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No.40096の一覧
[0] ワレワレノシンロニカゲリナシ(艦これ・短編完結)[タカヒロ](2014/06/26 17:41)
[1]    -02[タカヒロ](2014/06/23 18:57)
[2]    -03[タカヒロ](2014/06/26 17:42)
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[40096] ワレワレノシンロニカゲリナシ(艦これ・短編完結)
Name: タカヒロ◆61c6a64a ID:82268daa 次を表示する
Date: 2014/06/26 17:41




-01


 提督が死んだ。
 私がこの艦隊にやって来て463日。それは同時に司令官…提督がこの艦娘の艦隊の長として居続けた日数。
 短くはなく、しかし長くもない期間。それだけの間に多くの事があったが、もはやそれは過去の出来事。頭が死んだ艦隊はその機能性を失い、もの言わぬガラクタ当然と化した。
 しかしこの国に、そしてこの世界に、艦娘という存在を無意味なものへと昇華させる程の余裕はない。
 私たちが止まっていた時間はほんの少しだった。涙が流れ、それが乾いて呼吸を整えるまで。それくらいの短い時間。その間に『前』提督が作り上げたこの艦隊は、首をすげ替えて再び運用されることとなった。
 とはいうもののこれまでの戦いで失ったものは大きい。
 前提督の戦死が確認された時点でのこの艦隊に存在している艦娘は、最早数えられる程にまで減っていた。理由は様々だが、とにかく云えることは即時運用を可能とするほどの数と練度はないという一点。しかし、かといって余剰を他からこの艦隊に割く余裕も現在はない。それは人間も同じ事。
 故に一時この艦隊には長が存在していなかった。提督が居なくとも艦隊は存在していられるが、運用は不可能だ。艦娘の艦隊というものは提督が存在して初めて機能する、非常に歪な統制機能が採られている。
 運用されない艦隊というものは悲惨なものだ。ただ存在しているだけ。理由を与えられない人生ほど、無意味なものは無い。
 そんな中で一通の書類が我々の艦隊宛に届いた。外観だけでどこから送られて来たのか分かるその書類の中身を、何故か私は大凡予想がついていた。第六感というべきものだろうか、それとも単純にそれが自然な形だからだろうか。
 とにかく、開けられた書類の中身を精読し、理解し、大本営に今まで一度も口にしなかったくらい汚い罵声を心の中で叫び、執務机に叩き付けた。
 前提督が運用した463日、そして空白の17日を過ぎて。再びこの艦隊は運用されることとなった。
 理由など知る由もないし知る気もない。ただこれが当たり前の流れであると思う程、自然に事が進んでいったことは確かだ。生き残っていた艦隊の仲間達はみな同じ表情をしていたが、それは私も同じだったかもしれない。
 理不尽と悦びと、ほんの少しの絶望と。
 そして私が『現』提督として、この艦隊の長となり艦隊は生き返ったのだ。

---

 深海棲艦と戦う為の存在である私たちにとって、日々の時間の感覚というものは最早瑣末な問題であるといっても過言ではない。常に最前線に居続けるストレスは、人間としての感覚を捨てさせるに充分なものであった。
 だからこそ、前提督と居続けた時間が果たして長かったのか短かったのかを判断する術を私は持っていない。少なくとも無駄な時間では無かったことは確かであることはいえるのだが。
 昔のことに思いを馳せているうちにはたと気がついた。そうだった。もう私は艦娘ではなかったと。
 大本営から届けられたあの忌わしき書類のあとすぐに、私は艦娘としての機能を解体され、普通の人間へと戻った。勿論、それは軍を退役する為ではなく、現状を更なる混沌へと追いやるためのもの。
 軍の中での新しい人生というものは中々に忙しいものであった。まず初めに行ったのは艦隊を運用するに充分な数の艦娘を建造することであった。運用することが出来るとしても、今の艦隊には艦娘の数があまりにも少なすぎた。主力の半数は前提督と運命を共にしたし、残りの行く末もあまり口にしたくはない。結果、以前の艦隊の中でも主力級として扱われ、現在も艦隊に所属しているのは3隻しか居なかった。当然ながら彼女らを含めても、艦隊運用にはまだまだ不安が残る構成。
 幸か不幸か、建造する為の資材で苦心することはなかった。資材倉庫からはみ出すほどに山積みされている資材をこれ幸いとばかりに無心で消費していく。駆逐艦が増え、軽巡が増え、重巡がやって来て、そして時々空母と戦艦がくる。
 練度はため息をついて目を覆いたくなるようなものではあるものの、そこはやはり数の暴力というものがある。時間の許す限り、彼女達には訓練に励んでもらう事にした。皆が稚拙で互いに力を合わせる懐かしい光景に、思わず涙腺が緩んでしまったのも今や懐かしいと思える話だ。
 艦娘にとって、そして艦娘を運用する艦隊にとっての唯一にして最大の仕事は襲いかかる深海棲艦との戦いに尽きる。時には迎え撃ち、時には此方から攻めて行き、最低限、現状を維持しながらしかし着実にじりじりと攻める。それが前提督の採っていた方式であり、それは私も同意していた戦法であった。
 喪うことを善しとせず、しかし臆病と罵られないための最低限の進撃。前提督は自身の艦隊に所属する艦娘たちを一個人として平等に扱い、決して"捨て艦戦法"と呼ばれる資源の無駄を肯定しなかった。それが後に私を苦しめることになったのだが、これはまた別の話なので今は置いておこう。

 季節に一度程の期間でやってくる深海棲艦の大猛攻。私の覚えている限りでは5度、我々の艦隊で迎え撃った。昨年の5月、8月、11月、2月、そして前提督が死ぬこことなったこの前の4月。
 それらが終わっても、深海棲艦の攻撃が終焉に向かうことはない。常に陸に向けて邁進してくる奴らを落とす仕事は艦娘およびその艦隊に一任されている。今は一段落している状況ゆえに奴らの攻撃の手も少しは緩んでいると云えるだろう。その間に、せめてもの体裁は整えておかねばならない。いつ・いかなる時にも状況が開始出来るようにするのが、軍人なのだ。物心両面の準備とはよく言ったものだ。
 秘書艦として働いていた頃の知識が非常に役に立っているのは確かだが、違う目線で見るとこの艦隊はこれほどまでに違った形で見えるものだろうか。この港はこれほど変わった形で見えてくるものだろうか。一つの報告に前提督と共に一喜一憂していた過去。今は一人きりの執務室で、あの人が座っていた椅子と机を使って仕事をする。慣れたといえば慣れた。違和感があるといえばそれもまたそうだと答える。
 変わっていく日常に慣れた自分と、何も変わらない部屋。変化し育っていく艦隊と、服装とその存在以外なにも変わっていない自分。矛盾という言葉がふと頭の中に浮かんだ。

---

 提督として働くことで尤も面倒だったのは、事あるごとに外部の人間と会わなくてはならないことであった。艦隊に所属する艦娘のうちは、艦隊内だけでその全てが完結していた。外に出る必要も無かったし大抵の場合、出る余裕も無かった。私の場合は人見知り気味の性格もあり、見知らぬ他人を顔を合わせるのがあまり好きではなかったというのもあったが。しかし運用する側の人間になった今、そんなこも言っていられない。
 艦隊の運用は艦娘と妖精さんたち、そして長たる提督さえいれば事足りるのだが、それだけでは長期の運用は当然ながら不可能だ。システムの一部として存在している以上、外との繋がりを断ち切ることは不可能どころか自殺行為にも等しい。挨拶回りから始まりあらゆる調整の為に奔走し、時にはこちらの主張を通す為に自ら出向く。体力的には知れている仕事だが、様々な個人の思惑が渦巻く渦中に飛び込むというのは、戦闘とはまた違った精神的なストレスを私の中に増やしていく。
 そんな中、私が提督として働いてからまず始めに驚いたことは艦娘は軍人ではない、ということだった。これにはさすがに私自身も驚きを隠す事が出来なかった。もっと踏み込んだ内容で云えば、書類上は人間としてすら扱われていない事に最も驚いた。
 確かに軍に所属していながら艦娘たちに階級が存在していないのはおかしいのではと思ったことはある。軍属であれば納得も出来たが、艦娘は最前線に立って戦う軍事力を行使する存在そのものだ。それが軍務を行わない軍属である筈も無い。その疑問は気づけば頭から消え去っていたが、今こうして思い出してみるとおかしいにも程がある話であった。
 しかし同時に納得した。我々艦娘たちが人間として扱われていないのであれば、確かに階級を付与する理由もない。ただの兵器として扱われているからこそ、扱う人間たる提督が居なければ、艦娘の艦隊は運用出来ない。
 理解し納得出来ることであったが腑に落ちない。我々艦娘の存在というものはそれ程軽いものであったのかと。日本という故国を守る為に艦娘になった。命がけで戦った。そんな艦娘たちの扱いがこれかと。今更ながらに乾いた笑いが出てしまう。
 しかし今の私は艦娘ではなく、元艦娘の現人間だ。提督として艦隊を運用している私には、幹部、士官としての階級が付与されている。名実ともに人間であり軍人となった私は艦娘とは違う存在なのだ。自身の中に渦巻く怒りは部下への思いによるものか、果たして自分勝手なものなのか。
 日は過ぎて月は過ぎ、ようやく艦隊の活気も昔に近づいて来た頃、私はというとすっかり提督業が身について、着せられていた提督としての制服がすっかり似合うようになっていた。肩の階級章の星も気づけば増えており、その間に艦隊の練度は見違える程になっていた。近海の防衛しか出来なかった初期とは違い、遠洋まで出ても全員が戻って来れるようになったのはやはり艦隊の長として、感慨深いものがあった。
 記念に総出でちょっとした宴会を開いた。楽しかった。皆が皆酒に溺れる姿はいつぞやと変わらなかった。それを俯瞰して見る自分だけが、変わっているように感じた。

 人の欲望とは斯くも似通ったもので無様で、そして滑稽なものかと嘲っていたのは最早過去の話で、それらを理解して同意出来るように成る頃には自分は提督と呼ばれて人間であることに、何の違和感も持たないようになっていた。そもそも元々人間であったのだからそれが当たり前の話なのだが、艦娘として生きていた頃の記憶というものはあまりにも濃すぎて、一度の人生であったと思えるほどの密度を記憶の中に形成させていた。
 艦隊に所属する誰もが自分を提督として認識している。前提督の生き残りですら、そうなった。既に私が過去に艦娘という存在であった名残はなく、艦娘を運用する艦隊の提督という自分としての自己が出来上がっていた。
 時間の変遷による様々な変化は私にとってどういう影響を与えているのだろうか。自分の事すら分からず、自身に問いかけて答えを探す余裕などある訳もなく、日々の仕事に忙殺され、些事なことだと捨て置いた。
 提督として、艦隊の長の立場にある以上、常に艦隊の評価と自身の評価は連動する。最近の練度の向上により全般的な評価は上がっているものの、釈然としないところがあるのも実際のところ。手放しで喜んでもいい程の戦果を出しても、外部でそれがそのままの形で認められることは無かった。
 理由は大体察する事が出来るが、深く考えなかった。あまり考えてよいものでもない。
 いつだって人は出過ぎた杭を疎ましく思うのは当然のことだし、それに有刺鉄線が巻き付いているような危険なものであれば誰だって近づきたくない。
 深海棲艦の台頭によって、艦娘の存在は人類の存続が掛かったそのものといってもいい。その役目を背負った艦娘達は幼い少女の見た目とは裏腹に、恐ろしいまでの力を有している。そんな艦娘が何人も集まり艦隊を形成する。そんな艦隊を取りまとめ、指揮を執るのが提督という立場の人間だ。
 上手く艦娘たちをやり込めれば、国そのものに叛逆を起こすことすら可能といえるような危険な存在。二次大戦時の記憶を持っているといっても、その大本たる少女の部分の内面は見た目と変わらない。良いようにも悪いようにも、いくらでも利用することが出来るのは暗黙の了解だった。 そういうものを利用して、艦娘という存在は成り立っているのだから、その力の矛先が自分たちに向かうことも当然ゼロではない。
 多くの人間の様々な思いがあるからこそ、艦娘たちを気軽に外に連れ出す事は出来ず、外部との窓口は実質的に提督一本となる。そして艦娘たちに向けられる様々な感情エネルギーはそのまま窓口の提督へと向けられる。
 精神的には随分と苦労する仕事だ。
 勿論、艦娘として深海棲艦と戦っていた時もストレスは随分とあった。精神的にも肉体的にも。だが今の心労はそれらとは全く異なるもの。一つ何かがある度にため息をつきたくなるような、そんな仕事。
 まったくやってられないな。
 一人きりの執務室でついそんな愚痴をこぼす。一所懸命に仕事はしているし、それなりの実績も積み重ねている。勤務態度も艦隊全体を見ても悪い方ではないし、査定の面だけで見れば優良艦隊だ。
 しかしそれでも上からの評価はそうではないらしい。
 何かとどうでもいいことに口を尖らせ、重箱の隅を少しでも突こうと粗探しをする。それほどまでに艦娘という存在が疎ましいかとつい口に出しそうになるが、そんなことをすれば被害は自分だけに留まらない。長たる私は、大人にならなければならないのだ。
 文句も言いたくなるが、組織の体系のなかにあるということはつまりはそういうことなのだ。縦社会。お上の言う事にはハイと答えるか敬礼を返すかのどちらかのみ。拒否権などない。歯車に組み込まれた以上、一人だけ好き勝手などは出来ない。
 歯車のひとつとして、自分も綺麗に回ることで全体がスムーズに動くのだ。それは自分の指揮下にある艦娘たちにも繋がる。またため息が出てしまう。
 まだまだ仕事は終わらない。


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