朝日。
小さな窓から差し込む光を浴びながら、ウィルは寝巻きから普段着へと着替えを行っていた。
自室にて起床して暫らく。口を開くことをせず衣服に手をかけていく。
『だから、私にも意地を張らせてください』
思い起こすのは昨夜の少女の言葉。
ウィルはそれと同じ言葉を、以前にも「彼女」から聞いている。
―――たまには、私にも意地を張らせてください
それは、同じように「剣」の慣れない行使のせいで倒れた際に聞いた言葉。
「レックス」として、自分のお見舞いなどいいから無理をするなと言った後に、「彼女」は微笑みながらそれを口にしたのだ。
『それが、今の私を形作っている、一番の想いだから』
これもまた、同じ。
「剣」という巨大な力により、気付かない内に一人進んで戦おうとしていた「レックス」を戒めた言葉。
それではみんなが一緒に居る意味はない。助けになりたい、支えてあげたい。彼女はそう告げた。
それは懇願で、願望。瞳を涙で濡らしながら、「彼女」はそれを言い落としたのだ。
―――それが、今の私を形作っている、一番の想いなんだもの
重なった彼女と「彼女」。繰り返されたコトバ。
胸に過ぎったのは確かな哀愁だった。普段なら決して表に出さない失態を、あの時むざむざ曝け出してしまった。
日頃より、仲間達の中に「彼等」の面影を見ることを多々ある。それで揺さぶられる感情がないと言えば嘘になるが、動揺するということはない。まして醜態を晒すことなど。
夢を見たせいだと思う。「彼等」の夢を、顔を、瞳を。それらを垣間見たせいでらしくもないことをやってしまったと、ウィルはそう思う。
「…………」
寂寥、感傷。確かにそれらはあるのだろう。
窓に薄く映える自分の顔を見詰めながら、ウィルは客観的に胸の内を分析する。恐らく、これらの感情は以後も消えることはないのだろうと考える。
『貴方の、助けになりたいよ』
だが、やっていける。
己の奥深くに沈める感情に、これからも悩まされるのだろう。思い煩わされるのだろう。
それでもきっとやっていける。助けてくれる人達がいるのだから。支えてくれる人達がいるのだから。笑顔で自分を迎えてくれる仲間がいるのだから。
自分はやっていけるのだ。その言葉を繰り返し、言い聞かせた。
「……よしっ。行こう、テコ」
「ミャミャ!」
息を吐いて瞳に力を灯し、側に控える自分の相棒へと手を差し出す。それを登るようにして伝ってテコは肩へととまった。
一歩踏み出し、前進。昨日は曇っていた心の内も今日の天気と同じように晴れやかだった。
「……ソノラ?」
「えへへっ。おはよっ、ウィル」
「ミャー!」
ドアを開けたそこにはソノラの姿。普段と変わらぬ笑顔でウィルを迎えていた。
目の下は赤く染まっているが、はにかんだ表情はそこに翳りの一片も見えない。何時か見た「少女」の笑顔だ。
「昨日は、ゴメンね。それで、ありがとう」
「……気にすんな」
「……うんっ!」
頷きと共に浮かべる満面の笑み。
程なくしてウィルの手を掴み、ソノラは歩き出した。
「もう朝ご飯できてるよ。みんな待ってるんだから」
「ん、すまん」
「許すっ!」
少年の口元にも笑み。繋がれた手から絆を感じ取る。
変わらない言葉。変わらない想い。変わらない絆。何が起ころうとも、それらだけは動かない。
確かな証を糧に、前へと踏み出していった。
――――ああ、俺はやっていける
然もないと サブシナリオ4 「ウィックス補完計画その4」
「休日、ですか?」
「ああ。みんなと話し合って決めたんだ。先生、あんた此処に着てから働きっぱなしだろ」
食事をあらかた済ませ、茶を飲みあっている朝食後。
カイルがアティさんに明日の休日を言い渡してきた。ソノラやスカーレル、ヤードも加わり同じように促してくる。
今も会話を続けるアティさん達を横で見遣りながら、俺もカイル達の言い分には納得出来た。
この天然お人好し教師が仕事の手伝いや厄介事を毎度に引き受けているのは島で周知の事実だ。働き過ぎと言われても何もおかしくはない。疲れは取る為にも休息は取れというのは至極当然のことだろう。
アティさんは、自分は別に平気だと言っているが、カイル達の強い言い分に押されぎみだ。恐らく押し通されるとみた。
困ったように笑う彼女の顔を見ながら、しかし俺は複雑な気分だった。
いや、別にアティさんが休むことに反対という訳ではないのだ。俺だってさっき思った通りガス抜きは必要だと思っている。思っているのだが……
「……何故だ」
「ミュウ?」
「俺」の時は、「休め」などと一言も声を掛けられてはいない。
「イスラ」が騒動を起こした次の日の朝は何時もどおりの朝食が展開された。「休め」の「や」の字も出されていない。ほれ、今日もサボるなよ、と言わんばかりだった。…………何故だ。
この格差は、一体……。
「うーん、困りました…………って、な、何ですか、ウィル君? そ、そんな恨めしそうに……」
「……いえ」
何時の間にかアティさんを睨んでいたようだ。
いかんいかん、この人に非はないだろう。やりきれない感情の矛先にはお門違いだ。
アティさんの人徳って奴だよ、人徳。「俺」には無かったもんだったんだよ。うん、きっと、多分。……でもちょっとくらいあっても良かったんじゃないかとも思うだけど、けどやっぱり無かったんだろうね。きっとそうなんだろうね。
……しかし納得がいかねぇー!!? 待遇違い過ぎんだろ、理不尽だよコレはっ?! 俺にも優しさをくれ、優しさをっ!!
くっそぉおおおおぉおおおぉぉおおおおおおぉおおおおおっっ!!!!
「ウィ、ウィル君?」
「…………何でもないです。明日はどうぞ素晴らしいお休みを満喫しやがって下さい」
「……あ、悪意のように聞こえるのは私だけでしょうか?」
「いい耳鼻科紹介しましょうか? ここから北に行った先の白い建物です。ええ、リペアセンターといいます。白い看護婦さんがドきづい注射をお見舞いしてくれますよ」
「……遠慮します。というか、何ですかこの仕打ち…」
理不尽です……、と零すアティさん。
それはこっちのセリフだっ。貴方が「俺」だなんて絶対認めないぞっ!!
「…まぁ、冗談は置いといて」
(タチが悪いです……)
「如何して困ったなんて言うんです? せっかくの休日でしょう? 息抜きするなりなんなりすればいいじゃないですか」
「俺」の時だったら部屋に閉じこもって怠惰の限りを尽くしただろうね。
間違いない。確実。
「そう、それなんですよっ、問題は!」
「……は?」
「にゃ?」
身を乗り出してきて、指をぴんっ、と立てるアティさん。何処か教師風。
アティさんの言う“それ”とは一体何を指しているのか。今一要領を得ないアティさんに俺は首を傾げる。
「休日なんて久しぶりですから、どうやって過ごしていいのかちっともよく分からないんです」
「…………」
「にゃ……」
……馬鹿?
「……趣味やら何かしらの息抜きすればいいじゃないですか」
「それがないんですよ、私。学生の時は、村のみんなのお金で軍学校行かせて貰ってましたから、遊ぶのは気が引けちゃって…」
「……友人のお誘いも断って?」
「はい」
この人誘いに来た男連中の泣く姿が容易に想像出来る……。
「……今まで休日は何してたんですか?」
「一日中寝ているか、図書室に篭って勉強でしょうか?」
馬鹿だ、馬鹿がいるぞ。
「う~~~~~~~ん……」
目を瞑り、拳を口元に当てるアティさん。考える人を実践しながら瞑想している。
そして、考えるのが終わったのかアティさんはポーズを止める。瞼を開け、一笑。にこっ、と満面の微笑を浮かべた。
「どうしましょう?」
「知るか」
国へ帰れ。
「にこっ、じゃないですよ、馬鹿ですか貴方は。自分のことでしょう、僕に聞かないでください」
「うっ、うう……」
うな垂れるアティさん。
今回は俺は全然悪くない。何で他人の休日スケジュール組み立てなきゃあかんのだ。嘗め腐っている。
もう既にカイル達は解散しており此処に居るのは俺とこの天然だけだ。今になって面倒事を押し付けられたような気分になってきた。普通に俺も離脱したい。
「まぁ、先生の健やかで取るに足らない耳カスのような問題はどうでもいいとしましょう」
「私にとっては結構重大なんですけど……」
「はいはい良かったね。それより、真面目な話があるんですが」
「?? 何ですか、一体?」
「ファリエルがヤッファ達に自分の正体を明かすので、それに立ち会って欲しいと」
「! ほ、本当ですか!?」
ええ、と頷き事情を説明する。いや事情という物でもないが。
ファリエルが勇気を出して決断したっていう話だしね。
昨日の夜、アティさんを強制睡眠に追いやった後、ファリエルが言ってきたのだ。自分が逃げ出さないようにアティさんと見守って欲しい、と。
ファリエルなら逃げ出すなんてことしないだろと普通に思ったが、女性からの頼み事だ、断る筈もない。
打ち明けると俺に言った日から少し間が空いたが、それは今日まで場を設けることが出来なかったから。イスラが色々やってくれたし、何より奴等の酒が抜けきっていなかった。面倒臭い奴等だ。……って、俺のせいじゃん。
「分かりました。じゃあ、もう今から?」
「ええ。狭間の領域でファリエルが待ってます。行きましょう」
「はい」
まぁ、心配ないと思うけど。
「……なるほど、な」
「ファルゼン殿が、ファリエル様だったとは……」
「…………本当に、ごめんなさい」
集いの泉。
昨夜の話した予定通りにファリエルと合流した俺とアティさんは此処へ赴き、そしてファリエルがヤッファ達に自分の姿を打ち明けるのを傍らで見守った。
ヤッファは目を瞑り静かに呟き、キュウマは驚きは隠せない。ファリエルは申し訳なさそうに佇まい、けれど真摯の瞳で彼等を見詰めて逸らさなかった。俺は黙って事の成り行きを待ち、アティさんは緊張しながらも強く見守っている。
「ま、確かに虫の良すぎる話だな。俺達を散々振り回した一端を担いどいて、その挙句に罪滅ぼしをしたいとはな」
「…………」
「今も貴方達に恨みを抱く者達は少なくありません。許されることはないでしょう」
「……はい。分かっています」
ヤッファは目を瞑ったまま軽薄な笑みを浮かべ、キュウマは静かに罪状をファリエルに言い渡してきた。
悲壮にそれらを受け止めるファリエルの姿にアティさんが身を乗り出そうとして、しかし踏み止まってその場でこらえる。人間である俺やアティさんが口を挟んでいい話ではない。彼等の手によって決着をつけなくてはいけないのだ。
「なら、此処で何をされても文句はねえ、ってことでいいんだな?」
「……構いません」
鋭利とも言える笑みを貼り付けたヤッファの双眸がファリエルを見据えた。ファリエルは、目を逸らさない。
緊張、一時の静寂に包まれた。
「…………だが、今更死んじまってるお嬢ちゃんをどうこうした所で、何も変わることなんてねえだろうな」
「それじゃあ……!」
「ええ。ファルゼン殿は今まで島の者達に尽くしてきました。賞賛はすれど、責め立てる道理はありませんよ」
「あっ…!」
アティさんが顔を安堵に形作る。俺も一息ついた。まどろっこしい言い方よせよと思ったのは内緒である。
ファリエルは何かを抑えるように俯いた。やがて、顔を上げてから、目の端には涙を溜めて誠直に腰を折る。
「…………ごめんなさいっ。……ありがとうっ」
けじめはついた。この場にいる誰もが笑みを浮かべてファリエルという少女を歓迎する。
身を起こして涙ながら笑うファリエルに二本指を上げてサイン。彼女も控えめながら、小さく二本指を立てて微笑み返した。
「ファルゼンが話があるっていうから内心驚いていたけどよ、蓋を開けてみればまた面食らっちまったぜ。今日はもう何があっても驚かねえだろうな」
「ですね」
「あははははっ」
ヤッファがおどけて見せて釣られるように場が賑やかになった。
本当にこういう時には役を演じるのが上手い。普段からそうしていればいい兄貴分なのに、もったいないと言えばもったいない。
その後も、ヤッファがファリエルをからっかたりとキュウマがアティさんに自分達の関係を話したりと引き続く。
やっぱり心配する必要はなかったと彼女達の姿を見ながら思った。知れず笑みが漏れる。ちなみに俺は蚊帳の外という奴である。のけ者にされてた。オイ。
「島の奴等にはおいおい知っていってもらうとして……いいのか、嬢ちゃん? アルディラには伝えなくて?」
「……はい。義姉さんには、まだちょっと…」
目を逸らすようにしてファリエルはそう返す。
伝えられない事情、深刻な問題がまだ残っている。それ故に彼女だけにはまだ正体を明かす訳にはいかなかった。
アルディラが不穏な動きをしているとヤッファ達に打ち明けないのは、ファリエルは甘さであり義姉を想う優しさだろう。まだ後戻りは出来るのではないかと信じたいのか。勝手な予想だが間違ってはいないと思う。そして、それに伴う覚悟も秘めているのだろう。…………くそったれ、だ。
「まぁ、嬢ちゃん達にも結構な関係があるしな。俺は口を挟むつもりはねえよ」
「ですが、ファリエル様。何時かは必ず……」
「ええ。私の口から、必ず姉さんに話します」
それが、果たして言葉での回合になるのか、または戦場での果し合いになるのか。
どちらを迎えようとも、彼女達が笑い合える結末を。
本心からそう願った。
◇
「しかし、また如何してこんな時期に話すつもりになったんだ、嬢ちゃん?」
何かあったのか、とヤッファはウィル達が居なくなった集いの泉でファリエルに尋ねる。
今までファルゼンとして振舞ってきた彼女に、一体どういう心境の変化があったのかと疑問に思った。
「私が、これ以上ファルゼンを続けることに耐えられなかったことと……後はウィルが私の背中を押してくれたから、だと思います」
「……ほお」
頬を染めはにかむファリエルに、自分の知らぬ所で面白いことになっているようだとヤッファは口を吊り上げた。
記憶に残っているあのお転婆娘がこのような顔するようになったのかと過去と今を照らし合わせつつ、またおちょくってやろうかと考えた。が、薮蛇を突付くような真似をするなと頭が警報を告げてきて踏み止まった。
以前、出来心からアルディラをからかったことで手痛い目に合わされたのを思い出す。昨夜は楽しんだか、と聞いただけでドリルが降ってきやがった。木っ端微塵の一歩手前ってどういうことだ。手痛いレベルじゃない。
「ま、まぁ、確かにウィルの野郎はおもしれぇ奴だな」
平然を装うとするが声が上ずる。
血の関係はないが、義妹であるこの少女が大剣持って粉砕しようと向かってくるのは想像に難しくない。
冗談じゃねぇぞ、と呟きを落としながらヤッファは頬に冷や汗を伝え流した。
「そうですね。私もそう思います」
「…………」
ファリエルはヤッファの様子には気付かず顔を綻ばせたまま。キュウマは黙り込んで何かを考えているようだった。
近頃奇行に走っていたが昨日の奔走により名誉挽回した忍者の態度に疑問を覚えつつ、ヤッファはふと以前から思っていたことを口にする。
「馬鹿々しい話なんだがよ、俺はウィルの奴がハイネルの生まれ変わりなんじゃねえかと思ってるんだ」
「えっ!?」
「!」
一転して驚きの表情に変わるファリエル達にヤッファは苦笑を見せる。
自分でも突拍子もないことを言っていると自覚があった。
「あり得ませんっ! この島は死者の魂を離しませんし、それに、兄さんはっ……!!」
ハイネルはファリエルの実の兄であり、そして過去の戦争で朽ち果てている。
島の核識となり戦った彼は身体も魂さえも壊された。転生は適わない。生まれ変わり救済されることは決してないのだ。
勝手な考えとはいえ、ファリエルが熱くなるのもしょうがないことだった。
「分かってるさ、嬢ちゃん。だからそんな熱くなるな。根拠なんてねえからな、話半分に聞いてりゃいい」
「では、一体どのようにしてそう思い至ったのですか、ヤッファ殿?」
「ああ。本当に馬鹿も山々なんだがな……ウィルの『信じろ』って言葉にハイネルの奴が見えてな。ただ、それだけだ」
ジルコーダ討伐の最中のことだ。
あの時、確かにヤッファはウィルにハイネルを見た。性格から何もかも正反対の二人だが、ウィルの瞳にハイネルの物が重なったのだ。
「それに、これまでの戦いっぷりを見てもアイツが半端じゃないことは分かるからな。ただのガキじゃねえよ」
「確かに、あの年の域にしては目を見張る物があります……」
「……でもっ、やっぱりそんなことっ」
「確かに話が一気に飛躍はしたな。まっ、さっきも言った通り根拠なんざねえ。俺が勝手にそう思ってるだけだ。今更だが、気にすんな嬢ちゃん」
未だ不服そうなファリエルに笑みを投げつつ、果たして本当の所は如何なのだろうかとヤッファは考える。
今言った通り、ウィルが普通ではないことは明白だ。身体能力こそ年相応だが、判断能力や危機的回避能力は尋常のそれではない。何を考えているか一切不明な頭も途轍もなく切れる。
更に、召喚術。あれ程の執行速度を何処で身に着けたというのか。狭い世界で生きているヤッファの見解に過ぎないが、あの召喚速度を凌駕する存在はいないのではないかと思う。
非凡の身。此方の常識が通用しない。そういった点からもウィルはハイネルの生まれ変わりではないかと考えさせられるのだ。ハイネルという青年もまた、出鱈目な召喚師のそれであった。
―――まっ、なんにしたって構わねえんだけどよ。
ヤッファの結論はそれだ。
ウィルがハイネルの生まれ変わりであろうとなかろうと構わない。もし生まれ変わりだとしたら嬉しさ余って憎さ100倍といった所だが、違った所でウィルをどう思うことなんてあり得ないのだから。
今までウィルを見て感じてきたことは彼自身として見たヤッファの評価だ。澄ましてて、訳が分からなくて、愉快で、数少ない認められる人間の一人。そう思わせたのはウィル以外の何者でもない。ウィルという少年が行ってきたことの結果だ。
(似てるっちゃ言えば、アティの奴もそうだしな)
子供のような笑顔や気高い信念は正にそれだろう。外面から見ればアティの方が近いといえる。「剣」に選ばれたのだから当然といえば当然なのだが。
以外にあのお人好しに似た馬鹿共は多いのかと思い、自らのそれに笑みを漏らした。
「それに嬢ちゃんの目にかなったんだ、強ち間違いでもないんじゃねえか?」
「ヤ、ヤッファさんっ!!」
「ははははっ」
兄にべったりだったファリエルはその言葉に顔を赤く染め声を張り上げる。思い出したのかキュウマも微笑した。
「ハイネルの魂の一部が転生の輪を通ることが出来たっていう考えもあるんじゃねえか、ってな。そう思っちまうんだ」
「ヤッファ殿……」
「…………それでも、ウィルはウィルです」
「はっ、違いない」
ファリエルの言葉に笑みを一つ。
面倒も起こるだろうが、退屈も決してしないだろうとヤッファは彼の少年のことを思った。
「おお、そうだ。前によ、夢で嬢ちゃんが出てくるようなやつを見たんだ、これが。あれだ、正夢って奴だな」
「ヤッファ殿もですかっ? 実は自分も同じような夢を見たのです。本当にこのようなことがあるのですね」
「…………あはっ、あははははははは…」
「良かったですね、ファリエル。ヤッファさん達に許してもらえて」
「ええ、本当に」
集いの泉からの帰路。アティさんの隣で相槌を打つ。
正直、天上天下飲ました時に許してもらってたから、俺もファリエルも確信が少しもなかったと言えば嘘になる。やはり緊張はあったが、不安はなかった。そんな感じだろうか。
「それにしても、ファリエルの昔話の他にアルディラの私的なこと聞いちゃったけどいいんでしょうか?」
「いいんじゃないですか。先生が聞いた訳じゃないですし。アルディラに何かバレたらヤッファ達が勝手に喋ったって言えば平気ですよ」
「それもちょっと……」
苦笑するアティさん。
どうでもいいけど、貴方その話の時に結構興味ありげじゃなかったか?
「ファリエルのお兄さんでアルディラの好きだった人。ハイネルさんか……」
「……何でやねん」
聞こえないようにボソリと呟く。
これだけは認められない。不条理だ。
「きっと素敵な人だったんでしょうね」
「はは、冗談でしょう?」
ゲスだよ、アレは。
「えっ? 何か言いましたかウィル君?」
「いえ、別に」
やがて足を進めていく内に、木に備えられた黒板とそれを取り囲むようにして配置されている数個の切株が見えてきた。
青空教室。集いの泉の付近に位置する自分も含めた子供達の学校である。って、俺一回しか出てなくね?
「あ、そうです! 今日から学校も再開することになったんです!」
「良かったですね。おめでとうございます」
「はいっ! って、何人事のように言ってるんですかウィル君! 貴方も出るんですよっ」
了解、と返答。それを見てアティさんは楽しそうに笑みを作った。
久しぶりの学校に浮かれているようだ。子供と変わらないその姿に苦笑が出てくる。
「ところでウィル君、いきなりですが学級委員長を頼んでもいいですか?」
「僕がですか?」
「はい。ウィル君が一番お兄ちゃんですし」
「レックス」の時にも「ゲンジ」さんの助言からアリーゼに学級委員長を勤めてもらった記憶がある。
教えることを一人一人分かってもらうようにじっくり指導することになるから、自然それを補助をする委員長なる存在は必要になってくる。でなければ手が回りきらないだろう。
「場合によって私のお手伝いをしてもらうことになるんですけど……いいですか?」
「構いませんよ」
あの時の苦労は身に染みている。
断る理由はあるまい。
「ありがとうございます、ウィル君! じゃあ、お願いしますね?」
「ええ、任せてください。これで学級という秩序は僕の思いのままということです」
「!? な、何不吉なこと言ってるんですかっ!!?」
「やってやる、やってやるぞっ! ふはははははははははははっ!!!」
「ちょ、ちょっと?!」
「ビバ学級崩壊!」
「止めてくださいっ!!?」
本当に止めて!?と本気で言ってくるアティさんを落ち着かせるのには時間が掛かった。
やれやれって感じだ。冗談の通じない人である。そう言ったら、涙目で睨まれた。直角に腰を折った。
「…………ウィル」
「わっ!?」
「うおっ?!」
何時の間にいたのか、クノンが側に控えていた。
け、気配が感じられなかった。ていうかボソッと声出すの止めなさいクノン。素でビビる。
「ク、クノン? 何かあったんですか?」
「………………アルディラ様がウィルをお呼びです」
「アルディラが?」
はて、と一瞬首を傾けたが、すぐに昨日の「剣」についてのことかと思い至った。
マジ? 何か不備でもあったのか? そのことで怪しまれているのだとしたら不味い。
如何すると逡巡したが、すぐにアルディラの元へ行くことを決断。
赴かない訳にはいかない。後ろめたいことがあると言っているようなものだ。結局、選択肢は一つだけだ。
「すいません、今から行ってきます。学校には間に合うと思うんで」
「あ、はい。いってらっしゃい」
アティさんに別れを告げラトリクスに向かい始める。
今後の構想を組み立てながら、さて如何するかと頭を捻った。
その為に、クノンが浮かべていた悲痛そうな顔には気付かなかった。
◇
「あの娘、だったのね……」
椅子に深く寄りかかり、アルディラは何処か果敢なげに呟きを漏らす。
此処は中央管理施設のメインルーム。広く設けられた室内は薄緑で彩られておりクリーンな雰囲気を形成している。複雑な機械が所々に置かれているが、それも乱雑という訳ではない。きちんと整頓されている。この部屋の主の清潔さをそのまま示し上げていた。
ラトリクスの敷地内で一段と高くそびえ立つこの鋼鉄の塔は、その名の冠する通りにこの集落においての稼動状況を管理する機能を有している。中央スクリーンに映し出される映像や情報を元に点検、作業機械の不備はないかどうかモニターするなど用途は様々。機械の修理修復も此処で担われており、ラトリクスの中枢といえた。
腹の位置に両指を組んで、黙考。
視線は床に固定し、だが何も見ることなくアルディラは先程の出来事を思い出す。
きっかけは偶然だった。アティの手から離れ使用された「剣」、ウィルが行使したという件で如何にも腑に落ちない点があり、それについて検証しようと少年の元へ向かったのだ。
『計画』も最終フェイズを迎えつつある。僅かな懸念事項も取り除いておきたかった。最初はクノンに頼もうと思ったのだが、最近の彼女の態度を顧みて躊躇ってしまい、結局自分の足を運ぶことにした。
その途次において集いの泉へ向かうキュウマの姿を発見し、その真剣な顔つきから何かあったのかと察して、自らも気付かれないように集いの泉へと向かい身を隠した。そして、知ってしまった。少女の隠し続けた真実を。
「……そうね。確かにファルゼンがあの娘だったという要素は散りばめられていた。振るっていた剣術なんてそのままだわ」
それに気付かないとわね、とアルディラは自嘲にも見える苦笑を浮かべる。
集いの泉での会話を盗み聞きした後、アルディラは逃げるようにしてその場から立ち去った。暫らく何も考えられず、本来の目的を思い出したのは此処に戻ってきた後のこと。ファルゼン、いやファリエルに遭遇するのを恐れ、結局クノンに頼み込んでウィルを迎えに行ってもらった。
「どう向かい合えばいいのかしらね……」
首を傾け天井を見上げなら一つの疑問を零す。
本来ならば、思う所があっただろうが普通に向きあえた筈だ。言いたいことをそのまま伝え、そして素直に少女がこの世界に留まっていたことを喜べた筈。
「無理、ね。今ではもう、何もかも手遅れ……」
それはもう叶わない。何事にも変えられない『計画』が故に、少女と手を取り合うことはない。
あちらもそう思っているのだろう。ヤッファ達のように立会いを許されていなかったのが何よりの証拠だ。
「…………何で」
こうな事になったのだろう。そう続けようとして、アルディラは口を噤む。
そのような問い、愚かにも程がある。口にすることは許されない。
自分自身が決断したことだ。それを今更、如何して穿り返す必要がある?
後悔はないのだ、ないのだろう? 躊躇も捨て去ったのではなかったのか?
もう既に自分はそれを行動で示したのだ。他者を利用し、己以外の個人を犯そうとしているのだ。多くのモノを巻き込もうとしているのだ。
そう、後悔はない。踏み切った。自身の願望だけを成就することだけを考え踏み切ったのだ。後悔など、していない。
…………いや、後戻りなど、出来ない。
「!」
一つの電子音が鳴った。それと共に、中央スクリーンがこの建物に何者かが入ってきたのを知らせてくる。
思考の渦から意識を引き上げる。モニターの表示は、見る間でもなくクノンとウィルだろう。
一体どれだけの時間を深思していたのだろうか。クノンが出て行った後から今まで考え込んでいたいう事実にアルディラは溜息を吐く。ここで参ってどうすると胸へ投げ掛け、姿勢を正して客人を待った。
程なくして、クノンとウィルが入室してきた。
「おはよう、アルディラ」
「ええ、おはよう、ウィル。悪いわね、呼び出しちゃって」
「気にすんな」
「……ふふっ、そうさせて貰うわ」
先程まで気疲れからこの後の受け答えを考えると滅入っていたのだが、今ウィルと挨拶を交わしたらそれも幾分か和らいだ。
顔色一つ変えずにずけずけと発言するその姿を見ると、何故か面白く感じる。無遠慮というか、そういう気質なのか、ウィルを前にすると相対する此方の気が楽になるのだ。気遣い無用、力を抜け、そう言って貰えているようで心持ちが柔らかくなる。
この力の抜け具合は長所なのかしらね、と思いながら、アルディラは自然笑みを浮かべた。
「……………………私は、これで」
「あっ、ええ。あ、ありがとう、クノン。助かったわ」
「…………失礼します」
クノンの投げ掛けられた声に、詰まりながら返答する。
すぐに空気の抜ける音と共に扉がスライドし、クノンは通路の奥へ消えていった。
今まで側に居てくれた少女との距離感、それを明確に感じる。何も言わない背中に対し、アルディラは眉根を寄せた。
「……クノン、何かあったの?」
「い、いえ。……特に、何も。今まで通りよ」
言葉を濁し、問答を避ける。
事実、思い返しても問題らしい問題はないのだ。言及されても答える術がない。
椅子を勧め着席させる。
向き合った体勢で、さてどう切り出すかとアルディラは考えていると、
「ヴァルゼルドはもう平気?」
「えっ? ああ、あの機械兵士ならもう大丈夫よ。行動不能に成りはしたみたいだけど大袈裟な損傷じゃないわ。修理は終わってる」
先にウィルが口を開いた。
返答し、今頃バッテリーでも補給しているじゃないかしら、と付け加える。
どうもと頭を下げられ、気にしないで頂戴と苦笑した。頭にとまっているテコが舌打ちらしい素振りをしたのが気になった。
「ところでアルディラ、実は頼みたいことが……」
「何かしら?」
引き続きウィルのターン。
用あったの私よね?と自問しながら取り合えず続きを促す。
「あのポンコツに今から言う装備みたいなの作ってくんない?」
「…………それ、明らかに私の専門外なんだけど?」
建物や船などといった比較的簡単な図面作成ならいざ知らず、詳しい知識もない複雑な兵器を作り出すというのは流石に無理がある。
それも機械兵士に見合った物となると、それ専用の武器を開発するということと同義だ。武器の知識があろうが一から設計しなければならない。今まで行ってきた作業とは勝手が違い過ぎる。
「いや、僕の知ってるアルディラは喜んで機械を弄りくりだすメカニック・マンだ。問題ない」
「……貴方が私のことをどう思ってるのか、小一時間問いただす必要があるようね」
「ごめん、メカニック・ウーマンだった」
「そこじゃないわ」
訂正箇所が違うと突っ込みを入れる。
だが、結局あれよあれよと言い包められ約束を取り付けられてしまった。
クノンの事で悩んでいるのではないかと引き合いに出されたのが痛かった。自分では解決出来そうもないのは事実なので、ウィルの協力を交換条件として成立する羽目となったのだ。
ちなみに当の本人は後に「女性を取引の材料にしてるよ俺……」と勝手に凹みだした。引いた。
しょうがないので、上手く誘導されていると自覚しながらもウィルの要望に応えることにした。
上手くいくか分からないわよ、と存外に期待するなと前置きをしたのだが、「平気平気」と返された。何が平気なのかよく分からない。
「で、もういいかしら? 私の用件を済ませても?」
「おうよ。バッチこい」
「以前、竜骨の断層であったことを教えてくれないかしら?」
一先ず、帝国軍の指揮官が言っていたことを尋ねる。
今の段階で「剣」に執着していると万に一つも悟られない為に前座をおいた。それに、これについて疑問に思ったのも事実だ。
「…………ア、アルディラッ。……ぃ、胃薬ない? いや、マジで…っ」
「…………」
なんでやねん。
腹を折って呻き出したウィルにアルディラは素直に突っ込む。
誤魔化そうとしているのかと疑ったが、演技には見えない。素で悶えているように見えた。
残念ながら胃薬は此処に置いてはいないと告げた。生憎此処はリペアセンターではない。処方の術は皆無だ。
「ゴメン、この体勢で許して……」と後頭部を曝け出しながらそう宣う少年。どっと疲労感がアルディラを襲う。何かどうでもよくなってきた。
「……で、何があったの?」
「…………うん、あのさ、ドリトルをさ、召喚してさ、放ったまではよかったんだけどさ、見事に外れて岩盤に突き刺さっちゃってさ、崩落しちゃったのよこれが」
「…………それで?」
「帝国軍がそれに一杯巻き込まれちゃってさ、逆ギレしたあの女に半殺しにされた……」
「………………」
何だソレ。
聞いててこっちが鬱になるような喜劇など聞きたくなかった。
今も小刻みに震えている身体が、全て少年の恐怖体験だったという事実を告げてくる。疑う余地がない。
それに思い出してみれば「ああアレか」という覚えが確かに存在する。確かに血塗れになっていたわね、とあの時に目へ飛び込んできた光景をアルディラは頭に浮かべた。
それじゃあ、なにか? あの帝国軍の女傑は逆恨みであそこまで禍々しいオーラを放っていたということか?
何だソレ。
話にならない。あの女傑、カルシウム摂取出来ているのだろうか。
「そういえばサバイバル中だったのよね」とアルディラは孤立状態にある帝国軍を思い返し、今度遭遇した際にはサプリメントでもくれてやろうと決める。度々あんな力場形成されても迷惑だ。
「……ごめんなさい。傷口を抉るような真似をして」
「……ううん、いいんよ。ウチ、まだ頑張っていけるんやから…」
「くっ…!」
泣けるっ、とアルディラは目頭を抑える。
少年のひた向きさが目に染みた。
もし、この場に先生か看護士のどちらかが居たら、彼女への毒の感染は防げたかもしれない。
「まだあるんだけど、それもいいかしら?」
「どぞどぞ」
仕切り直し、本来の目的の為に取り調べを進行させる。
ウィルも身体を起こし上げ復活を遂げている。今は椅子の上で向き合って、幾分か目線が高いアルディラがウィルを見下ろす形だった。
「昨日の『剣』を使った時のことを教えて欲しいの」
「何でまた?」
「えーっと、こう言っちゃうと変に思われちゃうかもしれないけど……知的好奇心からなのよ」
申し訳なさそうに苦笑を浮かべながらそう伝える。
ウィルは大した疑問も浮かべず、その時の状況を語ってくれた。
勿論、真意は違う。
昨夜、ウィルの「剣」の使用が『計画』に支障がないか過去のデータを洗い浚い点検していた時のことだ。島の付近、又は遠地で発生した嵐――魔力封域の観測記録の資料が目に入り、そこに記録されている魔力封域の規模を見て思わずアルディラは眉を顰めた。それらと比べてみてウィルの巻きこした嵐の範囲が明らかに小さかったのだ。
ウィルの負った傷が全て治ったのは、「剣」の中で何らかのトラブルが発生し共界線(クリプス)が開き、そこから供給された魔力が原因だとアルディラは思っている。通常、適格者以外の人間が「剣」を抜いても共界線は開かない。魔力封域が発動して弾き飛ばされるだけだ。
故に、事故。島の内部の行使により「剣」とその源である核識が同調してしまったのではないか。最もらしい理由を浮かべ、たまたま偶然が重なったのだろうと、アルディラはデータを見るまでそう結論していた。
だが、トラブルで起きたとしても、共界線はあの時確かに開いていた。島の付近で発生した物や遠地で発生した魔力封域は、共界線が閉じた状態で発動した物の筈。それなのに、暴発として巻き起こった昨日の嵐が規模で劣っているというのはおかしいのだ。
明らかに矛盾している。アルディラはすぐに自分が出していた結論を否定した。
(考えられる理由は……ウィルも、アティと同じ適格者だということ)
目の前の少年の話に相槌を打ちながら、アルディラは平行して思考を進める。
既に「剣」の担い手として登録されているアティがいる為に、資格を持ちながら抜剣が適わなかった。資格を持ち得ない者を弾き飛ばす魔力封域も、その場合だと対応に窮するだろう。不完全、という形で嵐が発生したのではないだろうか。もしかしたら傷の治癒もそれに伴った事象なのかもしれない。
ケースがケースだ。前例がないだけに、こればかりは予想の域は出なかった。
「……ってな感じかな。先生の言ってた声みたいのは聞こえなかった」
「なるほど、ね」
発言としては不自然な点は見られない。
適格者としての可能性が窺えなければ、適格者ではない証拠も見当たらない。可もなければ不可もない説明だった。
判断する側としては困る応答だ。
(……でも、少し完璧過ぎない?)
不自然な点もないが、隙もない。
此方の突っ込むことを良しとしないような“無難過ぎる”回答に、アルディラは胸の内でウィルの疑惑を深める。
質問する内容が解っていたのではないかと思わせる対応。そのようなこと有り得る筈ないのだが、用意していた答えを差し出してきた錯覚を受ける。
実はアルディラは、ウィルが適格者であるという可能性の他にも、この少年が「剣」を操作していたのではないかという予測も打ち出していた。これも普通に考えれば有り得ないことなのだが、しかしそう仮定する理由があった。
昨日の魔力封域の規模を含めた数値を集計してみると、規模が狭まっている代わりに密度――威力が高まっていたのだ。他の魔力封域発生とのデータと並べても、比にならない高出力だった。
前者が拡散型とすれば、後者は集束型とでも言えばいいのか。まるであの召喚術の一斉射撃を防ぐ為だけに行使されたような嵐の痕跡。余りにも、都合が良過ぎるのではないか。
(といっても、直接聞いてみても否定するだろうに決まってるしね。そもそも、根拠がないわ)
目の前の少年には怪しそうな箇所はある。だがそれも、怪しそう、であって、完璧な疑念に成長することはない。
何かを隠しているという直感はあるのだが、目の前の少年は尻尾を掴ませてはくれない。
歯痒いわね、とアルディラが心の中で呟く。だが、その言葉とは裏腹にアルディラは笑みを浮かべていた。
元来の性格か、こういったやり取りは嫌いではなかった。
「ありがとう。中々興味深かったわ」
「それは良かった」
「で、物のついでなんだけど、もう一つ聞いていいかしら?」
「……まだあんの?」
「あからさまに嫌そうな顔しないでよ……」
ええー、とげんなりした顔を見せるウィルに苦笑。
しかしこれすらも化かし合いかと思うと、中々如何して面白いと感じる自分がいる。
『計画』の為にも真剣になってイレギュラー要素は摘み取っておかなくてはいけないが、病み付きになりそうだと楽しんでいる自分が確かにいた。アルディラは笑みを深める。
「貴方が行使する召喚術、あの執行速度について教えてくれない?」
少し攻める矛先を変えてみた。
目先の出来事に捕らわれていたが、ウィルが扱う召喚術も十分異質だ。
あれをどういった過程で手に入れたのか興味は尽きない。もしかしたら、それから「剣」の糸口が見つかるかもしれない。
「ちっちゃな頃から馬鹿のように召喚術使ってたら自然に」
「嘘ね」
「ヘイ、ちょっとハエーYO!! もうちょっと信じようZE!?」
「信じられないもの」
有無を言わず両断。
誤魔化される訳にはいかない。
「そんなこと言ったら、召喚師は時間を掛ければ全員貴方のような真似事が出来ている筈だもの。今の貴方より、私の方が召喚術を行使してきた自信はある。でも、そんな兆候すら見えないわ」
「あれだよ、全属性をバランス良く使うことが……」
「それもないわ。異なる世界に門を繋げられる素質、属性が問われるだけで、基礎の術式は変わらないもの。秘伝などされている特別な体系がない限り、召喚術それ自体は万物不変よ」
「……むむっ」
眉を寄せ合わせ、渋い顔を作るウィルにアルディラは微笑。
さぁ手札を見せなさい? 喋るまで逃がすつもりはないと、アルディラは視線でその弁を叩き付けた。
「……何言ってんだコイツ、とか思うかもしれない話だけど、それでもいい?」
「ええ、構わないわ」
本当のこと話すまで言及止めないから、と胸の内で続ける。
これで少しは目の前の少年のことについても解るだろうと、上機嫌でほくそ笑んだ。
「…………僕さ、前世の記憶みたいのがあるんだ」
だがその発言に、舞い上がった感情は一瞬で身体の中から姿を消した。
「………………冗談、でしょ?」
自分のみしか残っていない室内で、アルディラは思考のループを繰り返す。
顔半分を片手で覆い、動くことのない焦点を床へ落としていた。
『記憶、っていうより情報? 技術や知識が頭の中にあってさ、それを召喚術でもなんでも活用しているんだ』
ウィルはそう言っていた。
前世の記憶、人格の継承はしておらず。知識だけを受け継いでいる、と。
眉唾物もいい所だ。これを聞いた者ならば誰一人として信じることはないだろう。
―――少年の前世なる人物に、心当たりがない者であるならば。
「……在り得ない」
口から漏れる音は、自らが打ち出した仮定を否定してくる。
だがそれは願望に過ぎないことはアルディラ自身解っていた。自分の根底に根付いている理性は、少なくとも仮定が事実と結びつく材料を認識している。可能性は十分に存在する、そう告げていた。
『俺はウィルの奴がハイネルの生まれ変わりなんじゃねえかと思ってるんだ』
自分が盗み聞いたその言葉。
何を馬鹿な、と嘲笑交じりに否定出来ていたその言葉が。
今は、否定する事が出来ない。
『ハイネルの魂の一部が転生の輪を通ることが出来たっていう考えもあるんじゃねえか』
この島の呪縛を考えれば、その推測はナンセンスだ。万が一にも在り得ない。
在り得ない、筈なのだ。
「…………でもっ」
そう仮定すれば、説明出来てしまう。
「剣」の奇妙な発動も、前世の記憶と情報が関与しているならば納得出来てしまう。
ウィルが無意識の内に仲間を守ろうと願ったならば、“あの人”の記憶と情報は力を貸して願いを叶えるのではないか。
容易に、想像出来る。むしろ確信すらある。
“あの人”は、喜んで手を差し伸べるだろう、と。
「…………ぁ、ぁ、あ、あ…っ」
血液の激流を制御出来ない。
喉から震えが止まることはない。
動悸が加速の一途をたどる。
自分の立っている足場が、瓦解していく。
『見ていてくれ、アルディラ』
あれは何時の記憶だったのか。
無邪気な笑顔を此方に向け、珍しい物を見つけた子供のように自分へ新しい発見を披露する、青年。
自分はその青年の姿に何時も苦笑を浮かべ、そして今度は何を見せてくれるのかと心を躍らせていた。
『共界線を通じてね、こんな術式を発見したんだ』
核識に成ることにいい顔は出来なかったが、嬉しそうに語るこの時間には文句も言えなかった。
見せてくれた物は召喚術式の簡略化。普段執行するよりも僅かに早く召喚獣を召喚してみせた。
『あははは……。余り変わらなかったね』
苦笑してみせる青年の顔を覚えている。
あどけないその笑顔を覚えている。差し伸べた手を掴むその暖かさを覚えている。
声を、匂いを、仕草を、癖を、温もりを、意志を、願いを、全て今でも覚えている。
ハイネル・コープスという人間を、今でも心へ刻み付けている。
「ああっ、あ、ぁ……」
少年の用いる術式の原型を知っている人物を自分は一人しか知らない。
何故気付かなかった。明白であったその事柄に、何故気付くことがなかった?
自分の記憶のものより更に洗練されていたから?
それとも、自分の選んだ選択の為に、気付こうとはしなかった?
「ぅ、ああ……っ!」
あの少年が、何気なく抜剣を阻止しているのは、あの人の、意志の現れではないのか?
犠牲を良しとしない、彼の意志だからではないか?
「あっ、あぁあぁぁあっ、ぁぁ……っ」
彼の願いは何だった?
彼が望んでいたモノはなんだった?
彼の願いに、望みに、愛した全てのモノに、自分は―――
「ます、た、ぁ……っ!!」
―――背を向けて、裏切っているのではないか?
【もうすぐだ、アルディラ。もうすぐ、会える】
「…………はい、マスター」
瞳から感情は消え失せ、虚ろなる光だけがそこに残る。
深遠の淵より狂気が出で立つ。
闇が蠢いていた。
アルディラ
クラス 機界の護人 〈武器〉 突×杖 〈防具〉 ローブ
Lv15 HP109 MP174 AT52 DF56 MAT99 MDF74 TEC61 LUC35 MOV3 ↑2 ↓2 召喚数2
機B 特殊能力 ユニット召喚
武器:スターロッド AT35 MAT15 LUC5
防具:あやかしのローブ DF22 MDF28
アクセサリ:電気モーター 耐機 MAT+10
9話前のアルディラのパラメーター。
威力特化の召喚師タイプ。MATが洒落になんない程ぶっちぎっている。小狸のせいで知れ渡ってはいないが十八番はドリトル。何でも粉砕します。召喚術の属性もあり、役割としてはアタッカーのそれ。
最強コンボは看護婦さんとの機神ゼルガノン。ヴァルハラも捨てがたいが、しかしそこはやっぱりゼルガノン。合体合体!!
「神剣イクセリオン」の全部吹っ飛ばす光は赤狸のトラウマとなっている。本人曰く、「みんな弾けた」らしい。
子狸が先を思うに当たって今一番気にしている人物であり、一番心配している人でもある。ちなみに心配の半分は核識関係のことであり、もう半分はメカ関係。賽は既に投げられている。
護人の中で一番の苦労人。鎧はだんまりだし、とっつあんはヤル気ないし、忍者はうんこだし。特に最近の忍者の奇行に対してぶち切れそうな衝動を抱えてる。抑え込むのには大変労力を必要とするとか。ていうか、糞まみれで酒溺れて「忍ぶ」とか訳解んないことほざき出す始末に、アイツ本当は忍者じゃないだろうと思い始めている。容赦という感情がなくなってきていた。誰の影響、とは言わない。
W―ウィルスの感染が急激に広がりつつあるご婦人。キャラ崩壊率が着実に進みつつある。
果たして彼女に未来はあるのか。
ちなみに幸運値はウィルに次いで低かったりする。
ファルゼン(ファリエル)
クラス 霊界の護人 〈武器〉 縦×大剣 〈防具〉 重装
Lv15 HP161 MP93 AT100 DF82 MAT58 MDF51 TEC64 LUC50 MOV3 ↑2 ↓2 召喚数1
霊C 特殊能力 ユニット召喚 全憑依無効 ド根性 眼力
武器:魔光の宝剣 AT70 MAT10 LUC5
防具:キュアノスペイン DF35
アクセサリ:魔石のピアス AT+5 MDF+5
9話前のファルゼンのパラメーター。
突撃前衛。典型的な壁ユニットであり、模範的な対召喚術凄弱ユニット。これほど強弱が対になってはっきりしているのも珍しいと思われる。そんなゴツイ鎧君の正体は幽霊少女。珍ユニット大賞受賞者は間違いなく彼女であろう。人間時で剣を振るう姿をぜひ見たかった。
というか鎧を抜けばMDFが上がるような気がするのは間違っているのか。「浮遊」の特殊能力も備わって犬天使並みの上下段移動能力が手に入るのも気のせいなのか。ずっとそっちの方が強いような気がするのは気のせいだというのか。
何気に回復も出来たり僕(ユニット召喚)も引き連れられたりでいい仕事が出来る。誓約の儀式が使えるのも大きい。全憑依無効によりステータス強化出来ない点以外は短所は見られない。いや、MDF低かった。ポンコツに次いで低い。彼女もまた狸には注意を払う必要がある。
設定では魔力が尽きると命の危険らしい。しかし裏を返すと魔力が尽きない限りどんなダメージにも屈しない。すぐ直る。最強か。
武器及びアクセサリはウィルから貰った物。金は請求されていない。誰かとの扱いと比べて天と地と程の差がある。本人はプレゼントされたことに相当喜んでいるらしい。
ちなみに、舞い上がった際の幽霊さんは「霊界の白いヤツ」と帝国軍に二つ名をつけられる程恐れられている。帝国軍兵士撃墜数はぶっちぎりのトップ。大剣が振るわれる度に人間が軽く吹き飛んでいく光景は戦意を失わせるには十分だった。畏怖の的である。
「赤い覚醒(抜剣のこと)」とのコンビは最強タッグだと信じられている。結成されれば、女傑を残してでも撤退しようと兵士の間では暗黙の了解がされているらしい。然もあらん。
本編とは直接関係ないが、補完の意味合いを兼ねて「レックス」の歩んだ軌跡を公開。
今回は5話。
イスラ、記憶を失ってどーたらな計画を実行しようと浜辺へ向かう。道中、昨夜島脱出しようとした輩に嵐をお見舞いしたことに思い出してほくそ笑み、馬鹿な奴だと嘲笑してやった。島に辿り着き結界を解除した矢先にまた発動させるなんて思いもよらなかったと若干冷や汗もかきながら。
現地に到着。生来の貧弱ぶりを発揮しようとスタンバる。が、自分より先にボロクソになって浜辺で倒れ伏していたレックスに「!!?!?」と目を剥いて混乱の極致に陥る。何事か!? と派手に取り乱し硬直。ゴミクズもとい屍と化した赤いのと、それを凝視し時を止めるモミアゲという図で膠着。
長い時間その状況が続いたが、赤いのが身じろぎしたことでその場の時が動き出す。はっ、と我に帰るイスラ。もう何時覚醒してもおかしくないレックスを前にして決断を迫られる。撤退か、駐留か。予想だにしない事態に取り乱しているイスラは冷静な判断を失い、その場に倒れ伏すのを選択。計画の進行を優先した。浜辺で仲良く転がる赤いのと黒いの。馬鹿だった。
入れ替わるようにレックス復活。暫く放心していたが、脱出失敗という事実に「なんでじゃああああああああああああっ!!??」と超咆哮。横目でその様子を伺っていたイスラは、お前がなんなんだよ…、と素直な感想を持つ。四つんばいになり砂浜へ拳を叩きつけていたレックスだったが、程なくして立ち上がる。普通にイスラに気付かずそのままどっかへ去る。「オィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」とモミアゲは心の中で盛大に突っ込みを放った。
結局、イスラの二時間の粘りもあり、釣りに戻ってきたレックスに今度こそ回収される。だが鬱が入っているレックスはイスラの片足のみを持ってリペアセンターまで輸送。女性かと思って神速の対応をしようとした反動もあるらしい。「マジこういうモヤシが一番許せない」とかほざいてズルズル引き摺っていった。ここにイスラとの対立を決定的なものにした。
イスラ届けたついでにアルディラの元へ向かう。自分が脱出を図ろうとしたことを曖(おくび)にも出さず、昨夜嵐みたいのあったけどアレなんなの? と尋ねると、島に近付く者を吹っ飛ばす結解が作動したのだろう、と返される。牢獄かよ糞がッ!? とか普通に思ったがそれも曖にも出さず血の涙を流すレックス。それにビビるアルディラ。
後に注射を施そうとするクノンとデッドレースを演じた。ちなみに勝負の分れ目はワイヤードフィスト。
余談だが、嫌な予感が止まらない帝国軍の為にレックスはラトリクスの住人達で撃退出来ないのかと提案してみる。同胞達はそこまで戦闘能力は有していないと言うアルディラ。「なら合体してみては?」と申す赤いの。
はぁ?と最初は困惑していたアルディラだったが、何時の間にか誘導されて五体からなるDXラトリクスロボを完成させる。ちなみに頭部はゴレム。戦闘能力は余り期待できるものではなかったが、他集落の子供達に大好評でアルディラも満更でもなくなる。以後、メカ開発設計に超はまる。マッド誕生にはこういう背景があった。自分の首を自分で締めていたという話。喜劇。
ちなみに、姉さんの目標は機界の名匠ゼル作品シリーズを超えるスーパーロボを作ることらしい。
場面変わって、この頃島の住人達に構いっぱなしのレックスに対し不満を抱くアリーゼ嬢。自分のことを忘れているのではないかと不満半分不安半分で、自らレックスの自室へと授業の為に赴く。ノックして入ると、「グッドタイミンッ!」とサムズアップして清々しい笑顔を浮かべる仮教師の姿が。アリーゼ嬢、嬉しさの余りちょっと涙を流す。仮教師、こうなったらずっとアリーゼ嬢に付きっ切りで面倒事を回避すると胸に秘める。致命的な温度差があった。
先日にも増して凄いスパルタで進行していく授業。でも優しさを忘れないエセ教師。それを糧とする健気なお嬢様。アリーゼ嬢限界突破フラグが成立した。それから少しして、カイルがドア蹴破って乱入。「出てけ出て行きやがれっ!!」と用件も聞かずに退出を促す駄目教師。カイル、即座にコークスクリューを腹に叩き込み沈黙させる。アリーゼの涙混じりの視線に汗を流しながらも、鬼の御殿へレックスを運ぶ。
運び込まれ、ミスミ様に子供達の授業を引き受けてくれないかと頼まれるレックスだったが、身の保険を考えやんわり断る。残念そうなミスミ様に心痛んだが、これで変なイベントは起きるまいと息を吐いた。が、ダメだった。初頑固鉄拳パンチを顔面に貰い、そのまま教師とはなんたるかをゲンジさんに教わることに。何なんだよこのジジイ…、という顔をしているとカナディアンバックブリーカーを極められ腰を圧迫、瀕死に陥った。
拷問という名の教訓を受け、フラフラになりながらも島に駆り出されるレックス。「島の召喚獣達との交流の為にも先生が必要なのよ」とか笑顔でほざいたオカマに殺意が沸いた。扱いに容赦がなくなってきてると半泣きしながら子供達と遊んだり天使が勃発させた騒動に巻き込まれたりする。天使は後で湖に沈めた。
夜、アリーゼに学校を引き受けることになったと土下座しながら謝るレックス。痛めた腰に土下座はキツく、涙が流れる。例によって勘違いしたアリーゼは強く怒れず、自分を優先して欲しいと少し我侭が入った約束を交わすことで学校を許可した。我侭言ってくれれば引き受けずに済んだのに、と考えた輩がいたとかいなかったとか。
翌日。学校が開校。勿論大混乱。収拾がつかなくなる。アリーゼの「嘘吐き」のコメントを添えた涙目の睨みにレックス吐血。女の子泣かせたという事実に機能停止に陥る。
次にレックスの目が覚めた時は、現在進行形で空を飛来している最中だった。アリーゼを救う為に、レックスを引き摺ってきたカイルがジャイアントスイングからの投げを決行していたのだ。目をひん剥くレックス。次の瞬間、墜落。ワカメをすっ飛ばし岩盤に頭が突き刺さった。
そして崩落。レックス登場4秒後に竜骨の断層は崩壊した。
もはや気力でアリーゼ抱き寄せて崩落から彼女を救うレックス。一緒に埋もれるが、抜剣。碧の輝きを放ちながら岩盤を一気に退けて生還。少女を抱きながら不死鳥の如く佇むレックスに、抱かれているアリーゼは言うまでもなくソノラも素で惚れる。「大丈夫かアリーゼ?」みたいな微笑あり涙ありのお約束会話を交わした後、取り合えずカイルの息の根を止めた。
しぶといながら生き残っていた帝国軍と戦闘。顔を真っ赤にしたアズリア(「剣」のことで怒りつつも不死鳥レックスの姿に惚けている状態)が脇目も振らずレックスに突貫。「う゛ぞ゛ッッ!!!?」と叫び声を上げる白いの。抜剣してるのに押されまくる。胃が半端ない状況になっていた。
放たれる紫電絶華で終わると思われたその時、スーパーアリーゼの召喚術が炸裂。吹き飛ぶアズリア。アリーゼかっけえ、と見惚れる馬鹿。アリーゼとアズリアが火花を散らして睨み合いを続けていたが、とうとう帝国軍の最後の砦ギャレオが陥落する。アズリアに指揮を捨てられボロクソの部隊を立て直した彼はよくやったと言えた。
戦闘不能に陥り帝国軍は撤退。アズリアの捨て台詞に心底怯えながらも帰路につくレックス。そこでアリーゼと仲直りする。ああマジ良かったと一安堵。カイルの髪を片手で引っ張りながら船へと戻った。
夜会話はアリーゼ。学校と自分の授業を両立すると約束することで今度こそ認可。アリーゼは命懸けで助けてくれたレックスに揺ぎ無い信頼と恋心を寄せ、赤いのはアズリアという脅威から救ってくれたアリーゼに絶大なる感謝を抱く。何だかんだで絆が深まった。
アリーゼと別れた後、島の脱出に希望を繋げるレックスはみなが寝静まった機にゴムボートの回収に向かう。暫らく散策してゴムボートを発見。安堵して、しかしそこでファリエルイベント。ゴムボートを腕に抱いた体勢を幽霊に目撃された。
マズイ、どうにか誤魔化さなくては、と脂汗をダラダラと流しまくり危機打開の一手を模索。が、何も思いつかない。この状況でどう言い訳並べばええねん、と自分で突っ込み、もはやヤケになる。「ああ貴方様は誰でしょうか可憐で麗しく可愛いらしいお嬢様ぜひ名前を聞かせても貰ってもよろしいでございましょうか」とかイカれたトークでファリエルに畳み掛ける。こういうのに滅法弱いファリエルは混乱し、結局誤魔化された。ちなみにファリエルフラグが立った。
ファルゼンという正体に驚きつつも親しくなる。ゴムボートは森の中に隠しレックスは帰宅した。取り合えず、次の日にメイメイさんの所で胃薬買いにいこうと強く決意する。蛇足だが、この先のレックスの買い物のその8割が胃薬に割り当てられている。