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No.39985の一覧
[0] ゼンイチゲーマーと頑固ジジイ。[沖之冶](2014/07/10 21:43)
[1] 二面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[2] 三面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[5] 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[6] 五面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[7] 2週目 一面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[8] 2週目 二面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[9] 2週目 三面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[10] 2週目 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[11] 【Wonder Duel】[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[12] 「GAME OVER 1」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[13] 「GAME OVER 2」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[14] 「GAME OVER 3」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[15] 「GAME OVER 4」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[16] 【OVER the GAME】 IT ALL for YOU[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[17] Continuum Shift --1st EXTEND--[沖之冶](2014/07/08 07:53)
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[39985] Continuum Shift --1st EXTEND--
Name: 沖之冶◆59bf4128 ID:e706540d 前を表示する
Date: 2014/07/08 07:53
 *

 バスケを始めたきっかけは、女子の割に〝身長が高くて細かった〟からだ。
 自分の外見と、最初に放ったスリーポイントシュートが偶然にも決まってしまった時に、隣に住む友達から「なっちゃんはバスケの才能があるね!」とおだてられてしまった事が、それなりに熱心に取り組むきっかけになった。
 だけど実際のところ私の運動神経は平凡で。他の運動のできる子たちと並んだ時、彼女らが会得した後天的な技能の前に、私の先天的な身長差というアドバンテージは機能を失った。
 以来、私は〝がっかり〟されている。
 見た目は如何にも運動ができそうなのにと、刺さる視線が口ほどに物を言う。
 真面目に練習をしたところで上手くならなければ、熱は冷めていく。周りの子たちがどんどん上達するのを見るにつれ、私はひたすら惨めになった。
 昔はあんなに面白かった試合(ゲーム)も、競争意識が強くなるにつれ、それは次第に単なる遊びとは無縁になり、やがて〝つまらない〟と呼べるものに変化した。
(まぁ、誰も『プロ』になるつもりなんて、これっぽっちも無いのだけど)
 私は飽いていた。将来バスケットボールに関する職務に自分がついている姿も想像できず、中学最後の試合を敗北で飾り、試験勉強に取り組みはじめた頃、今後はもうバスケットボールに触れることは無いのだろうなと漠然と思った。
 しかし現在、高校三年生になったこの春。
 満18歳にまもなく至るだろう私は、今もこの競技を続けている。

 四月第一週、早朝、五時。
 桜の咲いた並木道が見える堤防を走っていた。
 今日は高校一年生が、両親と共に門を潜る唯一の日、入学式だ。すべての運動部は朝練を含めて「休み」を言い渡されており、私はひとり外もまだ暗いうちから自主的に走り込んでいた。
 私の高校は偏差値の高い進学校であるが、運動部の総合成績は下の下と言える。一部の部活動を除き、地元紙さえ満足に飾ることは叶わない。バスケットボールに至っては男女共に無名といってよく、対戦相手からすれば「消化試合」であるのは間違いない。
(なのに私は、続けてる……)
 一昨年は県予選敗退。去年も県予選敗退。今年も同じ結果になるのは明らかで、どう足掻いても勝てないことは知れている。
(勝ち抜きトーナメント戦は、正しく強いチームが勝ち残る)
 だというのに、私は今日も走っていた。毎日走り続けていた。
 〝がっかり〟するのも、〝がっかり〟されるのも分かっている。
(ただ……私は体力だけは、ある……)
 肝心のボール捌きはヘタクソのままだけど、無駄な背丈に比例する様にスタミナだけはたっぷりある。
 誰もが疲弊しきった最後。試合終了を告げるブザービートが鳴るほんの一瞬手前、私はコートにいる誰よりも、ほんの少し長く、ほんの僅かに速く走る。
 その一瞬になってようやく、パフォーマンスが落ち始めた〝上手な子〟に並ぶことができたのだ。
(……試合には勝てない。個人の技量は低い。チームは弱い。みんな勝てないって分かってる。そして将来、誰も『プロ』なんかを目指しているわけじゃない)
 苦しいのが、報われないのが目に見えている世界。
 ――けれど誰もが顔を歪め遅れていく世界の側を、私だけが一人、ほんの一秒限り、矢の様に駆けていくのは快感だった。
(私はバスケットボールを続けている限り、今年も負ける悔しさを噛みしめることになるのは確実だけど、)
 ほんの一瞬、私はあの場にいる誰よりも、速く、強く走ってゆける。
 風を切って。何もかも、置き去りにしてゆける。
(とにかく、それだけでいいんだろうな。私は)
 あの一瞬を感じる時、心から『生きている』と思うから。
 胸の内にある『何か黒いもの』が一斉に消えてゆき、その時だけは、自分をほんの少し認められる気がするから。
(だから、続いてる。続けられている、んだろうな)
 高校三年になった今年も、また。
 今の視界に映る桜並木がすべて散り、緑化現象を強く伴いはじめる数ヶ月後、訪れる夏の試合まで走り続けるのだろう。
 ひとつ、解を導きだして道を折れた。わずかな傾斜を上りきり、河を渡す橋の上をいつものペースで駆けていく。と、
(――うん?)
 堤防の橋を渡った先。桜並木の反対側の土手の前方に、私と同じ高校の青ジャージを着て走っている男子が見えた。
(私の他にもいたんだ)
 なんとなく、嬉しいかもしれないと思っていたら、
「…………ぇ、ぜ、………っ」
 彼はなんだかえらくゆっくりなペースの割に、妙にふらふらと危なっかしく。酒が入って酔っ払った父の如く「ふらっ、ふらっ」と乱数線形を描くように左右に揺れた。
(大丈夫……? うぅん、アレはおそらく大丈夫じゃない)
 夏場に脱水症状を起こした同級生と、ほぼ同じ症状を見せている。
 おそらく、長くは保たない。とか思ったその時に、彼は「ふら~り」傾いた。
 ――進行方向の左側。坂道になっている河原の方に向かい千鳥足で、あるいは生まれたての仔羊の様に。これ以上なく頼りなくよろめいた。真新しいスニーカーが下草の生えた坂道を踏んづけた。
「……わ、わ、ぁわわっ!?」
(あぁ、なんてベタな)
 つい感心してしまった。彼は「しーちゃん」が持ってきたDVD『素人お笑い芸人、身体を張ってネタになります!! 押せよ!? 遠慮なく押せよほらほら! さぁどうぞどうぞぉ!?』集にあったカビパラ倶楽部のリーダーよろしく、そのままバランスを崩して前のめりに横転した。
 さらに転がる。すってんころりぃ~ん。と、中々に芸術的な角度で坂道を転がっていく。
(進行方向への力学パラメーターが減少。抵抗値が増加……そのままいけば途中で止まるかな。うん、大丈夫。死なない。よっぽど打ちどころが悪くない限り)
 春の川縁に向け、坂道をゴロゴロとダイブしていく同じ学園の少年。
 私は走る足を止めて周辺を見まわしてみたけれど、しかしカメラの様なものは見当たらない。
(すごい。どれだけ運動神経が悪かったらそうなるんだろう)
 私は戦慄した。初めて自分より〝鈍い〟生き物を見た。
(あの男子って、本当に人間なのかな――あ、そうだ。助けないと……)
 大事なことに気付き、私は声をかけた。「おはようございます、そこのヒト。大丈夫ですか?」

 *

 太陽が昇りはじめた。明度が上がり、春の青空が広がっていく。
 視認可能な色彩が世界に満ちて、周囲の気温も一度、二度と上がる頃合いになると、ちらほらとウォーキングやランニングにすれ違う人も増えはじめた。
「どうですか? 気分の方は」
「す、すみません……。本当にありがとうございます。あの、コレ……」
「いいですよ。気にしないで」
 男子生徒は、夏野はるか(なつのはるか)が近くのコンビニで購入したスポーツ飲料水をゆっくり煽り、一息ついてから申し訳なさそうに言ってきた。
「僕、今お金を持ってないので次にお会いした時に返します。あと、この医薬品の代金もご一緒に。本当に助かりました。ありがとうございます」
「いいえ、お気持ちだけで結構です。どちらも高い物じゃないから」
 飲み物と一緒に購入したのは、雑菌消毒用のウェットティッシュと絆創膏だった。両方とも封を切って、絆創膏の一枚は彼の頬に張り付いていた。
「それよりも足の方は大丈夫? 変な風に捻ったりしてると後でひどくなりますから。痛むなら素直に申告してください」
「だ、大丈夫ですっ」
 ぺこぺこお辞儀する、青ジャージ姿の男子生徒。はるかは「コレ」をまず引っ張りあげてから、側にあった石畳みの段差の上まで運んだ。それから買ってきた飲み物を渡して簡単な消毒だけを施した。
「それじゃ、もう歩けますか?」
「はい。あ、ところであの、名前を聞いてもいいですか?」
「……〝夏野〟です」
 心もち慎重に苗字だけを伝えると、相手はぎこちない作り笑顔を浮かべてきた。どうやら表情を作るのは苦手らしい。
「ありがとうございます、夏野さん。僕は志藤透っていいます。明日も同じ時間にこの場所って通りますか?」
「……えぇと」
 たぶん、ありえないだろうなと思いつつ、はるかは警戒した。下手な誘い文句じみた口調も要因の一つだったが、ちょうど照りはじめた陽光に反射して、彼の頭頂部の髪がうっすら夕陽の色に染まって見えたからだ。
(髪、染めてたのかな。茶髪……じゃなくて、赤、かな?)
「あっ、もしかして僕の髪、色残ってますか?」
「――」
 はるかの僅かな所作にめざとく気づいたらしい「志藤透」は、両手を自分の頭に持っていき、くしゃっと掴んだ。
「わわ、どうしよう……。先生に怒られないかな……」
 自然と呟いた感じの言葉は本当に生っちょろく、はるかは口元に手を添えてしまう。
「ウチは校則厳しいですからね。志藤さんは何年ですか?」
 それでうっかり、尋ねてしまっていた。透の目が、思考する様に瞬きした後、
「え? あっ、同じ高校……?」
「ですよ。私は三年です。志藤さんは?」
「え、っと……そう、です。僕も〝今年三年になります〟」
「あれ、じゃあ同じ学年だったんですね」
「か、かも……」
 苦笑の色が強くなり、邪推せずともに「何かあったんだな」と分かってしまった。
「あのっ、そろそろ僕は行きますね、すみませんが予定の時間をだいぶ超えてしまっているんです。僕は明日も同じ場所を移動しているので、その時にいただいたお金を返します。夏野さん、重ねて本当にありがとうございました」
「いいえ。次は転ばないように気をつけて」
「はい。それじゃ、さよなら」
 青ジャージを着た男子は立ちあがった。
 石畳みの階段を上ってそれぞれ反対の進行方向に足を向けてから、もう一度、丁寧にお辞儀をした。
(ヘンな人だったな)
 はるかは最後に、ちらと後ろを振り返った。その視界に見えた男子生徒は、今度は無理をせず歩いていた。存外、しっかりと背を伸ばし、まっすぐに歩き去っていた。

 *

 自宅のマンションに帰ってきて、パソコンの電源を復旧させるや否や、音声チャットとLIVEカメラの接続要請ランプが点灯していた。透がいつもの手順でそれらを起動させると、ネットラジオ配信用も兼ねている相手の顔が映された。

『 おっせぇぞ! トール! テメェ朝っぱらからナニやってやがったよ! 』

 ぷんすか怒る、金髪碧眼ニンジャマニア。
 『ゲームプロ』制度があり、賞金も提供されている海外ネットゲームで相方を組んで約一年。接続ID「JACK31337」こと米国在住の「アリス・アンダーソン」は相変わらず口が最悪だったが、その髪型は透と同じく変わっていた。
『ったくよ。テメェは時間に正確なのだけが取り柄だろーが!』
「ちょっとね」
 ヘッドセットを付けながら椅子に掛け、透は馴染んだ罵声と相対する。 
 それなりに値のはる美容院に通い、髪を黒く染めなおしただけの透と違って、少年の様なショートヘアだったアリスは、少し大人びたボブスタイルに変わっていた。
 ライブモニターに映る机の隅には去年の夏とクリスマスに来日した際、透に無理やりプライズゲームで取得させた『NARUCHO』のフィギュアとぬいぐるみが仲良く並んで映っていた。
『ちょっとってなんだよ。また地味な髪に戻しやがって。ダセェ奴』
「仕方ないだろ。この春から、また学校に通うんだから」
『ヘッ、どうせ行ったところで一年間、テメェはぼっちで過ごすだけだろ。どうせならこっちのカレッジの試験資格でも取って移住してきたらどーだ? なんだったらオレが月額百ドルで、メイドとして雇ってやるぜ?』
「それも割と真剣に考えた。メイドにはならないけど、そっちで君と二人、ルームシェアしながら『プロゲーマー』として戦っていくのも悪くないんじゃないかって』
『……お、おう、おぉう? なに? なんだって?』
「いや、だからさ。僕が要請受けてるLoLの『プロ資格』をもらって、企業と契約して、きちんとビザも発行してもらって、そっちで君と二人、一緒にやれるとこまでやっていくのもいいんじゃないかって思ったんだ。日本は『プロゲーマー』が認められるまで、やっぱりまだまだ時間がかかりそう、あるいは不可能だろうからね」
『まて。トール、ちょっと待て。テメェはホントいきなりすぎる。オレに心の準備を、KIAIの時間をくれ……っ』
「気合いは関係ない」
『う、うるさいなバカ! あるだろ! どう考えったってあるだろボケ! 大体テメェなぁ! オレがクリスマスにそっち行った時も、それとなく! それとなあぁく! 果敢にアピールとか繰り返したにも関わらずな! 何にもしてこなかっただろ!?』
「何にもって。いろいろ観光とかしたじゃないか。君が無理やり誘うから」
『おうよ! 二人でホテルも泊まったよなぁ!?』
『泊まったね。料理美味しかったね。権田さんやゲームセンターの店員さん達にも、お土産買ったよね。みんなに喜んでもらえて嬉しかったなぁ』
『 ち が う だ ろ ッ !! 』
「何が? 違わなくないよ?」
『そうだよ! 違わなくねぇよ! チクショウ! ほんと何もなかったよ! 朝まで二人でぐっすりだよ! 本当の意味でぐっすりだよ! しかもテメェ、アタシが目ぇ覚ましたらもう朝からのんびりシャワー浴びてて、モーニング行く? とか聞いてきやがって! 普通これってアレだろ! もうヤっちゃった後のお約束パターンだろ!? なのに何でなんにも無かったんだよ! どう考えったておかしーだろーがアアアァァッ!』
 もうやだこのバカァー!
 何でこんな奴と一年も超遠距離で交流(NOT交際)してんだ○ねファッキュー!
 とかいう魂の叫びが太平洋の向こう側から漏れていたが、当の本人は「またワケのわからない理由で発狂してるよ困っちゃうな」という顔をしつつ、
「それでさ、そっちに移住することも検討して」
『い、一緒に暮らすんだなっ!?』
「違うよ。だから今年は高校を卒業する為にも日本に残るよ。世界規模での『プロゲーマー』の事情もまた大きく変わってくるだろうし、きちんと僕の未来を見据えておきたいんだ」
『…………死ね』
「え?」
『もー知らん。アンタなんか知らん。知らんったら知らん。バカ』
「どうしたのさ」
『うっさい。黙れゲームバカ。アタシだってな、別に、ゲームをこんなに真面目にやる気なんてさらさらなくて、最初はただの暇つぶしだったんだぞ。そりゃニンジャは好きだけど、好きだからってわざわざ日本なんか行かなくったって、グッズなんか、ネット通販すりゃ手に入るんだよ』
「うん。まぁ探せば手に入るだろうね」
『……じゃあなんで、わざわざそっち行ったかわかってんの』
「え? 日本のゲーセンに興味があったって言ってたじゃないか」
『トール』
「何?」
『もし、仮にアタシがな。どっかの誰かにアンタの【暗殺】とか依頼しても、誰も咎めないと思うんだ。――というわけで○ね。今すぐ回線で首つって○ね。それできっとこの世界は平和になる。主にアタシの心の平穏的な意味でな』
「……いや、意味がよく分からないんだけど……それよりさ、アリス。そろそろゲーム始めない? もういつもの時間はとっくに過ぎて――」

『!!! バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカッ !!!!』

 ぷっつん。と接続が切れた。


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