※『小説家になろう』様でも投稿しています。
一体どうして、こんな事になってしまったんだ。
おかしい。
絶対に、おかしい。
地べたに胡座を組んで、俺は現在の状況を確認していた。
冒険者(クローラー)アカデミーを卒業してから、それぞれの冒険初心者は自分達の身に付けてきたスキルをステップアップさせるため、各戦闘スタイルのプロフェッショナルが集まり、各々の腕を磨く場と言われる『属性ギルド』に所属するのだ。
ソードマスター、マジックカイザー、アイテムエンジニア、マッスルエキスパート。個々のギルドは、一週間に渡ってアカデミー卒業生を雇い入れる『リクルート』と呼ばれる儀式を行う。
もしかしてアカデミー卒業生のつもりで、アカデミー卒業生じゃなかったとか。
そんなオチではなかろうか。
……手元にある、卒業証書を確認した。
『ライジングサン・アカデミー』。そうだ。誤字などない。俺は確かに世界最高峰と言われる、就職率九十八パーセントの『ライジングサン・アカデミー』の卒業生である。
そんなオチである訳がないだろう。俺は記憶喪失か何かか。
こんなもの確認した所で、現在の状況が好転する訳でもないのだけど。
では何故、『リクルート』に失敗したのだろうか。
もしかして、成績が悪かったのだろうか。
俺は手元にある、アカデミーの成績表を確認する。
ソードスキル、A判定。マジックスキル、A判定。A、A、A……全てAだ。間違いない。何故なら俺は、『ライジングサン・アカデミー』の首席卒業者なのだから。
……では、何故『リクルート』に失敗したのだろうか。
思い起こすこと、一日前。
『あ、そうなんだ。マジックスキルもAなんだね……剣技しかやってない卒業生の就職先がなくなっちゃうから、マジックカイザーで取って貰ってよ』
そう言って、ギルド・ソードマスターのギルドリーダーは苦笑し、俺に手を振った。それを機に、俺の栄光に満ちた人生は百八十度反転。曖昧に断られ続け、ついに『リクルート』期限の一週間を過ぎてしまったのだ。
今俺は、正にNEET――『プー太郎』の路を辿っている。
やばい。何故だ。
剣士として御法度とも言える『飛び道具』のスキルを獲得していたのがいけなかったのか。
聖職者として御法度とも言える『刃物』のスキルを獲得していたのがいけなかったのか。
黒魔法使いとして御法度とも言える『白魔法』のスキルを獲得していたのがいけなかったのか。
武闘家として御法度とも言える『黒魔法』のスキルを――――…………
「――――――――あれ?」
そうか。よく考えてみたら、入れて貰える訳無いじゃないか。
全てのスキルを持っている、という事は。各ギルド間で忌み嫌われている、所謂反対属性のスキルも持ってる奴って事になるんじゃないのか。
おかしくないよ何にもおかしくない。当然だ。過去のアカデミー首席卒業者は、既にギルドに入る前からプロフェッショナルへの路を行く、さながら職人の人。
対する今期首席卒業者、器用貧乏の人、俺。
首席で卒業した以上、どこかのギルドは入れてくれるだろうとか。もしかしたらスカウトあるかもとか。いやあるだろ、とか。気楽に構えて遊び呆けていた一昨日までの俺。
どこのギルドにも入れて貰えなかった昨日の俺。
そして、今日の俺は――……
閑古鳥が、ほぎゃあ、と鳴いた気がした。
通りすがる人々が俺を一瞥して、まるで犯罪者を視認してしまったかのような気不味さで目を逸らし、去って行く。俺は路上に四つん這いになり、様々なアカデミーの本、武器を前にして、絶望した。
お気に入りのゴーグルが額から垂れ下がる。
「……やっちまった」
つまりは、そういう事なのだろう。
さて、その驚異的な就職率を誇るアカデミーで、就職率九十八パーセントに対抗する、残りの二パーセントがどうやって生きていくのか。問題は、そこに尽きる。
まず、冒険者を辞める。実家がパン屋でダンジョン限定の調味料を自己採取するために通っていましたとか、そういう話なら別に問題はない。
俺の両親の仕事は『炭鉱マン』。
「嫌だ!! 肉体労働しないために気ままな冒険者を目指したのに!!」
いや、実際は気ままじゃないかもしれないけどさ。苦労も労働もあるかもしれないけれども。
啖呵切って田舎の実家から飛び出した挙句、就職出来ずに戻って来ました、とは言えない。今更、俺に帰る場所などないのだ。
二パーセントのうち、実家に帰らなかった極々少数の人間が行き着く境地。それ即ち、乞食。
実家か乞食の二択。
皆さん、聞いてください。
俺、就職浪人しました。
超・初心者(スーパービギナー)の手引き