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No.3946の一覧
[0] 魔法保母さんシャマル(シャア丸さんの冒険)[田中白](2009/01/31 18:18)
[1] シャア丸さんの冒険 プロローグ[田中白](2008/11/30 20:41)
[2] シャア丸さんの冒険 一話[田中白](2008/11/30 20:42)
[3] シャア丸さんの冒険 二話[田中白](2008/11/30 20:43)
[4] シャア丸さんの冒険 三話[田中白](2008/11/30 20:45)
[5] シャア丸さんの冒険 四話[田中白](2008/11/30 20:47)
[6] シャア丸さんの冒険 五話[田中白](2008/09/08 11:20)
[7] シャア丸さんの冒険 短編一話[田中白](2008/11/30 20:49)
[8] シャア丸さんの冒険 短編二話[田中白](2008/11/30 20:51)
[9] シャア丸さんの冒険 短編三話[田中白](2008/09/08 11:35)
[10] シャア丸さんの冒険 短編四話[田中白](2008/10/26 11:20)
[11] シャア丸さんの冒険 短編五話[田中白](2008/10/26 11:30)
[12] シャア丸さんの冒険 外伝一話[田中白](2008/11/30 20:52)
[13] シャア丸さんの冒険 六話[田中白](2008/10/26 11:37)
[14] シャア丸さんの冒険 七話[田中白](2008/11/30 20:58)
[15] シャア丸さんの冒険 八話[田中白](2008/11/30 20:58)
[16] シャア丸さんの冒険 九話[田中白](2008/11/30 20:59)
[17] シャア丸さんの冒険 短編六話[田中白](2008/11/30 21:00)
[18] シャア丸さんの冒険 短編七話[田中白](2008/12/31 23:18)
[19] シャア丸さんの冒険 十話[田中白](2008/12/31 23:19)
[20] シャア丸さんの冒険 十一話[田中白](2008/12/31 23:20)
[21] 十二話 交差する少女たち[田中白](2009/01/31 18:16)
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[3946] シャア丸さんの冒険 一話
Name: 田中白◆d6b13d0c ID:d0504f35 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/30 20:42
――主人公は一応『男』だと思います。





 そこはなんだか良くわからない場所。あまり広くない真っ白な部屋。電灯のような小さな光源が、薄暗いその部屋を仄かに照らしています。

 大きな窓から見える景色は、紫っぽいのと緑色っぽいの、それに黒っぽいのを混ぜたようなゲームによくある異世界色。

 窓に何かの映像を流しているのでしょうか? それとも今は夜なんでしょうか?

 無理やり忘れ去っていても気になってしまうのは、私を見詰めている三対、計六個の疑惑の視線のこと。

 目の前の人たちが放っている絶対零度の視線を浴びるうちにようやく混乱が収まってきた私は、自分の足で立ち上がると隣のお姉さんと目を合わせてみました。

 女性を安心させるために、目を併せて微笑んでみます。ビクッと反応するピンクの髪のお姉さん。

 何故か露骨に目を逸らされます。心なし、お姉さんは焦っているように見えます。

 まぁ、何時もみんなに気持ち悪いって言われますし。初対面にはキツかったでしょうか、私の笑顔? ……はうぅ、それは悲しすぎますよ。

 シュンとなってしまいますが、それは置いておくことにして、今は目の前に居る三人の人たちに私の状況について聞いた方が良さそうです。


「……私は、どうなったのでしょうか?」


 声を口に出すと、少し不思議な気持ちになりました。気のせいでしょうが、自分の声が高くなったような気がします。……風邪じゃあありませんよね? 普通は低くなりますから。

 私の質問を受けて、やっぱり黒い服を着た色黒さんが口を開きます。

 真っ白い髪に浅黒い肌で、頭に楕円の模様があります。どこかの民族の方でしょうか?

 インドの地方にいる女性はあんな模様を頭にチョンとつけていましたが、何か関係しているのですかね?

 他にも、頭の耳の辺りに『狼』の耳のような不思議な物体がくっついています。

 ……あれはアクセサリーでしょうか? もしかすると、この人も子供が好きなのかもしれません。あの耳はきっと子供に大人気です。それとも民族衣装ですかね? それだと少し寂しいです。


「お前は『闇の書』から出現後、すぐに管理局の手によって消滅させられたのだ。再生にはもう少しかかると思ったが、どうやら怪我は浅かったようだな」
「はうぅ? ……よく覚えていません」


 自信たっぷりに謎なことを言う狼耳さん。けれどもそんなファンタジーな記憶、脳の何処を探してもありません。

 ですが、淡々と結果を告げるように言った狼耳さんを見ていると、どうしても嘘だとは思えません。

 もしかして、私は記憶喪失になってしまったのでしょうか? 私は粉塵爆発の後、何らかの事象で何らかの事件に巻き込まれて何らかの人の手伝いをして、何らかの原因で記憶を失った……とか?

 ややこし過ぎます。何らかばっかりじゃないですか。

 はうぅ。私の友達たちならもっと普通の対応出来るのでしょうか……。

 思ってから愕然。あの人たちが、普通に対応? 蘇る奇功の数々。コミケ突撃とか道の往来での大声漫才とか。

 や、ありえねーっぺ。こんだこと考えんなんて、頭どうかしてんべな~。

 はっ。混乱のあまり、昔お爺ちゃんたちに教えてもらったエセ方言がつい出てしまいました……。

 このままグルグルと思考の中で回転していては駄目です。関係のないことは置いておいて、今私の身に何が起こっているのかを調べなくては。


「……えっと、私の名前は『シャア丸』。『やみのしょ』から出現した再生体ですね」
「合っているとは思うが、何かが違う」
「つーか、シャマル混乱しすぎだろ。なんかあったか?」


 現在の私的把握は、結構真実を掠めているようです。でも再生体とか眉唾ですよ。テレビアニメの見すぎですか。

 ピンクさんは訝しげな顔してますけど、三つ編みちゃんは純粋に私を心配してくれているようです。

 こんな小さな子に心配されるなんて。もっとしっかりしなきゃ。

 落ち着くためにはどうすれば良いんでしたっけ……。素数を数えるのは却下です。


「シャマル?」


 私がまたしても思考の海に潜ってしまっていると、三つ編みちゃんが私の顔を覗き込んで来ました。バッチリと目が合います。

 真っ赤な髪の毛、青いおめめ。白い肌がとってもキュート。

 ……か、可愛いです。悪いですけど、容姿は先日のしょう子ちゃん以上です。まさにお人形さん!

 飾りっ気のない、黒い服を着ているのが勿体ない素材です! マイナスです! 人生の七割を損してます! コーディネートを! 誰かコーディネートをお願いします!!


「……シャマル?」


 頭の中でテンションアップした私を見て、半眼になった三つ編みちゃん。

 はうぅ……。私何か変なことでも言ったでしょうか?

 それと、そんなにアダ名で呼ばないで。


「ま、いいか。シャマルが変でも、マスターに迷惑がかかるわけじゃねーし」


 疑惑の瞳を引っ込めると、三つ編みちゃんの目は空虚な色に戻ります。

 な、なんて目をするの、この子……。

 それにしても……マスター。な、なんという淫靡な単語を!

 こんな小さな子に自分をマスターとか呼ばせるって、どんな人ですか! 警察を呼ばれてもおかしくはありません!

 真っ赤な髪の毛の幼子をそんな風に……。

 真っ赤な髪の毛の……。真っ赤な? って、何でこの子の髪の毛赤いんでしょうか?

 えっと……この髪の毛、本物ですか? もうマスター云々はどうでも良くなりました。

 染めてるんだとしたら、髪の毛に優しくないです。最近の毛染めはすごくマシになりましたけど、子供は地毛が一番です。

 素の色の方が可愛いと思うんだけどなあ。ちっちゃな頃はもっと自分の体を大切にして欲しいです。髪を染めるのは二十歳以上って法律を日本で作って欲しいものです。

 この子の髪の赤色は素敵ですけど。すごく自然です。逆に黒髪だと、あんまり似合わないかもしれません。

 そんなに綺麗な髪なのだから、手が伸びてしまっても不思議じゃありませんよね……。

 ちょっとだけ目が輝いてしまうのを自覚します。

 そろそろ……。ゆっくりと伸びる私の右手。あ、気付かれました。今度は神速で伸びる私のゴッドフィンガー。


「ん? 何すんだよ、シャマル……。撫でんなっ!!」


 三つ編みちゃんに叩かれる私の手。何時もながら弾かれる右手。悲しいですけど、最早馴れました。

 ですが、それを上回る事柄に私は戦慄を隠しきれませんでした。

 ふ、ふわふわです!

 カルチャーショック。こんなありえないふわふわ毛髪を持つ人間が、この世にはいるのですか……?

 今まで色んな子の頭を撫でてきた私が到達できなかった至高の境地に、この子は平然と存在しています……。

 少なくとも髪を染めている人間の頭じゃありません。つまりこの子の髪の色は、『地毛』。

 もしかすると、あっちのピンクさんも……?

 期待の目でピンクさんを見ます。私を不気味そうに見返すピンクさん。

 あ、初対面(?)でコレはやりすぎましたかね。


「……シャマル。本当にどうした? お前がヴィータを撫でるなど……」


 目を細めるピンクさん。口調の節々に、彼女が感じているらしい違和感が感じ取れます。

 それにしてもシャマル、ですか。

 いい加減気になってきていたんですが……。もしかして私、シャア丸って呼ばれてないんじゃないでしょうか?

 気のせいか、しゃーまるって伸ばされてないんですよねぇ。しゃまるって呼ばれているような……。

 それと、聞いている限りだとあの女の子は『ヴィータ』っていう名前で呼ばれています……。

 あ、この子の名前はヴィータちゃんっていうんですね。

 ……いうんですね? 三つ編み赤髪青目黒服で『ヴィータ』?

 もともと混乱気味でテンションマックスなのに、そこからさらにリミットブレイク! とうとう確変開始です!

 気がついてみれば、今の私、手が細いですし! 背が小さいですし! 足、細いですし! 黒いドレス着てますし。 腰、くびれてますし……。胸、ありますし……。 

 大・混・乱ですっ!! 

 そっと、頭の髪の毛を2、3本抜いて見ます。綺麗な金髪でした。

 左手の指を見てみると、二つ指輪がついてます。紐を通して首にかけているわけではありません。

 ゆびわ……物語ではなくて指輪……。つまり今の私は……外人! 既婚者! 結婚済み! 

 ……じゃなくて、じゃなくて! あわあわと混乱する私。


「……シャマルがおかしいぞ。ザフィーラ?」
「私に聞くな。この場合、将に判断を仰ぐとしよう。シグナム?」
「ただの混乱だろう、放っておけば治る。それに、今の奴には何故だか近づきたくない」


 外野さんの声が嫌でも私の耳に飛び込んできます。その中には抽出するべき単語が幾つもあります。

 シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、シグナム。総じてその名はヴォルケンリッター! つまりこの場はリリカルなのはっ!!

 なんじょしてこんなことに!? 誰か教えてくれろー。


「また頭抱えてんぞ」
「……強制再生の弊害だ。見ないでやれ」


 ヴィータちゃんの辛辣な言葉を、シグナムがたしなめてくれています。

 でも、六つの瞳から出る見えない光線は、変わらず可哀相なモノを見る目で私に突き刺さっています。

 見ないで! そんな目で私を見ないでっ! 感情の暴走が私の中で始まります。


「……とうとう転がり始めたぞ、アイツ」
「……どうせ、汚れて困るような装備でもない。そろそろウザくなってきたが」
「……そんなものか?」


 つまり、つまりこういうことですかっ!

 ありのまま起こったことを説明します。私は死んだと思ったら、何時の間にかリリカルなのはの世界に来てしまっていたっ! しかも幻覚とか白昼夢とか明晰夢とか名倉とかそんなチャチな物じゃないということですっ!

 さらに、今の状況を一言で説明すると、憧れのシャマルさん憑依! これは大変……。


 ですけど。


 ……特に悪くはないですね。むしろ良いですね。

 大学の友達や家族と永遠に別れることになるのは寂しいですが、どのみち爆発で死んでしまった命です。ここで生活してみましょう。

 それにこの身体なら、いい『保父』……もとい『保母』になれると思います……。

 本の体の持ち主のシャマルさんには悪いですけど、私の野望の礎になってもらいます。外道だと笑わば笑え。目的の為なら何であろうとも踏みにじってやります……。


――ウフフフフフフフフフフフフ。


「うわ、変な魔力噴出し始めたぞ!」
「……やっと目が覚めたか? 湖の騎士はああでなくてはいけない」
「そもそも、こんな話をしている暇はないのだがな」


 これからの目的が決まったところで、今の状況を確認しましょう。この三人の話を聞いていた限り、今はかなり大変な状況のようですが……?

 そもそも今は何時ですかー?


「よく覚えてないけど、さっき捕まっただろ? 今は管理局の戦艦中にいんだ。今は無理矢理バインド藪って出てきたところ」


 何があったんだろ? 本当に不思議そうにしているヴィータちゃん。他の二人もどうして捕まったのか覚えていないように見えます。……闇の書が暴走したからですかね。

 それにしても、管理局の戦艦の中って……それってどんな状況ですか……?




シャア丸さんの冒険

一話「11年を越える傷跡」




「……うわぁ。気持ち悪いです」


 今まで4人で待機していた小部屋を出ると、視界に入る金属質の白い床と壁は植物のツタみたいな物で覆われていました。

 私の視界の中、グロテスクに蠢くツタ、ツタ、ツタ。辺り一面茶色のツタだらけ。

 さっきまでいた小部屋の中にも開いた扉から侵入していって、一瞬で辺り一面がツタだらけになりました。


「闇の書が暴走しているのか? どうやら主も隔離されているようだ。救出を急がねば」


 シグナムの体が輝き、その体に騎士甲冑が装着され…………たんですか?

 甲冑は、アニメのものとは全然違っていました。西洋風ではありますが、白くない。むしろ黒い。

 さらに、所々に棘が生えていて、ちょっとどころかかなり禍々しい。髪の毛は下ろされて、ロングになっています。ガイコツっぽさのにじみ出る無気味な鎧です。

 持っている古代ベルカ式アームドデバイス『レヴァンティン』こそアニメそのままですが、そのせいで鎧の禍々しさと不一致です。

 どんなマスターがこの甲冑を作ったんでしょう……。

 視覚的に見れば破滅的に悪役です。こんなのを着た正義の味方がいるはずがありません。

 ザフィーラをちらり。なんだか不思議な黄色いスケールアーマー。やっぱり趣味悪い……。組み合わされた鉄板の一枚一枚が、黄色く塗られています。非常にコメントしづらいです。とりあえず不遇としか言えません。


「アイゼン!」


 ヴィータちゃんも叫びます。体を覆う、青い棘つき軽鎧。

 アニメみたいに帽子なんて被っていません。かわりに髪の毛がバンダナに纏められて結い上げに。

 ……えーと。なんだか趣味が悪いです。とんがったトゲばっかり。美的センス皆無です。

 よーし、パパ、可愛い娘にお洒落な服を買ってきたぞ! って変なセンスの服を買ってきて勘違いして喜んでいるお父さんですか。

 ……力を求める闇の書の魔導師なんて、得てして美的センスはないってことですかね。

 彼女たちの騎士甲冑を目の当たりにしてつい達観してしまった私を見て、シグナムが首を傾げました。


「シャマル? 武装はどうした」
「え゛」


 驚きです。私も武装するんですか?

 指を見ます。そこでキラリと輝くのは、指に嵌ったクラールヴィント。……お頼みしますよ、クラールヴィント。最初からリンゲフォルムでの登場なんですから、魔法ぐらい使えますよね……。確証はないですけど。

 デバイスは魔法使いの命です。私の言うこと、聞いてくれるでしょうか?


「せ、セットアップ」


 詠唱(?)を唱えてから手を掲げます。目を瞑って、暫らく待ちます。

 シーン。デバイスは沈黙を保ったままで、何も起こりません。

 こ、このまま待っていれば何かが起こると思いません?

 少しだけ目を開きます。そこにいたのは、白い目のシグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラ。

 だから、そんな目で見ないでください!? 私は一般人です! 変身の仕方なんてわかりません!わからなくても仕方がありません!


「何をしているんだ……」


 こめかみを引くつかせるシグナム。あうあうする私。

 シグナムは、一秒でも早く今のマスターと闇の書を助けに行きたいのでしょう。
でも、でも。いえ、いえ、私が悪いんじゃないです! 犯人は別にいます! それは運命。人が相対する最強の敵です!!

 だからきっと……。

 私が何を思おうと、シグナムの糾弾するような目つきは全く変わりません。


「クラールヴィントぉ……」


 涙目でクラールヴィントを見詰めます。指の中にある指輪があまりにも綺麗で、今の私にはとても不釣合いです。

 そんな私の様子に、困ったように輝くクラールヴィント。ヤバイです。本当に泣きそうです。


『Ich verstehe nicht. was Sie meinen?』(貴女は何を言っているんですか?)
「……え? 騎士甲冑、着れるんですか?」
『Kein Problem』(問題ありません)


 クラールヴィントの声にビクッと身体が反応しました。

 う、うわ。ドイツ語がわかります!? ……いえ、なにかドイツ語とは違うような?

 私の反応を見てか、困ったように明滅しています。……えと、とりあえず、クラールヴィントは問題なしって言ってます。

 騎士甲冑の装着は私にもできるってことでしょうか?

 心を無にします。お掃除が大変な時に、自分の体の反復と経験に任せて精神の休息を測るときと同じように。

 目を瞑ります。心は無のまま。体の感覚を消し去ります。案外あっさりと行うことができました。

 そうして暫らくジッとしていると、目蓋の裏側に何か光が見えてきました。

 その先に見える、鈍く輝くまあるい物。

 それは、緑色の小さな塊。薄い緑色の光を放っています。

 何時の間にかそこにあった精神の手で、ちょっとだけ触ってみました。

 触った拍子に、それはとくんとくんと鼓動をたてて動き始めます。

 周囲にある何かを吸収して、まあるい物が輝き始めました。

 私の拙い知識を参照するなら、周囲の何かは魔力素。魔力を作るのに必要な力。まあるい物はリンカーコア。

 理解するとわかります。魔力素が唸りをあげてリンカーコアに吸収されています。

 力強く輝くリンカーコア。魔力が、私の中で生まれました。

 目を開きます。今きっと、魔法の使い方を理解しました。

 騎士甲冑、装着です。


「クラールヴィント!」
『Ja』


 手を掲げると、真っ黒なドレスが光になって消え去りました。晒される、今の私の体。


 体を緑色の光の渦が取り巻いて、下着を形成します。


 一度回転、足に平らなブーツが作られ、ガッチリと固定されます。


 両手を広げます。赤い棘つき肩鎧が装着され、胸とお腹を真っ赤なプレートメイルが覆います。


 短いスカートが腰まわりにあしらわれ、装甲をつけられたズボンが足を覆います。


 何もついていなかった両手に爪のついた白いガントレットが装着されました。


 爪の先にクラールヴィントがはまります。


 頭に赤い棘つきの帽子がチョコンとのっかりました。


 後は全身の装甲がない部分が赤や黒で染まって、騎士甲冑の完全装着が終わりました。


 ……かなりの重装甲です。フルバックである援護役のシャマルは、機動力は必要ないので狙撃などを警戒して大鎧が良いとマスターが思ったのでしょう。

 手の爪は、本当に危ないときの最終自衛手段なのだろうと思います。

 参謀は身軽な方が良いと思うのですが……。

 ちょっと全身を眺めてみます。


 頭に手を触れて、帽子についている長い角に戦慄します。


 肩に手を触れて、肩についている棘に戦慄します。


 手に触れて、ガントレットの先に爪がついているのに戦慄します。


 腰に手を触れて、腰を覆うスカートに戦慄します。


 最後に全身見回して、真っ赤なのに戦慄します。


 赤い鎧、棘つきの肩、爪、角、スカート。欲張りすぎです!

 何ですかこの素敵装備はっ! テンション上がりまくりですっ!

 ガントレットって、普通は敵から斬撃とかを受け流す為の防具ですがどうやらこの鎧の場合は鈍器としての側面が強いみたいです。右手の手甲には花の模様が描かれています。

 目に触れてアイマスクがないのにショックを受けながら、全身を見てホレボレします。

 つまることころ。

 シャアです。シャア専用です。ザク、ズゴック、ドム、ゲルググ、ジオングのパーツのバーゲンセールです。

 少佐はドムには乗ってないと言うかもしれませんけど、小説版で地味に使ってます。


「武装、終わりました」
「遅い」


 満面の笑みで報告する私に、足をイライラと動かして返すシグナム。怒っちゃヤですよ。

 ヴィータちゃんが胡散臭げに私を見ています。ザフィーラは何も言うことは無いと静観しているようです。

 ……なんでしょうか、みなさんのそのポーズは?


「貴様、本当にシャマルなのか……としか言いようがないが、シャマルだな」
「ああ。こいつシャマルだぜ。信じられないけど」
「性能の低下、ということだろう。どこかでバグが入ったのかもしれん」


 辛口の三人。はうぅ。なんかボロクソ言われてます。

 また涙目になった私を見て、一斉に溜息を付く三人とも。悪かったですね、私がシャマルで。


「まあいい。とりあえず、準備完了だ。乗り込んでいる局員の誰なりとでも脅して、主の場所を聞き出すとしよう。……レヴァンティン!」


 シグナムの剣から、紅く装飾された弾丸型の物体が一つ飛び出します。地面に落ちる前に光になって消滅。

 それは、一般的にカートリッジと呼ばれる物でした。

 儀式によって、圧縮された魔力を封じ込められた弾丸。

 小難しく儀式などと言われていますが、どうやら誰でも作る事はできるみたいです。

 リリカルなのはの世界の主流である遠距離砲撃が中心のミッドチルダ式のデバイスと違った、近・中距離を得意とするベルカ式デバイスの固有能力。

 これを使う事で、術者の魔力を一瞬だけ爆発的に高める事ができるとか。

 炎を纏うレヴァンティン。

 飛び上がるシグナム。


「紫電一閃!」


 シグナムの魔力変換資質で炎を纏い威力を増した紫電一閃のスキルが、戦艦の内壁をぶち破ります。

 ぶち破った隔壁から出たヴォルケンリッターの仲間が、周囲を見渡しています。

 しかし、何処を見ても人っ子一人いません。


「ちっ! 乗組員の避難が始まっている! このままでは……」
「なら、纏めてぶち壊してでも探してやらぁ! アイゼン!」


 今度はヴィータちゃんの攻撃です。

 壊すことが一番の得意技であるヴィータちゃんの最強攻撃です。デバイスから飛び出す二つのカートリッジ。

 巨大化するヴィータちゃんのゲートボールハンマー。ギガントフォルムです。

 小さな体のヴィータちゃんがあんなに大きな武器を持つと、なんだかある意味微笑ましさすら感じてしまいます。ただ感情が麻痺しているだけだと思いますけど。


「轟天爆砕!」


 ヴィータちゃんの口から吐き出される咆哮。今度こそ一直線にぶち抜かれる戦艦の内壁。

 巨大なハンマーの一撃で飛び散る戦艦の破片。それを防ぐために、ザフィーラが私たちの前に立って障壁を張ってくれます。

 弾かれて消滅していく壁。……何時の間にか閉じていた目をムリヤリ開くと、内壁どころか外壁までなくなっています。

 ……外壁にまで穴を開けないでください。なんだか危険そうです。

 武器を振るって道を切り開いていくヴォルケンリッターの攻撃役二人。

 ……さて、今破壊工作受けているこの戦艦の名前、なんていいましたっけ。

 もしも私の予想が正しいなら、ここはA’s10話で語られた昔の話です。11年前にあった、闇の書が戦艦を乗っ取った事件だったはず。

 ツタありますし、戦艦ですし。そんな状況から見ているだけなので、特に証拠はないんですけどね。

 たしか……名前は何度か出ていたはず……。最近アニメ見たばかりなんだから、思い出せてもいいはず。そこで天啓が舞い降りてきました。

 エスティア。……あぁ、エスティアです。確かそんな感じの名前でした。

 思考を逸らしている私には関係なく武器の構えを解くヴィータちゃん。グラーフアイゼンが元の大きさにまで戻ります。

 あれ? この事件の時、ヴォルケンリッターって実体化していたのでしょうか? よくわかりません。

 どうやら、今は実体化しているみたいですけど……。

 私が潜り込んでしまったことで何か変化でもあったのでしょう。そう思って自分を納得させます。


「行くぞ!」


 シグナムの声。ハッとすると、三人はすでに米粒に。かなり遠くへ向かって走り出しています。

 私も遅れて走り出すと、ヴィータちゃんたちが作ってくれた道を一気に進みます。

 みんなで一つを目指して行動するというのは、なんだかちょっとだけ楽しいです。

 急いでいる三人の背中。なんとなくヴォルケンリッターのみんなに話し掛けようとしたその時、船がグラリと揺れました。

 まるで、これから大変なことが起こるような。そんな衝撃。


「闇の書が何かをしている……? 急ぐぞ、嫌な予感がする」


 隣に並んでいるザフィーラが私に進言してきました。目指すのはエスティアの司令室。

 ……ところで、なんで私はすでにみなさんに順応しているのでしょうか? それに、マスターを助けるために行動していますし。

 別にマスターは私になんら関わりなんてない人なのに、どうしてでしょう?

 疑問に首を傾げながらも私は走ります。……少し、走り難いです。この体には、まだあまり慣れてないからかな?

 どうして飛ばないの~。飛び方わかりませんからー。




 確保した闇の書の護送任務を受けた船団、その中の艦の一つである『巡航L級2番艦エスティア』。

 決して楽な任務ではないと思っていたが、まさか戦艦のコントロールを奪われるとまでは思っていなかった。

 戦艦のコンソールの前で、額から血を流しているのは艦の提督であるクライド・ハラウオン。一応艦の航海日誌と映像記録にそう打ち込んでおいた。多分、画も音も回収はされないだろう。

 今、この船団の艦隊指揮官に、艦を闇の書に乗っ取られたことを報告する通信を終えた。

 後は、目の前にある艦の主砲『アルカンシェル』を喰らうだけだ。それで、此度の闇の書事件は終わる。

 一番の心残りは、自分の妻と三歳になる幼い息子。ブリッジの片隅に置いてある家族と一緒に撮った写真を眺める。

 微笑む妻と腕の仲で無邪気に笑う息子。もう一度、この腕に抱いてやりたかった。

 その時、後ろから叫び声が聞こえた。

 すでに全員の避難は終了しているはず。まだ、誰か残っていたのか。

 爆発音。

 振り向くと、ボロボロになった艦戦クルーの数人がそこにいた。

 頭に血が上る。何故、残っていた。何故、点呼をごまかした。


「バカ野郎! 何をしている、お前達!! 避難したのではなかったのか!」
「提督だけを一人で逝かせるような真似はしたくなかったんですが……奴ら、強すぎます」


 倒れ伏すクルー。こいつらは何を言っている? 少し目を細める。

 そこに、追撃が来た。爆発音。倒れていたクルーたちが飛び散った。

 壊れたことで意味をなさなくなった扉から入ってくる、一つの影。小さく息を呑んだ。


「マスターは何処にいる?」


 青い鎧を来た、赤髪の魔導師だった。ハンマー型の、珍しいベルカ式アームドデバイスを持っている。

 後ろから、もう三人現れた。あまり趣味が良いと言えない装備をつけている。

 考えるまでもない。奴らは、闇の書の守護プログラムだ。

 暴走した闇の書をなんとか確保した時、同時に拘束していたが逃げ出したらしい。

 目の前にある脅威。それは、少し前ならば不味い状況だっただろう。けれどもう遅い。味方の……司令のいる艦のアルカンシェルはすでに発射されるのを待つだけだ。

 いくら守護プログラムでも、戦艦の主砲は防ぎきれまい。

 近くで、コンソールが爆ぜた。血が足りないせいか、ふらついてバランスを崩してしまった。


「もう遅い。この艦は撃沈する。君たちも終わりだ。『次』に行くが良い」
「あなたはそれで良いんですか!?」


 赤い鎧を着た金髪の女性が叫んだ。つい、叫んでしまった。そんな様子だった。

 慌てて口を抑えていた。仲間の視線に晒されて、縮こまった。

 そんな四人のリラックスした態度を見て、自分で言っておきながら彼女たちはここで死んでも次があることに思い至った。

 だとすればここで死に行く自分のことを、覚えていてくれるのではないか? 心の何処かにでも覚えていてくれるのではないか?

 もしかすると。本当にもしかすると、最悪の予感だったが、次の事件の時に自分の妻や息子と敵対する時が来るかもしれない。

 管理局にあまり関係のない家族二人と、敵対するかもしれない。

 彼女たちが騎士ならば。万が一の確立でも、伝言さえ伝えておけば、気まぐれにでも自分のことを妻や息子に伝えてくれるのではないか?

 自分勝手だが、遺言が残せない今の状況では、彼女たちに賭けるしかなかった。

 自らの閉ざされた口を開いた。自分のエゴを吐き出すことにした。


「……。そうだな。一つ、伝えて欲しいことがある」
「何を言っている。世迷言はいい。早く主の場所を吐け」


 黒い鎧を来たピンク色の髪の女性が、手の内のアームドデバイスを胸の前で構える。

 気にはしない。どうせこれから失われる命。脅しは無視した。


「妻に、息子に会えたら伝えてくれ。忘れてくれと。幸せを見つけて生きてくれ、と」
「手前勝手な言葉を聞く耳はもたん。答えろ、主の場所を」
「もう、遅い」


 女性の直剣デバイスが一線された。燃え上がるような痛みの後、一瞬の思考の空白で自らの命が絶たれたのに気が付いた。

 言う事を言い終えることが出来た口元は、満足気に笑っていた。




「仕方がない。主は手分けして探す」


 倒れた死体には目をくれず、シグナムが言います。目の前で散った一つの命。

 それが、悲しかった。

 アニメで見たシグナムは、こんな冷酷な人じゃなかった。これが、はやてちゃんに会う前のヴォルケンリッターなんですね……。

 ドラマCDとやらにはこんなシーンあったのでしょうか? ……ドットかラッキ辺りに借りとけばよかったかもしれません。

 何時の日かリンディさんに、クロノくんに胸を張って会える日が来たら伝えます。あなたたちのお父さんは、とても勇敢だったと。

 ……さて、どうして私はこんなに感情的になっているのでしょうか?


「さあ主を探すぞ……っ!」


 シグナムの言葉に、全員でマスターを探そうと身構えます。ホント、リーダーシップのある人です。伊達にリーダーをやっていませんね。

 しかし、シグナムの号令の直後、何気なくエスティアのモニターを見た私は絶句しました。

 私の反応に何が起こったのか気になったのか、他のヴォルケンズも画面を見て、同じく絶句します。

 そこには、主砲を溜めている戦艦の姿がありました。戦艦の先端に集まる、白とも透明ともつかない力の本流。次元の海の中で燦然と輝く力強いエネルギー。

 あれが放たれれば助からない。それが起きたばかりの私にもハッキリとわかりました。それは、他のみんなも同じでしょう。

 隣から、声にならない嗚咽が響きました。ヴォルケンリッターのみんなが叫んでいるのです。


「くそ! こんなところで、こうやって終わるのか! 管理居め!」
「今度こそ。今度こそ完成すると思ったのに。ここで、こんなところで消えてたまるか……!」


 ヴィータちゃんが目に涙を溜めて呟きます。青い鎧に涙が落ちます。シグナムが叫びます。ザフィーラも肩を震わせました。

 長く続く記憶の末に感情も消えたはずの彼女たちにも、苛立ちはあるようです。長い年月を経て、彼女たちは休みたいと思っているのでしょう。

 その気持ちが、私には痛いほどわかりました。私の中のどこかに存在しているシャマルとしての自分が、心の底で心の傍で叫んでいます。悔しいと、やるせない、と。

 沈んだままの私たち。着々と攻撃準備を終えた目の前の戦艦。展開される真っ白なバレルリング。集まるエネルギー。決して聞こえはしないけれど、リンカーコアに響いてくる魔力の集束音。


 悲嘆にくれる私たちを尻目に、無慈悲にもアルカンシェルは放たれました。目の前に広がる、色のない閃光。

 それは、私の目にとても美しいモノとして映りました。


「防げ!」
『Panzers child』


 轟音。

 しかし、それよりも先にシグナムの叫び声が私の耳を打ちました。

 気が付くと、私たちは全力でシールドを張っていました。

 しかし、私たち(私はちょっと違いますけど)古代ベルカの四騎士であっても、戦艦の主砲までは防げません。

 一瞬の後に砕け始めるシールド。削られていく魔力。頬を冷や汗が伝って行きます。

 まだ、今がどんな状況なのかハッキリとは分かっていません。

 ですが、何かを為したいと考えました。もう少し、世界を知りたいと願いました。

 何も知らず、何も考えられず、どうしてこんなことになったのかもわからない。
そんな終わりは。……こんな終わりは嫌です!

 私の声は力の本流に遮られ、海には全く広がらない。

 目の前数センチの場所にある死の恐怖。現実感のない白い閃光。

 当たれば終わるのはわかっている。でも、それを恐ろしいとは思いません。

 防ぎ続ければいい。防ぎ続ければ、マスターは死なない。まだ生きられる!

 それでも、シールドの出力は上がりません。そもそもシールドを張れたことそれ自体が一つの奇蹟。

 まず、体格の小さなヴィータちゃんが膝をつきました。

 ついで紫電一閃などで魔力を消耗していたシグナムが。

 そして、私。

 最後に盾の騎士、ザフィーラ。

 青い狼が崩れ落ちたところで、拮抗する力はなくなりました。

 目の前に広がる、白く透明な力の閃光。


 炸裂。


 みんなが吹き飛びます。エスティアに根を張る闇の書が吹き飛びます。

 砕け、散っていく私の赤い騎士甲冑。魔力のきらめきだけを残して海に吸い込まれて行きます。

 せっかく、フルシャアでお気に入りだったのに……。

 艦の中にいる複数人の命を吸って、私が乗る戦艦エスティアは墜ちました……。

 もう一度、大きな閃光。光が目を妬いた。

 目が機能を失った一瞬の後、爆発音を耳が拾いました。




 ……アレ? また爆発オチですか?







――あとがき

Q 色々間違ってるよ。
A オリジナル設定です(きっぱり)。

視点変更の時にSIDE○○とか書きません。存分にこいつが誰なのか悩んでください。また、予定は突然変更される怖れがあります。

なおこのssは、作者の技量不足のせいで起承転結に粗があるので少しだけ読みにくいことが予想されます。


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