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No.40200の一覧
[0] 罪に堕ちるブルーアイズ 【遊戯王キサラ闇堕ち・読切】[生徒会副長](2014/09/18 00:03)
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[40200] 罪に堕ちるブルーアイズ 【遊戯王キサラ闇堕ち・読切】
Name: 生徒会副長◆df408391 ID:db80b12f
Date: 2014/09/18 00:03
*登場人物はパラドックスとキサラです。
*キサラが闇堕ちします。苦手な人はブラウザバック。
*最後にアンケートがあります。気が向いたら答えてください。
*このSSは、アルカディアとpixivとハーメルンでマルチ投稿しています。
pixivとハーメルンでは続きも書いています。



――――気がつくと、
私は見知らぬ部屋で拘束されていました。

部屋は白と黒のチェック模様。
目が疲れそうです。

他は、四肢に鎖の硬さと冷たさを感じるだけ
なので、乱暴はされていないようですね。

とりあえず記憶を整理しましょうか。


私は、石版の中で眠っていたところ、
ペガサス氏よって魂を4つに分けられ、
それぞれがデュエルモンスターズのカードとして生まれ変わりました。

私という一枚のカードは、紆余曲折を経て、
セト様の手に渡って――――。

『4枚目はデッキに入らないからなぁ!!』

――――っ……!

そう、だ……。
私は、セト様の心の闇を祓うことがかなわず、
セト様に、破り捨てられて……。

「気がついたようだな?」
「!?」

回想に集中していて気がつきませんでした……。
いつの間にか、私の目の前に、部屋と同じ模様の仮面を被った男が立っていました。
元々長身なようですが、その影はマントのせいでより一層大きく見えます。

「まずは自己紹介しておこうか」

男が仮面を外すと、その下には――整った彫りの深い顔立ちと、青い装飾をあしらった金髪がありました。

「私の名はパラドックス。
時空を越え、最善の歴史を捜し求める者。
歴史上のあらゆる可能性を検証し、
それを実行する。
君を蘇生したのも私だ。」
「最善の歴史……?」

ずいぶん飛躍した話ですね。
私と何の関係があるんでしょうか?

「何故私を人間の姿で拘束しているんですか?」
「君とはぜひ、面と向かって話をしたかったのだよ。
青眼の白龍――いや、その姿なら、
人としての名で呼んだほうが良いかな?」
「――ブルーアイズで結構です。過去の名はもう必要ありません」

転生したセト様が、
私のかつての名を――
『キサラ』を覚えているはずもありません。
セト様に呼んでもらえない名前など
何の意味もないのです。

「ふむ。では青眼の白龍。
君に折り入って頼みがあるのだが……。」
「お断りします」

十中八九、ロクな話ではありません。
先に断ってしまっていいでしょう。

「命の恩人に向かって、
ひどい言い草じゃないか」
「私はあそこで死ぬはずだったんです。
利用するために与えられた命に恩など感じていません。
セト様以外の方に、力など貸しませんよ!」
「――それが、たとえ海馬瀬人のためになることでも、か?」
「えっ……?」

……そういうことなら、
聞くだけ聞いてみましょうか。
聞いてから断っても遅くはありません。

「君に、デュエルモンスターズを滅ぼす
手伝いをしてほしい」

……やっぱり、ロクでもない内容でしたね。
つい溜め息が出てしまいます。

「わけがわかりませんよ。それがセト様のためになるはずがないでしょう!」

セト様はデュエルモンスターズが好きなのです。それを奪うことがセト様のためになるだなんて考えられません。
そう言い返すと、今度はパラドックスのほうが溜め息をつきました。

「では聞くが……。セトのためになるとしたら、
君は私の手伝いをしてくれるのかね?
幾千万のデュエルモンスターズたちを
無に帰す手伝いをしてくれるというのだね?」
「そ、それは……」

私は、セト様に仇なす者を、
セト様を脅かす闇を滅ぼす力になるために
その身を精霊に、
デュエルモンスターズに変えました。

そのためなら、善いものも悪いものも
隔てなく滅ぼしてしまっていいの……?
そもそも、善いものと悪いものの区別なんて
いったい何処に……。

私が苦悩する姿を、パラドックスは不敵な笑みを浮かべながら眺めていました。

「くくく……。これこそ人間の矛盾。
一見正しいように見える選択が間違っていて、
間違っているように見える選択こそが正しい。
見せてやろうではないか。
正しいように見える選択が招いた、
間違った未来を!」

すると、パラドックスの右後方で
映像が流れ始めました。

「あれは……セト様?」

白衣を着た――蟹?みたいな髪型の男性と、
白いマントを纏ったセト様が
握手を交わしています。
その向こうでは、何やら白い機械に
取り付けられたリングが、
虹色に光りながら回転しています。

「そう遠くない未来の話だ。
海馬コーポレーションは、デュエルからエネルギーを得て動く夢の永久機関、モーメントを完成させる。」
「それは、良いことでは――」

ないのですか、と言いかけた私は、
パラドックスの言葉を思い出しました。

「一見正しいように見える選択……?」
「その通り。だがそれは!大いなる間違い!!」

映像が一度ノイズで乱れた後、
再びモーメントを映し出します。
今度は白く光っていますね。
――あれ?さっきと回転の方向が
逆になってませんか……?

「モーメントの動きは、人の心を映す鏡だ。
モーメントによって無限の力を得た人類は、
欲望と誘惑に捕らわれた……。
その結果、モーメントは逆回転を始め――」

映像が切り替わり、次に映し出されたのはビル群でした。そして幾つかのビルから光が立ち上って――。

「愚かな人類を巻き添えに、自爆したのだ!
これは、紛れもなく、デュエルモンスターズが
背負い、清算しなければならない罪だ!」

映像はまだ続いている……。
閃光に呑まれ、蒸発する子ども。
爆発による地割れに、落ちていく夫婦。

これが、デュエルモンスターズの、私の、
セト様の罪だというの……?

「し、信じませんよ、私は!こんなものはデタラメです!何の証拠もありはしない!」

そうです!
そもそも『最善の歴史を捜し求める者』という
肩書きからして怪しいんです!
馬鹿馬鹿しい!信じてたまるもんですか!

「ふむ……。君たちにとっては不確定な未来、
その可能性を示されても君の心は動じないか」
「ええ!そうですとも!」
「ならば過去の話をさせてもらおうか。
私が時空を超えて旅をしている証拠にもなる。
――――君は、過去と同じ過ちを、
繰り返すつもりか?」
「何の……ことですか」

この人、いったい何を言って――?

「君とデュエルモンスターズの精霊は、過去にも
滅びと災いを招いたことがあるではないか!
五千年前……古代エジプトの王国に!
心当たりはないか、キサラ!」

なっ……。
私のかつての名と時代を言い当てた……。
この人は、私とセト様の過去を知っている……!

「私とセト様の出会いが、間違いだったというのですか!」
「ああそうだとも!わからないか!?
君があの地に現れなければ、アクナディンとセトが
ファラオに背くようなことはなかった!
ファラオと、闇の大神官と、セトを巡る、
あの痛ましい戦争は起こらなかったのだ!!」
「なっ……!?」

そんな……!
そんな、はずは……。
私の力は、あの戦いの中で、
セト様のお役に立つものであったはず……。

「君が宿す『白き龍』の力は、アクナディンに、
『息子のセトを王にする』という野望を抱かせるのに
十分だった!
セトが君に捧げた愛情が、セトがファラオに捧げた忠誠を
上回った!
君の力がアクナディンを闇の大神官に変え、
君の愛がセトを逆臣に変えたのだよ!!
キサラ!これでもまだ!
君は自分の罪から目を背けるのか!?」
「私……。わたしっ……は……」

私は、自分に精霊が宿っていると気づいた時、
その事実をとても喜んだ。

これで、セト様のお力になれると。
あの日のご恩を返す時が来たのだと。

でもセト様に、本当に力なんて必要だったの?
私がセト様と再会しなければ、
そもそも力が必要になる戦いなんて起こらなかった?

――私とセト様の再会は……間違いだった?

重い……。考えれば考えるほど、負の感情がこみ上げて、頭が、胸が、重くなっていく……。

『我々とは異なる白い肌――!
青い眼を持つ女はこの地に災いをもたらす!!』
『あの女の青い眼と視線合わせたら呪われるんだってー!』

――なんでこんな時に限って、
あの酷い罵声を思い出してしまうんだろう……。

けれど――。
私は――セト様に災いをもたらした……。
私が――セト様の運命に呪いをかけた……。

「うそ……!そんなの嘘よ……!」

首を振る、目頭が熱くなる。
最後の一戦だけは超えまいと、
意地を張ることしか私にはできない……。

セト様……。教えて……。
私はあなたにとって何だったの?
疫病神だったの?
それに気づいたから、破り捨てたの?

セト様……!セト様……!
私には、生きる価値も、場所も……。

『だったら、俺がくれてやる!』

そこでやっと――私は思い出した。
セト様と初めて出会った、
あの日に受け取った言葉を――。


『俺はいつか大物になる!戦争で死んだ父さんの分まで、国と母さんのためにデカい仕事をするんだ!』
『だからその日まで、俺の名前を覚えておけ!
そして、お前に酷いことをする奴に言い返してやれ!』
『私は、セトに救われた、生きる価値のある人間だ、と!
私は、セトから、ここで生きてよいという許しを得ている、と!』
『俺はお前を救ったことを誇りにする!だからお前も、俺に救われたことを誇りに生きろ!』

――ありがとうございます……セト様。
私はもう、挫けない!

「関係、ない……ですよ」
「なに?」

訝しげに眉を釣り上げるパラドックスを、涙を貯めた眼でしっかりと睨みつけます。

「私が生きていること。それがセト様の誇りであり、私の中で揺るぎない唯一の真実!
セト様以外の人が、どれだけ私を傷つけようとも、私は屈しない!だから……」
「だから?」

一息ついて、肺に酸素を供給する。そして私は自信をもって自分の意志を示しました。

「私はあなたの言葉を信じないし、あなたに協力するつもりも、ないッ!!」

その語気に当てられたのか、
パラドックスが一瞬たじろぎました。

――できる……!私はまだ、闘える!

「驚いたよ、キサラ……。
これほどの罪と絶望を耐え切るとは……」
「さあ、もう無駄だとわかったでしょう?
私はセト様を救いに行かなければなりません。
早く解放してください。」
「……仕方がないな」

パラドックスがため息をつきました。
勝った……。私は、勝ったんだ!

「同志は一人でも多くほしかったのだが、やむを得まい。
やはり君も、他のカード同様、私の下僕となってもらおう」

――――え?
動揺を隠せない私の眼前に、パラドックスは自分が最初に被っていた仮面を突き出しました。

「この仮面を身につけた者は、『罪の意識』が増幅される。ただし自殺衝動には駆られない。
そもそも自殺自体、『よりよく生きたい』という願望の裏返しだからな。
やがては『罪の意識』によって自我が壊され、『罪を清算してよりよく生きる』ことしか考えられなくなる。
そんな状態になった君に、私が『罪を清算する道』を示せばどうなると思う?
フフフ……。君は私の下僕になるという訳だ」

邪悪な笑みを浮かべながらも、淡々と恐ろしいことを告げてきました……。

自我が――壊される?
それって、私が私でなくなる、ということ?

「さあ。早速……着けてみようじゃないか……」
「あ、ああ……!」

顔が青ざめていくのがわかる。
逃げたい……怖い……!
でも……耐えなきゃ……!

「わ、私は……何があっても、
絶対に屈しませんからっ!」

震える声で自分の覚悟を示した後、すぐに……。
私の顔に、罪の仮面が被せられました。

「う……うう!?」

い、息苦しい!
仮面を着けただけなのに、水の中にいるかのようさ苦しさを味わいます。目も思わず閉じてしまいました。
息苦しさと共に、激しい耳鳴りによって聴覚も奪われて――。
私の意識は、闇に閉ざされていきました――――。


****


――次に彼女が覚醒した時、何故目覚めたのか分からないほど、大きな疲労を感じた。
頭は何か異物を埋め込まれたように痛く。
関節は動かす気が起こらないほど固い。
全身は床に引かれるように重いのだが、未だ張り付けにされており、寝転ぶことも出来ない。

(私は……仮面を被せられて……)

記憶を引き出したが、その仮面は今ない。
しかも先ほどと風景が違う。汚泥が濁り混じるように、黒と灰色が天地で混沌とした渦を巻いている。実は自分の目はまだ閉じたままなのではないか、という考え方も出来そうだった。

そんな風景に変化が訪れた。
虫が湧くように、黒い泥が床から盛り上がり、やがて3体の人形になった。
その手には、一本ずつ鞭が。やはり粘つくような黒色をしている。

「あぁ……。なるほど」

キサラは来るであろう一撃に身構えた。

次の瞬間、鞭一本がキサラの肩を打ち据える。痛みに加え、鞭に塗られていたらしい漆黒が彼女の白い肌を染める。

「ぐっ……!」

しかし、その程度で彼女は屈しない。第二打、第三打も同じことだった。

「この程度……!」

迫害される身だった頃に、いくらでも耐えてきた。瞳に宿る青き炎で、敵を睨む余裕すらある。
そんなキサラの強さを知ってか知らずか、黒の人形の1体が姿を変えた。
甲冑を纏った漆黒の騎士。変化はそこで終わらず、さらに金の短髪や白銀の鎧などの色を持ったそれは――。

「……父、さん……?」

五千年前、キサラがエジプトに流れ着く前に暮らしていた故郷で、自分を育て、多くを教えてくれた。
そして戦火から自分を逃がすために――その命を捨てた父の姿だった。
その目は、自分を正しく導く、あの澄んだ瞳とは違った。
復讐に燃える、憎悪の眼……。
その眼は、娘を標的に定めていた……。

「きゃあっ!?」

その一撃で、明らかに動揺が見られた。無論本人も自覚している。すぐに立て直しを図る。

「こんな……偽者など……!」

父の姿をしたそれを、必死に敵なのだと自分に言い聞かせる。
しかし……同質の敵が複数現れてはどうか。

「えっ――――?」

黒の人形の2体目が変化する。魅力的な女性のシルエットへと……。
キサラと同じ白い肌、流れるような髪。
似ていて当然である。彼女がキサラを産み……育てたのだから。

「……母、さん……?」

父を、自分を、笑顔で包んでくれた母。髪の色以外は瓜二つの母。だがその笑顔はもう失われたものだ。
父の機転で、自分と共にエジプトまで流浪の旅をしていた母は、盗賊から自分を庇って死んだ。
そして、いまの母は……嫉妬を抱いた眼で、
自分を見下していた。

「うっ……ああああ!!」

肉親2人による拷問。それはキサラの心の鎧を、ゴリゴリと削っていった。

「偽者め!やめろ!やめてぇ!!」

口では抵抗を続け、拷問の事実を偽りとして切り捨てる。しかし、明らかに彼女から余裕が消えていた。いまだに敵を睨むことをやめないのも、雫を落とすまいという理由のほうが大きくなっている。

そして……3体目の人形が、彼女を終焉へと導く使徒となる。
父と母が現れた時点で、予想はしていた。しかし、絶対に現実となってほしくなかった。
その全身は、人の上に立つ者としての、逞しさと知性に満ちている。
あらゆることに全力で臨む、真っ直ぐな青い眼と、その愛しい顔は、どれだけ成長しても、何度転生しても、彼女が忘れることなどありえない……。

「セト、様……」

瞳が絶望で濁っている他は、紛れもなく、キサラが愛するセト、その人だった。
やること自体は他の人形と変わらない。黒く塗られた鞭をゆっくり振り上げる。

「いっ……。いやっ……やめて……!」

それだけで、死神を前にした幼子のように、キサラは怯え、唯一自由な首を振って恐れをなす。
否、いっそ死神のほうがマシだった。死ねば終わる。しかも一度きりなのだから。
いかに強靭・無敵・最強を誇る『白き龍』『青眼の白龍』といえど、その心は1人の男を恋い慕う乙女。たとえ叶わずとも、彼の隣にいる自分を夢想していた。だからこそ……たとえ幻想でも……。
その一撃に、彼女の心は耐えられなかった。

「うっ――ああああああ――!!」

一際大きな悲鳴が空気を裂く。絶望の一滴が地に墜ちた。
間髪入れずに、彼女の父と母と愛しき男が、キサラを責め立てる。

「やめて!やめて下さい!もうダメなの!もう無理ぃ!無理ぃ!もう壊れる!こわえるうう――!!」

ついに拒絶も、敵への命令ではなく嘆願の域に入っていく。どうすればこの地獄が終わるのか……その答えの一端を、とうとう彼女は口にした。

「ごめんなさい!許して下さいいいい!!」

滝のような涙を流してそう叫ぶと、不意に父と母とセトは止まった。

「ぐすっ……ぐすっ……えっ……?」

本当に終わるとは期待していなかったので、キサラは呆然とした。呆然としていた彼女の意識を呼び戻したのは、残念なことに鋭い鞭と粘つく汚泥だった。

「うぁっ……!くぅっ……!」

だが、彼女は法則を見いだした。条件反射に足をかけた。その足を止めるだけの強さは、もう彼女に残っていなかった。

「ごっ……ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

するとやはり、自らの罪を認める言葉によって、責め苦は止む。条件反射が完成した。

「ごめんなさい!ごめんなさい!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな……うっ……ああああ!!」

だが、そう単純なものでもなかった。同じ台詞を吐き続ける大根役者に、慈悲は与えられなかった。台詞一回の効力は段々減っていき、最後には『ごめんなさい』など通用しなくなった。
ならばと、『申し訳ありません』を試してみる。やっと止まってくれた。しかし、繰り返す内にやはり『ごめんなさい』の二の舞になった。
そして、キサラはとうとう悟ってしまった。

「ごめん、なさい……」

黒い鞭の嵐に呑まれながら、彼女は言葉を紡いでいく。

「私なんかの為に戦わせてしまってごめんなさい。
私なんかを守るために死なせてしまってごめんなさい……。
私なんかが、あなたと出会ってしまってごめんなさい……。
私なんかが……生まれてきて、ごめんなさい……!」

彼女は、その生涯と存在を罪深きものと認めた。
断罪の鞭は止まった。
……もっとも、それは一時の慈悲に過ぎないだろうと、彼女は分かっていたが。

「ああ……」

再び償いの時間がやってくる。そしてそれは永遠に終わらないのだろう。

物を壊した罪は、修繕によって償える。
物を盗んだ罪は、返還によって償える。

しかし、
生まれてきた罪は、
生きてきた罪は、死んでも償えない。
償っても償い切れない罪を背負い、永遠に罰を受け続けること。いま下されたその審判により、キサラの心は絶望の奈落に墜ちた。

(だれか…………たす、けて…………)

かつて彼女を救った者は、断罪者になっている。故に、キサラを救う者など、もういなかった。
――ただ1人を除いて。

『キサラよ、あらためて問おう。
己が罪を清算したいか?
その為なら、命と魂を私に捧げる覚悟はあるか?』

姿こそ見えないが……この声の主は、この状況を作った張本人、パラドックスだった。もっとも、キサラにとってそんなことはどうでもよかった。

「――…………ます」
『んっ?なんと言ったかね?』

蜘蛛の糸が垂れてきたのだ。たとえ登った先で蜘蛛に喰われようと、道具として使い捨てられようと――この地獄からの逃げ道という甘味料の、幸福の前には、あまりに些細な問題だった。

「ささげますっ!身も心も誇りも命も強さも魂も未来もぉ!全部全部全部全部全部ささげますっ!だからお救いください!無意味で無価値で罪深くて愚かで醜い私をぉ!償いの道に導いてくださいいいいいいいい!!」

絶望の底の底まで叩き落とされ、其処で希望の釣り針を見せられた。その大きすぎる落差により、キサラは完全に狂い、壊れてしまった。もはやそれは最強の龍にあらず、犬畜生である。餌を前にした犬のように、浅ましい嘆願を繰り返す。

その様に満足したパラドックスは、新たなる下僕に褒美を与えた。

『くくく……。よかろう。では出始めに、お前の身と心を作り替える。抵抗するなよ?』
「は、はい……!」

歓喜に震える声。それを確かめた後、彼女にへばりついていた汚泥が動き出した。
汚泥が、黒が、闇が……鞭によって傷ついた肌から、彼女の中へと染み込んでいく。血管の何本かが黒く脈打ちながら浮かび上がった。
常人ならおぞましさを感じるであろう光景。しかし、狂人と化してしまった彼女が感じていたのは――。

「んっ……くぅ……。きもちいい……。きもちいいですぅ……。あはぁ……。しわわせぇ……」

――快楽だった。湯船に浸かったように恍惚とした表情を浮かべながら、身体と精神が侵食される感触に酔いしれる。

(あぁ……終わっちゃうぅ……。
変わっちゃうぅ……。
狂っちゃうぅ……わたしぃ……)

最後に残った一欠片の理性がそんなことに気づくが、もう遅い。
同時に、かつて本当に夢見ていた幸福が頭に浮かぶが、それも遅すぎた。

セトと共に国を守る白き龍となった自分――。
若きファラオを支える妃となった自分――。
瀬人を勝利に導く最強の龍となった自分――。
若き社長の右腕として活躍する妻となった自分――。

(なんて……きれいなの……)

この幻想が現実になれば、2人にはきっと幸せすぎる日々が訪れるだろう。一瞬、彼女の心が揺れる。しかし、所詮幻想は幻想。絵に描かれた食卓は、目の前の飴に勝てなかった。

(ごめんなさい……セト様……。
こんな夢を見た私が馬鹿だったんです……。
罪深い私には、こんな夢を見る資格はない……。
叶いもしない夢を追うよりも、
私は、自分の罪を清算したいんです。
償いを果たしたいんです……。)

彼女はもう――身も心も誇りも命も強さも魂も未来も……全てを捨てたのだ。

(あぁ……それでも……)

それでもなお、彼女に残されたもの。それが、彼女の、キサラとしての、最後の言葉となった。

「あ、い……して……います…………。
セ、ト……さ……まぁ…………。」

彼女の全てが、黒く塗りつぶされて終わった――。


**


――――気がつくと、キサラは白と黒のチェック模様の部屋に戻っていた。

「気分はどうかね?キサラ……」

パラドックスに声をかけられて、意識が覚醒。顔を上げてパラドックスを見つめる。

先ほどまで蒼く澄んでいた瞳は、泥の混じったように黒く濁っていた。目元には涙の跡のように黒い刺青が刻まれている。そこに、あの気高く清らかな少女はいない。

「くる、しい……。かな、しい……です……。
パラドックス、さまぁ……」

一呼吸ごとに息が詰まりそうになる。心臓の鼓動を感じるたびに、罪深い自分が生きていていいのかという不安に駆られる。
救いがほしい。そのためなら、何だってできる。

「それは、君が自分の罪の重さに耐えられないからだ。
さあ、行こうキサラ。君の罪の清算に……。
デュエルモンスターズを滅ぼす戦いに……」

コクンと、何の躊躇いもなくキサラは頷いた。

「わかり、ました……。パラドックス、さまぁ……。
でも……お願いが……ひとつだけ……」

パラドックスの眉が動いた。まだ自我を残しているのかと警戒したが……それは杞憂だった。

「セト、を……死なせて……あげたいん、です……」
「それは――なぜかね?」
「生きるってね……。とっても罪深くて……苦しくて……悲しいことなんです……。だから……終わらせてあげたいんです……。私の、愛している、セトを……救いたいんです……」

焦点の合わない、虚ろな目をしながらも、キサラははっきりと自分の愛を語った。

「おねがい……しま、す……」

それに対してパラドックスは――。

「ククク……。ハハハハハ!!」

いかにも愉快な様子で笑い、彼女を称えた。

「面白い!すばらしいな、キサラ!
これほど穢れ!これほど己を見失いながら!
歪ませつつもセトへの愛だけは守り抜いたか!
――いいだろう。その願いを聞き届けよう。
どうせデュエルモンスターズが滅べば海馬瀬人も無事では済まないのだが……。私の大いなる計画が遂行された後、改めて殺しにいくとしよう!」
「あり、がとう……ござい、ます……」
「ではそろそろ……私のデッキに入ってもらうとしよう」

パラドックスは、2枚の白紙のカードを彼女の前にかざす。
光が迸る。キサラはそれを、ただ呆然と眺めていた。

「ククク……。とうとう手に入れたぞ!
『Sin 青眼の白龍』と、『青眼の白龍』をな!」

光が止むと、キサラの姿は消えていた。代わりに、
“4枚の”カードがパラドックスの手に収まっている。

「――おや?」

彼は、『Sin 青眼の白龍』と『青眼の白龍』の
2枚のカードを手に入れたつもりだった。しかし、2枚予想外のカードが増えている。

1つは、愛するもの全てを守り抜く守護龍。
その名を――『蒼眼の銀龍』。
1つは、白き龍を操り、若きファラオを支える妃。
その名を――『青き眼の乙女』。

キサラが闇に堕ちる、その最後の瞬間に見た夢が実体化したカードだった。
パラドックスはそのカードを――デッキの外、服のポケットに仕舞い込んだ。

「捨てるには惜しいが……。
これをキサラに見せる訳にはいかん。一旦保留だな」

――こうして、パラドックスは『Sin 青眼の白龍』
を手に入れた。
こうやって戦力を増やし、
その力を以って、ペガサス・J・クロフォードを抹殺し、デュエルモンスターズを歴史から消し去る。
あらゆる時代を行き来するのは忙しいが、未来には変えられない。

「さあ……私の大いなる計画の完遂は、間近だ!」

パラドックスは、その部屋から黒い炎のようにぼやけて消えた。
時空を超えた、未来を賭けた戦いが、
始まろうとしていた……。





アンケート
この物語の続き・派生があるとしたら、読みたいのはどれですか?
①闇堕ちしたキサラVS海馬瀬人のデュエル
(現在苦戦しつつ執筆中)
②闇堕ちの過程にエロいエピソードを挿入
(このSSのR-18化)
③キサラ以外のキャラを闇堕ち
(スタダとか。たぶん一番キツイ)


検索用→キサラ、パラドックス、セト×キサ、セトキサ
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