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No.3946の一覧
[0] 魔法保母さんシャマル(シャア丸さんの冒険)[田中白](2009/01/31 18:18)
[1] シャア丸さんの冒険 プロローグ[田中白](2008/11/30 20:41)
[2] シャア丸さんの冒険 一話[田中白](2008/11/30 20:42)
[3] シャア丸さんの冒険 二話[田中白](2008/11/30 20:43)
[4] シャア丸さんの冒険 三話[田中白](2008/11/30 20:45)
[5] シャア丸さんの冒険 四話[田中白](2008/11/30 20:47)
[6] シャア丸さんの冒険 五話[田中白](2008/09/08 11:20)
[7] シャア丸さんの冒険 短編一話[田中白](2008/11/30 20:49)
[8] シャア丸さんの冒険 短編二話[田中白](2008/11/30 20:51)
[9] シャア丸さんの冒険 短編三話[田中白](2008/09/08 11:35)
[10] シャア丸さんの冒険 短編四話[田中白](2008/10/26 11:20)
[11] シャア丸さんの冒険 短編五話[田中白](2008/10/26 11:30)
[12] シャア丸さんの冒険 外伝一話[田中白](2008/11/30 20:52)
[13] シャア丸さんの冒険 六話[田中白](2008/10/26 11:37)
[14] シャア丸さんの冒険 七話[田中白](2008/11/30 20:58)
[15] シャア丸さんの冒険 八話[田中白](2008/11/30 20:58)
[16] シャア丸さんの冒険 九話[田中白](2008/11/30 20:59)
[17] シャア丸さんの冒険 短編六話[田中白](2008/11/30 21:00)
[18] シャア丸さんの冒険 短編七話[田中白](2008/12/31 23:18)
[19] シャア丸さんの冒険 十話[田中白](2008/12/31 23:19)
[20] シャア丸さんの冒険 十一話[田中白](2008/12/31 23:20)
[21] 十二話 交差する少女たち[田中白](2009/01/31 18:16)
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[3946] シャア丸さんの冒険 外伝一話
Name: 田中白◆d6b13d0c ID:d0504f35 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/30 20:52
――シャア丸は男の方ですか?





 ミッドチルダにだって、勿論繁華街はあります。お酒を飲んだり軽食を食べたりするところもあります。

 今私たちは、清掃員軍団いきつけのとある居酒屋さんにいます。

 といっても、今日はみんなでバカ騒ぎするのが目的ではないので、フルカちゃんともう一人、そして私しかませんけど。

 ちょっとした息抜きという奴です。他にも、その二人の交流会も兼ねていたりしますが。

 店内の、明るく優しい黄色の照明に照らされた、一つのテーブル席。

 私の正面に座ってチビリチビリとジュースを飲んでいたフルカちゃんが、沈黙に耐え切れなくなったようで同じテーブルに座っている男の子を目に入れました。

 男の子も、隣にいるフルカちゃんを見て沈黙しています。何かを言いたそうな顔をしてから、目が合ってしまったようで、すぐに顔を背けました。

 全くもって目を合わせようとしない二人の子供。その姿が、何だか意地を張っているように見えて、口に小さな微笑みが浮かんでしまいました。

 私が笑っていることへの避難も込めてか、フルカちゃんが左腕を突き上げます。


「……シャアさん、一つ質問」
「はい、何でしょうかフルカちゃん?」
「……そこの人、誰?」


 フルカちゃんの隣に座っている、彼女と同じような髪の色をしているその少年。名前をジンガーと言います。地上の救助部隊に所属している素人さんです。

 最近、高めの魔力を持っていることが明らかになったらしく、武装隊に入るのもありではないかという話もされているそうです。ジンガーくんとは、嘱託魔導師として派遣された前の部隊で知り合いました。

 フルカちゃんと同い年だから友達になれると思って連れてきたのですが……ダメですかね?

 そんな感じの簡単な説明をして、互いに自己紹介させます。二人とも15歳、そして髪の色も同じ。それに、管理局に勤めている時間もほとんど同じくらい。こんなに同じ部分があるのだから、仲良くなれると思うのですが……。

 ニコニコと笑いながら、友達になれると考えた根拠を伝えます。


「……こんな、シャアさんを押し倒そうとした変態と!?」
「たかが清掃員なんかと!?」


 ところが二人は批難轟々。

 一斉に叫んだ後、顔をあわせて睨み合ってしまう二人。……うん、少なくとも息は合っていますね。ベクトルは正反対のようですが。

 二人の目の間で形成される火花。ばちばちと激しい音をたてて睨みあっています。

 互いへの罵り言葉を放ちあい、今にも取っ組み合いになりそうな二人。……子供は誰とでも仲良くなれるというのは私の幻想なのでしょうか。

 十五という年齢は、やっぱり微妙なお年頃なんですかね? 実は、これくらいの子の面倒をみたことないんですよ。

 このテーブル席で二人がぎゃあぎゃあと大きな声で騒いでいるので、周囲のお客さんたちも迷惑そう。

 居酒屋、つまり酔っ払いさんが多くて、いくら喚き声に慣れているといっても気分を害してしまう人もいるでしょう。

 そもそも管理局員は公務員なんですから、一般の方に迷惑をかけないのが礼儀でしょうに。


「……ストップです。それ以上ケンカすると、嫌いになりますよ?」


 これで止まればめっけもの。その程度の軽い気持ちで言ってみます。

 懐いてくれている小さな子供には、結構効きます。使うと、心が痛くなる結果を招いてしまう時もありますが。

 私の言葉が耳に入るや否や、何故か凄い勢いでケンカストップする二人。……嫌いになりますで動きを止めるって、あなたたちは小学生ですか。

 互いにその事実に気付いたのか、自分だけが気付いたと考え、勝ったと思い込みニヤリと相手を見て笑い、相手が笑っているのに気付いてまた取っ組み合いに。

 宙に舞うジュースの入ったグラスやナプキンやお皿。片っ端からキャッチしていますが、お客さんにはかなり迷惑でしょう。私は微笑ましいから構わないのですが。

 それでも、私にだって堪忍袋という物があるんですよ……。

 変わらない攻撃の連続。二人して手を伸ばしあい、綺麗なクロスカウンターになりそうなところで。

 ――……あのですね……。

 声に出さずに凄んでみます。私の咎めるような視線にやっぱり二人同時に気付いて、二人揃って指を伸ばすと。


「「だって、こいつが」」


 ハモってしまったのが腹立たしいのか、また取っ組み合いを始める二人。……犬猿の仲? 桃太郎では仲が良かったので、仲裁に必要なのはキジと桃太郎ですね。

 僭越ながら、キジは私が立候補させていただくとして、桃太郎は……誰でしょう?

 当て嵌めてみたところで止め方が思いつかないので、店という空間を利用させてもらうことにします。

 二人の声がうるさいのか、迷惑そうな顔で私たちのテーブルを覗き込んでくるお客さんがたくさんいるんです。

 えーと……この場合一番聞きそうな言葉は……。ふと、お客さんの顔の中に、笑い顔の人がいるのを見つけます。どうやら、若い男女の喧嘩が楽しい様子。

 頭の上で輝く一つの電球。……では、これで行きますか。

 一番動きが止まりそうな単語を検索。耳に聞き取りやすい声で口から言葉として出します。


「二人の仲がいいの、店中の人が見てますよ?」


 上から押さえつけて止めさせるのもいいですが、この場合は自分たちから止まるように仕向けましょう。

 今の二人にとっては、絶対に言われたくないその一言。私の言葉を聞くと、ケンカを中止して店の中を見渡す二人。

 お客さんたちが、しかめっ面もしくはニヤニヤ顔で自分たちを見ていることに気付いたでしょう。

 赤くなってもじもじし始める二人。お客さんたちが、良いものを見たとでも言いたげに、満足そうにそれぞれの席の方に向きなおりました。

 こ、こいつと仲が良いだと!? 声に出さずに絶叫する二人。また取っ組み合いを始めようとして、痴話げんかだと思われたくないのか動きが停止します。

 ……というか、どんなに激しく喧嘩していても、私の声は聞こえているんですね。

 フルカちゃんとの付き合いは長いから良いとしても、ジンガーくんと話した時間は本当に短いんですが。

 もしかすると、年上の言うことは聞くという精神が体に染み付いているのでしょうか? さすがは公務員、クレーム対処は得意ですか。

 私が勝手に赤毛二人の心理を想像している頃、ヤケになったのか、二人が店員さんにお冷を頼んで水をがぶのみしています。酒が飲めないからって、お水に逃げなくても……。

 ふと、二人の真っ赤になった頬に気付きました。……ああ、逃げてるんじゃなくて、熱を持った頬を冷やしたいんですか。

 ……可愛いですねぇ……。

 初々しい二人の行動に、なんだかほのぼのとしてしまいました。


「……なに笑ってるんですか」
「酷いな、シャアさんは……」


 恥ずかしい体験を二人で共有したためか、微妙に仲が良くなっている感じの二人。白い目で見られてしまってタジタジな私。

 ……ふふっ。私を悪者にした二人仲良し作戦成功。嘘ですけどね。

 何となく、見るともなしに店の中を見渡します。今も気になるのか、たまにお客さんがこの席をチラ見してきます。

 ですが、チラ見されて良い気分になるわけがありません。一人のお客さんに私が目を合わせて微笑みます。意味は、こっち見ないでください。何故か目を逸らされました。

 はうぅ、もしかして、怖いんでしょうか。……むむむ、確かに理由も分からず微笑まれても怖いだけかもしれません。微笑みは安心させるためだけに使うことにしましょう。

 それとなく目を合わせた男の人を見てみると、彼の頬が赤くなっています。……とりあえず視線を追い払えましたが、不思議な反応をされてしまっています。風邪ではないでしょうし、頬が染まっている理由は何なのでしょうか?

 フルカちゃんとジンガーくん、すでにお客さんに見られていないにしても、周囲が気になってたまらないのか、たまに顔を合わせて身悶えしています。

 そんな姿がお客さんたちの心をくすぐったのか、逆に注目されてしまっています。それでさらに身悶える、彼らにとって負のスパイラルが発生しました。


「「店員さん、お酒下さい!」」


 恥ずかしさのあまり、そんなことを言い出します。……そうですか、空気打破のためにお酒を選びますか。

 あらあらと笑った店員のお姉さんが、ジョッキになみなみと注がれたお酒を嬉しそうに持ってきます。……って、それは未成年には多すぎでしょう!?

 心の中でツッコミを入れていた私が止める間もなく、二人は一気にお酒をあおって中身を飲み干すと、空になったジョッキを掲げて叫びます。


「「おかわり!」」


 ……急性アルコール中毒で倒れるつもりですか。水でも飲むように二杯目のお酒を飲みつづけている二人を呆然と見守ります。飲む速度や傾けるジョッキの角度もほとんど同じ。ゴクゴクと嚥下されていくアルコール。

 そうして二杯目を飲み終えた二人が、揃って机の上に突っ伏します。……仲、いいじゃないですか。同時に倒れた二人を見て思います。

 何だか理不尽な気分になってきました。放っておいても、勝手に仲が良くなっていたような気さえします。

 ……机の上にバタンキュー。ピクリとも動かない二人。……どうしたんでしょうか? 何だか心配になってきました。

 フルカちゃんの背中を摩ってあげると、顔をあげた彼女が死にそうな声で呟きます。ジンガーくんも、隣で青い顔をしています。


「……気持ち悪い」
「そういや、酒飲んだの初めてだっけ……」


 顔色がかなり悪くなっているフルカちゃんとジンガーくん。本当にやばいようなら、法律を無視して回復魔法で毒抜きを行うことすら考慮しておくことにします。

 清掃員の皆さんは、フルカちゃんにお酒を勧めることはありません。どうやら、過保護なあの救助部隊もジンガーくんにお酒を飲ませるようなことはしていなかった様子。

 ……お酒は脳細胞を破壊する。それは、どうしようが防ぎようのないダメージです。

 前途有望な少年少女の未来を潰すような真似を、管理局の人々がするはずありません。……まあ、たまになら辛い現実を忘れるためにお酒を飲んでもいいと思っていますけど。

 今みたいに、好奇の視線に晒されまくっている時とか。

 背中をさすってあげていると、気分が楽になったのか起き上がって水を飲み始める二人。たまに、気持ち悪いと呟いています。


「……んで、フルカはどんな理由でシャアさんと知り合ったんだ?」
「えーと、最初は私の後輩でねぇ、今はAAA-の嘱託魔導師……」


 酒が入ったおかげか、良い感じに打ち解けている二人。最初嫌い会っていたのは、同族嫌悪という感情だったのかもしれません。

 互いに同じような気配を感じ取ったのか、何だか楽しそうに話しています。

 ……でも、自分紹介ではなく、私との出会い方で盛り上がらなくても。


「へえ。シャアさんって、そんな一面が……」
「うん。着てるパジャマ、小悪魔みたいなんだ」


 私がどんな物が好きなのかとか、フルカちゃんに聞いているジンガーくん。

 ……女の子に別の女性のことを聞くのは失礼だと思うのですが……。なのに、どうしてフルカちゃんは喜々として私のことを教えているのでしょうか。

 聞くこと話すことシャアさんシャアさん。フルカちゃんは、私のことを姉のように思ってくれているから楽しそうなのは分かるんですが、何故ジンガーくんも私のことを知って楽しんでいるんですか。


「フルカも、結構おもしろい奴だな」
「あんたもね。……メール教えてよ」
「ん、いいぜ」
「あ、これシャアさんのアドレス」
「サンキュ!」


 楽しそうに話をしている彼らを見ていると、何だか私が恥ずかしくなってきました。どうして話の中にナチュラルに私が入るんですか。

 そもそも、一年程度の付き合いであるフルカちゃんが、どうしてこんなに私に懐いてくれているのかが気になっているくらいです。

 信頼関係とは、出会ってからの時間と思い出が重要だと私は思っているんですが……。思い出作りみたいなことしましたっけ?

 ジンガーくんの方は、お姉さんへの憧れだということが理解できるんですが、フルカちゃんの方は全くもって不明です。何かこの子にとって嬉しいことでもしてあげたこと、あったでしょうか?

 ……ま、まあ懐いてくれるのは嬉しいことですし、考えないようにしましょう。……からかったり上から目線だったり、あんまり良い印象を与えていないような気がするんですけどね……。

 見るともなしに見ていると、何時の間にか二人の話は互いの出身地の話になっています。それぞれがどんな家庭で育ったのか話しあっているようです。

 どちらもミッドチルダ出身ですし、実家の位置も近かったらしく周辺の店の話で盛り上がっています。他にも、祖先が同じベルカ出身だとかどうとか。

 男の子と女の子ということでゲームセンターや洋服屋さんなど、話が合わないところもあるようですが、流れる空気は終始おだやかです。

 ……仲良し作戦、これにて完遂。

 これで、年上や年下の同性の友達しかいないフルカちゃんに、異性、それも同年代の友人が出来ました。

 それはジンガーくんにも言えること。異性の友達は、子供にとって、とても大事な存在になります。

 少しお節介だったかもしれませんが、友達はいいものです。いればいるほど、たくさんの価値観に触れることが出来ますし、力を借りたり力を貸したりすることが出来るのです。

 ……二人の話はズレにズレ、むかし神様を信じていたかどうかという話になっていました。

 もっとずっと幼かった頃、子供心にそんな人がいれば良かったと思っていたのだとフルカちゃんは言います。

 もしも神様がいるのなら、お母さんに伝えて欲しいことがあるのだそうです。心配しないで、私は元気でいるから、と。

 ジンガーくんは、神様がいるならオレのナンパくらい成功させてくれよとぼやきました。

 それを聞いて、白い目になるフルカちゃん。願いごとを叶えるのが神様の存在理由じゃないんだから、あんたの願いごとなんて聞いてくれるわけないじゃないと辛い意見を出しました。


「……ほほぉ、ただの清掃員が武装隊へ推薦されているこのオレと戦りあう気か……?」
「推薦なんて貰ってないでしょ。勝手に自分の価値をあげないでよ、変態」
「へ、変態だと……?」
「シャアさんにセクハラしたあんたなんて、変態で充分よ」


 さっきまでの和やかムードはどこへやら。一瞬で臨戦態勢に移る二人。二人の頬に赤みが差しています。どうやら、酔いがまわってきたご様子。

 ……このままだと、店の中で大乱闘に発展しかねません。私は二人の手を取ると、お会計を済ませてから店の外に飛び出しました。




シャア丸さんの冒険
外伝一話「管理局員、特に何事もなく」




 夜風に当たれば、少しの酔いなら醒める。古来の考えに従いそんなことを考えたシャマルが向かったのは、近くにあった狭めの公園だった。

 時期はすでに冬の半ば。コートなしでは肌寒い季節だが、良い感じに酔いのまわったフルカとジンガーにはちょうど良い寒さらしい。

 今は涼しくて気持ちいいーと、二人で楽しそうにくるくると回っている。吐かないで下さいねー。その様子を、シャマルは楽しそうに見ていた。

 そして、糸が切れたようにパタンと倒れるフルカ。酔っている状態で回りまくっていたんだから当然のこと。

 フルカが先に倒れた理由を考察するに、戦闘訓練を受けているジンガーと武道なんてからっきしのフルカでは、高速機動(?)の耐性に大きな差異があったようだった。

 それにしても、酔った後に取る行動まで同じだとは相性が抜群だと言うしかない。それから数秒後、回転を続けていたジンガーも崩れ落ちた。


「目が回るー」
「……はぁ」


 頭をクラクラさせているフルカ。溜息をついたシャマル。
 あんなに酔った上でそんなにたくさん回っていたんだから、そうなるのは当然のことでしょう。そんなことを考えた薄情なシャマル。

 だが、酔っ払いの奇行を良く知っているだけにさっさと対処に移る。店から出る前に買っておいたりんごのような果物を、倒れているフルカとジンガーに手渡した。

 あらかじめ皮が剥かれているのを買ったので、すぐに食べることができる。


「……ありがとうございまーす」


 前後不覚の状態でも、憧れのシャアさんから貰った食べ物は食べる。彼女の献身に惜しみのない賞賛を送りたい。

 シャクシャクとりんご(仮)を租借し、嚥下する。アルコールの分解には水分、糖分、ビタミンを消費するので、果物は酔い醒ましにちょうど良い。

 とはいえ遅効性の薬みたいな物だから、効果が出るのはもっと後のことになるだろうが。


「……甘くておいしー」


 グルグル回った目のまま、果物の味を楽しんでいるフルカ。……さすがに、こんな状態の人に食べ物は危険だったかしら? 胸の前に腕を組むシャマル。

 まあ、吐きはしないでしょう。やってしまったことはしょうがないと諦めたようだ。

 公園の地面に寝転がっているフルカとジンガー。彼らの目に、冬の空で一際輝く二つの月が映った。

 バックで輝く大きな月を背にして、近くにあった噴水の縁に腰をかけ、髪を弄びながら寝転がった二人を小さく笑いながら見つめている目の前にいる彼女のその姿。

 金に輝く髪と月。優しげな目と星。黒い服と空。背後で噴き出ている噴水が月と電灯の光を反射して、サラサラと波打つようにシャマルの体を照らしている。

 まるで作られた絵画のような光景に、つい、動きを止めて魅入ってしまう二人。

 彫像のように固まった二人を見て、小首を傾げるシャマル。作られていた幻想領域が、可愛い動作で霧散した。


「……シャアさんって、女神みたいだよね」
「……は?」


 何とか再起動に成功したフルカが、見惚れていた恥ずかしさを吹き飛ばすため、意味のわからないことを言った。

 全くもって繋がっていない会話に、もう一度首を傾げようとするシャマル。だが、先程の二人の会話。すなわち、神を信じるかどうかという話を思い出して、なんとか踏み止まった。

 しかし、自分が女神と呼ばれるようなものではない。そのことを自ら嫌というほど知っている彼女は、無邪気なその言葉を否定する。


「私は、女神様なんて呼ばれるほど綺麗な生き物じゃありませんよ……」
「いえ、別にそんな暗くなること言ったわけじゃないですが……」


 シャアさんが暗くなると、私も暗くなってしまう。骨の髄までシャアさんに染まっているフルカは、自分の言葉でシャアを落ち込ませたという事実に暗くなってしまった。

 もちろん、シャマルはシャマルであるからに、自分の言動のせいで保護対象が落ち込んでしまうというのに耐えることができない。


「あ、あの、フルカちゃんが暗くなる必要はないんですよっ」
「シャアさんが落ち込む必要もないじゃないですかっ」


 結果、自分のことを放っておいて相手の身を心配するという本末転倒な会話が発生する。

 未だ酔いにグラグラしているジンガーの目にも、その会話はおかしなものに見えた。けれどまだ酔いの醒めぬ身なので、思考は一人歩きして別の結果を呼び寄せる。

 何故か、人が女神になるにはどうすれば良いのかという答えの出ない疑問が頭の中に浮かび上がった。


「……人が女神になるにはどうすればいいんだろう」


 もちろん、酔っているジンガーはすぐに口に出す。そんな脈絡のない言葉にシャマルとフルカはポカンとなり、そのまま笑ってしまった。

 ボケッとした顔のまま地面に座り込みうぁーと唸っているジンガー。シャマルは、もう一度笑うと、暗くなるのはやめましょうと言った。


「……それにしても、人が神さまになる方法か。そんなの、わかりっこないですよね」


 ジンガーの言葉をただの戯言として受け流すフルカ。しかし、シャマルは違った。彼女は知っているからだ。人の身のまま神になった人間たちの伝説を。

 それは有名所で言えばイエス・キリストとかブッダ。一般の人が全く知らぬ例をあげれば両手両足の指で足りぬほどもいる。

 故に、シャマルは人が神になる方法を知っている。すなわち、人の『心の拠り所』になればいい。それだけで人は信仰され、数十数百年後には後の歴史家たちに神さま扱いされる。

 神さまは、超常の存在でなくたっていい。ただ誰かのためにあれば、人々は人を神と呼んでくれるのだ。

 人々の心を安心・満足させることさえできるのならば、人は簡単に神になる。

 それが、今のシャマルの持論である。神さまは常に誰かの心の中にいるし、誰にでもなることができる。


「……誰でも神さまになることができる、ですか」
「凄いこと言うんですね……」


 うわぁと唸って、シャマルから一歩だけ退く赤髪コンビ。

 ミッドチルダは神さまという存在が日本より身近ではない。なので、人と神が同じ次元にあるのだという想像をしたことがなかったという。だから、人が神になれるとはっきりと言い切ったシャマルが痛い人に見えたらしい。

 はうぅ……疑問に答えてあげたのにこの仕打ち、酷いです。

 信頼する二人の子供たちに裏切られ、涙目のシャマル。

 ……でも、いきなり神になれるとか妄言吐く人には普通の対応ですよね。確かに人は神になれますよね、とか同意されたら私が困ります。

 そうやって自分を納得させるシャマル。ただし、心の奥底で泣いているのが良く分かる。


「……どうして、そんな大言を?」


 それでも、彼女の自信の源が気になるのか、恐る恐るといった表情でジンガーがシャマルに聞いてみた。

 どうやら、ジンガーの酔いはすっかり醒めてしまっているらしい。そんなにショックだったんだろうか。だとしたらシャマルが悪いことをした。後で謝らせなくては。

 シャマルは考える。……大言を吐ける理由、ですか。これは、地球の神さま物語を語った方が良さそうです。

 幸い時間はたっぷりあります。少しばかり、地球のお話でもするとしましょう。

 シャマルは公園に備え付けられている自販機まで走ると、あったかいコーヒーを三本購入した。

 三人で熱いコーヒーを分け合うと、人でありながら神となった人『釈迦』の話を開始した。





「昔々、とある国の王子として生まれた子供がいました」
「……むかし、ですか?」
「次元世界の中のとある一つの国では、物語の始まりはすべからくこれから始まるという暗黙のルールがあるんです」
「はぁ……」


 納得いかない様子のジンガー。そもそも、どうしてこんな話になったんだっけと、ジンガーは人知れず嘆息した。

 でも、シャアさんの故郷の話みたいだし、一応聞いておくか。彼なりに自分を納得させ、シャマルの言葉に耳を傾ける。

 紀元前五世紀ごろ、釈迦はネパールのルンビニにて誕生した。その時代国家を形成した釈迦族の出身であった。


「父はその国の王さま。彼は、日々を裕福に暮らしていました」
「……王さまだから信仰されたんですか?」
「いえいえ、全然ちがいます」


 話の途中で質問しないで下さい。シャマルの目だけの非難を浴びて、ジンガーは肩を竦める。やーい、怒られたー。フルカがにやりと笑った。

 ジンガーが袖をまくってフルカに飛び掛ろうとして、シャマルに頭を小突かれた。涙目でシャマルを見るジンガーだが、自業自得だとシャマルは取り合わない。


「しかし、彼はそれを良しとしませんでした」


 裕福ならば、それに溺れてしまっても構わないのに。国を守るという最大の義務を果たす王だからこそ許される『浪費』。

 彼はこれから国を守る人として進み、それ相応の対価を貰えるはずだった。ところが、彼はそれを全て捨て去ったのだ。


「『人はなぜ死ぬのか』『どうして人に違いがあるのか』王子さまは、何時もそのことを考え続けていたんです」
「……」


 かつて、母親を失ったフルカ。何故母親が死んだのか、シャマルと出会う前の彼女は常に考えていた。

 ある程度思うことがあるのか、赤毛二人はシンとなった。


「そうして過ごしていた彼は、息子が生まれたのをきっかけに、かねてより望んでいた僧になることを決心しました」
「「え゛」」


 そりゃ無責任だろと呟く二人。けれども、王であることを放棄してまで僧になりたかった釈迦。

 それには、ある理由があった。そもそも、彼の生まれた部族である釈迦族は、稲作に生き畑で息する農耕民族。

 目の前で這っているイモムシが、次の瞬間には鳥に攫われる光景を毎日見て育っていた。それは、年若い少年にとって、どれほど無常さを感じさせる風景だったのだろうか。

 そのような無常さが決定的になったのは、彼が城の東門から出る老人に出会い、南門より出る病人に出会い、西門を出る死者にあった時だった。

 生があるからこそ人は死ぬ。生・老・病・死の四苦。もしも、自らが死ぬことを諦め、正しく受け止めることが出来るのならば、死という無常は自らの中からなくなる。

 だが、自分を愛することを止めるのはとてつもなく辛いことである。それに、彼は最初、四苦を思いつくことができなかった。

 彼は、自分の虚しい心をなくすため、『悟り』を開くことを決心する。


「……あの、悟りって何ですか?」
「それを知っているのなら、私はここにいないような気がします。この話の肝は、人が神になれるかどうかですので、悟りは全く関係ありません」
「……そうですか」


 シャマルに悟り云々のくだりを聞けずにがっかりするフルカ。しかし、シャマルも悟りを知っていないそうなので、高望みは禁物と悟って話に耳を傾ける。

 幾人もの修行をする人々に出会い、彼は悟りを得ようと修行する。ところが、他の人々の言う修行では、ただ身を傷つけるだけで悟りを得ることはできない。

 数々の修行を経た彼は、独自の道を進むことを決める。


「ピッパラ樹……後に菩薩樹と呼ばれる木の下で何日もの瞑想を行った末、釈迦は『悟り』を得ることに成功します」
「やけにあっさりしてますね……」
「悟りは関係ないんだってば」
「うわ、シャアさんの女っぽい言葉使い初めて聞いたかも!?」


 変なことで驚くフルカの言葉に、頭を抑えるシャマル。それでも、話を続ける。……何日で悟りを得られるのだったら、途中で行った断食などの修行は何だったのだろうか。

 彼は悟りを得た喜びを胸に、そのまま死のうと考えた。しかし、そんな彼の耳に、彼が信じる神さまの一人『梵天』が声をかける。

 あなたが悟った事柄を、人々に伝えなさい。拒否する釈迦。けれど、三度の勧請の後、自らの悟りへの確信を求めるために、同じく苦行を行っていた五人の仲間に自らの悟りを説いた。


「彼は自分が悟った事柄を人に伝えるべく旅を始めます。人々は彼の神のような姿に神性を見出し、ついていきます」
「……神のような、姿?」
「悩みなど何もないという晴れ晴れとした表情で、自分たちの悩みを解決してくれる人。当時の人々が憧れてもおかしくはないと思います」


 なるほど、そうかもしれないと頷く赤毛ちゃんくん。それぞれ悩みを持った者。だからこそ、何でも知ってそうなシャマルに付いてきているのだから。

 最後にゴホンと一度咳をすると、シャマルは最後の部分を言った。


「釈迦は生ける神となり、崇められる信仰の対象となりました。その信仰は、彼が死んでから二千年たった今でも忘れられることなく続いているんです」
「「二千年!?」」
「まあ、これから暫らく話はあるんですが、一人の人間が神になるまでの物語は……。って、二千年に驚きすぎだと思います……」


 確かに、今の時代は新暦56年。それと二千年なんて比べ物になりません。でも、ミッドチルダの方が紀元前の歴史は長そうに感じるんですよね……。


「釈迦、信仰……」


 ぶつぶつと呟いているフルカ。シャアさんの故郷の物語を聞いて、何やら思うものがあったらしい。

 ジンガーもジンガーで、二千年ってどれくらいだろうと呟いている。管理局の歴史のうん十倍もある世界というのに驚きを隠せないらしい。

 とはいえ、やはりベルカの方が歴史の質が厚いように感じられるのは、贔屓だったりするのだろうか。


「……シャアさんは、神さまになってみたいですか?」
「私ですか? ……いえ、なりたくはありません」


 フルカの問いに、首をふるシャマル。確かに、誰かのためになりたいという思いはある。けれど、神さまと呼ばれる存在になりたいとまでは思っていない。

 神さまにはなりたくないというシャマルを寂しげに見ると、フルカは気まずい空気を打破するために話をそらす。


「そうですか……。ところで、シャアとシャカって似てると思いませんか?」
「あー。……似てる、かもしれませんね」


 フルカを救ってくれた、あまり悩むことのない爽やかな笑みを浮かべるシャア。フルカにとって、シャマルとは神にも匹敵する存在である。

 それは多感な少女の勘違い、夢、恋に恋するという現象なのだが、少なくともシャアを信じている間、フルカは心の底から安心なのである。この人は、いつでも私を助けてくれる。私を守ってくれる。

 妄質にも似た信頼が、そこにはある。それを受け入れられるシャマルの懐も中々のものだが。


「まさか、シャアさんって、シャカみたいとか言うつもりですか?」
「なっ、そ、そんなことないですよ。……多分」


 シャマルの言葉にあわあわと慌てるフルカ。かなり自惚れのつもりで言ったのに慌てられて、ガクンとこけるシャマル。

 ……私、そんなに信頼されるようなことしましたっけ……? 頭を捻ってしまうのも当然のこと。


「私を持ち上げてばかりいないで、他の男の子に声をかけたらどうですか? シャカって名前、私に付けるよりもあなたの子供に付けてあげたらいいじゃないですか」
「子供って……。わたし、そんな気分さらさらないんですけど」


 あらあらと、鈴のような声で笑うシャマル。そうです、私はこんな軽いお姉さんでいてあげなくては。

 信頼されるのは嬉しいが、信頼されすぎても困る。人との距離感がどうにも掴みづらい。

 ……いずれ、彼女は管理局を去る。その時、誰かに泣かれるのはごめん被りたい。あくまで自分本位に物事を考えるシャマル。

 携帯式の電話をポケットから取り出すと、タクシー会社に電話する。それから数分もした頃、音を響かせてタクシーがやって来た。

 フルカとジンガーをタクシーに押し込むと、お金を渡して管理局地上本部に行くようお願いする。


「あれ? シャアさんはどうするんですか?」
「私は用事があるので」


 嘘だ。ただ、自分と今の人々の距離を考える時間が欲しいだけだった。別に、人ではない身であるシャマルは寝る理由が薄い。

 しばらくこの公園で、信頼という言葉の意味を考えてみたかった。

 タクシーに乗り込んだ二人に手を振る。シャマルの視界の片隅を、さきほど呼んだタクシーが通り過ぎていった。





「最近、なかなか評価が高いぞシャア・アズナブル」
「……人の助けになっていると喜ぶべきか、管理局の手伝いになっていると悲しむべきか、悩みます」
「人の助けになっていると喜ぶべきだろう」
「そうさせていただきます」


 そこまで広くはない、大量の本棚に囲まれた部屋。机の上に手を組む男、レジアス・ゲイズ。

 季節は冬から春になり、シャア・アズナブルの評判も中々のものになっていた。そもそも、管理局にはAAAランクの魔導師は全体の5%と数が少ない。その中でも、補助専門はさらに少ない。

 ゆえに、シャアは重宝されていた。今のところ本局は何も言ってこないが、いずれ戦力として貸し出しを求められる日が来るだろうとレジアス予想している。

 今は、ちょっとしたブリーフィング程度の目的でシャマルを呼び出していた。彼女は、書類上レジアスに保護を受けていることになっている。

 身元保証はありがたいが、本当のところ、ありがた迷惑だったりする。なんというか、自分の動きを束縛されているかのような気分になるのだ。

 用件を言い終え、下がっていいぞとレジアスが言う。だが、シャマルはその場から動かず、レジアスの後ろを見続けている。


「……何だ?」
「背中、窓ですよね? 暗殺とかの危険ないんですか?」
「椅子の後ろには鉄板を貼ってある。余程の武器でなくてはこの椅子は貫通できん」


 ……あれま、と呟くシャマル。思い出しているのは、椅子ごと心臓貫かれて死亡したレジアスのこと。たまたま思い出したから、メモしてまで伝えに来たというのにそんなオチ。

 まさか、防御対策をしてあったのに背中を刺されたとは。それ以上硬い材質で椅子の後ろを覆っておけとか言えませんし、ここは何も言わなくていいでしょう。

 それに、そんなシーンが本当に起こるとは限らない。場合によっては、ヴォルケンリッターが管理局に所属しないという未来すらありえかねないのだから。

 それにしても、まず椅子に目が行くとは面白い。普通は窓に目が行くだろうに。これが孔明という奴なのかもしれない。


「んー。じゃあいいです」
「他に用がないなら、もう帰れ。俺は忙しいんだ」
「そっちから呼んでおいてつれない方ですねぇ。一緒にお茶を飲んだ仲なのに」
「どんな仲だっ!」


 最近、上層部との話し合いのせいで余裕がなくなってきているレジアス。義務感に翻弄され、ストレスの解消などはしていない。

 シャマルを呼んだのだって、労いという作業をこなすのが目的だった。このまま放っておけば、目つきの鋭い冗談嫌いなレジアス中将が爆誕するであろう。

 彼女にとって、それは如何ともしがたい。肩を組んで笑い合うような仲になりたいとは思わないが、彼は国の平和を求める男。最低限のお付き合いはできるようにしたい。


「お菓子、食べます?」
「…………」


 というわけで、掲げられるバスケット。中には、クッキーとかがどっさり入っている。

 首を横に振るレジアス。コーヒーブレイクを差し込む時間は彼にはない。


「まあまあ、そんなこと言わずに」


 もう一度掲げられるバスケット。中には、煎れてから二時間も経たない紅茶が入っている。

 首を横に振るレジアス。ティータイムと洒落込む時間は彼にはない。


「まあまあ、そんなこと言わずに」


 二度掲げられるバスケット。中にはおしぼりも入っているので、いつでも休憩OKです。

 黙ってシャマルを見ているレジアス。気分転換を挟めば効率も良くなるかもしれないと考えた。


「クッキーと紅茶、いりません?」
「貰おう」


 掲げられたバスケット。仕方がないと受け取った。





「……よく説得できましたね」


 書類を持ってきた秘書が見たのは、再三の休憩要求を受け付けなかったレジアスが仏頂面でクッキーをかじっている光景だった。

 根を詰めすぎていたレジアスをどう説得するべきか迷っていたのだが、シャマルは簡単に説得をやってのけていた。

 その姿に、やっぱりこの人ハンパないと思ってしまう秘書。この女性、レジアスの妻のような気がする。娘も後に秘書になったようだし、親子揃ってレジアスの秘書。なんだかロマンを感じないでもない。

 自分の言うことを聞かないレジアスを言いくるめたその手腕、尊敬に値すると秘書は考えた。


「言い方が悪かったんじゃないですか? 素直に聞いてくれましたけど」
「……あの無限ループを素直と言うか」


 まさかクッキーに釣られたと言うわけにもいかず、シャマルがしつこかったと言うレジアス。

 その言葉に、にやりと笑うだけで済ますシャマル。それは、暗に貸し一だと言っているようなもの。レジアスの頬がひくつくが、シャマルの顔は涼やかだった。

 テーブルの上に広げられたハンカチーフに乗せられている色取り取りのクッキー。これくらいのお菓子作りが出来た方がいいのだろうかと秘書は思った。


「そういえば、シャアさん」
「何ですか?」


 秘書の言葉に振り向くシャマル。口の端にくっついているクッキーの欠片がバカっぽさと無防備さを感じさせ、男どもの気を惹くことに彼女は気付いていない。

 むしろ、気付いていたら人間として最悪と呼ばれる部類に分類されると思われる。それほどの色気を彼女は放っていた。

 しかし、同性を魅了してどうしようというのだろうか。はっきり言って、意味がないと言うしかない。

 そこで秘書は噂の真実に気付く。すなわち、清掃員はみんな百合だという噂である。

 まさか、こやつが発生源か。戦慄する秘書。けれどもそんなことを聞くのが目的ではないので無視することにした。

 自分に関わらない所で、噂には長生きして欲しいものである。堅物秘書もまた女性、噂話は大好きです。


「聞いた話だと格闘技の訓練を受けているそうですが、補助魔導師の貴女に必要なのでしょうか?」
「補助魔導師だからです。近寄られた時点で終わるような魔導師が、戦場の真っ只中で補助専門なんて名乗れませんよ。あとは……体力作りが理由ですかね」


 はぁと呟く秘書さん。戦闘家のことなんてこれっぽっちも知らないので、補助は後ろで見ているだけという印象があるらしい。

 まあ、間違ってはいないのだが、シャマルはヴォルケンリッターという少数精鋭グループの一員なので、格闘が行えるに越したことがない。

 実際、武器を使わない戦闘ならば、シャマルはザフィーラ、シグナム、ヴィータともやりあえないでもない。

 ただ、運動神経が微妙なので、戦っている最中にバランスが崩れてやられることが多い。だからこそ後ろにいるのだ。

 だが、別の人間の運動神経を取り込んだ今のシャマルならば、格闘が行えるかもしれない。というわけで、久しぶりに格闘訓練をしているのである。


「ほかにも、鈍器の扱い方とかの訓練も受けてますよ。前いた部隊では、手斧とか支給されましたし。使える武装は多いに超したことありませんから」
「……武器がたくさん使えても、習熟しにくくなるだけなのでは?」
「補助魔導師ですから、自分から出張る必要はないんです。近づいて来た相手を追い払い、救助が到着するまでの時間を稼げればそれでいいんです」
「他人に頼ると?」
「それがチームワークです。……支援がない状況っていうのは想像したくないですよね」


 シャマルの言葉にふむふむと頷いている秘書。あまり戦いには興味のなさそうなくせに、気になる情報はすぐに仕入れなければ気がすまない性格らしい。

 ちょうど、レジアスが満足したように唸った。お菓子や紅茶もかなり減っている。さきほどまでなかった余裕が、復活しているように感じられる。


「……よし、仕事を始めよう」
「では、この書類を」


 何事もなかったかのように交わされる秘書とレジアスの会話。もうそろそろ私もお邪魔虫みたいですし、退室しますか。

 引き締まった場違いな空気から逃げ出すため、シャマルは部屋から抜け出した。





 その頃、時空管理局本部にて、ギル・グレアムがリーゼ姉妹から補助魔導師『赤い彗星』の話を聞いた。

 何処かで聞いたことのある能力を持った女性らしいと猫は言う。彼女の身元保証人はレジアス・ゲイツ。

 シャアの登録ランクはAAA-。はっきり言って、海に欲しい人材だ。だがそれよりも気になるのは、どこかで見たことがあるその能力だった。

 けれども、グレアムには人事権はない。しかし、存在が気になる。人材として欲しいというわけではなく、この嫌な予感が何なのかを確かめるために手元に置いておきたい。

 グレアムは、同期に連絡すると、地上本部所属の嘱託魔導師シャア・アズナブルを本局に引き抜くように頼んだ。

 数日後の連絡で、レジアスからの抵抗が思いのほか強く、一年しか借りることが出来ないということを聞いた。別に、それでも良い。

 シャア・アズナブルが本局にいる間に、何者なのかを確かめる。

 それから少ししてシャマルはレジアスに呼ばれ、本局への出向を命じられた。これによりたった数人の人間が広めた『管理局の赤い彗星』の名前は、ほんの一年程度の間だけだが、管理世界中に轟くことになる。






――後書き
Q シャマルを美人に、良い人に書きすぎだと思いま~す。
A 美女美少女ならば何でも許されるのがssですから、そっちの方が都合よし。
つーか、俺のナンバーワンをバカにするな!
……おかしいな? 俺は生粋のロリキャラ好きだったはず……。ヴィータとかなのはとかはやてとか。

釈迦の話は、内容に関わる意味はありません。だから深く調べてもいません。
ただし、シャカとカタカナにすると全く意味のない警告が見えてきます。ヒントはこの作品の中で出てきた『シャ』が付く単語三つ、あいうえお順、そして縦読みと関西弁。開かないわけではありません。



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