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No.4039の一覧
[0] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:51)
[1] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~プロローグ2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:38)
[2] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その1[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:11)
[3] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その2[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:17)
[4] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その3[山崎ヨシマサ](2009/09/22 23:23)
[5] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:53)
[6] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:55)
[7] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第一章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 22:59)
[8] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:04)
[9] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その1[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:58)
[10] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:06)
[11] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:07)
[12] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その4[山崎ヨシマサ](2010/09/11 22:06)
[13] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:09)
[14] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:11)
[15] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その7[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:12)
[16] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第二章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:17)
[17] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:19)
[18] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:20)
[19] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その2[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:00)
[20] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:24)
[21] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:27)
[22] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その5[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:29)
[23] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その6[山崎ヨシマサ](2010/07/19 23:01)
[24] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その7[山崎ヨシマサ](2009/09/23 13:19)
[25] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第三章その8[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:33)
[26] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:36)
[27] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その1[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:38)
[28] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その2[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:40)
[29] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その3[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[30] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その4[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:42)
[31] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:29)
[32] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その6[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:45)
[33] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その7[山崎ヨシマサ](2010/07/16 22:14)
[34] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第四章その8[山崎ヨシマサ](2010/07/26 17:38)
[35] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その4[山崎ヨシマサ](2010/08/13 11:43)
[36] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その1[山崎ヨシマサ](2010/10/24 02:33)
[37] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その2[山崎ヨシマサ](2010/11/10 03:37)
[38] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その3[山崎ヨシマサ](2011/01/22 22:44)
[39] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その4[山崎ヨシマサ](2011/02/26 03:01)
[40] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その5[山崎ヨシマサ](2011/04/17 11:28)
[41] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第五章その6[山崎ヨシマサ](2011/05/24 00:31)
[42] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その5[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:06)
[43] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~第六章その1(最新話)[山崎ヨシマサ](2011/07/09 21:50)
[44] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~プロローグ[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:47)
[45] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第一章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:49)
[46] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第二章[山崎ヨシマサ](2010/06/05 23:51)
[47] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第三章[山崎ヨシマサ](2010/06/29 20:22)
[48] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第四章[山崎ヨシマサ](2010/07/19 22:52)
[49] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第五章[山崎ヨシマサ](2010/08/13 05:14)
[50] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~第六章[山崎ヨシマサ](2010/09/11 01:12)
[51] Muv-Luv Extra’ ~終焉の銀河から~エピローグ[山崎ヨシマサ](2010/12/06 08:17)
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[4039] Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~幕間その3
Name: 山崎ヨシマサ◆0dd49e47 ID:71b6a62b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/05 23:36
Muv-Luv Unlimited ~終焉の銀河から~

幕間その3



【2005年1月21日、8時57分、横浜基地、地下19階】

 国連軍・大東亜連合軍による『甲20号作戦』及び、αナンバーズによる『オペレーション・ハーメルン』から一晩が明ける朝、香月夕呼は研究室に備え付けられている外部通信機の機密暗号化レベルを最高に上げた状態で、なにやら馬鹿丁寧な口調で交渉に精を出していた。

「そうですね。そちらの優先順位を帝国に次ぐ二番目とすることは可能ですわ。私の方からそう働きかけてみます。え? いえ、それは無理です、不可能です。すでに帝国との交渉は実務者レベルにまで達しております。そこに、割り込むというのは、決して良い結果を招かないかと。……ええ、そうです。戦術機用のビーム兵器使用プログラムは、無償で公開する準備があります。

 無論、約束を忘れたわけではありません。

 はい……はい。では、そう言うことで、神宮司まりもはこのまま、横浜基地所属に復帰と言うことでよろしいですね? ありがとうございます。いえ、こちらこそ、今後もそちらとは良い関係を築いていきたいと思っていますわ」

 どうやら、納得のいく形で話がすんだのだろう。通信をオフにした夕呼は、深い安堵のため息をつくと、椅子の背もたれに体重を掛け、天井を仰ぎ見た。

「よし、これでまりもは戻ってくる。A-01連隊の再結成にやっと着手できるわね」

 香月夕呼は、多方面にわたる天才である。それは、間違いのない事実だが、同時に所詮は一人の人間に過ぎないというのも確かな事実だ。

 どれほど優れた才覚の持ち主であっても、配下に使える「手駒」がいなければ、出来ることは限られている。

「……よし」

 もう一度深呼吸をした夕呼は、すぐに気を取り直すと、今度は通信機の内線をつなぎ、隣室で控えている副官に指示を飛ばす。

「ああ、ピアティフ? 伊隅を呼んで頂戴。すぐに私の研究室に来るように」

『了解しました』

 愛想も挨拶も何もない、用件だけの夕呼の言葉に、イリーナ・ピアティフ中尉は打てば響くように答えた。






「悪いわね、この忙しいときに呼び出して」

 いつも通り、姿勢正しい生真面目な足取りで入ってきた腹心の部下に、流石の夕呼も少し気づかうようにそう言う。

 今日の午前中には、αナンバーズがこの横浜基地に戻ってくる予定になっているのだ。それはイコールαナンバーズに出向している伊隅ヴァルキリーズ速瀬隊が戻ってくるということであり、伊隅ヴァルキリーズの長であるみちるのスケジュールはかなりタイトに詰まっているはずである。

 だが、みちるは生真面目な表情のまま、

「いえ、雑事は榊少尉に任せていますから、さほど問題ありません。無論、最終チェックはこちらでやっていますが」

 そう答えるのだった。みちるとエレメントを組むことになった榊千鶴少尉は、実戦や戦術機の訓練のみならず、軍務全体においてみちると行動を共にしている。そのため、書類仕事や訓練で使用した物資のチェックなどといった雑務においても、みちるは可能な限り千鶴にその仕事を任せていた。

 将来的に千鶴が小隊長、中隊長と昇進した場合に供えていることは言うまでもない。

「そう、その様子だと、榊は使えるみたいね。だったらなおのことこっちの話を進めた方が良いわね。伊隅、あんた佐官昇格の再教育を受けに行きなさい」

 夕呼は、座っている椅子の肘掛けに肘をつき、腹の前で手を組んだまま、何でもないことのような淡々とした口調でそう言うのだった。

「再教育、ですか」

 みちるは軽く目を見開いた。短く癖のついた栗色の頭髪が揺れ、はらりとその頬にかかる。

 驚いた顔をするみちるであったが、少し考えてみれば、ごく当たり前の話でもある。

 夕呼が伊隅ヴァルキリーズを、いずれはかつての『A-01』の様な連隊規模まで拡張するつもりでいることは、以前から聞かされている事実だ。

 しかし、連隊には当然、一人の連隊長と複数の大隊長が必要となる。連隊長は大佐か中佐、大隊長は少佐が就任するのが一般的だ。しかも、伊隅ヴァルキリーズの機密性を考えれば、腕の良い佐官をよそから引っ張ってくるという選択肢はない。

 必然的に、現伊隅ヴァルキリーズの古参連中が佐官に昇格するしかないのである。

 その先陣をきるのは当然、伊隅ヴァルキリーズの中隊長である、みちるをおいて他にない。

 その理屈が分からないみちるではないが、それでも確認しておかなければならないことがある。

「では、私の留守中、ヴァルキリーズは速瀬中尉がトップと言うことでしょうか?」

 伊隅ヴァルキリーズのナンバー2、速瀬水月中尉の能力に不安があるわけではない。しかし、今はαナンバーズと言う異邦の客人を迎え、世界が劇的に変動しようとしている時期である。

 平時ならばともかく、この激動の時期に突如中隊長代理を任されるとなると、話は別だ。いかに水月の能力が高いものであったとしても、現時点では中隊を率いたことがないという事実は変わらない。ビギナーの中隊長に今のヴァルキリーズを指揮するのは若干荷が重いのではないだろうか。

 そんなみちるの懸念に、夕呼は椅子に座ったまま少し肩をすくめると、

「いいえ。あんたと入れ替わりにまりもが戻ってくるから、あんたの留守はまりもに任せるつもりよ」

 何でもないことのように、重大な情報を漏らすのだった。

「じ、神宮司教官が!?」

 珍しくみちるが驚きで声を大きくする。

 伊隅ヴァルキリーズの面々は全員例外なく、神宮司まりもの指導を受けているいわば彼女の生徒達だ。みちるも、まりもには単なる恩師を超えた敬愛の念を抱いている。

 確かに、彼女ならば自分に代わりヴァルキリーズを任せて全く問題ない。

「まりもは昨日の『甲20号作戦』に参加していたからね。現在は、境港にいるから、そのままこっちに戻ってきてもらうわ」

「い、いや、流石にそれは……いえ、了解しました」

 あまりに無茶な夕呼の言葉に、一瞬何かを言いかけたみちるであったが、自分の立場を思い出したのか、すぐに言葉を呑みこんだ。

 現在アメリカ駐在国連軍所属である神宮司まりもを、作戦の都合上、現在帝国にいるからといって、そのまま所属を横浜基地に移動させる。

 これは、民間の会社で言えば、「長期出張という名目で派遣されたはずが、本人のあずかり知らぬ所で、現地の支社に移転が決まっていた」ようなものである。

 やられた方は、たまったものではないだろう。

 この場に武がいれば、「世界が変わってもまりもちゃんが夕呼先生に振り回されるのは変わらないんだなあ」と感心するところだ。

「まあ、まりもには、また訓練部隊の教官をやってもらうつもりなんだけどね。どのみち、訓練部隊は春にならないと人員が集まらないから。あんたが戻ってくるまでは現場に回ってもらうわ」

 そう言って夕呼は、不満そうにチッと舌を鳴らした。

 いかに夕呼の権限と自由になる予算が急速に高まっているとはいえ、現在の帝国軍から衛士もしくは衛士候補生を引き抜くというのは、あまりに帝国の神経を逆なでしすぎる。

 先の『竹の花作戦』で、文字通り半壊した帝国軍は、この春に徴兵される予定の新人を計算に入れても、紙の上での人数でさえ、元に戻らない状態なのだ。まして、厳しい適性検査をくぐり抜ける必要がある衛士にいたってはどのような状況か、言うまでもないだろう。

「分かりました。そういった事情でしたら」

 事情を理解したみちるは、ビッと敬礼をして、夕呼の命令を受諾する。

 そんなみちるの様子に、夕呼は会心のイタズラが成功したと言わんばかりの笑みを浮かべ、さも今思い出したように付け加える。

「ちなみに、ここじゃ指導教官がいないから、再教育中は帝国軍の訓練基地に行ってもらうことになるわ」

「はっ、了解です!」

「当然だけど、同輩はみんな、帝国軍の衛士だからね。ああ、そういえば確か中に一人、『流星連隊』の衛士がいたんじゃなかったかしら? 確か、名前は『前島正樹』とか言う奴。相手は『帝国の英雄』様だから粗相の無いようにね」

 流星連隊。すでに帝国では伝説になりかけている存在である。あの地獄の佐渡島戦において、ハイヴへの軌道降下作戦を決行し、生還した6人の英雄達。流星連隊の衛士は生者、死者の区別無く、全員二階級昇進が決定されている。

 戦勝記念式典では大々的に壇上に呼ばれ、新聞やテレビでさんざん紹介されているため、彼らの顔と名前は思い切り帝国中に広まっている。まさに時の人と言うべき存在だ。

 だが、みちるにとって問題なのは、それが『流星連隊』の衛士だからではなく、『前島正樹』だからである。 

「ま、正樹がッ!?」

 予想もしないところで、長年思いを寄せている幼なじみの名前を聞かされたみちるは、極めて珍しいことに勤務時間中に、上官の真ん前で素の大声を上げるのだった。










【2005年1月21日、10時31分、横浜基地、地下19階】

 横浜基地の地下19階に位置する香月夕呼の研究室。しっかりと施錠されたその一室には、今三人の人影があった。

 足を組み、不機嫌そうな顔で座る香月夕呼。

 キリリとした真剣な表情でその横に立つ、速瀬水月。

 そして、その水月の斜め後ろで、四角い弁当箱の倍くらいある金属製の箱を小脇に抱えた直立する、白銀武。見るものがみれば、その箱は戦術機に使用されているハードディスクであることが分かるだろう。

 三人とも、間違っても無口な人間ではないはずなのだが、今は誰も口を開こうとしない。ただ、黙ってたった今持ち込んだ通信記録の再生を待っている。

「…………」

「…………」

「…………」

 夕呼は無言のまま、音声通信機の再生ボタンを押す。






『……ちら、αナンバーズ所属、クォヴレー・ゴードン少尉だ。この通信を聞いている者がいたら、応答してくれ』

『クォヴレー、クォヴレーなの!?』

『その声はまさか、ゼオラ……か?』

『そうよ、クォヴレーなのね』

『ゴードン少尉か。一体どこで話している?』

『その声は、ブライト大佐?』

『おう、オレもいるぜ、クォヴレー!』

『アラドまで。ひょっとして、そこにはみんないるのか?』

『ええ。あなた以外全員いるわ。あなたは今、どこにいるの?』

『すまないが時間がない。その「閉ざされた世界」に干渉するのは、ディス・レヴの力と「因果導体」の協力を持ってしても難しい。『メス・アッシャー』まで使って辛うじて小さな穴を開けただけだ。現状でそちらに送り込めるのは、エネルギーと情報だけだ。それもいつまでもつか解らない。

 悪いが、こちらの用件を優先させてくれ。そこに、「香月夕呼」はいるか?』

『え? 香月博士? 博士は横浜基地だから、この場にはいないけど……え? なんで、クォヴレーが香月博士を!?』

『すまないが本当に時間がないんだ。では、「白銀武」はいるな?』

『……へ?』

『武か?』

『あ、ああ。オレは確かに白銀武だけど、なんで、俺のことを、ていうかお前誰?』

『お前はクォヴレー・ゴードンを知らないようだが、俺は白銀武を知っている。通信が通じるところを見ると、お前は今、何か機体に乗っているな?』

『な、なんなんだ? だから、お前誰なんだよ?』

『今からお前の機体に、データを送る。それをそのまま、香月夕呼に渡せ。それが「世界を救う鍵」らしい。もっとも、皆がいる以上、俺のやっていることも徒労だった可能性が高いがな』

『だが、本当の意味でその世界を救うことが出来るのは、武、お前だけだ。いいか、データを必ず香月夕呼に渡すんだ。そして、今度こそ、お前の手で『鑑純夏』を救…………』





 さして長いものではない音声通信の再生が終わる。

「…………」

「…………」

「…………」

 研究室は静寂が戻る。再生中、夕呼の表情は劇的に変化していた。

『因果導体』という言葉で、無表情という名の仮面にヒビが入り、謎の男が「香月夕呼」と自分の名前を呼んだところで頬がピクリと痙攣した。

 さらに、『鑑純夏』の名前が出たところで、半ば表情を取り繕うことを諦めたように、唇を噛み、眉の間に深い皺を寄せた。

 そんな般若のような表情のまま、夕呼は深い沈黙を破り口を開く。

「この通信を聞いた人間は?」

「はい。あの場にいたαナンバーズ及び、私達ヴァルキリーズ速瀬隊の人間は全員耳にしています」

 すでにその問いは想定していたのであろう。淀みない口調で水月は即答する。

「それは、整備班も含めての話ね?」

「はい。通信自体が艦内放送で流れましたから」

「それ以外には、漏れていないのは確か?」

「絶対とは言い切れませんが、当時釜山港(プサン港)周辺には、αナンバーズ以外の機影はありませんでした。通信自体も指向性のあるものでしたので、まずは大丈夫だと推測します」

 一通り確認を終えた夕呼は、顎に手をやりしばし黙考する。そして、

「……分かったわ。一応、整備班も含めてこちら側の全ての人間に箝口令を敷いておいて頂戴。αナンバーズにも同様の要請を。速瀬、あんたのほうから話を通しておいて」

 どのみち、百人単位で聞いている人間がいるのだから、情報の完全秘匿など出来るはずもないのだが、何もやらないわけにはいかない。

「はっ、了解しました!」

 夕呼の指示に、水月は張りのある声で、返答を返した。

 頭が冷えてきたのか、声色も表情も普段のものを取り戻した夕呼は、一つ頷くと言う。

「それじゃ、速瀬は下がって良いわ。白銀、あんたは残りなさい」

「はっ、失礼します」

「はい」

 水月は敬礼をすると、言いつけ通り退出していった。残されたのは、少なくとも表面上は冷静さを取り戻した夕呼と、明らかに言いたいことと聞きたいことを山ほど抱えた表情の武。

「で、白銀。それが、あんたの不知火のハードディスクね。データの吸い出しじゃなくて物理的に引きはがして持ってきたのは褒めてあげる。ほら、中身を見るから、ここに置きなさい」

 夕呼は椅子に座ったまま、首だけ横に向け、その視線を武が小脇に抱えるハードディスクに向ける。

「夕呼先生っ、これって一体何がどうなって!?」

 水月がいなくなったことで我慢が限界を超えたのか、堰を切ったように詰め寄る武を、夕呼をうんざりとした顔で片手を上げ、制する。

「はいはい。言いたいことは後で聞くから、まずはこっちの言うことをききなさい」

 あの衝撃的且つ謎の通信を受けて、戦闘の疲れすら精神の高ぶりが押しのけたのか、昨晩はほとんど一睡もしてない武であったが、ここで夕呼を相手に押し問答を続けても、生産的な結果にならないと言う程度の判断力はまだ残っていた。

「っ、……はい」

 喉の入り口までこみ上げている言葉を無理矢理嚥下すると、武は小脇に抱えていた戦術機のハードディスクを机の上に置いた。

 その間に夕呼は机の引き出しから、白く長いコードを取り出す。元からパソコンへの接続を想定して作られているのだろう。

 チョンチョンと、一本のコードでパソコンとハードディスクを接続しただけで、作業は完了した。

 夕呼は、中身を見る前に、武に気づかないよう背を向けたまま、軽く目を瞑り何度か深呼吸をする。なにせ、これもαナンバーズがらみの代物だ。しかも、先ほどの通信の内容から推測するに、この世界に来ていないαナンバーズのメンバーが、自分を名指しして送ってきたほどのものだ。

 色々、覚悟を決めておかないと、心に致命的なダメージを負いかねない。 

「それじゃ、見てみましょうか」

 平静を装い、そう言ってこなれた手つきでキーボードを叩き、ハードディスクの中身を検索する。

 それはすぐに見つかった。

『00unit』

 そのフォルダ名を見ただけで、夕呼の覚悟とやらは木っ端微塵に砕け散った。

「ッ☆◇□!?」

 夕呼の喉から形容しがたい奇声が発せられる。

 ガタンと立ち上がり、大きな音をたてて、両手の平で机を叩く。

「ゆ、夕呼先生?」

 驚いた武が後ろから声を掛け、夕呼の肩に手を伸ばすが、夕呼は邪険にそれを振り払った。一瞬で血の気が引き、氷のように冷たくなった両手の指をもどかしげに動かし、そのフォルダを開き中身を見る。

 そこには、夕呼にとって夢のような、そして同時に悪夢のような情報が記されていた。

 オルタネイティヴ4計画の根幹をなす『ゼロゼロユニット』に関する根底理論。それも、夕呼が今日まで研究を重ねていたそれとは根底から異なる、異質な理論だ。

 しかも、それでいてそれが、夕呼のそれより一歩先を行っており、現実に実現可能な目処が立つ代物であることが分かる。

 この理論ならば、ずっとボトルネックになっていた『半導体150億個の並列回路を手の平サイズにする』という問題をスキップできる。手の平サイズにすることが可能になるのではない。そもそもそんなものが必要ではなくなるのだ。

 悔しいが、このアイディアには、自分がこのまま延々と研究を続けていても、たどり着けなかったと思う。だが、それ以外の部分――理論の纏め方や、根底のアイディア以外の部分は、まるで自分がこのデータを作成したのではないかと思うくらいに、自分と思考形態と重なり合っている。 

「これは異世界からのデータ。いえ、送ったのが異世界人なだけで、これは平行世界のデータね。そうでなければ、クォヴレー・ゴードンとやらが、香月夕呼を知っていたことの証明がつかない。つまり、これは私じゃない私の理論? なるほどね、私はたどり着ける可能性があったわけだ。でも、だったらなぜ、この私は私にこれを送ってきたの? 私が自力ではこの理論にたどり着けないと確信していた……?」

 思わず状況も忘れ考え込む夕呼であったが、すぐに今はそんな事より優先するべき事があることを思い出す。大丈夫、もう冷静さは戻っている。

 夕呼は、おもむろにパソコンの隣に設置してあるプリンタの電源を入れると、『00unit』データのプリントアウトを始めた。

 データ容量としてはさほど大きなモノではないが、紙にプリントアウトするとなると、意外と多い。

 それでもレーザープリンタは100枚近い用紙を、ごく短時間でプリントし終える。

「…………」

 夕呼は無言のまま、出てきた用紙を手に取ると、パラパラとめくり、ページの抜けや擦れがないか確認した。

 大丈夫だ。問題が無いことを確認した夕呼は、すぐにその世界一貴重な紙の束を金庫にしまう。

 後ろでは先ほどから何度か武が、夕呼に声を掛けようと試みているが、そのたびに有無を言わさぬ夕呼の視線をくらい、すごすごと引き下がっていた。

 そんな武の様子を全く気に掛けることもなく、夕呼は淡々と作業を続ける。

 紙の束を金庫にしまった夕呼は、今度は無造作にパソコンとハードディスクをつないでいるコードを引き抜いた。

 そして、そのままハードディスクを持ち上げると、何のためらいもなく、思い切りパソコンに叩きつける。

 ガシャンと大きな音を立て、軽金属製のパソコンケースが壊れ、中身が色々と飛び出す。

「ちょっ、先生!?」

 流石に、驚きの声を上げる武をまたも無視し、夕呼は今度はハードディスクが突き刺さったままのパソコンの残骸を持ち上げると、今度はそれをプリンタに叩き降ろす。

 無論、こんな重量を上からぶつけられればプリンタもひとたまりもない。さっきよりさらに大きな音を立て、プリンタもただの残骸と成りはてる。

「…………」

 まるで気でもふれたかのような夕呼の所行に、武が唖然としてる間に、夕呼はパソコンとハードディスクをつないでいたコードを手に持つと、般若の形相で武の方に振り返る。

「え、その、夕呼先生……?」

 何か不吉なものを感じた武が一方後ろに後ずさるが、生憎それは少しばかり遅かった。

 次の瞬間、夕呼は実はかなり運動神経が良いのではないか、と思うほど素早い動きでその長いコードを武の首に巻き付け、その両端をそれぞれ右手と左手でぐいと引いた。

「答えなさい! あんた、このデータ、よそに漏らしていないでしょうね!?」

「ちょっ、夕呼先生、く、苦し……こ、これ」

 辛うじて理性を残しているのか、頸動脈が締まるほどコードを引き絞っているわけではないが、それでもかなり呼吸が困難な武は、必死に両手をバタバタさせながら訴える。しかし、

「あんたが苦しいかどうかなんか聞いてないのよ! どうなの、漏らしたの、漏らしてないの!?」

 このままシメ続けられたら「漏らしそうだ」などと、馬鹿なことを頭の片隅で思いながら、武は必死に、あの時の状況を思い出す。

「だ、大丈夫だと、思います。俺の隣にいた、速瀬中尉の不知火にも、データは届いていませんでしたし、あれ以降、俺の不知火は、誰もさわらせていません。ただ……」

「ただ、なに!?」

「ぐ、先生、ギブ、ギブ! ただ、あの時はラー・カイラムの、甲板上でしたから、ラー・カイラムには」

 どれだけ方向性を絞っても、所詮は無線で送られたデータだ。元々あの『クォヴレー・ゴードン少尉』とやらも、αナンバーズの一員なのだとしたら、あのデータを横からラー・カイラムの通信施設がコピーしていてもおかしくはない。

「なるほどね」

 考え込む夕呼は少し冷静さを取り戻したのか、その表情は般若から、ただの目つきの悪い美女くらいまでグレードが下がる。同時に、夕呼は武の命を握るコードから手を放した。

「ふい……はあ、はあ、はあ」

 危機を脱した武が、右手で喉をもみほぐしながら胸一杯に空気を取り込んでいる間に、夕呼はまた考え込む。

「それは、仕方がないと割り切るべきでしょうね。でも、白銀。本当に、それ以外には漏れていないでしょうね?」

「え、あ。はい。大丈夫です。あの周囲に他の機影はなかったですし、速瀬中尉達の他の戦術機にもデータが入っていないことも確認していますから」

 軽く目におびえの色を浮かべ、そう言ってくる武に、夕呼は素っ気なく「そう」とだけ答えるとまた、思考の海に沈み込む。

 なるほど、ならばこの『00unit』データがαナンバーズ以外に漏れる可能性は、無いと思っても良いだろう。

 だが、これでやること、考えること、調整しなければならないことがまた劇的に増えた。

 まずは、ゼロゼロユニットの完成。これは、夕呼にとっても悲願であり、G弾にBETAが対応し始めた今、この世界の人類が、αナンバーズの手を借りずにBETAに勝ちうる唯一の手札だ。絶対に頓挫させるわけにはいかない。

 だが、同時に、「なぜ、このデータがαナンバーズの人間経由で」平行世界から届けられたか、という点についてはしっかりと考察しておかなければならないだろう。少々自分の研究を過大評価しているかも知れないか、もしかすると彼らの狙いはこの『ゼロゼロユニット』なのかも知れない。そう考えれば、これまで異常なくらいに自分たちに好意的に接してきたαナンバーズの態度にも、一定の説明がつく。

 どちらにせよ、これはまた早急にαナンバーズの責任者と会談を設ける必要があるようだ。

 ただでさえ、世界各国から「ビーム兵器贈与」問題と、「エルトリウム渡航」問題で矢のような催促を受けているのだ。

 思わずため息をつきそうになった夕呼は、まだ何か言いたげな武の視線を感じ、武がここにいることを思い出す。

「ああ、ご苦労様。それじゃ、あんたも帰って良いわよ」

 犬でも追い払うように、夕呼は手をシッシと振るう。

 だが、武はその退出命令を無視するようにして一歩前に踏み出す。そして、

「せ、先生、この世界には、本当に純夏はいないんですよね?」

 何かを探るように、おそるおそるそう尋ねた。

 武は昨晩あれから一晩中、あの会話について考えていた。武も決して馬鹿ではない。

 ゆっくり一晩考えれば「お前はクォヴレー・ゴードンを知らないようだが、俺は白銀武を知っている」という言葉の意味は理解できる。

 おそらく、あのクォヴレー・ゴードンという男はここではない別な世界で、自分ではない『白銀武』と知り合ったのだ。

 だが、「今度こそ、お前の手で『鑑純夏』を救……」という最後の言葉が分からない。この世界には『鑑純夏』はいないはずなのに。次元を貫き、声を届けることが出来るくせに、クォヴレーという男はそれを知らなかったのか、それともこの世界に『鑑純夏』はいない、という夕呼の言葉が嘘なのか。

 武は、夕呼が意味もなく嘘をつく人間だとは思っていない。だが、理由があればどんな嘘でも平気でつく人間であることも知っている。

 夕呼は、体中で緊張を表現する武に、能面のように表情を消した視線を向け、軽く一度肩をすくめた。

「そうね。前に言ったとおり、戸籍上にも、軍のデータベースにも『鑑純夏』という名前は存在してない。それは間違いないわ。「私」が保証してあげる」

「そうですか。そうですよね」

 武は、ホッとしたような、だがどこか少し残念そうな表情でそう言った。『鑑純夏』がこのろくでもない世界にいないというのは、救いではあるが、同時に自分が絶対に純夏と会えないと言う事実も意味する。多少、気落ちするのは当然のことであった。

 それでも武は気を取り直すと、

「あと、他にも色々変なことを言ってましたよね、あいつ。この世界が閉ざされているとか、因果導体がどうとか」

 そう、次の質問をぶつけてくる。夕呼は、それを手で遮るように手を挙げると、首を横に振って拒絶の意思を示す。

「それは私も気にはなるけど、この場で即答できるようなものではないわよ。ある程度調べがついたら教えてあげるから、今日の所はこれくらいにしておきなさい。ああ、あと、αナンバーズに「鑑純夏」について聞かれても知らぬ、存ぜぬで通しなさいよ。知っている、何て言ったら、あんたがこの世界の人間じゃないことまで説明しなきゃならないことになるんだから」

 確かに、この世界に存在しないはずの人間と幼なじみだ、などと言えば、疑問が疑問を呼び、最終的には武がこの世界の人間ではないことまでばれてしまう。

「分かりました」

 武としても、非常に納得しやすい理由だったため、ごく普通にその言葉に肯定の意を返す。

「それじゃ、俺はこれで失礼します」

 最後にそう言うと、素直に夕呼の研究室を後にするのだった。





「……ふう」

 出て行った武がドアを閉めたところで、夕呼は一つ大きく息を吐く。なんだか、最近、ため息の数が異常に増えた気がする。

 ここ数年と比べると、あらゆる状況が劇的に良くなってきているはずなのに、それと反比例するように夕呼の精神状態だけが悪化の一途をたどっているのは何故なのだろうか?

 それでも夕呼は一度頭を振ると、何とか精神の均衡を取り戻す。そして、また隣室に控えるピアティフ中尉に、内線で連絡を入れる。

「ああ。ピアティフ? 壊れた機材を処分したいから、処分施設を手配して頂戴」

 そう言いながら、夕呼の視線はグチャグチャに破壊されたパソコン、ハードディスク、プリンタに注がれていた。

 あれは必ず処分しなければならない。ゼロゼロユニットの根幹理論。この世に香月夕呼以上に『因果律量子論』を理解している存在はいないはずだが、あのデータとG元素があれば、後発でゼロゼロユニットを完成させる連中がでないとは限らない。

 αナンバーズのせいですっかり印象が薄くなっているが、ゼロゼロユニットは使い方によっては世界を席巻しうる超兵器なのだ。その秘匿にやり過ぎという言葉は存在しない。

『了解しました。すぐに手配します』

「あ、あと、午後からαナンバーズの責任者と一席設けたいんだけど、そっちのセッティングもお願い」

『はい、分かりました』

 有能な副官の返答にもう一度「お願い」といい、夕呼は内線を切った。









【2005年1月21日、日本時間20時00分、小惑星帯、エルトリウム】

 その日のフォールド通信会議は、ラー・カイラム艦長、ブライト・ノア大佐が語る『オペレーション・ハーメルン』の結果報告から始まった。

『……というわけで、オペレーション・ハーメルンは成功した、と言って良いでしょう。この世界の軍による甲20号ハイヴ攻略は成功、帝国軍の被害はゼロ、それ以外の被害も可能な限り押さえられたと思っています』

「うむ、よくやってくれた、ブライト君」

 その報告を受け、エルトリウムの艦長席に座るタシロ提督は、先行分艦隊の労苦をねぎらうのように何度も頷いた。

『また、今回の作戦で『G弾』の使用を目撃しました。データはそちらに送りましたが、見ての通り重力兵器の一種で、威力・効果範囲と共に反応弾に近いものがあります。帝国などこの兵器を危険視するものが多く存在するのも頷けますが、同時にこの威力・効果範囲で「脅威」と見なされるのならば、地球上では使用に制限を設ける必要のある兵器が幾つかあります』

 ブライトの言葉に、会議に参加している艦長達は皆一様に頷いた。

 確かに、αナンバーズの兵器には、G弾より威力が上のものも幾つか存在する。無論、G弾のように植生が回復しない、などといった弊害はない兵器が大半なのだが、それでもこの世界の人間の心情を考えれば、簡単に使用するべきではないことぐらい理解できる。

 例えば、現在は使用不能になってるがGGGの切り札、ジェネシックガオガイガーのゴルディオンクラッシャーなどは、威力・効果範囲共にG弾の比ではない。

 例え、ジェネシックガオガイガーが戦線に復帰したとしても、ゴルディオンクラッシャーを地上で使用する場合は、細心の注意を払い、そっと振り降ろす必要があるだろう。

「「「…………」」」

 しばし、艦長達は死んでいったこの世界の兵士達に黙祷を捧げた。

 やがて、誰ともなく閉じていた目を開き、再び会議を再開する。

『そして、音声通信データは先ほど送ったので、すでに聞いていることと思いますが、『クォヴレー・ゴードン少尉』と一時的にコンタクトがとれました。ただし、どうやら、ゴードン少尉としては、我々がこの世界にいるのは想定外だったようです』

 それは、通信記録を聞けばすぐに分かることだ。クォヴレーは、アラドやブライトの声を聞いた際、驚きの声を上げている。

「うむ。確かにな。逆に、ゴードン君が名指しにしたのが、この世界の『香月博士』と『白銀少尉』か。それで、香月博士はなんと言っているのかね?」

 タシロ提督の言葉に、ブライトは頷きながら、

『はい。昼に博士と会談の場を設けましたが、そこで聞いたところによると、彼女には一応心当たりはあるようです。ゴードン少尉の言葉にも出てきた単語『因果導体』をいうものを含む、『因果律量子論』というが博士の専門研究テーマらしいのですが、その理論では平行世界の存在が、証明されるそうですので』

 そんなブイトの説明に、バトル7艦長、マクシミリアン・ジーナス大佐は苦笑した。

「平行世界ですか。まあ、今更ですね。我々はこうして、異世界にやってきているのですから」

 そこ言葉に、この場にいる艦長達は皆、同意するように苦笑を漏らした。

 異世界移動に、時間移動。常人の思いつく『とんでも体験』のほとんどをすでにすませているαナンバーズである。

 今更、平行世界がそこに加わって位でオタオタするものはいない。

『なお、ゴードン少尉から白銀少尉に送られた『00unit』というデータは、ラー・カイラムの方でもキャッチしました。そちらに送りますので、内容の吟味をお願いします』

「了解しました。どの程度、お力になれるかは分かりませんが」

「了解です、GGGの研究部でも手を尽くしてみます」

 そう答えたのは、大空魔竜の総責任者である大文字博士と、大河の留守を預かりGGG艦隊の責任者代行を努めている火麻参謀だ。

 エルトリウムにも優秀な科学者、技術者がごまんといるのだが、こういった未知の技術を調べることに関しては、特機の開発者である大文字博士や、GGGの研究班の方が専門である。

「しかし、ゴードン少尉の言葉は気になりますな。「閉ざされた世界」「因果導体」そして、世界を救えるのは「武」だけ、でしたかな?」

 バトル7のエキセドル参謀の言葉に、ラー・カイラムの艦長席の隣にたつ大河は、重々しく頷く。

『ええ。香月博士に問い合わせたところ、「因果導体」というのは、博士が研究している「因果律量子論」を体現する存在であると言うことです。ただ「閉ざされた世界」や「世界を救えるのは武だけ」という言葉の意味は、博士にも分からないそうです』

 そんな大河の言葉を受け、今度はエルトリウムの副長が疑問を投げかける。

「では、『鑑純夏』とは何者なのでしょうか? ゴードン少尉があえて、名指して「救え」と言うくらいですので、なにかキーパーソンとなる存在ではないかと思われますが」

 エルトリウム副長の問いに、大河は小さく頷くと、

『それについては、香月博士も言葉を濁していました。「この世界の記録上、『鑑純夏』という名前は存在しない」と言っていましたが、「詳しい情報は判明次第、報告したい」とも言っていましたので、額面通りに取るわけにはいかないでしょう』

 本当に存在しないのであれば、今後も「詳しい情報」が入るはずがない。

 これは、夕呼がうっかり口を滑らせたのではなく、今後のために予防線を張っておいたのだろう。

 どのみち、今後ゼロゼロユニットが完成すれば、『鑑純夏』などいない、などと言い張ることは出来なくなる。

 無論、そんな夕呼の事情は、現時点での大河達に分かるはずもない。

「わかった。ではご苦労だが、その辺についても今後は、無理のない範囲で探りを入れておいてくれないかね」

『了解しました』

 タシロ提督の指示に、大河は気負いのない態度で頷いた。

『それで、そちらの状況はどうなっているのでしょうか?』

 話が一区切りついたところで、アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐が問いかける。

 その言葉を受け、今度は逆に小惑星帯に残った本隊の艦長達がここ最近の状況説明を始める。

 全体を代表し、話し始めたのは、年齢的にも階級的にもトップであるタシロ提督であった。

「うむ。まず、火星ハイヴ間引き作戦だが、大きな変化があった。ついに、火星にもレーザー属種が出現した」

『『『!!』』』

 爆弾発言とも言えるタシロ提督の報告に、ブライト達は驚きを露わにする。

『それでは、被害はっ?』

 アークエンジェルの艦長席から身体を乗り出すラミアス少佐に、タシロ提督は「うむ」と頷きながら、

「その時、ハイヴ間引き作戦に向かっっていたのはガンバスター、シズラー黒、ガイキングの三機だ。火星大気圏に突入時に、数百のレーザーの集中照射をくらい、危うく目をやられるところだった」

 そう、重々しく告げる。

『目、ですか?』

 ラミアス少佐の言葉に、タシロ提督はもう一度頷き返す。

「そうだ。流石に、あれだけのレーザー照射を同時に長時間喰らえば、閃光防御が間に合わなかったようだ。ガンバスターのタカヤ君も、ガイキングのツワブキ君も、目を閉じても瞼越しに光が届き、しばらく目がチカチカして涙が止まらなかったらしい」

 深刻な顔で、タシロ提督はさも気の毒そうにそう言うのだった。

「パイロットだけの問題でなく、下手をすれば機体の光学モニターが焼き付く可能性もあります」

 さらに、タシロ提督の隣にたつ、エルトリウム副長がそう付け加える。さらに副長は、

「しかも、こちらで調査した結果、火星のレーザー属種は、地球のそれと比べ、レーザーの出力も照射時間も大きく上回っているようです。その分、インターバルも長いようですが」

 と、詳しいデータの説明を始めた。

 つまり、地球上のBETAが最初に中国軍の航空機に対応したように、火星のBETAはαナンバーズのガンバスターやガイキングに対応しようとしたのだろう。

 この世界の航空機ならば、地球のレーザー属種程度でも威力多可なぐらいだが、生憎ガンバスターやガイキングは、その程度では落ちない。

 そのため、火星のレーザー属種は照射のインターバルを長くしてでも、可能な限り威力を向上させたのではないだろうか?

 そういうエルトリウム副長の推測は、的を射ているように思えた。

『それで、被害は?』

 あまり心配はしていないが、一応ブライトはそう問う。そもそも、死者や負傷者が出ているようならば、何はさておいても報告があるはずだし、タシロ提督やマックス艦長が平然としているはずがない。

 そんなブライトの予想は全く外れていなかった。

「とりあえず、大勢に影響はありません。レーザー照射も、ガンバスターやガイキングの装甲を貫き、中枢部にダメージを与えるほどのものではありませんでした」

 つまり、BETAは可能な限りレーザー属種の攻撃力を向上させたが、ガンバスターやガイキングの防御力と比較すれば「誤差の範囲」だったということだ。

 予想はしていたといっても、ホッとしたブライトは小さく息を吐いた。

『そうですか。それは、何よりです』

「しかし、ハイヴ間引き作戦はあまり順調ではありません。こちらはたまに強襲してハイヴを一つ二つ間引くだけですので、いなくなった後、BETAが次のハイヴを作ってしまいます。結局、我々はこれまでに9つのハイヴを攻略していますが、新たに4つのハイヴを作られてしまいました」

 9つ壊す間に、4つ作られる。一応差し引き5つ減らしている計算になるが、壊しても壊しても新たに作られてしまうというのは、中々ストレスが溜まるものである。

「かといってハイヴ間引き作戦の戦力を増強するっていうのも難しいところです。うちの光竜と闇竜が明日、完全復帰するんですが、あいつ等の防御力では火星突入時のレーザー照射に耐えられるとは思えません」

 GGGの火麻参謀が、その浅黒い顔に皺を寄せ、困ったようにそう言う。

 いかに、αナンバーズといえども、ガンバスターやガイキングクラスの防御力を誇る特機は、そういくつもあるものではない。

 現状、本隊にある機体で、火星レーザー属種の集中照射を問題としない機体は、ガンバスター、シズラー黒、ガイキング、マジンガーZの4機のみなのである。

 大河長官は、まずその問題を検討する前に、勇者達の復帰を喜ぶように笑みを浮かべ、

『おう、ついに光竜と闇竜が戻ってきたか。そういえば、他の機体の修復状況はどうなっていますか?』

 少し話を脱線させる。

「副長」

「はっ」

 大河長官の言葉を受け、タシロ提督は隣にたつ副長に、水を向ける。こういった、細かな進捗を説明するのに適しているのは、エルトリウム副長か、バトル7のエキセドル参謀だ。

 副長は手の上で、ファイルを開き、そこに目を落としながら、淡々とした口調で説明を始めた。

「先ほど、火麻参謀の方からお話があったとおり、まず、光竜・闇竜の二機は明日完全に修復が完了する予定です。また、バトル7ではVF-11の二機目が一昨日完成しました。こちらはガムリン・木崎中尉が乗り、すでに護衛任務に就いています。さらに、ガンダム試作3号機ステイメンとガンダムZZの修理も明日完了となっています」

 副長の報告に、ブライト達は「ほう」と声を上げる。

 僅かずつとはいえ、こうして戦力が戻ってくるのは頼もしいものだ。

「あとは、今月の27日にはリ・ガズィ2機が修理完了。さらに来月、2月の初めには、フリーダムガンダム、ジャスティスガンダムも復帰の予定です」

 続々と戻ってくるモビルスーツの中でも、特に大きいのはガンダムZZとフリーダムガンダム、ジャスティスガンダムの3機だろう。

 これらの機体は、αナンバーズのモビルスーツの中でも主力となり得るポテンシャルを秘めた機体である。

 副長は説明を続ける。

「また、ヒイロ・ユイ達のガンダムの修理を手伝っていた技術者達がそのノウハウを使い、トールギスⅢとトーラス2体の修理に取りかかっています。こちらも近いうちに復帰できるでしょう。

 最後に、大文字博士が見て下さっているダンクーガですが、修理の目処が立ったそうです」

 今日一番の朗報に、ブライトも思わず艦長席から腰を浮かし掛ける。ダンクーガは、αナンバーズの特機の中でも上位の攻撃力を持つ機体である。攻防共に反則級のガンバスターやガイキングには一歩譲るかも知れないが、こちらも単機で戦況を覆しうる機体だ。

『本当ですか、博士っ』

 ブライトの様子に、大文字博士は嬉しそうに口ひげの下で口を笑みの形に歪めた。

「はい、まだ復帰の時期は明言できませんが、とりあえず修理が可能なくらいにはあの機体の構造を理解したつもりです。まずは、最初にアラン君の『ブラックウイング』から取りかかろうと考えています」

 ダンクーガは、五体の機体からなる合体ロボットである。しかもその五体の機体は単体でも、獣型、人型、戦車型と三種類の変形モードを持ち、高い戦闘力を有している。

 その中でもアラン・イゴールの乗る『ブラックウイング』を優先したのは、合体時背面に位置するブラックウイングが、最も損傷が少なかったからだ。

 ブラックウイングのパイロットであるアラン・イゴールは現在、アメリカに潜入を試みたまま消息を絶っているが、いずれ彼の手に戻れば心強い戦力となることだろう。もっとも、ブラックウイングは飛行形態が主な上、防御力もあまり高くないため、対BETA戦ではあまり戦力とならないかも知れないが。

『しかし、戦力が戻っても、火星ハイヴの間引きに回すわけにはいかないのが、もどかしいですね』

 復帰する機体のポテンシャルを頭の中で思い出しながら、ラミアス少佐は軽くため息をつく。

 仮にも特機である光竜・闇竜でも厳しいというのだ。モビルスーツを降下させようものなら、あっという間に消し炭になってしまう。

 しかし、そんなラミアス少佐の言葉に、エルトリウム副長は、

「いえ、そのことですが、現在こちらではモビルスーツや、バルキリーを降下させる案も検討していたのです。モビルスーツやバルキリーならば、ガンバスターやシズラー黒が盾となれば、降下も可能ではないか、と」

 そう、予想外の案を提示するのだった。

 なるほど、確かに全高200メートルのガンバスターならば、全高20メートルに満たないモビルスーツやバルキリーをすっぽりと隠すことも可能かも知れない。もちろん、この案ならば、特機でありながら全高が20メートルに満たない光竜や闇竜でも火星に降り立つことが可能だ。

 とはいえ、これはあくまで現状のまま、ガンバスターやシズラー黒を主力して、そのサポートとして戦力をいくつから付随させるという案である。現在、哨戒任務や資源切り出し部隊の護衛についている機体をごっそり引き抜くわけにはいかない。

「そういうわけだ。こちらに回せる戦力はないかね?」

 タシロ提督の言葉に、各艦長達は視線を中に這わせながら考える。

 やがて、最初に口を開いたのは、バトル7のマックス艦長だった。

「そうですね、こちらも順調に戦力が戻ってきているので、バルキリーの1機ぐらいならば、回せると思います。木崎中尉はミリア市長とペアで哨戒任務のローテーションに入っていますので、出すとすればスカル小隊の柿崎少尉になりますが」

 続いて、発言したのは、今日はこれまでこれといった発言をしていなかった、エターナル艦長のラクス・クラインであった。

『現状では宇宙空間での戦闘の可能性は低いようです。現在3機の護衛をつけていただいておりますが、2機でも問題はないのではないと思われます。キース少尉をそちらに回すことは可能です」

 二人の艦長の言葉に、提案したタシロ提督自身もふと思いつく。

 そう言えば、ガンダムZZが復帰するのであれば、ジュドー・アーシタが現在乗っている量産型νガンダムが浮くことになる。あれは、以前は先行分艦隊のケーラ・スゥ中尉が乗っていた機体のはず。あの量産型νガンダムを地上に降ろし、代わりに彼女が現在乗っているジェガンをこちらに戻してもらえば、どうだろうか?

 本隊に残っているモビルスーツの乗りで、最もジェガンに慣れ親しんでいるのは、やはりカツ・コバヤシだろう。

 思いついたタシロ提督は、すぐさまそう提案してみた。

『ええ、確かにその三機であれば、その割り振りが一番適しているでしょう』

 タシロ提督の提案に、ラー・カイラムのブライト艦長も同意を示す。

「そうなると、カツ君のジェガンは自由になる戦力ということだな」

 タシロ提督は満足げに頷く。これで合計、三機のモビルスーツとバルキリーがそろった。

 柿崎中尉のVF-1バルキリー。

 チャック・キース少尉のジムキャノンⅡ。

 そして、カツ・コバヤシのジェガン。

 この三機が、ガンバスターやガイキングと共に地上に降りる。

「…………」

「…………」

「…………」

 艦長達は一斉に、その光景を想像した。そして、次の瞬間、

「やめよう」

『止めましょう』

『私は反対です』

「あたら、若い命を異世界の空で散らせるのは、忍びないですかな」

「このような犬死に任務、彼らに失礼だ」

 声を揃えて、その提案を却下したのであった。

 言い出しっぺのはずのタシロ提督や副長でさえ、反対する気配も見せない。

 この場には、超能力者も念動力者もいないはずなのだが、なぜか全員極めて明確なビジョンとして、「作戦失敗」を思い描いたのであった。

 不思議なものである。確かに今名前の挙がった三名は、αナンバーズの中では比較的下位に位置するパイロット達である。

 だが、それはあくまでαナンバーズの基準であり、皆歴戦の戦士であることは疑いない。柿崎などは、半ば伝説と化しているスカル小隊の一員だ。

 それでも、なぜか、この三人を一緒に特殊任務に向かわせるとなると、惨たらしい結末しか思い描けない。

「では、火星ハイヴ間引き作戦は、これまで通りガンバスター、シズラー黒、ガイキング、マジンガーZの4機でやってもらうということでよいですかな?」

「うむ」

『異議無し』

『それが、現状では最善だと思います』

 エキセドル参謀の言葉に、皆早めにこの話題を切ろうとするかのように、次々と賛同の意を示す。

 その流れに乗るようにして、エルトリウム副長は、別な話題を振る。

「そういえば、最初の火星ハイヴ間引き作戦でガンバスターが確保してきた反応炉を欠片ですが、研究部の一時報告が上がりました」

『ほう、それで何か分かりましたか?』

 ブライトのその声は、決して話題を逸らそうとしているだけではない。この世界でもハイヴ反応炉の研究はほとんど進んでいないのだ。その研究成果には当然、高い価値がある。

「はい。彼らが言うには、反応炉の作りは単なるエネルギー源と考えるには複雑すぎる、とのことです。やはり、この世界の科学者の推測にもあったように、ハイヴ間の『通信施設』としての能力も有しているのではないか、と言っています」

 それは、前から言われていたことでもある。地球上でもBETAは、間違いなく情報のやりとりをしている。一つのハイヴで使用した作戦は、必ず短時間の内に地球上の全てのハイヴで対応されてしまうというのが、何よりの証拠だろう。

 では、BETAはどうやって情報をやりとりしているのか?

 全てのBETAが思念波のようなもので会話を交わしているという説と並び、有力な説とされていたのがこの反応炉が『通信施設』も兼任している、と言う説である。

 エルトリウムの研究部の発表は、その説を裏付けるものであった。

「現状では、はっきりとは言えませんが、その通信手段は、音や光、電磁波といったものではなく、念動力者や超能力者の思念波に近いものではないか、と彼らは言っています」

「では、念動力者、イルイやリュウセイ・ダテなどならば、その通信を盗聴できると?」

 少々気の早いマックス艦長問いに、エルトリウム副長は首を横に振ると、

「流石にそれは、無理でしょう。少なくとも『盗聴』まで可能となると、最低でも十年単位の研究が必要だと思われます。ただし、ハイヴの通信手段が思念波であると分かれば、ハイヴ間の通信の『妨害』は出来るようになるのではないか、と言っています」

 そう、言うのだった。

 無論、それだって一朝一夕で出来るモノではないだろう。もしかすると、反応炉の解析を済ませるより、αナンバーズが太陽系に存在する全てのハイヴを攻略する方が先かもしれない。

 だが、無駄足の可能性があるからといって、役に立つかも知れない研究を途中で止めることはない。

「分かった。そのまま研究を続行させてくれ」

「了解です」

 タシロ提督の指示に、副長が諾の返答を返す。

 この件はこれで、終わった。

 話は次の議題にうつる。

『では、この世界の政府の対応ですが、エルトリウムに代表を招く用意があるという話をしたところ、希望者が殺到しています。現在、香月博士が対応して、人数を絞り込んでくれていますが、どうやっても間違いなく、エターナルに乗りきる数には収まらないでしょう』

 全権特使して、夕呼から話を聞いている大河は少し笑いながら、そう言った。

 現在、横浜基地の夕呼の元には、世界中のあらゆる国家、組織から、エルトリウム行きに同乗させろという話が来ていた。

 アメリカ、日本、オーストラリアといった国々はもちろん、EUの代表が来ることがすでに決まっているのに、EU加盟国のはずのイタリアやフランスは独自の代表を建てようとしているし、イギリスに至ってはイギリス代表の他に、イングランド、スコットランド、ウェールズが別個の人員を送り込もうとしている始末だ。

 もちろんそれは、統一中華戦線やアフリカ連合も例外ではない。

 もし、希望者全てを認めれば、第二次世界大戦以前のオリンピックの出場者より多くなるのでは、と思うほどだ。

「では、やはり、バトル7を向かわせるしかないでしょう」

 他に選択肢がない事を理解しているバトル7のマックス艦長は、静かな声でそう言う。

 全長1キロを超えるバトル7は、戦闘艦のため、大きさほどの収容人数はないが、それでも全長200メートル程度のエターナルと比べれば雲泥だ。

 エルトリウム自体を地球に向かわせるのでない限り、他に選択肢はない。

『しかし、そうなるとエキセドル参謀は』

 そう懸念事項を口にしたのは、ラミアス少佐だ。

 エキセドル参謀は、αナンバーズの中で唯一のマイクローン化していないゼントラーディ(巨人族)である。ゼントラーディの中では特別小柄な部類に入るエキセドル参謀であるが、それでもゆうに7,8メートルはある。いきなりこの世界の人類の前に姿を現すには、少々インパクトが強すぎる。

「確かにまずいですな。では、私はエルトリウムで留守番をしておりましょうかな」

「そうだな、悪いがそうしてくれ」

 いつも通り独特の口調でそう言うエキセドル参謀に、マックス艦長は少しすまなそうに肩をすくめた。

 いずれは、対面しなければならないにしても、タイミングというものがある。エルトリウム内でならば、ゲストがどれだけ大騒ぎしてもこちらで納めることが出来るが、地球上で下手な騒ぎを起こせば、致命的な排斥運動を引き起こしかねない。

『では、あとは地球に作る補給基地の予定ですが』

「はい、ジェガンの製造ラインは完全に分解し、いつでも搬入可能になっています。それ以外の補給物資の製造ラインは、複製の最中で、現在全体の23パーセントが終了しています」

 話を振ったブライトに、エルトリウム副長がそう端的に結論だけ答えた。ジェガンの製造ラインには、ジェガン用のビームサーベル、ビームライフルの製造ラインも含まれている。

 ジェガンの地上製造ラインが完成すれば、補給に関してはかなり楽になるだろう。モビルスーツの武器は、一部の特殊なものを除けば、互換性があるのだ。そう考えて、ふとブライトは昼間、夕呼との会話で出てきた話を思い出した。

『そういえば、我々がこの世界の国々に提供を決定したビーム兵器のことですが、どうやら各国はそれをめぐり、色々と動きを見せているようです』

 そう言うブライトの口調が、少々ため息混じりになるのも仕方がないことだろう。

 ソビエト連邦という国が、「我々は国ではなく複数国家による共同体だ」と主張していると言う話を聞いたときは、ちょっとめまいがしたものだ。

 この程度のへりくつ、強弁は、外交の世界では日常茶飯事なのだが、一介の艦長に過ぎないブライトには魑魅魍魎の騙しあい、腹の探り合いにしか思えない。

 疲れたような表情のブライトを気づかうように大河は笑うと、後の説明を引き受ける。

『岩国基地で製造される初期ロットはすでに、日本帝国に提供することが決まっているのですが、香月博士の方から、その次はアメリカを優先した方が良いのではないか、というアドバイスをいただきました』

 好き嫌いを別にして、この世界ではアメリカが絶対的盟主と言えるくらいの影響力を持っているのは紛れもない事実。つなぎを作っておいて悪いことはない。

 そう言う夕呼の提案は、どこか裏を感じさせるものであったが、言っている内容自体は特におかしなものではない。

 どのみちこの世界の人類にミノフスキー工学に基づく技術を伝えるつもりならば、技術力、生産力共に世界一のアメリカにそれを渡すのは、理にかなっている。

「そうだな。その辺が妥当だろう。そこから後は、どこまでの『自称国家』を国と認め、どのような順で贈与するか、検討しなければならんだろうが」

 頭が痛いことだ、といって眉をしかめるタシロ提督の表情は、実際頭痛を堪えているような渋いものであった。

「他に、なにか議題や報告事項はありますか?」

 そろそろ纏めに入ったのだろう。そう言うエルトリウム副長の言葉を受け、発言許可を求めたのは予想外の人物だった。

『ちょっとよろしいですかね?』

「む、なにかね、バルトフェルド君」

 それは、エターナルの戦闘指揮者である、アンドリュー・バルトフェルドであった。

 エターナルの事実上の艦長とも言うべき、この片眼片腕片足の戦士は、今までこのフォールド通信会議で積極的な発言をしたことがない。

 それは、地球・小惑星帯の物資補給を担当しているエターナルに今日までこれといった問題が生じていなかったからでもある。

 その彼の発言に、他の艦長達は口を閉ざし、注目した。エターナル艦長のラクスも少し驚いた表情で斜め後ろを振る帰っているところをみると、彼女にとってもバルトフェルドの発言は予想外のものだったのだろう。

 バルトフェルドは、居並ぶ艦長達の視線を一心に受けながら、特に緊張するでもなく、飄々とした表情を崩さないまま口を開く。

『エターナルの護衛役を変更することは出来ませんかね? フラガ大尉達も決して口にはしませんが、疲労が溜まっています。一度、地球かエルトリウムでリフレッシュさせてやって欲しいのですが』

 バルトフェルドの提案に、ブライト達は「あっ」と息を呑んだ。

 確かに、地上に降りている先行分艦隊や、エルトリウムの艦内都市でストレス発散の出来る本隊の人間と違い、エターナルの人間は、狭い艦内で一月ちかい時間を過ごしてきたのだ。

 特に、その半分近くを戦闘待機状態で過ごしてきた機動兵器パイロット達の精神的疲労はかなりものだろう。

「そうだな。確かに、このままではエターナルの負担が大きい」

 タシロ提督は、目から鱗が落ちたように、何度も頷いた。

 実のところ、実戦に出る可能性が一番低いのもエターナルなのだが、それはこの場合関係ない。休息時間にストレス解消をする場がないことが問題なのだ。

 ラー・カイラムのブライトもすぐに賛同の意を示す。

「それならば、ウラキ少尉とキース少尉を地上に降ろし、フラガ大尉はエルトリウムに帰還。エターナルには新たにこちらから、ベイト中尉、モンシア中尉、アデル中尉の三名を上げるというのはどうでしょうか」

 ウラキとキースは元々モンシア達と同じく、バニング大尉の部下である。どうせならば、バニングの下に置いた方が彼らも動きやすいだろう。

 ムウ・ラ・フラガ大尉は、モビルスーツの空きがないため、機体は宇宙用モビルアーマーのメビウス・ゼロか、大気圏用戦闘機スカイグラスパーのどちらかしかない。バルキリーのように地上でも行動できるのならばともかく、飛行形態しかとれない機体をレーザー属種のいる地上に降ろすのはあまりに危険だ。

「そうですね。どのみち一度、バトル7が地球に向かうのです。その際、エターナルは一度、本隊と合流し、艦の人員にも休息を取らせてはいかがでしょうか」

 マックス艦長の提案に、エターナルの艦長であるラクスは、涼しげな目元を軽く伏せ、頷くのだった。

『そうですね。お言葉に甘えさせていただきます。バルトフェルド様、貴方も地上に降りて、ブライト様達を助けてあげて下さい。エターナルは私だけでも大丈夫ですから』

 予想外の方向に進む話に、バルトフェルドは一つだけの目を驚きに見開く。

『おやおや、僕は首ですか?』

 そんな茶化すようなバルトフェルドの言葉にも、ラクスは動じることなく、

『倉庫のラゴゥを片腕、片足でも操縦可能なように改造を施していたでしょう?』

 そう言って笑うのだった。

 バルトフェルドは大げさに肩をすくめ、情けない顔をする。

『やれやれ、お見通しでしたか』

 オレンジ色で4本足の獣形をした機体『ラゴゥ』は地上戦、中でも足場の悪い砂漠に特化した機体である。宇宙船に積んでおく意味はあまりない。

『ブライト艦長。と言うわけで、僕も混ぜてもらっていいですかね?』

『大歓迎だ。戦場では、前線指揮官としての活躍を期待させてもらう』

『了解ッ』

 ブライトの返答に、バルトフェルドは一瞬だけ真面目な表情を作り、敬礼した。

 バルトフェルドの話が一段落したところを見計らい、今度はバトル7のマックス艦長が口を開く。

「もう一つ、こちらからも提案があるのですが、サウンドフォースを地球に降ろすわけにはいかないでしょうか?」

 こちらも唐突な提案である。

 だが、エルトリウムのタシロ提督や大空魔竜の大文字博士は、マックス艦長に同情するように苦笑を浮かべている。

 それだけで大体の事情を察したブライトは、一応念のために問い返す。

『また、バサラがなにかやらかしましたか?』

 マックス艦長もまた苦笑を浮かべると、

「ええ。と言っても以前と同じなのですが。熱気バサラがまた火星に歌いに行こうしました。今度は間一髪止めることが出来たのですが、おかげですっかり彼は不機嫌になってしまっています」

 まあ、無理もあるまい。歌を歌いに行くのを止められたのだ。熱気バサラにとってそれは、生命活動を止められたに等しい。

 だが、今度ばかりはマックスとしても折れるわけにはいかない。以前と違い、今の火星にはレーザー属種が存在するのだ。いかにバサラが超人的な腕を持つバルキリー乗りとはいえ、火星降下中にレーザー照射を受ければ、ひとたまりもない。

『なるほど、それならば確かに地球上の方がまだ安心かも知れませんね』

 ブライトは頷きながらも、難しい表情を崩さなかった。

 確かに、惑星降下中に必ずレーザー照射を喰らう今の火星よりは、地球のBETA戦線の方がまだ危険は少ない。

 しかし、問題は地球には火星と違い、この世界の人類がいるのだ。もちろん、バサラはその歌をBETAだけでなく、この世界の人類にも届けることだろう。「戦争なんてくだらねえぜ! 俺の歌を聴け!」と叫びながら。

『…………』

 ちょっと考えただけでも、凄い事になりそうだ。だが、問題は、放っておけばもっと凄い事になりそうな点である。

『了解しました。サウンドフォースはこちらで引き受けます』

「すみません、よろしくお願いします、ブライト艦長」

 諦めたようにそう言うブライトに、マックスは恐縮したように帽子を取り、頭を下げるのだった。


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