「うわぁああああー!!」
「大丈夫か! しっかりしろ! もう大丈夫だ!」
巨大な鉤爪を喰らい跳ね飛ばされた自警団の一人、黒影トルーパーを助け起こす。
その先では、同じく自警団の青年達が変身した黒影トルーパーが、必死に槍を振るって巨大な蜘蛛の化け物ディスパイダーと戦っていた。
十人の黒影トルーパーは、暴れまわるディスパイダーを必死に槍で打ちかかるが、その周りで群がってくるサナギワームに邪魔され、ディスパイダーの鉤爪と撃ち出す棘で幾度と無く叩き伏せられる。
妖怪の出現の報せを受け駆けつけた上白沢 慧音は、苦戦する青年達の姿を認めるとその懐から変身音叉を取り出し、構える。
「歌舞鬼ッ!!」
打ち鳴らし、額へと翳しその名を叫ぶ。瞬間、慧音の身体を舞い上がる桜吹雪が包んだ。
「破ァッ!!」
気合の声と共に桜吹雪が弾け飛び、その身体が赤と緑、長短二本の角を生やした鬼の戦士、仮面ライダー歌舞鬼に変身した。
歌舞鬼は変身音叉を鳴刀 音叉剣へと変形させると、跳躍し、黒影トルーパーを踏みつけようとするディスパイダーの頭へと、高高度からの一撃を見舞った。
落下の勢いを乗せた斬撃は大蜘蛛の巨体を怯ませ、後退させる。追い詰められていた黒影トルーパーから引き離されたディスパイダーは、巨大な下半身から伸びる人型の胴体の瞳の無い顔で忌々しげに乱入者を睨んだ。
「慧音先生ッ!!」
「コイツは私が引き受ける! ワームの相手は頼んだぞ!!」
黒影トルーパーに手早く指示を出すと、歌舞鬼は音叉剣を振り上げ、ディスパイダーに挑みかかった。
振り回される巨大な前足を交わし、二度三度と斬りつけると、その強固な身体から火花が散る。歌舞鬼はディスパイダーが怯んだと見ると、跳躍しディスパイダーの腹の上に飛び乗った。
対するディスパイダーは人型の胴体で歌舞鬼を出迎え、腕を振り回して叩き落そうとする。歌舞伎は横薙ぎの一撃を身をかがめてかわすと、お返しとばかりに連続で斬りつけた。
「うおおお! 負けるかッ!!」
「まだまだァ!!」
「こん畜生がッ!!」
歌舞鬼の登場で士気を上げた十人の黒影トルーパーは、一気呵成にサナギワームを攻め立てた。黒影トルーパー十人に対してサナギワームは六体、ディスパイダーという強大な敵がいなくなれば、数・地力共に勝る黒影トルーパーが優勢となる。
ある者は突きで、またある者は振り回して穂先を叩きつけ、思い思いの方法でサナギワームの緑色の身体を打つ。しかし、サナギワームの振るった腕に打たれ、装甲から火花を散らす者も少なくなかった。
「ぐっ!」
大上段に音叉剣を振り上げたところに攻撃を合わされ、歌舞鬼がディスパイダーの上から転げ落ちた。地面に落ちた歌舞鬼は、慌てて身体を横に転がすと、その勢いのまま立ち上がった。一拍遅れて、先程まで歌舞鬼がいた場所を、ディスパイダーの足が踏みつける。
「くそ、手強い!」
追い討ちに放たれる無数の棘をかわし、音叉剣を構えながら、歌舞鬼が毒づいた。その時、ディスパイダーの身体を横からの無数の銃弾が襲った。
咄嗟に銃弾が飛んできた方向を見ると、一人の青年がホバー式のロックビークルを駆ってディスパイダーに向かって一直線に向かっていくのが見えた。その後ろに小さな蝙蝠を引き連れながら。
「ダンデライナー! 晴太か!!」
晴太と呼ばれた青年は、機銃を撃ちかけながらアクセルを吹かして突っ込んでいく。やがて距離が詰まると、おもむろにその車体から飛び降りた。
鈍い衝突音が轟いた。限界まで加速したダンデライナーが機銃の攻撃に怯んでいたディスパイダーに叩きつけられ、大蜘蛛は苦悶の声を上げて跳ね飛ばされる。
「キバット! 足止めは頼んだぜ!」
「任せとけッ! ヨッシャアッ、キバッていくぜ!!」
飛び降りた青年は、歌舞鬼の元へと駆け寄ると引き連れていた蝙蝠をディスパイダーに向かって嗾けた。
蝙蝠は、威勢の良い返事を返すと、金色の羽を羽ばたかせ、起き上がろうとするディスパイダーの元へと飛んでいった。
「ディスパイダーか、しかもリボーンの方ときやがる。誰だ? 中途半端に手ぇ出したんわ」
「大方、他の妖怪に負けて縄張りを追い出されたのだろう。 気を付けろ、手負いの獣は何をするか分からんぞ」
「オスッ!!」
青年…晴太は、歌舞鬼の言葉に気合の入った返事を返すと、黒影トルーパー達と同じ装いのバックルを装着した。腰に当てると同時、フォールディングバンドが一周し変身ベルトが固定される。
『マツボックリッ!』『ロック・オンッ!』
右手に握ったマツボックリを模した錠前、ロックシードが起動し、その名が読み上げられる。青年の頭上で空が開き、松ぼっくりを模した鎧が現れ、青年がロックシードをバックルへと叩き込むと、ギュインギュインと弦楽器を激しく掻き鳴らすような待機音が響き渡った。
「オラッ! この蜘蛛野郎ッ! 空気読め! 今から晴太が変身するんだよっ!!」
何度も体当たりする蝙蝠に向かって鬱陶しげに腕を振り回すディスパイダーに向かって、晴太は不敵な笑みを浮かべ、拳を握った両手を交差させて前へと突き出した。
そのまま右腕を腰へ引きながら、左腕をぐるりと回して左斜めに突き出すと、引き戻すと同時にバックルに備わったカッティングブレードを右手が叩く。
「変身ッ!!」
『マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウッ!!』
ロックシードが切り開かれ、ベルトが高らかに名乗りを上げた。空中に浮かぶアーマーが落下し、晴太の頭を覆い前後左右に別れ、黒い鎧に姿を変える。
ライドウェアに包まれた腕を振り上げ、握り締めた槍が天に向けて掲げられた。金色の単眼を備えた戦士は、勇ましく見得を切る。
「黒影トルーパー、日昇 晴太! 推して参るぜ!! ぬりゃああああッ!!」
黒の長槍『影松』を手に、黒影トルーパーはディスパイダーへと突撃を掛けた。いまだ蝙蝠に遊ばれていたディスパイダーは猛烈な速さで近づく槍兵の姿に気付けず、その鋭い刺突を喰らうこととなった。
ギッと呻き声を上げよろけた巨体に、黒影トルーパーはその隙を逃さず、突き出した槍を引き戻し追撃の突きを見舞った。
三度槍が引き戻され、再度突きが蜘蛛を襲う。繰り返される毎にその動きは早まり、やがてそれは激しい突きの嵐となった。
「そらそらそらそらそらアァッ!!」
残像を残す程の速さで繰り出される無数の突きは正しく嵐。鋭い穂先はディスパイダーの金属めいた身体に幾度も突き立ち火花を散らした。
「いいぞ晴太! やっちまえ!」
金色の蝙蝠が声援を送った。その脇を緑の影がすり抜け、ディスパイダーへと飛びかかっていく。
「私も忘れないでもらおうか!」
刺突の嵐を繰り出していた黒影トルーパーが後ろに飛んで道を開け、音叉剣を構えた歌舞鬼が斬り込んで行く。
鋭い切っ先はディスパイダーの前足、最も攻撃に使われていた二本の片方を集中的に狙った。幾度も剣を振り下ろすと、もう片方の前足に跳ね飛ばされるが、入れ替わるように前に出た黒影トルーパーが追い討ちを掛ける。
突くだけでなく、槍は自在に弧を描き振るわれる。回転の勢いを乗せた激しい打撃で前足を打ち払い、黒影トルーパーはその胴体に鋭い突きを放つ。
一箇所に留まり、同じ場所を激しく斬りつける歌舞鬼とは対照的に、黒影はその身軽さを活かしてディスパイダーの周囲を飛び回り、しきりに立ち居地を変え、矢継ぎ早に攻撃を繰り出していく。
あらゆる方向から打ちかかる黒影トルーパーを捕まえようと腕を伸ばせば、逆側からの歌舞鬼の剣がその身体を斬りつける。
「どうしたどうした! さっぱり当たんねぇぞデカブツが!」
槍を支えに跳躍し、ディスパイダーの頭上を跳び越しながら、黒影トルーパーが笑った。それに神経を逆撫でされたか、怒りの咆哮を上げてディスパイダーが黒影トルーパーに狙いを向けた。身体を反らし、どこ顔から棘の雨を打ち出そうとする。
しかしそれは、着地と同時に振り返り、一閃された影松を横っ面に叩き付けて阻止された。さらに、その身体に続けざまに放たれる緑色の火球が着弾した。音叉剣から持ち替えた音激棒 烈翠から放たれた、歌舞鬼の鬼火弾である。
更に歌舞鬼は、ディスパイダーに駆け寄ると鬼火を吐きかけながら、腰に備わった音激鼓を掴んだ。それを見た黒影トルーパーは一度頷くと、ベルトのカッティングブレードを倒し、大技の体勢に入った。
『マツボックリスカッシュ!!』
ベルトが吼え、黒影トルーパーが空高く跳躍した。振り上げた槍の穂先に松ぼっくり状のエネルギーを纏わせ、鬼火に炙られ悶えるディスパイダーへと襲い掛かる。
「おおおおおおっりゃあ!!」
落下の勢いを乗せた一撃は、ディスパイダーの人型の胴体の正面に突き刺さり、次いで解放されたエネルギーが炸裂してその身体を奥深くまで抉った。
「ギャー! 痛ったいわね! 何てことすんのよ!!」
「おおっ!?」
突如、ディスパイダーがその無機質な顔に似合わぬ可愛らしい悲鳴を上げた。
驚いた黒影トルーパーが声を上げるが、ハッとしたようにディスパイダーは黙り込む。
「お前もしかして「音激打ッ!!」」
黒影トルーパーが訝しむ間に、歌舞鬼は必殺技の体制に入っていた。
取り出していた音激鼓をディスパイダーの身体に貼り付け、巨大化したそれに向かって烈翠を振り上げる。
「業火絢爛ッ!! ハァアアアアアアッ!!」
演奏が始まった。凄まじい勢いで音激鼓が連打され、放たれる清めの音色をディスパイダーの身体へと叩き込む。巨大な音は衝撃波となり、ディスパイダーの身体を揺るがしら。
瞬く間に三十が殴打され、歌舞鬼は最後の一撃を振りかぶる。
「破ァッ!!」
ズドン、と腹の奥まで響く衝撃がディスパイダーを貫いた。無数の衝撃を打ち込まれたディスパイダーは一度大きく身震いすると絶叫と共に爆発した。
『マツボックリスカッシュ!!』
『マツボックリオーレ!!』
『マツボックリスパーキングッ!!』
同時に、後方で戦っていた自警団の黒影トルーパー達の必殺技がサナギワームを貫いた。
悲鳴を上げ、次々と爆発する敵の姿に、自警団一同が湧いた。
「わひゃあああああっ!」
一方、歌舞鬼と、爆発の瞬間に離脱した黒影トルーパーの前ではディスパイダーの爆発の中から小さな人影が、力の抜ける悲鳴を上げて飛び出していた。
「ああ、やっぱ妖精が変身してたのか。どうりで可笑しいと思ったわ、リボーンになったディスパイダーなんぞ滅多に出ねーからな」
黒影トルーパーがそう言ったのを聞いて、その隣で歌舞鬼が頭を抑えた。
爆発の勢いでころころと地面を転がって、肩をすくめる黒影トルーパーの前にべしゃりとうつ伏せに倒れたのは。背中から虫のような羽を生やした、少女の姿をした妖精だった。
その妖精はバッと起き上がると、涙目になりながら二人のライダーを睨みつけた。
「ちょっと痛いじゃないの! 死ぬかと思ったじゃない!」
「妖精は死なんだろ、つーか変身してんなら最初からそう言おうや。 『ライダーバトル』はお互いに宣言してから始めるのがルールだぞ?」
「普通に喋ったら人間が驚かないじゃないっ!」
「そーいう問題じゃねーだろ。ルールがあるんだっつーに」
「知らないわよそんなのっ! っていうかさっきの凄く痛かったのよ!? 謝んなさいよっ!」
「いや仕掛けてきたのお前」
「うっさい! 私は痛かったのっ!」
プンスカ怒る妖精に、黒影トルーパーは呆れた口調で返す。わざわざしゃがみこんで視線の高さを合わせる辺り相手を完全に子ども扱いしていた。
しかしまぁ、実際のところ見た目も中身も子供そのものだから仕方が無い。
「まぁ、うん、とりあえずお前変身解けたから。負けたからさっさと森に帰れ。な、飴やっからよ」
「え! 飴くれるの!? って違う違うっ! 私は謝れって言ってんのよっ!」
頭をぽんぽんされながら、妖精はやがてぷくっと頬を膨らませるとしゃがみこんだ黒影トルーパーに蹴りを入れて距離を取った。
いてっ、と声を上げた黒影トルーパーを睨みながら、妖精は洋服のポケットから変身ブレスを取り出し左手に巻きつけた。それを見て、歌舞鬼が声を上げた。
「おい待てっ! お前はもう負けたんだぞ、これ以上戦うのは許されないぞ!」
「うるさーい! アンタ達なんかギタギタにしてやるっ!!」
歌舞鬼の制止を無視して、妖精は右手を突き上げ、叫んだ。
「ザビーゼクター!」
その声に答え、一機の蜂に似た変身アイテムが羽音を鳴らして妖精の手に収まった。
「変身!」
『HENSHIN』
妖精が変身ブレスにそのザビーゼクタを装着すると、瞬く間にその全身を装甲が覆い、黄色い装甲を持った長身の戦士となった。
大型の鎧で身を固めた黄色のライダーは拳を握ると二人に向かって、威勢よく構えた。
「やれやれ、妖精はこんなんばっかだから困る」
蹴られた顎を押さえながら、黒影トルーパーが立ち上がった。槍を持った腕を軽く回すと、歌舞鬼の方を向いた。
「帰り遅れます」
「うん、まぁ、適当に頑張れ」
「ウス」
短いやり取りを終えて、黒影トルーパーは黄色いライダーへと向き直った。
「おい、これで満足するんだな? 付き合ってやるから終わったら帰れよほんとに!」
「いいから早く来なさいよ!」
「へいへい、仕方ねぇから遊んでやるよ…」
『クルミ!』
「こっちでな」
『ロックオン!』『クルミアームズ! ミスタァアアナックルマァン!!』
松ぼっくりのアーマーが外れ、入れ替わりに胡桃を模したアーマーが黒影トルーパーの頭に被さった。
アーマーが展開し、黒影トルーパーはオレンジ色のアーマーに、巨大な拳を両手に装着した屈強な戦士に姿を変えた。
「仮面ライダーナックル!」
ズン、と両拳を打ち合わせ。新たな戦士、仮面ライダーナックルは黄色のライダーへ突進して行った。
* * *
合わせ鏡が無限の世界を形作るように、楽園の戦いも一つではない。
その楽園の名は幻想郷。全てを受け入れる、神秘の楽園。
少女達の戦いに美しさは無い、あるのは力と力のぶつかり合い。強者と強者が火花を散らす、苛烈なる戦いだけ。
少女達は、その戦いを『ライダーバトル』と呼んだ。
~あとがき~
二次創作を書くうえで一番辛いのって書きたいところに何時までたっても辿りつけない事ですよね。
皆さんお久しぶりです。初めましての方は初めまして。てんむすと言います。
本日は、この作品を呼んでいただき、まことにありがとうございます。
というわけで始まりました、東方Project×平成ライダー。平行世界の幻想郷を舞台に東方キャラが変身するライダーがぶつかり合います。私が書くもう一つの作品『今日から始まるバイク生活』のモチペーションが上がらず、気分転換に書かせていただきました。
『バイク生活』の方を昨年の夏に最後に更新したのですが、リアルに「原作キャラ同士の会話がめんどくせえんだよおおおおおおおうあああああああ!!」となりまして、現在モチペーションが死んでおります。
なので、このあたりで一度気楽に小説を書いてみようと思います。完全にお祭り企画で、一応各異変を追っていくつもりですがどこまで続けるかもまだ未定です。
東方は二次創作でしか知らず、秋姉妹のどっちが姉かも分からないにわかファンですので、お見苦しい文章が続くでしょうが、少しぐらいは楽しんでもらえたら幸いです。更新は不定期ですが細々とやっていきます。
なるべく早く『バイク生活』の更新も出来るよう頑張ります。早く、当事にパシフィック・リムを見て思いついたネタを書きたいつもりではいるんですけどね…orz