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No.39058の一覧
[0] 相克する狭間で【艦隊これくしょん・TS憑依】[甲板ニーソ](2014/01/02 03:27)
[1] 第二話 穢れきった軌跡[甲板ニーソ](2013/12/21 00:24)
[2] 第三話 愚者の祭典[甲板ニーソ](2014/02/01 18:52)
[3] 第四話 上 望まぬ門出に[甲板ニーソ](2014/02/01 18:52)
[4] 第四話 中 望まぬ門出に[甲板ニーソ](2014/02/01 18:22)
[5] 第四話 下 望まぬ門出に [甲板ニーソ](2014/02/20 23:38)
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[39058] 相克する狭間で【艦隊これくしょん・TS憑依】
Name: 甲板ニーソ◆7544714f ID:6bf00c98 次を表示する
Date: 2014/01/02 03:27
『軽い前書き』
・独自設定ありの割りとシリアスでちょっとグロい艦隊これくしょんの二次創作です以上

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

艦隊これくしょん 『相克する狭間で』 第一話 不尽の理不尽

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

辺りは暗く、視界は暗く染まっていた。
―――気が付けばそこにいたというのが正直な話、まるで予兆のない突拍子さに夢の中の癖に夢だと思ってしまい思わず笑いが溢れる。

「くくっ、それもその筈だよな……俺は家の布団で寝てたんだ。起床したらそこは見知らぬ場所でしたってどんな厄介事だよ」

さもなきゃファンタジーだなっと、もの寂しさを誤魔化すよう独り言ちる。これがもしも現実なら誘拐の線が一番濃厚ではあるが、どうやらその可能性は限りなく低そうだ。
なんたって今の自分はどうやら水面に足を乗っけたまま沈むことなく浮かんでいるようなのだから……

幾ら闇に覆われてようと人には視覚だけではなく触覚や聴覚嗅覚味覚の五感があり目線定まらず、足下から定期的に押し上げられる感触に潮臭い香りが鼻をくすぐれば想像も付く。
予想を裏付けるように腰を曲げ、手を伸ばせば

「うわっ!?しょっぱ!塩水ってことは海かよここ……というかさっきから風が頬を凪ぐ度に掠めたりする物体はなんなんだこれ?」

何度手で払っても振り払うことができず。付き纏ってくるさながらストーカのしつこさにいい加減痺れを切らし力強く引っ張ると瞬間予期せぬ痛みが頭部を襲い呻くような悲鳴があがった。

「ぐぅっ!?痛いなっ!これ……しかし痛覚があるってことは体の一部なのか?」

夢なのに何故痛みがあるのか疑問は尽きなかったが、それより改めて触り元を辿ってみれば頭部まで続くこのモノが髪であることの方に驚きを隠せない。生まれてから二十余年髪を伸ばした記憶なぞ一度もないのだ。髪とは一朝一夕に伸びるものではなく女の命とも例えられるそれを……長髪とも呼べないむしろ短髪ですらある自分が膝にまで触れそうな域に達するご立派なそれに目が覚めれば早変わりなどと時の流れに喧嘩を売ってるとしか思えなかったからである。

そうして疑問が1つ湧き出れば途端に様々なことが気になり出す。変化が髪だけではないかと視界が効かぬ中、体のあちこちを触診によって調べ回るとまずは胸部に女性が弓道で身に付ける革製の胸当てらしきものをしているのが判明した……さてここで問題になるが胸当てを身に着けるのはどういった理由だろうか?答えは単純……女性は付けなければ一連の動作で痛い目に合わざるを得ないからだ。無論男性がする場合もあるが大多数は女性向け、この場合は頭が痛いことに後者でしかなかった。

「お、おおおぅ……お、おおおぉ…………」

感嘆とも困惑ともつかない或いは入り混じった声を尻目に胸部を押せば確かな弾力が帰ってくる。皮と衣服に阻まれていようとも隠せないゴム鞠のような胸がそこにはあった。
弄っている感覚と弄られている感覚、はたから見れば真面目な顔して一人遊びしているように見えたかもしれない。
赤っ恥必死な行動を脳裏から打ち消し、自身はおろか他人ですら見えない状況に感謝しつつ、1つはっきりと結論付ける。
どんなに五感や痛みが感じられようともきっと錯覚でしかないと……男が女に急になれるか?No!髪が急に伸びるか?No!!人は水面に立ち続けることが出来るか?No!!!どれもアニメや小説の中だけで起きる出来事だ。
どれも荒唐無稽極まりない、宇宙開闢までとは法螺が過ぎるかもしれんが、少なくとも人類有史以来地球は物理法則が支配する世界だったのだ。
昨日の今日でいきなり覆るわけもない。
よってこれは夢、夢でしか無い……後は覚めるのを待つのみ。

「はぁ……しかし女体化願望があったとは驚きを禁じ得ないな」

夢は人を映す鏡ともいう。男であることに不満を抱いたことなどないし、あったとしても一笑に付すレベルの瑣末なもの。他人は兎も角自分が女装するなぞ気持ち悪いとしか感じていなかったのに、この内容……心の何処か深層意識の隅にでも質の悪いのが隠れていたのだろうか?出来れば一生隠れていて欲しかったものだと思考が負のスパイラルに陥りかけていたところ、外部からの接触で意識が浮上する。

足元に硬い何かが波間に揺られてコツンコツンとぶつかってきたのだ。

「ん~と、金属は金属だが船体か何かの一部?でもそれにしては……う~む」

船体の一部と思わしきモノはチーズの一種のように穴だらけで一部に至っては齧られたか喰いちぎられたとしか考えられない痕すらある。闇に目が慣れてきたのか目を凝らせば辺り一面に似たような断片が散乱しているが無傷なものなど1つもありはしない。

光注さぬ昏い海、得体の知れない残骸……随分と殺伐とした夢である。女体化願望だけでも頭が痛いのにこの追い打ち、本格的に精神を病んでしまっているのかと戦々恐々とする。
もし起きて覚えていたならば、休みをとってゆっくりしようと心に誓った。
大体この年頃の大学生なら爽快な戦闘系でロボットや魔法を駆使して縦横無尽に駆けまわり日頃の鬱憤を晴らすぐらいで丁度いいはず……実際俺だってこんなヤツよりそっちの方遥かに良かった。意識鮮明で五感の錯覚すらあるので二重にがっかりだ。

考えるのも嫌になって覚めるのを焦がれるように待つ、一向に覚める気配はない。
むしろ逆に冴えてきてる感すらある。変化を待つことしばし遠方で断続して光が付いたり消えたりしているのに気付いた。飽き飽きしていた自分は誘蛾灯に群がる虫のように近づいて行く……それがどんなに危険な行為かも露知らずに。

光ってから少し経つと決まって大気を震わせるとすら感じさせる轟音が鳴り響く、近づけば近づく程に感覚は狭まり数秒にまで縮まった。

「そうだよっ!こう云うのを求めてたんだよ。やっぱり願ってみるもんだな、夢だから意志が反映される。くぅ~燃えるねぇ」

張りぼてや作り物の子供騙しでは決して味わえない臨場感、遂には目視で船を捉えたその時、運悪く燃料庫にでも直撃したのか爆散し炎上する様は正に大迫力!バトル物のお約束が始まったのだろうか?女になってるのが不満ではあるが、砲声の音から察するに設定は魔法少女ならぬ魔砲少女に違いない。展開は悪に狙われ絶体絶命の人々を颯爽と表れ救うコッテコテの王道。

「だが……悪くない悪くないぞ。敵をバッタバッタと華麗に吹き飛ばし、歓声と供に気分よく起床させて頂きますかね」

高らかな宣言、高鳴る胸、意気高揚と進むものの、船々の惨状、襲っている敵の姿を薄っすらとでも捉えてしまえば……そんなものは打ち砕かれた。
何故なら、眼前に広がるは彼が描いたような楽観できる光景ではなく、紛れも無い想像すら及ばぬ地獄だったから。

船団は既に虫の息、船から這々の体で脱出艇を逃げ出した彼らを待っていたのは異形、そう異形としか言い様がない醜悪な怪物、生理的嫌悪を際限なく湧き上がらせる化け物による歓迎。楽しむように嬲る砲撃を加え、態と致命打を与えず追い回し、力尽きたところを機銃掃射で挽き肉に変える。

吐き気を覚えるには充分過ぎる光景……それすらもまだ運がいい犠牲者でしかない。
少なくとも死ぬ時は一瞬で死ねたのだ。運が悪い連中は直接喰い殺されていた。
海に投げ出された、飛び込んだ人間に人間の口を彷彿させる噛み付き、じっくりと咀嚼する。当然哀れな犠牲者はこの世のとは思えぬ絶叫をあげ、死力を尽くして抵抗するもものともせず、逆に開いている四肢に他の化け物が食付き、化け物が一つ一つ増える度にさらなる絶叫があがり、楽器にでも見立てているのか順番に咀嚼し合い、彼が奏でる音楽は長く長く続く、肉は裂け、骨は突き破り、臓器さえも外気に晒される。彼の苦しみは四方から全力で引っ張られ四等分に引き裂かれるまで続いた。

「いっ、幾らなんでもこりゃないだろ……やりすぎだ……」

言葉がないとはこのことだ。スプラッター映画好きも真っ青な惨劇、真性のサイコパスでもここまで真に迫った夢を見れるかどうか……いわんや人殺しをしたこともない、見たこともない自分がどうしてこんなものを想像できたのかまるで意味が分からない。
夢は自分の経験した記憶を元にあれこれとストーリを組み替えて作られる筈なのに……あんな化け物も死に様も知らない人間が作れる訳ないのだ本来は……

「なら……これは現実?いやそれこそあり得ない。だがこれが夢なら俺は狂人……なのか?」

どちらに転んでも今までの自分では居られない。得体の知れない恐怖を前に耳と目を塞ぎ呆然と立ち尽くす。ただひたすら夢ならすべて忘れて目を覚まさせてと譫言のように呟く、意志とは真逆に戦闘とも呼べない蹂躙は続いていた。段々と近付く音に肩を震わせる。

「すま…いっ!そこの艦…応答願う!!」

前方から途切れ途切れの声―――おっかなびっくり目を開けると表面が焼け焦げた痛々しい脱出艇が横合いに停泊してきた。乗組員の顔は血と硝煙に塗れて黒ずみ、口元は生気なく一様に青褪めている。全身も上2つに相応しい有り様だ。歳は自分と比べて一周り下に見える。高校生をやってるのが似合う外見なのに、軍服を纏っているのがどこかチグハグだった。

「救援の艦娘の方でしょうか?」

「おいっ!焦るのはわかるが。分を弁えろ!礼を逸するな」

「っ!?申し訳ありません!こちら横須賀方面軍第七輸送船団所属三船彰上等兵です。撤退に際してはこの船の指揮を臨時でとっています」

方面軍だのなんだの呪文みたいにまくし立て、俺を見た途端に地獄に仏とはこの事かとばかりに明るい顔になるわ。態度を窘めた老兵に至ってはこっちを英霊か何かを敬うレベル、一体全体何がどうなってるのかと疑念と不安に延々苛まれる。

「改めてお聞きしますが、何故貴方様は単艦で作戦行動中なのでしょうか?僚艦が見当たらないようですが……」

上等兵なんかが臨時とはいえどうして指揮を預かってるのか逆に質問しようとしたが、直ぐに止めた。今しがた目撃した悪夢を思い返せば答えは聞くまでもなく……それ以上の階級の軍人が軒並み戦死、もしくは負傷しているからだろう。

―――つくづく人を鬱にさせてくれる素晴らしい物語の運びだ……糞ったれ

「馬鹿野郎っ!それぐらい察しろ。真の空の護り手たる特有の飛行甲板を肩に艤装してる艦娘が護衛も伴わずに航行してるパターンなぞ一つしかないだろうが……艦載機すら尽き果ててるみたいだしな」

「そんな……では真逆我々だけではなく空母を擁する規模の艦隊が敗走したというのですか!?」

「考えたくはないが……だろうな。替えが効かない正規空母、容姿と艤装からお見受けするに翔鶴さん……いや微妙に違うな……翔鶴型の新造艦のこの御方だけはなんとか逃がそうとしたんだろうよ。で、俺たちと運悪く鉢合わせちまったのさ」

勝手に喋っては勝手に納得し口を挟む暇もない。人のことを翔鶴やら何やら呼ばわり、確か翔鶴ってのは第二次大戦時の日本海軍の船、空母が何かだったはず……実際空母だのなんだの決めつけてるからそうなのだろう。
胸に気を取られ、余りにも体に馴染んでいるが故に後回しにしてた肩についてる板はスノボーかとも思ったが発艦離着陸用の甲板だった模様、どうやって戦闘機を飛ばすのか欠片も想像がつかないが……というか聞き捨てならぬことを口端ってた気がする武装なしとか……

「なんてことだ……逃げた先が袋小路だったなんて。我々の命を賭してでも無事帰投させなければ!」

「あぁ言われるまでもねぇ……ここで自分の命を優先する臆病者なら後ろからの不幸な流れ弾による戦死を遂げて貰わなければならないところだったからな。意気地のある若造でホッとしたぜ」

「言い方は悪いですが、ぶっちゃけてしまうと我々が死んでも幾らでも替えはいますからね……でも彼女に替えはいない。もし万が一のことがあれば日本の防空圏に風穴が空いてしまいます」

「そうなれば悪夢再び、空襲の恐怖にまた怯える日々が始まる。市街地は焼かれ涙と悲鳴が木霊する」

「それだけは許せない。妹たちをそんな目に合わせるのだけは絶対に御免だ」

数秒前まで悄然としてた人間が瞳に強い意志を宿し、悲壮な決意を胸に立ち上がる姿に思わずたじろぐが、所詮作り物の舞台の登場人物と言い聞かせる

「周囲は見ての通りの地獄、頼りがいがあるとは口が裂けても言えませんが、エスコートをさせて貰えませんかね?なぁに弾除けぐらいにはなりますよ」

「あぁ…頼む」

だが喉から漏れでた声は裏腹に掠れた声でしかなかった

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

彼らと合流してからどれくらいの時が過ぎたろうか、数分だったような気がするし一時間はとうに経ってる気もする…唯一つたしかなのは代わり映えしない漆黒の海だけ。

緊張で頭がどうにかなりそうだ。後ろにアイツ等が居るんじゃないかと振り返りたくなる誘惑に駆られるが……振り向いてしまえば本当に出会ってしまうんじゃないかと考え結局は振り返れない。

「今のところ敵影は見当たりませんね。最もこんな視界不良じゃ碌な判断は下せませんが」

「だからって、サーチライトはつけられないだろ。ご丁寧に殺してくださいと首に看板を下げる気でもなければな」

肉壁は多少あるが、デコイの役割さえ満足にこなせないのではと、当てにはしていないのが正直なところ。
大体冗談も休み休みにして欲しい。武器があろうとあんな狂気そのものと言える怪物に立ち向かうのは心折れるのに、武器なしとか素手で殴り合えとでも言うのだろうか?まず接近する前に賭けてもいいが死ぬ、何度でも無慈悲に死ぬ。よしんば奇跡的に辿り着け一発お見舞い出来たとしてそれが精々、その後は嬲られて死ぬ。残機とかそういう問題じゃなくて無限にあっても無理、ゲームバランス崩壊、ゲームとして成り立たない難易度だ。

まるでクリアさせる気が感じらない開発者のオナニーのそれ。付き合う気にもなれない。
理不尽な悪夢はもう御免だ……早く誰か叩き起こしてくれ。

「このまま何事も無く帰投できればいいのですが……帰れたら家族だけじゃなく幼馴染とも会いたいですし、要らぬ欲が出てきてしまいました」

「不謹慎な話だが、船団の他の連中に夢中で見逃したなんて話もあり得るかもな。大分楽観だが」

順調にフラグを建てやがる……おいっ!やめろ!?語りに入った展開の時はほぼ間違いなく不吉を呼ぶと相場が決まってーーー寒気を感じ体を逸らした刹那、水面が爆ぜた。

「敵襲!?サーチライトをつけろっ!この至近弾だ。場所はもうバレてる敵の発見を急げ」

全身が見ずに濡れるのも構わず、目を凝らす。闇夜を光が裂き姿を露わにする

「魚雷攻撃と推定、方位北北東、およそ数二、両艦供に駆逐艦!詳細は不明」

瞳に映るは魚をこれでもかと不気味に歪めた人の口にも似た器官を持つ化け物、はっきりと捉えてしまい。あまりのおぞましさに吐き気を催す。

「方角からして鎮守府海域を彷徨う野良だ。ようやく逃げれたと思ったが、ついてない時はとことんついてないらしい」

「なぁ英霊さん、普段のお嬢さんならあんな敵なんてこたぁないだろうが、今はどうか逃げてくれないか?そりゃあ屈辱だろうが生きてこそ浮かぶ瀬がある。なぁ頼むよ」

「私からもお願いします。これは艦の総意です」

乗組員は一様に頷き声をあげる。訳がわからない……

「いいのか……?本当に?」

願ってもない話なのに何故か聞き返してしまう。進んで盾になると豪語するのに何を躊躇する。妙な罪悪感でも覚えているのだろうか?馬鹿馬鹿しい、一夜の存在に何を感情移入してるんだ。

格好つけにも程がある連中じゃないか、普通こんな碌な死に方しないと分かりきってる死地に潔く逝ける訳がない。狂ってる、そう人間味がない……なんだやっぱり夢じゃないか。

「―――では武運長久を」

そういって彼らは部下とともに突貫する。

「こっちだ!この化け物めぇぇぇっ!」

備え付けの軽機関銃が絶え間なく火を吹き、何発も敵に吸い込まれるも……直前不可視の何かに弾かれる。

「糞っ!砲も銃器も撃たずに接近してきやがって、舐めるのもいい加減にしろってんだ!!その汚ねぇ面をRPGで整形してやるぅぅぅ!!!」

過たず直撃、条理に従う船であれば航行不能にはならずとも、傷を負うはずの一撃。しかし爆炎を潜り抜けた化け物はまったくの無傷……何という不条理!!!

「一秒でもいいっ!長く時間をかせ……ぎゃぁぁぁぁっ!」

「あぅ……」

後方で響き渡る軍人の断末魔に足を縫い付けられそうになるが、もうこれ以上は耐え切れないと水面を駆ける。必死の抵抗は続いている……自分を逃がすためのそれが。


「俺のせい……俺のせいなのか!?」

最早夢か現かどうかの境は薄れ、あるのは肥大化した自己嫌悪と恐怖心。止めどなく溢れる涙で視界はぼやけ、体中から水分がなくなるのではと錯覚する程の汗が噴き出る。絶叫が終焉を迎え、一際大きな爆発をした時、真上を何かが通り過ぎた。

「ひっ!」

不運にも何か見えてしまった。悟ってしまえた……それは本来の体より一回り小さい、大人になりきれない少年の首。苦悶に満ち、限界を超えて発狂したのか頬の肉が裂けている。だがどんなに見るに耐えなくなっても三船彰と認識するには充分すぎた。

嘔吐が止まらない……胃液すら吐き出してる。立ち上る湯気と漂う刺激臭、股下から流れる生温い水分、つまりは失禁に気付くことすらない。心が壊れて人間ではなくなってしまっている。目の前が真っ暗になる、自我が保てない。そうしてテレビのスイッチが消されるように唐突に意識が途切れた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ねぇねぇ、知ってる昨日入院した艦娘の話?」

「何言ってるの当然でしょう。そのせいで私たち大わらわだったじゃない、アンタ健忘症にでもなったの?」

「むふふ、たぶん貴方が言ってる娘たちとは違うわよ?」

「はっ……?輸送船団を護衛してた駆逐艦たちが多数入院した話じゃなくて?」

「あっちは艦娘たちは幸い轟沈は免れたけど船団の方はほぼ壊滅、帰りを待ってる人たちに報告すること考えると嫌な気分になるよ」

「そうね……さっさと平和になってと毎朝思うわ、切に」

「右に同じ。でね、肝心の話だけど昨日その裏でとある一人の大物が内に搬送されたのよ」

「大物?重巡洋艦か何かかしら?」

「ううん、空母。しかも正規の」

「はぁ…またわかり易い嘘を。横須賀所属の正規空母、翔鶴さんに瑞鶴さんなら今朝ピンピンしてるのを見かけたわよ。なら呉や佐世保、舞鶴の加賀さん、赤城さん、飛龍さんに蒼龍さん誰なのかしらね?」

「その誰でもない娘みたい翔鶴型っぽかったけど」

「翔鶴型に三番艦なんて話ついぞ聞いたことないわよ。史実に存在しなかった艦なんて何処の国にも今のところ存在してないでしょ。あり得ないわ」

「それがあり得たから上が大騒ぎしてるの。私偶然みちゃったもん正規空母の特有の艤装をした艦娘が搬送されるの……遠目だったから最初は翔鶴さんかと思ったけど、翔鶴さんは健在だったし」

「悪いけど信じられないわ。仮定として三番艦が存在したとしても普通に考えて空母だけが入院するなんて事態考えられないもの。もしあり得たとしたら司令部はとんでもない無能揃いよ」

「それは流石に分かんないけど、入院したのは確かだもん。裏付けるように今朝の訓示である区画は許可されたもの以外立ち入り厳禁って口酸っぱくしてたし」

「あぁ~普段はあんなこといわないから気にはなっていけどそういうこと、アンタの話が全部本当かどうかは分からないけど大物が来たのは確かなようね」

「だよね~わかってくれた?」

「えぇ……でもふと思ったのだけどこれって軍機じゃないかしら?」

「てへぇ☆」

「てへぇ☆じゃないわよっ!なに巻き込んでんのよ!!」

「一人ぼっちは寂しいよね?」

「アンタって人はぁーーー!!!」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

白亜の一室にて眠る少女。
覚めぬ夢に囚われた彼、覚めぬ夢は現実。
相克する狭間で新たな世界が始まりを告げる。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇
















『あとがき』
大和欲しいです切実に……出来れば二艦(小声

今このあとがき振り返ると資材も資源もないんだよって言いたくなる今日この頃



『追記』
2013/12/15 投稿開始
2014/1/2 ハーメルン様にて同時投稿開始


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