<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.3896の一覧
[0] 一つの物語 (短編)[章](2008/08/20 18:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3896] 一つの物語 (短編)
Name: 章◆2756d396 ID:77a77702
Date: 2008/08/20 18:35
『つまらない』
最初にそう思ったのは、一体いつのことだっただろう。
わからない。でも、物心付くころにはその兆候とも言えるものが出ていたとも思うし、
もしかしたらソレより前から感じていたのかもしれない。
『つまらない』という、僕の中に空いた大きな穴を埋めるためにいろいろやってきたつもりだった。


でも、唐突に気付いてしまったのだ。

―――僕がつまらないと感じているのは、今の日常、この世界そのものなんだ。


それを思い至ったとき、「ああ」と納得する僕と、「そんな」と嘆く僕がいた。
確かに、僕は今の日常とこの世界が、つまらないと思っていた。
でも、その中でも楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと、
腹立たしかったこと、それらは確かに存在していた。
そういうことがいっぱいあったから、これから先も、そう言うことがいっぱいあると思ってたから、
つまらないなんて思うことは無いんだって思っていたのに。


思ってしまった。つまらないと。
そして、納得してしまった。つまらないと。


そうなってしまったが最後、今までの僕は死んでしまった。
ありきたりで、たいした変化の無い日常を謳歌するしか出来ない人形みたいなものになってしまった。
ゆっくり、ゆっくりと、変わらない日常を生き続け、ふと気が付いたら、どこかの屋上に佇んでいた。

地平の向こう、海の先から上ってくる、五円玉の穴より大きそうな紅い月を眺めながら、呆っと誘われるように月に向かって歩いていく。
ちょうど中央ぐらいに来たとき、後ろを振り返ってみると、そこには紅い太陽が半分ぐらい山に身体を沈めていた。

その光景を前に、理由は無いけど、無性に舞いたくなった。

共に紅く光る太陽と月を観客に、僕は舞った。
日本舞踊のように舞うのではなく、軽快なダンスのように、しかし、動きを全く止めずに次へ次へと流れ動く様は舞であって、型のよう。
自分でも、どうしてこんなことが出来るのかわからなかった。
ただ、つまらないと謳歌していた日常の産物なのだろう。
これを覚える過程が全く思い出せないのが、悲しかった。でも、涙は出なかった。
もう、僕の中ではこれはつまらないことなのだと結論付けられていたのだろう。
だから、悲しいって感情も、すぐに消えていった。

どのぐらい舞っていたのかは分からない。長くても5分も経っていないと思う。
それでも、その短い時間の間に、太陽は観客席を離れ、月は紅から銀に色を変えていた。
ああ、物語はもう終わりなんだな、と少し寂しく思った。


ほどなくして、僕は空を正面に見据え、切っていく風の音を聞いている。

つまらない物語は終焉へ、残り数ページを残すのみ。

それも、程なくして読み終えるだろう。

とてもつまらない物語ではあったけれど、それでも寂しく思う。

一度、瞬きをして、空を眺めた。

金が赤を連れて山に沈み、銀が青を連れて空に上る。
目に映ったのは、その赤と青の狭間、自然が生み出す、魔法のような光景。

―――綺麗だった。
とても小さい頃、新しいことばかりで輝いていた、あの時の世界のように。

あ、そっか。

唐突にだけどようやく、理解できた。

世界がつまらなくなったんじゃなくて、僕がつまらなくなっただけなんだ。


だって、世界は―――

         ―――こんなにも、綺麗じゃないか。


『つまらない』なんて感情は、この光景を前には思い浮かぶことすらない。

なんだ、もっと早くに気が付ければよかったのに。

ほんとに遅い。
物語は後一行しかないのに、最後の場面になって気が付くなんて……

ほんとに、つまらない物語だ。


聞こえなくなっていた風の音。僕は、青に変わってしまった空を眺めながら―――


―――ゆっくりと物語を読み終えた。





あとがき

初めまして、章(あきら)と言います。
いつもの日常をつまらないと思うことがあるでしょうか?私自身はときどき、そう思うことがあったりします。
初めての文章で何かの二次創作を書こうと思っていたのですが、私にはそんな才は無いと思い、
いっそそれなら短くてもいいから何か書いてみようと思い立って書いてみたものです。
こんな稚拙で幼稚な上に、とても短く読みにくい文章ですが、感想や訂正点など、ご教授していただけたら感激です。


感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028242111206055