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No.39877の一覧
[0] 鐘を鳴らして(ダークソウル)[海堂 司](2014/04/29 21:05)
[1] 鐘を鳴らして 回想1(ダークソウル)[海堂 司](2014/05/02 21:48)
[2] 鐘を鳴らして 病み村1(ダークソウル)[海堂 司](2014/05/03 19:56)
[3] 鐘を鳴らして 回想2-1(ダークソウル)[海堂 司](2014/05/10 04:16)
[4] 鐘を鳴らして 回想2-2(ダークソウル)[海堂 司](2014/05/17 18:06)
[5] 鐘を鳴らして 病み村2-1(ダークソウル)[海堂 司](2014/06/29 02:56)
[6] 鐘を鳴らして 病み村2-2(ダークソウル)[海堂 司](2014/07/20 12:17)
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[39877] 鐘を鳴らして(ダークソウル)
Name: 海堂 司◆39f6d39a ID:fc355867 次を表示する
Date: 2014/04/29 21:05
「…?」

 微かに聞こえてきた物音の方へと、視線を向ける。その動作で、ああ、今、自分は起きているのだなと、ぼんやりした頭に浮かんだどうでもいい思考が、まるで重たい歯車が回るようなきしんだ感覚を伴って、今、自分が座っている場所のような混濁した意識を覚醒させた。

 バシャバシャと音を立ててこちらに近づいてくる。明らかに人間の、それも生きている者が立てる足音だ。
 …いや、ここで『生きている』なんて言葉ほど意味の無い言葉も無い。まだ『亡者』に『なりきれてない』。と、言った方が正しいのだろうが、亡者であれなんであれ、少なくともそいつが自分の意思をまだ持っていることは、毒沼に足を取られつつも歩いて来ているのであろう、その足音からも分かる。

 亡者になりきってしまえば、その場から動くという事をしなくなる。ただ近づいてきた者からソウルを奪うだけの獣となる。そしていつか、死なないまま、朽ちていく。

 私はぼやけた目の焦点をそいつに合わせた。それと共に、ぼやけた意識も少しずつではあるが、ハッキリとしてくる。そいつは私の前で立ち止まると、黙祷でもしたのだろうか、少しだけ頭を下げ、手を胸に当てて、祈るような仕草を見せる。しばらくそのままでいたが、やがて顔を上げると、私の方へと手を伸ばしてきて―

「―何の用だ?」

 私が発した声に、まるで雷にでも打たれたかのようにビクリと体を震わせて、手を引っ込めた。それから私の事を観察するかのように、こちらを覗きこんでくる。

「こんなところまで来るとは珍しいな」

 再び発した声に、そいつはやっと、私が生きていると理解したらしく、無礼に対する詫びの言葉を述べてきた。どうも私を死体と勘違いして、何か無いか探ろうとしていたようだ。そこまで聞いて、私もそいつをまじまじと見やる。
 頭をすっぽりと覆っている兜は騎士のもののようだが、それ以外は、というか、身につけている防具の由来、その全てがちぐはぐで、まともな出自では無い事をうかがわせる。なるほど、私を死体と思って探ろうとしてくるわけだ。こいつはそうやって、ここまで来たのだろう。使えるものはなんでも使って、だ。

「そんな苦労をして、何をしに来たんだ? 私から炎の魔術― いや、呪術でも教わりたいのか?」

 呪術、という言葉を聞いて、そいつは首をかしげる。

「とぼけなくていい。感じるぞ。お前の内にある『火』の存在を」

 それでもそいつは、まるで見当が付かないとでも言うように宙に視線をさ迷わせていたが、やがて思い出したように私を見やると、ゆっくりとその右手を差し出してきた。そして一度強く拳を握り締め、ゆっくりと開く。その手のひらに浮かんだ光と熱は、間違いなく、その身の内に呪術の火を宿した者の証。

 なの、だが。

「…どうやら呪術を極めたいというわけではなさそうだな」

 そいつの『火』を見て、私は呆れたような声を出す。いや、実際に呆れていたし、久しぶりに見る他人の『火』がこんな物だった事にも、少しばかり落胆してしまった。まるで鍛えられていない。それでも何かその身に収めた呪術はあるかと尋ねると、『発火』を教わったと答えた。初歩の初歩もいいところだ。その気も無いのにどうして呪術の火を宿しているのかと再度尋ねると、どうもこいつが助けた呪術師から、お礼代わりにと受け取ったらしい。
 使えるものはなんでも使う。それがこいつのやり方なのだろうと、その身なりから推察できてはいたのだが、あまりにもなんでもすぎやしないだろうか。別にこいつに何を期待するわけでもないし、その理由も無いのだが、それでもこの一連のやりとりで一つ二つ、ため息が出る程度には、私にとって呪術は特別なものだったようだ。

 そう。このような身に成り果てても、そのわずかな熱と光は、私にとってはかけがえの無い物なのだから。

「改めて聞くが、呪術が目当てでないとしたら、何をしにこんなところまで来たんだ?」

 鐘を鳴らしに。当たり前のように答えたそいつに、私は一瞬、言葉を失った。

 鐘を鳴らす。そう、私の呪術が目的でないのならば、不死がここを目指す最も大きな理由はそれなのだということを、私はそいつの言葉で思い出した。この地にある二つの鐘を鳴らして、その先にある神の居城を目指す。亡者になりたくなければ、そうやって進んでいくしかない。だが、私の知る限り、そこまでたどり着いた者はおろか、二つの鐘を鳴らした不死など存在しない。だからこそ、私は三度、同じ質問を繰り返した。すまないがもう一度答えて欲しい、何をしにここへ来たのか、と。そしてそいつの答えも同じだった。鐘を鳴らしに、と。

 …いや、少しだけ、言葉が付け加えられていた。そいつはこう答えたのだ。鐘を鳴らして、不死の使命を果たすという、『約束』を守るために、と。

 約束。その言葉に、私の中で何かが熱を帯びる。この身の内にある『火』とは、また別の何かが。突然のその感覚に戸惑いながらも、私はそいつに語りかける。

「ここまで来たお前ならば察しはついているだろうが、容易な事ではないぞ」

 分かっている。何を今さらといった様子で、しかし何かの覚悟を決めた者のみが持つ雰囲気を纏わせて、そいつは答えた。そうか、そうだろうな。心の中で、私はつぶやく。こいつはこうやって、戦ってきたのだろう。歩いては倒れ、歩いては倒れて、それでも諦める事を頑なに拒絶して、さらに先へと。しかしこの先に待ち構えているのは―

 ―私が『その事』をこいつに言うべきかどうか迷っているうちに、それでは、と頭を下げられた。また会いましょう、とも言われた。そして結局、何も言えないまま、そいつの背中を見送る事となってしまった。そして、そいつが私の元から姿を消して、どのくらいの時が経ったのか。鐘の音は聞こえないままだ。
 ダメだったか、という落胆と、それはつまり、『そういう事』なのだという安堵感の両方が、再び混濁した意識の中を這いずり回っている。もっとも落胆などできる立場でもない。わたしは結局、あいつに何もしていないのだから。呪術はもちろん、鐘の元へ進んだ先にある危険すら教えていないのだから。

 変わらない。何も、変わらない。私は結局、何も変わらず、何も変えられないまま、永遠に私の意識と同じように、光さえも差さない混濁した毒の沼地の中で、ずっと、ずっと、この場にあり続けるのだろう。

 あの日のまま、ずっと。

 と、いいかげんあいつについて考えるのも億劫になり、記憶にとどめておくだけにしようかと思ったその時だった。

 姉さん。

 混濁した頭が爆発しそうな衝撃だった。

 姉さん。

 忘れない。忘れられるはずも無い。私を姉さんと呼ぶその声、その口調。私は今までに無いほどの勢いで意識を覚醒させ、声のしたすぐ目の前を見やる。

 いた。間違いなく、あの日の姿のままで、そこにいる。少しばかり勝気なその容姿。ずっとずっと会いたいと思っていた妹が、そこに立っていた。私は思わず、その妹の名を呼んだ。いや、呼ぼうとした。けれども―

「お、おおお、おおおおおお」

 ―私の口から出るのは、まるで意味を成さない、嗚咽とも咆哮とも取れるうめき声。そんな醜態をさらす私に、少しばかり困ったような笑みを浮べて、妹は言う。

 来たよ。来てくれたよ。姉さんが、あたし達がずっと待ってた人が。

 そう言い終わると、消えた。幻のように、消えた。火が吹き消されるように、消えた。全ては、儚いと呼ぶにはあまりにも短い、それこそ夢のような出来事だった。それでも、

「おおおー ああうー」

 私は狂ったように声を上げ続けた。声を上げながら、妹が立っていた辺りを、必死で探る。何も、無い。足跡も、残り香すらも、何も無い。いや、無いはずが無い。だって、だって、

 妹は確かに、そこにいたじゃないか!

「ああああうおおあああああー!」

 意味の無い叫びを、私は空へ向かって放ち続ける。空とは言っても、太陽も月もない、臭気で淀んだ暗闇でしかないが、それでも私は、ありったけの力を込めて叫んだ。叫んで、叫んで、そして気付いた、私の頬を流れるそれに。
 恐る恐る、私はそれに指先で触れる。触れて、濡れている事に気付いて、それが悔しくて情けなくて、私はまた叫び声を上げる。

 叫んで、叫んで、喉がどうにかなるんじゃないかと思うくらい、そんなことはどうでもいいと思うくらい、叫んで、叫んで、叫び続けて、そしてその叫び声をかき消すかのように、鐘の音が鳴り響いた。



 この淀んだ地には、あまりにも不似合いな程に澄んだ鐘の音が。






〈ネタバレなあとがき〉

 どうも、海堂 司です。
 ダークソウル3大ヒロインの一人、クラーナ師匠のお話です。ちなみに他の二人はレア様と用水路のBBAです。異論は認めます(笑)

 めっちゃ久しぶりの投稿になるのですが、やっぱりSS書くのもスキルが要りますよね。最初書いたとき、見直すと報告書みたいになってました。

 でまはた。


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