているくせに、誰よりも暑いのを我慢しているような風で、わざとらしく手を団扇がわりに扇いでいた。


「マロ、どうせお前は勉強なんてしないだろ」


 丸雄の向かい側で俺を挟むように歩いている賢二が鼻を鳴らした。
 マロとは、丸雄のあだ名だ。前に一度眉を剃った時に、毛を剃り過ぎて平安貴族のような点々と小さな丸型の眉になってしまった時に定着した。
 それが白い肌と丸顔に抜群に似合っていて「公家の人ですか?」と友達たちに散々笑われていたのを覚えている。


「賢二君はするんだ、勉強。偉いなぁ」


 丸雄は嘲るような口調で、しかし本当に驚いているようだった。
 何を聞くのかと憮然とした表情で賢二が丸雄を見下ろす。
 自然信仰の対象となる巨木みたいな体躯をした賢二は、身体が大きい分日光を多く浴びている筈なのに汗一つ見せない。


「ねぇ、英雄君は裏切らないよね? 勉強なんかせずにカラオケに行こうよ」
「裏切るも何も、そんな約束した覚えはない」


 「ええ~」と不平を表わす丸雄を放って、俺は歩くペースを速めた。
 丸雄は、逃走犯を追いかける刑事の様にスピードを合わせる。


「英雄君、どうせ落すような講義とってないからいいじゃない。適度に力を抜いて欠点だけとらないようにするのが要領のいいスタイルってもんだよ」
「点数は高くて損はないものだし、逆に低いのは悔しいものだと思う」
「なんでさ。勉強しても勉強しなくても、単位がもらえるんだったらどっちも同じようなものじゃん。楽しく遊んだほうがいいじゃん」
「たとえどっちも同じようなもんでも、俺は安全策をとって勉強するよ」
「……英雄君ってさ、つまらない大学生だよね」


 ついムッとした表情になってしまう。
 なんだよ、いいだろ。無難に堅実ってのが一番安定したやり方だ。


「そうだ、じゃあこうしよう」
「嬉しそうな顔して。丸雄がそういう顔をした時は、たいてい碌な事じゃない」
「まず、英雄君が僕に答案用紙を見せるでしょ?」
「『まず』ってなんだよ。まず、見せねーよ」
「それで、英雄君は見回りの人にそれがバレて、捕まる。そして、注意が英雄君に向いてるその隙に、僕が賢二君の答案を見せてもらって二人は無事単位を取得。めでたしめでたし」
「俺が試験管に捕まることの、どこがめでたいっていうんだ?」
「いいじゃない、いいじゃない」


 いいじゃないって……。
 俺は文句の一つも言ってやろうと口を開きかけ、そして止めた。
 丸雄の悪びれもしていない表情に、怒る気も失せる。


「よぅし、そうと決まればさっそくカラオケに行こう。テスト期間中に行くカラオケは格別だよ」
「だから行かないって」


 オホン、と賢二が露骨な咳払いをしたのはその時だ。


「いい。わかった。俺が付き合う」


 呆れ声である。


「だからお前は帰って良いぞ、ヒデ。こいつは俺が引き受けた」
「引き受けたって、面倒事を請け負ったみたいな言い方するなぁ。酷い言い草だ」
「事実だからな」
「本当に酷いや」


 丸雄が不満げに唇を突き出すが、賢二は仏頂面で意にも介さない。
「テストは大丈夫なのか?」と俺が聞くと、


「余裕だ」


 頼もしい返事が返ってくる。


「明日の試験は俺の得意科目だ。お前は自分の心配をしてろ」
「ああ、そう」


 賢二は尊大で、いつも自信に溢れている。
 実際、賢二が口にした事を曲げたのを見た記憶はない。
 俺は暫時の一考のすえ、結局二人に手を振って背中を向けることになった。
 それじゃあ、ありがたく甘えさせてもらおう。


「あ、英雄君!」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「126~130と135~137.あと、150ページの表!」
「はぁ?」


 突然ぶつけられた数字に、気の無い返事が出た。


「だから、126から」
「いや、待って。何の話?」


 丸雄は俺の問いかけに何故か一度ムッとした表情をつくり、少し間を開けて、


「……テスト範囲」


 ボソリと言った。
 そこで、ようやく俺は丸雄のやつが試験範囲の「ヤマ」を言っているのだと気付いた。
 大学の試験問題にはよく出題傾向がある。『誰某教授の試験ではこの分野が出やすい』だとか『2回に一度はこの穴埋め問題が出題される』だとかいったものだ。
 丸雄は、要領がどうこうと言うだけあって、こういった情報に精通していた。


「ありがとう。勉強が楽になる」


 俺が礼を言うと、丸雄は照れ隠しに顔をしかめる。
 丸雄はなんだかんだで憎めない奴だ。
 俺は、身勝手なことばかりするくせ実は繊細で情に深い丸雄のことが嫌いじゃなかった。
 きっと、賢二が丸雄とつるんでいるのも俺と同じ理由だ。そう思う。





 二人と別れた俺は、寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰ることにした。
 電車を降り、駅から出ると後は歩きになる。
 父と母と俺が住んでいる一軒家が建っているのは、住宅街の一画の隅っこだ。

 住宅街とは言え、大通りから外れた場所に宅を構える『人見家』の近辺は、人通りが少なくなり道幅も狭くなってしまいがちになる。
 夕暮れを跨ぐちょうどこの時分になってくると、建物が遮光物になって時刻のわりに暗くなってしまうものだから、小さい頃はこの辺りはよく怪談話の舞台になっていた。
 ただ余所より薄暗いってだけで、口裂け女や赤マントやらが出るって言われるなんてひどい話だと思う。

 そんなことを考えていたからだろうか? 不意に目を引くものが視界を横切った。


「……マント?」


 黒く大きなマントが、一瞬見えた。
 この暑い時期に? なんであんな暑苦しそうなものを。

 錯覚かと思える程一瞬目に映ったその姿は、見ようによっては大きな影に見えなくもない。
 もしくは、大男が黒い外套をはためかせているような、そんな感じだ。
 黒い姿が消えた曲がり角に向く目。
 片足が好奇心旺盛にその姿を追おうと浮いているのに気が付いた。


「ちょっとだけ、行ってみるか」


 そんなに時間のかかるものでもないだろうし。少し、確かめに行くだけだ。
 この辺りの道は迷路のように入り組んでいて、すぐに行き止まりになるから、道が無くなったらそこでやめればいい。
 言い訳をするみたいに理由を積んでいって、俺は曲がり角を右に曲がった。

 …………。


「……え?」


 カラスだ。
 そこには、カラスがいた。
 でかい。カラスの全体を捉えるために、頭をあげないといけない。


『ほう、ちょうどよいところに、人が一人』


 皺枯れた老婆のような声。
 カラスの声。
 カラスが喋っている。俺を見下ろし、喋っている。
 俺の身長ほどあるクチバシを開閉させて話している。


『目を白黒。口をぱくぱく動かして。カカ、カカカ! 頭がまわっておらんな? だいぶ参っていると見える。そりゃあ、こんなデカい図体の鳥なぞコチラでは見などせんだろうからなぁ』


 カラスはそう言って下品に笑った。
 鳥の表情なんてわかるはずもないのに、不思議とそう見えた。


「へ? ……あ?」
『しかし、誰もこれも同じ反応ではいい加減飽くぞ』


 笑顔を見せたと思ったら、次の瞬間にはカラスは辟易とした表情をつくっている。
 カラスが空を見上げ、つられて俺も額を空に向けた。
 日が沈んでいき、青とも黒とも言えない暗い色に空が染まっている。
 パレットの上で絵具を混ぜた様な、現実味の無い光景だ。
 ……ああ、夢?


「え……?」
『時間か』
「ぐえっ!?」


 瞬間、視界がぐるりと混ざった。
 痛……い!?
 胃を掬われるような浮遊感がする。
 腹が痛い!
 違う、夢じゃない!

 背中から地面に落ちて、衝撃が胸に詰まり息ができなくなる。
 吹き飛ばされる寸前、視界が真っ黒になった。たぶん。あのカラスに頭突きをくらったんだ。
 なんだこれは。なんだこれは!?


「ぅぐっ!」
『通行料に、片目を貰ってゆくぞ。なに、代えはすぐにつけてやるさ』


 カラスが片足を俺に乗せているせいで起き上がれない。咽て、咳き込んだ。
 目を開けると、烏のクチバシがゆっくりとおれに近付いてくるのが見えた。


「う……そ、だろ?」


 小さく開かれたクチバシが、俺の右目を、啄んだ。


「ッ――うああああああああ!」


 ぁ______。
 ____________。



「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「



「……暑い」


 最悪の環境で目が覚めた。
 じっとりとした汗の感触のなか、朧に意識が覚醒する。


「どこだ、ここ……」







――――――――――



        *'``・* 。
        |     `*。
       ,。∩      *    感想1億2713万件
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