唐突だが自己紹介をさせてもらおう。
俺の名前はレイ。レイ・インバース。仲間からはゼロと呼ばれている。
どこがゼロかって? 俺に聞くな。とりあえず頭ではないぞ。むしろ良いほうだ。
んでもって職業はハンターだ。
え?ハンターって何かって? ハンターってのは町や村を凶暴なモンスターから守る者のことだ。
正確に言えばモンスターどもを増えすぎないように狩るのだ。
モンスターは繁殖力が強く狩っても狩っても一向に減らない。だからハンターは皆の命を預かっているとも言える誇りある仕事なのだ。
他にも、狩ったモンスターからとれる素材を町や村に売るという形で提供することで、人々の生活の役にも立っている。
年は17才。黒目黒髪の美男子 ってことはないが一応整っている方だと思っている。もっともハンターに顔は関係ないがな! 必要なのは腕と度胸だ。
趣味は読書。と言っても本は高価だし大きな町に行かないと手に入らないから、なかなか新しい本を読むことができないのが悩みだ。たまに村に来る商人に頼んでも重いしかさばるからいい返事をもらうのは難しい。
あとは鍛錬ぐらいだ。ハンターとしての修行でもあるから、訓練所に行くのが専らだ。
昔はいやいやだった気がするが、先輩でもある今の教官にさんざんしごかれた。感謝はしているが、楽しい幼少期を返せと言いたい。
まあ、狩りに早く出たいって言った自分のせいでもあるがな。
ちなみに俺は8歳の頃から狩場に出ていた。
つまり大ベテランってわけだ。まあ、8歳なんてまともに戦えるわけではないので正しく狩場に出ていただけ だが。おかげで10歳になるころにはモンスターを狩ることはできなくても、度胸はついたしどこで何が手に入るのかなど狩りには欠かせない知識をマスターすることができた。
昔はともかく今の俺は一流のハンターだ。
この前もぎりぎりとはいえモノブロスを一人で倒したし、あの超巨大龍ラオシャンロンを仲間とともに打ち倒したこともあるほどだ。
で、なぜこんなことを言うかというと俺は久々に困っていた。
大体のことは一人で出来るし仲間も多いからどんな事態もすぐ解決出来る自信はある。
だが、今 俺は困っていた。というより途方にくれていた。
周りは真っ暗、そしてこのなんともいえない浮遊感。
思考することが出来るほど長く光のない穴?の中を。もしかしたら上に上がっているのかもしれないし、穴と言うよりも空間のほうが正しいかもしれないが。
今まで落ちている時間からしてまず助からない気がするが、体感としてはあまり速くない。
こんなことは初めてだ。仲間からも聞いたことがない。
いったいこの後どうなるのか。そしてどうすればいいかもさっぱりわからない。
どうしてこんなことになったのだろうか。
まあ、要するに現実逃避ってやつだ。
~回想~
今日の始まりは何の予感もなくいつも通りの朝だった。
日が昇るころに起き、軽く鍛錬をしてから野菜を中心とした朝飯を食べる。
ベジタリアンではないが朝から肉を食べるやつの気がしれない。
狩り仲間には朝こそ肉だ!! ってやつもいるが。
さて、今日の予定だが、いつも通り仲間と狩へ というわけでなく、昨晩アイテムボックスの整理をしたところ、狩に必須な落とし穴の材料のネットが足りなかった。
よってネットに必要な蜘蛛の巣を探しに採取クエストを行うつもりだ。
荷物はモンスターを相手にするわけではないので回復薬、食料、研石を袋に入れ、力の爪、守りの爪を身につける。
爪は能力を大幅に上げてくれるものでわざわざ持つ必要はないがせっかくためた金をほとんど使って手に入れたのだから常に持つべきだと思わないか?
これだけでも十分すぎるが万が一に備え、他にもいくつかいくつか袋に入れる。
そして最後に蒼火竜の紅玉に穴を開け細い鎖を通したものを首にかける。
この紅玉は初めての火竜討伐でなぜか蒼火竜に出くわして、持っていた道具を使い果たし装備もボロボロになるまで戦いなんとか倒し、そのときに手に入れた記念すべきものだ。
本来亜種族ってのは普通種よりも大きく強いことが多いらしいが、不幸中の幸いと言うかその火竜はまだ若いものだったようで当時経験不足だったオレでも狩ることができた。
若い飛竜から大きな紅玉がでるはずもなく、純度は低く形も若干歪で大きさも小指程度のものだったので価値はあまりない。宝石とするにしても武具に用いるにしても純度が足りない。それに加工すればもっと小さくなる。もっとも価値があったとしてもオレにとっては何よりの宝物であり、お守りでもあるのだから売りに出すはずもない。
まあ、紅玉の話はこれくらいにして準備が出来たところで集会所に行く。
集会所ってのは俺たちハンターに仕事を斡旋してくれる所でそこで簡単な契約をしてから狩りに行くのだ。
ギルドを通さなくても狩りに出ることはできるが、支給品やモンスターの情報などもなくなによりアイルーの助けがないのはつらい。
アイルーとは獣人の一種で知能が高く会話もできギルドで働くアイルーもいて、ハンターがピンチになったときや気絶したときなどにキャンプ地まで運んでくれる。
当然アイルーたちの分け前として報酬は減るが何事も命あってこそだ。
他にも大きな町ではアイルーを狩場に連れて行ってハンターと協力して狩りをすることもあるらしい。もし今度町に行ったときに雇えるところがあったらぜひ雇ってみたい。
とか言っているうちに集会所についたみたいだ。
「こんにちは~」
「あら、今日も狩りいくの?」
「いや、今日は森丘に採取に行くつもりだ。とは言え、小物は狩ることになるだろうけどな」
森丘ってのは一般的な狩場「森と丘」のことで、特別強いモンスターや特殊なモンスターが出ることが少なく、初心者はここから始めることが多い場所だ。
とはいえ、べつにモンスターが弱いわけでも少ないわけでもないので油断はできない。
「わかったわ。あ、そういえば飛竜のリオレウスが出たって報告があったわ」
「レウスか~ まあ、平気だろ」
説明ばかりで申し訳ないが、リオレウスってのは代表的な飛竜の一種で赤い体に凶悪な瞳に鋭い牙と爪を持ち、高温の火の玉を吐く危険極まりない生物だがハンターからして見ればそこまで怖い相手ではない。
ただ雌のリオレイアと一緒にいた場合、危険度は跳ね上がる。ベテランでも大怪我をして運ばれてくることさえある。だがレウスだけなら、間違って出会ってもすぐにその場を離れれば問題ないだろう。
さっき話した紅玉はこのリオレウスの蒼い体色の亜種から採ったものだ。
・・・・・・ふと思ったのだが、オレは誰に対して説明しているのだろうか? まあ、どうでもいいことだが。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「ああ」
そんなわけでクエスト開始だ!
このとき俺は今日も何事もなくいつも通り一日を終わらせられると思っていた。
この後起こる悲劇(喜劇?)を知っていたなら部屋で一日寝ていただろう。後悔しても遅い。もう手遅れだからこそ後悔なのだ。