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No.39768の一覧
[0] 分裂少女【もう一人の自分と百合】[一兵卒](2014/05/05 00:25)
[1] 分裂少女 第2話[一兵卒](2014/04/12 20:28)
[2] 分裂少女 第3話[一兵卒](2014/04/19 20:26)
[3] 分裂少女 第4話[一兵卒](2014/05/05 20:24)
[4] 分裂少女 第5話[一兵卒](2014/05/24 20:26)
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[39768] 分裂少女【もう一人の自分と百合】
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede 次を表示する
Date: 2014/05/05 00:25
初投稿 2014/04/08 01:43
※以前投下したものとは内容変更して再投稿










20XX年
●月▽日


突如、日本に住む人間が二人に『分裂』した。


容姿は勿論のこと、性格、思考、記憶、心理状況における内部に至るまで、すべてが全く同じ人間がもう一人増えた。それは一人の人間が二人に分裂したかのような出来事だった。それは、日本という国全ての根源をひっくり返すような出来事となる。日常生活はおろか、国のかじ取りである政治家でさえ二人に分裂したことで、国家自体が、機能不全を起こす寸前にまで追いやられることとなる。さらにいえば、

日本の総人口 1億2729万8千人 ×2

日本と言う島国において、その人口の突如の倍増に関して対処することはできない。
それらは経済の悪化を招き、日本と言う国の存亡にかかわる大問題となった。


『分裂事件』1か月後
政権与党総裁(首相)室


「……今や、これしか方法はないのです。首相……、いえ首相たち。私が提案しました『対分裂事件における人口抑制法案』これを認めていただかなければ、我が国家は、それこそ何百万人もの人間が餓死することになりかねません。私の提案を支持していただければ、国家プロジェクトとして、遂行し、数年危機的状況化から脱却することが可能となります」
「……年長者における安楽死法案では」
「どうすることもできないのかね?」

 二つの同じ影から同じ声色で言葉が出る。

「確かに、老人たちを安楽死させ人口削減を行う。高齢化社会における日本では、一定値での効果を得られることはあるはずです。ですが、それでも足りません」
「「……やむをえないか」」
「ええ、やむをえないのです」
「君は、当時米国にいたからこの危機から逃れられたと言っていたね?」
「私達の気持ちがわからないのではないのかい?」
「ええ、わかりません。だからこそ……第三者として判断することができるのですよ」

 黒髪のオールバッグの男は、首相からのサインを得るとサインされた紙を持ち、首相のいる総裁室から出て行く。






分裂少女





Ep1 戦争前夜




Side高田ホノカ&高田ホノカ




「おはよう~~」
「おはよう!」
「おはよ~」


 都立第三女子中学校校門前……。
 黒髪に、耳にかかるほどの髪を風になびかせながら手提げの荷物を持つブレザー服の少女=高田ホノカ。彼女は、自分の前を通り過ぎていく別クラスの生徒たちを見つめながら、笑顔であいさつを交わしていた。中学3年A組のクラス委員である彼女は、誰からも愛されている存在であった。そんな彼女はあの日……世界が一変してしまったあの日からも変わらない。隣に立つのは、自分と全く同じ姿をした、もう一人の自分の姿。もう一人の自分もまた、同じように自分の方を向く。最初は……正直戸惑った。それは、誰もがそう思うだろう。自分を好いてみようなんて人はそうはいない……ホノカもまた、そうだった。自分のイヤなところばかり目に映り、見たくないと思ったこともあった。でも、それも徐々に慣れていけば……双子の姉妹ができたと思えるようにもなれた。同じ自分だからこそ、イヤナところは当然目に入る。そこは直していこうと、彼女は前向きに考えた。だから、今では、こうして一緒に登校できている。

「明日は修学旅行……折角だから、いい思い出いっぱい作りたいもんね」
「そうだよね……出来るなら、忘れられないくらいの思い出をね」

 顔を見合わせながらホノカ同士で笑い合った。下駄箱にと並び、同じ下駄箱にと靴を入れる。突如分裂してしまった以上、増築は難しい。下駄箱には上履きを二ついれて、外履きと入れ替える形で使うようになっていた。学校の備品はこれ以外も足りていない状況となっている。私達は並びながら教室にと向かう。教室に向かうまでの光景としては、同じ顔をした少女たちが並んでいたり、同じ顔の少女たちが言い争っていたりなどという光景。それは今みても異様な光景に見える。そして、それはホノカ達の教室の前でも変わらない。

「「おはよう」」

 重なるホノカ達の声。
 ホノカ達を見るクラスメイト……それらは、ペアを組みながら同じ顔が並んでいる。分裂した彼女たち……これが当たり前になるには、まだ時間が必要だろう。ホノカ達は、自分たちの席にと荷物を置く。同じタイミングで、同じように座るホノカ達。それはお互い意識してなんかじゃない。意識しないからこそ重なってしまうのだ。何から何まで……。ホノカ達は、机にと教科書などの荷物をいれる。

「「ホノカ~~~!!」」

 大きな声に、ホノカはその声に、思わず机の裏に頭をぶつけながら、痛みに片目を閉じ、自分の頭を撫でながら顔を上げる。目の前にいたのは、自分の机にと両手を置いて顔を近づける金髪の少女=渋谷ジュリである。ジュリは、カラコンをいれて、その大きな瞳をブルーに輝かせながら、隣にと腕を伸ばす。

「「聞いてよ!ホノカ!こいつ、私の彼氏に手出したんだよ!?」」

 ハモるジュリの声。
 その声にジュリ同士が隣にいる相手を睨み付ける。

「はあ!?なにいってんのさ!?そっちが先に手だしてきたんでしょうが!!」
「そっちこそなにいってんのよ!!私が、帰ってきたときにおっぱじめてたのはそっちじゃん!」
「なっ……あんたの彼氏が私が相手だと気が付かなかっただけでしょうが!それに、そっちだって、私の彼と一緒に手つないで帰ってきてたし!!」
「それはあんたの彼氏が、私が別のジュリだってわかってなかったのがいけないんだよ!」

 ジタバタ暴れている二人のジュリの両腕を掴んで一触即発状態の二人の身体を引き離すのは、バスケ部で黒髪短髪、背は173センチと高い日暮里シズクである。二人は互いを見ながら頷き合いながら、手足をジタバタさせるジュリをしっかりつかんで離さないようにしている。そんなやり取りを見ていたホノカは、シズクを見る。

「彼氏がジュリの見分けをつけられてないみたいなんだよな」
「まあ、こうなっちゃった以上、見分けろっていうのも無理な話だと思うけど」

 二人のシズクはため息をつきながらホノカ達にと告げる。そんなシズクの言葉に、暴れているジュリは、目の前のジュリを掴んでいるシズクを見て

「なに?!じゃあ、私達で彼氏を共有しろっていうわけ!?」
「どっちが本当に好きかもわからない男とやれってこと?!」
「どっちもジュリなんだからいいじゃん」
「そうそう、ジュリもジュリだし、ジュリだってジュリなんだから変わらないよ」
「「変わるの~~~!!!」」

 二人のジュリはわがままになりながらそう大声を上げる。ホノカ達は、苦笑いを浮かべる。

「結局さ、ジュリ」
「彼氏どうしたの?」

 2人のホノカが問いかけると、暴れていたジュリの手足の動きが止まる。

「「別れた」」

 落ち込んだ表情をするジュリ達に、ホノカ達は顔を見合わせる。そこで二人は気が付いた。先ほど机に頭をぶつけて抑えていたことを相手もまったく同じようにしていたことに。行動もまた同じ……自分たちに差異など存在しない。存在しない……ならば、どうして私達は、二人いるのだろう。二人いる必要が本当にあるのだろうか。ホノカ達は心の奥底でそう思った。同じすぎて……一緒過ぎて……。

「おはよう……委員長」

 ホノカ達の隣を通るのは、耳にかかるほどの短髪に眼鏡をかけた少女=神田メイサ。ホノカのことを委員長と呼ぶ彼女は、独特の雰囲気を持っており、何を考えているかわからないとクラスメイトからは思われている。ジュリとシズク達もまた、メイサを見つめている。

「「あんた、相方はどうしたの?」」

 シズクの問いかけ。
 相方=分裂したもう一人の自分と言う意味だ。シズクの問いかけに、メイサはシズクにとその顔を向けた。眼鏡の向こうにある瞳、その鋭い目つきは、まるで獰猛な蛇のようなギラついたものだ。メイサは、シズクの言葉に対して口をあける。

「さあ。いつも一緒に行動をしている必要なんかないから。あいつが、どこでなにをしているかなんて知らない」
「「冷たくなーい?」」

 メイサの言葉に、ジュリ達が声をそろえてメイサにと言う。こんなときだけ二人の息はピッタリだったりする。自分の机にと荷物を置くメイサは大きくため息をつきながら、ジュリやシズク、ホノカ達にと振り返った。

「自分と仲良くしている奴の方がどうかしてるわ」

 メイサはそれだけ言うと、自分の席に座った。

「なになに、あの言い方、よっぽど自分と仲が悪いみたいだね」
「ほんとほんと、あんだけ嫌い合ってたら、これからの生活どうしていくんだろうね?」
「「それはあんた達の方だろうが!」」

 2人のジュリがメイサにと背中を見せながら、ヒソヒソと話をしている。そんな話を聞いた、シズク達が二人の頭をはたいて突っ込みをいれている。ホノカ達は、メイサの方にと視線を向けた。いまだ、もう一人のメイサが来る気配はない。彼女のように、もう一人の自分に嫌悪するものは珍しくはない。それは誰だって最初はそうだからだ。だが、皆、それを徐々に受け入れていく。だが、メイサは違うようだ。彼女は、そういった考えを最初から持っていないのかもしれない。明日からの修学旅行では、部屋は各自、もう一人の自分と二人一組での部屋だというのに……やっていけるのだろうか。ホノカ達は、そう思いながらメイサを見つめていた。



Side 神田メイサ&神田メイサ



 狂っている。
 狂っている。

 どいつもこいつも。

 皆、狂っている。

 どうして、もう一人の自分と仲良くすることができるのだろうか。こんなみすぼらしく、弱く、どうしようもない相手と一緒にいることなどできるはずがない。一緒になんていれるはずがない。みんな、わかっているのだろうか。それを……。同じ存在が二つ、一緒にいて成り立つはずがない。なぜならば、それは重なり合っているから。同じ存在がいることで、得をするものなどない。どちらも互いに影響を与え合い、対消滅する。それが自然の摂理なのだ。それがわからないまま、みんな勝手気ままに、仲良くしている。

「……」

 屋上にて、本を片手にしながら手すりを掴んで、自分の教室を見るメイサ。窓側の席にいるもう一人の自分をその視界にと捉える。そうだ……こうして私達は離れていた方がいい。互いにその方が気が楽だ。私達は、互いが嫌いだ……。だから、これでいい。

「なにしてんの?メイサ?」
「こんなところで、サボりだなんて、優等生には珍しいじゃん」

 振り返ったメイサの前にいたのは、電子楽器部でギターを弾いている目黒アヤナの姿。二人は肩にギターを紐で結んで担ぎながら、メイサにと声をかけた。メイサは、並んでいる二人のアヤナ二人を見ると視線をそらす。

「よく一緒にいられるわね」

 メイサは、思わず思ったことを口にと出してしまった。感情が高ぶっていたからかもしれない。でも、それは彼女の本音……言ってしまったからには後悔はしない。メイサの言葉に対して、アヤナは顔を見合わせた。そして、クスリと笑みを零す。メイサは顔を上げて二人のアヤナを見た。アヤナ二人は、メイサを見つめる。

「まあ、最初は気持ち悪かったけどね」
「慣れていったよ。今では、欠かせない存在だし」
「ちょっと!やめてよ~ナルシーみたいだから」
「だって、そっちだってそうでしょう?」
「うっ……否定できない」

 アヤナ二人は面白おかしく談笑をしている。アヤナ二人は、そこで顔を上げて再度、メイサを見た。

「どうして?どうして、そんな受け入れられるの?」
「……自分を受け入れればいいだけじゃない?」
「そのまんまでしょうが」

 アヤナ達は、そう言い合いながら、面白そうに笑い合っている。まるで仲の良い双子姉妹かのように……。自分相手に?いいえ、自分だからこそか……。メイサは、もう一度、教室の中にいるもう一人の自分を見つめる。メイサは鼻で笑いながら、視線を戻し、2人のアヤナを割って屋上の出入り口にと向かって歩き出す。

「私にはできない」

 メイサは、そうつぶやきながら、校内にと戻る階段にと向かっていった。

「できる訳ないじゃない……」

 私は、私が嫌い。
 だから、あいつも私も、お互いが嫌い……。
 一緒になんていたくない。
 顔だって見たくない。

 教室で授業を受けているあいつの前にはいきたくなくて、だから、仕方がないから私は、校内を歩き回る。今度の休み時間に私がいけば、もう一人の私が空気を読んで、私の代わりにどこかにと行ってしまう。顔を見合わせないだけで思っていることは一緒だから、そこは互いの空気を読み合っているのかもしれない。

「「はあああ!!」」

 剣道場で聞こえてくる声に、メイサは、顔を覗かせた。
 そこには剣道着を着た二人が竹刀を振り合っている。同じ姿をしているもの……ここからでは、中身が誰かなど分からない。メイサが顔を覗かせたことに気が付いたのか、竹刀を打ちつけ合った二人は、メイサを見ると、剣道の防具である面をとる。そこに現れるのは、学年1の美少女と言われている秋葉原サアヤだ。彼女は、メイサを見る。

「「何か用か?」」

 重なる声。
 メイサは、そこで二人が、ともにサアヤであり、互いを相手にして剣道で戦っていたことに気が付いた。その整った顔立ち……まるで人形のようだ。それが二つもあり、並んでいる。唯一の美少女であるがゆえに価値があるのに、それが二つもあれば価値も半減だ。結果、彼女たちは明らかに損をしている。それを考えても、この状況を受け入れているのは、まともな神経とは思えない。

「いいえ……孤独だと思っていた貴女も、自分相手には仲良くしているのね」

 メイサの言葉に、サアヤ達は、互いを見る。

「「おかしい?」」
「おかしいわね」

 メイサは、サアヤ達を見つめながら、言葉を続ける。

「目の前にいる奴、そいつは……貴女の人生を、貴女の存在を邪魔するものよ!!貴女は今まで、これからも一人で生きていける存在だった。それが、同じ道に、同じ居場所にもう一人割り込んできた。それが意味をするのは己と言う存在を奪い合うということよ!邪魔でしょう!?おかしいじゃない!!」

 メイサは剣道場に響くような声で言う。そして反響する自分の声に、自分が興奮していたことに気が付いて、視線をサアヤから外した。それは、興奮した自分に恥ずかしさを覚えたからだ。

「「楽だからだ」」

 メイサの問いかけに、サアヤ達から帰ってきた声は一言だけだった。メイサが顔を上げるときには、既に二人は再び面をかぶりなおしていた。メイサは、その彼女の言葉の真意が掴み兼ねる中、静寂に包まれた空間の中で、再びサアヤ達が、竹刀を打ち合う音が聞こえてきて、その場所を後にした。

「……どいつも、こいつも狂ってる」

 メイサは、そうつぶやきながら、教室に戻っていく。もうすぐ1限目が終わる。入れ替わる時間だ。階段を上り、誰もいない廊下を歩いていく。静寂に包まれたその場所で、教室の扉のガラスから教室の中をのぞく。その教室も、一つのテーブルに二人の同じ人間が座って黒板を見ている。全く同じ姿で、全く同じ姿勢で……。

 チャイムが鳴る。

 教室から出てくる生徒たち。

 そして、その中にいた私……。

 彼女は、私を見つける。同じ私同士で視線を重ね合う。同じ顔の私達が互いを見つめ合う。私達はすぐに視線をそらし、彼女は人の雑踏に巻き込まれて消えていき、私はその足で教室にと向かっていく。


狂ってる。

この世界は狂ってる。




Side 秋葉原サアヤ&秋葉原サアヤ


 シャワーを浴びたサアヤ達は、肌色の素肌を晒し合う。同じ互いの裸を見て恥ずかしがる必要はないから、特に隠すこともなく、サアヤ達は、手を伸ばして、下着を掴み、長い脚にと下着を通す。黒い上下の下着を身に着けたサアヤ達は、その豊満な胸を仕舞い込みながら、ワイシャツにと袖を通す。剣道部室にあるのは、部室特有の匂い……香水とか、汗とかそんな匂いがする。今の私達は、シャワーを浴びた石鹸の匂いが、互いからしている。サアヤは、スカートにと履きかえながら女子中学生の姿にと早変わりする。サアヤ達は、互いの方を見て、衣服の確認を行う。鏡を見るよりはっきりとわかる。サアヤは、自分のワイシャツの第一ボタンを指させば、同じように目の前のサアヤも指を差す。どうやらボタンが取れかかっているようだ。サアヤ達は、小さくため息をつきながら、ボタンを取ると、それをポケットにしまう。濡れた長い髪の毛をタオルで拭うと、部室から外にと出た。
 そこに立っていたのは、先ほど出逢ったメイサ。サアヤ達は、メイサの姿を見て首をかしげる。まだ何か用があるのだろうか。サアヤ達は、不思議そうな顔を見せる。

「孤独だと思っていた貴女も、自分相手には仲良くしているのね」

 それはつい1時間ほどまでに言われた言葉だ。

「……お前、もう一人の方か?」

 サアヤの言葉にメイサは、自分の額を片手で抑える。

「此処に来て、私は同じ質問を貴女達にしたのね」
「一言一句同じ問いかけだ」
「……」

 サアヤ達は、メイサの隣を通り過ぎていく。サアヤ達は、同時にメイサのほうにと振り返った。メイサは、額を抑えたまま、動かずにいた。サアヤ達は、気にかけることもなく、そのまま剣道場を後にする。分裂したもの同士は、極端にわかれる。メイサみたいに、互いに自己嫌悪している者たちは、互いを嫌い合い、離れ合おうとする。理解はできる。自分が嫌いな奴が山のようにいる。目の前にいる自分を見たいと思う奴は多くはないかもしれない。だが、離れようとしても離れられないのだ。分裂は、その細部に至るまで完全に同一であり、言葉がハモるのもいつものこと。こうして離れようとしていても、互いの行動はシンクロしており、離れている相手と同じことをしてしまうのだ。それは、無意識にとる行動も、意識的に相手と違うことをしてやろうと思ったとしても、それは相手も同じ思考であるが故、シンクロする。メイサもまたそうだ。もう一つのパターンは、私同様、授業サボリの常習犯であるアヤナのように、極端に仲良くなるパターンだ。アヤナがナルシストかどうかはわからないが、分裂して以降、二人は互いと一緒にいることが極端に多くなっている。同じ自分だからこそ、気が許せるのかもしれない。どちらかといえば、私達も、それに当てはまるのかもしれない。私達は、こうして一緒にいることが楽だと答えた。好機で満ちた目で見られることが、彼女と間ではないからだ。身長165センチ、B87W56H83の体型と言い、自分で言うのも変だが、雑誌モデルとして、いや下賤な話で言えば、街に繰り出せば何人もの男に言い寄られる姿と顔と言い……私はいつも好奇な目で見られていた。

「あ、サアヤ~~!」
「おはよ~~サアヤ」

 挨拶をしてくるのは、私と同じ雑誌モデルの池袋ナミという女。こいつは私とは違う方向性で自分を保っている。彼女はタバコを吸いながら片手で携帯を弄っている。彼女は売春の斡旋や、売春をしにきた男から金を巻き上げる犯罪行為。こいつは、自分の抑えられていた欲求を、分裂したことで、よりその箍が外れてしまった女だ。一人では怖いことでも、二人であれば怖くないという考え。雑誌モデルと言うストレスを彼女は、人にぶつけることで、発散をしていた。
 人にぶつけるなんて言う器用なことができない私。周りからの視線がイヤで仕方がなかった私は、ストレスを発散することもできないままでいた。だからこそ、ストレスを極力減らすために私は孤独を選び、部活でストレスを発散させる。それが一番楽だったからだ。それがこの分裂現象により、同じ自分が目の前に現れたことで、私は孤独ではなくなった。同じ想いをしている私がいることで、私達は互いを理解し合え、互いの想いを汲み取ることができた。自分のことは自分が一番よくわかる。
サアヤ達は、教室にと向かう中で肩が触れ合うことに気が付いた。互いをふと見るサアヤ達。触れ合う肩から伸びた腕が重なり合い、サアヤ達は、その絡ませた腕をそのままにして、指をからめ合う。からめ合った指は同じ私のもの。それを人差し指同士でからめ合いながら、手を握り合う。

「「……」」

まるで互いを引き合っているかのような錯覚にさえ陥ることがある。分裂した私達の身体は、分裂したからこそ、互いを引き合っているようだった。剣道部の道場がある体育館から、校舎にと向かう路地にて、サアヤが隣を歩いていたもう一人のサアヤを壁際にと押し込む。押し込まれたサアヤは抵抗することもせずに壁に背中を押し当て、目の前で自分を見るサアヤを見つめる。その瞳はしっかりとサアヤを映し出していた。鏡で見るよりも、ずっと近くで、自分を見つめる。

「……シャワーじゃ足りなかったか」
「……それはお前だろう」

 そういうと目の前で見つめているサアヤが全身を押し付けてくる。服がシワになるのも忘れて、全身を押し付け合いながら、頬同士を押し当てながら、互いの耳元に口を寄せる。口から漏れるのは熱い息……私達はお互いにその息を漏らし合う。背中を押し付けていたサアヤも壁と背中に僅かな隙間を生み出しており、それが二人が身体を強く密着させていることを示している。

「「ん……」」

 二人のサアヤは、顔を離し、もう一度、お互いを見る。身体が火照っている。同じサアヤ同士、身も心も近づきたいと、重なりたいと叫んでいるのをサアヤ達は知っていた。そして一度そうなれば、意識を失う寸前まで互いを求めないと静まらないことも、サアヤ達は知っていた。三度や四度じゃない……もう数えきれないほどに。

「「きゃ……」」

 短い悲鳴に、二人のサアヤは顔を向けた。そこに立っていたのは、小柄な女子である品川ミスズ達だ。彼女は、二人のサアヤが、絡み合っている姿……壁際に体を押し付け合い、スカートからはみ出した太腿同士を絡ませ合い、長い髪の毛同士が重なり合うその妖艶で扇情的な姿を見て、声を漏らしてしまったようだ。サアヤ達は、誰かに見られたことに対して驚きも、戸惑いもすることなく、ただゆっくりと体を離すだけだった。

「……ご、ごめんなさい」
「悪気はなかったんです!」

 そういって、二人の品川ミスズ達は、狭い路地を……二人のサアヤの後ろを通り過ぎていく。彼女たちは、イジメられている。相手はあの雑誌モデルである池袋ナミだ。あいつは、そうやって他人にストレスをぶつけていく。ある意味羨ましいのかもしれない。サアヤにはそれができないのだから。二人のサアヤは、走って行ってしまったミスズの姿が消えていくのを見つめる。

「「……所詮、私達は見世物か」」

 二人のサアヤが同時につぶやく。



Side 池袋ナミ


「っせぇーんだよ!!」

 地面にと尻もちをつくミスズ達。そんなミスズをけり続けているナミ。彼女は靴で彼女たちを蹴りつけている。声を上げようにもあげられないミスズ達。ナミは雑誌モデルでもあり、小柄で可愛い顔から読者投票でも上位に上がるほどの売れっ子モデルである。それが、学校の内部ではこうしてイジメの主犯格であるとはだれが思うだろうか。蹴りつけているナミの背後から、もう一人のナミが、彼女の背中に体を押し付け、お腹にと細い腕を回しながら抱きしめる。肩の上にと顔を乗せれば、同じ顔が二つ並ぶ光景が出来上がった。きっと、彼女たちがイジメなどをしていなければ、この姿だけできっと雑誌の表紙が飾ることができるだろう、

「やり過ぎちゃだ~め」
「わかってるけどさぁ、こいつら見てるとムカツいてくんだよ」
「わかってるよ、なんていったって私とあんたは同じなんだもん。あんたの気持ちはいた~いくらいよくわかるわ」

 二人のミスズのイジメが始まったのは、分裂事件直後から、その前までは巣鴨ミオをイジメていた。理由は簡単、イジメやすそうだから、巣鴨ミオもそう。やめたのだって、その時の気分。ナミ達は、行き当たりばったり、周りからもてはやされる感覚に酔いしれていた。家が金持ちだっていうこともあったのか、ナミ自身、自分のもう用に物事が動くことが楽しくて仕方がなかった。万引きとかもしたことあったけど、今じゃそれじゃあ我慢できない。こうして一緒にいてくれる奴がいれば、どんなことだって出来る、そう思えたんだ。親はいつもいな来て、家政婦しか話し相手はいない。そんな家政婦だって、自分のことは何でも聞いた。どんなことだって。ナミには友達がいなかった。部屋で一人、そして学校で一人、仕事場で一人……、誰かにかかわりたい。誰かに触れてほしい。ナミには人と接する方法が分からなかった。

「ねえねえ、脱いでよミスズ」
「「え?」」
「早くしてくんないと、また蹴っちゃうよ?」

 ナミの言葉に、ミスズはあわてて服を脱ぎ始める。二人の足には生々しい蹴られた跡の傷が付いている。ナミ達は、下着姿になったミスズを見つめながら、頬を寄せ合って面白そうに見ている。小柄である彼女はナミのような胸の大きさは持ち合わせてはいない。ナミ達は、お互いを見つめ合いながら、笑みを浮かべ合う。

「「だめだめ」」
「全部」
「脱いでよ」

 二人は悪魔のような目で告げる。驚き、恐怖するミスズ達に対して、ナミは首をかしげる。足りないといっている。もっともっといっている、早くしろと言っている。

「「わ、わかりました」」

 ナミ達には怖いものはない。二人でいれば何でもできる。どんなことだって、怖いことだって、二人でいればなんでもやってのける。服を脱がせ、震えるミスズ達を見つめながら、ナミ達は次々と過激なことを要求していく。

「レズってよ」
「キスしてさ」
「おっぱい揉み合って」
「舌絡ませ合って」
「写真撮っちゃおうよ」
「だめだめ、ナ~ミ、録画っしょ?」
「ククク、さすが私わかってる」
「んで、ネットでばらまく」
「だめだめ、ナ~ミ、校内っしょ?」
「フフフ。さすが私わかってる」
「んじゃ」
「両方ってことで」

 次々と出てくる二人の要求に。ミスズの顔は青ざめていった。




Side 高田ホノカ&高田ホノカ


「みなさん!!いよいよ、明日は待ちに待ったぁ~~~」
「修学旅行っどぅえぇ~~っす!!!」

 テンション高く黒板を叩くのは、修学旅行実行委員のツインテールが特徴の代々木マツリである。彼女たちは、小柄な体をぴょんぴょんと跳ねながら、席にと座っているクラスメイト全員を見つめながら話を続けている。そんな五月蠅い二人に、メイサ達は顔を背け、ホノカは苦笑いを浮かべ、ジュリは耳を指でふさいでいる。

「いいですかぁ!?明日は、朝8時に学校からバスで駅にと向かいます!なので、皆さんは、7時半には、教室ですからね!」
「遅刻厳禁ですから!気を付けてくださいよ!遅刻したらおいて行っちゃうんですからぁ~~!!」
「「はーい!」」

 手を上げるのは池袋ナミ達である。可愛らしい声を上げる彼女に対して、二人のマツリがバシっと指を差す。

「「はい!ナミさん、なんでしょう!」」
「「だるいんで、休んでもいいですか??」」
「そんなの……」
「ダメに決まって……」

「駄目です」

 マツリの言葉を遮るようにして、はっきりとした声で告げるのは担任である柏木ユキノだ。彼女は笑顔で、はっきりとナミに向けて言う。ナミはつまらなそうに、席についた。ユキノは、クラスの面々を見つめながら口をあける。

「今回の修学旅行は、単位も兼ねているわ。もし、万が一、遅刻、お休みがあれば、留年すると思ってください。必ず出席するように」

 ユキノの言葉に、クラスメイト達はガヤガヤと声を上げる。それは修学旅行に対しての重きが異常だからだ。確かに、出席は当然だし、ナミの言っていることを認めるのは論外だと考えても、ユキノのあの言葉は、まるで強制だと思わせるような言葉。ホノカは、一番前の席だからこそ、大きな声を上げることができなかったが、隣にいるもう一人の自分を見つめる。同じ想いだろうからか、相手も自分と同じように自分を見つめている。

「「では、皆さん……明日は無事、誰ひとりかけることなく、修学旅行に行きましょう!」」

 マツリの声が教室にと響き渡る。
 チャイムが鳴り、皆が教室から出て行く。

「「帰ろう~~!ホノカ~ズ!」」

 駆け寄ってくるのはジュリだ。ホノカ達は、ジュリの呼び方にため息をつきながら、

「「なによそれ」」
「いいじゃん!新しい仇名!」
「我ながらいいセンスだと思うんだけど?」
「「ただ複数名にしただけでしょう?」」
「まあまあ、早く帰ろう!」
「私ら、まだ全然、準備していなくてさ」

 頭をかきながら、笑っているジュリ達。相変わらずのジュリの性格に、ホノカは笑ってしまいながら、荷物を片付けて、立ち上がる。ホノカは立ち上がり教室を見回す。普段ならみんな、部活にと向かったり、勉強をしていたりとしているようだが、今日に限っては帰宅部、勉強している子たちも、みんな帰っているようだった。明日は修学旅行、めいいっぱい楽しまなくちゃいけない。速く寝て明日に備えないと。

「ほらほら~急ごうよ!」
「遅いってばぁ~~」

 ジュリ達の声に引っ張られるようにしてホノカ達は、足早にと教室を出て行く。
 誰もいなくなった教室の教壇の上……そこにあるのは、このクラスの名簿。


秋葉原サアヤ
池袋ナミ
上野ユウ
鶯モモ
恵比寿サユリ
大崎カナエ
大塚ユメ
御徒町アツコ
神田メイサ
五反田マイ
駒込ヒカル
品川ミスズ
渋谷ジュリ
大久保シノン
新宿マナミ
新橋チヒロ
巣鴨ミオ
高田ホノカ
田端ルミ
田町ナツ
西リョウ
日暮里シズク
浜松ユミコ
原宿リホ
目黒アヤナ
目白アンリ
有楽ヒロ
代々木マツリ


 彼女たちの名前には出席する項目が二つ並んでおり、もう一人の彼女達も含めて出席表が付けられるようになっていた。このクラスの人数は28名×2=56名に上る。

 彼女たちは知らなかった。

 これから起こることを……。









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