これはひどいオルタネイティヴ3「…………」「…………」俺とゆーこさんは無言で通路を歩いている。はやくもシュミレーター試験をするようで、俺は彼女に案内されているのだ。だが俺の冗談が御気に召さなかったようで"話し掛けんな"と言うオーラが背中に漂っている。うぅむ、こりゃ結果を出さないとマズいぞ。 それよりも白衣で尻が見えないぜ、ガッデムッ!けど凝視してると段々と輪郭が見えてきた……まぁ、他にやる事が無いんだから不可抗力だよね。「……(なに難しい顔してんのかしら? コイツ……)」そんなこんなで、俺はシュミレーターをするべく、ロッカーに案内された。其処で"強化装備"とか言う黒いスーツに着替えるように言われたんだが……何だよこのスーツ、何だよこのスーツ、何だよこのスーツ。 大事なことなので3回言いました。でもこれを着ないと戦術機を動かせないっぽいし、仕方無いよね。フィードバック・データとか言う感覚の機能とかも、この段階じゃどうしようもないか。歳が歳なので着替え終わるとかなり恥かしかったが、白銀に自身を頂いてデカい筐体に乗り込んだ。……凄いな、これ一個ダケで何千万掛かってるんだろう。 ガン●ム好きにはたまんねぇ。でも緊張する……これからの戦果で俺の初っ端の運命が決まると言っても良いからな。『ご注文はお決まりかしら?』うわッ、誰この美人さんっ? ゆーこさんだつ~の。ボケはさけおき、これが網膜投影ってヤツか……びっくらこいた。俺が知ってるゲームは、頭上に水晶玉みたいなカメラのレンズがあって、映画みたいに目の前に画面を展開させて映して、敵プレイヤーの機体と戦う。ガン●ムみたいなメカも顔面のメインカメラから映像を撮って、レンズを通して目の前に映すのかな?それはそうと、ゆーこさん……なんだかさっきから冷たいよなァ……まぁいいや、大事なテストだし一番難しいのをやって、実力を認めて貰うべきだよな……「今のところの最高難易度のやつは……ヴォールク・データっすよね?」『それよ。 ハイヴ攻略シュミレーションで良いの?』「えぇ、それでお願いします。 HQのホラ、アレ……管制とかはいらないっすから。」『そ……判ったわ。 機体は不知火で良い?』「それが一番っすね。」『……武装の設定は?』「えっと……なんだっけ、俺が得意な……突撃前衛仕様で適当に……」『なんだか頼り無いわね~、怖かったら棄権扱いで訓練兵行きで良いのよ?』「それは遠慮しておきやす。」『まぁいいわ、準備するからちょっと待ってなさい。』「はい。」『…………』≪――――プツンッ≫「ふーーーーっ。」しかめっ面のまま、通信を切るゆーこさん。そして訪れる沈黙……失敗すれば彼女の下僕確定・成功すれば信頼に一歩近付く……か。すっ転んでも巻き返す望みはあるけど、超緊張する……心臓がバクバク言ってる。ゲームで有名プレイヤーを引いた時の差じゃない、幻滅するゆーこさんの顔を考えると超怖い。天才である彼女は、失意の俺のハートをめった刺しにする皮肉を言ってくるに違いないのだ。「俺は……できる。 BETAは怖い……いや、ちっとも怖くない。 むしろ、マスコット。」今の自問が、白銀の言葉だと信じたい。 お前だけが頼りなんだ……!「来たわね、まりも。」「はっ――――何の御用ですか? 副指令。」「ちょっと、今から見て欲しいものがあるの。」「……シュミレーター……ですか?」「そうなんだけど、まりも。 今は"私とあんたダケ"よ?」「!? ですが――――」「私とあんたダケなの。」「もう……判ったわよ。 ……で、それがどうかしたの?」「まぁ、詳しくは結果を見てから言うわ。 どっちに転ぶかは、"結果"次第ね。」「???? どう言う事……?」「お楽しみ。」「はぁ……私も暇じゃないんだけどッ?」「(あんたがまりもの上官になるか、情け無い訓練兵となるか……どっちかしらねぇ?)」………………『準備万端よ、そろそろ始めるわ。』「微妙に長くありませんでしたか? ……うん、普通に長い。」『うるさいわね、気のせいよ。』心拍数が安定した辺りで、またゆーこさんがイキナリ現れてまたドキドキする羽目になった。いや、これは恋だ。 ゆーこさんが美人過ぎるからドキドキしているダケで、断じて緊張ではない。そう俺は自分に言い聞かせて、操縦桿を握り締める両手に力を入れる。そうだ……一流のパイロットになったつもりで挑むんだ。 そうすれば勝つるッ。俺はいち会社員(28)であって白銀武……そう、カ●ーユ・ビダンになったつもりになるんだ。片方の精神は四番目の娘だろって? 細かい事は気にしないでください。そんな何度も何度も心の中で気合を入れる中、とうとうシュミレーターが始まる……!!「ゼータガン●ムッ、出ます!!」『『――――はぁ?』』その時 咄嗟に出した台詞を聞いて、ゆーこさんの声がハモった気がしないでもなかった。………………ハイヴに突入して間も無く、俺は初めてBETAを目撃した。(シュミレーターだけど)記念すべき一匹目は要撃級……しかも多数。BETAの中核とも言えるヤツで、その要撃級はこちらを見るや否や突っ込んで来る!それに対し俺が"俺のまま"なら前腕を食らって終わりだったろうが――――≪バッ!! ――――ズシンッ、ズシンッ≫や、やったッ!? いける、いけるぞ!! 凄いぜ白銀……っ!避けようと思ったら"白銀と言う体"が操縦を覚えていたのか、不知火を跳躍させ壁と壁を蹴って飛び、あっと言う間に向かって来た要撃級達を飛び越えれたのだ!そうだ……ハイヴ攻略はとにかく奥に行かなくちゃならないんだよな。チェーンガンとか言うのをブッ放したい衝動に晒されたが、ここは我慢しとくか。「!? ね、ねぇ……あれ誰が操縦してるのッ? なんて動きなのよ!」「……黙って見てなさい。」奥に進んでゆくたびに、BETAの数はまりもり……いや、もりもり増える。もはや単機で殲滅はどうにもならないから、BETAの少ない箇所を探しては、誘導後 噴射着地で其処に着地して再度 噴射跳躍し、どんどんと奥へと突き進んでいく白銀の操縦。なんか、俺が考えた事をそのまま行動に移してくれている感じだ……「――――当たりはしないッ!!」避けようと思えば無理そうで無い限り避けてくれる白銀様。(既に敬称)素晴らし過ぎて俺のテンションも上がり、気分はニュータイプのカ●ーユ。いいなぁこれ! もし次もやる事になったら、有名パイロットの台詞を肖ろう。『見えるッ……そこぉ!!』「ね、ねぇ夕呼……誰なのアレっ? 黙って無いで答えなさいよ!」「…………」『出てこなければ、殺られなかったのに!!』「嘘でしょ、あの体勢で射撃っ!?」「……(誰なのって……あたしが聞きたいわよ。)」中層近くまで進むと、流石に斬ったり撃ったりしないと足場が作れない。 時にはBETAを踏む。でも……まだまだやれる気がするんだけど、機体の制御がおっつかないみたいだ。一つ一つの動作を入力する度に、ガチャガチャと両手を懸命に動かす必要が有る。そろそろ両手が痛くなってきた。 ゲームじゃ何時間もイケたのに、操作性悪すぎ……あぁっ! ヤバい、そろそろ避け切れない……スパ●ボで言う被弾台詞を言う流れじゃね?≪――――ドガッ!!≫『ぐっ……こ、こいつっ!?』「……っ……な、なんて気迫なの……?」「ふん。 けど、そろそろ撃墜されそうじゃ……」『遊びでやってんじゃ無いんだよぉぉーーーーっ!!!!』「……っ!?」「……白銀、あいつ……」「しろがねっ? 彼は、白銀って言うのね?」「……(そう、まるで人が変わったような……じゃあ、今までのアイツは……)」くそーっ、撃墜されちまったらゆーこさんに幻滅されちまうじゃないかっ。実は既に十分どころか非現実的な位置まで進んでいたんだけど、俺は必死すぎて気付かなかった。左腕を要撃級に持って行かれてメインの長刀が使えなくなっちまった今、名台詞を叫びながらチェーンガンをばら撒きまくって何とか奥へと進んでゆく。でもあっと言う間に弾切れになり、ゲームみたいにリロード時間も存在しない。つまり詰んだ。 進んではいるが徐々に後続に追いつかれ始め、突撃級に突っ込まれ――――『しまったッ!? 直撃を食らった……!!』アボン……致命的な損傷、大破。 ごめんねカ●ーユ、君を名乗った時点で撃墜はタブーなのに。それはそうと最後までノリノリだったな~、悔しそうに撃墜された俺。良い年してガン●ムごっこかよ……必死ではあったけど、かなり恥かしい。ゲーセンで言ってたら変態だ。 ゆーこさんに聞かれてる時点で、既に立派な変態だろう。『ご苦労様。 出て来て良いわよ。』「……はい。」……その為、小さくなりながら筐体から出てくる俺。まぁ、半分も行かずにやられちまったけど、白銀が動かしてくれたダケ儲けモノだ。後は俺が戦術機の云々を頑張って覚えれば、一人でハイヴの奥まで行けるハズだ。あれ、なんかオカしくね? ……単機で反応炉って壊せないんだったよな。 未だに心臓がバックンバックン言ってる為か、自分の戦果の程度まで頭が回ってない。「……あれ?」「あっ……」「おぉ~っ……貴女、もしかして"神宮寺さん"ですか?」「え、えぇ。 どうして私を?」「それは……えーーっと……」「……(こ、こんな子が……)」「……(ゆーこさんにも劣らず、ふつくしい……)」≪じーーーーっ≫筐体を出ると、俺を迎えてくれたのは二人の美女だった。そのうち片方は言わずともながら、もう片方は"神宮寺まりも"ちゃんだった。唐突な初対面に、俺は彼女を見たまま固まってしまったが、相手も同様に固まる。……うぅ、多分 変な目で見られてるんだろう。 何せガン●ムごっこしてたしな。「ほらほら、な~にお見合いしてんのよッ?」「あっ!? すんません。」「い……いいんですっ。」「はぁ……それじゃ~まりも、紹介するわ。 彼は"白銀 武"少佐よ。」「「――――少佐ぁ!?」」けどゆーこさんが助け舟を出してくれ、俺の事を紹介してくださる。でも少佐……少佐って紹介されたよ!? "あの戦果"で俺を少佐にしてくださったんですかっ!?あぁ、そうだったな……中層まで単機で行くとか、XM3もないこの時点じゃ有り得ないんだったね。「何よ五月蝿いわね、二人してハモんないでよ。」「すんません。(なんか此処に来てから謝ってばっかだな~俺。)」「あっ……し、失礼しました少佐殿! 私は神宮寺まりも軍曹でありますっ!」「は?」「先程のヴォールク・データによる操縦、思わず見惚れる程でありましたっ!」「は、はぁ……どうも……」「宜しければ、この機体に是非 御教授願いたく――――痛っ!?」「いきなり何を言い出すのよ、今回はそんな事を教えさせる為に呼んだんじゃないの。」「……(何故にチョップを……)」「とりあえず、紹介したかっただけよ。 それダケだから、職務に戻りなさい。」「は、はぁ……わかりました。 ――――では。」華麗に敬礼をして去って行くまりもちゃん。 やっぱこの呼称がしっくりくるね。けど……何であんな事ダケに彼女を呼んだんだ? お陰で変なヤツだと思われたではないか。まぁ、その誤解は後で解けば良いか。 俺はヘタクソな敬礼をして彼女を見送った。「おっぱお。」「何言ってんの、あんた?」「いや、おっきいのは良い事ですよね。」「……時々変な言葉を使うわよね、アンタ。」「気にしないでください。 今、妙なテンションなんで。」「それにしても、つまんなかったわね~。 まりもにアンタを扱(しご)かせようと思ったのに。」「いや……むしろ彼女だったら本望だったかも……」「え。 あんた、もしかして……まりもみたいなのが好みだったの?」「そうかもしれません、(会社員の俺だったら)結婚したいかも。」「……本気?」「ゆーこさんとも結婚したいですよ?」「死にたいの?」「マジでごめんなさい、調子に乗りました、許してください。 さて冗談はこれくらいにして……さっきので、俺の事を随分と評価してくれたみたいッスね。」「ふん……まぁ、まりもがアレだけ驚いたくらいだしね。」「驚いてくれたのは良いんですけど、キモいとか痛いとか言ってませんでした?」「はぁ? ……何で?」「言ってなかったら良いんです。」「とにかく、アレを見てアンタの処遇を決めたわ。 言った通り少佐であたしの直属の部下。 任務は護衛と基地の防衛。 そしてオルタネイティヴ4の協力と支援よ。」「了解です。」「でも、信用には程遠いわよ?」「妥当かと。」「IDとか認識票 云々は後で届けるわ。 部屋への案内は必要かしら?」「基地の構造は(白銀が)覚えてると思うんで部屋番だけ教えてください。」どうやら俺は、実力を評価されたらしい。白銀様、流石であります。けど評価されなかったら怖いまりもちゃんに……それはそれで一興だが近道できて良かったぜ。そんなこんなでゆーこさんに部屋の場所を教わると、彼女はくるりと歩き出そうとするが……「そうだった、待ってください。」「まだ何か有んの?」「色々と世話を焼かさせた俺が言うのもアレですけど、ちゃんと休んでくださいね。」「ハッ……そんなつまらない事を言いたかっただけなの?」「いや……そうじゃないんスけど、ゆーこさん疲れてるでしょ? ……だって、結果オーライはオーライでしたけど、 俺みたいな"得体が知れない奴"と護衛なしで対面しちまうなんて、 どう考えても疲れてるとしか言えないじゃないですか~。」「…………」「それだけオルタ計画4に行き詰ってたって事なんですよね?」「だから何?」「休んでくださいって事です。 ゆーこさんが倒れた時点で人類に未来はありません。 ……信じられます? 以前のループでは失敗に自棄になって俺に抱かれた事もあるんですよ?」「……っ!?」……羨ましいぜ白銀……失敗前提のイベントなんて俺には体験できねぇよ。でも、こう言う事を言わないとフラグも立たないし、ホントに倒れられたら俺が困る。物凄い形相で睨まれて凄い怖いけど、頭を冷やせば俺の言葉を理解してくれるだろう。「まぁ……それだけッス。 オルタ4、必ず成功させましょう。」「…………」それだけ言って、俺は逃げるようにその場を去った。……何というやっつけな競歩……だって、こぁいんだもん。そんな中、チラっと後ろを振り返ると、まだゆーこさんは筐体の前に立っていた。「……はぁ……あたしは以前のループで、 自分の恥かしい事、全部 あんたに曝け出してたって言うの?」≪遊びでやってんじゃ無いんだよぉぉーーーーっ!!!!≫「ムカつく言動ばっかだけど、遊びじゃない……か。 それがあんたの"本気"の意見だったって言うんなら、とりあえず肝に銘じておくわ。」――――俺はその日の夜、ゆーこさんの復讐が怖くて眠れなかった。