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No.40336の一覧
[0] 聖将記 ~戦極姫~ 【第三部】[月桂](2014/08/15 00:02)
[1] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 京嵐(二)[月桂](2014/08/15 23:44)
[2] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 京嵐(三)[月桂](2014/08/21 22:47)
[3] 聖将記 ~戦極姫~ 第一章 京嵐(四)[月桂](2014/08/25 23:54)
[4] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 瑞鶴(一)[月桂](2014/09/03 21:36)
[5] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 瑞鶴(二)[月桂](2014/09/06 22:10)
[6] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 瑞鶴(三)[月桂](2014/09/11 20:07)
[7] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 瑞鶴(四)[月桂](2014/09/16 22:28)
[8] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(一)[月桂](2014/09/19 20:57)
[9] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(二)[月桂](2014/09/23 20:30)
[10] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(三)[月桂](2014/09/28 17:53)
[11] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(四)[月桂](2014/10/04 22:49)
[12] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2014/10/12 02:27)
[13] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(五) [月桂](2014/10/12 02:23)
[14] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(六)[月桂](2014/10/17 02:32)
[15] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(七)[月桂](2014/10/17 02:31)
[16] 聖将記 ~戦極姫~ 第三章 雨月(八)[月桂](2014/10/20 22:30)
[17] 聖将記 ~戦極姫~ 幕間[月桂](2014/10/23 23:40)
[18] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 黎明(一)[月桂](2018/06/22 18:29)
[19] 聖将記 ~戦極姫~ 第四章 黎明(二)[月桂](2018/07/04 18:40)
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[40336] 聖将記 ~戦極姫~ 第二章 瑞鶴(三)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:fbb99726 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/11 20:07

 山城国 伏見の陣


「では、友通(ともみち 岩成友通)、そなたはこのまま六角軍を突き崩すべきというのか?」
「はい、日向守さま(三好長逸の官職)」
 六角軍の侵入に備えるため、伏見に本陣を置いた三好軍。
 その本陣の最奥、総指揮官である三好長逸(みよし ながやす)の陣幕では、今、長逸の他、岩成友通と三好政康のいわゆる三好三人衆が集い、今後の対策を協議していた。


 この場で唯一の女性である岩成友通は、額にかかる黒髪をわずらわしげに払いのけ、長逸を説き伏せるべくさらに言葉を重ねる。
 三人衆という呼び名こそあるものの、伏見に布陣した三好軍三千の指揮官は長逸である。友通の判断で動かせる兵力は、自家の手勢を含めて精々四百といったところ。
 今という時が今後の三好家、さらに自分たち三人衆の浮沈の境目だと認識している友通は、是が非でも長逸を口説き落とさねばならなかった。


「報告によれば、六角の陣中にただならぬ動揺が見えるとのこと。おそらく彼らの後方で看過できぬ異変が起きたと思われます」
「看過できぬ異変」
 長逸は白眉を寄せて考え込んだ。
「具体的に何が起きたかはまだわからぬのか?」
「は。細作は放っておりますが、未だ正確なところはつかめておりません。ですが、敵軍に退き色が見えているのは、私がこの目で確かめてまいりました。六角軍を叩く、またとない好機であると考えます」
 友通の主張を聞き、長逸は目を閉ざして黙考する。


 長逸は三好一族の重鎮として、長らく主君 長慶を支えてきた歴戦の武将である。畿内各地を転戦して奮迅の働きを為す一方で、外交や内政でも大きな功績をあげている。
 長年にわたって三好家の勢力拡大に力を尽くしてきた長逸に対する長慶の信頼は厚く、長逸は一族中の最長老として遇されてきた。
 もっとも、最長老といっても長逸は五十路をわずかに越えた程度。髪も眉もヒゲも見事に白く染まっているが、まだ老け込むような年齢ではなく、長逸自身にも隠居の意思はなかった。


 二条御所襲撃以後、自分たちと三好宗家の間に隙が生じていることは長逸も重々承知している。
 考え込む長逸を見て、友通はもどかしげに決断をうながした。
「日向守さま!」
「はやるな、友通。六角義治どのはこちらからの申し出に諾を伝えてきたのだろう? むろん、あちらなりの思惑あってのことだろうが、こちらから一方的に攻めかかれば全てが水泡に帰す。好んで選択肢を減らす必要はあるまい」
「悠長に構えている時間が我らにあるとお思いですか!?」
 友通は気色ばんで長逸に詰め寄った。


 と、ここでそれまで黙っていた三人目の人物が口を開く。
「おお、怖い、怖い。そうも猛々しく吠え立てては可愛い顔が台無しだぞ、友通」
「下野どの(下野守 三好政康の官職)は黙っていていただきたい!」
 友通がキッと睨みすえると、三好政康は大げさに身をすくめてみせた。


 三人衆の役割を端的に記すなら、将が長逸、智が友通、そして武が政康である。
 刀剣をこよなく愛する政康は名刀の収集家として知られており、同時にその扱いにも習熟していた。
 多くの戦場で愛刀に血を吸わせ、その武勲をもって三人衆の一角に名を連ねる政康の武勇。
 同じ三人衆である友通は、政康の力量を幾度も目の当たりにしており、その武勇のほどは十分に認めている――が、それと政康個人の為人を認めることは別の話であった。


 三好家の一族である長逸や政康と異なり、友通は一介の浪人から成り上がった。
 長慶に仕えて文武に功績を重ね、ついには三人衆のひとりにまで上り詰めた友通は、その過程において「女」を武器にしたことは一度もなく、またそのことを誇りともしてきた。
 似た境遇である松永久秀に対し、友通が反感を禁じえない理由はそのあたりにもあったりするのだが、それはさておき、そうした物堅い性格の友通にとって、何かといえば「可愛い」だの「綺麗」だのといった言葉を向けてくる政康の軽薄な言動は、苛立ちこそすれ親愛を覚えるものではありえなかった。
 まして暇さえあれば刀剣の手入れをし、気味の悪い笑みをもらしているような人物にどうして心を許すことができるのか。


 ただ政康はそういった友通の反応を楽しんでいる節もあり、具体的な行動に出ようとしたことは今まで一度もない。
 政康がからかい、友通が怒り、長逸がなだめる、というのは三人衆の軍議において毎回のように発生する一幕であり、この時も同様であった。
「政康、控えよ」
「承知です、伯父御(おじご)」
 長逸の言葉に政康が恐縮の態で頭をかいた。この二人、正確には伯父甥の間柄ではなく、もうすこし複雑な関係なのだが、政康は面倒だからと色々すっとばして長逸を伯父御と呼び、長逸の方もその呼び方を受け容れていた。




「友通、続けよ」
 促された友通は、政康に強烈な一瞥を叩きつけてから、あらためて口を開いた。
「長慶さまや義賢さまが我らを京から出したことに厄介払いの意図があったことは明白です。本願寺軍が淡路に動いたことで、今の三好軍はただでさえ余裕がなく、このまま滞陣を続けても援軍が来ることはないでしょう。そして、その事実は遠からず六角軍に掴まれます。その時、六角義治がどう動くかは火を見るより明らかではありますまいか」
 おそらく、それこそが長慶たちの狙いであろう、と友通は推測している。そのことを思い、もう何度目のことか、友通の胸奥に鈍い痛みが走った。


 実のところ、友通は将軍暗殺に関しては長慶の理解が得られるものと考えていた。
 むろん、三人衆の行動をおおやけに賞賛することはないだろう。しかし、今の三好家にとって足利義輝の存在は百害あって一利もない。そのことは先の武田、上杉軍の上洛や、その上杉への管領待遇の授与等、これまでの義輝の策動を見れば誰の目にも明らかである。
 ゆえに義輝を排除することは三好家にとって必要不可欠な行動であるはずだった。今回の一件、友通にしてみれば主家のためにすすんで泥をかぶったようなものなのである。


 最悪の場合、友通はすべての罪を背負って腹を切ることさえ考えていた。
 ただ、仮に切腹が命じられるとしても、その前に長慶から何か一言があるだろう、と期待していた。友通は長慶の傍仕えから立身した身であり、主君の性格は理解している。少なくとも友通は理解しているつもりだった。
 長慶さまならば自分の真意を理解してくださるだろう。自分を死なせるにしても、その前に手向けの一言を下さるだろうし、死後も一族が立ち行くようはからってくれるに違いない、と。




 だが、そういったものは何一つなく、三人衆は三好義賢から冷然と国境への出陣を命じられ、半ば追い立てられるように都から追い出された。
 六角軍はおよそ七千。その大軍を前に三人衆に与えられた兵力はわずか三千、しかもろくな後詰もない。そのことを知った友通ははじめ唖然とし、次に憤然とし、最後に疑念を覚えた。
 長慶や義賢が友通の真意を理解してくれなかったのは、彼らの近くに友通の行動を歪んで伝えた者がいたからではないか。
 友通の脳裏に真っ先に浮かんだのは、意味ありげに微笑む松永久秀の顔である。実際、久秀は御所の乱の後、義賢ら一族と共に長慶の諮問に応じ、義賢に続いて入京もしている。
 確証はない。だが状況証拠としては十分であった。


 前述したように、友通は久秀同様に無名の身から成り上がった人間である。
 後ろ盾となる実家の存在がない友通にとって、信頼と権限を与えて自分を引き立ててくれた長慶は今なお尊敬と忠誠の対象であり、三好家のために尽力する決意にかわりはない。
 だが、久秀は違う。
 同じように三好家に引き立てられた身であっても、久秀の内心に主家への忠誠などあるものか。このままでは友通も長逸も政康も死に、三人衆を失った三好家は大きく力を損なってしまう。
 久秀にとっては三好家をのっとる絶好の機会が到来することになる。そうなれば長慶の身も無事では済まないだろう。



 そうはさせぬ、と友通は決意していた。
 今は一時的に長慶の意に背くことになっても生き延びなければならない。生き延びて時節を待ち、いずれ長慶の誤解を解いた上で松永久秀を三好家から放逐するのだ。
 単純に生き延びるだけなら、今すぐ陣を捨てていずこかへ逃亡すれば良いのだが、それでは反攻に転じる力も失ってしまう。
 そこで友通が目をつけたのが江南の地であった。
 江南の土地は肥えており、都に近い琵琶湖の水運を握ることの意義ははかりしれない。京に近いことから、朝廷を利用して名分を手に入れることもできるだろう。また、南部に広がる険峻な甲賀の山並みは、軍事的に見てもきわめて有用であった。


 かつて六角家にくみし、時の足利将軍がみずから率いた大軍を撃退してのけた剛強の民こそ甲賀の民。
 甲賀地方の諸家は独立性が強く、支配するにはいささか難儀をする相手だが、だからこそ味方につけることができれば頼もしい。
 彼らの力をもってすれば久秀を放逐することもたやすい――とは云わないまでも、十分に可能である。それが友通の結論であった。




「今しがた申し上げましたように、六角家の内部で何が起きたのかは掴めておりません。ですが、推測できることはあります」
「その推測とは?」
「義治が当主としての実権を握るため、重臣の排除に踏み切ったと思われるのです」
 六角義治に管領職をちらつかせ、味方に引き込もうと画策したのは友通である。
 義治を唆すことはさして難しいことではなかった。父親から家督を譲られて間もない若き当主が、家中ではばをきかせる先代からの重臣に対して思うことなど一つしかない。
 管領職は義治の父 義賢はもちろん、祖父の定頼さえ就くことのできなかった尊貴の地位。その管領に任じられれば家臣たちが義治を見る目も一変する上、口うるさい重臣たちを黙らせることもかなうだろう――そんな友通の言辞に、案の定、義治は乗ってきた。


 ただこの時、友通はあることが気になった。
 相手の返答があまりに早かったのである。三好家と六角家はこれまで幾度も矛を交えてきた間柄であり、先ごろ三好家が将軍弑逆を実行に移したのは周知の事実である。いかに管領職をちらつかせたとはいえ、義治が宿敵ともいえる三好家と手を組む決意をするまで相応の時間がかかるだろう、と友通は読んでいた。
 それが実際には、渡りに船とばかりに速やかに応じてきた。その態度は、友通が唆す以前から何事か企んでいた者のそれである。


 友通は考え、そして結論を出した。
 おそらく義治はこちらの申し出以前から重臣たちの排除を目論んでいたのだろう。相手がそういう人物であれば、今後こちらの望むとおりに踊ってくれるとは限らない。三人衆が三好家内部で孤立している確証を掴めば、あっさりと掌を翻し、三人の首を討って長慶ないし久秀に差し出すかもしれぬ。
 であれば。
 ここで一気に六角家を押しつぶし、江南を三好の版図に加えてしまえばよい。
 義治が重臣たちの貶降をはじめれば六角家が混乱するのは必至である。豪族たちの中には三人衆に従う者も出てくるだろう。
 結果として三人衆は六角義治を謀ることになるが、今は手段を選んでいる時間がなかった。あの久秀が邪魔者を国境に追いやって、それでよしとするはずがない。必ずや次の手をうってくるに違いなく、それまでに今の状況を打破しておかねばならないのである。



 友通は自らの考えをよどみなく述べ立てていく。
 長逸は、そして政康もこの時ばかりは真剣な表情で考えに沈んだ。
 やがて長逸が右手で顎をさすりながら口を開く。
「友通の言、一理あるとは思う。どのみち、ここで滞陣を続ける意義は薄い。兵たちも不安を感じ始めているしな。だが、義治どのが重臣の排除に動いたという確証がない今、うかつに動くことはできぬ。もしこれが敵の罠であった場合、我らは倍近い数の敵軍に突撃することになるからだ」
「それはそれで面白そうではありますがね」
 長逸の言葉を聞いた政康は、薄笑いを浮かべて腰の刀の柄頭を優しく撫でた。
 見るからに威を感じさせるその刀の銘は三日月宗近。
 天下五剣の一にして、足利義輝のお気に入りであった名刀である。義輝を討った後、政康は御所の財宝には見向きもせずに名刀、宝剣の類をかきあつめ、己の収集物に加えていた。
 中でも三日月宗近をもっとも気に入った政康は、こうして常に腰に差して歩いているのである。


 ふふ、とも、ひひ、とも聞き取れる政康の薄笑いを耳にして、友通の顔が厭わしげにしかめられた。
 しかし、今は政康の相手をしている暇はない。友通は彼の言葉は聞かなかったことにして長逸に進言した。
「では、六角の陣中に噂を流しましょう。三好軍は間もなく京へ退く、と。実際に陣払いもいたします。六角の動揺が偽りであれば、彼奴らはえたりとばかりに追撃してまいりましょう。しかし、彼奴らの混乱が本物であれば、こちらの退却を奇貨として兵を退くに相違ありません。そこを追撃すれば勝利は疑いありませぬ」
 眼前に広げられた地図の上、瀬田と記された地点を友通は指差した。
「そうして一息に瀬田の唐橋を奪ってしまえば、向後、六角軍が山城に侵攻する経路の一つを塞ぐことができます。三好家にとってはめでたき仕儀と申せましょう」


 逆に、久秀やその手勢が三人衆の後背をつこうとしても、侵攻路を一箇所に限定することができる利点が生じる。橋上の戦いであれば多少の兵力差は気にせずにすむので、これを退けることは難しくないだろう。
「長慶さまも義賢さまも、私たちに兵を動かすなとはお命じになっておりません。六角領に踏み入ることは、主家の意に逆らうことにはならぬと心得ます」
「なるほど。瀬田を奪うことは三好家のためでもあり、また我らの身を守ることにもつながるというわけか。その先、さらに江南に踏み入るか否かを決めるのは、六角家の動静を見極めてからでも遅くはない」
「は、そのとおりです」
 友通が長逸に頭を下げる。


 と、政康が揶揄するように口を挟んできた。
「で、お前のことだ、友通。どうせもう手は打っているんだろう? さきほど自分の目で六角軍の様子を確かめてきたと云っていたし、その時にでも、な」
「……否定はしない。下野どのは動くことに反対か? このまま留まっていては、最悪の場合、我らは主家に兵を向けられることになるが」
「俺は伯父御に従うが、俺個人としてはお前に反対するつもりはないな。ただそれは主家に兵を向けられたくないからではない。なにしろ、俺は長慶さまにふた親を殺された身だ。長慶さまに兵を向けられたとしても、ああ、またか、てなものよ。この宗近に昨日までの味方の血を吸わせるも一興だ」


 友通の眉が急角度につりあがった。
「聞き捨てならないな。私は長慶さまに刃向かうつもりはないし、長慶さまに刃向かう者に容赦するつもりもないぞ」
「落ち着けって。別に長慶さまに逆らうつもりはない。子供だった俺を救っていただいただけでなく、三好一族として手厚く遇していただいた恩は忘れられないさ。ま、長慶さまが兵を向けてきた場合、おとなしく討たれて差し上げるほどしおらしく振舞うつもりもないが、それはその時のこと。今はただ、伯父御の指揮とお前の策に従って、六角兵を切りまくってやるだけだ」
「……相変わらず、下野どのは何を考えているかよくわからない」
「はっは、この俺に面と向かってそう云うのはお前くらいのもんだ。それも実に嫌そうな顔でな。いや、愉快愉快」
 なにやら楽しげに笑い始めた政康を見て、友通は話にならんと会話を切り上げた。
 そして、再度、決断を促すために長逸を見る。
 長逸はなおもしばらく考えていたが、どのみち、このまま六角軍とにらみ合っているわけにはいかない。誘いの手をかけてみるのも一案であろう、と友通の策を承認したのである。




 ――かくて、六角、三好両軍の間で起こった戦いは、後に「瀬田川の合戦」あるいは「唐橋夜戦」と称される。
 この一連の戦いは『合戦』と銘打たれてはいたものの、実質的には観音寺騒動(義治が両藤を討った事件)で動揺する六角軍を、三好三人衆が一方的に叩きのめすものとなった。
 三好軍 岩成友通の計略にはまった六角軍は、三好軍の撤退を幸いとして退却を決断したものの、その軍列が瀬田川へ差し掛かるころ、急追してきた敵軍に後背から痛撃を喰らう。
 時刻は夜半。予期せぬ奇襲を受けた七千の六角軍は、襲撃した側の三人衆が驚くほどにあっけなく解体された。もとより主君の凶行で士気が尽きかけていた六角軍には、反撃する力も意思も持ちようがなかったのである。
 彼らに出来たのは散り散りになって戦場を落ち延び、せめて命だけでもまっとうすること、ただそれだけであった。


 この快勝に三好軍はおおいにわきたった。六角軍ほどではなかったにせよ、士気という点では三好軍も決して良い状態とはいえなかったのだ。それが、わずか三千の兵で七千の六角軍を大破するというたぐいまれな大勝利を得たのである。武士はもちろん、雑兵ひとりひとりにいたるまでが勝利を喜び、おおいに士気を高めた。
 この勢いを三人衆は無駄にしなかった。
 瀬田の唐橋を渡るや勝勢に乗って六角軍 山岡景隆のたてこもる瀬田城を攻囲、これを数日で陥落させる。


 この時点で三好軍には観音寺騒動の詳細が伝わっていた。
 岩成友通は江南の騒擾に乗じてさらなる侵攻を進言し、長逸の同意を得る。友通の作戦指揮のもと、三好政康は麾下の手勢を率いて北東へ進軍、近江 青地城を急襲する。
 青地城は江南の要地に位置し、北上すれば永原城、長光寺城に至り、その先に六角家の本拠地たる観音寺城がある。また、東を見れば水口城、三雲城に通じており、西から甲賀に兵をいれるのに適した地勢であった。
 城周辺は江南でも肥沃な地として知られており、地理的に東海道と東山道が接する重要な土地でもある。
 つまるところ、青地城は江南を制するためにはどうしても落としておきたい城なのである。


 青地城を守る武将の名は青地茂綱(あおち しげつな)。
 六角家中において猛将との呼び声高く、一方で内政にも堅実な手腕を有し、今日まで大過なく青地城を守ってきた。
 この茂綱、もともとは他家の人間であった。子に恵まれなかった先代当主が、茂綱の資質を見込んで是非にと頼み込み、養子にもらいうけたのである。
 茂綱の以前の姓を蒲生という。
 蒲生家先代当主 定秀の息子であり、現当主である賢秀の弟。蒲生家の鶴姫にとっては、まさに実の叔父にあたる人物であった。




◆◆◆



 南近江 日野城


「はや青地まで迫りおるか、三好めが!」
 青地城からの急使によって三好軍の怒涛の侵攻を知った定秀は、苦々しげに言い捨てた。
 その声音には不甲斐ない自軍への失望も含まれている。自軍の半分以下の敵勢に痛破された挙句、江南の奥深くまで敵に踏み込まれた。それだけでも憤懣やるかたないというのに、その相手がよりによって三好軍である。六角家に従って幾度も三好軍と刃を交えてきた定秀にとって面白かろうはずがなかった。


 定秀と向き合って座っている賢秀も、内心は父と似たようなものである。しかし、今は三好家への嫌悪をあらわすより先に実行しなければならないことがあった。
「父上、今は取り急ぎ茂綱――青地どののもとに援軍を遣わさなくては。義兄と進藤どのを討って間もないところに此度の敗戦です、観音寺城はおそらく上を下への大騒ぎでしょう。とうてい援軍を遣わす余裕はありますまい」
「むろんだ。茂綱もそれを予測したからこそ、こうして我らに使者を差し向けたのであろう。したが、今から百や二百の手勢を送ったところで焼け石に水。青地城を救うためには相応の数の兵を差し向けねばならん」
 定秀は眉間に深いしわを刻んだ。


 現在の江南の情勢で、後藤家と縁戚である蒲生家が大々的に兵を募った場合、どのような誤解をうけるかは火を見るより明らかである。ゆえに義治に事の次第を報告し、募兵と援軍派遣の許可を得ておく必要があった。
 だが、今すぐ急使を出したとしても、義治がただちに許可を出すとは考えにくい。状況が状況なだけに、義治は蒲生家に兵を動かす許しを与えることをためらうだろう。
 即日の許可を得られたとしても、今の三好軍の勢いを考えれば、青地城を救えるかは五分と五分。まして義治が逡巡してしまえば勝算はかぎりなく低くなる。


 定秀にせよ、賢秀にせよ、身内可愛さだけで援軍を急いでいるわけではなかった。青地城の軍事的、経済的な価値を思えば、あの城を三好軍に奪われることの不利益は言をまたない。ヘタをすると、一気に観音寺城まで敵に押し込まれるかもしれぬ。
 常であればともかく、今の六角家では反撃もままならない。くわえて、敵は三好家だけではない。江北の浅井家がいつなんどき動くか分からないのだ。この戦況で北から浅井軍に攻め込まれれば、もはや勝ち目はないに等しかった。



「とと様、じじ様」
 この時、鶴姫が口を開いた。
 渋面で考え込む父と祖父に落ち着いた声で呼びかけると、鶴姫は眼前の難問を解く案を口にする。
「鶴が観音寺のお殿さまを説きまする」
 その案に賢秀の眉がはねあがった。先日の一件以来、賢秀は尋常ならざる娘の才を認めており、だからこそ、こうして当たり前のように鶴姫に席を与えている。
 しかし、何から何まで娘を一人前扱いするつもりはなかった。賢秀の顔を見れば「今の観音寺城に幼い娘を遣わすなんてとんでもない」とでかでかと明記されていた。


「鶴、そなたの才は私もじじ様も認めるところだ。だが、そなたがまだ十の童であることも事実。他者がそなたの言葉を聞いても、子供がさかしらにさえずっているとしか思わぬであろう。まして今の殿は不機嫌きわまる心持ちであられよう。そこに蒲生家が童を使者として遣わしてみよ。侮られた、とお考えになるは必定。それは誰にとっても良い結果をもたらさぬ」
 その賢秀の言葉に対し、鶴姫はきっぱりと首を横に振った。
「大丈夫です、とと様。お殿さまは私を怒ったりいたしません。それどころか、きっと喜んで迎えてくれます。だって、蒲生家が期待の嫡子を人質に差し出して、自分に――お殿さまに従うって宣言してくれるのですから」


「……むむ」
「……ほう、なるほど」
 賢秀が眉をひそめ、定秀が納得したように大きくうなずいた。
「鶴はまだ十。童であるのは間違いない。だが、童であるからこそ、若殿はそこに別の意味を見出すか。嫡子を人質にあずけた蒲生家が裏切るとは若殿も思うまい。兵を動かす許可もいただけよう」
「はい、じじ様。それに鶴が観音寺に入れば、こたびの騒動で混乱する国人たちを驚かせることもできます。あの蒲生家が人質を差し出したのか、と。これはお殿さまにとって幾重にも利用できることだと思います」


 鶴姫は、なおも迷っている様子の賢秀にさらに云った。
「とと様、今は御家存亡の時。鶴も一臂の力を尽くしたく思います。鶴だけでは兵を募るのも難儀しますし、兵の先頭に立って青地の叔父さまを助けることもかないません。このお城に残っても、何の役にも立てないです。でも、観音寺城にいけば、鶴も御家の役に立つことができるのです。適材適所は当主の基本と教えてくださったのはとと様ですよね?」
「む、それはそのとおりだが……」
 娘におされっぱなしの賢秀は、なんと答えたものかと口を濁す。


 ここで鶴姫が眉を曇らせた。
「お身体の具合が良くないかか様に、これ以上のご心労を重ねてしまうのは申し訳なく思うのですけど……」
「それよな。そなたの近くに賢春がいてくれれば、まだ私もかか様も安心できるのだが。賢春が三雲に向かったのがつい先日。さすがにまだ戻ってはおらぬだろう?」
「はい。たぶんまだしばらくは戻れないと思います」
「あちらもあちらで放っておけることではないからな。賢春にとっては生まれ育った地だ、うまくやってくれるだろうが、さすがに今日明日ですべて片付けるというわけにはいくまい」
 そう云うと、賢秀は観念したように小さく息を吐いた。
 今この時も青地城は陥落の危機に瀕している。いつまでも逡巡しているわけにはいかないのだ。


 賢秀は定秀をかえりみた。
「父上、よろしいですか?」
「蒲生の当主はそなただ。そなたが決したことに反対するつもりはない。鶴を観音寺に遣わすとして、兵を募るのはそなたがやればよかろう」
「は。兵を整えましたら青地城に向かいますゆえ、父上には城の留守居をお願いしたく――」
 その言葉は定秀の豪快な笑い声によってかきけされた。
「はっは、何を云うか、賢秀。幼い孫が一命を賭して御家のために働かんとしているのに、わしがのんべんだらりと城に残っていていいはずがあろうか? 否、断じて否! わしはこれよりただちに戦支度をし、今、動けるだけの兵を引き連れてすぐに茂綱のもとへ向かうぞッ!」
「は!?」
 賢秀が驚愕のあまり、ぽかんと口を開けば。
「え、え? じじ様、それは無茶ですッ」
 祖父の予期せぬ決意に、鶴姫も慌てて口をはさんできた。


 しかし、可愛い孫の言葉も、この時ばかりは定秀の意思を覆すにはいたらない。
「成算あってのことよ、二人とも心配いたすな」
「父上、それは無理と申すもの! さきほど、百や二百の手勢を送っても焼け石に水と仰ったのは父上でありましょうに!」
「それは後詰がなければの話よ。そなたという援軍が後に続くこと、わしが先駆けとなって茂綱に伝えれば、苦戦にあえぐ青地の兵も奮い立とうぞ」
「じじ様、それはそのとおりと心得ますが、何もじじ様が先駆けをつとめる必要はないではありませんか。家臣の中からしかるべき者を選べば良いと思います!」
「鶴よ、それではじじの出番がなくなってしまう。往古、漢の馬援将軍は齢六十にして甲冑をまとい、叛乱軍を討ったという。わしはまだ六十になっておらぬ。つまり、何の問題もないということよ。此度の戦で、蒲生定秀、未だ衰えずということを江南全土に知らしめてくれよう!!」


 がははと高笑いする定秀を見て、賢秀と鶴姫はそっと目線を交わし、それぞれの顔に諦念を見出してがっくりとうなだれた。
 普段は隠居の身であることをわきまえ、諸事に自重している定秀であったが、どうやら孫娘の才気と覚悟に触発されてしまったらしい。老将の気炎は容易に鎮まりそうにない。
 今回の一件、鶴姫にとって誤算はいくつも存在したが、これもまた誤算に加えなければならない出来事であったかもしれない。




 そして。
 鶴姫は知る由もなかったが、同じころ、姫の腹心である賢春もまた想定外の事態に直面し、困惑を隠せずにいた。
 もう少し正確に云えば――困惑を隠せずにいたところに予期せぬ襲撃を受け、命の危険に晒されていた。
 



◆◆◆




 南近江 三雲城外


 三雲成持の本拠地である三雲城は、険しい地勢の上に築かれた典型的な山城である。
 多くの山城がそうであるように、三雲城は攻めるに難く守るに易い城であり、兵を向けるのはもちろん間諜や細作の類が近づくのも容易ではない。
 三雲城で生まれ育った賢春は当然のようにそのことを承知していた。もし成持が越後の一行を城内に幽閉していたならば、これを救い出すことは困難を極めただろう。


 一方で、賢春は別のことも知っていた。
 何を知っていたかといえば、現在の当主である三雲成持の細心さである。
 謙信ほど勇猛をうたわれる武将を城内に入れれば、どんな反撃を受けるかわかったものではない。そんな危険をあの叔父が甘受するとは思えなかった。
 おそらく幽閉場所は城外にある。そう考えた賢春は、鶴姫から上杉主従の居場所を掴むよう命じられた際、配下に幾つかの地名を告げ、その周囲を重点的に捜索するように指示した。いずれも城から離れ、かつ人がよりつかない地域であった。


 ほどなくして、野洲川上流の廃寺に不審な将兵の姿を確認した、との報告が届けられる。状況から判断して、そこが幽閉場所であることはほぼ間違いなかった。
「叔父上は相変わらずのようです」
 賢春の言葉には、かつて追放同然に城を逐われたことへの恨みはほとんど含まれていない。
 叔父に城を逐われたからこそ忍びの師と出会うことができた。そして、忍びの技があるからこそ、こうして鶴姫の役に立つことができる。そう思えば、叔父に感謝してもいいくらい……
「いえ、やっぱり感謝までは無理ですね」
 聖人ならざる身、まったく恨みがないわけではないのである。



 日野城を出た賢春はそんなことを考えながら件の廃寺へと急いだ。上杉主従を助けるのは鶴姫の基本方針であり、賢春は見張りを任せた配下に対し、三雲家の兵が動いたならばこれを食い止めるように、と指示を出している。
 しかし、賢春配下の忍びの数は決して多くない。今の賢春は鶴姫の傍仕えであり、これと見込んだ者たちを鶴姫に推挙して、彼らを鍛えて鶴姫直属の諜報網を築き上げてきた。自然、その規模は鶴姫の懐でまかなえる範囲に限定されてしまうのである。
 もっとも、賢春自身も当主の賢秀から蒲生姓を授けられ、鶴姫の腹心として厚く遇されている身である。したがって、正確には鶴姫と賢春の懐でまかなえる範囲、というべきかもしれない。
 いずれにせよ、鶴姫直属の諜報部隊は数も質も賢春が満足するには程遠く、賢春抜きで三雲家の行動を阻むのは難しいだろう。賢春としては、成持ないし義治が決断する前に目的地に駆けつけておきたかった。




「…………と、思っていたのですが」
 実際に駆けつけてみて、賢春はめずらしく困惑を隠せずにいた。
 木々に隠れて様子をうかがう賢春の視線の先、そこでは報告にあった目的の寺が綺麗さっぱり燃え落ちていたのである。
 焼け跡の周囲では三雲家の兵とおぼしき者たちが忙しげに立ち働いている。時折、怒声らしきものが響いてくるあたり、殺気立っていると云いかえてもよい。


 賢春の到着前に何かが起きたのは確かである。
 賢春にとって最悪なのは、はや三雲家の兵が動き、上杉家の一行が処断されてしまったという結末だった。
 しかし、それにしては兵たちの様子がおかしい。死傷者が多く、生き残っている者も苛立ちをあらわにしており、目的を果たした軍にはとうてい見えない。それらのことから、おそらく最悪の事態にはいたっていない、と賢春は判断した。
 というより、まさかこれは――


「逆に三雲家の側が包囲を斬り破られたのかもしれませんね」
 賢春は視界に映る光景からそんな推測を導いた。
 配下の忍びがいればもっと詳しい情報を得ることができる。そう考えた賢春は符丁に定めていた鳥の鳴き声を発しようとする。彼らが近くにいれば、すぐにこの場に駆けつけてくれるだろう。
 そうして賢春が息を吸い込み、吐き出そうとした、その直前。



「もし、そこの方」
 害意などかけらも感じさせない朗らかな声をかけられ、賢春は目を瞠る。
 つとめて何気ない風を装って振り返ると、少し離れた場所に、腰に刀を差したひとりの女性が立っていた。見事な黒髪を結い上げたその女性は、にこやかに微笑みながら賢春の方を見つめている。
「少々お訊ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
 女性はそう云うと、ゆっくりと賢春に向かって歩み寄ってきた。一歩一歩、地面を踏みしめるようなしっかりとした足の運び。足音をひそめる意図など微塵もないその歩き方は、忍びや細作のものではありえない。


 同時にタダ者でもありえなかった。
 女性はたしかに足音をひそめようとはしていない。にも関わらず足音がほとんどしないのは、それだけ足運びに無駄がないからだろう。ある程度離れていたとはいえ、自分がこの相手の気配に気づかなかった理由を賢春は悟ったように思った。
 まるで山に慣れた猟師のように、まったく体勢を崩すことなく近づいてくる女性を見て、賢春の胸奥で警戒心の水位が急激にあがっていく。
 賢春は以前、山中で野生の熊と対峙したことがある。状況はだいぶ違うが、今感じている圧迫感は、どこかあの時の熊に似ていた。




 ――抜く手も見せずに閃いた相手の一刀。
 まだ間合いに入っていなかったはずのその一閃を避けることができたのは、ひとえに日頃の修練の賜物であった。
 賢春に攻撃を避けられた女性は、予想どおりといいたげにくすりと微笑む。
「今の一刀を避ける。やはりタダ者ではありませんでしたね」
 あなたに云われたくない。賢春はそう思ったが、口にはしなかった。
 今、目の当たりにした斬撃の冴え。猿(ましら)の如しとうたわれた師から「猿飛」の名を受け継いだ賢春をもってしても、容易に避けられぬと思い知らされた。


 どうしてこれほどの剣客がこんな辺鄙な山の中をうろついているのか。
 そんな賢春の疑問を読み取ったわけでもないだろうが、女性はあいかわらず朗らかな声で云った。
「江南守護 六角家中の方と見受けました。この地で何が起きているかを知りたく思いますので、ぜひとも同道してくださいな」
「……人に物を訊ねるに、刃をもって斬りかかる。そのような相手に、誰が従うというのです」
「保護を求めた相手に対し、約を違えて虜囚とし、有無をいわさず斬り捨てんとする。そんな主君を愚とするならば、それを諌めぬ家臣は卑。性根の貧しい主従にはいかにも似合いの対応だと自負しています」


 云い終えた瞬間、相手の笑みの質が変化した。これまでとて決して友好を示すものではなかったが、今はそこに確かな威が感じられる。
「せっかく見つけた手づるです。精々役に立ってもらいます」
 言葉と共に剣気が研ぎ澄まされていく。女性がその気になったことを悟った賢春であったが、反対に賢春の胸中にはわずかなためらいが生まれていた。
 今しがたの台詞が気になったのだ。


「もしかして、上杉家中の方ですか?」
「いかにも――といえば少々気が早いですが。しかし、ここでその言葉が出るということは、やはりそういうことですよね」
 確認の言葉は相手に最後の確信を与えてしまったらしい。
 八相に似た独特の構えをとった相手が短く名乗った。


「丸目長恵、参る」


 次の瞬間、鈍色に輝く刀身が賢春の眼前に迫っていた。



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