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No.4010の一覧
[0] 中身がおっさんな武(R15)[つぇ](2008/09/16 21:28)
[1] 第1話 おっさんの価値[つぇ](2008/12/15 02:42)
[2] 第2話 おっさんの想い[つぇ](2008/10/01 01:04)
[3] 第3話 鉄壁のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:04)
[4] 第4話 多忙なるおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[5] 第5話 無敵のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:42)
[6] 第6話 おっさんと教官と恋愛原子核[つぇ](2008/12/10 01:17)
[7] 第7話 おっさんは閻魔大王[つぇ](2008/10/01 01:05)
[8] 第8話 おっさんの卒業式と入学式[つぇ](2008/10/01 01:05)
[9] 第9話 おっさん中毒[つぇ](2008/10/01 01:05)
[10] 第10話 おっさんの苦悩[つぇ](2008/10/01 01:05)
[11] 第11話 はじめてのおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[12] 第12話 おっさんは嫌われもの[つぇ](2008/09/25 03:18)
[13] 第13話 暴露のおっさん[つぇ](2008/09/19 02:02)
[14] 第14話 地獄のおっさん[つぇ](2008/12/05 22:21)
[15] 第15話 おっさんの空しさ[つぇ](2008/10/27 01:51)
[16] 第16話 スパルタン・おっさん[つぇ](2008/12/27 01:44)
[17] 第17話 おっさんとおっさん[つぇ](2008/09/29 01:06)
[18] 第18話 おっさんの真意[つぇ](2008/09/29 01:06)
[19] 第19話 苦肉のおっさん[つぇ](2008/10/01 01:06)
[20] 第20話 おっさんへの反乱[つぇ](2008/10/03 02:35)
[21] 第21話 おっさんの覚悟[つぇ](2008/12/27 01:44)
[22] 第22話 おっさんと将軍[つぇ](2008/10/24 02:06)
[23] 第23話 おっさん、逃げる[つぇ](2008/12/27 01:44)
[24] 第24話 おっさんの戦い[つぇ](2008/10/13 01:49)
[25] 第25話 夜明けのおっさん[つぇ](2008/10/13 01:49)
[26] 第26話 おっさんのカウンセリング[つぇ](2008/12/27 01:44)
[27] 第27話 おっさん、解禁[つぇ](2008/12/27 01:45)
[28] 第28話 おっさんの原点[つぇ](2008/11/15 03:09)
[29] 第29話 おっさんVersion2.0[つぇ](2008/10/27 01:52)
[30] 第30話 おっさんの謁見[つぇ](2008/10/27 01:52)
[31] 第31話 空のおっさん[つぇ](2008/10/30 01:31)
[32] 第32話 おっさんの悲願[つぇ](2008/12/05 22:21)
[33] 第33話 おっさんのイメージ[つぇ](2008/12/05 22:21)
[34] 第34話 おっさんの誤解[つぇ](2008/11/08 02:03)
[35] 第35話 おっさんの別れ[つぇ](2008/11/11 01:00)
[36] 第36話 おっさんとアラスカ[つぇ](2008/11/11 01:01)
[37] 第37話 おっさんの帰姦[つぇ](2008/11/19 00:38)
[38] 第38話 おっさんの誕生日プレゼント[つぇ](2008/12/10 01:18)
[39] 第39話 おっさんの再会[つぇ](2008/12/27 01:46)
[40] 第40話 おっさんの誤解~日本編~[つぇ](2008/12/10 01:18)
[41] 第41話 噂のおっさん[つぇ](2008/12/15 02:43)
[42] 第42話 おっさんへの届け物[つぇ](2008/12/15 02:43)
[43] 第43話 おっさんの恋愛[つぇ](2008/12/27 01:45)
[44] 第44話 おっさんのシナリオ[つぇ](2008/12/27 01:47)
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[4010] 第32話 おっさんの悲願
Name: つぇ◆8db1726c ID:a1045c0b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/05 22:21
【第32話 おっさんの悲願】

<< ユウヤ・ブリッジス >>

12月12日 午前 国連軍ユーコン基地 戦術機格納庫

「おい、あれじゃねーか?」

談話中、ヴァレリオが顎で方角を指したので、その方向を追うと、ドゥール中尉と、国連の軍装を着た、見慣れない男女、そして──篁中尉が、こちらに向かって歩いている所だった。

ドーゥル中尉が先導し、国連の男性──こちらが白銀中佐だろう。それに、国連の女性と篁中尉が従っているような形だ。
白銀中佐らしき男と、篁中尉との距離が妙に近いのが気になったが……。

その時、タリサが気の抜けたように言葉を発した。

「あれが?まだガキじゃねーか」
「東洋人は若く見えるからなぁ。でもお前、人の事言えるかよ」
「シッ。聞こえるわよ……」

彼らとの距離が近づいていたので、ステラがヴァレリオを諌めた。
すでに、顔の造詣がわかる距離だ。

タリサが言った通り、確かに、想像よりも若い。
公開プロフィールには顔まで載ってなかったが、軍装を着ていなければ、とても将校には見えない。──その鋭い眼光を除けば、だが。

そのさまは、かつて篁中尉が来た時を彷彿とさせる。
あの時は、中尉を日本人形のようだと、悪く思ったものだが……あの男にも、妙な先入観は持たないほうが良いかもしれない。



…………………………



<< 篁唯依 >>

「白銀武中佐だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします!」×4

国際色豊かなアルゴス小隊の面々を前に、敬礼と答礼を交わし合った後、ドーゥル中尉が隊員の紹介を始めた。

「ご紹介します。彼らが、XFJ計画を担当した、アルゴス試験小隊の衛士たちです」

そして、ユウヤ・ブリッジス、タリサ・マナンダル、ヴァレリオ・ジアコーザ、ステラ・ブレーメルが順番に、名前と出身だけの、簡単な自己紹介をした。

私は、ブリッジス少尉を見ても、以前のように心が波立つ事は無かった。
折を見て、白銀中佐とお付き合いを始めたことを伝えよう。
祝福してもらえる程度には、ブリッジス少尉と親密になったはずだ。

ブリッジス少尉を含め、テストパイロットたちは皆、きちんと背筋を伸ばして、礼儀を守っている。
昨日、神宮司大尉から、白銀中佐は軍紀についてはとても厳しいと聞き、通信でドーゥル中尉に気を付けるようお願いしていた事が、きちんと伝わっているようだ。
最も、あの時は、彼の私生活が、あれほど大らかとは思わなかったが。

私的な時間は、呼び捨てだろうがあだ名だろうが、どんな口調でも咎めない白銀中佐も、職務になると一切その色を見せず、神宮司大尉でも、油断すれば容赦なく拳を振るわれかねないそうだ。
道理で、昨晩の睦み事まで、ふたりの関係に気付かないはずだ。

だが、職務中の白銀中佐も、ただ厳格なだけでない事は、さっきのユーコン基地司令とのやりとりで分かった。

タラップを降り、出迎えの兵士に連れられて、基地司令室へ挨拶に行った際、司令は横浜の情報を聞き出そうと、あれこれ話を振ってきたが、中佐はのらりくらりとかわしてしまい、結局、何も言質を与えなかった。
司令の口ぶりだと、聞きたい事はXM3の事だけでもなかったようだが……それは、私の知るべき事ではないのかもしれない。

何しろ、中佐は“あの”香月博士の腹心だ。恋人にも言えない機密を、山ほど抱えているのは想像に難くない。
今思ってみれば、私をやや強引に挨拶に同行させたのも、ユーコン基地司令の口を制限させるためだったのだろう。

巌谷中佐に対しては真摯に応対したそうだから、相手によっては腹芸もこなせるということだ。
あばたもえくぼ、というやつかもしれないが、自分のこ、こ、恋人──が、このような懐の深い人物である事が、おもはゆく思えた。

また、今朝起きて顔を会わせてみて思ったが、昨晩、中佐に神聖さを感じたのは、やはり私の勘違いではなかった。
特別な行為だったからこその、錯覚だとも思ったのが……。

中佐を見ると、我ながらはしたないというか、なんというか……彼に抱きつきたい衝動にかられる。

さきほど、恥を忍んで、神宮司大尉に小声で相談したところ、大尉も殿下も同じだと聞き、仲間がいることに安心した。
彼女からは、「中佐をあまり見ないことがコツ」と教わったので、その通りにしようとしているが……これが、なかなか難しい。
なにしろ、視界に納めていないと、不安になるのに、見てはならないのだ。二律背反もいいところだ。

ただ、「目は絶対に合わせるな」という絶対条件だけは守っている。
あまりに必死な様子だったので、もし合わせたらどうなるかを聞いたが……“狂う”そうだ。
神宮司大尉と殿下は、幸いにも、すぐにふたりきりになれる状況だったから良いものの、今、狂ってしまったらかなりまずいことになる。
今晩までは、なんとか耐えよう。

自分がこれほど男性に執着するようになるとは、昨日までの私からは想像もつかないだろう。
しかし、今のこの充実感……何物にも代え難い。

「諸君らの成果たる不知火弐型を、我が部隊で使える事を光栄に思う。代表して、礼を言わせてもらおう」

白銀中佐のその言葉で、互いの紹介は終わった。

中佐は、少し雰囲気を弛めて、ブリッジス少尉に話しかけた。
これから、軽く歓談しようというつもりだろう。

「ブリッジス少尉は、名前が日本人のようだが、ハーフなのかな?」

──あ、まずい!



<< 白銀武 >>

唯依とブリッジスは、まだ恋人というには程遠い状態だと聞いたから、今回は、この男といがみ合う理由はない。
俺としては、“前の”世界のわだかまりを捨てて、“この”世界では、日本繋がりで仲良くしようと思っての台詞だ。
唯依とねんごろになるくらいだし、米国軍人には珍しく、日本贔屓と思っていたのだが……相手の反応は予想外だった。

ブリッジスは、眉間に皺を寄せて、明らかに不機嫌そうになり、不審気なまりもを除いて全員、あちゃあ、というように天を仰いだ。
どうやら俺は、ここでは周知の地雷を踏んでしまったようだ。

「ええ、ハーフです。それが、どうかしたんですか?」
「日米の協力の象徴たる不知火弐型を、日米のハーフのブリッジス少尉が担当する。なかなか面白い組み合わせだと思ったのでな。他意は無い」
「そうですか。なら、もういいでしょう」

父親か母親かわからないが、日本人の親に、含む所があるらしい。
余計な言葉で不機嫌にしたのは俺がうかつだったかもしれないが、それをここまで感情に出すこともあるまいに。

俺は、仕方のないやつだ、と思い、鼻で小さく溜息をついたが、それがカンに触ったらしく、ブリッジスは挑むように言葉を続けた。

──ああ、もう、難しい奴だな。

「確かに、オレの血の半分は日本人です。誇りになんて到底思えませんがね」
「そうか」

理由を聞いて欲しそうな口ぶりだったが、面倒だったので相槌を打っただけにした。
正直、男の愚痴など聞きたくないので、会話を打ち切りたかったのだが──自らその理由を口にした。

ブリッジスは、先のクーデターについて言及してきた。
このご時世に、世界中の前線では年端もいかない少年少女の衛士や兵士が命を散らしているというのに、内戦ごっこで貴重な人命や物資を消費するなど、幼稚もいいところだ、と。

「貴様の言いたいことはわかったが、鎮圧したのもまた日本人だ。ひとくくりにしなくてもよかろう」
「クーデターなどが起こる土壌がある事が、問題なんですよ!」

なるほど、一理ある。

俺とて、あの事件の損失を考えると、今でもめまいがしそうになるくらいだ。
その点だけを見れば、俺もブリッジスに賛同したい。

だが、コイツ程度では知る由もないだろうが、クーデター発生の要因には、米国の工作によるものが大きいのだ。
決起軍にしても、米国の影響をなんとかしたいという、憂国の想いがあってのものだ。
亡くなった沙霧や多くの衛士たちも、米国人のコイツにだけは言われたくないだろう。

それに、日本の立場からすれば、米国に対しては、山ほど──というには足らないほど、言いたいことがある。

米国の安保条約の一方的な破棄と、極東戦線から撤退した時の無責任さ。
その理由を、日本の重大な条約違反によるものとした、強引すぎるこじつけ。
そのくせ、極東の覇権への未練。多岐に渡る工作の数々……。

まあ、なんであれ、結局コイツは日本と、そこに住む日本人が嫌いなのだろう。
それでよく唯依と恋仲になれたとは思うが、そのおかげで“この”世界では出会ってだいぶ経つのに、ままごとのような関係なのだろう。
コイツの偏見には、むしろ感謝するべきか。

だが、ブリッジスを論破したところで自説を曲げるとは思えないし、第一、オセロの駒を指して、黒か白か言い合ってるようなものだ。
いちいち口論するのも、それこそコストの無駄だと思ったので、白旗を上げる事にした。

「そう言われれば、返す言葉がないな。少尉の言う通りだ」
「……言いたいことがあるなら、仰ってはどうですか?」

なぜか、コイツは突っかかってきた

──もう、どないせいっちゅーねん。

「ブリッジス、よさんか」
「おい、ユウヤ、やめとけって」

さすがにうんざりしてきたが、ここにきてようやく、ドーゥル中尉と、ジアコーザ少尉が諌めた。
俺から振った話題だったから、今まで口を挟まなかったようだが、ブリッジスが熱くなり過ぎたのを見て、まずいと思ったらしい。

しかし、なぜ初対面なのに、コイツは俺にここまで突っかかって来るのだ。

俺が地雷を踏んだからといっても、悪意が無かったことくらいは、雰囲気でわかるだろう。明らかに行き過ぎだ。
それに、“前の”世界とは違って、まだ唯依との関係はバレて…………あれ?






唯依が、ぴったりと、俺の傍に立っていた。






──これか。

ほとんど触れ合わんばかりの距離で、副官のまりもよりも、近い所にいる。

唯依が平然とした顔でいることから、これが彼女の無意識の癖だという事はすぐ分かった。
“前の”世界でも同じような習性があったが……こんなに早くなるとは。
微笑ましい癖なのだが、今はさすがにまずい。

──そりゃ、ムカつくわなぁ……。

恋人ではなくても、女として意識していた唯依が、俺にぴったりくっついている。
今の時点で、これほど唯依に傾倒しているとは思わなかったが、その点には、同情を感じる。だが──

「言えないんですか?それとも、横浜の英雄様は、オレのような一介の少尉ごときとは口も聞けないんですか?」

それとこれとは話は別だ。ここまで言わせて置いては、俺の沽券に関わる。

さて、と思い、後ろ手に組んでいた腕を解き、右拳を意識した時、





──ブリッジスが吹っ飛んだ。







横から見事な右ストレートを放ったのは、当然ながら俺ではなく、……神宮司まりも。

「出向とはいえ、貴様も国連軍の一員だろうが!上官に対してその態度……その程度で済んだ事を幸せに思え!」

まりものこういう凛々しい怒声を聞くのは、もしかしたら“この”世界では初めてかもしれない。
なにしろ、まりもが主として訓練をする時には俺はおらず、俺が主となった時には、まりもは控えていたのだから。
まあ、それはともかく。

「大尉は優しいな」
「……悪態ひとつで入院というのは、さすがに不憫ですので」

まりもが殴ったのは、俺の剣呑な気配を察したからだろう。
その意図はわかったが、俺としては、入院させるほど殴るつもりはなかった。
というより、まりもの攻撃の方が、俺が打とうとしていたパンチよりよほど強かったんだが……。

あ、まりものこめかみがヒクついている。……俺が嘲られて頭に来たということか。
可愛く思うが、悪態ひとつで脳震盪で失神というのは、さすがにブリッジスが不憫だった。

「白銀中佐。部下が、とんだ失礼を──」

ドーゥル中尉が、そのいかめしいヒゲ面を、申し訳なさそうに下げた。
日本式の謝罪は、こちらに配慮してのものだろう。顔に似合わず細かいことだ。

さっき、目の端でこの男が動いたのが見えた。
この男もブリッジスを殴ろうとしたようだが、まりもに先を越されたせいで、振り上げた拳を開き、頭を掻いて誤魔化したのが、少し笑いを誘った。
気付いたのは俺だけのようだが。

「いや、若い時にはよくある事だ。彼はすでに“修正”を受けた。気にするな」
「はっ……ありがとうございます」

妙な表情をされたが、この中で、最も若い俺が言う台詞じゃなかった事に気付く。
時々、自分が18才の外見という事を忘れてしまうのは、反省点だろう。

それにしても、初顔合わせがこれでは……前途多難なことだ。



…………………………



<< ユウヤ・ブリッジス >>

12月12日 午前 国連軍ユーコン基地 医務室

目を覚ますと、ステラが開口一番、症状を伝えた。

「脳震盪だそうよ」
「そうか……」

「後遺症は、なさそう?」
「少しフラつくが、大丈夫だ」

「そう、良かったわ。……でも、あなたらしくなかったわね。──いえ、まるで、篁中尉がここに来た当初の頃みたいだったわよ」

返す言葉が無かったので、強引だが、別の事を訊ねる。

「他の連中はどうした?」
「白銀中佐は予定通り、弐型の性能チェック。タリサとヴァレリオが、まだお相手してる頃かしらね」

あのふたりを同時に相手、か。
確かに、映像では2機で8機の熟練衛士を相手取り、圧倒的勝利を納めていた。
機体の差はあれ、2機程度なら、丁度良い運動ということか。

──しかし、不意を打たれたとはいえ、女にのされるとはな……。

まだ少し痛みが残る、殴られた頬をさする。

──あの大尉……ジングウジと言ったか。良いパンチしてやがる。

気を失う直前、彼女の言葉は頭に入った。
大人しそうな優しい面持ちの女性だったが、その性格は烈火のようだ。

「白銀中佐に殴られたら、それくらいじゃ済まない所だったらしいわよ。神宮司大尉は、あなたを助けてくれたみたい。──ブラフかどうかわからないけどね」
「そうか……」

そのあたりはどちらでもいい。
オレが恥をさらした事には変わりないのだから。

数分後、医務室のドアが開き、閑静な医務室に、ヴァレリオの騒がしい声が響いた。

「おう!目が覚めたか、若者よ」
「あら、早かったのね。演習、どうだった?」

オレも興味があった事だ。
ステラの問いには、タリサが答えた。

「いやぁ、盛大にやられちまった。手も足も出ねぇ。まるでバッタだ。全然動きが読めねえよ」

タリサの言うバッタの動きとは、映像のアレか。オレはハチのような印象を受けたが、たしかにそういう表現もしっくりくる。
だが、負けず嫌いのタリサが、悔しそうでもなく、感心したように興奮している事が意外だった。

「公開映像の、タイプ94での動きも凄かったが、ありゃ、弐型に乗せたら手がつけられねぇな。XM3があったら、どれだけの動きを見せることやら」

ヴァレリオもタリサと似たようなものだった。
このふたりもテストパイロットになるくらいだから、腕の程も相当優秀で、その自負もある。
それが、こうも嬉しそうに負けた事を話すとは……よほど気持ちよくやられたのだろう。

──白銀中佐の弐型での機動、オレも見たかったな……。

オレは、完成まで、弐型とずっと一身同体でやってきた。
日本製の機体という事に抵抗感はまだあるが、これまで触れた機体の中で最も愛着は強い。
それを、確実にオレより上手く使いこなす男……その事実は、オレの心を、多少落ち込ませた。

──これが、寝取られ感ってやつかな……ハハ。

そう内心で自嘲した時、ステラが再度問いかけた。

「白銀中佐たちは?」
「今頃、弐型で演習場飛び回ってるぜ。タフなこった」

そうヴァレリオが答えたが、実戦演習の直後に、機動性のチェック。
それだけ、実戦演習に余力があったということだろう。

若き英雄の力を見るまでもなく実感させられ、嘆息したところで、タリサが、心配気な顔で声をかけてきた。

「なあ、ユウヤ~。シロガネ中佐は結構話せる人だったぞ。高慢ちきなガキを想像してたけど、全然そんな事無かったし」
「おお、お姫様がぴったりくっついてたから、お前の気持ちもわかるけどよ。別にあのふたりがデキてるわけでもないだろうに。どっちかってーと、お前の方が、大人にあしらわれて、逆ギレしたガキみてぇだったぞ」
「言うな……自分でもわかってる」

ヴァレリオに言われるまでもなく、白銀中佐には、何も落ち度はなかった。勝手にオレがつっかかっただけだ。
理由も、ヴァレリオの言った通りだ。

篁中尉が、まるで寄り添うように立っていたこともそうだが、何を言っても冷静に対応されてしまい、頭に血が昇って、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。

それに、思い起こせば、篁中尉の顔は、男女を匂わせるどころか、終始硬い表情だった。
むしろ、白銀中佐を見ないように避けていたふしさえあった。
たまたま、立ち位置が近かっただけだというのに……自分でも、あれほどオレの心がざわついた事の説明がつかなかった。

「午後のチェックが終わった後、中佐殿を飲みに誘ってるんだ。ユウヤも来いよ。さっさと謝っておけって」
「そうだな。そうするか……」

ヴァレリオの誘いはありがたかった。
オレとしても、中佐に無礼を働いたままというのは気まずい。

少し、頭を冷やそう。



…………………………



<< 涼宮茜 >>

12月12日 昼 国連軍横浜基地 PX

「千鶴~。まだ言ってるの?」
「だって……」

親友のしつこさに、呆れ声が出てしまった。

昨日、険悪になってしまった雰囲気は、お互い様ということで根は残っていなかった。
新任の5人も、私たち先任も、部隊の同僚として、改めて友誼を深めていたというのに、落ちついたところで千鶴が、白銀中佐の“12股”について苦言を弄してきたのだ。

「千鶴の価値観からすれば、受け入れられないのはわかるけどね」

実際、私も──今でも羞恥ものだけど、洗脳疑惑を持った事は確かなのだ。
私よりも堅い倫理観を持つ千鶴なら、当然の反応とも言えるけど──

「なら、どうして……」
「そりゃ、好きだからに決まってるじゃない。何度も言わせないでよ」

と、さっきからこれの繰り返しだ。
千鶴は、どうも私たちが、白銀中佐にたぶらかされているとしか思えないようだ。
当たってる所もあるのだけど、私は自分から志願したと、何度も言っているのに。

どうしたものか困った時、晴子が苦笑を浮かべて助け舟を出してきた。

「まあまあふたりとも。榊もさ、そんなの、私たちにしてみれば今更な事なんだよね。榊に加われって言ってるんじゃないんだから、そんな目くじら立てないでよ」
「加わるわけないでしょ!」

ほんの軽口なのに、千鶴は赤くなって、ムキになって言い返した。

「榊少尉。現実問題として、私たちひとりだけでは、中佐をお相手しきれないの。もし、中佐が一途になったとしたら……三日くらいで“壊れる”かもしれないわね」
「ああ、いえてる。底なしだもんね、中佐」

風間少尉が実際の問題を挙げて諭そうとし、速瀬中尉がそれに同意した。
私も──いや、メンバー全員同意している。
一人占めしたい気持ちはあるけど、中佐が本気モードになった場合、私は三日も耐えられないような気がする。

最近、複数プレイが多くなったのは、一緒に居る時間が増えていいのもあるけど、一対一よりも体が楽だからだ。
中佐が受身の時はいい。
でも、中佐が本気で攻める場合、気持ちはいいし、精神的にも充実するのだけど、……結構後を引くのだ。
それが、連日となると──想像しただけで背筋が震える。

あの人には、12人で丁度いい──というか、もう少し居てくれた方が良いような気がする。
麻倉と高原、早く復帰してくれないかな……。

「そうなると、一緒に行った神宮司大尉、ひとりで大丈夫かなぁ?」
「さすがに中佐も自省するでしょ」
「いやいや、中佐のことだから、今頃2、3人確保してるかもしれませんよ?」

お姉ちゃんと速瀬中尉のやりとりに、晴子が冗談ぽく応じた。
でも、晴子の言葉が単なる冗談にならないのが、中佐の凄いところだ。
アラスカにも美人はいるだろうし、横浜の英雄として訪問する白銀中佐に、色目を使う女性だっているだろう。

この時は、まさかアラスカに着くまでに、2人確保するとまでは誰も想像しておらず、後にその事実を聞いて、予想の遥か斜め上を突き抜ける中佐に、改めて呆れたような関心したような感情を持ったのは別の話だ。

話が逸れたところで、宗像中尉が、赤くなったままの千鶴に、少し真面目に話しかけた。

「なあ、榊。お前の倫理感は正しいと思うが、こと中佐に関しては割り切った方が楽だぞ。それに、祷子が言った問題はともかく、中佐が一途になった場合、何人も失恋する者が出る。不憫とは思わないか?」
「う……」

千鶴が黙りこみ、場の空気が、少し重くなった。

──しようがないなぁ……。

「わかったわよ、千鶴。じゃあ、中佐と別れる」
「ちょ、茜!?」「茜ちゃん!?」

晴子と多恵が驚きの──いや、みんな驚いてしまっている。

──まあまあ、もうちょっと続きがあるのですよ。

「でも、条件があるわ。別れるのは、それ聞いてくれたらね」
「条件って?」
「中佐より頼りになって、私を愛してくれて、格好良くて優しくて強くて頭が良くて面白くて、セックスが上手な男の人紹介して」

その言葉で、みんな──といっても、千鶴と珠瀬と鎧衣と多恵の4人を除いてだけど──、私の意図を理解して笑みを浮かべた。

「そんなの!世の中、いくらでも──」

千鶴は続きを言えなかった。
中佐を嫌ってる千鶴でも、それらの条件を全部、白銀中佐以上に満たす男性なんて、そういない事がわかったらしい。

「茜ちゃん!そんなのいるわけないですよ!」

──いや、そんな本気で突っ込まないでよ。

多恵は、本気で憤慨して、何言ってるの、と言いたげな顔だった。
この子らしいといえば、らしいのだけど、もうちょっと空気読んでよ。

でも……先任と同じ反応をしなかった千鶴と珠瀬と鎧衣は、中佐を嫌っているからで、多恵はよくわかっていなかったからだろうけど、御剣と彩峰が、先任と同じ反応をした、ということは……このふたりは、中佐に隔意はないのだろうか。

「茜ぇ~、良いこと言うわね。そんな男がこの世にいたら、私だって乗り換えるわ」
「でも、他はともかく、白銀中佐よりセックスが上手かどうかなんて、榊少尉には判断できないんじゃない?」

私の疑問をよそに、速瀬中尉が乗ってきたけど、それに続いたお姉ちゃんが、また、天然らしいことを言った。

「そんなの、中佐に一度抱かれてみればわかるじゃない」
「あ、なるほど」

速瀬中尉は、にしし、という表現がぴったり来るように笑い、お姉ちゃんは……本当、天然で笑える。

「よぉーし、榊。この調整係の晴子さんに任せなさい。中佐が戻ったら、一番にセッティングしてあげるから」
「ちょっと!冗談じゃないわよ!」
「えー、晴さん、それずるいです……」

晴子の冗談に、またムキになる千鶴と、相変わらず真に受ける多恵。

なるほど……以前、伊隅大尉が言っていた『あの程度の会話を流せないようでは、良いからかいの的』とはこういう事なのか、と実感できた。
お姉ちゃんと多恵は、ちょっと別枠な感じだけど。

「でもさ、案外、千鶴みたいなタイプが一番いやらしいかもしれないよ?」
「茜!やめてってば!」

結局、その後もムキになった千鶴がからかわれ続けたけど、私の最後の軽口は、案外当たっているような気がした。

──ま、これで千鶴も当分、中佐の“不実”については口を出さないでしょ。

落ちついたところで、私はこの日、何度目になるかも覚えていない事を、また頭に浮かべてしまった。

──白銀中佐、今頃何してるのかなぁ……。



…………………………



<< おっさん >>

12月12日 昼 国連軍ユーコン基地 PX アダルトコーナー

「あはは!うわぁ~い!」

宝の山を前に、俺は思わず、アホな子供のように、歓喜の声を上げていた。

カウンターの担当職員が怪訝な顔でこっちを窺ったので、あわてて口を閉じる。
だが、ニヤける顔が抑えられない。

まりもと唯依は置いて来て良かった。とてもじゃないが、こんな姿は見せられない。

さっそく、陳列棚を物色すると──お、あったあった。まずは、コイツ──鼻フックぅ~!

──ああ、やっと念願が叶った。

天を仰ぎ、大きく安堵の溜息をつく。

なにしろ、このために、ここまで来たといっても過言じゃないのだ。
アラスカ行きを決意してから、なんと、長かったことか。

よし、予備も含めて多めに買っておこう。

そして、ギャグやローターなど、欲しかった道具を次々に買い物カゴに入れた後、俺のお気に入りの大空寺シリーズを探す。

まず、電動式バイブの『撃震』。
こいつは、普通のバイブに比べてトルクがある。また、名前の由来の通り、なかなか頑丈に出来ており、実用本位の外国人にも受けがいい逸品だ。
グリップエンドにある、撃震頭部のフィギュアがイカス。
『左近』があるから、コイツはサブ的な扱いになるだろうが、それでも思い入れのある品だ。
愛おしげに眺めた後、買い物かごに入れる。

こっちは、ローションの『海神』。
中身は普通のローションとそう変わらないのだが、ビンの形が秀逸だ。
水中稼動状態の、あの丸っこい形と同じなのだ。
お土産に人数分買っておこう。

他の大空寺シリーズは、懐かしのハードSMコーナーにあったはず。
必要はないが、見るだけ見てみよう。

そういえば、委員長とデートするときは、新作をあさりに、良くここに連れてこられたっけ。
俺は数度で飽きたが、ここに来るときの委員長の笑顔はとても綺麗だった。

お?これは、鞭の『陽炎』じゃないか。
鞭の先が蜃気楼のようにぶれるという触れ込みだが、ネーミングに無理矢理感があって良い。
『撃震』と同じく、グリップエンドのヘッドに付けられた、陽炎の頭部フィギュアが映える。

隣には、ロウソクの『不知火』。これはそのまんまだな。
普通のSM用の蝋燭なんだが、精巧な彫り物によって、不知火を無理矢理円筒形に詰め込んだような形状になっている。

陽炎と不知火は、“前の”世界では、美琴が買ってきたが、最後はほとんど委員長専用だった。
思い出に買っておこうかとも思ったが、今回はハードSM厳禁だ。
間違って、ハードMの扉が半開きのまりもや、チャレンジャーの多恵に見つかってはまずいので、買うのはやめておこう。

この浣腸セットの『吹雪』は、何が吹雪かよくわからないが、まあなんとなくわからないでもない。
お腹が冷えると腹を下すから、そのあたりからイメージしたのだろう。
注射器の形が、吹雪を無理矢理円筒形に詰め込んだような形状だが、頭部はピストン部分にあるので、最後まで押し込んで初めて、吹雪が完成する。
これは、“前の”世界では、美琴が買ってきた物を一度も使う事なく、そのままダストシュートに放りこんだっけ。
あれほどスカは嫌だと言ったのに、買ってくるんだもんな、アイツ……。

そして、このコーナーで一際目立つのは、三角木馬の『竹御雷』。
しかも“前の”委員長が後生大事に持っていた、赤だ。

大空寺シリーズの中で、これだけ一文字変えているのは、さすがに、日本人としての良心が咎めたのだろう。

これは文字通り、竹製の木馬だが、馬の頭の変わりに、武御雷そっくりの頭部がセットされている。
その精巧さは、まさに、職人芸。
ボディ部も、単なる三角ではなく、武御雷のパーツをあしらった造りになっている。

カラーは、もちろん斯衛の色に準じて用意されているが、紫だけは無い。理由は──名前を一文字変えたのと同じだろう。
委員長は、赤でないとダメだと拘っていたが、何か運命的な縁でも感じたのかもしれない。

だが、この色のおかげで出血に気付かず、翌日の出撃で精彩を欠いたことが、死因の一つとなったのだ。
俺にとっては、この赤の竹御雷は、思い出の品でもあり、委員長の仇でもあり、彼女の形見でもある。複雑な心境だ。

以上の大空寺の職人によるシリーズは、日本では発禁処分を受けてしまった製品で、今回のように輸出品を買うしか、入手手段が無い。
世界中に愛好家もいるのだが、実用本位の外国人に対しては、売れ行きが悪いようで、買うのは大体日本人らしい。
彼らにとっては、SMの道具は、単なる道具。芸術品のような細工がしてあったところで意味がないと考える。
そのあたり、日本人の美的感覚が異常なのかもしれないが。

おっと、大分時間を食ってしまった。そろそろレジに持っていこうか。

しかし、竹御雷は、オブジェとしても秀逸だ。横浜基地の自室に飾りたいところだが……。
いや、やはり、まりもと多恵が危ない。
惜しいが、これは、美しい思い出だけに留めておこう。

そして俺は、レジで支払いを済ませ、このために持ってきた大きなボストンバッグに詰め直し、上機嫌でPXを出た。

──よーし、さっそく今晩、唯依に使ってみるぞ!


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