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No.39985の一覧
[0] ゼンイチゲーマーと頑固ジジイ。[沖之冶](2014/07/10 21:43)
[1] 二面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[2] 三面[沖之冶](2014/07/08 07:51)
[5] 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[6] 五面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[7] 2週目 一面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[8] 2週目 二面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[9] 2週目 三面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[10] 2週目 四面[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[11] 【Wonder Duel】[沖之冶](2014/07/08 07:52)
[12] 「GAME OVER 1」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[13] 「GAME OVER 2」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[14] 「GAME OVER 3」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[15] 「GAME OVER 4」[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[16] 【OVER the GAME】 IT ALL for YOU[沖之冶](2014/07/08 07:53)
[17] Continuum Shift --1st EXTEND--[沖之冶](2014/07/08 07:53)
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[39985] ゼンイチゲーマーと頑固ジジイ。
Name: 沖之冶◆1800c58f ID:5bf6c3ca 次を表示する
Date: 2014/07/10 21:43
 2014/7/10
 こちらの小説は「小説家になろう」様の方にも、
 同じタイトルで掲載させて頂くことにしました。
 未熟な作品でしたが、読んでくれた人がいらしたら、どうもありがとう。m(_ _)m
-----------------
 
 * STAGE 1

 人口数おおよそ五十万の地方都市。
 駅前から路面電車の線路が続く町の目抜き通りでは、平日の朝ということもあり、スーツを着たサラリーマンとOL達が忙しげに行き交っていた。ありふれたビジネス街の一角を道ながらに進んでいくと、市街地の中央に行きあたる。
 銀行と市役所のある道を一つ横に逸れると、見えてくるのは大手デパートと天幕を張ったショッピングモールだ。休日であれば大勢の買い物客らで賑わうことになるのだが、平日の朝ともなれば、行き交う人々の大半は何らかの職に就いているのがほとんどだった。
 通りには全国チェーンのコンビニを始め、牛丼屋、電気屋、喫茶店、洋服屋、雑貨小物、書店、映画館と、一通りの店がそろっている。それから『ゲーセン』と呼ばれる建物もまた、この界隈には含まれていた。

「またこんな朝っぱらから来よったな」
 権田源蔵(ごんだげんぞう)は、今年で六十一になる。以前の会社を定年まで勤めあげ、現在は嘱託としてこの場所で働いている。
「学校にも行かず、毎日ふらふら遊びにきおって。まったく」
 全国に店舗を構える総合アミューズメントパーク『ワールドワン』。
 消費税の増加や少子化に伴い、現在では年々減少傾向にある『ゲームセンター』が、一階と地下一階を占めており、権田はそのフロアへの配属を言い渡されていた。
「九時五五分、いつも通りか」
 フン、と鼻息一つ。制服である赤ジャンパーの襟首を確かめ、眉間にシワを寄せる。
 これまで四十年近く、ただの一度も遅刻や欠勤をしてこなかった生真面目な性格である。己の腕時計を睨みつけると開店時間の五分前。まだ鍵を掛けたままの窓ガラスの向こうからは、地下一階へ続くこのフロアを目指して、一人の少年が現れた。
「…………」
 自転車用のゆるい坂道に車輪を乗せて、ゆっくりと階段を降りてくる。眼鏡をかけ、おとなしそうで、いくらも痩せ気味の黒髪少年だ。
 量販店で適当に見繕ったのだろう緑色のジャケットと青いジーンズを履いている。それと左肩から右腰に掛け、いつもと同じショルダーバッグを提げていた。
「山根君っ!」
「はいぃっ!?」
 権田は振り返る。つい『顔が怖い』と言われがちな堅物顔で睨みつけてしまった先にいたのは、それなりにテレビ映えしそうな二枚目の優男だ。しかし権田からすれば〝最近の〟どこにでもいるチャラい茶髪男Aでもある。
「ななな、なんすか権田さん、いきなり怒鳴らないでくださいよぅ」
「いや、別に怒鳴ったつもりは無かったのだが、すまん」
「あー、権田さんの地声怖いっすよねぇ~」
 へらり。と愛想笑いを浮かべながら、山根と呼ばれた男性はゲーム筐体の電源を入れた。その顔立ちはまだまだ若く、権田と違い深い皺の一つもない。
「んで、どうかしました?」
「例の子供がまた来とるよ。いいのかね、店長」 
「あぁー、そうですねー」
「そうですね、って、彼はどう見てもまだ高校生かそこらだろう」
「えー、まー、はい」
 権田より三十以上も若い山根隆弘(やまねたかひろ)は、しかしながらこの『ゲームセンターフロア』を仕切る責任者だった。
「ま、彼は特別なんで」
「親御さんや学校からは何も苦情は来んのかね」
「学校の方はともかく、ご両親はむしろ推奨してるそうですよ」
「嘆かわしい事だ」
「まぁまぁ。大目に見てやってくださいよ。彼は【プロゲーマー】なんですから」
「……」
 権田がさらに何か言おうとした時だ。まだ薄暗かったホールの天井に照明が満ちた。続けて爆音に近い喧騒が雷鳴のように落ちてくる。
「あ、んじゃあ、表の鍵お願いできますか。俺は残りの筐体の電源入れてきますんで」
 これ幸い。とばかりに撤退する。残された権田はより一層皺をよせ、
「何が〝プロ〟か」
 吐き捨てて、表玄関の方へと向かっていった。

 ――プロゲーマー。
 権田がこの『アミューズメントパーク』あるいは地下の『ゲーセンエリア』で勤務になって、初めて耳にした単語だった。それはアマチュアが好き勝手に名乗るものもあるらしいが、この『ゲームセンター』内にあるゲームをリリースしている会社とライセンス契約を結び、年間給与として正式な報酬を得ている者もいる。
 活動の内訳としては、将棋や囲碁の【プロ棋士】と共通する要素が多い。
 特定の時期に開催される全国大会に出場して自らの『強さ』を証明し〝賞与〟を獲得。時には開発に参加してバランス調整を行い、スタッフと共に全国のゲームセンターを巡り、スポンサーのゲームを広報することもある。他にも記念マッチ等で一般ユーザーと対戦したりと、企業とゲーム双方の知名度を上げることが主となる。
 ただし現状、その認知度は著しく、低い。
 ゲームは遊びに留まらない。
 プロゲーマーは、スポーツ選手の側面を持つ――と言われて「それ、ネタでしょ?」と鼻で笑わない『ゲーマー』は一割に満たないだろう。
 そして無論、普段はゲーム等には触れもしない権田もそうだった。しかし続けての山根店長の一言には僅かに動揺した。

「 彼、今年の年収は、一千万を超えたそうですよ? 」

 年収一千万。それは権田でなくとも、日本のサラリーマンの多くが目を見開いて聞き返すレベルだろう。
 しかし権田の眉間のシワは一層濃くなった。
 何故なら彼の『テレビゲーム歴』といえば、未だに「ファミコン初期」で永久停止状態なのである。遊びにきた孫が父親のスマフォを借りて「パ○ドラ」に熱中し「おとーさぁん、ライフ尽きたぁ! かきんしてぇ!」とか嘆いていて、それにすっかりベタ甘の息子になったおっさんが「仕方ないなー。でもガチャ回すのはお父さんと一緒にしようなー!」「わー、パパサイコー! カァックイー!」「よーし! パパ諭吉入れちゃうぞー!」とか分かりやすく乗せられて、自らの月末の食費を嬉々として削減していたりする世界にプロもクソもあるものか。
 その隣でも、長年連れ添った妻と息子の嫁がウィーリモコンを片手に和気あいあいと盛り上がっていても、「俺には何が面白いのやらまったくわからんなぁ!」と渋い強面で茶を啜るに留まるレベルなのである。

『テレビゲーム』とは、子供の為に作られた「玩具」であり、それは子供が遊ぶ玩具だから、いつかは卒業して然るべきものだ。
 仮に大人になって「作り手」になる事はあっても、いつまでも我を忘れて『遊び』に熱中すべきではない。そんな風に思っていた。

 午前十時。
 『ワールドワン』の開店時刻。
 扉の向こうには自転車を停め終えた少年が、扉の前で静かに立っていた。
 本来ならば、学生がこんな朝っぱらからゲーセンに来ようものなら店側で通報するべきだが、制服を着ているわけではないのでそれも難しい。
 何より、権田もこの店ではまだ勤めて二ヶ月の新参であり、この少年の事を詳しくは知らない。だから意固地にはなれず客として通す。
「いらっしゃいませ」
 権田は言いながら、開店時刻を示している看板を横にどけた。
「お、おはようございます……」
 そして『プロゲーマー』の少年も、権田に向かって挨拶を返した。ゲーセンに来る客で店員に挨拶をするのは彼ぐらいのものだった。大抵は無言で会釈を返される。
(まぁ……この場所はそういうところだな)
 とりわけ権田は高齢でもあるせいか、積極的に話しかけて来る客は皆無だ。少年が店内に入っていく後ろ姿を一瞥し、それからふと、吹き抜けになった上の階層で動く人影に気づく。
「麻田さんか」
 呟き、中央のエスカレーターを使い、地上一階のフロアへ進んだ。

 一階には『ゲーセン』でもっとも時間的売り上げの良い、お菓子、ぬいぐるみ、フィギュア等を拾うプライズゲーム――『UFOキャッチャー』が置かれている。他にも権田でも唯一知っている『アイスホッケー』台なども置かれており、表玄関にもなるこの場所は、休日の『ワールドワン』の主力エリアの一角だ。スタッフからは通称、休日地獄の一丁目と呼ばれている。
「――よいしょ、よいしょ」
 その台の前に、同じく赤いジャンパーを着た別のスタッフがグッズを詰めていた。
「麻田さん、手伝いましょう」
「あ~、ゴンさ~ん、ありがとぉ~」
 舌ったらずで甘い猫なで声。今年成人したばかりらしいアルバイトスタッフの彼女は、街中を歩けば誰かしらが振り返るだろう美人だった。
 麻田美紀、という彼女は、聞くところによると声優志望のフリーターらしい。
「それじゃあっ、ヒグマだモンとぉっ、ビリィさんをっ、一緒に並べていただけますかなっ、でありますっ!」
 急に声の調子を変えて言う。しかも微妙に甘ったるい雰囲気は残したままに。ついでに何故かそれぞれ言葉の区切りで謎のポージングを取ったりして、最初は権田をドン引きさせたものだった。
「……わかりました」
「センキューみゃん☆」
 ただ、二ヶ月もすればまま慣れる。むしろこの妙な「キャラ変」は、家族で遊びにやって来た子供たちには良い意味でウケるのだ。適材適所である。
「やぁー、でもゴンさん来て、ウチ本当に助かってますん」
「そうですか」
 謎キャラの詳細については突っ込まず、権田も淡々とビリィさんを突っ込んでいく。やがてぎっちりと、隙間なくビリィさんが鎮座する空間ができあがった。いつ見ても「地球外生命体」にしか思えぬ黄色い生命体(ゆるキャラ)であるが、連れ添ってきた妻の方はテレビで見て気に入ったらしく、家の電話機の隣に常備してあるメモ帳とボールペンがこのナマモノに支配されていた。
「わっちはぁ、ヒグマだモンの方が良いと思うのじゃ~」
「そうですか」
「ほらぁ、あの合間に何故か入ってる平仮名一文字がぁ、ドラ焼きが大好物でぇ、青タヌキと揶揄されているどこかの未来ロボットにクリソツじゃないですかぁ~?」
「外見は全然違いますがね。では地下の方に戻りますので」
「あ、はい。ゴンさんありがとうございましたぁ~」
 適当に会話を打ち切って、きびきびとエスカレーターを降りた。

 ――ゲームセンターと呼ばれる、ビデオゲーム筐体を取り扱った区画の客層は、主に二つに分かれる。
 良識のある客と、良識のない客。どこも同じだろと思われがちであるが、ワンプレイの料金が基本「百円単位」で存在するために、家族連れのファミリー層を除いては、悪い意味で客質が「それなり」なのだ。
 とりわけ頭が痛くなる区画だと権田が学んだのは、プライズゲームに続く売り上げを誇る『格闘ゲーム』、すなわち対人系のゲームである。
 これはハッキリ言って、客層が悪い。
 意外とガラの悪い客自体は少ないのだが、とかく、負ければゲームの筐体をブン殴り、靴底で蹴りつけ、喚き散らす「ガキ」がいるのが日常茶飯事だ。
 店内の爆音に負けじと、かな切りに近い奇声が上がるのもままあり、新作のゲームがリリースされると、わざわざ徒党を組んで自分たちだけで席の順番を回すという、マナー以前の行動を取る客もいる。
 社会で当たり前にまかり通っている『譲り合い』の精神は通用しない。わざわざ店側で看板を立て、予備の椅子を用意してやらねば、客は自発的に順番を守らない。
 ――こういうのが『玩具』で育った子供の、悪い癖だ。
 排他的で、わがままで、独占欲ばかりが強い。故に。
(年収一千万の『プロゲーマー』だかなんだかはしらんが、学校をサボってこんなところに来る奴は、所詮中身も同じだろう)
 権田はそう思っている。しかし、まだ人気のない地下一階、とりわけデカい大型筐体の一台に座っている少年は、この二ヶ月の間に権田の見る限り、一度もマナーを破った試しはない。それどころか基本的に一人である。黙々と、淡々とゲームを遊んでいる様に見える。おまけに彼が遊ぶゲームは只一つに決まっていた。

【 ナイト・オブ・ヴァーミリオン(KoV) 】

 【紅蓮の騎士】を意味するらしいそのゲームは、対戦ゲームのジャンルに位置するものの、権田の知る「ファミコン」や他の格闘ゲームとは一風変わっていた。少なくとも左手でレバーを握り、右手で四つだか五つだか存在する「ボタン」を同時に操作してキャラクターを動かすものではなかった。
 操作する対象は「カード」である。
 それは主人公を示す『プレイヤーカード』と、その主人公が支配する『使い魔カード』の計五枚でなりたっており、彼らはその組み合わせを『デッキ』と呼んでいた。
 カードの表面は、どれも著名なイラストレーター達に描かれた、迫力満点のイラストが飾られている。
 内側には極小の電磁チップと、認識用の磁気マーカーが塗布されており、巨大なテーブル状の専用筐体に並べていくと、椅子に座る少年の正面、巨大なモニター画面が更新される。

『プレイヤーカードと、使い魔カードを、正常に読み取りました』

 直後、最新の3Dテクスチャを反映した『プレイヤー』と『使い魔』たちが、ゲームの舞台となる戦場に登場する。
 キャラクターは『版面』上のカードと位置関係がリンクしており、コレを操作することによって、正面モニターに映るキャラクターもまた、攻撃や防御を行うという仕組みだった。
 さらに筐体自体がゲームをリリースする企業のサーバーとネットワーク回線で繋がっており、全国各地の『ゲーセン』に訪れたプレイヤー達が、リアルタイムで『マッチング』するという形式を取っていた。
(……玩具も高価になったもんだわ)
 権田は以前の会社では事務畑に居たこともあり、ゲームのソフトウェア、あるいはハードウェアに関する知識はほとんどなかったが、この筐体がとびきり高価なものであることは容易に予想がついた。
 実際、山根店長に値段を聞いてみると、ン千万余裕ですね。と返された。
 そんなものが、でんでんでんでぇーん、と四台も並んでいるのだ。
 ――はたして採算が取れるのかね、コレ。
 本体の電気料金も、筐体の維持のみならずネット回線を通じさせる分、バカ高くなるであろうし、なにより目玉であるのが『実在のカード排出』なのである。
 KoVを一戦遊ぶと、勝ち負けに限らず、一枚の『使い魔カード』が排出される。それらを特定の条件下で組み合わせ、オリジナルの『デッキ』として組み、全国対戦の場に再度赴くわけである。故に当然ながら『実物のカード』群にもコストがかかるわけだ。
 となれば。採算を取るには当たり前の話、一プレイの料金を上げるしかない。
(一回三百円、二回目が二百円か……)
 コンティニューした場合はそこで強制的に終了となり、使い魔カードが二枚排出される仕組みになっている。つまり処理ルーチン的には「五百円で二プレイ」が、基本料金の設定である。
 ゲームのワンプレイは最大でも十分で終わるように調整されている。よって試算していくと、客単価は一人頭につき「時間単価千五百円」。台は四台あるので四倍となり、六千円の純売り上げが見込める。
(……遊ぶ方は金をドブに捨てるようなもんじゃないか……)
 「よーしパパ課金しちゃうぞー!」とか言っていたバカ息子に、改めて小言を言っておこうと胸に誓う。

 午前十時十五分。
 まだ早朝で客がほとんどいないので、何気なく暇を持て余しつつ、権田はKoVの筐体の隣にある『メインモニター』を睨んだ。
 それは、街角でよく見る自販機の形状をしており、各プレイヤーのゲームデーターを記録する『ICカード』や、最初期の『スターターカード』を購入することが可能だ。そして特定の操作をしていない間は、前日の最上位プレイヤー達が対戦する『全国頂上決戦』がデモプレイ代わりに流される。
(しかしよくできとるわな。本当に)
 その映像を絶えず流すことで、未プレイのユーザーには「面白そうだな」と興味をもたせ、既プレイのユーザー達は全国どこの『ゲーセン』にいても、このモニターで毎日、最上位クラスの試合を観戦することが出来るのだ。
 店長の話によれば、このモニターの映像をデジカメ等で録画し、動画サイトにアップロードすることで、自宅でも気軽にコメント付きでゲーム動画を楽しめるのであるという。
(つまり、これまではマイナーであったゲームというものが、ネットワークと動画サイトという配信所を得たことで、改めて別の展開を見せる可能性があるわけか)
 畑違いとはいえど、それでも四十年も会社に勤めていれば、企業の意図は伺える。社会人をやっていれば、会議に一度や二度ならずとも顔を出すことになるし、付き合いで酒を飲めば無駄に色々と詳しくなるからだ。
(商品展開がユーザーの独自宣伝によって二次的に広がりを見せれば、まぁ確かに〝プロ〟が活躍する場面も増えるだろうな)
 商品で何より大事なのは。その「質」ではなく「認知」が先だ。
 中古ゲームや、基本無料をうたうゲームが溢れた現代で、わざわざ『ゲーセン』に来なければ遊べないものを好んで遊ぶプレイヤーというのは、それこそ激レアである。
 実際に興味をもったライトゲーマーも、毎回高額な料金が払えなかったり、そも毎日ゲーセンに足を運べなかったりで、一時的に熱中してもすぐに去ってしまうのが常だった。
 そんなヘビーゲーマー御用達のゲームとして進化した『ATCG(アーケードトレーディングカードゲーム)』は、最大のネックであった「一回のプレイ料金が高くつく」という弱点を、動画サイトで、誰もが気軽に共有配信することで緩和している側面が生まれていた。
 ゲーセンに行ってお金を払わなくても、自宅で動画を見る事で興味は継続される。するとヘビーゲーマーでなくとも、平日は片手間に動画を見て、休日にはゲーセンに行って遊ぼうかな。と思う者も現れる。何より一回三百円を払わずに、自宅で「予習」できる点は大きいのだ。
 そんな、短くも複雑怪奇な歴史が、この場所には存在した。

 *

 【ATTENTION! 対戦相手が見つかりました!】

 音声アナウンスが響くのと同時にゲーム画面が切り替わった。モニター画面の右下には『NOW LOADING』と表示された数秒間の暗転が続く。
 その直後、僕と対戦相手のプレイヤーデーターが表示された。

 【紅蓮剣帝】ToL-17 対戦数2,050 勝数1,750 負数3,00
 【王ノ剣】ぽにーるさん。 対戦数4,500 勝数2,250 負数2,250

 【CAUTION! 〝血戦投票〟が発生しました!】
 【ゲームマネーポイント(GMP)を賭けての勝敗予想が行われます!】
 【勝者は最大一割までのGMPを配当金として獲得できます!】
 【……対戦データーをネットワークに配信中……】
 【終了まで三十秒。集計しています。しばらくお待ちください】

 ――「KoV」の基本プレイ料金は、一回三百円、コンティニューに二百円。けれどその設定とは別に、GMPと呼ばれる専用のポイントに変換して遊ぶこともできる。
 金額に換算すれば通常の硬貨で遊ぶのと変わりはない。けれど時々ランダムに発生する血戦投票が発生すると、特定のネット回線を通じ、リアルタイムでそれを専用のアプリに知らせ、どちらのプレイヤーが勝つかをGMPを用いて賭ける、という遊び方が可能になっている。
 もちろん、予測した側が勝てば、その人のGMPは増え、負ければもちろん、賭けたGMPは還らず「ゼロ」になる。
 そして「賭けの対象」となった僕自身もまた、これに勝てば自分に賭けられた「期待値」の一割を無条件に頂けるというシステムだ。
(勝たなきゃ。絶対に)
 この特別試合に勝利すれば、僕は仮想マネーでの配当金を受け取れる。そのGMPを用いてゲームが【基本無料】に変わる。

 逆転の発想だ。
 プレイヤーである僕たち自身が、同じプレイヤーから搾取する。
 どんな世界でも、負けて得るものなんてない。綺麗ごとなんて此処にはない。

 ――僕は【ゼンイチ】だ。人から陰で笑われたって、今は確かにこの世界でお金を稼げている。称号の【紅蓮剣帝】は、ゲームシステム上に二つと存在していない。
 これは、僕だけが特別に得た称号なんだ。
 この店舗で開かれた六十四名の予選トーナメントを勝ち抜いて。次は県大会を勝ち抜いて。最後に選ばれた四十八人の「ランカープレイヤー」が集まった東京都内のホールで、たくさんの目と企業の人たちが注目する中で、僕は勝った。
 ネットの動画サイトでも公式で生中継をやっていた。ゲームプロデューサーさんから直々に「優勝おめでとう!」ってマイクを向けられた。檀上では「ありがとうございます」って口にするのが、本当に精一杯なぐらい、ふらふらした。
 それがきっかけで、僕は「プロ」になった。
 契約書類にサインをする時、喜びよりも緊張があった。
 高校入試の時も、全国大会の決勝も、始まる前には一度も震えたことのなかった手が、あの時だけははやる心臓に押された。線を歪ませない様に必死だった。
 後にも先にも、あの時以上に【自分の名前】を書くことに意識した瞬間ってない。でも本当に息苦しいのは、その後だった。
 ――「敗北」が許されない。
 負けてしまえば、ネットに上げられた動画で「オワコンだな」って揶揄される。さらに言えば、僕のちっぽけな名声だけならいいけれど。負けたら、このゲームセンターの筐体メンテナンスの状況が疑われる事だって皆無じゃないし、こっそり融通をしてくれる山根さんの期待も裏切ってしまう。なにより契約している企業さんからすれば、自分たちの「プロ」が負けて得をすることなんて何ひとつ無いだろう。
(だから、負けられない)
 KoVは、たった六枚のカードを駆使する対戦ゲームだ。基本的なデッキ構築はすべて出尽くされて研究が終わっている。特別に入手が難しいカードもなくて、僕たちランカーは、リリースされているカードはまずコンプしている。
 だから将棋や囲碁の場合みたいに、この戦いは基本的に平手になる。
 でもだからこそ、このゲームにある程度ハマっていて、最低限の知識がある人が見れば、ちゃんとその強さが際立ってくれる。
 僕が勝てば、ネットの人たちは「さすがゼンイチ強いなー」とかコメントして盛り上がってくれるけど、負ければ「これがプロゲーマー(笑)っすか」って袋叩きの一方に早変わる。
 プロなら、勝って当たりまえ。優勝して当たりまえ。言い訳するな。
 負けたら恥。晒し首。
 勝てないプロに価値はない。

 【集計が終了しました】

 ゲーム画面が切り替わる。僕の分身は戦場へと運ばれる。

 【 GET READY? 】

 さぁ。覚悟はいいかい?
 プレイヤー。 


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