毎日とはまでは言わなくとも、頻繁に行われるエヴァの実験に、様々な訓練。
元から体力に自信の無い僕としては、やっぱり疲れも溜まる訳で、授業中に眠くなってしまうのは仕方が無いと思うんだ。
でも学校の授業だって、最低限は出来ないと、将来に影響すると思うから寝るわけにはいかない。
僕とは同じ条件の、少女。最近ドイツからやって来たアスカは、そんな僕の考えを嘲笑うかのように、爆睡しているから、余計に抵抗してしまいたくなるんだ。
転校して来てから、暫くは猫を被っていたアスカだけど、それも最初の内だけ。
今では隠す気も無く、現国とかの、アスカが苦手な科目ならまだしも、今は数学の時間。既に大学も飛び級で卒業してしまったアスカは、改めて授業を受ける価値も無いとでも思っているんだろう。
アスカは表には出さないけど、意外と努力家なんだよね。
だけどその反動なのか、今みたいな聞く価値も無いと判断したことには、驚く程に大雑把なんだ。
それにしても眠いや。
ただでさえ疲れているのに、昨日は遅くにマンションに帰って来たミサトさんに叩き起こされて、ビールのおつまみを作らされたりしたから、尚更だ。
つまり僕が何を言いたいのかというと、僕は非常に眠いという一点に尽きる。
「……だから、これは僕が疲れてるから見えてる幻覚かなにか何だ」
授業中だから、小声で言葉にしてみたけれど、やっぱり眠い。
いや、現実から目を背けるのは、そろそろ終わりにしよう。
僕は、大きく深呼吸をした後、視線を窓際のある席へと向けた。
晴天の空を現すような青いショートの髪と、血のように赤い瞳の女の子。
初めて会った時から、どうしてか気になってしまう同い年の女の子、綾波。
俺は直ぐに視線を外す予定だったのに、実際に綾波を見て、視線を外せなくなってしまう。
それは僕だけじゃなかった。
クラスのほぼ全員が、彼女を見ていたんだ。
だって、綾波は……何故か我が家の家族の一員である、温泉ペンギンのぺんぺんの顔だけ出ているタイプの、キグルミを着ていたんだからさ。
何でそんな物を着込んでいるのか、訳が分からない。
本人に直接聞いてみても。
「……クエ?」
と首を傾げながら温泉ペンギン語? を言うだけで、答えは出ない。
朝からアスカが、普段は僕に言う率が高いアンタバカァ! を合図に突っ込むけれど、それでもマイペースを地で行く綾波の態度は何も変わらなかった。
今にして思えば、爆睡しているアスカは、ただ単に突っ込み疲れで寝ているだけなのかも。
突っ込み、お疲れ様。
労う意味も込めて今夜は何か、アスカの好きなご飯を作ってあげよう。
確かアスカ、ハンバーグが食べたいって、言っていたっけ。
……まあ、少し落ち着いて考えてみれば、綾波が何を考えてるのかなんて、普段から分からないんだから今更だよね。
これ以上気にしていても、仕方無いよね。
本当は、いけないかもだけど、僕も少し寝ておこう。
逃げちゃ駄目だって、最近は我慢することが多かったけど、これ位だったら逃げても良いよね?
僕は、睡魔に負けて、目を閉じて意識を手放す。
次に起きた時は、ちゃんと普段の現実に戻ってこれたら良いなと、淡い期待を抱きつつ……。
「さて、これで授業を終わりにします」
どれだけ寝ぼけていたのか、先生の授業を終わりにするとの合図で、僕は半分くらいだけれども頭が覚醒し、しばしばとなった瞼を指で擦りつつも、目を開ける。
目を開けた僕の目の前には、クラスの皆が、ペンペンのキグルミを着用していた。
「……眠い」
僕はもう一度、寝る事にした。
きっと次に起きた時には、本当の現実に戻っているだろう……と信じたい。
おまけ
「食べる?」
「……遠慮しておくよ」
結局、昼休みまで寝続けていた僕に、綾波は何故か強く煮干しを進められ、僕は丁重に遠慮することに終始した。
これが僕が見ている幻覚か夢なのか、それともドッキリなのか、僕が真実に辿り着くのは、もう少しだけ先の話だと思いたい……。