「ふざけやがって……あいつら……」
ヘルマンは一人取り残されたロビーで、全身を引き摺りながら部屋へと向かっていた。
階段を上り、更に上へと歩いていく。
小さな個室に辿りつくと、ヘルマンは机の引き出しを開けて綺麗なジェラルミンケースを取り出した。
そして中にあった赤いボタンを押す。
誤作動しないように特殊な金属に覆われた表面を握りつぶし、ボタンを勢いよく繰り返し押し続けた。
「死ね! シネシネシネシネシネシネ死ねぇ!」
ヘルマンは狂ったかのような声で叫びながら押し続けた。
片腕を失いながらも、その狂気は収まることはない。
そんなヘルマンの行動を嘲笑うかのような、淡々とした拍手が部屋に響いた。
拍手に合わせて一人の人影が、部屋の中へと入ってくる。
「……」
ヘルマンはその人影を睨みつけていた。
「さすが弐国の代表だ、期待通りですよ」
その影は胸元から銃を取り出し、ヘルマンへと銃口を向けた。
「……そんなもん向けても意味が無い」
「いつもの貴方ならそうでしょう、今の貴方とは違う」
「このっ」
パンッと乾いた銃声が鳴り響いた。ヘルマンの目には放たれた銃弾が回る方向すら見えている。
だが身体が言うことを利かない、見えていても反応できない。
徐々に弾丸はヘルマンの頭部へと近づき、頭を突き破った。
「対機械義肢者(オートメイル)鉄鋼弾か、あまり意味はないな」
その人影はヘルマンの傍に拳銃を置くと、足早にその場を立ち去った――。