「そういえば……」
「んっ? 何、先生?」
「俺がこの体に乗り移ってもう『ウィル』は死なずに済んだんだよな? だったら入れ替えなんてややこしい事しないで、『ウィル』をこの体に戻せばいいんじゃないか?」
「そうしてあげたいのはやまやまなんだけどね……。本来エルゴは何事にも不干渉って決まっているの。リィンバウムが危機に瀕した時も直接は手を下さず、誓約者(リンカー)を通して世界を救ったしね」
誓約者。リンカーと言われるそれは、 四界全ての召喚獣達と心を交わし、誓約ではなく信頼により彼等を使役する最強の召喚師。
究極、頂点とも言われる誓約者は、異界からの侵略者を退け、異界との間に結界を張り巡らせる事でリィンバウムに平和をもたらした。
「エルゴの王」と言われる誓約者は、その名にある様にエルゴから恩恵を授かり世界を救ったのだ。
メイメイさんの言いたい事は、世界のバランスが崩れる事の無くなった今はもうエルゴは何も起こさないし、何も示さない。それ準拠し各世界に存在する守護者達もこれ以上の行動もしない。そう言う事なんだろう。
「ホント勝手だよな、エルゴって奴は……。後始末さえしないのかよ」
「貴方の言う事も解るんだけどね。でも、度々世界が動いちゃうのはさすがに困るでしょ? 多くの人が織り成す物語に世界が介入する、個人の意思が世界の意思に飲み込まれてしまう。そんなの生きる意味が無くなっちゃうわ」
「そうなんだろうけどさぁ。でも、それだったら子供1人の命の為に色々巻き込んで世界が動くのもおかしくないか? ……あんま言いたくないけど」
「本当はね。…………でも、世界の根底に関わってしまう抜剣者の素質を持ってるとなるとまた話は変わってくる……」
「?? 何て言った? 聞き取れなかったんだけど」
「ん~~~~~気にしない気にしない。それよりも、ウィル、朝食急がないと不味いんじゃない? もう此処で相当話してるし」
「あ。…………いや、ていうかもう無理だろ。今頃片付けてるだろうし」
「じゃあ、食べてく?」
「………そうする」
「はいは~い。久しぶりに誰かと食事するわん。メイメイさん嬉し~~~~!」
「そりゃ良かった」
「って、酒の肴しかねぇ………」
「にゃは、にゃはははははははは!」
然もないと 4話 「海から来た暴れん坊は今回出番無しだったりする」
朝から酒を勧めるなんて如何いう神経してるんだ、あのへべれけは。しかも今の俺は子供だぞ、子供。やっぱり船で食べた方が良かったかもしれない。
朝っぱらからの酒の匂いと肴に胸焼けを引き起こしつつ船へと向かう。森を経由しアジトへ出る一本道へと進んだ。
さて、この後は何をするかな。釣りでも行って食料を確保してくるか、船の修繕を手伝うか。部屋で怠惰を貪るのも魅力的だが、この状況で下宿させてもらっているのだ。働かない訳にもいくまい。……前だったら絶対こんな事思わなかったな。メイメイさんの言う通り、確かに変わっている様だ。
木が疎らになり森の出口へと差し掛かる。そして唐突に叫び声が聞こえてきた。
何だ何だと声の方に視線を巡らせると、追いかけ逃げるねこと妖精の姿が。すぐにアティ先生が駆け付けねこを諌め、追いかけるのを止めさせた。
そう言えばマルルゥが島案内してくれたっけ。あの時は先生さんと指名されてしまい乗り気じゃなかったが連れて行かれたな。もうこれ以上関わりたくなかったってのが本音だったし。さっさと島出るつもりだったしね。まぁ、その後脱出不可能だという事を知り絶望したが。
一先ずアティさん達と合流。俺も一緒に行かないかと誘われたので了承した。カイル達も誘ってみるアティさんだったが見事全滅。若干肩を落とすアティさん。俺の時もそうだったから大体解ってたけど。
船を後にし、アティさんと俺、ねことマルルゥで集いの泉へと向かう。
「ソノラまで断るとは思いませんでした……」
「そんなもんですよ」
「そんなっ。せっかく招待してもらったのに……」
「先生みたいに割り切れる物でもないですよ。召喚獣達も同じだと思います」
俺の言葉に「実はそうなのですよ~」とマルルゥが相槌を打つ。クルクルと回りながら説明するその姿に、久しぶりだなと笑みがこぼれた。
マルルゥを含めた子供達とはよく遊んでいた。いや、駆り出されていたと言った方が適切だが。でも、それは不快な物ではなかったし、俺自身子供達と戯れるのを楽しんでいた。純粋無垢だしね。何か裏があるのではないかと勘繰る必要もない。常に警戒して過ごす日常生活ってどうかと思う。
「そういえば、マルルゥどう呼べばいいんでしょうか?」
「ん? 僕のこと?」
「はいですよ~。マルルゥ、名前覚えるのが苦手なのです~」
ふむ。ニックネーム、渾名か。前は俺が先生さんだったが……どうしたものか。
赤狸はさすがになぁ。好きじゃないし、マルルゥに「赤狸さん」と言われたら結構傷付く。てか赤の意味が解らねぇよ。
目立った特長ないんだよな、この体。う~む。ウィル・マルティーニ、ねぇ…………。
「んじゃあ、『まるまる』で」
「まるまる?」
「うん。ウィル・マルティーニのマルティーニから。簡単でしょ?」
「分かりました、まるまるさんですね~」
(ま、まるまる……)
アティさん、汗垂らしながら無理に笑おうとしないで下さい。傷付きます。
「まるまるさん、マルルゥと名前そっくりですから嬉しいのですよ~」
「ああ、僕も嬉しい」
「えへへ~~」
うむ。和む。癒される。
「ウィル君、本当に嬉しそうですね。ちょっと意外です」
「そうですか? あまり意識してないから分からないんですけど。まぁ、子供は確かに好きです」
「ふふ。ウィル君だってまだ子供じゃあ……」
「ええ、子供はいいんです。裏切られる心配はありませんし、無理矢理ものを強いる事もありません。大人とは違って純粋で荒んだ心が洗われます。暗い世界に差す光りそのものです、子供達は」
(……どういう人生送ってきたんですか)
集いの泉で俺達を待っていたアルディラとファルゼンに会った。俺の時はキュゥマとヤッファだったんだけど。アティさんが最初にラトリクス行ったせいかもしれない。
今後の事について話し合うアティさん達。ファルゼンだけに解る様に手を振ってみる。鎧が僅かに揺れた。ふむ、気付いていたみたいだ。反応で解る。
昨日助けて意味深な事言っちゃたからな。警戒されてるかもしれない。言わなきゃ良かったんだろうけど……でもなぁ。
ファリエルって見てて守ってあげたくなっちゃうんだよな。こんな俺でもそう思う。傷付いてもらいたくないし、無理して欲しくもない。つらい過去なだけに幸せになって欲しいと思う。まぁ、それはこの島のみんな全員に当て嵌まる事だけど。ていうか、何でファリエルがアレの妹やねん。理解出来ん。血が繋がってないとかそういうオチか?
話し掛けるのも躊躇われる。まだ早いかな。今日1日で信用して貰えるといいんだけど。
再びマルルゥと一緒に各集落へと回る。
みんなと会うのも久しぶりな様に感じてしまう。みんなは俺の事は久しいどころか知りもしないんだけど。…………キツイなぁ。
「ウィル君?」
「…………いえ、何でもないです。行きましょう」
機界集落ラトリクス
「此処のみなさんはすっごく働き者さんなのですよ~」
「昨日来た時も思いましたけど、ここの科学技術は群が抜けてますね。帝国のどの都市よりも……って、あれ? ウィル君、何処行っちゃったんですか?」
『何がでるかな、プライズ・ゲッター!』
「ていっ!! くっ、はずれた……!」
「ミャミャ~」
「…………何やってるんですか」
「プライズ・ゲッターです」
「いえ、意味が解りません……」
「ゲーム、スロットです。当たると賞品が出るみたいですよ。先生もどうですか?」
「勝手に使っても良いんでしょうか? いけない様な気がするんですけど……」
「う~~ん。ここのみなさんはいつも働いてるから、使っても平気だと思いますよ。それにマルルゥもやってみたいのです~」
「そうですか? じゃあ、1回だけ……」
「外れちゃいました……」
「まぁ、そういう時もある。今度また挑戦だ」
「はいですよ~! でも、先生さんすごいです! 1回で大当たりなんて!」
「…………そ、そうですね」
「ありゃ? 嬉しくないのですか~?」
(………………何でわら人形が)
「マルルゥ、近寄らない方がいい。呪われるぞ」
「ひどっ!?」
鬼妖界集落風雷の里
「これからも宜しくの」
「はい、ミスミ様」
「何か臭いますね。まるで長時間肥溜めに浸っていて染み付いたものが完全に拭えていない様な」
「キュウマ、お主……」
「ち、違います!? 完全に洗い落としました! そ、その様な筈は!?」
「?? 何かあったんですか?」
「それがのぉ。このキュウマが足を滑らせ糞まみ「違うのですっ!? 足を滑らしたのではなく、刺客に嵌められてっ!!」……その様な輩が何処に居るのだ。姿形も見当たらなかっただろうに。いい加減失態を認めて「否っ!! 否否否否否否否否否否否否、否ぁーーーーーーーーーっ!!!!」…………はぁ」
「どうしたんでしょうか?」
「さぁ?」
「みゃあ?」
霊界集落狭間の領域
『サァ! イザ尋常に勝負!!』
「しょ、勝負と言われましても……」
「……先生。ここは僕が」
「ウィル君?」
『ムッ。今ハソノ女子ノマネヲシテオル。オマエハ後にセイ』
「マネマネ師匠ともあろうものが姿形に囚われるとは……落ちたものだな!」
『!!』
「姿形が真似出来なくとも………俺はこの燃え滾る心で何処までもアンタのモノマネについていってやるぜーーーーーーっ!!!」
『ヨクゾ言ッタァ!! ナラバ何処マデモツイテコイッ! ユクゾォッ!!!」
『「決闘(デュエル)!!!」』
『ハアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
「やってやるぜぇーーーーーーーーーーっ!!!!」
「ウィル君が壊れちゃいました……」
「うひゃあ。まるまるさん、すごいです~」
「ミャミャミャーーーー!!」
幻獣界ユクレスの村
「お前等が母上の言ってた人間だな!」
「いや、違う。僕はそうだがこの人は違う。この人は……悪魔だっ!!」
「「ええっ!!?」」
「またですか!?」
「今はこんな形(なり)をしているが、一度剣を持てばその肌と髪は白く染まり、夜叉の様に敵を切り裂き引き裂き皆殺し!」
「「ひっ!!」」
「ちょっ!!?」
「その体を返り血で真っ赤に染め、狂った様に笑い、切り裂いた敵を食い荒らす!!」
「「ひぃい!!?」」
「あることないこと適当に言わないでください!?」
「夜にその剣を鳴らしながら、悪い子はいねぇか、悪い子はいねぇか、そう声を響かしながら……子供達を連れ去らうっ!!!」
「うわぁーーーっ!!? 母上ーーーーっ!!!」
「先生さん悪魔だったなのですよーーーー!!!」
「ああっ!? に、逃げないで!? 嘘、嘘ですよっ!? みんな全部嘘ですよっ!!?」
「本当だっ!!」
「やめてくださいっ!!」
「そこのワンちゃんも逃げろっ!!」
「ひぃいっ!?」
「やめてくださいってばっ!!?」
集落を全部回り終え、再び集いの泉へと向かう。
ミスミ様を始め、みな好意的だった為実に有意義なものだった。これなら心配する事もあるまい。
「う、うぅ……」
「違うんです。違うんです、マルルゥ……」
マルルゥは俺の影に隠れてアティさんを避け、そんなマルルゥの姿アティさんは涙する。ふむ、絶景。
「大丈夫だぞ、マルルゥ。僕が守ってやるからな」
「まるまるさぁん……」
「うう、理不尽です……」
今頃気付いたんですか? 世界は理不尽なんです。別にアティさんが恵まれてるから嫌がらせしてる訳じゃないんです。世界が理不尽なんです。俺じゃないです。
「ウィル君、何でそんな私に意地悪するんですか? 私のこと嫌いですか?」
ぐおっ!? な、涙目にそれは反則なり!!? 天然恐るべしっ!!
「き、嫌いな筈ないじゃないですか」
「じゃあ、如何していつもいつも私ばっかり……」
「まぁ、あれですよ。何と言うか、ええ、つまり…………ぶっちゃけ面白いから」
「最悪ですよ?!」
でも事実だし。
「前はいつも周りの人達に僕が振り回されていたので、弄りがいがありそうな先生で腹いせでもと」
「私関係ないですっ!?」
「諦めてください」
「そんなっ!?」
運命って言うやつです。
◇
翌日。昨日護人達に頼まれた作物を掻っ攫う賊の討伐、それにアティさん達は朝早くから出発した。
俺はお留守番。着いて行こうか迷ったけど、ジャキーニさん達だしねぇ。別段問題もないだろう。
残ってもやる事あんまないんだけど……まぁ、あそこ行くか。知ってるのに埋もれたままにしておくのも可愛そうだしな。
ねこを肩に引き連れ、集落の方角へ足を運んだ。
「確かこの辺の筈…………」
『もし、そこのお方……』
「! ビンゴだっ!!」
声の聞こえた方向、ガラクタ山に駆け寄る。場所は解った。後はこの山をどかすだけ。…………なんだが、でかい。今の俺にはこれはちょっと…。
……帰ろうか? 相当無理あるよ、コレ。ていうか、よく俺こんなの前にどかしたな。大人の体でもこいつは……。
時期が早いからとかそういう理由? もっと後の方になればこのガラクタ山も崩れてるみたいな? うわー、失敗した。
マジで足を返そうとしたが、山の中からしきりに助けを呼ぶ声が響いている。『お願いであります!』『後生であります!』懇願の声が俺の良心を抉っていくっ……!
ええい、いつからそんなに軟弱になったウィル!? お前は野郎の声なんぞに反応する神経など持ち合わせていなかっただろうに!
くそったれ!と半ばヤケクソになってガラクタを退かし始める。ねこはもちろんユニット召喚で「テテ」も呼び出し協力させる。小さいが俺よりかは遥かに力がある。かなり頼もしい。
1日の半分使い果たしてようやくガラクタを退け、声を発していた存在が顕になった。
黒鉄。深い青と黒の装甲から成るその体。人を形どる重厚なその姿は紛れも無い兵器。傷付いた1体の機械兵士が、静かに跪いていた。
頭のカメラアイに光りが灯る。起動―――スクラップ場に打ち捨てられたそいつは、気の遠くなる様な年月を経てこの世界で息を吹き返す。
『ご援助ありがとうございます! 本機は無事、起動することに成功しました!!』
「ああ、苦労した甲斐があった。僕はウィル。お前の名前は?」
『はっ! 本機は形式番号名VR731LD、強攻突撃射撃機体VAR-Xe-LDであります!!」
「長い。ということで親しみを込め、勝手にヴァルゼルドと呼ばしてもらう」
『…………ッ!! はっ、感激であります!!!』
呼んで欲しい、前にこいつはそう言った。なら言われるまでもなく今此処で呼んでやるのが当然のことだ。
言葉通りにその声には嬉しさが滲み出ていて、自然と俺は笑みを浮かべた。
もう沈黙してしまった、たった1人の部下。力になりたいとそう願い、自らの意思で消えたポンコツ兵士。それが、またこうして互いに言葉を交し合っている。
初めて、この世界に来れて良かったと、そう思えた。
「数十万時間ねぇ。よくもまぁ、今まで停止せずに済んだな」
『最低限のシステムのみ稼動させ、待機状態にって猫ぉおぉぉおおおおおおおおっっ!!!?!?!?!!!』
「にゃ?」
『猫は、猫は苦手でありますぅぅうううううううううううう!?!!?!!!?!」
「ねこ、じゃれ付いてあげなさい」
「ミャミャ~~~~~~~!」
『待っぉおおおおおおォおおぉオオオオオオオぉォおおオオ#$%&¥%&#&¥#%$#!!!!?』
「無事?」
『…………は…ぃ……』
「今あっち居るからそろそろ戻っておいで」
『…………死ぬかと思ったであります』
「ねこ1匹で壊れるのってどうなのよ? まぁいいけどさ。で、ヴァルゼルドはもう平気なんだな?」
『はっ! 以後、太陽光パネルからエネルギーを供給する次第であります!』
「ん。それじゃあ今日は帰る。また来るからさ」
『ありがとうございます!! ……そういえば、ウィル殿の役職は一体何でありますか?』
「………………教導部隊配属」
『教官殿でありましたか! では、これからも教官殿と呼ばせて頂きます!!』
「ああ、それで頼む。じゃ、またな、ヴァルゼルド」
『はっ! お待ちしております!!』
日はもう既に沈みかけ、周囲が茜色に染まっている。夕日は人を感傷的にさせてしまうが、今の俺の心は真逆の晴れやか一色だ。
今日の世界は、ほんのちょっと優しかった。
◆
『……………………』
「……………………」
「先生、僕疲れてるんですけど……」
ジャキーニさんの件も片が付き、本当の意味で認められた今日。お礼を言いたくて、こうしてファルゼンさんの所にやってきたんですけど……。
どうしよう。会話にならない。お礼を言ってそれっきり。二言以上続いていないです…………。
何となくこんな事態を予想してウィル君に引っ張ってもとい着いてきて貰ったんですが、どうやら正解だった様です。こんな空気1人じゃ耐えられません……。
『あてぃ、うぃる』
「え?」
「…………」
『オマエタチニハ……ミセテオコウ…』
ファルゼンさんの体が急に光りだし……っ!?
「これが……本来の、私の姿です」
…………。
「私の本当の名はファリエル。輪廻の輪から外れてさまよう、一人の娘の魂です」
……………………。
「強い魔力の下でだけ、私はこの姿に戻れます」
………………………………。
「こうした、月の光の降り注ぐ夜や…………って、あの、もしもし?」
どさっ。
「あの、ちょっと、アティさん? しっかりしてください、ね、ねえってばあ!?」
「………………何がやりたかったんだ、この人は」
「…………えっと」
「…………」
アティさんが倒れてウィル君と2人になってしまいました。
聞きたいこと一杯あったのに、いざ向かい合うと言葉が出てきてくれない……!
「……やっぱり女の子だったんだ」
「え…………き、気付いていたんですか!?」
「んー、何回か女の子の声聞こえたし」
あう……。やっぱり聞こえてた…。
「ファリエルは何であんな大きい鎧をいつも着けてるんだ?」
「………………」
如何してこの鎧を身に纏っているのか、理由を、罪を話す。ただの私の自己満足だということを。
そして、罪の全ては言わない。……言えない。傷付くのが怖いから、嫌われるのが怖いから。臆病な私は全てを曝け出すことは出来なかった。
……何て、浅ましいんだろう。
「ファリエル」
「は、はい。何ですか?」
卑下するのをやめ、顔を上げる。悟られちゃいけない。隠していることを。島であった事も。「剣」の事も。……醜い、私のことも。
「鎧着けんのやめなさい」
…………はい?
「あ、あの……聞いてました? 鎧着てないと魔力消費したり、他のみんなに正体が…」
「でも、もったいないと思う。そんな可愛いのに」
……………………はいっ!?
「なっ、なっ、なっ、なぁっ!? わ、私、可愛くなんかっ!?」
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
あわわわわわわわわっ!? な、何を突然っ!!? 可愛いって、ちょっと、ええっ!? というか連呼しないで!?
「初々しいなぁ。期待を裏切らない程に」
「初々しい……って、か、からかってたんですか!?」
「ふ」
良い笑顔で親指立てないでっ!?
「お、大人をからかわないでくださいっ!!」
「えー。でも僕とファリエルそんな年変わってない様に見えるけど?」
「こう見えても長生きしてるんですっ!」
「お婆ちゃん?」
「やめてっ!?」
おちょくられてるよ!? うう、最初に会った時の印象と全然違う……。
「……そんな風にさ、怒って、真っ赤になって、笑って、普通のファリエルのままでいいと思う」
「……………え?」
「1人で背負い込まないで、みんなに打ち明けて、そのまんまのファリエルで」
「………………」
「絶対みんな解ってくれる。受け入れてくれる。だから、」
「頑張れ」
「――――――」
「『ポワソ』。ごめん、先生の足持って。そう、地面着かないように。ねこは腰支えて。うん、ありがとう。じゃ、ファリエル。また明日」
「…………は、はい。また、明日」
前と同じ様に森へ消えていくウィル君。それを呆然と見送っていく。……アティさん、すごい体勢でしたけど…。
…………不思議な子だと思う。心が見透かされてる、そんな気がする。
本当に、解ってくれるかな? 受け入れてくれるかな? 許して……くれるかな。
『頑張れ』
……頑張ろう。いつか打ち明けられる様に。ごめんさない、とみんなに言える様に。
自分の為にも、信じてくれてる彼の為にも。
頑張ろう。
「………………」
月? あれ、ここは……
「お目覚めで?」
「! ウィ、ウィル君!?」
横まらの声に反応して起き上がる。
ここは……浜辺?
「どうして…………って、そうです!! ファ、ファルゼンさんは!?」
「居ないですよ。いきなり先生ぶっ倒れたから」
うぐっ。
「ホント何がしたかったんですか、アナタは」
ううっ……。
「此処まで運んでくる間も平和そうな顔でぐーすかと」
あううっ!
「あー、疲れた」
「…………ごめんなさい」
「どーいたしまして」
棒読み……! うう、ホントに泣きたいです。
「…………はぁ」
「………………」
「…………」
「………………」
「…………」
「…………い、行かないんですか?」
「もう立てるんですか?」
「えっ? は、はい。もう立てます……」
「んじゃあ、行きますか」
そう言って立ち上がるウィル君。……えっと。
「待っててくれたんですか?」
「ひょっとしなくても待ってました」
皮肉たっぷり効いてます……。
……でも、待っててくれてたんですね。起きるまで、ずっと。
「……ありがとうございます、ウィル君」
「いえいえ」
「……ふふっ」
前とは逆になっちゃいました。それが何だか面白く感じます。
小さな背中を見詰め、追い付き、肩を並べる。
2人の足音が重なって聞こえるのが、また嬉しく感じる。
今日も、月が綺麗です。
「どした、ねこ? そんな先生重かったのか?」
「ぶっ!!?」
「にゃあ~……」