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No.39192の一覧
[0] 【無限航路・二次】遥か未来、隣の銀河系で[ミナミ ミツル](2014/01/05 15:08)
[1] 第一話 渚にて[ミナミ ミツル](2014/01/10 00:42)
[2] 第二話 学術調査船ビーグル号[ミナミ ミツル](2014/01/10 00:44)
[3] 第三話 見えざる脅威[ミナミ ミツル](2014/01/19 19:24)
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[39192] 第一話 渚にて
Name: ミナミ ミツル◆418431ff ID:ebbdb2fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/10 00:42
 始まりは一隻の宇宙戦艦が撃沈された事だった。
 カルバライヤ製のその艦は海賊艦であり、随分と悪事を重ねた末に、保安艦によって粉砕されたのだった。
 海賊艦の艦長は崩壊していく艦に最後まで残り、死の寸前まで保安艦と戦って乗員が脱出艇で逃げる時間を稼いで散った。
 海賊であることはともかく、宇宙の男“0Gドッグ”としては立派な死に様と言えよう。
 
 海賊艦艦長の息子は、脱出艇から父の乗る戦艦が爆発する様を眺めていた。
 一般的なイメージとしてカルバライヤ人は良く言えば義理堅く、悪く言えば感情的だと言われている。合理的な損得よりも、血縁関係や諸々の繋がりを優先させる、と。
 しかし脱出艇から父の最後を見たそのカルバライヤ人は、これっぽっちも悲しいとも悔しいとも思わず、父の死に対してなんら心動かされなかった。
 カルバライヤ人らしくない男、クル・セルム・ジェロはその時こう思っていた。
 まぁ、こうなるわな。


「俺と一緒にまた宇宙に上がらないか?」
 父の死からまだ日も浅い十日後の夜、カシュケント自治領のある惑星の酒場で、クルはスミーという老人と共に杯を傾けていた。
 スミーはかつてのジェロ海賊団の中で最も古株で、父の右腕と言われた男である。
 老人はクルを値踏みするように見据えながら、ゆっくりと頷いた。
「応。若がその気なら、もう一暴れしてやろうじゃねえか」
「ありがとよ、爺さん」
「それじゃ早速兵隊を集めるとするか。何、一月もありゃ頭数くらいは揃えてみせらぁ」
「それなんだがよ、爺さん、機関士なんかの裏方は荒れくれで構わねぇけど、ブリッジのクルーや保安員は身なりが良い奴を集めて欲しいんだ」
「何を軟弱な事を、海賊に必要なのは外面じゃねえ、クソ度胸だ」
「それはそうなんだがな、なんつーか海賊はもう止めて、これからは真っ当に働こうと思う」
「……本気か?」
「勿論。考えてもみろ、海賊の最後なんて惨めなもんだろ。親父が死んでつくづくそう思ったよ。世間様には後ろ指を指される、お上には睨まれる、海賊同士でだって殺しあう。
 そのクセ、実入りだってそんなに良くはねぇ。俺はそんなのもう嫌なんだよ。特に銭が入って来ねえのが。これからはビジネスの時代さ」
「ビジネスって……具体的には何だよ、若」
「今考えてるのは商船や輸送船を護衛だな。そうすりゃ少なくとも政府軍や賞金稼ぎの相手はしなくていいだろ」
「なるほど……」
 スミーは白髭の生えた顎に手を当てて考えた。

 カシュケント自治領には大小マゼラン銀河を繋ぐ、交易航路マゼラニックストリームが存在する。
 銀河有数の重要航路であるこの道は、同時に銀河でも屈指の危険航路だ。
 横断中に寄港出来る惑星が少ない為、この航路を渡ろうとする船は、長い長い航路を渡りきるまでに襲い掛かる障害の数々――船を砕かんと荒れ狂う隕石嵐
容赦なく船体焼き焦がす赤色超巨星の熱、そしてピラニアのように徘徊する屈強な海賊たち――を全て独力、補給なしで乗り切らねばならない。
 今までは専ら襲う側だったが、確かに視点を変えてみると護衛しながら難航路を誘導してくれる艦の需要は確実にあるだろう。

「つまり、傭兵だな?」
「どうもその響きも気に入らねえな。もっとこう客が安心するような名前を名乗りたいんだ。
 民間軍事会社というか……これもしっくりこねえな……とにかく安心安全ってイメージを前面に押し出して活動していく予定だ」
「若が? 安心安全?」
 ふんとスミーは鼻を鳴らした。
「狼が羊の皮を被る気かよ」
「何言ってるんだ、爺さんにも羊の皮を被ってもらうぜ。これからは人前に出る時は背広だ」
「本気かよ、若」
 如何にも嫌そうにスミーが顔を顰めると、クルは面白そうに笑って追い打ちをかけた。
「若、じゃない。俺の事は社長って呼んでくれよ、スミー副社長」


 その夜からクルとスミーは慌ただしく動き始めた。やる事は山ほどある。
 兎にも角にも宇宙に出るにはまず宇宙船の確保だが、しかしこれは簡単に片付いた。
「実は今回の事は親父が死ぬ前から考えてたんだ。前々からちょっとづつ金貯めててな、小さな巡洋艦だけどもう買ってある」
「呆れたぜ、若」
 会社設立の為の数日間、クルは社長と呼べと何度もスミーに言っていたが、当のスミーはどこ吹く風で今も若と呼び続けていた。
 そう簡単に昔の関係を変えられないのは歳のせいか、それともカルバライヤ人の気質がそうさせるのか、クルは判断が付かなかったが、今では呼び名を改めさせることは諦めていた。
「じゃあ状況が状況なら頭とも戦うつもりだったのか?」
「勿論。か弱き人々を海賊共から守るのがジェロ護民会社の仕事で御座い。まぁそういう訳で船については心配しなくて構わない。それより人事の方はどうなっているかね、副社長?」
 クルがわざとらしく尊大に言うと、スミーは机の上にファイルを投げるように置いた。

「ギルドに登録されてる奴で、使えそうな奴はだいたい絞り込んだぜ。ただ最後の面接は若も同席して欲しい」
「うん、うん」とクルは満足げに頷いて、放られたファイルをパラパラとめくると、クルはその中にかつての仲間の名前と写真を見つけた。
「お、アルフにチェッコか。あいつら生きてたのか」
「らしいな。若さえ文句なけりゃ操舵と機関士を任せようと思う」
「ま、いいだろう。但し、もう山だしって訳にはいかないって事をよーく釘刺しておいてくれよ。客と揉め事を起すなってな」
「分かってるよ」
「うんうん……」
 クルはさらにファイルを流し読みしていく。
 スミー爺さんはいい仕事をして様だ、とクルは口角を上げた。こちらの要望をよく理解しつつ、短期間でこれだけクルーを絞り込めてくれるのは実に助かる。
 無論その気になればドロイドやAIを駆使して少ない乗員で空に上がる事も出来るが、そういったコントロールユニットは値が張る。
 その上その能力は人間にはどうしても劣るし、仮に戦闘で故障などした場合、手動で船が動かせないのは致命的だ。その意味でも人間のクルーは出来るだけ多い方がいい。
「うん? 事務方の候補が少ないな」
「そっちは選ぶのに難航してる。顔なじみにも声をかけてるが……」
「あ、主計は絶対に元海賊はダメだぞ。どいつもこいつも金を誤魔化して懐に入れるからな。俺が知ってる限り親父の艦でも三人はやらかしてる」
「チョロまかしたのは二人じゃなかったか?」
「三人だよ。兎に角、主計は特に真っ当な奴じゃないとダメだ」
「そうだったかな……それじゃ最初の内はまた若にやってもらう事になるかもな」
「俺もダメだ」
「なんでだ? バカが横領やらかして吊るされた後はずっと若が会計やってただろ」
「なんて言うかね、金を数えるのは好きだし、金を足し算するのもいいが、引き算があると眩暈がするんだよ。誰かにやって欲しいんだ」


 さらに数日が過ぎ、クルとスミーは部屋を借りてメインクルー達の面接を行っていた。
「次で最後か」
「はい」
 そう言いながら手元の資料を見たスミーは目を伏せながら言った。
「しかしこいつはダメだな」
 なぜ? クルがそう言う前に部屋のドアがノックされる音が響いた。
 入る様に促すと、二人の前に現れたのは、すらりと伸びた手足とスパイラルパーマの髪が印象的な長身の女だった。
「ファン・タグレップです」
 クルは反射的にヒューと口笛を吹きそうになるのを慌てて堪えた。
 力強さの宿った声と、しなやかな身のこなし。手元の写真で顔は知っていたが、実物のファンは写真よりも遥かに瑞々しく生命力が溢れているように見えたのだ。
「ヒュッ……ん、んん……簿記と行政書士資格にオペレーターの経験ありだって? 凄いね。
 これだけ資格と実務経験があって揃っていてどうして我が社を選んだのか聞いていいかな? 君なら引く手数多だろう?」
「乗っていた船が海賊に襲われた事があり、私はそれ以来海賊が許せないんです。安心安全の航海という御社の企業理念に深く共感したのが志望動機です」
「なるほど」

 あっちゃー、この子やってもうたな……と内心思いつつもなるべく平静を装って元海賊は続けた。
「君の気持ちは痛いほどよく分かる、しかしだからこそ分かると思うが……宇宙は危険に満ちている。今一度確認するが……それでも飛ぶ覚悟はあるかい?」
「言わせてもらいますが、私は宇宙船の中で生まれて育ちました。宇宙にいる方が、こうやって星の上にいる時間よりずっと長いんですよ。そんな覚悟はとうに出来ています」
 ファンのこの挑戦的な物言いは実にクルの心を動かした。なるほどこいつは生まれながらの0Gドッグ。宇宙にいるべき人間だ。肝が据わってる。
「君の働きに期待しているよ」
 クルはそう言って手元の資料に赤丸を付けた。


 面接が終わり、ファンが部屋から出て行くとスミーが強い口調で言った。
「若、あの娘はダメだぜ」
「なぜ? 何が問題なんだ? 度胸があるし、実際宇宙船で働いた経験もある。俺達の前職を嫌ってるって言うのなら、それは当然の事――」
「そんな事じゃねえ、俺達はカルバライヤ人であいつはネージリンス人だ。頭を殺したのだってネージリンスの艦だぞ」
「なんだそんな事か」

 クルは呆れた、という事を全身を使って表現した。
 クルとてカルバライヤの人間である。己が属する国への愛着とネージリンスに対する嫌悪感が全くない、と言えば嘘になる。
 しかし矛盾するようだが、クルは自身にも宿っているカルバライヤ的な衝動に対しても嫌悪感を持っていた。
 カルバライヤ人の中で育っていく中で、直情的に動くカルバライヤ人を何人も見てきたが、クルの目にはどうにもそれが
単なる軽率さと自己中心的な視点しか持っていないが為の産物しか見えなかったのだ。

 今のスミーの物言いだってそうだ。
 親父が死んだのは自業自得で、この件に関してネージリンス側に非はない。海賊艦が保安艦に落とされるのは当然の事だ。
 勿論身内を殺した相手を憎むのも当然だが……その事を関係ないネージリンス人に当てはめるのは大きな間違いだ。
 クルはこういった事で関係のないネージリンスの人間まで憎む考えが嫌いだった。
 そして、自分の中にも、その考えに賛同してしまうカルバライヤの部分がある事が大嫌いだった。
 そういった反発からクルは合理性を重んじるネージリンスの人間にある種の敬意を持っていた。憧れとも言っていい。
 感情に流されそうになる時がある度に、クルはネージリンス人のように、あるいはそれ以上に感情を押し殺し、合理的に物事を考えようと努めてきた。
 父の死を当然と受け入れられたのは、その成果だろう。

「今の内に言っておくが、ネージだ、カードゥだとか言う下らない事を言った奴は俺の艦から降りてもらう。そもそも俺達のお客様はほぼネージリンスの人間だろうよ」
「……あんな娘に財布の紐を握らせるなんて、頭がいたらなんて言うか……」
「親父は死んだし、断言するが元海賊に会計やらせるより、正義に燃えるファンお嬢にやらせた方がずっと信頼できる」
 スミーは何かを言いかけたが、クルはもうこの話は止めだ、という風に手を振ってスミーの口から言葉が出てくるのを止めると、話題を変えた。
「それより艦を見に行かないか? もうすぐモジュールの艤装が終わるはずだ」


 惑星クラーネマインの改装工廠は途方もなく巨大なスケールを誇る構造物で、その中では人間などまるで豆粒になったような錯覚に陥る。
 無数に連なる改装ドックに入渠している宇宙船は、500mを超える物も決して珍しくない。
 クルとスミーは巨大な船達を眺めながら勝手知ったる、というような調子で自動歩行道を進んで行き、ややあってクルが口を開いた。
 これが我が社の船であるぞ副社長、そう慇懃な調子でクルが一隻の巡洋艦を指差した時、スミーは思わず絶句した。
「なっ……!」
 スミーが目を丸くしてクルの方を向くと、クルは面白がるように微笑んだ。
「良い船だろ?」
「そんな……てっきり中古のリークフレア級か何かだと……」
「中古だと? 俺、長男だからだれかのお古を使うの嫌なんだよね」
「信じられん……」
 クルが指し示したのは新造されたばかりの巡洋艦だった。
 クルは船内に入る様に促すと、ピカピカの廊下を歩きながら、まだ驚きから立ち直っていないスミーを尻目にクルは得意げに船の能書きを語りだす。

「グワバ級……って言っても分かるかな? 大マゼランはネスカージャ国の正式採用モデルだ。海賊の多いネスカージャレーンで使われてるタフな船さ。
 装甲はご存じ我がカルバライヤで開発されたディゴマ装甲を採用、対空レーザー以外はあえてレーザーを装備せず実弾火力のみ。戦艦と殴りあう為の船さ。
 無骨だが何より頑丈なのが気に入ってね。マゼラニックストリームを渡るにゃ頑丈すぎて困るってことはないし、戦闘力も折り紙つきだ。半端な海賊なら簡単に蹴散らせる。
 艦名はトリビューンってのはどうだ? 良い名前だろ、皆さまの安全と航路を守る、ジェロ護民会社のトリビューン(護民官)号……」
「……金はどうした?」
「え? 何?」
「これは何年ローンだ?」
「俺はいつもニコニコ現金払いさ」
「ならどうやって買った? 新造艦なぞ買う金をどうやって工面したんだ?」

 中古で買うのと新造艦を買うのでは全く値段が異なる。
 スミーは頭を抱えた。船体だけで1万G超は掛かっているはずだ。
 しかも見た限りでは艤装にもかなり良いものを使っているようだ。
 特にエクシード・エンジンと哨戒レーダー、そして対空クラスターレーザーはカタログにしか載っていないようなコンパクトかつ高性能なハイクラスモデル。
 さらにブリッジはオペレートに関しては銀河の最先端を行くジーマ・エミュ製のものだし、小さな船なのに生意気にも艦長室――若に言わせると社長室――までわざわざ載っけてやがる……。
 ざっと見積もっただけでも、艤装だけで船体の倍以上かかっている。いや下手したら3倍か? しめて4万Gくらい?
 少しずつ貯めたと言っても、ちょっとやそっとのヘソクリなんぞで賄える額ではない。

「知るかよ、でも買えたって事は何とかしたんだろ。覚えてないや」
「若……まさか」
 スミーは疑惑の視線を向けたが、クルはそんなものどこ吹く風と言いたげに、笑みを浮かべて答えた。
「これで分かったろ? 海賊に会計やらせちゃダメだってな」


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