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No.3967の一覧
[0] 【完結】Revolution of the zero ~トリステイン革命記~【ゼロの使い魔 二次創作】[さとー](2010/09/17 19:40)
[1] プロローグ[さとー](2010/08/07 21:44)
[2] 第1話[さとー](2010/08/07 21:51)
[3] 第2話[さとー](2010/08/07 21:44)
[4] 第3話[さとー](2010/08/07 21:44)
[5] 第4話[さとー](2010/08/07 21:45)
[6] 第5話[さとー](2010/08/07 21:47)
[7] 第6話[さとー](2010/08/07 21:55)
[8] 第7話[さとー](2010/08/07 22:03)
[9] 第8話[さとー](2010/08/07 22:09)
[10] 第9話[さとー](2010/08/07 22:12)
[11] 第10話[さとー](2010/08/07 22:15)
[12] 第11話[さとー](2010/08/07 22:19)
[13] 第12話[さとー](2010/08/07 22:36)
[14] 第13話[さとー](2010/08/07 22:36)
[15] 第14話[さとー](2010/08/07 22:41)
[16] 第15話[さとー](2010/08/07 22:55)
[17] 第16話[さとー](2010/08/07 23:03)
[18] 第17話[さとー](2010/08/07 23:11)
[19] 第18話[さとー](2010/08/07 23:23)
[20] 第19話[さとー](2010/08/07 23:31)
[21] 第20話[さとー](2010/08/07 23:36)
[22] 第21話[さとー](2010/08/08 22:57)
[23] 第22話[さとー](2010/08/08 23:07)
[24] 第23話[さとー](2010/08/08 23:13)
[25] 第24話[さとー](2010/08/08 23:18)
[26] 第25話[さとー](2010/08/08 23:23)
[27] 第26話[さとー](2010/08/08 23:37)
[28] 第27話[さとー](2010/08/20 21:53)
[29] 第28話[さとー](2010/08/08 23:50)
[30] 第29話[さとー](2010/08/08 23:58)
[31] 第30話[さとー](2010/08/09 00:11)
[32] 第31話[さとー](2010/08/11 21:32)
[33] 第32話[さとー](2010/08/09 21:14)
[34] 第33話[さとー](2010/08/20 22:03)
[35] 第34話[さとー](2010/08/09 21:26)
[36] 第35話[さとー](2010/08/09 21:46)
[37] 第36話[さとー](2010/08/09 21:44)
[38] 第37話[さとー](2010/08/09 21:53)
[39] 第38話[さとー](2010/08/20 22:13)
[40] 第39話[さとー](2010/08/20 22:20)
[41] 第40話[さとー](2010/08/20 22:29)
[42] エピローグ[さとー](2010/09/13 18:56)
[43] あとがきのようなもの[さとー](2010/08/20 23:37)
[44] 外伝っぽい何か 要塞都市【前編】[さとー](2010/12/07 20:26)
[45] 外伝っぽい何か 要塞都市【中編(上)】[さとー](2010/12/07 20:30)
[46] 外伝っぽい何か 要塞都市【中編(下)】[さとー](2010/12/07 20:39)
[47] 外伝っぽい何か 要塞都市【後編】[さとー](2010/12/10 21:12)
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[3967] 外伝っぽい何か 要塞都市【中編(上)】
Name: さとー◆7ccb0eea ID:22c2d3ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/07 20:30


無数の兵士達が土を掘り、突き固めている。
先日の探索攻撃を経て、攻撃方針を決定したゲルマニア軍は獲物を前にした肉食獣の如く、今まさにひっそりと一歩一歩着実に“要塞”と化したトリスタニアに向かって迫りつつあった。

兵士達は黙々と鍬を振るってハルケギニアの大地を削り、塹壕を掘る。
余った土で土嚢を作り、積み上げ、突き固める。
巨大な大地に比べれば表面を引っ掻いた様なものだが、たったそれだけのことで自らの命――あるいは一生の大怪我を防ぐことが出来るとなれば、誰にも否応はない。
むしろ徴集されて集められた農民出身の兵達にとっては、持ちなれない剣や槍を振るうよりも心休まる時間だったかもしれない。

彼らはまず初めに先日の攻撃準備線付近に敵陣地に対して平行な最初の拠点壕を掘り、ついでジグザグに折れ曲がりながら敵陣へ向かって続く連絡壕の構築を開始する。
連絡壕がある程度掘削されると再び先程と同様に敵陣地に対して平行に走る突撃壕が構築される。
そんな作業を繰り返すことで塹壕は前方に向かって伸び続ける。
その終着点は敵陣地前方200メイル程度の地点になる筈だった。
しかし、本来そうした作業に最適の筈の土メイジの姿はない――たとえ居たとしても、万を超える数の兵士達の必要量を満たすほどの壕はいかな魔法でも作り出すことはできないであろうが。
そんな情景の中で兵達は文句も言わず、黙々と作業に努めている。
そう、たとえ土メイジが協力してくれるとは言え――あんな場所・・・・・で作業に当たるのは誰しもが願い下げだった。



無心に壕を掘り続ける兵達のさらに前方、敵陣地前縁までおよそ700メイルの距離。
後方で黙々と壕を掘り続ける兵達から“はずれを引いた”と呼ばれていた不運にも選ばれた兵達は、トリスタニアに立て篭もる平民達の散発的な阻止砲撃を受けながら、集められた何十人もの土メイジ達と共に砲陣地の構築を進めていた。
敵の榴弾の射程内にも関わらず、土メイジは自らの命を守る為ではなく、これから運び込まれる巨大な鉄の筒の為に大地を掘り上げ、平坦な地形を構築することに杖を振るう。
彼らに付き従う兵たちも、破片や爆風に打ち倒されながら剣や槍ではなく槌や鍬を振ってメイジ達が大まかに仕上げた砲陣地の土台をさらに整地し、突き固めていた。

「曳け、曳けえッ!」

その後方では、外れた砲弾が周囲の土砂を巻き上げる中で、絶叫にも近い号令と共に百人を超える兵が何門もの砲に取りついて力の限り迅速に運搬を試みている。
それでも巨大な砲の運搬にはかなりの時間がかかる。
運び込まれる砲の中には一門あたり4000リーブル以上もの重さを持つものも少なくないのだからなおさらだった。
その為、ハルケギニアでは珍しいことに、(メイジが精神力を急速に消耗してしまう為)通常決して行われないメイジによるレビテーションを利用した運搬方法すら使用されている。
損害を減らすために彼らの前方にはトライアングル級の使い手が何名も立ち並び、擾乱攻撃として敵陣地から打ち出される砲弾の防御に当たっていた。
しかし、巨大なエネルギーと共に高速で飛来する砲弾を完全に防御することは出来ない。
銃弾ならばともかく、たとえトライアングル級の風の使い手であっても、高速で向かってくる砲弾が相手では僅かに逸らす程度のことしか出来ないのだ。
今もまたそんな防御をすり抜けた鉄球弾が砲を牽引する隊列に飛び込んで兵員に損害を与える。
続いて飛び込んだもう一発の砲弾は、砲車を直撃して巨大な砲を数人の兵士を巻き添えにして横転させ、作業のさらなる遅延――そして損害のさらなる拡大を招いた。

そんな彼らの遥か前方には、いくつもの稜堡によって“要塞”と化したトリスタニアの遠景が見えた。



「閣下、砲陣地の構築がほぼ完了致しました。これからは砲の搬入と砲弾の集積に全力を振り向けます」

あの探索攻撃から4日。
ゲルマニア軍総参謀長たるハルデンベルグは軍司令部として使われている巨大な天幕の中で、自らの上官であるゲルマニア軍総司令官エステルハージ公爵に半ば要塞と化したトリスタニアへの総攻撃の準備が完了しつつあることを報告した。
そのハルデンベルグの答えにエステルハージは同意の頷きを示す。
しかし、エステルハージは未だ満足しないかのように続けてハルデンベルグに尋ね返した。

「突撃壕の構築はどこまで進んだ?」

「現在敵陣手前600メイル前後まで構築が完了しているとの報告が各部隊から寄せられています――もう数日あればあと200メイルは伸びるでしょう」

陣前400メイル。
理想論を言えば敵銃兵の射程圏内ぎりぎりまで近寄りたいところだが、現状でも2万を超える兵員が突撃するには至近距離に等しい。
そして陣地構築を含め、既にこのトリスタニアに着陣してから5日も経過していることもあり、これ以上日数を費やすわけにもいかない。
報告の内容をそう素早く斟酌したエステルハージはさすがに今度こそ満足したように大きく頷いた。
そのままエステルハージはすっくと立ち上がり、天幕を出て彼が陥とすべき“要塞”の姿を見つめる。
「砲の配置と砲弾の集積が完了するのにどれほどかかるのだ?」

エステルハージの質問に傍らのハルデンベルグが即座に答える。

「そうですな、3日……いや、2日もあれば、かなりの量の弾薬が集積出来ると思われます。少なくとも事前砲撃に必要な分は揃います」

その答えを聞いてもエステルハージは相変わらずトリスタニアの遠景を眺め続けている。
しかし、その瞳には強い意志が込められていた。

「――では?」

彼に続いた傍らのハルデンベルグが司令官の意思を確認するように問いかける。
そんなハルデンベルグにエステルハージは頷き返し、力強い声で命令を発した。

「トリスタニアへの総攻撃開始は今日から3日後だ!」






昇ったばかりの赤い陽光に照らされて何十本もの炊煙の上るゲルマニア軍陣地が暗闇から浮き上がる。
陣地内には無数の男達が総攻撃前のこの時間を思い思いに過ごしていた。
周囲の仲間達と他愛もない談笑に耽る者。
じっと地面や赤く照らされた空を眺め、遥か故郷や恋人に思いを馳せる者。
あるいはただひたすらに惰眠を貪る者もいる。
果たしてこの中の何名が生きて帰れるのか――それは誰にも判らない。
そんな彼らの後方では朝も早くから巨大な砲に取りついた兵たちが忙しなく動き回っている。

「第8砲兵中隊、装填よし、射角よし。――全砲兵射撃準備完了しました!」

その部下の報告を聞いたゲルマニア軍特設砲兵連隊指揮官、オーフェルヴェーク子爵はうん、と頷きを返した。
砲兵が射撃をするにあたって必要な標定は、既に前日までの試射で整えられている。
そして、エステルハージから総攻撃の最初の一撃を始めることを一任されている彼は、さわやかさすら感じさせる声で命令を発した。

「宜しい、諸君! では始めよう。目標、敵防御陣地群――特設砲兵、撃ち方始めェ!」

その声と共に最も近くにいた砲が火を噴き、その射撃を確認した周囲の砲が続々と後に続いた。
これまで味方の突撃壕構築の支援として、細々とした擾乱攻撃をかけてきただけだった砲兵陣地が一斉に祭りの太鼓のような賑やかさで無数の砲弾を“要塞”陣地に向かって送り込む。

未だ眠りと生を謳歌する突撃壕の兵士達の上空を突如として一斉に砲弾が飛び交う音が響き、ついでほぼ同時に後方から大砲の発射音が乱打される太鼓のように鳴り響いた。
先の探索攻撃での砲兵の効果の低さに懲りたハルデンベルグとその参謀団達がこの攻勢のためにかき集めた砲は侵攻軍全体のおよそ半数――約50門。
その数の砲がこれからおよそ2時間かけて敵陣地に向かって砲弾を撃ち込むことになっている。
もちろん使用しているのは空中、あるいは地上で爆発するように作られた榴弾である――効果は高いが射程の短いその砲弾を使用する為に彼らは500名近い犠牲を払ってわざわざ敵の有効射程内に砲陣地を構築したのだ。

そして2時間後、砲撃が中止されるとともに――ゲルマニア軍2万7000を動員した第一次総攻撃が開始された。





その急造さを示すかのように粗雑に作られた兵舎がゲルマニア軍の砲撃に崩れ落ち、榴弾の生み出した爆発の高熱によって数軒の民家が燃え上がる。
目標を外れた砲弾によってトリスタニア市街がそうした打撃を受けつつある中、その外周に存在する防御陣地はそれ以上に激しい砲撃にさらされていた。

現在のトリスタニアには全周を囲う棘の様に先端の突き出した稜堡がいくつも並んでいる。
外周部に直接接するのは末広がりの三角形をした12個の第1陣地線の稜堡群。
その第1陣地線の稜堡同士が接した谷間に突き出すようにして同様な稜堡群で形成された第2陣地線、さらにその後ろに第3陣地線が作り上げられていた。
各陣地線の中核となる稜堡はいくつもの堡塁によって構成され、相互支援が可能なように連結されている。
その背後には同様に多重化された予備陣地兼用の堡塁が重ねられ、その内部には大砲や銃兵が収められていた。
無数の堡塁によって構成される7つの稜堡の外周には堀が穿たれ、その堀に連続する様に稜堡の外形を形作る分厚い土塁が残土を利用して築かれていた。
稜堡の壁部の上面から下面にかけては先端をとがらせた枝を突き刺した逆茂木が植えられ、堀の底部にも先端を鋭利に削った乱杭が打たれている。
このような防御陣地は今までハルケギニアに存在しなかった形態であった。

ハルケギニアでの一般的な防御施設の形態としては、これまで主に高さ10メイルを超える垂直にそそり立つ石の防壁が使われてきた。
最も一般的に思い浮かべられるのは今もトリスタニアに残る旧王城の城壁だろう。
こうした防御設備は一般に何の能力も持たない平民相手には絶大な防御力を発揮してきた――何の攻城設備もなく10メイルを超える垂直の石造りの壁をよじ登れるものなど滅多にいないのだから当然だ。
しかし相手にメイジがいた場合、その利点は少ないものとなる。
巨大な土ゴーレムや錬金で防壁を無力化することが可能な土メイジや、“飛行フライ”の魔法によって空中を自在に機動出来る他のメイジ相手には防壁はその阻止効果を十分に発揮することが出来ない。
――そして一枚壁の防壁はそうした少数のメイジの一撃によってその能力を失うのだ。

実際にアルビオン継承戦争でのシティ・オブ・サウスゴーダの戦例を見れば明らかなように巨大な防壁はその建造にかかる巨大なコストに対し防御効果の極めて少ないものとなっていた。
しかし、従来まではそれも問題にされてこなかった――貴族間戦争の場合、メイジにはメイジで対抗することが可能であり、防壁は平時有事を問わず超えられない壁として亜人や平民出身の兵相手には十分な阻止効果を発揮したからだ。
しかし、革命によって貴族に叛旗を翻した平民達にはそれこそが最大の不安だった――彼らには十分な数のメイジがいるとは決して言えないからだ。
特に高度な教育を受けたメイジを多数擁する貴族側に対し、平民出身メイジには基礎的な魔法しか使えないものも多かった為、その不安は一層深刻だった。

そうした問題の解決策として生み出されたのがこのトリスタニアを囲う様に作られた防御稜堡群だった。
その原型は皮肉なことに彼ら平民達の仇敵でもあった銃士隊が用いた王城前の防御陣地群であった。
銃兵を主力とした彼らは人間を擬似的な壁とする戦列ではなく、各防御陣地をいくつも並べた防御陣地線に籠ることによって圧倒的な数の優位を誇る平民達の攻撃を幾度となく食い止めることに成功したのだ。
工夫された陣地の配置は一度に突入出来る敵の数を局限し、念入りに構築された防御施設群は飛来する銃砲弾や魔法から味方を守る。
そんな防御施設に立て篭もった銃士隊は、逆に遮蔽物なく身を晒した平民達に次々と損害を与えた。

そうした経験に加え、同時にこの防御稜堡群にはかつてのトリスタニア平民街攻防戦の経験も生かされている。
複数の兵器を用いた立体的で対処の困難な攻撃。
数十~百メイルごとに設けられた多層的な防御設備の有効性。
そして、敵に対する多方向からの同時攻撃と身動きの出来ない敵への大火力集中攻撃。
平民達が自らの身で味わった、そうした経験から導き出された戦訓によって生み出された防御陣地は今のところその効果を発揮していた。
堡塁の中に造られたいくつもの掩体は都市近郊から切り出した太い丸太と無数の土嚢によって組み上げられ、その掩体同士をつなぐように銃兵用の壕が設けられている。
急増ではあるが、しっかりとした屋根が設けられた掩体の内部にはそれぞれ砲が備えられ、雨天であっても射撃に支障が出ないように作られている――火力による遠距離攻撃力こそが魔法という恐るべき力を持つ貴族に対抗するもっとも有効な手段なのだから当然だった。


そんな念入りに作られた施設の集合体である稜堡に向かって、ゲルマニア軍第一陣、1万を超える兵士達はゆっくりと、しかし着実に押し寄せる波の様に前進する。
東岸部中央部稜堡群を主目標として展開した彼らの幅はおよそ3リーグにも達する。
彼らに対抗するのは、何者もの前進を拒むようにその威圧的な姿を示す3つの稜堡に配置された約1万7000名の平民兵と東岸部に配置された合計250門を超える火砲。

無数の火力がトリスタニア外周防衛陣地から、迫りくるゲルマニア軍に向かって叩き込まれる。
勿論、前回の探索攻撃と同様にその身一つで駆け進む彼らには対抗する術などない。
彼らの頭上に無数の銃砲弾が降り注ぎ、あっという間に犠牲者の数を積み上げる。

「突撃! 進め、進めぇ!」

それでも士官たるゲルマニア貴族の怒号の様な号令と共に彼らは駆けた。
堀の前に作られた柵を飛び越えるようにして乗り越え、前回と同じく吸血鬼の犬歯の様に尖った杭の打たれた堀に向かって飛び込んでいく。
本来の予定では堀の突破に際して板や藁束などの仕寄道具を投げ込み、その上を進む予定であったがそれをここまで運び込むべき兵達がついてこられていないのだ。
渡船板のような板を抱えた者は砲弾の破片を受けて砕かれた板の木片を全身に突き刺して悶え苦しみ、藁束を抱えた兵の中には砲弾の熱で炎が燃え移り、そのまま松明のように焼死する者さえいる。
それでもやや遅れてたどり着いた兵達は堀の底に次々とそうした仕寄道具を投げ込み、後続の味方の為の道を切り開く。
後続の兵達は逆茂木に傷つきながらも彼らの切り開いたそんな突撃路を一斉に駆け上っていく。

「突けぇ!」

トリスタニアに立て篭もる下級防御指揮官が発したその号令とともに斜面に植え込まれた無数の逆茂木に傷つきながらもたどり着いたゲルマニア軍先鋒に対し、一斉に槍の穂先が突き出された。
無数の悲鳴が響き渡り、真紅の液体が稜堡の最縁部をどす黒く染め上げる。
不幸な兵達の体はそのまま力なく陣地外周に向かって崩れ落ちて壁面に植えられた無数の逆茂木に串刺しになるか、彼らに続こうとする勇敢な兵達の上に次々と落下した。

「突けぇ!」

再び同じ号令が響き渡る。
号令の度に幾度となく繰り返されるそうした悲劇の連鎖。

そうした光景に我慢ならなくなったのか、一人の士官が指揮官という自らの職責を放り出して魔法を放った。
傍目にも目立つ魔法を繰り出したその士官は即座に敵の砲火の的になり、周囲の兵達とともに無残な肉塊と化したが、直後に彼の魔法が作り出した敵陣の穴に数人の兵が取りついた。
最初に敵陣に乗り込んだ彼らは数十秒後には先行した戦友達の後を追ったが、彼らの命が稼ぎ出したその数瞬の間にさらに倍する兵が防御陣地内に乗り込んだ。

「あそこだ! 全隊突撃、続けぇ!」

それに気付いた士官達が次々と兵力をそこに集中する。
優秀な指揮官の指示で数十人の兵達が斜面を駆け昇るように這い上がり、ついにゲルマニア軍はトリスタニア外周防御陣地内へ最初の一歩を刻む。
そう、彼らは防御陣地内への突入を成功させたのだ。



――最初の防御陣地に取り付かれた。
その報告を聞いてマチルダ・オブ・サウスゴーダは急いで駆け付けた。
彼女が最前線付近に到着した時、第1陣地線第3稜堡と名付けられた防御施設の上では激戦が繰り広げられていた。
稜堡の外縁に開いた穴から200名を超えるゲルマニア兵が内部に侵入し、塹壕の中で配置された平民兵との戦いが行われていた。
塹壕という狭い空間の中で行われる戦闘は一騎打ちというよりも命をかけた殴り合いと言った趣が強い。
互いに長い武器を使うことが出来ず、手にした剣や鍬などを使って相手が倒れるまで打ちのめしあう。
そして、その狭さ故に一人相手を倒せば即座に次の敵との戦いが控えている。
傍目にはその光景がまるで勝ち抜き試合の様にすら見えた。

「――いいかい? あたしがあの穴を塞ぐから、あんたたちは陣地に侵入した敵を殲滅する。いいね?」

そんな光景を眺めながらマチルダは彼女とともに駆け付けた兵のリーダーらしき男に指示を下す。
傭兵出身らしいその男は逞しい髭面で頷きを返して素早く部隊に駆け戻っていく。
そんな男の姿を確認して、彼女は素早く呪文を唱えると、手にした杖を振り下した。
直後、ゲルマニア兵が突入した穴に立ち塞がる様に30メイルもの巨大なゴーレムが地中から姿を現し、ゲルマニア軍を混乱に陥れる。

「行くぞ! 続けぇ!」

その叫びと共に突如として出現した巨大なゴーレムに混乱するゲルマニア兵達に向かい、先程の髭面の男に率いられた平民達の逆襲部隊が一斉に襲いかかる。
その効果は絶大だった――ゴーレムに気取られたところに横合いから一気に攻撃をかけたのだから当然だ。
指揮官もおらず(突撃の最中で有るため彼らの指揮官は未だ稜堡の外周部に居た)、逆襲部隊と巨大なゴーレムに挟まれる様になった彼らは短時間で鏖殺の憂き目に会い、戦場となった第3稜堡の内部には無数の敵味方の死体が積み上げられた。

それにも関わらずゲルマニア軍の攻撃は止まらない。
直に新手の部隊が稜堡の壁面を駆けあがり、再びトリステイン平民軍に襲い掛かる。
そこには平民も貴族の区別もない。
ただお互いがひたすらに殴り、刺し、殺し合う。
平民達は剣を手に、貴族達は杖を手に。

――そして戦いとは剣や杖のみを用いて行われるものではない。



ゲルマニア軍による第一次総攻撃が行われている最中。
何発もの砲弾が降り注ぎ、海岸に押し寄せる波にも似た突撃を受け続ける“要塞”の中央部、かつて王城と呼ばれた小高い建造物の一部屋に一人の少女がいた。
今やトリステイン革命政府内務人民委員、コミン・テルン書記局第一書記、トリスタニア防衛最高責任者と言った無数の肩書を持つ18歳のこの少女は、砲声や吶喊の声が響き渡る中、革命前は重要人物の執務室であったのだろうその部屋の中でただひたすらに自らの下に寄せられた書類を記憶し、決済している。

たとえば合計して16万を超える兵員やトリスタニア市民の食料の確保。
勿論、その中に含まれる10万近い兵達には戦う為の装備を必要とする。
それら一切をトリステイン――革命政府の支配する領域からかき集め、行き渡らす責任者として彼女はゲルマニア軍の侵攻が開始されて以来、ほとんど眠らずにその準備に当たってきた。

革命により貴族制度という旧来までの統治機構が完全に消滅したこのトリステインが最初に直面したのは、失われた統治機構をいかに再建するかであった。
自らを「政府」と名乗る以上、革命政府は王領を初めとした各地の“解放”した諸侯領を含むその広大な領地とそこに暮らす平民達を自らの国家権力の下に守り、治めなければならない。
シエスタの故郷であるタルブ地方の様にコミン・テルンが主体的に蜂起して貴族支配から“解放”した地域はまだ良い――しかし、旧トリステイン王国で発生した各地の蜂起では革命の機運と不満の発露からなる「予期しない」平民達の蹶起がむしろ多数派を占めたのだ(中には匪賊まがいの集団すらあった)。
当然、そうした諸勢力を統合、あるいは討伐して新たな革命政府の機構下に組み込むことが必要とされる。
しかし、統治機構を全くの無から構築するのは非常に時間がかかる――その為にトリスタニアを抑える革命政府はその主導的な勢力であったコミン・テルンの地下組織を流用したのだ。

各地で貴族に対して叛旗を翻した平民諸勢力は後付ながらコミン・テルンの組織機構に編入され、スカロンの主導する人民会議を頂点とする一党体制が構築された。
必然的にトリステイン革命政府は一平民組織であるコミン・テルンの機構と同体化し、革命政府の閣僚の多くが旧『魅惑の妖精』亭の参加者で占められることになった――無論、そうした行動に不安を覚える者もいたが、差し迫った貴族との戦いという状況がその批判を押し切った。
そして、トリスタニアがゲルマニア軍の猛攻を受けている状況の中でもただひたすらに無数の書類に向かう彼女はそんなコミン・テルンの事務方を事実上一人で取り仕切る第一書記として、この戦争以前から革命政府が必要とする様々な物資や人員の手配という重責を担っていたのだ。

にわか作りとは言え、今のトリスタニアがゲルマニア軍6万を前にして、曲りなりにも防衛体制を構築できているのもそのほぼ全てが彼女の功績と言っても過言ではない。
トリステイン王政崩壊後に独立領と化していた旧ヴァリエール公爵領。
8万ものゲルマニア軍がそのヴァリエール公爵領内に侵入して以来、彼女は昼夜兼行で10万を超えるトリスタニア市民や周辺住民を動員し、未だ土盛りに過ぎなかった防御陣地を実質的な“要塞”へと作り変えていった。

300個を超える掩体に蟻の巣のように繋がった塹壕。
トリスタニアを囲う様に作られた稜堡を囲む総延長20リーグを超える壕の底には無数の杭を打ち、稜堡の外形を形作る土を固めた壁面にはびっしりと逆茂木を植え込んだ。
先の探索攻撃で敵を粉砕した無数の大口径の火砲は、革命時の艦隊叛乱で焼かれ、野ざらしにされていた廃艦に備えられていたものを急遽ラ・ローシェルから運び込んだものだ。
その数はトリスタニア全体で400門を超える。
それらを手配したのもまた彼女だった。

そして今も彼女は戦い続けている。
彼女が手にしているのは各防御陣地から寄せられる弾薬消費量や兵員の損耗、それに夜間こっそりとゲルマニア軍の目を盗んで様々なルートで搬入される各種物資などの報告。
中にはゲルマニア軍の侵攻に際して地方での抵抗活動の指示を求めるものもある。
弾薬の多くや食料の一部は革命前のアルビオン継承戦争用に発注・集積されたものであり、食料の多くは各地の貴族館に現物納税として転売目的に溜め込まれていたものを押収して運び込まれたもの。
推定3万もの兵の攻撃を受けているトリスタニア北東正面の陣地に常にそれらの物資・弾薬や増援・補充人員を配分し送り込む――それこそが彼女が半ば孤独な中で挑む今の戦いだった。

今のトリスタニアではあらゆるものが不足していた。
食料はもとより武器・弾薬。
兵器の数も満足できる量ではない。
400門を超える大砲があると言ってもトリスタニア防衛最高責任者の彼女からすれば最低限の必要数を満たせたに過ぎないのだ。
武器に至ってはその量は決定的に不足している。
彼ら平民達が自らの主戦武器であるべきと考えた『銃』はこのトリスタニア全体を寄せ集めても約8000挺程度。
10万を超える兵が立て篭もるこのトリスタニアでは、2人に一挺どころか10人に一挺にも満たない。
その他の兵達には剣や槍、あるいは弓と言った古典的な武器が与えられているだけだ。
その剣にしたところで数量の不足が目立ち、トリスタニア住民出身の志願兵達に至っては、ただ木を削って先を尖らせた槍のようなものを無いよりはマシとばかりに担いでいる始末だった。


それでも彼女は一人、戦い続ける。
今のトリスタニアには“英雄”はいない。
かつて彼女を貴族の汚れた手から守り、竜騎兵の咢から庇い、そして同じ平民達によって突きつけられた銃口から救うために駆けつけた少年はここにはいない。
彼はこのトリスタニアを守るために――先の会戦で大敗した平民軍主力がトリスタニア逃げ込む時間を稼ぐために、たった一人で7万ものゲルマニア軍に立ちはだかったのだ。

彼の意思を無駄にしてはいけない。
彼の命を無駄にしてはいけない。

そんな思いだけが彼女を突き動かし、常人ならいつ倒れてもおかしくない程の激務をこなし続ける彼女を支えている。
それは密かに思いを寄せていた少年に対する彼女の貞節の表明なのかもしれない。
彼女の心の中にあるのはたった一つ。

“――彼が作り上げた革命を守ること”

それこそが今の彼女の目的だった。

そんな彼女に第1陣地線の稜堡の一つが奪われたとの知らせが届いた。
トリスタニアの防御陣地の最も外周に位置する第1陣地線、その第3稜堡が陥落し、次いでゲルマニア軍はその隣の第4稜堡の過半を制圧しつつある。
ゲルマニア軍の一部はそのまま後方に位置する第2陣地線の第2稜堡へ取りつき始めていると言う。
不利な戦況の報告を受けながらも彼女の脳裏にはその目的が消えることは無い。

このトリスタニアさえ維持されれば革命政府は守られる。
かつて共に駆けた平賀才人が彼女達と共に作り上げた革命、その象徴がこのトリスタニアなのだ。

このトリスタニアを守る為ならば、何だってしてみせる――そのためには何をしても許される。


かつて、このトリステインの支配者とされた少女が使っていた執務机に向かいながら、彼女は密かに、しかし固い決意と共に旧貴族街跡地に待機していた平民兵5000を第2陣地線に対して送り込む命令を下した。
彼らに与えられた任務は稜堡内部を埋め尽くすかのようにして敵の侵攻を抑えること――そのためには損害を顧みるべからず。
その命令を下しながら、同時に彼女は占拠された第1陣地線を回復する為にさらなる戦力を求めて机の上の書類をかき回した。
しかし、そこに記されていたのは不足する物資や武器の配給を要求するものばかり。
そんな状況下でふと彼女はあらゆるものが不足したこのトリスタニアで唯一不足しないものを見出した。
10万を超える兵員。
強大な敵に対して武装も兵の質も不足している中で、それだけが今のトリスタニアで決して不足しないものだった。

「――人命以外、何も失えない」

西日に照らされたその部屋の中で彼女はひっそりと呟いた。
戦いは既に半日を超え、太陽は徐々に西に向かって沈もうとしている。
夜になれば敵はその攻撃を停止せざるを得ない――暗闇の中では統制のとれた行動が不可能になるからだ。
そして、敵が攻撃を停止するということは戦闘に最も必要な勢いを喪うことでもある。
そうなれば平民軍側が第2陣地線を確保している限り、一旦奪われた第1陣地線を回復することは容易だ。
即ち、平民軍側は日が暮れるまで敵に防御陣地線を突破され、その背後にある平民街に侵入されなければトリスタニアを失ったことにはならない。
日が暮れるまで。
そう、夜の帳が全てを闇に包みこむまで時を稼げれば今日の防衛戦には勝利したことになるのだ。

そして彼女は日が暮れるまでの時間を何としても確保することを決意した――無数の死をその代償として。
抽象的な表現が許されるならば、それから起こった光景は水時計にも似ている。
今やトリスタニアに立て篭もる平民兵達は自らの血液を零れ落ちる水時計の水滴として、ただひたすらに日が暮れるまでの時間を待ち続けることになったのだ。






数えきれない程の犠牲を生み出した第一次総攻撃の後、各連隊長を集めた軍議が総司令部天幕で催された。
20人を超える連隊長と総司令官たるエステルハージの前で、ハルデンベルグ参謀長が集計された報告を淡々と読み上げる。

「兵員の損害は戦死約3800、負傷約8100の計12000名近くに達します。砲の損害は23門、そのほとんどが敵の対砲迫攻撃によって攻撃支援の為に前線近くの砲陣地に配置したものであります。この結果、我が軍は保有火力の約2割を喪失したことになりますが、幸いこの点に関しては3日後までに後方から増援として40門の砲が受け取れる為に重大な問題とはなっておりません。むしろこれから不安なのは砲弾の不足であります。昨日の総攻撃で砲兵は全保有弾薬の8割を消費しました。現状では再度の砲弾集積なくば攻撃を再開出来ません」

その事実に誰もが押し黙る。
予想はしていたが、改めてはっきりと集計されたその数字を聞けば、誰もが何等かの思いを抱かざるを得なかったのだ。
誰もが沈痛な表情を浮かべ、天幕の中にどんよりと重い空気が広がる。

「しかし、敵にもかなりの打撃を与えたことは確かです」

暗く沈みこんだ雰囲気を破ろうとハルデンベルグがあえて明るい声を発し、続けた。

「敵の損害見積もりは少なくとも死傷10000名と予想されております。敵第一陣地線で鹵獲した砲を見分したところ敵もこちらと同様、いやそれ以上に弾薬の消耗が激しい様ですので今回と同様の大規模波状攻撃を続ければ必ずや――」

「それまでに一体何名もの損害を必要とするのだ!」

ハルデンベルグのそうした物言いに出席していた一人の侯爵が噛みついた。
彼の指揮下にある2個連隊のうち、その一つは先の総攻撃で死傷1600名の損害を出し、事実上壊滅の憂き目を見たのだ。

「既に5000を超える兵たちを壕の埋め草にしておいて何が大規模波状攻撃だ! ならばハルデンベルグ、貴様が連隊を率いて最初に突撃をかけてみたらどうなのだ!」

暴言に近いその答えにハルデンベルグはその典雅な顔を真っ赤にして黙りこんだ。
周囲にいる伯爵や子爵といった連隊を率いる諸侯達の多くも直接に言うことは憚っていたが、誰もが無言のまま侯爵の意見と同様だと言わんばかりの態度を示している。

無理もない。
既に突撃を実施して甚大な損害を受けた部隊はもとより、次回の総攻撃に動員されることが明らかな予備の連隊長達も好き好んであの中に飛び込みたいと思う者は誰もいない――確実な勝利の為であればいかな犠牲も厭わないが、根拠のないそんな無謀な突撃で兵達を無駄死にさせることなど出来はしないのだ。

諸将の集合体に近い軍編成だからこそ、そうした物言いも許される。
そんな軍を率いる総司令官には諸将間のわだかまりを解き、バランスを取って運用する能力が求められる。
エステルハージ自身、彼の所領で編成された6000名もの兵を率いる身であるのだ。
そして、総司令官たる彼の直卒で有る為に全く手つかずで後置されているそれらの兵に対し、目の前で憤りを隠せない程に興奮した諸侯達の兵はその身一つであの“要塞”に生身で突撃し、大損害を出していた。
彼らから見れば、現状は総司令部が安穏としている中で、自らのみが一方的に傷つくだけの光景に見えても不思議はない。


「主攻撃方面の変更を進言いたします」

下手をすれば侵攻軍瓦解のきっかけにもなりかけない殺伐とした空気の支配する中、それまでじっと黙っていた一人の子爵が口を開いた。
その言葉に内心どこかほっとしながらエステルハージが応ずる。

「言ってみたまえ」

エステルハージとしては、この一触即発な空気を換えてくれるものであれば何でも良かったのかも知れない。
その言葉に声を発した子爵はゆっくりと立ち上がり、彼の提案について説明した。

「敵の防備の手薄な西岸部に攻撃を集中するべきであると小官は愚考致します。防御陣地が未完成で手薄な西岸部ならば、突破もより容易に可能であると自分は判断するものであります」

軍人らしく、極めて簡潔で胆摘な言葉。
その提案の内容にエステルハージは腕を組んで考え込んだ。

確かに以前から西岸部の防備が薄いのは判っていた。
防御陣地が薄ければ確かに突破はしやすい――失敗に終わったとは言え、先の総攻撃ではゲルマニア軍の一部は三重になった敵陣地群のうち一番外側の稜堡を落とし、一部は二番目の稜堡を陥落寸前までに押し込んだのだから、本来二重の防御陣地しかない西岸部であれば市街地に突入出来ていたかもしれない。
しかし、当然ながらその西岸部を主攻撃方面に選ばなかったことにも理由がある。

攻略目標であるトリスタニアは中央を流れる川に沿って東西に分断された街並みを持っている。
旧王城と今や廃墟と化している貴族街を要する東岸部。
そして主に平民街の広がる西岸部。
その街並みを分断するその川は都市を南東から北西に貫き、トリスタニアの北で西に折れ曲がるようにして流れ、遥か西の大洋に注ぐ。
その為、トリスタニア西岸部は北から侵攻した彼らゲルマニア軍からすれば川の対岸部に存在していることになり――その西岸部を攻撃する為には一度川を渡らねばならない。
当然、川を渡るには様々な障害が存在する。
人の隊列は橋の幅以上の広がりを持てなくなるし、現在よりもさらに南に展開する必要が生じる為、兵站の負担も増す。
おまけに都市が交通の結節点に発達することは当然であり、その東岸と西岸を結ぶ最も至近な橋は言うまでもなく、今や要塞と化したあのトリスタニアの内部に存在しているのだ。
仮にトリスタニア以外で最も至近な橋を使用した場合、その展開に必要な迂回経路の長さは最短8リーグ。
敵にゲルマニア軍の最前線物資集積所となっているチェルノボークとの連絡を絶たれることを避ける為にある程度の部隊を現在の位置に後置しておく必要を考慮すると、西岸部の攻撃に気が乗らなかったことは常識的作戦家であるエステルハージやハルデンベルグにとっては当然とも言えた。

しかし、今は違う。
東岸部に突き出した堡塁群への正面攻撃は失敗に終わり、その損害も甚大なものとなっている。
最終戦術目標である旧王城を落す為には東岸部の制圧が必須であるが、現状では戦死5000、戦傷12000もの損害を出しながらその外郭防衛陣地すら突破出来ていない――つまり、現状では旧王城奪取は絵に描いた餅に過ぎないのだ。
まずは防御陣地群を突破せねば話にもならない。
そして西岸部の手薄な堡塁群と平民街を制圧することが出来れば彼らは残る東岸部の柔らかい横腹を直撃することが可能になる。
あるいは平民達が最後の頼りとした防御陣地を喪えば、士気が低下して降伏開城、ということもあり得ない話ではない。

エステルハージは総司令官として重大な選択を迫られていた。
今一度東岸部の堡塁群に攻撃をかけ、正面からあの“要塞”に挑むべきか。
それとも子爵の提案したように西岸部からの迂回攻撃によって“要塞”の柔らかい下腹を突くべきなのか。

「――東岸部には騎兵を中心とした8個連隊を残し、他の部隊は数日中に到着する砲と共に西岸部に展開させろ」

数分間の沈黙の後、瞑目したままエステルハージはついに決断を下した。
その決断にハルデンベルグが慌てた様に口を挟む。

「しかし閣下、それではこれまでの損害は――」

「だからこそだ」

エステルハージは拒絶を許さないかの様な声で答えた。
その声には苦渋の色が多分に含まれている。
彼もまたこの方針転換が今までに死んだ兵達への裏切りに他ならないことを理解している。
しかし、このままトリスタニアを陥せないことは彼らの死を犬死とすることでもある。
そんなことはさせない。
そんなことは出来ない。
エステルハージは彼らの死を無駄にしない為にも、この方針転換は絶対に必要なのだと自らにひっそりと言い聞かせた。
そして、滅多に発しない何かを堪える様な強い口調で周囲の全員に向かって告げる。

「主攻方面をトリスタニア西岸部へと移す。今度こそあの“要塞”を落すのだ!」







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今回もトリ革の外伝をお読み頂いてありがとうございます。
作者のさとーです。

文章から偏った匂いしかしないと言われたので、ついカッとなってやった。反省はしている(´・ω・`)
嘘です、ごめんなさい。
調子に乗ってあえて逆に真っ赤なテイストを強化してみました(笑)。
一部それっぽいところは半ばブラックなユーモアのつもりなのでネタをネタと(ry

では、もはやゼロ魔でもなんでもなく、ただ私の趣味の発露と化したこの外伝っぽい何かですが、次回も宜しくお付き合い頂きますようお願い申し上げます。



追記。
10/12/07加筆修正。


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