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No.39985の一覧
[0] ゼンイチゲーマーと頑固ジジイ。[沖之冶](2014/07/10 21:43)
[1] 二面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[2] 三面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[5] 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[6] 五面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[7] 2週目 一面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[8] 2週目 二面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[9] 2週目 三面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[10] 2週目 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[11] 【Wonder Duel】[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[12] 「GAME OVER 1」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[13] 「GAME OVER 2」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[14] 「GAME OVER 3」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[15] 「GAME OVER 4」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[16] 【OVER the GAME】 IT ALL for YOU[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[17] Continuum Shift --1st EXTEND--[沖之冶](2014/07/08 07:53)
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[39985] 2週目 三面
Name: 沖之冶◆1800c58f ID:73a04fa9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/08 07:52
 * STAGE 2-3

 ゲームセンターの地上一階。大半のゲームがカジュアルな物で占められた一角に、二人のヘビーゲーマーがいた。見つめている先は「UFOキャッチャー、クレーンゲーム、プライズゲーム」等と呼ばれる『景品取りゲーム』だ。透明なガラス窓の向こうには、アニメの人気キャラクター、フィギュアが入ったボックスが山となって積まれていた。
「ヘッタクソだな、トールは! カスリもしねーじゃねぇかよ!」
「……しょうがないでしょ。初めて遊ぶんだから」
 クレーンが「ウィ~ン」と動いて、フィギュアのボックスを突くものの、せいぜい重心がほんの僅かにズレるのが精々だった。
「あー! またミスりやがったな! ほらさっさと次のコイン出せやオラぁ! 次はオレがやる! テメェはそこで見てろ!」
「イヤだよ。っていうか僕はこのゲームに興味ないんだから、次は君が払いなよ」
「あぁん!? おまえホストの癖に案内サボってんじゃねーぞボケ!」
「そんなつもりは毛頭ないよ。そもそもジャックが勝手に付いてきたんだろう。文句あるなら余所行けば」
「ざっけんなよクソ野郎! ほんと、リアルでもネットでも愛想ねーな!」
「君こそネット以上の傍若無人っぷりだよね。さっきから耳が痛いからどっかに消えてくれないかな」
 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。
 ゲーセンで喧嘩をする客は割と日常茶飯事で存在するが、男女のカップル(?)でガチで殴り合う光景はまず見ない。言い争うとすればせいぜいが、男側が女を放っておいてゲームに耽り、それに飽いた彼女が「はやくでよーよぅ」と退屈そうに促すというそんな光景だ。だから、
「トール、オレはあそこのニンジャのフィギュアが、ぜってーに、欲・し・い! 取るまで一歩もここを動く気はさらさらねぇっ!」
「だから自分のお金で取れって言ってるじゃないか。あと僕はKoVがしたいんだ」
「うるせぇ! テメェ一度あのゲーム始めたらガチで席離れねーじゃねーか!」
「そんな事ない。ワンプレイ終わる度に後ろは確認してる」
「そういう意味じゃねーよボケ!」
「じゃあどういう意味だよ。君だって僕が遊んでる間、どこかのおばさんとダンスゲーム満喫して、一緒に記念写真まで撮って楽しそうにしてたじゃないか」
「だからおまえのゲーム終わんのを待ってたんだろっ! 察せよ! つーか後ろに誰もいないと思ったら速攻連コしやがって! このゲーオタが! 根暗の! ぼっちゲーオタマニアが! ○ね!」
「ルールとマナーは守ってるんだから何も問題はないよ。あと僕は毎朝、このお店で昼までKoVを十戦する予定を決めてある。邪魔しないで欲しかったな」
「バカ! せっかく隣にオレ様が付いてるんだぞ! 店側のどうでもいいルールより何よりこっちを優先すんのがフツーだろ! あとテメーのクソつまらねぇ時計仕掛けのルーチン仕様なんぞアタシの知ったこっちゃねぇッ!」
「アリス、君のルールを僕に押し付けないでくれるかな」
「おい、その名前で呼ぶなっつってんだろ、サンダー・ボーイ」
「こっちもそろそろ本気で遠慮したいな。その愛称」
 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。
「クソったれが。いいからコイン出せよ。オレは小銭なんてもってねーんだよ」
「じゃああきらめなよ」
「断る。そこのNARUCHOフィギュア、絶対手に入れる。だからトールは金を出せ」
「……僕はそのニンジャの事、まったく知らないんだけど」
「ハァ? NARUCHO知らないってお前マジ? ジャパニーズなめてんの?」
「今朝の味噌汁の中に、赤身マグロとサーモンを放り込んだ君に言われたくない」
「なんでだよ、バッチリワビサビってたじゃねーか!」
「意味がわからない。あとバッチリどころか、白味噌と赤マグロの油とマヨネーズと山葵の組み合わせがこれ以上なく最悪だった。これから君は二度と台所に立たないでくれるかな」
「トール! テメェ! アタシの手料理をファックされといてよくも抜けぬけと!」
「うん、今日は朝から最低な気分だった」
「……もういい。テメェはこの場に財布と有り金全部ブッ込んでとっとと失せな。アタシがNARUCHOゲットする瞬間まで、黙ってそこで突っ立って見てろ」
「どっちだよ。あと僕がお金を出すなら、僕が責任持ってプレイする。それ以外の選択肢はこの世に存在しない」
「ウゼェ、マジウゼェ。融通の利かない理系男子のクソっぷりは世界全国共通だわ」
「感性派、感覚派気取って独自仕様を優先する女子も大概だよね」
 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
 と、そこへ、
「あ、あのぅっ! け、ケンカはよくありませんがなっ☆」
 きらっ☆ とポーズを取ったゲーセン定員麻田。トラブルを聞きつけ華麗に参上。
「…………」
「…………」
 二人のゲームマニアはまず「ちらっ」とそちらを見た。続けて透が無言で会釈をすると、もう一方のハリウッド張りのイケメンは、
「あぁっ、こんな場所でオレのHIMEGIMIを見つけちまうなんて……!」
「はにゃ?」
 ほんのり薄暗いゲーセンの証明の下で。まるでたったひとつの、本物の光を見つけたかのような口ぶりで上体をよろめかせ、ふぁさ……と前髪を揺らす。
「美しい。よかったら貴方の名前を聞かせていただけませんか。レディ」
 ほんのり斜め下の角度からそっと見つめる。同時に麻田の顔がほのかに染まる。
「はわわわわっ! イケメンですっ! 二・五次元っ! いえっ、限りなく二次元級の歳下スーパーイケメンが麻田に高速接近えまーじぇ~んすぃ!?」
「お姉さん、よかったらオレのお願い、聞いてくれない?」
「どうぞどうぞ喜んで! 麻田は二次元を愛する人々すべての味方ですからねっ!」
「嬉しいなぁ。じゃああそこのNARUCHOフィギュア、九尾のFOX憑依verを取る攻略法ってあるかなぁ」
「あっ、もうだいぶお金を入れてるなら、よかったら取りやすい位置に、」
「いや、そこまではいいよ。自力ゲットじゃなきゃ意味ないからね。って、そこに立ってる冴えないオレの友達が言うんだよね」
「……僕は何も言ってないよ……」
「ほらね。あぁやって、どーしても欲しいって聞かないんだ。もしかして今日はアームの具合が悪いのかな?」
「はいっ! そこのプライズゲームはですねっ! 実は内部設定で○回目毎にアームの力が微変動する○○○○仕様になってまして! これはコイン連動や曜日とも影響して○○が○○の○○で、だから○○円以上を一定時間で○○円注ぎ込むと――はうんっ! すいません山根店長っ! うっかり喋りすぎてあわわ……っ!」
 ヘッドセット越しにあわてて訂正。
「へぇ。お姉さんすごいや。詳しいんだなぁ」
「え、えへへ~、一応麻田もこのお店長いですからー」
「じゃあ、この辺りのことも詳しいのかな。もしよかったら後で一緒に、オレたちに美味しいランチ食べれるところ教えてくれない? オレの相棒ってホントそういうの駄目な奴でさぁ。テーブルに付いた時、お姉さんみたいな花が側に咲いてたら、きっと楽しい時間が過ごせると思うんだよね」
「はう~んっ! たいへん魅力的かつ素敵なお誘いだと思うのですがっ、わたくしめはこの後も収録の仕事があるのですっ。やっとやっと取れた貴重なレギュラー枠だから、麻田は絶対譲るわけにはいかないのです!」
「あれ、お姉さんってもしかして芸能関係も齧ってる?」
「はいっ、最近は微妙にそんな感じも匂う声優業界さんの所属Aですっ! だけど麻田はまだまだ売れてなくて、誰にも知られてなくて。時々落ち込んだりもするけれど、私は今日も元気です!」
「そうなんだ。じゃあ良かったら名刺を受け取ってくれるかな。携帯のメアドしか書いてないけど、何かの機会があるかもしれないし」
「あ、あわわ! 麻田、頂戴しますっ! あれ、していいのかな!?」
「いいよいいよ。秘密にしといてね」
 着ていたジャケットの内から取り出された黒革の名刺入れ。一枚を慣れた手付きで抜いて渡し、「よかったら今度、二人で会おうね」とやはり平然と言う。
「は~い♪ ではでは、当店ではケンカせず、筐体をパンチ・キック・チョップせず、楽しい時間をお過しくださいっす~。そいでは麻田はこれにて失礼するっすー!」
 名刺をふりふり。ようやく夢の第一歩を掴んだらしい声優志望のフリーターは、相変わらずキャラも軸もブレたまま、軽やかな足取りで去っていく。
「さぁて、聞いたな? トール」
「……君ってほんと、裏表違いすぎ」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。捕るぞ、NARUCHO.9FOX.ver」
「わかったよ。やればいいんでしょ、やれば……」
 はぁ、とため息を一つこぼして。透は五百円玉を一個、投入した。

 午後は図書館の自習室へ行く。そして日暮れまで世界各国の言語と、プログラミング関連の教本に目を通す。
 頭の中に容量を取って「メモする」事は、透が最も得意とするところだ。ページの情報や文字列や数式を『画像として保存し、それを記憶という名のメモリー領域に転写する』
 ――情報そのもののインプットは容易い。ただ、世界にはあまりにも雑多多様な情報量に満ちていて、すべてを転写していればすぐに『自分の容量』がいっぱいになってしまう。だから透は普段〝世界を意識しない〟。瞳の光彩を通じて現在位置と状況を把握するに留めるだけだ。しかしそれは周囲からすれば「何かいつもぼんやりしている」「無表情でキモチワルイ」という風に映る。
 誰かから毛嫌いされるというのは、やはり辛い。だから自分も同調せねばと思ったことは多々ある。だから昔はテレビを点けてその映像を転写したり、CDを購入して音楽の旋律を違わず捉えたこともある。そうして、一時的に「友達」と呼べるような相手ができた。けれど彼らの興味の対象はよく持って一月だ。
 世界には次から次へと、同じようなジャンルでのコンテンツが新展開される。そして彼らは自然と〝その一部〟を享受して、記憶して、日常会話のかけ橋に使う。
 透は、これができなかった。
 「メモする」には、対象をじっと見据え、その逐一すべてを記憶する術しか持たなかった少年は、すぐに『自分の要領』がいっぱいになった事を知る。その自動的な対応として、透の記憶メモリは『古いもの』から順に徹底的に削除する仕様を取る。
 〝現状の環境〟に最適化された透は、こうして昔の事を忘れた。
 すると、すぐに会話が噛み合わなくなった。誰かがほんの一年前を思い出し「あったあった」と同調する内容の一切を覚えていないのだ。
 透は悲しくなった。同時にひどく空しくもなった。
 『……僕は、いつまでこんな事を繰り返すんだろう……』
 そして、この世界に生きる人々は。一体、何を大事にしているんだろう。
 透は成長するにつれ、「メモ」を圧縮保存する術を得た。最初から頭脳の一部に余白を作っておき、関連した情報が発生すれば、過去に蓄積した「メモ」をその領域に展開し、現在の項目と関連付けて強化、修正するのである。
 これは〝規則的に難しくなる学校の勉強〟テスト試験で役立った。どんどん難しくなる、あるいは〝日常生活で何の役にもたたない専門的な学校の勉強〟に、何故か平均や偏差値を設けられ、その事に誰もが疑問を持ちはじめ、一体何でこんなもんで格付けされにゃならんのだ、と嫌気がさしはじめるなかで、ただ一人だけ、透は黙々と過去のデータの上書き圧縮を繰り返し、自然にひょいひょいとハードルを乗り越えた。不規則多様に入れ変わり、昨日と今日と明日の変化予測のつかない人間よりも、こちらの方がよほど楽勝だった。
 そんな月日が流れるなか、同年代の彼らは歳を重ねる毎に、口々に言いはじめた。
 一日が、一月が、一年が、短くなった。
 しかし透は逆だった。一日がどんどん長く、間延びしたものに感じられた。
 食事をするのも、息をするのも、眠るのも、何だかひどく億劫で。
 『……人間やめたいな……』
 なんて事を呟いたりした。たぶん、退屈だったのだ。
 もう何年もの間、ずっと、カラカラに乾き切っていた。そして気がつけば、ふらふらといつものルートを外れて歩き、学校からの帰り道で、いつのまにか規則性のない雑踏の中を歩いていたことを知った。そしてその場所にやってきたのだ。
 ――たくさんの「騒音」と、「彩」。
 しかし「メイン」として在るのは人ではなく、むしろ機械である。
「…………」
 冷たい、圧倒的な熱量を誇っている『情報世界』が、漠然と『人間やめたいな』と思っている透を引き寄せた。真夜中の自販機の光が、世界と相容れない薄汚れた蛾を引き寄せるように。人為的な光の只中へと導いた。
「…………」
 透は「テレビゲーム」を知っていた。昔、専用の本体を買って遊んだこともある。けれど「RPGゲーム」というのは、そのうち飽きた。
 〝わかりきってしまう〟のだ。
 あと何時間ザコ敵を狩り続けば、街の武器屋で次のボスを倒せる剣が手に入るかだとか、それを倒して出て来たラスボスを倒すまでに必要な諸々の経費だとか、裏ボスを倒すのに不必要な稼ぎを何十時間する必要があるだとか。
 中にはそのことを理解した上で、専用のチャートというものを自己作成し、RTAや諸々の制限を課した「縛りプレイ」を好む層(変態)もいるが、達成したところで現実的な報酬は「自己満足」である。
 ――〝テレビゲーム〟はいくらやりこんだところで、ただのゲームだから。
 おそらく、透のみならず。
 日本にいる全国数千万の「ゲームを遊んだことのある人々」はそう捉えている。
 仮想世界から飛び出してくる人為的な音と光が、どれほど美しかろうとも。
 その先には、一切の『栄光』はありえない。
 リアルには自分一人が生きていくだけの『未来』は、この世界上に存在しない。
 日本に生きるあらゆる『ゲーマー』の無意識の奥底には、その意識が当然のように深く、黒く、どこまでも根強く存在する。
 ――〝この世界で〟、ゲームという世界を通じ、生きていきたい。
 そんな例外は嘲笑すべき対象であり、異端である。

 【 ATTENTION! 対戦相手が見つかりました! 】

 ――しかし世界は変わる。確かに動いている。一見変わりなく、時には停滞、衰退している様にも見えて。だが細々と存在を維持し続ける限り、それらは限られた枠と枷を何重に掛けられようとも、その範疇で【進化】しようともがき続ける。

 【CAUTION! 〝血戦投票〟が発生しました!】
 【ゲームマネーポイント(GMP)を賭けての勝敗予想が行われます!】
 【勝者は最大一割までのGMPを配当金として獲得できます!】

 ――熱量を放つ。
 ぼんやりと。透は目的のない瞳でそちらを見た。自動販売機のようなセンターモニターの下には「ご自由にお持ち帰りください」とある薄い冊子のマニュアルが置いてあった。透は何気なくそれを手に取った。
「…………」
 一字一句、仔細残さず「メモ」を残した後、学生鞄のジッパーを外し、ルーズリーフを閉じてあるバインダーの中に丁寧においた。
 代わりに財布を取り出して、千円札を一枚、両替機の下に運んだ。

 *

 街の目抜き通りを歩いていた。平日の午前ということはあっても、大きな交差点を歩き行く人々は様々で、その数も多かった。
「トール! おまえもっと早く歩けねーの?」
「ペ……ペースを逸らしたくない、から」
「ったく、じゃあオレが合わせてやるよ」
 オシャレな格好をした金髪碧眼のイケメンが少し歩調を遅らせて、透の隣に並ぶ。その手には「ワールドワン」のロゴマークが入ったビニール袋が下げられていて、ふらふらと前後に揺れた。それが、ぶっちゃけかなり〝似つかわしくない〟。
「……っ」
「おい、なんで逃げんだよ」
「逃げてないよ。道を曲がっただけだよ」
「おお? 早速ガイドする気になったかよ」
「ない。早く静かな図書館に行って勉強したい」
「だから、今日は一日オレに付き合うって言ったろーが」
「言ってない」
「待てっつの」
「ぐぇ」
 シャツの襟元を後ろから引っ張られ、そのまま反対の腕で首元をロックされる。振り子のように回ってきたフィギュア入りのビニール袋が「ぼすん」と胸を打った。
「おいヘタレオタク野郎。なんだぁ、さっきから。オレが隣で仲良く歩いてるのがそんなに恥ずかしいか、あぁん?」
「そ、そ、そ、そんなこと……あるよ!」
「素直な解答だな。許してやる」
 腕が外される。割と本気で篭っていた力が外されて「けほっ」と一つ咳込んでから振り返る。先には相変わらずシニカルに。野性的な魅力にあふれた笑みと、己に対する自信に満ちあふれたショートヘアの〝美少女〟が突っ立っている。
「情けねーな。トール。おまえ仮にも〝ワールドチャンピオン〟なんだろ?」
「……関係ないよ」
 そんなやりとりをしている間にも。行き行く人々、老若男女問わず足を止め、自分たちに注目しているのをひしひしと感じとっていた。
 誰もが「JACK」に見惚れているのだ。透からすれば、どこからどう見ても「アリス」は女の子なのだが、他の人々には〝イケメン〟に映るらしい。
 ――キミ、自分のこと〝オレ〟って言うんだね。
 初めは「LoL」で敵チームとして出会い、その対戦後に送られてきた「テメェをボコる! DUELモードに来やがれ!」という意訳の英語メールを受けとり、そこで約半日間、タイマン仕様の対人モードで百戦ほど連戦連勝でボコり続け、次は「ふざけんな! 顔みせろテメー!」というメールを受けとり、スカイプ操作と動画撮影機能を教わり、直に回線を通じて互いの顔を見た時、透は一番最初にそう言ったのだ。
 それから何だかんだで「ペア」を組んだ。時差もあるものの、透はゲーセンに行く早朝に、アリスはスクールから帰ってきた夕方に毎日顔を合わせてLoLを遊んだ。
 〝相性〟は良かった。
 相手の行動のほぼすべてを先読みして「絶対防御、行動妨害」等のスキルを仕掛ける上級者向けのキャラクターを操る透と、攻撃力と速度だけは最高だが、防御は紙。という分かりやすい〝超ピーキー〟なキャラクターを操る「JACK」は、一度呼吸さえ合えば、それこそ完膚なきまでに対峙する相手プレイヤーを薙ぎ倒した。
 加えて「ネットラジオ」の方も中々好評らしく、最近ではLoLの上位プレイヤーの間でも『厄介な二人組みだ。マッチしたら全力で潰せ』と認識され始めている。
 そして世界中に存在する『ランカープレイヤー』は、流石に桁違いの強さを誇った。
 所詮は〝東洋の島国〟であり、その中でも日本のゲームセンターという限られた場所で、よくて数万人が遊んでいる限りの世界に対し、同時接続者数・億超え、さらには年収「十億」という超一流のプレイヤーが実在する世界では、そもゲームに対する意識、質、認識、姿勢、覚悟、あらゆる【格】が圧倒的に違う。
 正に「ヘタクソ」は失せろ。それ以上でも以下でもないのだった。
「……関係ないよ。僕は基本、自分が夢中になれるゲームを遊んでるだけで……」
「――何甘っちょろい事言ってんだボケ」
「あだっ!?」
 べちこーん、と。プライズの景品を入れた袋が顔面に飛んできた。
「な、なにするんだよっ!」
「仮にもチャンプなら、相応の格好してるのが当然ってもんだろーが」
「……だから、僕はそういうのに興味な……」
「興味なくてもするんだよ。いいか、トール。誰かの上に立つ【王】ってのはな。世のヘタクソ無能共に、夢と希望を与える象徴なんだ。だったら、外見だけはそれらしく見繕っとけば、一般メディアからの認識だって変わるだろーが」
「……君だってLIVEの時は、ヘンなTシャツ着てるじゃないか」
「オレは何着ても最高にカッコイイから良いんだよ。あとな、テメーの大好きな〝ゲームの世界〟を、この先も少しでも永らえさせたいって思うなら、一応はその頂点に立ったテメーはその覚悟は持って取り組むのが当然だろ」
「…………」
 目の前に立つのは、確かに〝イケメン〟であった。
 尊敬と、敵意と、敬意と、侮蔑。他人からのあらゆる感情をリアルで享受する事に何ら抵抗のない、あってもそれを唾で吐き捨て、斬って捨てる力を兼ね備えていた。
「………………けど」
 〝永らえさせるには〟。
 しかし、KoVは終わる事が決まっている。一対一の、純粋な「対人決闘」を楽しむゲームは、来年の今頃には一斉に消えているのだ。それはもう、透一人のゲームプレイヤーの意見などでは絶対に覆られない、政治という名の【力】だ。

 『……僕は、いつまでこんな事を繰り返すんだろう……』

 学校に通っていた頃、ずぶずぶと広がっていた虚無じみた想いが広がる。やっと、僕にも何らかの『理解ある形』になり始めたと思ったのに。その虚無は矛先を変化させて、今度はKoVというゲームと一緒に、自分を包み込もうとしている。
「だーかーら、いちいち暗いんだよ」
「わっ、」
「なんでこうオタクってのは、いちいち世を悲観的に捉えたがるんだか。オレにはさっぱりわかんねーぜ」
 手を取られた。ぐんっ、と引っ張られて、安物の使い古したスニーカーが、ぺたぺた石畳みの地面を踏みつける。
「ちょ、待って、アリス!」
「おまえさ、オレにこのフィギュア、プレゼントしてくれたじゃん」
「……無理やりね」
「うるせ。あと店員のマフィアジジイいたじゃん」
「権田さん?」
「おう。あのジジイとも普通に挨拶してたじゃん」
「う、うん、最近、KoV始めたって。仕事中は一切、口聞いてくれないけど」
「そのきっかけ作ったの、トールだろ?」
「……そ、そう、かも」
「いーじゃん! それ最高だよ。でもな、それじゃぜんっぜん足りねぇよ」
「な、何が足りないの?」
「広告だ」
 スタスタと早足で進みながら、アリスは透の手をしっかり握って進んでいく。
「確かに〝ゲーオタ〟ってのは、分かるやつが見りゃあ、ある意味ではカッコイイのかもしんねーが。――地味だ! とにかく地味で! ダサくて! 臭い!」
「じ、地味でもいいじゃないか。あと、服は毎日洗濯してるから臭くないよ」
「地味な一般人の発言アリガトウ。ほら、クラスチェンジするぞ!」
「え」
 歩いた先。この街ではもっともお高そうな、キラキラした建物がそびえていた。
 透にとっては一生踏み入れることのない「ラスト・ダンジョン」である。
「…………」
 自然に、ごくり、と生唾をのんだ。
「帰ろう」
「逃がさねぇよ、サンダー・ボーイ。こっから先のホストは俺だ。ありがたく頂戴しな」
 がっしり。
 いつのまにか腕がしっかり組まれていた。逃げられなかった。


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