※『小説家になろう』にも掲載しています。
※ギリギリな描写・残酷な描写が数多くあります。苦手な方はご注意ください。
最寄り駅から徒歩五分。二LDKの小奇麗なマンションに、大して装飾もしていない簡素な部屋。
俺。穂苅(ほかり)純(じゅん)。三つ違いの姉と二人暮らし。姉さんが短大を卒業して働き始める頃、俺は半ば強制的に姉さんから引き抜かれ、今の家に引越しになった。学校までは大した距離の違いも無かったが、問題はそんなところじゃない。
十八歳。年齢イコール彼女イナイ歴。最近気になる女の子ができて、少し前に二人でデートした。
「別にね、純くん。私はあなたに彼女が出来たら嫌、っていう訳じゃないの」
今の状況はというと、俺は部屋の壁に背中を押し付け、姉さんに迫られている。
今ちょっとエロい想像をした奴、挙手。
――悪いが、そんなにまともな状況じゃない。
瞬間、部屋の壁に包丁が突き刺さる。俺の顔がある、すぐ隣だ。思わず全身に鳥肌が立って、俺は戦慄した。
姉さんは鬱々とした生気のない瞳で、薄ら笑いを浮かべながら俺を見ている。
「純くんに彼女ができたら、純くんを殺して私も死ぬわ」
「嫌なんじゃん」
「ううん? 彼女よりも私の方が、純くんを愛している。それだけよ」
俺は蒼白になって、どうにか姉さんから逃れようとしていた。
姉。二十一歳。短大を卒業して、とある会社で事務職を始める。何故姉さんがこの家に俺を連れてきたのかと言えば、ここを姉さんと俺の愛の巣にするとかほざきやがったせいだ。
「純くんのためなら、私は死んだって構わないわ」
「いや、それ俺のためにはなってないから全然なってないから!!」
――そして、この顛末。
バレるつもりはなかった。まさかハンカチを一度貸した、ただそれだけの事で――姉さんが他の女の存在を『匂いで』感知するなんて思わなかったのだ。
うまく彼女になって貰えたら、親に説明して納得してもらおう。親から話があれば、きっと姉さんだって分かってくれるはずさ。
そう、思っていた。
浅はかな希望であったと、認めざるを得ない。
「ね? 気持ちよく……なろ?」
壁に刺さっていた包丁が、真っ直ぐに俺の心臓目掛けて飛んで来る。
逃げ場はない。
ああ、どうして俺は『彼女になって貰えたら』なんて、悠長な事を考えていたんだろう。手を繋いで一緒に帰宅して、二人でデートして、一緒に映画を見に行って……そんな『暇』を、姉さんが俺にくれるはずがないのに。
俺。穂苅純。A型牡牛座。年齢イコール彼女イナイ歴。
「ちょっと待ってねえやめて落ち着いて話せば分か――――」
……享年、十八歳。
ヤンデレ姉さんに○されたら考えるべき10のこと