「空を飛ぶ夢」は万能を表す人類共通の夢だと言われている。
……違う。
ジオイド面に垂直なその力は、距離の自乗に反比例する力である。
……そうじゃなくて。
ああ、解った。現実逃避はやめよう。いい加減認めようじゃないか。
俺は今、地面に向かって真っ逆様に落下している。
THE OUTLAW-SUMMONER:0 ゼリー・ダイバー
「――落ち着いてる場合じゃないっつーの!? てか此処どこだよそして目の前のアレは何だよぐにょぐにょうねうね動いてるしキモいわ粘液水溜りッ! しかも毒々しさMAXなカラフル具合は正直どうよと思う訳だがそれはともかくへるぷみーと俺はまず叫びたい故大声で叫ばせてもらうぜHELP ME!!!」
うむ。我ながら見事な混乱振り。
いや、正直な所このまま突っ込んだらマヂ死ぬよ、俺?
人間ってのはそれほど頑丈に出来てないんだ。
体感で10mくらい落下でおまけに顔面から突っ込むとなるとまず首がヤバい。後頭蓋もピンチ。
しかも下は石造りでしかも階段状になってるし。あの角に突っ込んだら額もぱっくり、脳髄さんこんにちは。
まああの青いのか黒いのがクッションになってくれれば――って言うかそこのお嬢さん、そのいかにも
『マズッ、私思いっきりやっちゃいました』的な表情でこっち見てないで助けてくれないかと。
そっちの着物のお嬢さんでも構いませんがねッ!!
「はーっはっはーっ!! なーんて大丈夫さだって俺主人公だし? こんな所で死ぬはずないさうんそうだ夢見る力が僕にはあるから空だって飛べるんだよHallelujah! 俺は飛べッ」
愚舎利ッ!!
うん、DED ENDだ。
* * *
……うるさいな。漢字で『五月蝿い』って書いてしまうくらいうるさい。
人が折角良い気分で寝てるんだから、口喧嘩も説教も他所でやって欲しいものだ。
いや、怒鳴るな。つーか少し黙れ。
「――だから、あたしは――」
「――そもそもキミが――」
いや、君等の事情はどうでも良いから。寝かせろ俺を。
「――――、――――」
「―――、――――――」
……一遍シメたろかこいつら。
まだ囀るか。成る程、俺の意思など関係ないと。
――あー、我慢の限界かも。
「――だぁぁぁぁぁぁっ!! 寝てる人間のすぐ傍で怒鳴るなバカップル!!」
「あ、起きた」
「!? そうか、無事だったのか」
いや、君等マイペース過ぎだから。
……ってーか、
「何処だよ、此処」
えーと、ベッドに石壁、窓枠は木製。アラジンに出てくるようなポット型のランプに火が灯り、
壁際にマンガで出てくるような魔法陣っぽい図案のタペストリーが掛かってる。
目の前にいるのはゆったりとした(と言うよりも重そうな)布製の――ローブ? みたいな物に身を包んだ
黒髪眼鏡の野郎と白地に赤やら紺やらで装飾がついたショートの女の子。
……あー。どういう状況だ、マヂで。
コスプレ会場の控え室、な訳ないよなぁ……。
「あは、あはははっ……。その、怒らないで聞いてくれる?」
女の子の方が口を開く。ちょっと引き気味に。
いや、そんなに怯えなくても。俺は基本的には温厚かつ善良な芸風ですよ?
時と場合にもよるけどな。
「ぢ、ぢつは――」
やたらとどもってた女の子が、眼鏡に促されてぽつりぽつりと事情を話し始める。
……ふーん。リィンバウムに四つの世界に名も無き世界。召喚術に誤召喚に暴走にサモナイト石の崩壊ね。
要約すると『手違いで呼び出しちゃったけど元の場所に戻せなくなっちゃいました。てへ』って所か。
ライトなファンタジーなら割とお約束だね、そう言うの。
ほーほー。へー。
「良し、寝よう」
「寝るなぁぁぁぁぁっ!!」
いや、どうしろって言うんだ。