「ひとみさん! 大丈夫ですか!?」
京介がひとみに駆け寄る。ガロウズと黄瀬がその後ろから続いた。
「問題ない」
散らばった自らの骨を拾いあつめながらひとみが呟いた。
「おお、遠目でよく見えませんでしたが、なるほどやはり某電脳歌姫と瓜二つ! いや、しかし人体模型らしいアシンメトリーを取り入れて独自性もあり――」
「黄瀬。またにしてくれ」
興奮してひとみに話し掛ける黄瀬をガロウズが制する。
「京介にちゃんと事情を説明しないとな」
「あっ、そ、そうでした! ちゃんと説明してくださいよ!」
先程の戦闘で呆けていた京介が、ガロウズの呼びかけでいつもの調子に戻る。
「とは言っても、チェンジリングのことだけじゃなくて黄瀬までしゃしゃってきたからなぁ。どっから話せばいいのやら」
「しゃしゃって、って何ですか! 某がいなければ危なかったでしょう?」
「うっせ」
「そんなことより先に説明するべきことがあるでしょう」
「は?」
心配したような、むっとしたような表情を浮かべる京介に、ガロウズが問い返す。
「肩の怪我ですよ! 早く治療しないで大丈夫かって言ってるんです!」
京介は先程郵便屋の鉈が突き刺さった肩を心配げに見やる。
「あー、大丈夫だよ。致命傷じゃないから」
「致命傷じゃないって……! 十分重症じゃないですか!」
「だから俺たちはこれで大丈夫なんだって」
「……え?」
「ほら」
ガロウズは服をまくり上げ肩を見せる。その傷は既にふさがりかかっていた。
「黒須も言ってたろ? 霊的存在は霊体を散らされるか餓死でしか死なないって」
「どれほどのダメージで霊体が散るかは個人差がありますが、ガロウズ氏は霊の中でも常軌を逸して頑丈ですからなぁ」
けらけらと黄瀬が笑う。
「ま、心配してくれたんだろ? そこはサンキュ。っと、話は戻るが、チェンジリングについてだよな?」
「えっ!? 某の話は……」
「何かさっきのむかついたから後回し」
「そんなぁ!」
「……で、チェンジリングっていったい何なんですか?」
話が逸れそうになったのを、京介が引き戻す。
「――チェンジリング、『魂を持たない存在』だ」
「魂を持たない……?」
「ああ。生きた人間が肉体、霊体、魂の三層構造ってのは軍曹からもらった本で読んだだろ? で、その一番内側に本来あるべき魂がない存在がチェンジリングだよ。奴らは他のやつになりかわって生活しているんだ。魂がないと欲求の制御が効かないから今日のやつみたいに暴走するのがいるんだけどな」
「そんなのがいるんですか!?」
「普通はいないからこそ俺たちが戦ってるんだよ」
「どういうことですか」
「輪廻の邪魔だからだよ」
ガロウズはどこか遠い目をして答える。
「肉体は死ぬ、霊体も少し遅れて死ぬ、でも魂は永遠に残って次の霊体を纏って怪異として、あるいは別に肉体を手に入れて生命や付喪神として生まれてくる。でも魂がない存在は次の周回に移れないから、上から討伐命令が出てる」
「そうですか。……でも普通はいないってことは、そうそう出くわす相手じゃないんですよね」
京介はほっと胸を撫で下ろした。
が、ガロウズがすぐに答えないのを見てすぐにそれが間違いだと気付く。
「――ガロウズさん?」
「お前をこのタイミングで巻き込んじまったこと、正直悪いと思ってるけどな。最近、チェンジリングが増えている」
「えっ……」
「それ以上のことはわからない」
と、ガロウズは首を横に振った。
「ただ、前にチェンジリングが増えたときは――俺にとっての悪夢だ」
「何が……」
問いかけようとして、京介はやめた。ガロウズの表情が今にも泣き出しそうなほどに歪んでいた。
「――ともあれ、以前もチェンジリングが大量発生したことがあるんですよね? でもチェンジリングが輪廻できないなら人口の減少とか起こってるはずじゃ……そんな話、聞いたことありませんけど」
京介はわざとらしくない範囲を努めて、話題をずらす。どうせ気になっていたことだった。
「ああ。安心しろよ。チェンジリングになったやつの魂も消えたわけじゃない。魂はめっちゃ頑丈で、消すだとか壊すなんて事ぁこの世界を作った神サンにすら出来やしない。奴らは単に魂を持った霊体を他のところに隔離してなりかわっているだけだ。だからホラそろそろ」
ざっ。神社の方から小さな足音が聞こえた。四人は足音の方を振り返る。
そこに立っていたのは――。
「あ……あの。先程はご迷惑を――」
「か……カシマ――」
「――緊急事態だ! 特大のチェンジリング反応がそっちに向かっている!」
長谷川からの切迫した念話が飛び込んだのと、激しい白光が目を灼いたのがほぼ同時だった。