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No.4010の一覧
[0] 中身がおっさんな武(R15)[つぇ](2008/09/16 21:28)
[1] 第1話 おっさんの価値[つぇ](2008/12/15 02:42)
[2] 第2話 おっさんの想い[つぇ](2008/10/01 01:04)
[3] 第3話 鉄壁のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:04)
[4] 第4話 多忙なるおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[5] 第5話 無敵のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[6] 第6話 おっさんと教官と恋愛原子核[つぇ](2008/12/10 01:17)
[7] 第7話 おっさんは閻魔大王[つぇ](2008/10/01 01:05)
[8] 第8話 おっさんの卒業式と入学式[つぇ](2008/10/01 01:05)
[9] 第9話 おっさん中毒[つぇ](2008/10/01 01:05)
[10] 第10話 おっさんの苦悩[つぇ](2008/10/01 01:05)
[11] 第11話 はじめてのおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[12] 第12話 おっさんは嫌われもの[つぇ](2008/09/25 03:18)
[13] 第13話 暴露のおっさん[つぇ](2008/09/19 02:02)
[14] 第14話 地獄のおっさん[つぇ](2008/12/05 22:21)
[15] 第15話 おっさんの空しさ[つぇ](2008/10/27 01:51)
[16] 第16話 スパルタン・おっさん[つぇ](2008/12/27 01:44)
[17] 第17話 おっさんとおっさん[つぇ](2008/09/29 01:06)
[18] 第18話 おっさんの真意[つぇ](2008/09/29 01:06)
[19] 第19話 苦肉のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[20] 第20話 おっさんへの反乱[つぇ](2008/10/03 02:35)
[21] 第21話 おっさんの覚悟[つぇ](2008/12/27 01:44)
[22] 第22話 おっさんと将軍[つぇ](2008/10/24 02:06)
[23] 第23話 おっさん、逃げる[つぇ](2008/12/27 01:44)
[24] 第24話 おっさんの戦い[つぇ](2008/10/13 01:49)
[25] 第25話 夜明けのおっさん[つぇ](2008/10/13 01:49)
[26] 第26話 おっさんのカウンセリング[つぇ](2008/12/27 01:44)
[27] 第27話 おっさん、解禁[つぇ](2008/12/27 01:45)
[28] 第28話 おっさんの原点[つぇ](2008/11/15 03:09)
[29] 第29話 おっさんVersion2.0[つぇ](2008/10/27 01:52)
[30] 第30話 おっさんの謁見[つぇ](2008/10/27 01:52)
[31] 第31話 空のおっさん[つぇ](2008/10/30 01:31)
[32] 第32話 おっさんの悲願[つぇ](2008/12/05 22:21)
[33] 第33話 おっさんのイメージ[つぇ](2008/12/05 22:21)
[34] 第34話 おっさんの誤解[つぇ](2008/11/08 02:03)
[35] 第35話 おっさんの別れ[つぇ](2008/11/11 01:00)
[36] 第36話 おっさんとアラスカ[つぇ](2008/11/11 01:01)
[37] 第37話 おっさんの帰姦[つぇ](2008/11/19 00:38)
[38] 第38話 おっさんの誕生日プレゼント[つぇ](2008/12/10 01:18)
[39] 第39話 おっさんの再会[つぇ](2008/12/27 01:46)
[40] 第40話 おっさんの誤解~日本編~[つぇ](2008/12/10 01:18)
[41] 第41話 噂のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:43)
[42] 第42話 おっさんへの届け物[つぇ](2008/12/15 02:43)
[43] 第43話 おっさんの恋愛[つぇ](2008/12/27 01:45)
[44] 第44話 おっさんのシナリオ[つぇ](2008/12/27 01:47)
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[4010] 第38話 おっさんの誕生日プレゼント
Name: つぇ◆8db1726c ID:a1045c0b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/10 01:18
【第38話 おっさんの誕生日プレゼント】

<< ユウヤ・ブリッジス >>

12月16日 午前 国連軍アラスカ基地 PX

オレは今、頬杖を突いて、4人の女性の“勉強”姿を眺めている。
たぶん、オレは、つまらなさそうな顔をしているはずだ。

「ワタシノナマエハ、すてら・ぶれーめるデス。ヨロシクオネガイシマス」
「ワタシノナマエハ、くりすかデス。ヨロシクオネゲイシメス」
「クリスカ。『ヨロシクオネガイシマス』だ」

クリスカの発音が変だったので、指摘を入れる。

「そ、そうか……日本語は、発音が難しいな」

その隣では、タリサとイーニァが会話している。

「フツツカモノデスガ、スエナガク、オネガイシマス」
「いーにぁハたけるヲアイシテマス」
「そんな言葉は、もっと基本を覚えてからにしろ」

まあ、言うまでもないだろうが、この4人は、いつかの訪日のために、日本語を勉強中だ。
白銀中佐が帰国した日から、勉強会を空き時間に行う事になり、今日で3日目。

本来は、篁中尉が教師役のはずだが、さきほど呼び出しを受けたので、不幸にも、そこそこ日本語が話せるオレに、代役として白羽の矢が立ったのだ。

日本語は、父親を尊敬していた頃、母から教わったし、自分でも勉強した時期があった。
それが、こんな時に生きるとは、皮肉なものだ。

「ん~。日本語って難しいなぁ。ケンジョウゴにソンケイゴにテイネイゴ。文字だって、カンジ、ヒラガナ、カタカナ……先が見えねェ」

タリサが少し凹んだ。
まあ、気持ちはわかる。

「日本語は、世界でも覚えにくい言語の上位だろうな。さしあたり、文字はヒラガナ、会話は単語を覚えれば、結構通じるだろう」
「そうか!」

陰鬱な空気から一転して、ぱぁっと顔を明るくさせたタリサだった。
実際はそんなに簡単なものではないし、オレとて、日本人と日本語で会話した事など、篁中尉とのデートもどきの時、おふざけでしたくらいだが、タリサの陰気を呼び戻すのもなんなので、黙っておいた。

それに、タリサの物覚えは意外と良いので、訪日までには結構使えるようになっているかもしれない。
いや、他の3人も、3日目にしてだいぶ単語を覚えている。
おそるべきは、恋の一念だろう。

「そんなにムキになって覚えなくてもいいンじゃねーか?中佐は英語が堪能だったし、翻訳ならヘッドセットつけりゃいいだろ」

茶々を入れたヴァレリオだったが、アイツの気持ちもわかる。
最初は、互いに疎遠だった女性連中が、仲良く勉強している姿が新鮮で微笑ましかったが、3日目になると飽きてくる。
ヴィンセントも、メカニック連中と云々、という言い訳で、あまり寄らなくなってしまった。

「バーカ、あっちに永住するかもしれねーだろ。今からやっといて損はねーの」

そのタリサの言に、ステラは軽く頷いて肯定の意を示した。
ふたりとも、大人しく“現地妻”に甘んじるつもりは無いらしい。

イーニァは無邪気に勉強しているようだが、根本は同じだろう。
クリスカは、「イーニァの付添いだ!」と吐き捨てるが、その割には一番熱心に見える。
だいたい、顔を赤くして言っても説得力がないのだが。

ヴァレリオは反論するでもなく、タリサの言を繰り返しただけだった。

「永住、ねぇ。──おっ、お姫様がお戻りだぜ」

後半の言葉に、全員が入口の方を振り向き、篁中尉の姿を確認した。
呼び出しの用件は、意外と早く終わったようだ。
彼女は、軽い足取りでこちらに近づくと、笑みを浮かべた。

「諸君、朗報だ」

そして、その口から呼び出しの内容が語られた。
それは、横浜基地の白銀中佐からの通信で、本人が転属を望むなら、あちらから招聘要請を行うとのことだった。

ヤリ捨てするような男じゃないとは思ってはいたが、こうも早く手筈を整えるとは。
それに、同じ国連軍のステラとタリサはわかるが、ソ連軍のふたりにまで影響できるとは、さすがは世界レベルの有名人。

「ただし、相当な激戦区に放りこまれる事は覚悟するように、と念を押された。時期はもう少し後になるそうだから、数日以内に去就を定めておくように、と仰っていた。どうする?」

さらに、一旦あちらに転属すれば、他の部隊に異動できるとは、考えない方が良いと付け加えた。
それほど、機密性が高い部隊に配属される、ということだ。

本来ならば、軍人としての将来を決める大事な判断なはずだが、女性連中は歯牙にも留めなかった。

「考えるまでもねェ。行くに決まってる!」
「同じく」
「クリスカ、いくよね?」
「……イーニァがそう言うなら、仕方ないわね」

クリスカの台詞だけ聞いていると、しぶしぶという風だが、顔が赤いのは今更で、誰も突っ込まなかった。

「よ~し!さっそく転属手続きしようぜ!」

タリサが飛び出ようとした。
まだ招聘されてもないのに、それは気が早すぎるだろうに。

「待ちなさい。急いで手続きしたって、転属日が早くなるわけじゃないわ」

さすがはステラ。冷静──

「それに、もう書類はあるわ。はい、タリサのぶん」
「おお、さすがステラ!」

そういって、懐から各用紙を取り出し、タリサに渡した。
タリサはすぐにペンで必要事項を書きだしたが、ステラはそれを微笑ましく見るだけ。
その手元を見ると、彼女自身の分は、すでに記入済みだった。

思わずヴァレリオと顔を合わせ、苦笑いを交わした。

「なんにせよ、この集まりも、見られなくと思うと、寂しくなるなぁ」
「そうだな……」

ヴァレリオとオレのつぶやきに、篁中尉の意外な言葉がかけられた。

「ジアコーザ少尉と、ブリッジス少尉も、希望するなら招聘するそうだが?」

ヴァレリオは少し考えた後、自らの意向を示した。

「篁中尉以外のヤマトナデシコに興味はあるけど、俺は遠慮しとくよ。日本に行ったら、白銀中佐の引き立て役にしか、なれそうにないしな」

オレも、同感だ。
これは男としての直感だが、白銀中佐は、無意識に、他の男を道化に落とす才能がある。

また、ヴァレリオは言わなかったが、彼はいずれ、イタリアの地に帰りたいと思っているだろう。
その理由を言わなかったのは、同じく祖国を失ったステラとタリサの、望郷の念を呼び起させないため。
さりげない、ヴァレリオの気遣いだろう。

「ユウヤはどうするんだ?」
「オレは、国へ帰るさ。元々、XFJ計画のために出向していたんだからな」

タリサの問いには、キッパリと返した。
国に戻ることは、篁中尉が白銀中佐と付き合っている事を思い知らされたとき、決めていた。

中佐が誘ってくれるということは、オレたち全員の腕も買ってくれたからだろう。
彼は、私的な感情だけで配属を決めるような、甘い男ではない。
その誘いは嬉しかったし、彼の元で働くのも勉強になりそうだが、日本に居れば、白銀中佐と篁中尉の仲睦まじい姿を見る事もあるだろう。
我ながら女々しいとは思うが、一緒に行けばいつまでも後ろを見てしまいそうだ。
だから、オレはヴィンセントとともに、合衆国に帰る。

「へぇ……ユウヤ、米国に戻るんだ?」

そう微笑んだステラの目は、笑っていなかった。
刺すようなプレッシャー。

──大丈夫。帰っても、『あの事』は、他言しない!

オレの内心の誓いが聞こえたのか、プレッシャーが無くなった。
本当に、恐ろしい女だ。

「タカムラ、うらやましいの?」
「あ、ああ……少し、な」

イーニァが篁中尉に訊ねたが、彼女は厭味で言ったわけではない。
中尉もそれがわかっているから、苦笑で留めたようだ。

昨日まで、帰国が決定していた篁中尉を羨んでいた4人だが、逆に彼女から羨まれる立場となった。
篁中尉は同じ日本国内に戻るとはいえ、所属組織が違うから、そうそう会えはしないだろう。
対して、他の4人は、中佐と同じ部隊に配属されるそうだから、羨むのも当然だ。

だが、わざわざ念を押して付け加える位だから、激戦区というのは嘘ではないはず。
極東の最前線たる日本にある、佐渡島ハイヴ。そこに突入することもあり得る。

「お前ら……死ぬなよ」

オレの真剣なつぶやきには、全員、微笑みで返してくれた。



…………………………



<< 榊千鶴 >>

12月16日 午前 国連軍横浜基地 シミュレーターデッキ

ヴァルキリーズ全員でのハイヴ突入想定訓練が終了し、隊長たる白銀中佐から、評価が下されている。

「──それと、新任はS11の起動タイミングが早いな。設置、起動はもっと効率的にしろ」
「はい!」×5

訓練兵時代なら罵倒と暴力が襲ってくる所だったが、これが正規兵としての扱いらしい。
あの不名誉な“TACネーム”で呼ばれなくなったのはありがたいけど、うかつな事をしでかすと、厳しい怒声が飛ぶのは同じだった。
ただ、恋人でもそれ以外でも、平等に怒鳴るので、その点はさすがというべきか。

「ハイヴ演習とS11についてはカリキュラム外だったから無理もないが、数日中には慣れておけ。──ああ、鎧衣は上出来だ。初めてで、この中で一番上手くやるとは思わなかった」
「はい、ありがとうございます!」

頬を上気させて喜ぶ鎧衣。
訓練兵のころ、その劣等感から、中佐を殴りかかった──それも、中佐の差し金らしいけど──事もあったが、その技能が活かせる状況になった。
確かに、あの時中佐が言った通り、ハイヴ内での鎧衣の危機察知能力は頼りになり、工作系の技術も活きている。

──逆に、私の指揮って活かせなくなったのよね。

当然ながら、この部隊には私よりも優れた指揮官が、少なくとも5人いる。
白銀中佐、伊隅大尉、神宮司大尉、速瀬中尉、宗像中尉。それに、茜も指揮官適正は高い。

特に、白銀中佐の指揮力の高さは、クーデターの時に実感した事だけれど、今日の訓練で、再度、思い知らされた。
一番前で一番忙しく戦っているのに、しっかりこっちのミスを見つけるほど、ひとりひとりをよく見ている。
軽口を叩く余裕もあり、同じ年だというのに、彼との差は、何十年もの開きがあるように思えた。

その中佐は、私の能力を中隊長レベルと評価してくれたけど、私に指揮役が回ってくるときは、あの人達が“いなくなる”時だ。
もちろん、そんな時はずっと来ない方が良いのだけれど、自分の特徴が失われたように感じて、以前の鎧衣の気持ちがわかった。

気持ちが沈みそうになったとき、白銀中佐から名指しで指摘があった。

「榊。隊長ではなくなったからといって、手を抜くな。小隊長でなくても、進言は出来るだろう。新任だからと言って遠慮してはならん。それは、他の者も同様だ」
「は、はい」

内心を見透かしたような、もっともな指摘。
こういう所が、一番かなわないなと思う。

「俺は午後から特殊任務がある。後は伊隅に任せてあるから、しっかりやっておけ」
「はい!」×14
「では、解散」



…………………………



12月16日 昼 国連軍横浜基地 PX

昼食は、だいたいヴァルキリーズ全員で採るのが、慣習だ。
昨日は、中佐の恋人8人が、“諸事情”でこれなかったので、15人が揃って採るのは初めてとなる。

私たち新任にとっては、中佐と食事を採る事自体が初めてだ。
幾分、緊張はあるけれど、今日の訓練を見る限り、そう堅苦しいことにはならないだろう。

実は、先任も、中佐と食事を採るのは今日が初めてと聞いて、なんとなく予想はしてたけれど……『メンバー』間で牽制が始まり、誰も着席しない。
もちろん、中佐がどこに座るのかを見計らっているのだろう。

「中佐、ここどうぞ~!」

と、築地が緊迫した空気を読まずに、あっさり抜け駆け。
牽制し合っていたメンバーは、一斉に苦い顔をしたものの、涼宮中尉だけは、静かに素早く移動して、築地の席の二つ隣にさっさと座り、残りのメンバーを、さらに苦い顔にさせた。抜け目が無い。

「おう、すまんな。じゃ、いただこう」

渦中の中佐は、緊迫した空気くらい気付いただろうに、そう言ってさっさと着席して、合成クジラの竜田揚げにかぶりついた。
立っていた面々も、それを見て頭を切り換え、席に着き、食事を始めた。
中佐は何も言っていないのに、統率のとれた事だ。

しかし、あれだけ散々いちゃいちゃしてるのに、隣で食事するだけの事に、大げさすぎる。
まあ、いちゃいちゃと言っても、彼女たちの惚気話だけだから、実情は知らないが。
私的な時間は相当甘く、中佐にも可愛い所や年相応に見える時があるとの事だが、全く想像がつかない。

食事をしながら、ふと、非メンバーの6人──伊隅大尉、宗像中尉と、元207B──を、ざっと見まわす。

──やっぱり、皆、白銀中佐に気があるのよね。

昨日の顔合わせの時の、妙な状況を一晩考えたけれど、それ以外に説明がつかない。
伊隅大尉、宗像中尉、御剣、彩峰の4人はそう意外でもなかったけど、鎧衣と珠瀬までとは。
珠瀬はやや微妙な所だけれど、やはり孤独感はある。

──わたしひとり、か。……本当、この人のどこが良いんだろう?

顔はまあ、ちょっとチョップ君に似てるけど、二枚目な方。
茜の言っていた、顔や性格や能力云々についても、わからなくはない。

しかし、あれほど大勢の女性に、平然と手を出せるというのは、何度考えても、信じられない感覚だ。
さらに、アラスカ出張の間に6人追加となったらしく、ますます呆れた。
もし、私以外が全員落ちたとしたら……22人!?

──何考えてんの、まったく。王様にでもなったつもりかしら。

ふと、中佐と目線が合いそうになり、ばつが悪くてあわてて目線をそらした。
私の白けた目線に、気付いていなければ良いのだけれど。

そこへ、伊隅大尉が発言した。

「ところで、部隊の呼称は、いつまで伊隅ヴァルキリーズなのですか?」

確かに中佐は、訓練の時「この伊隅ヴァルキリーズは──」と言っていたから、私も気になった。
中佐は、租借したものを嚥下し、答えた。

「ん~?変える予定はない。正式にはA-01だし、呼び慣れてるから伊隅ヴァルキリーズでいいじゃないか。隊規も変えないし」
「ですが、それは……」

大尉は戸惑っている。
隊長でもないのに、部隊に名前が残るのは憚られるだろう。

「抵抗があるなら、ヴァルキリーズだけにするか?」
「は、そうしていただけると」

伊隅大尉がほっとした所で、宗像中尉が皮肉な笑みをうかべて、軽口を口にした。

「いっそ、白銀ラヴァーズとか、白銀ハーレムではいかがですか?」
「はは、もし全員そうなったら、呼称をそれに変えようか」

──冗談じゃないわよ……!

中佐の発言が冗談だということはわかったけれど、思わず怒りで顔が湯だち、憤慨しそうになった。
ただ、私ひとりを残して、全員そうなるのだろうな、という気持ちもあった。

そして、食事も大方終えた時、ふと気付いた。

いつもは、メンバーの面々が、猥談に興じていたはずだけれど、この昼食時間、それが無かった。
休憩の時も、白銀中佐が居るときは控えていた。
まあ、中佐のシモネタ発言に対してのやりとりはあったが、いつもの内容に比べれば、お子様レベルの内容だ。

不審に思ったけれど、理由はすぐに想像でき、納得できた。
好きな男の前で、赤裸々にシモネタを話すのは、女として抵抗があるからだろう。
いつもは私の苦言に、「猥談くらいで引いていると、他部隊に笑われる」と言っていたくせに、いざ男の前となると、これかと呆れてしまった。

とはいえ、あの、非メンバーにとっての疎外感が無くなるのだから、白銀中佐がいるという事は、思った以上にありがたいかもしれない。



…………………………



<< 香月夕呼 >>

12月16日 午後 国連軍横浜基地 実験室

「──移植率100%。これで、起動するはず」

そう言いながら、わずかな緊張とともに、量子電導脳へ接続されたケーブルを外し、00ユニット──鑑純夏の頭髪を整えてやる。

この場には、私と社と白銀の3人。
社は、少し不安気。対して、白銀は真剣な顔つきで、じっと鑑の顔をみつめていた。
その心中は、どのようなものだろうか。

この瞬間、鑑は生物学的に死んだ事になる。
一度経験した事とはいえ、大事な幼馴染がそのような状態になったというのに、悲し気な様子はない。

──っと、また見過ぎた。

無意識に白銀を見つめていたため、胸がざわついた。
昨晩の“夜伽”で、かなり発散できたため、やや薄れたものの、うさん臭い神々しさは、未だに健在だ。
どうも白銀・弐型(本人がそう呼べとの事だ)は、前よりやりづらくなった。

私とまりもの様子から判断すると、あの鬱陶しいフェロモンも、慣れればある程度平気にはなるようだ。
さすがに、昨日の状態が続けば、仕事にならないし、A-01のメンバーも戦えないだろう。
作戦までには、全員、慣れて貰わなければ困る。

「純夏さんが、起きます」

社の報告で、思考を戻す。

鑑は、まぶたをゆっくり開きはじめていた。
その目に光はなく、虚ろで何の感情も顕れていないが、モニターで状態を確認して、自然と頬が緩んだ。

──やったわ……!

私は喜びを抑えられなかった。
成功はほとんど保証されていたようなものとはいえ、念願の瞬間だ。
とうとう、長年の悲願である、00ユニットが完成したのだ。
数式を手に入れてからこの方、焦れる思いだった。

「純夏……」

白銀は鑑に呼びかけ、顔を包みこむように、彼女の頬にそっと掌を添えた。
その顔は、とてもはかなくも、優しい微笑み。
正直、鑑と変わりたいと思った。

「あ……うう……」
「へぇ……」

鑑の反応で、私は感嘆の声を上げた
目覚めたばかりで記憶が混乱して、状況も定かではなかろうに、もう反応するとは。
さすがは、世界を超えた運命の間柄。

「副司令。あとは、俺が」

そう言ってこっちを向いた白銀は、まさに“男”の表情で、思わずゾクゾクしたのを抑えつけた。
昨日抱かれてなければ、ここで押し倒すところだ。
最近では呆れる事ばかりの白銀だけれど、こうして時々、私をとろけさせる。

「ええ、よろしく。状態は常時モニターしてるけど、いいわね?」
「もちろん。──ですが、悶々としても今日は我慢してくださいよ」
「ばーか。さっさと連れて行きなさい」

ヤれば安定する、と聞いた時は馬鹿馬鹿しく思ったが、今考えてみれば、あんな虚ろな状態の女を抱いた所で、興奮する男はいないだろう。
よほど強い愛情がなくては、とてもできない事だ。

まったく、忌々しくも──愛しい男だ。



…………………………



<< おっさん >>

12月16日 夕方 国連軍横浜基地 おっさんの巣

通信で夕呼を呼び出し、ストレッチャーを持ってくるよう頼んだ。
すやすやと眠った純夏の隣に腰掛け、思いをはせる。

──こういう状態の女を抱くのも、なかなか乙なモノだったな。

いわゆるマグロ状態の純夏だったが、これはこれで興奮した。
なんとなく、睡眠薬で前後不覚にした女を、勝手に抱いているような感じがして、俺のS精神が刺激された。
愛情を込めて丁寧に愛撫して、ゆっくり優しく抱いたものの、興奮を抑えるのが大変だった。



そして、頃合いを見て、俺が取り出したのが、手作りのサンタうさぎ。──っぽい、木製のディルドー。



この日のために、木片から、コツコツとナイフとヤスリで作り上げたのだ。
“前の”世界でも一度作ったから、2回目とあって、結構奇麗に作れた。渾身の一作だ。

サイズは自分のを見ながら作ったから、結構大きいが、ちゃんとほぐしたので問題ない。
また、前回の反省を生かし、耳は柄の部分にした。
なにしろ、片方の耳が曲がっているから、前回は引っかかって、かなり痛そうだったのだ。
それでも、「これがいいの」と、“死ぬ”ときまで大事に使っていた純夏は健気だったが、ユニット停止の一因になった事は確かだろう。

今回は、ちゃんと入れる事を想定して作ったから、効果はバッチリだった。
本当は誰かで試用して、出来を確かめたかったが、これは純夏のためのプレゼント。後でアイツに知れたら、不機嫌になるから、ぶっつけ本番は仕方がなかった。
まあ、結果オーライという事で良いだろう。

そして、サンタうさぎに記憶が刺激され、徐々に反応をするようになった純夏は、最後には“生まれて”初めての絶頂を経験し、精神に負荷がかかってODLが劣化し、スリープモードに入った。

これから、夕呼や霞がODLの交換をしてくれる。
“前の”世界と同じなら、明日には、“いつもの”純夏と会えるだろう。
眠る寸前、純夏はこっちを認識して、「タケルちゃん……」と呟いて微笑んでいたから、九分九厘大丈夫だ。

時計を見ると、まだ余裕があった。
今晩は、夜通しヤるつもりだったが、“前の”世界よりも純夏の反応が早かったのは、俺のパワーアップによるものかもしれない。

その時、ノックの音がしてすぐ、「入るわよ」と、こちらの返事を待たず、扉が開いた。
もちろん、夕呼だ。

霞とともに、ストレッチャーを転がして入室した夕呼は、まっ先に純夏を見て、感心そうに口を開いた。

「あらまあ、すやすやと幸せそうに。状態も見てたけど、本当にヤるだけで安定させるとはね」
「ヤるだけとは人聞きの悪い。愛情を注入したと言ってください」
「はいはい。……まったく、こんな状態の女に興奮するとはね。アンタの鬼畜度を見誤ってたわ」

宣言した通りにやっただけなのに、なぜか忌々しそうに言われてしまった。

「何か、お気に障ることでも?」
「いーえ。見直して損しただけよ。……いつまで素っ裸でおっ立ててるのよ。さっさと服着なさい」

見慣れた状態のはずだが、そこは乙女心というやつだろう。
どの道、今の夕呼は、不機嫌だか上機嫌かよくわからないので、逆らわない方がいい。

しかし、夕呼の言った通り、純夏相手では本気も出せなかったので、不完全燃焼でいきり立っている。
ここは、誰かに──

「白銀さん、私が……」

そう言って、年に似合わぬ色っぽい顔をして、霞がふらふらと近付いてきた。

「社は駄目よ。これからメンテナンスなんだから、他をあたりなさい。女はいくらでもいるでしょう?──ああ、ピアティフも駄目だからね」

リーディングも無いはずなのに、俺たちの意図を悟った夕呼にぴしゃりと止められて、霞は不満そうに俺を──俺の股間を見つめていた。

「わかりました。俺も今日は──」

──今日?今日って、他に何かあったような。…………あ!

「では、純夏はお願いします」

そう言って、そそくさと服を着直し、俺は急ぎ足で外に出た。
霞は俺の思考を読んで、少し呆れたような、寂しそうな目で、こっちを見ていた。



…………………………



<< 御剣冥夜 >>

12月16日 夜 国連軍横浜基地 グラウンド

「精が出るな」
「中佐……!」

夜の走り込みをしている所、白銀中佐から声をかけられた。
慌てて敬礼する。

思わぬ会合が嬉しかったが、私は今、汗をかいてしまっている。
背中に風を感じたので、急いで風下に回った。

「どうした?」
「い、いえ──足元に何かいたようですが、勘違いでした」
「そうか」

臭い女と思われるくらいなら、変な女と思われたほうがマシだ。

だが、風下に回ったことで、以前に神宮司大尉の部屋で感じた精臭が、私の鼻をついた。
午後は特殊任務との事だったが、それが終わって、どなたかとまぐわったのであろうか。
寂しさを感じたが、それは今更の事だ。

「して、何か御用でしょうか」

──何を言っているのだ。私は……。

言った瞬間、後悔した。
用がなくとも、言葉を交わせばよいというのに。
だが、中佐は、私がすげなく言ってしまった事には気にしたふうもなく、答えてくださった。

「特に用はないが、ひとこと言いたくてな。今日は貴様の誕生日だったな。おめでとう」

想像外の言葉に、私はあっけにとられそうになったが、どうにか答えを返した。

「ありがとうございます。御存じでいらしたとは思いませなんだ」
「経歴を見た時、俺と同じ生年月日だったからな。記憶に残ってたんだ」

──同じ日?

「お互い、これでめでたく18というわけだ」
「左様でしたか。18と仰っていたので、とうに過ぎているものかと思っておりました」
「四捨五入だ。いちいち『もうすぐ18』『今年で18』とかも変だろ。それに17だとお前らより1個下みたいだ」
「ふふ、然り」

この方と、同じ年月日に生まれた事に、運命的な物を感じた私は、ずうずうしいであろうか。
と思った時、白銀中佐はふ、と笑みを浮かべて私を焦らせた。

「俺たち、運命的な関係なのかもしれないな」
「お、お戯れを……」

もしかしたら、私は、口説かれているのであろうか。であれば、このような汗を掻いている時でなくとも良いのに。夕食後に歯は磨いたから、口臭は大丈夫だと思う。最初は優しくしてくださるそうだが、場合によっては激しいというから、そっちの覚悟も──

「なあ、御剣──」
「はい!」

思考が暴走したところを中佐に遮られ、返事の声が裏返った。
羞恥を感じた私をよそに、中佐はまじめな顔で私に問うた。

「お前、護りたいもの、あるか?」

頭を切り替え、私も真剣に答える。

「は……。月並みではありますが、この星……この国の民……そして日本という国です」
「……うん。お前らしい、良い願いだ」

かみしめるように、私の答えを評してくれた。
心が浮き立つのを抑え、私も中佐に訊ね返した。

「中佐には、おありでしょうか」
「ああ、あるぞ」

「お聞きしてよろしいでしょうか」
「地球と……全人類だ」

──なんと、すばらしい……。

月明りに照らされた中佐は、神秘的な神々しさに溢れていた。
そして私は、この英雄を前に、彼に寵愛されたいという低俗な心を恥じた。

この方は、言葉だけではなく、それを実践している。
私の頼りない想いとは、比べるべくもない。

そして、その後、いくつかの言葉を交わした後、中佐は戻られてしまった。
わざわざ私に言葉をかける為に、かような時間に来てくださったのはありがたいが、一抹の寂しさを覚えた。

──やはり、私は、……あの方をあきらめられぬ。

昨日の顔合わせで、痛感したのだ。私は、白銀中佐を愛している──と。

20人近くも他に女性がいようと、それは私の想いを損なうものではなかった。──仕方のない人だ、と思うが。
彩峰なども、中佐が、他に相手がいることがわかった時から悩んでいたようだが、随分すっきりした顔をしていた。
あれは、私と同じく覚悟を決めたのであろう。

大胆な所がある彩峰の事だから、そのうち自ら中佐に言い寄ってもおかしくはない。

──だが、私は……。



…………………………



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12月16日 夜 国連軍横浜基地 おっさんの巣

──ちょっと意地悪したかなぁ?

だが、反省はしていない。

恋人の中で優劣をつけているわけではないが、やはり冥夜は特別な存在。
アイツとは、じっくりと歯が浮くような恋愛を楽しんでから、お付き合いをしたい。
よって、フラグを立てまくる事にしたが、純夏の事で、誕生日イベントを発生させようと思っていた事を忘れていて、慌ててグラウンドに出たのだ。

誕生日の夜に、意味ありげな会話。
これで冥夜タンもメロメロって寸法だ。

“元の”世界ならともかく、“この”世界では、自分から俺に言い寄ってくるような奴じゃない。
お願いされるのも悪くないが、やはり女は自分から落とすものだ。
それが、あと一押しで落ちる状態であったとしても。

残るは、冥夜を含めて7人。皆、俺の愛を受けるべき女たち。
誰から落としたものか……今日の昼食の様子からすると、委員長もいいな。

目が合ったら、照れて視線を反らしていた。
それに、「全員がハーレムになったら」という仮定も、顔を赤くして照れていた。

そういえば、“前の”世界で、「武になら、初めての時は無理やりされたかったな」と、よく呟いていたのを思い出した。
冗談めかしてはいたが、アレはマジだった。その願いをかなえてあげるのも良いかもしれない。
ただ、あれは散々やりまくり、ドMに目覚めた後の感想だから、今、それを鵜呑みにしてやってしまうと、背後から刺される可能性がある。
委員長は、今更言うまでもなく、超が付くほどのドMだが、まだその萌芽はない。慎重に、かつ大胆に事にあたる必要がある。

さて、まだ夜も更けたばかり。
冥夜と話して、俺のマグナムは滾るばかりだ。
こういう時は、最後にやってから一番時間が経った女の所に行くのが常道だが、昨日は一斉にやったからなぁ。

──そうだ。水月と遙で、豚ごっこしなきゃ。

道具を買った事で満足して、大事な目的を忘れてどうする。手段と目的がごっちゃになっていた。

せっかく買った鼻フックや道具は、帰ってから使っていない。
昨日は犯されるがままで、出しようがなかったのだ。

道具といえば、『左近』がなくて良かったかもしれない。
あれば、多恵あたりが間違いなく俺に突っ込んでいただろう。

そこで、ある考えがひらめいた。

──アイツ……まさか、これを予期して、自らユーコン川に……?

投げ入れたのは間違いなくブリッジスの暴挙だが、何かと俺を守ってくれた左近だ。
その神通力で、ブリッジスに投げ入れさせたのかもしれない。──いや、きっとそうに違いない。

──何も、ユーコンで眠らなくてもいいのに……不器用な奴だ……。

瞼が熱くなったので、上を向いて涙があふれるのを堪えた。

──左近。今日のプレイはお前に捧げよう。

そして俺は、遙と水月と一緒に遊ぼうと、道具を抱えて部屋を出たが、少し歩いたところで出くわしたのは──






榊……千鶴。






どうやらこれが、今年の俺への誕生日プレゼントらしい。


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