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No.40359の一覧
[0] 【完結】超・初心者(スーパービギナー)の手引き【ファンタジー】[くらげ](2015/02/15 22:46)
[1] A02 何はともあれ金を貯めよう[くらげ](2015/01/05 22:54)
[2] A03 喋るゴボウと友達になろう[くらげ](2015/01/05 22:54)
[3] A04 魔物使いをはじめよう[くらげ](2015/01/05 22:54)
[4] A05 属性ギルドに喧嘩を売ろう[くらげ](2015/01/05 22:54)
[5] A06 不届き者を懲らしめよう[くらげ](2015/01/05 22:55)
[6] A07 妹を探そう[くらげ](2015/01/05 22:55)
[7] A08 ルーンの涙を取りに行こう[くらげ](2015/01/05 22:55)
[8] A09 激闘・マリンティアラ![くらげ](2015/01/05 22:55)
[9] A10 狂気の聖職者と戯れよう[くらげ](2015/01/05 22:56)
[10] A11 セコくてアコギな商人を始めよう[くらげ](2015/01/05 22:56)
[11] A12 ウォーターリバーの不思議なお水を売り付けよう[くらげ](2014/08/26 23:26)
[12] A13 失われたリュックを探そう[くらげ](2015/01/05 22:56)
[13] A14 嘆きの山では嘆かないように注意しよう[くらげ](2015/01/05 22:56)
[14] A15 いじめっ子は山のてっぺんでやっつけよう[くらげ](2015/01/05 22:57)
[15] A16 武闘家の心得を刻み込もう[くらげ](2015/01/05 22:57)
[16] A17 激闘・エンドレスウォール![くらげ](2014/08/31 23:44)
[17] A18 重複表現(デプリケートスタイル)を覚えよう[くらげ](2014/09/02 23:18)
[18] A19 あの街に帰ろう[くらげ](2015/01/05 22:58)
[19] A20 そして時が動き出すように、ラッツは駆け出した[くらげ](2015/01/05 22:58)
[20] B21 電波系マーメイドは二本の脚を持って[くらげ](2015/01/06 00:04)
[21] B22 今日、麩の味噌汁で殺します[くらげ](2015/01/06 00:04)
[22] B23 突撃! 隣の朝ごはん[くらげ](2015/01/06 00:04)
[23] B24 激昂のイーグルアーチャー[くらげ](2015/01/27 22:32)
[24] B25 月明かりに光る紅い瞳、蒼い鰭[くらげ](2015/01/27 22:33)
[25] B26 出陣、アーチャートーナメント[くらげ](2015/01/27 22:33)
[26] B27 初心者、弓だけで戦う[くらげ](2015/01/27 22:33)
[27] B28 イチャッデ・イカッチとササナのツイート[くらげ](2015/01/27 22:34)
[28] B29 決勝トーナメントに行くための鍵は[くらげ](2015/01/27 22:34)
[29] B30 ゴボウだって本気を出せば女の子になれるさ[くらげ](2014/09/17 00:53)
[30] B31 覆面弓士と人魚姫[くらげ](2014/10/23 22:19)
[31] B32 ロイスのパリィ![くらげ](2014/09/18 23:41)
[32] B33 盛れやアガれや決勝戦![くらげ](2014/09/19 22:32)
[33] B34 強化爆撃(イオン)の底力[くらげ](2014/09/22 00:26)
[34] B35 真実の瞳を探しに行こう[くらげ](2014/09/22 23:11)
[35] B36 天空の大陸、『スカイガーデン』[くらげ](2014/09/23 23:15)
[36] B37 先住民族マウロの遺跡を追え![くらげ](2014/10/23 22:20)
[37] B38 巨大な天空の地下都市、跡地にて[くらげ](2014/10/23 22:21)
[38] B39 連続トラブルは週に一回どころじゃない[くらげ](2014/10/23 22:21)
[39] B40 凶暴表現(バーサーク・スタイル)[くらげ](2014/10/23 22:21)
[40] C41 幕間 ある情報屋の会話[くらげ](2014/10/23 22:22)
[41] D42 初心者の目覚め[くらげ](2014/10/23 22:22)
[42] D43 消失した時と猫娘[くらげ](2014/10/23 22:22)
[43] D44 流されて魔界[くらげ](2015/01/27 22:34)
[44] D45 超・初心者への道[くらげ](2014/10/23 22:23)
[45] D46 限界突破! 限定表現(レストリクション・スタイル)[くらげ](2014/10/23 22:23)
[46] D47 アサウォルエェの問題児[くらげ](2014/10/23 22:23)
[47] D48 運命的再会とその魔族の今[くらげ](2014/10/23 22:24)
[48] D49 おかえりフルリュ[くらげ](2014/10/23 22:24)
[49] D50 帰って来た重複表現(デプリケート・スタイル)[くらげ](2014/10/23 22:24)
[50] D51 キュート・シテュの静かなる決意[くらげ](2014/10/23 22:24)
[51] D52 港町タスティカァで船を手に入れるために[くらげ](2014/10/23 22:25)
[52] D53 北の森の大ネズミ[くらげ](2014/10/23 22:25)
[53] D54 ラッツ・リチャードの占いハウス[くらげ](2014/10/23 22:25)
[54] D55 マジックカジノで一儲け[くらげ](2014/10/23 22:25)
[55] D56 RUN! RUN! RUN![くらげ](2014/10/23 22:25)
[56] D57 ササナ・セスセルトの結婚式をぶち壊せ![くらげ](2014/10/23 22:26)
[57] D58 伸ばした手。繋いだ思い[くらげ](2014/10/23 22:26)
[58] D59 殿方からの指輪を受け取る事は(後略)[くらげ](2014/10/23 22:26)
[59] D60 勝手に一人でやってればいい……くそばか![くらげ](2014/10/23 22:26)
[60] D61 ただいま![くらげ](2014/10/23 22:26)
[61] E62 俺の嫁が多すぎる件について[くらげ](2014/10/23 22:26)
[62] E63 初心者の剣と上級者の剣と[くらげ](2014/10/23 22:27)
[63] E64 捕らわれラッツとセントラルの追っ手[くらげ](2014/10/23 22:27)
[64] E65 高飛車魔法使いは言葉遊びがお上手[くらげ](2014/10/23 22:18)
[65] E66 奇麗なベティーナには棘がありすぎた[くらげ](2014/10/25 22:19)
[66] E67 不気味な男、テイガ・バーンズキッド[くらげ](2014/10/26 23:44)
[67] E68 脱出! セントラル大監獄![くらげ](2014/10/27 23:35)
[68] E69 想定外の事態が起きた。作戦変更だ[くらげ](2015/01/27 22:35)
[69] E70 それでも諦められないってことは[くらげ](2014/10/29 20:55)
[70] E71 ドラゴンの背に見える影[くらげ](2014/10/30 23:29)
[71] E72 我儘お嬢様はペットとして迎え入れるべきか[くらげ](2014/10/31 22:33)
[72] E73 テイガ・バーンズキッドとの再会 [くらげ](2014/11/01 21:32)
[73] E74 消えた街、リンガデム・シティ[くらげ](2014/11/02 23:07)
[74] E75 黒幕、シルバード・ラルフレッド[くらげ](2014/11/04 00:05)
[75] E76 新たな活路! 計画表現(プランニング・スタイル)!![くらげ](2014/11/04 23:11)
[76] E77 『ロイス・クレイユ』[くらげ](2014/11/05 21:52)
[77] E78 唸れ両腕、気張れ両足[くらげ](2014/11/06 23:50)
[78] E79 リンガデムの大地に奇跡を[くらげ](2014/11/07 23:46)
[79] E80 スカイガーデンと、それから[くらげ](2014/11/29 23:37)
[80] E81 言葉も無いわアホめ![くらげ](2014/11/11 00:03)
[81] F82 ハイテンション・カジヤ[くらげ](2014/11/11 23:16)
[82] F83 因縁の執事、フォックス・シードネス[くらげ](2015/01/27 22:36)
[83] F84 出陣、流れ星と夜の塔[くらげ](2015/01/27 22:36)
[84] F85 最後に会ったの、いつだ[くらげ](2015/01/27 22:36)
[85] F86 『マスクドピエロ』 [くらげ](2014/11/15 22:45)
[86] F87 奇妙な予定外[くらげ](2014/11/16 22:23)
[87] F88 『プリティジョーカー』[くらげ](2014/11/17 22:23)
[88] F89 流れ星のジョーク[くらげ](2014/11/29 23:37)
[89] F90 嵐の中のリタイア[くらげ](2014/11/19 23:34)
[90] F91 『アイアンキング』[くらげ](2014/11/20 22:38)
[91] F92 反撃と暴走、鋼鉄の巨兵[くらげ](2015/01/27 22:37)
[92] F93 その胸に覚悟を[くらげ](2014/11/22 22:39)
[93] F94 『ドッペルゲンガー』[くらげ](2014/11/23 22:20)
[94] F95 その子は、大変なスケジュールだったから[くらげ](2014/11/24 23:47)
[95] F96 どうせ死ぬなら、命を賭けろ[くらげ](2014/11/25 22:21)
[96] F97 さよならの影に見えたもの[くらげ](2014/11/26 23:53)
[97] F98 無様な漢の生き様[くらげ](2014/11/27 22:34)
[98] F99 ゲームオーバー[くらげ](2014/11/28 23:42)
[99] F100 神よりも尊く、己よりも愛しいひとへ[くらげ](2014/12/29 23:36)
[100] F101 最強のパートナー、再び[くらげ](2014/11/30 23:23)
[101] G102 娘達の介護合戦(前編)[くらげ](2014/12/02 00:01)
[102] G103 娘達の介護合戦(後編)[くらげ](2014/12/02 22:42)
[103] H104 俺のスキルが使えない![くらげ](2015/01/30 23:23)
[104] H105 剣士エトッピォウの過酷な修行[くらげ](2014/12/05 01:21)
[105] H106 プリンセス・俺[くらげ](2015/01/30 23:23)
[106] H107 さすらいのアイテムエンジニアを探せ![くらげ](2015/01/30 23:23)
[107] H108 水上都市ペンディアム・シティにようこそ![くらげ](2015/01/30 23:24)
[108] H109 その怪我を治すには、ハバネロスナックが必要だ[くらげ](2014/12/09 23:39)
[109] H110 『活火谷』フレアバレー[くらげ](2015/01/30 23:24)
[110] H111 燃える火花は崖に咲く[くらげ](2014/12/12 00:31)
[111] H112 仲間を信じる、ということは[くらげ](2014/12/13 00:37)
[112] H113 その『弱さ』を利用しろ[くらげ](2014/12/14 02:16)
[113] H114 絶対に嫌ですっ![くらげ](2014/12/15 00:00)
[114] H115 静かな疑問と想像世界の証人[くらげ](2014/12/15 22:46)
[115] H116 騙された錯覚[くらげ](2015/01/30 23:24)
[116] H117 選べよ[くらげ](2014/12/17 22:42)
[117] H118 強欲に乱暴に突っ走れ![くらげ](2014/12/18 22:58)
[118] H119 総力戦[くらげ](2014/12/21 00:30)
[119] H120 関節の外し方、それから[くらげ](2014/12/22 00:20)
[120] H121 復活の呼び声[くらげ](2014/12/22 23:02)
[121] H122 タイミング[くらげ](2014/12/23 23:39)
[122] H123 夜の砦に見える影[くらげ](2014/12/29 23:37)
[123] I124 嘗て[くらげ](2015/01/02 23:50)
[124] I125 王国招集と奇妙な違和感[くらげ](2014/12/26 22:54)
[125] I126 ならば、忘れてくれ[くらげ](2014/12/28 00:10)
[126] I127 男達の決戦前夜[くらげ](2014/12/29 00:55)
[127] I128 ちいさな気付き[くらげ](2014/12/29 23:35)
[128] I129 今を良しとしない者達の戦い[くらげ](2014/12/30 12:31)
[129] I130 驚くほど呆気ない終戦[くらげ](2014/12/30 21:21)
[130] I131 あんたなんかじゃない[くらげ](2014/12/31 11:37)
[131] I132 死んだ剣は二度立ち上がる[くらげ](2014/12/31 21:08)
[132] I133 決意を背負う覚悟[くらげ](2015/01/01 21:09)
[133] I134 時間制限付き最強伝説[くらげ](2015/01/02 21:21)
[134] I135 てめえら全員、初心に帰らせる[くらげ](2015/01/04 19:50)
[135] I136 バーサス・竜殺し[くらげ](2015/01/05 22:52)
[136] I137 ラッツ・リチャードの十八番[くらげ](2015/03/08 21:12)
[137] I138 やり直す、ということ[くらげ](2015/01/07 22:55)
[138] I139 反則ばかりの決戦劇[くらげ](2015/01/08 22:26)
[139] I140 魔力無効化空間[くらげ](2015/01/09 22:56)
[140] I141 種明かしは仲間とともに[くらげ](2015/01/11 10:51)
[141] I142 たったひとつの結末[くらげ](2015/01/11 21:42)
[142] I143 英雄の名のもとに[くらげ](2015/01/12 19:56)
[143] J144 急速なる異変(上)[くらげ](2015/01/13 23:52)
[144] J145 急速なる異変(下)[くらげ](2015/01/14 23:38)
[145] J146 さらば、ラッツ[くらげ](2015/01/15 23:31)
[146] K147 闇よりの逃走[くらげ](2015/01/17 01:06)
[147] K148 彼はまだ、生きています[くらげ](2015/01/18 00:22)
[148] K149 最後の協力者[くらげ](2015/01/18 22:15)
[149] K150 欲と盲目と宴に溺れる街[くらげ](2015/01/19 21:45)
[150] K151 落ちぶれた勇者[くらげ](2015/01/20 23:39)
[151] K152 ネズミ男、オリバー・ヒューレットの迷い[くらげ](2015/01/21 20:42)
[152] K153 勇敢と書いて大馬鹿と読む男[くらげ](2015/01/23 22:50)
[153] K154 次元斬[くらげ](2015/01/27 22:31)
[154] K155 話を聞かない特権[くらげ](2015/01/29 00:00)
[155] K156 最高にして最後の試験を始めよう[くらげ](2015/01/29 23:38)
[156] K157 裏切りと覚悟と現実[くらげ](2015/01/30 23:25)
[157] K158 共に歩こうお前は一人じゃない[くらげ](2015/01/31 22:20)
[158] K159 憧れ[くらげ](2015/02/03 00:14)
[159] K160 地獄の底でよろしく[くらげ](2015/02/03 23:33)
[160] K161 この計画は、破綻している[くらげ](2015/02/05 23:13)
[161] K162 大地を登り詰めれば神になれるか[くらげ](2015/02/07 00:55)
[162] K163 勇者表現(ブレイバー・スタイル)[くらげ](2015/02/08 20:01)
[163] L164 最終決戦[くらげ](2015/02/09 23:23)
[164] L165 この星の半分をお前にやろう[くらげ](2015/02/11 22:23)
[165] L166 希望に向けた手は虚空を[くらげ](2015/02/13 00:29)
[166] L167 初心者の選択[くらげ](2015/02/13 20:59)
[167] L168 築かれた、スタート・ライン[くらげ](2015/02/15 22:45)
[168] L169 エピローグ[くらげ](2015/02/15 22:46)
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[40359] G102 娘達の介護合戦(前編)
Name: くらげ◆14db1afa ID:edfc3e27 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/02 00:01
 動くことが出来ないというのは、中々どうして他人に迷惑を掛ける。その相手が幼馴染のフィーナであることは、少しだけ俺の気持ちを楽にしてくれたらろうか。
 いや、寧ろ逆だ。フィーナが俺の介護をしているせいで、俺は気苦労が耐えない。
 せめて、レオにして欲しい。百歩譲ってもロイスだ。……いや、ロイスは顔が女っぽいから駄目だ。
「はい、ラッツさん。あーん」
 この行動に他意などない。そう、自分に言い聞かせるんだ。この行動に他意などない。そう、これは俺が身動き取れない以上、必然的にやって貰わなければ食事が出来ないという部分にある訳であってだな。
「喉が乾きましたね」
 そう言って、コップに入ったストローに口を付けるフィーナ。……まず、食事はこれが良くない。そのままではカップから水が溢れてしまうからと言って、この娘は自分の口に水を含んでから、口移しで飲ませると言うのだ。
 せめて、そのストローを寄越してくれれば自分で飲めると言うのに。……やめてくれ。俺が恥ずかしさで死ぬ。恥ずか死ぬ。
 構わず、口付けされた。冷たい液体が、口の中に入り込んでくる。
「ん……」
 あと、妙に艶かしい吐息を漏らすのもやめてくれ。
 否応無しに、心拍数が上がる。過度の緊張で別の病気が発症するのではないかと思えるくらいだ。
 フィーナは唇を離すと、俺の目を見てにっこりと笑った。それは、屈託のない真の笑顔ではあったが――――こんな所で、素直に笑われても。と思う。
「次は何を食べたいですか、ラッツさん」
「あー……じゃあ、カレー」
 こんな調子である。
 フィーナは何を思い付いたか、ふと真剣な表情になった。俺を見ると、僅かに頬を染めて上目遣いに俺を見詰める。
 …………今度は一体、どんな拷問を思い付いたのだろうか。
「やっぱり、食べ物も私が咀嚼するべきでしょうか……」
「いや、頼んでない。マジ頼んでないから。噛めるから。ね?」
「……そう、ですよね。私ってば、失念しておりました」
「俺の話聞けよ」
 私ってば、じゃないよ。どいつもこいつも、最近は俺の話を全く聞かないから困る。フィーナは自分の口にカレーを放り込むと、その小さな愛らしい口で咀嚼して……いや、こんなんで味も何も分かるか、もう!!
 再び、俺の口に迫った時だった。
 突如、背中からどつかれたフィーナは喉を鳴らし、口に含んだものを全て、飲み込んだ。
「それは既に……介護の領域を……超えていますっ……!!」
 フィーナの背後に、鬼神の如きオーラを纏った翼の少女が一人。純白の翼と金色の長髪はなんとも神々しく幻想的な雰囲気ではあったが、そのエメラルドグリーンの瞳に宿る炎は、見ている者にとてつもない現実味を与えていた。
 ……フルリュよ。ちょっとだけ助かった。
 フィーナが俺にも分かる程に悪い顔で舌打ちをして、後ろのフルリュを見詰めた。
「ちっ……入って良いと、言った覚えは……ありませんが……?」
 その剣幕に、怒っていた筈のフルリュがたじろいだ。少し涙目になりながらも、しかしフィーナに対する怒りは収まらないようだ。
 びし、とフィーナを指差して、フルリュは言った。

「――――そもそも、ラッツ様はマーメイド族の現姫君であるササナひめさ……ササナさんの旦那様なのですよ!?」

 ……あ、言ってて自分で落ち込んでいる。フィーナはフルリュの百面相に、少し対応を決め兼ねているようだった。
「姫だか紐だか知りませんが、誰と結婚していようが、私には関係ありませんわ。あなたに介護の何が分かりますの? ハーピィ風情が」
 段々フルリュに遠慮が無くなってきたな、フィーナ。……誰と結婚していようが関係ないって。すげえな。
「わ、私だって風邪の看病をするくらいは……」
「甘く見て貰っては困りますわね。全身の筋肉が切断され、満足に歩くことも出来ない状態なのですよ。聖職者は付与魔法・回復魔法の専門職です。フルリュさんの入る余地はありませんわ」
 俺は一応お前を助けるために傷を受けたんだけどね。そんな、得意気な顔で『ラッツさんを治せるのは私だけです』みたいな顔をされてもね。
 まあ助かってるのは本当だし、良いんだけどさ。
「えう……ら、ラッツ様ー!!」
 俺に泣き付かれても。……そもそも、フィーナは何だかんだで俺の介護をしてくれているからなあ。妙にエロい誘惑が多い事以外は、特に不自由もしていないし……
 しかし、このままだとフルリュやササナは面白くないだろうな。キュートがどうだかは知らないが、そういえば最近ベティーナにも会っていない。
 ……ふーむ。
「じゃあ、こうしよう」

 ○

 次の日。唇にふわりと、柔らかい感触があった。軽すぎる身体は上に乗っている事を感じさせない程で、特に俺を圧迫することはない。
 隠れ家に、鳥がやってきたらしい。窓の外ではチチチ、と小鳥の泣く声が聞こえる。
「起きてください、ラッツ様」
 目を開けると、そこにはフルリュがいた。嬉しそうに頬を染めて、俺に向かってはにかんだ。
 おお、俺の心のオアシスよ。今日も金髪は朝日に照らされて輝いていて、エメラルドグリーンの瞳は見ているだけで心が洗われていく程に美しい。
 特にキスの魔法に掛かっている訳でもなく、俺は朝方のフルリュに魅了されていた。
「……おはようございます、ラッツ様」
「おはよ、フルリュ」
 カーテンを開け、フルリュは窓も開ける。爽やかな風は、満足に動けない俺の肌を優しく撫でた。フルリュは人差し指を立てて、第二関節を曲げて鳥達に合図している。
 一体、何をしているんだ……?
「おいで」
 おお…………!! まるで引き寄せられるように、フルリュの下に小鳥が集まっていく…………!!
 鳥類としての一面も持ち合わせているからなのか。フルリュが話し掛けると、小鳥も反応するようにフルリュの周りを飛んでいた。部屋の中で、小鳥はぐるぐると回転しながら飛び回っている。まるでダンスをしているかのようだ。
「すげえ……なんじゃこりゃ……」
「ここは気候が安定しているから、巣を作るのに持って来いなんだそうです。裏の木の陰で、子供を育てているんだとか」
「分かるのか? 鳥語」
 俺が問い掛けると、フルリュは微笑んだ。
「言葉というより、気持ちで会話をしています。心を開けば、自然と入って来てくれますよ」
 俺も試しに、自分の心を開く、というのを意識してみた。こんなんで鳥語が分かるようになるとは思えないが……
「こうか……?」
 鳥達はぎょっとして俺を見ると、瞬く間に窓の外へと去って行った。フルリュは呆然と、俺と鳥とのコミュニケーションを見ていた。
「ラッツ様、そこまで敵意を見せなくても……」
「見せてないよ!?」
 鳥語というのは、俺には難しいらしい。
 フルリュは俺に近付くと、ベッドに腰掛けた。未だ指一本でさえ動かす事の出来ない俺だったが、しかし腹は減る。内臓が生きていただけマシというものだ。
 予め用意されていたらしく、俺のベッドの隣にはリンゴが剥かれていた。懐かしいな、リンゴ。メイシーと並んで、北国の貴重な果物だ。特に、雪が降らない地方での栽培が盛んだから、ノース・ロッククライムでもよく食べていた。
 フルリュはフォークをリンゴに突き刺すと、俺に向かって差し出した。
「ラッツ様……あ、あの……」
 顔を真っ赤にして、何やらうにょうにょと呟いていた。
「な、なんだよ」
 決死の表情で俺を睨むと、フルリュは固く目を閉じて叫ぶように言った。
「あ、あーん…………しても、いいですか!!」
 俺に許可を求めるなよ!! こっちまで恥ずかしくなるだろうが!!
「……別に、いいけど。ていうか、前もやってなかったっけ?」
「いや、あれはササナさんの前だったので……」
 普通、他の人が居た方がやり辛いと思うのだが。どうなんだ、そこんとこ。
 フルリュはきょろきょろと辺りを見回して……どうやら、部屋に誰も居ないことを確認しているらしい。当然、この部屋には俺とフルリュの二人きりだ。
 覚悟を決めて、フルリュは熱でもあるかのような顔で、俺に向かってリンゴを差し出した。
「あ……あーん……」
 そんなに緊張されると、当然俺の方も平常心ではいられなくなる。
 不思議な気分だ。何もされていないのに、まるで抱き合っているかのような……食べさせられてるだけだぞ!? しっかりしろ、俺!!
 口を開くと、フルリュが震える手でリンゴを差し出した。口を閉じて咀嚼するが、当然味など分かる訳がない。
「お、おいしいですか?」
「ああ、リンゴの味がする。たぶん」
 俺がそう言うと、フルリュは嬉しそうにはにかんだ。……顔が蕩けている。そんなに嬉しかったのか。
「良かった……もしかして、二人の時は食べて貰えないかと思ってました」
「え? なんで?」
「人目がある所では、私に恥をかかせない為に食べると思うんです。でも、二人だけの時は……分からなかったので」
 なるほど、そういう考え方もあるのか。改めて、自分とは違う考え方を持っている生物なんて、世の中には掃いて捨てるほど居るということを実感させられた。
 二人きり故に、気になってしまう事もあるのだろう。
「あの、ラッツ様。もし良ければ、なのですけど……ちゃんと動けるようになったら、また、二人で手を繋いでお散歩……したいです」
 だからどうして、もじもじとしながらそういう事を言うのか。俺の一挙手一投足を確認して、嫌がっていないかを見極めようとしていた。
 フルリュって、なんで仲良くなる方向性が『奉仕』なんだろう。
「別に、いいけど」
「やった…………!!」
 小さくガッツポーズをして、喜ぶフルリュ。……なんだか、出来立ての恋人が尽くしてくれているような気分だった。
 いや、なんか初々し過ぎてどうもな……

 ○

 フルリュが戻って行き、暫くした後。今度は部屋の扉を開き、顔だけ出して、こちらを覗き込んでいる娘の姿があった。目を細めて、俺の様子を窺っている。
 ……ただ、見ているだけだった。青い髪と対照的な紅の瞳は、どこか興味本位で俺を眺めるような意志を持っている気がする。
「入れよ、ササナ」
「ここには…………誰もいない…………」
 いるだろうが。
 ゴールバードの鎧にやられてからずっと動けなくなっていたササナなので、随分と久しぶりに感じる。そういえば、流れ星と夜の塔から戻って来てからも、すっかり会っていなかった。もしかして、久しぶりに会うので恥ずかしさのようなものを感じていたり、するのだろうか。
 だとしたら、少しだけ可愛い所もあるじゃないか。
「なあ、ササナ。水飲みたいからさ、ちょっと手伝ってくれないか」
「たかがそれだけの事に……嫁を呼び付けるとは……亭主関白?」
「ちげーよ。俺の状況を見ろよ」
 前言撤回。やっぱり、こいつは何を考えているのかよく分からん。
 そそくさとササナは部屋に入って来て、扉を閉めた。鍵を掛ける……必要は、あるのか?
 緑がかった青髪は、俺に懐かしさを感じさせた。今日は人間の姿だ。それを見ると、人として街をうろついている時のササナの事を思い出す。
 既に懐かしさを感じる。初めて出会った時は下剤を飲まされそうになって危うく腹を下しかけたし、魔界から帰って来た時は長靴を食べさせられそうになったし……
 …………
 …………あれ? 俺、あんまり愛されてなくない?
「一人で行っちゃうから、心配した……。ちゃんと戻って来てくれて、ほっとした……」
 ササナはそう言うと、ベッドの隣にある椅子に腰掛けた。部屋着なのか、簡素な白シャツとホットパンツ姿だったが、これはこれでササナの魅力的な尻が強調されてエロい。
 俺は苦笑して、ササナに答えた。
「ああ、ありがとうな。やっと戻って来られたよ」
「サナを置いて、娘を助けに行くと言うから……浮気調査の為に犬を離しておいて……よかった……」
「『戻って来る』ってそっちの意味かよ!!」
 少しでも感謝して、損をした俺だった。
「『実は一人で行かせると、危ない』ということを、よく説明しておいた……サナは疑われない……完璧……」
「何してくれてんだよ」
「あわよくば百合になって、サナに美味しい展開になるかと思ったけど……そこは……誤算……」
「どんな旨味だ!!」
 そもそも、犬ってベティーナの事かよ。確かに首輪付いてるけどさ。
 隠れ家のササナがベティーナに何か吹き込んだのか。それでベティーナもあんなに必死に……いや、何だよそれは。どうして今ここで種明かしをする必要があったんだ。
 ササナは目を光らせているが、無表情を貫いている。……相変わらず、表情が無いのによく感情表現ができるものだと思う。
 どうやって光ってるんだ、その眼。
「…………それで?」
「褒めて」
「褒めるか!!」
 何故得意気なんだ。今のどこに褒める要素があったのか、小一時間問い詰めたい。
 いや、それは電波のループに嵌るから駄目だ。やっぱり、何も聞かないでおこう。
 ササナは椅子から立ち上がり、窓へと向かった。まだ、昼前だ。少し開いた窓からは、相変わらず暖かい風が入り込んでくる。
 窓枠に体重を掛けて、ササナは振り返った。
「でも……家族のために頑張る旦那は……嫌いじゃない……」
 微笑む姿は、どこか王者の風格を感じさせる。俺が死ぬとは思っていない絶対的な信頼と、強さがそこにはあった。
 ササナは外に向かって、得意の歌声を披露していた。陽気の中に、静かな音楽が聞こえてくる。……このまま、もう一度眠ってしまいたい衝動に駆られる。
 …………本当に、変な奴だ。




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