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No.40244の一覧
[0] フレイザードと時の砂時計(ダイの大冒険・氷炎将軍生存・完結)[アズマ](2014/09/09 00:14)
[1] オーザムの秘宝と物語の始まり[アズマ](2014/07/29 00:18)
[2] 三週目フレイザードと火炎氷結呪文[アズマ](2014/08/04 00:08)
[3] 勇者の敗北とミストバーンの受難[アズマ](2014/08/09 23:42)
[4] 氷炎魔団の献身とフレイザードの覚悟[アズマ](2014/08/14 00:05)
[5] 紛糾する軍団長会議と冥竜王ヴェルザーの思惑[アズマ](2014/08/19 00:18)
[6] ハドラーたちの猛攻と大魔王の切り札[アズマ](2014/09/14 00:14)
[7] 魔王軍最強の男とバーンパレス最強の守護神[アズマ](2014/08/29 00:05)
[8] 最終話 因縁の決着と物語の終わり[アズマ](2014/09/04 00:08)
[9] あとがき[アズマ](2014/09/09 00:14)
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[40244] 最終話 因縁の決着と物語の終わり
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:35b7df2e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/04 00:08

ミストバーンが二人の消失に気づく少し前のこと。

「すさまじいですね。本気を出したミストがここまで強いとは想像もしていませんでしたよ」

圧倒的な力を見せつけるミストバーンの後方。
大魔王バーンと共に観戦していたキルバーンは、軽い口調で喝采の声を上げていた。

(地上の勇者クンたちにはガッカリだったけど、これは思いもかけずチャンスが回ってきたかな)

飄々とした言葉とは裏腹に、キルバーンは内心で慎重にタイミングを計っていた。
ハドラーたちは超魔爆炎覇を破られ、覇者の剣を折られてもなお、戦意を喪失せずに戦い続けている。
彼らが粘れば粘るほど、ミストバーンの背中は遠ざかっていく。

(悪いねミスト。キミとは違って、ボクには大魔王を助ける義理はあっても義務はない……)

大魔王の腹心の部下であるミストバーンとは異なり、元々キルバーンは大魔王バーンの配下ではない。
魔界の奥地に封印されている冥竜王ヴェルザーこそが、死神キルバーンの本来の主人なのだ。

無言で戦場を見つめているバーンへと、キルバーンはひっそりと歩み寄る。
キルバーンの指先がバーンの肩に触れると同時、キルバーンの空間転移によって二人は戦場から姿を消した。

「玉座の間に戻ってきたか。なんのつもりだキルバーン」

バーンは大魔宮バーンパレスの中央部、天魔の塔の最上階へと転移させられていた。
行動の真意を問うバーンに対して、数歩下がって臣下の礼をとったキルバーンがうやうやしく返答する。

「大魔王様におかれましては、体力も魔力も限界とお見受けいたします」

額面通りに受け取れば休息を促すかのような台詞だが、その言葉には明らかに不穏な響きが含まれていた。
表向きはバーンの地上破壊計画への協力者として送り込まれたキルバーン、その本来の任務は大魔王バーンの抹殺である。

「ここで動くか。そうであろうな。この大魔王バーンがここまで追い詰められるなど、前代未聞の出来事だ」

バーンは余裕の態度を崩すことなく首肯して、キルバーンとの決別を受け入れる。
ここぞという場面が来れば敵に回る。それは最初から分かっていたことだった。

「余の覇業の完成を見届けることなく逝くか。それほどまでに余の首を欲するのであれば、それもよかろう」
「大魔王バーン様、お命を頂戴いたします」

キルバーンの持つ大鎌『死神の笛』が、ギラリと物騒な輝きを放つ。
次の瞬間、キルバーンは大魔王の首級を挙げるべく、猛然と切りかかっていた。

「……機を見誤ったな。この大魔王バーンをなめるでないわっ!」

多勢に無勢であればいざ知らず、一対一の戦いで後れを取るような大魔王ではない。
バーンはまるで息を吹き返したかのような素早い動きでキルバーンの懐に潜り込むと、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。

「極大真空呪文《バギクロス》!」

バーンが休息中に溜め込んでいた闘気と魔法力を一気に爆発させての二回行動。
圧縮された極大真空呪文による真空の刃が吹き荒れて、着地したキルバーンの全身を切り刻む。
キルバーンは辺りにマグマの体液を飛び散らせながらひとしきり踊り狂うと、壊れた人形のように足元から崩れ落ちた。

「ぐ、ううっ、まだこんな力を残していたとはっ……」
「この大魔王バーンの首、そう易々とくれてやるわけにはいかん」

油断ならない相手であるキルバーンに、小細工を弄する時間を与えるわけにはいかない。
決着を急ぐバーンの指先に、火炎呪文の魔力が灯る。

「今日までご苦労だった。さらばだ、キルバーン」

大魔王が放ったメラが、魔界のマグマに引火して盛大な火柱を巻き起こす。
紅蓮の業火による火葬。それは陽気な死神の最後にふさわしい、華々しい散り様だった。

「……!? こ、この光はまさかっ!」

キルバーンの罠を切り抜けたと思っていた大魔王の顔が驚愕に染まる。
渦を巻く火柱の中心から、別の破壊エネルギーが解き放たれようとしていた。

何のことはない。キルバーンと共にこの玉座の間に転移してきた時点で、バーンはすでに詰んでいたのだ。
キルバーンが暗殺の舞台としてこの場所を選んだのは本人の趣味もあるが、どこかに閉じ込めるよりも確実に大魔王の逃走を阻止できるためだ。
大魔王バーンはその矜持ゆえに、玉座の間で戦いを挑まれれば受けざるを得ない。そして戦いの勝敗に関わらず、彼は死ぬことになる。

キルバーンが自身の生命と引き換えに仕掛けた最大にして最後の罠。頭部に埋め込まれていた黒の核晶《コア》が作動する……!!


***


(バーン様への念話が繋がらない……!?)

異変に気づいたミストバーンは慌てて大魔王バーンに念話を繋げようとしたのだが、何らかの妨害によって連絡は遮断されていた。

「マキシマムッ! バーン様の身に危険が迫っている!」

平静を欠いたミストバーンが、マキシマムを手勢に大魔王バーンと死神キルバーンの行方を捜索しようとした直後だった。
ミストバーンの視界の端、大魔宮バーンパレスの中央部に位置する天魔の塔から、黒い閃光が放たれる。

(あの光はまさかっ)

ミストバーンは以前にも、同じ破壊エネルギーの輝きを見たことがある。
ハドラーの身体に埋め込まれていた魔界の超爆弾。黒の核晶《コア》を起爆させた時だ。
比類なき大爆発が、バーンパレスの中枢である天魔の塔を吹き飛ばした。遠く離れたミストバーンたちの元にまで、轟音と爆風が押し寄せる。

「おおおっ! バーン様ッッ!!」

ミストバーンが天を仰ぎ、虚空に手を伸ばして嘆き悲しむ。
大魔王バーンの半身を預かる彼は、他の誰よりも早くバーンの死を悟っていた。

「わ、我輩の軍団が崩壊していくだと!? なんだっ!? お前たちいったいどうしたというのだ!?」

マキシマム配下のオリハルコン戦士たちが弱々しい魔力光を放ち、次々とただの小さな駒へと戻っていく。
王《キング》であるマキシマムが健在であっても無意味なのだ。指し手であった大魔王バーンの死によって、駒たちはその役目を終えた。

「これは、まさか」
「バーンが死んだというのか……!?」

バーンとキルバーンの姿が見えないことにようやく気づいた親衛騎団たちとハドラーが、遅れて状況を理解する。

(へぇ、キルバーンの野郎がバーンを殺ったか。良い仕事するじゃねえか)

ヴェルザー陣営と一時的な共闘関係にあるフレイザードは、当然キルバーンの役割についても知っていた。
キルバーンこそがフレイザードに戦況の情報を流していた協力者であり、先のハドラーたちの猛攻を演出した影の立役者だったのだ。

(ミストバーンが動揺している今こそ千載一遇の好機!)

僅かな勝機を見出したシグマが、フレイザードの後ろへと素早く駆け寄る。

「フレイザード殿! いま一度メドローアを! たとえ弾かれたとしても、このシャハルの鏡で必ず仕留めて見せます!」
「断る。そいつはできねえ相談だ」
「そんなっ、何故ですかフレイザード殿!」

返答に納得できないシグマがフレイザードに食って掛かるが、正面からその姿を見て思わず息を呑んだ。
シグマと同じくフレイザードの状態を確認したヒムが悲鳴を上げる。

「りょ、両腕がっ!? これじゃメドローアはもう撃てねえっ!」

初めて使ったメドローアの魔法力を制御しきれなかったせいだろう。
極大消滅呪文を放った反動で、フレイザードの両手首から先は消滅してしまっていた。

(この土壇場でぶっつけ本番、見たこともない呪文を又聞きの知識だけで使ったんだ。無理もねえっ!)
(ハドラー様のため、その身を犠牲にして戦っている戦友に対して、私は何ということを……!)

ミストバーンに対抗できる唯一の攻撃手段が失われたことは残念だが、これは名誉の負傷だ。
深く感じ入って納得した様子のヒムとシグマに、フレイザードはあきれたように言葉を紡ぐ。

「そういう意味じゃねえよ。腕なら再生すりゃいいし、魔法力にもまだいくらか余裕がある」

少しの体力と引き換えに、失われた岩石部分を手の形に伸長して補い、魔炎気と魔凍気を纏わせる。
ヒムとシグマがあっけにとられるなか、フレイザードは瞬く間に腕を再生して見せた。

「オレが撃った呪文が防がれて、そっちの馬面が反射して奴を倒せたとしても、それじゃオレがミストバーンに止めを刺したことにならねえだろうが」

フレイザードがこの戦いに介入したそもそもの目的は、ミストバーンを自らの手で殺すことにある。

「共闘するのは構わねェ。ハドラー様の手前もあるが、お前らが一緒に仕掛けてくれたおかげでオレもずいぶん助かってる」

それが自分勝手な我が儘であることを自覚しながらも、フレイザードは自身の素直な思いを吐露していた。
フレイザードはハドラーのことを信頼しているし、己と出自を同じくする親衛騎団に対しても間違いなく好意を抱いている。

「だがな。ミストバーンはオレの獲物だ。あいつの首だけは、他の誰にも譲らねェ」

それでもなお、この一点だけは譲れない。ハドラーにとっての宿敵がダイなら、フレイザードにとっての宿敵はミストバーンだ。

捨て駒として踏みつけにされた屈辱。なすすべなく殺され続けたことへの怨念。
氷炎魔団の部下たちを失った痛み。ミストバーンを必ず殺すという魂の誓い。
『時の砂時計』のループによって積み重ねられた過去の因縁、その全てに決着をつける……!!

「勝てるのですか。あの化け物に」
「ハッ、心配はいらねえよ。両の腕で足りねえのなら、この身体のすべてをくれてやるまでさ」

ヒムとシグマに自分から離れるように伝えると、フレイザードは鋭く前を見据えて魔法力を全開にする。

「考えてみりゃ簡単なことだ。普通に撃っても通用しねえのなら、この身体すべてを肉弾と化すのみっ!」

両腕に宿した火炎呪文と氷結呪文を胸元で融合させる。ここまでは通常のメドローアと変わらない。
フレイザードが左右の身体のバランスを意図的に崩して融合を加速させると、スパークした魔法力が拡大して両腕から全身へと広がっていく。
やがてフレイザードの身体すべてが、極大消滅呪文の輝きを帯びた。

「先輩っ、無茶だっ!?」
「覚えとけよ後輩…… 自分可愛さに保身を図るような奴に勝利はねえ…… 最後に勝つのはっ!」

それはフレイザードが持つ氷炎属性と、メドローアの原理の親和性が高いからこそ実現可能な究極形態。
極大消滅エネルギー生命体。その活動時間は持って数分。生命活動を維持するだけで莫大な魔法力を消耗していく歪な存在だ。

「生命を捨ててでも勝利をもぎ取る覚悟がある奴なんだよぉぉぉっっ!」

あらゆる物質を消滅させる光の化身となったフレイザードが、ミストバーンに向かって飛翔する。

「こいつで終わりだっ! 弾丸爆花散っ!」

フレイザードの切り札である最終闘法は、メドローアを組み合わせることによって更なる進化を遂げていた。

「……!?」

バーンの死に衝撃を受けて呆然と立ち尽くしていたミストバーンが、迫りくる濃密な殺気に反応する。
我に返ったミストバーンが見たものは、視界を埋め尽くすおびただしい数の光の弾丸だった。

「決着の時だ! 約束を果たしに来たぜ! ミストバーンッ!」

消滅呪文の魔力を帯びた光弾が、無数の流星群となってミストバーンに殺到する。
ミストバーンは力任せに地面を蹴って、空高く舞い上がった。
避けきれなかった光弾の一部が、ミストバーンの足のつま先を消し飛ばす。

「逃がしゃしねえよッ!」

即座に逃げを打ったミストバーンを、フレイザードの弾丸爆花散が追尾する。

(これは避けきれんッ)

圧倒的なパワーと無敵の防御力を誇っているため目立たないが、この姿になったミストバーンの機動性はあまり高くない。
これは『凍れる時間の秘法』によって封印されているバーンの肉体を、憑依しているミストが無理矢理に動かしていることによる弊害だった。
本来動かないはずのものを動かしているために、複雑な動作をしようとすると、どうしても動きがぎこちなくなってしまう。

(……大魔王様のお言葉はすべてに優先する……)

大魔王バーンの最盛期の肉体を守護する。それがミストに課せられた最大の使命である以上、ここで退くことは許されない。
我が身かわいさに大魔王バーンから与えられた責務を放棄することは、ミストの道具としての矜持が許さない。
不可能であることは諦めることを意味しない。ミストバーンは不退転の覚悟を持って、フレイザードの最終闘法を迎撃する。

「フェニックスウィング!」

左右交互に繰り出される不死鳥の羽ばたきが、殺到する光の洪水を弾き返し、吹き散らした。
しかしそれでも、意志を持つ拡散追尾メドローアとも言うべきフレイザードの弾丸爆花散を凌ぎきることは叶わない。

(もう少しだ、もう少しだけ持ってくれよオレの身体!)

掌圧によって攻撃の軌道をそらされることは最初から織り込み済みだ。
フレイザードは掌圧に防がれた弾丸を誘導し、巧みに再配置することでミストバーン包囲網を完成させる。
弧を描いた弾丸が、光の檻となってミストバーンを押しつぶす。上下左右正面背後。どう動こうと逃れようのない全方位からの一斉攻撃だ。

「フェニックスウィングッ!」

もしもこの場で大魔王バーンの肉体を捨てたなら、不定形の存在であるミスト本体だけであれば生き延びることも可能だったかもしれない。
しかしその道は選べなかった。バーン様から預かっている大切な肉体を破棄すれば、ミストは自らの存在意義を自分で否定することになる。

「ウオオオオオオッッ!!」

ミストバーンは雄叫びを上げて、愚直なまでに迎撃を繰り返すが、その程度の抵抗では焼け石に水だった。
鮮血が飛び散るわけではない。苦悶の声が漏れるわけでもない。
ただ、消滅エネルギーの光に貫かれた無敵の肉体が、次々と削られて消滅していく。

数十発もの光弾をその身に浴びて、ズタズタに引き裂かれてしまったミストバーンの頭上に光が集まった。
消滅エネルギー生命体としてのフレイザードの最後の力が、光り輝く巨大な槍を形作る。

「バーン様、申し訳ありませ――」

死に際にミストバーンの口から発せられたのは、やはり大魔王バーンへの謝罪の言葉だった。
降ってくる光の鉄槌に蒸発させられて、ミストバーンの無敵の肉体とそこに宿っていた精神体は、光の彼方へと消え去った。

「こ、こっちに来るなあっ! 吾輩を巻き込むんじゃないっ!」

ミストバーンを消し去った光の槍の射線上。運悪くその場所にいたマキシマムが悲鳴を上げる。
元々はミストバーンを狙っていた攻撃の流れ弾に過ぎない。動きが鈍重なマキシマムとはいえ、逃げられるだけの時間的な余裕は充分にあった。

「ぎゃああああっ!」

本人が腰を抜かして座り込んでさえいなければ。


***


ハドラーとバーンの魔王軍頂上決戦は、フレイザードの助力とキルバーンの後押しを受けたハドラー陣営の勝利で幕を下ろした。
爆発で中枢部を破壊され、機能を失った大魔宮バーンパレスは、ゆっくりと上昇を続けている。やがては宇宙の彼方へと去り行く運命だろう。

「皆よくやってくれた。オレはお前たちを誇りに思う」
「もったいないお言葉です」
「ブローム!」

アルビナスとブロックはハドラーの魔力によって修復されていた。すでに外観だけは元通りだ。

「けど、フレイザード先輩が死んじまった……」

もう会えなくなってしまった戦死者の存在を悼み、ヒムは悲しみの表情で項垂れる。
さっと視線を交わしたシグマとアルビナスは微かに笑みを浮かべると、ヒムのいる方向に軽く頭を下げた。

「ご助力に感謝致します。フレイザード殿の力添えがなければ我々は全滅していたでしょう」
「そうですね。フレイザード殿のおかげで助かりました。私たちだけではミストバーンには歯が立ちませんでしたので」
「おうよ! お前ら、もっと褒めるがいい! なにせオレ様の活躍なしに勝利はなかったんだからなぁ、ぎゃははははっ!」

ヒムの耳元から声がした。なにやら高笑いして調子に乗っているのは、間違いなくあの人の声である。
思わぬ展開にギョッとしたヒムは、目を見開いて自分の右側にそーっと視線を向ける。
手のひらサイズに縮んだ小さなフレイザードが、いつのまにやらヒムの肩に乗っていた。

「先輩っ!? あんたミストバーンと相打ちになって死んだんじゃあっ!?」
「馬鹿かお前。オレが本体である核《コア》まで使って特攻するわけねーだろうが。直前に核《コア》と最低限の身体だけは切り離しておいたんだよ」
「きったねえっ! 騙しやがったな!」
「あんまり心配してくれるんでついな。本気で死んだと思ってた、間抜け野郎には良い教訓になっただろ」
「……良かった。本当に良かった」
「あん? 泣いてやがるのか?」

フレイザードの生還を喜ぶヒムの両目からは、嬉し涙が流れていた。
まさか泣かれるとは思っていなかったフレイザードは、どうしたものかとアタフタした挙句、ヒムに詫びを入れるハメになる。

(ミストバーンとは決着をつけられたし、可愛い弟分たちもできた。悪くねえ、悪くねぇな)

ミストバーンへの復讐劇を終えたことで、フレイザードの精神は過去の呪縛から解放され、新たな未来へ向かって歩き出すだろう。
大魔王バーンを倒す戦いに一役買い、魔王軍最強の力を持つミストバーンを打ち倒したことは、まさに不朽不滅の大手柄だ。
そしてなによりも、共に死線を潜り抜けた仲間たちに温かく迎え入れられたことで、フレイザードの心はかつてない幸福に満たされていた。


戦後処理と今後の方針について話し合うのは、ハドラーとアルビナスの役割だった。

「どうやら、あのダニは逃げだしたようですね。戦いの最中にも一度も姿を見せませんでした」
「ザボエラのことなら捨て置いて構わん。大魔王の後ろ盾を失ったのだ、もうオレたちに関わろうとはせんだろう」
「確かにあれは弔い合戦をしようなどとは考えないでしょうが……」

ハドラーはザボエラの生命を奪うことに消極的な様子だが、アルビナスにとってあのダニの生存は不安要素でしかない。
アルビナスは独断でもザボエラを探し出して、始末することを心に決める。

「そういえばハドラー様。あの二人の処分はいかがいたしましょう」
「オレは覇者の剣の修復が済み次第、勇者ダイとの決戦におもむく。死なぬ程度に傷をいやして牢屋へ放り込んでおけ」

バーンに敗れて息も絶え絶えの状態だが、勇者一行の内の二人、ヒュンケルとクロコダインは戦場の片隅で生き残っていた。

「戦いの巻き添えで死んでいてもおかしくはなかった。アバンの使徒たち。まこと悪運の強い連中よな」

ハドラーの口元には笑みが浮かんでいた。
彼は勇者ダイはもちろんのこと、海に落ちたポップやマァムに関しても、その生存を疑ってはいない。

「そのことですがハドラー様。どうか和解をお考えください。もはや勇者たちと戦う必要などありません」
「それはできん。オレは奴らの師匠であるアバンをこの手にかけ、ダイの父親であるバランの死の原因にもなった男だ」

勇者の後継者と元魔王。手に手を取って仲良くするには、積み重ねてきた業が深すぎる。

「オレが死んだらお前たちも生きてはおれん。お前たちにはすまないと思っている」

ハドラー様の望みを果たすためならば命など惜しくはない。
アルビナスを除く親衛騎団たちは、覚悟の面持ちでハドラーに頷いた。

「し、しかし……!!」
「なにも死に急ごうというわけではない。だが、オレにはもう時間が無いのだ。分かってくれ、アルビナス」

復活したフレイザードは、ハドラーと親衛騎団たちのやりとりを眺めているうちに、バルジ島でのミストバーンとの戦いのことを思い出していた。
自分を救うために命を投げ出してくれた氷炎魔団の部下たちの懸命な姿と、ハドラーの死を回避するために言葉を尽くすアルビナスの姿が重なって見える。
陽気に踊るのが大好きだったフレイムや、目端の利くブリザードの兄弟は今も元気でやっているだろうか。

「なぁハドラー様よ。勇者の小僧に勝っても負けても、あとの生命はこいつらのために使ってやってくれねぇか?」
「無論そのつもりだ。もっとも、今のオレは全力の戦闘にそう何度も耐えられる身体ではない。勝ったとしても、生命が残っている保証はないがな」
「約束したぜ。それじゃこいつはお守り代わりだ。ハドラー様が持っておいてくれ」

勇者との決着を望む気持ちが痛いほど分かるフレイザードには、戦いに赴くハドラーを止めることはできない。
だが、ハドラーが生還する確率を少しだけなら上げることができる。

「これは、いつぞやの砂時計か?」
「ちょっとしたマジックアイテムだ。あくまで貸すだけだからな。勇者との戦いが終わったら返してくれよ」
「ふっ、生き残って返しに来いという激励か。ありがたく受け取っておこう……!」

フレイザードからの餞別を受け取ったハドラーは、後日、生涯の宿敵である勇者ダイとの決闘に臨むことになる。
因縁の宿敵となったミストバーンを倒すための、フレイザードの長い戦いは終わった。
大魔王バーンとミストバーンの死はあまねく世界に伝えられ、それを成し遂げた者たちの物語は、後世まで語り継がれる伝説となるだろう。

『フレイザードと時の砂時計』(完)


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