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No.39035の一覧
[0] SNSで俺は神と崇められている[世葉零頭](2015/02/16 13:00)
[1] 第一章[世葉零頭](2015/02/16 12:49)
[3] 第二章 1[世葉零頭](2015/02/16 12:49)
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[39035] SNSで俺は神と崇められている
Name: 世葉零頭◆c3f4cfbe ID:f0b01ca2 次を表示する
Date: 2015/02/16 13:00
 今日も自分の部屋で、使い慣れたスマートフォンをいじっている。明日からは学校が始まり、また憂鬱な日々が始まってしまう。誰だって夏休みの最終日は、自分の生活圏で惜しみなく時間を過ごしたいものだ。スマートフォンに内蔵されている時計は二十時半を知らせている。そろそろ神田家では、いつもの呼び声が響いてくる時間だ。

 「晩ご飯よー、降りてきなさい」

 母さんの声が廊下と階段を経て、俺の部屋にも届いてきた。俺にとっては現実に引き戻される瞬間でもある。いつもこの声が聞こえる度に、充電プラグをスマートフォンに差し込み下の階へ向かう。食卓での家族との会話は皆無に等しいが、決して仲が悪いわけではない。俺が引っ込み思案なだけだ。一応毎日顔を合わせているから、俺への心配は特にないようにもうかがえる。      

 今日の食卓も、妹の里佳が機関銃のように小学校で起こった出来事を話していた。妹の話によれば、学校で理科の実験があったらしい。分銅をはかりに載せただけというのに、よくそこまで話を広げることができるなコイツは……。俺なら話すに値しないと判断するようなことだろう。
 夕飯を食べ終え無言で手を合わす。
 「直樹と里佳は明日から学校よね?」
 始業式前日であるからだろうか、珍しく母さんが話しかけてきた。直樹というのは俺の名前。神田直樹(かんだなおき)、それが親から授かった俺の本名である。妹が元気よく返事する横で、俺は静かに頷いた。
 「二人とも登校中に携帯ばかり見ているけど、事故には十分気を付けるのよ。最近よくニュースで取り上げられてるんだから、歩きケータイ」
 俺が使っているのはスマートフォンだ。携帯と呼ぶあたりが、古い大人だと感じてしまう。
 「里佳はともかく、直樹はもう高校生だぞ。それぐらい言われずとも分かっているだろ」
 母に対して親父が言った。親父の言うことは正論だ。まるで小学生を相手にするような母の言葉は、馬鹿にしているかのようだし。結局家族との会話はこれっきりで終わる。むしろ会話があっただけマシだったのかもしれない。俺は夕飯の後、冷蔵庫にあった飲み物を一つ手に取り、早々に自分の部屋へ戻った。充電していたスマートフォンを手にとり、やる事といえば一つ、俺はSNS(ソーシャルネットワークサービス)へログインする。

 情報化が激しくなってきた今、SNSはパソコン・携帯・スマートフォン等の情報端末があれば、誰でも使用できる手軽なコミュニケーションサービスとなった。この巨大かつ手軽な仮想世界では、顔を見ることの出来ない他人同士であっても、様々なジャンルで盛り上がることができる。つながりさえあれば、海外の人たちとも交流可能だ。まぁ英語が出来ない俺にとっては、そこまで関係のある話じゃないけど……。

 俺がよく利用しているSNSは、Enters(エンターズ)という日本国内でも利用者数ナンバー1のSNSだ。といっても、主な利用者は学生。大人達はあまりSNSを利用しないからな。インターネット社会への偏見もあるのだろうが、第一に多機能化したSNSを使いこなせないというのが大きな理由だ。利用者は自分のプロフィールページを作成し、好きなコミュニティに参加してEntersを楽しんでいる。

 自室でEntersを開くと、自分のプロフィールページに新規コメントが書かれていた。

 『$神の息吹$さま大変です!コミュニティの挨拶板に荒らしが出現しています!』

 $神の息吹$とは俺のEnters上でのニックネームだ。とんでもなく中二臭いニックネームだが、中二の頃に考えたものだから仕方がない。この書き込みによると、どうやら俺が管理をしているコミュニティに、荒らしと呼ばれる厄介な人物が来ているらしい。荒らしとはインターネット上において、他人を誹謗中傷する輩のことだ。俺は急いで荒らしが発生したというページを確認する。そこにはこう書かれていた。

 『おい!管理人出てこいよ!神様きどってんじゃねーよ!俺と喧嘩してどっちが強いか決めようじゃねーか!』

 ある程度予想はしていた。それは管理人である俺への決闘申し込みだった。SNSでは時折、有名になった人物に喧嘩を売って揚げ足を取ってやろうという人物や、そのような行為で売名行為を行う人物がいる。大体この手の書き込みは、学校でちょっと調子に乗っている小学生や中学生の場合が多い。俺は返事をすることなく、その決闘申し込みを消去した。
 「お前なんかにかまってやんないよー」
 こんなやつに時間を費やしていては大きなコミュニティで管理人を務めることはできない。俺が管理人をしているコミュニティは、この利用者数ナンバー1SNSの中でも最も大きいとされている。俺のコミュニティ参加者は90万人。Enters全体利用者が500万人であることから、俺のコミュニティがいかに巨大か分かる。コミュニティ名は『神聖帝国@GodBless』という。こちらもEnters登録と同時に始めたコミュニティなのだから、名前については仕方がない……。コミュニティ名は一度決めてしまえば変えられないシステムになっているのだ。

 ふと時計を見るともう午後10時になっていた。健全なる高校生はそろそろ寝る時間だが、有名管理人はまだ気を抜けない。
 「さてと、夜の密会に参加するか」
 夜の密会といってもただのコミュ二ティ間会議のことだ。この会議は有名コミュニティの管理人達が専用のコミュニティに集まり、お互いにコミュニティ管理についての話やコミュニティ宣伝依頼を行なったりしている。俺はこのEnters上での雑談を夜の密会と呼んでいるわけだ。コミュニティ名は『神の集い』とシンプルなもので、Entersの有名管理人10人ばかりで構成されている。俺はコミュニティ人数1位のコミュニティ管理人であるため、このコミュニティ内での位置づけは高い。俺は神の集いコミュニティページから掲示板内の書き込みを見たが、今日は誰も来ていないようだ。
 「誰もいない?とりあえず何か書き込んでくか」
 誰かが反応するかもしれないと淡い期待を抱きながら書き込みをしておく。
 『こんばんはー。今日は誰もいないのですか?』
 ひょんなことから会話に繋がることも多いのがSNSの特徴でもある。しかしこの日は誰も現れなかった。明日は始業式、管理人の皆が学生かは分からないが、今日は早めに寝たのかもしれない。リアクションがなく面白くなくなった俺は明日の準備を済ませ、寝床についた。

 始業式の朝、いつものように登校し始業式が始まるのを教室で待っていた。俺にはSNS上以外に友達と呼べる人物がいないため、学校に行くという行為は苦痛でしかたがない。学校に行っても終始Entersと授業で時間を潰している。それがまともな学生生活かと問われると違うのだろう。体育館に集められ始業式が始まる。俺にとってはこれといって特別なことはない。ただ校長の話を聞き流し、ふらふらと姿勢を変えながら暇な時間を過ごした。式は40分程で終わり、生徒全員がわらわらと細い体育館出口へ向かう。ほとんどの者が先程行われた校長の話を忘れているのだろう。

 「皆さんは常に前を見据え、はきはきとした学園生活を過ごすこと」

 これが校長の学生像に対する要望なのだろうか。目の前にいる生徒達は皆、長い始業式のおかげでくたくたになっている。残念ながら校長の希望する学生はこの学校にはいないようだ。

 教室に帰る途中、渡り廊下の向こう側に周りの皆が目を向けていた。
 「いつ見ても可愛いよな柚葉ちゃんは……」
 隣にいた男の群れから、一人がうっとりと呟いていた。

 坂下柚葉(さかもとゆずは)、それが彼女の名前だ。俺の学校でマドンナと呼ばれる人物。高校一年生の時に坂下さんとは同じクラスだったが、会話をした事は日直で一緒になった時ぐらいしかない。俺にとっては住んでいる世界が違う人間だ。某大手商社の社長令嬢であるが、仕草が上品すぎることもない。どんなトリートメントを使っているのだろう。艶のある黒い髪には、見とれる女子も多いとのことだ。性格面では可愛いアピールばかりするぶりっ子女子みたいなこともなく、それとは正反対に自分から行動を起こしていくタイプだと俺は思っている。それに加え真面目で素直な性格なのだ。まさに男心をぐっと掴む理想の女の子といっても過言ではないのだろう。SNSばかりやっている俺にとっては、話しかける権利すら無いとも思える。隣の男子勢は、まだ彼女に見とれながら話を続けていた。
 「あんな子と手を繋いで、一緒にデートしてみたいな」
 「お前じゃ一生無理だそりゃ」
 そんな無茶な願望は、持つだけ時間の無駄だ。現に校内の噂では、学校一の男前であり野球部主将の風見健太郎と付き合っていると聞く。高校生活において、マドンナにそれ相応の彼氏がいるのは当たり前の話。現実とは厳しいものなのだ。

 教室に着いた俺は、自分の席に座りEntersにログインした。この学校では携帯等の小型情報端末は禁止されていないため、俺にとっては喜ばしい環境にあった。もちろん授業中は禁止なのだが、端末を使っている学生は多々いる。4列目左端に俺の席はあるのだが、そそから見える範囲だけでもかなりの人数が携帯・スマートフォンを使用している。始業式明けのホームルームで面白くもない時間であるのも確かだが、授業中に使用するのはいいことではない。社長令嬢がいる程の高校だ。全国的に見てもそこそこ学力のある学校なのだが、授業中に夢中で携帯やスマートフォンを使用している様子は、まるで情報社会に取り憑かれた駄目な若者の典型のようだ。俺は授業中まで情報に取り憑かれる気はさらさら無い。その辺はきっちりしているつもりでもある。

 ホームルームが終わり、今日は午前のみで下校となった。下校中にスマートフォンを見るとメールが届いていた。Enters内のメール通知が届いているらしい。
 「なんだろう、こんな時間に」
 俺は電波の良い場所を探しつつ、メールに記載されたアドレスからEntersにログインした。差出人は同じEnters管理人仲間の世界覇者さんからだ。世界覇者さんは神の集いに参加しているメンバーの一人で、10万人規模の腐女子コミュニティの管理人をしている。年齢は非公開だが大学生で、好きなキャラの男装写真をマイページに載せるほどのコスプレ好きだ。正直、ルックスが良いとは言えないが……。メールの内容はこうだ。

 『$神の息吹$さんへ
  どうもー、世界覇者です。いきなりゴメンね。今日ウチのコミュに
  荒らしが来てさ。昨日$神の息吹$さんのコミュニティで暴れてた
  人だと思う。どうもまだ$神の息吹$さんに喧嘩売ってて大変なの
  よ……。 面倒だけど話聞いてやってくれないかな?本当迷惑な話な
  んだけどさ、ウチじゃ手におえないよー。それと昨日は集いでコメ
  返せなくゴメンね!』

 昨日の荒らしが世界覇者さんのコミュニティを荒らしているらしい。
 「あいつか。あんまり相手にしたくないんだよな……」
 そうは言っても世界覇者さんからの頼みだ。無視することもできないのが交流の難しいところでもある。ふと見ると、スマートフォンの充電が尽きかけていた。
 「うわっ、もうこんな減ってるのか。補助電源持ってきたらよかったな」
 スマートフォンのバッテリーは減りが激しい。それは俺のスマートフォンも例外ではなく、このまま立ち止まりEntersで荒らしの対応をしていても途中で電源が切れてしまうだろう。いつもならば充電用のバッテリーを持っているのだが、午前で帰れる今日に限って持ってきていない。早く家に帰らねばと考えているうちに、自然と俺は急ぎ足になっていた。だが俺の急ぎ足は意味をなさなかった。普段学校で会話すらしない俺が、今日は下校中に呼び止められたのだ。

 「神田くん!」

 聞き覚えのある声。俺とは世界が違う人物の声。俺はその声に、足を止めざるをえない。俺を呼び止めてきたのは、先程渡り廊下で皆を見とれさせていた張本人、坂下柚葉だった。


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