※安心と信頼のオリ設定です。
※『俺の○×に何をするだー!』な事になっているやもです。御堪忍ください。
※人によってはグロテスクかと思われる描写があります。ご注意ください。
※この世界線では、全パラカンストで士気キラキラで復讐に燃えた金剛だろーが、戦力ゲージMAXの姫だろーが、兎に角当たり所が悪ければ死にます。
※慈悲も無く、容赦も無く、死にます。
※なのでそういうのが嫌な人はご注意ください。
※死にます。
※(01/28初出。2/24誤字修正)
『拷問だ。とにかく基地司令を拷問に掛けろ!!』
――――――――ブイン基地、今月の標語
ブイン島に向かって最大戦速で帰還する第202、203艦隊の耳に聞こえてきたのは、サイレンの音だった。かつて203の電が井戸の艦隊に配属された当日に島内全域に鳴り響いたのと同じサイレンだった。
ブイン島が近づくにつれて目立ち始めた重巡リ級や雷巡チ級、軽巡・駆逐級の各種深海凄艦の死骸に、未だに黒煙を上げ続けて海上を漂う通常艦の数々と無数の脱出艇。そして水平線の近くにも関わらず、ここからでもその威容を見せつける、ひときわ巨大な深海凄艦――――ダ号目標の後ろ姿。
超展開の維持限界を超え、元の戦闘艦の姿に戻ってしまった天龍が、サイレンと共に風に乗って流れてきた砲声に戸惑いを隠した口調で――――天龍型はうろたえない――――言う。
【お、おい。井戸。これって】
「ああ、最悪の一歩手前ってとこだな」
戦艦ル級突然変異種――――帝国海軍暫定呼称『ダークスティール』は、既にブイン島の目と鼻の先にまで迫っていた。
最早続きを覚えている人いないんじゃないかと戦々恐々しつつうpする今日この頃、皆様ますますご健勝の事かと思われます。ノロだのインフルだのでダウンした挙句に便器に顔突っ込んでゲロの海で朝まで気絶してました。などという事が無いよう、皆様もお体にはお気を付けください(実体験)。それは兎も角最近ウチの金剛さん漸く改二になったら大メシ喰らいになったでござる。記念の艦これSS
『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ ダ号目標破壊作戦 - Destroy target Darksteel.』(後編)
『Delta-01 Fox3!!』
『Albatrus-02 Fox3!!』
『Kerberos-13 Fox3!!』
メナイ少佐の艦隊に所属する航空機の生き残りを集めて再編成した混成部隊が、抱えていたミサイルのありったけを吐き出す。
彼らが今しがた発射したのは先の支援に回った『バルムンク』らが搭載していたはげたか級巡航ミサイルほど巨大なものではなく、空対空用の小型高速ミサイルであった。
人類との戦争という、ある意味ヘタな自然環境よりもずっと過酷な淘汰を生き抜いて進化を続け、ゴキブリ並の速度で耐性を得た深海凄艦には、もう対空用のミサイル程度ではまともな傷を負わせるのも難しくなってきていた。
しかし、その程度でへこたれないのが戦争民族ホモ・サピエンス・Lである。
『GUN,READY,FIRE!!』
一発では怯まない。三発でも無駄。ええいならば十五でどうだこのヤロウ。今ならお買い得セール期間中につき復讐者御用達の30mm機関砲弾4ケタも御付けいたします。
メナイ少佐率いる第201艦隊は足りない火力を手数で補い、少なくない数の敵――――深海凄艦を海の底へと叩き返す事に成功していた。
だが、同艦隊に所属する人員からして『艦娘と満足な数以外は揃っている』と自虐的に言っているブインのコンビニこと第201艦隊である。そんな散財じみた戦術がそうそう長続きするものではなかった。
『メナイ少佐、戦闘機用のミサイルの在庫がもうありません!』
「対地攻撃用のロケットポッドはどうした!」
『K2Eに乗ってる連中へ補給したのが最後です!!』
「無ければ工兵用のC4束ねた集束爆弾でも爆薬詰め込んだキッチンでもトイレでも何でもいい! 兎に角飛行機は武器を積んで発進させろ!!」
事実上のブイン島最終防衛ラインとなっている元空母の狙撃戦艦『ストライカー・レントン』(※コイツだけ燃料不足に付き浮砲台なぅ)のCICで、メナイ少佐が矢継ぎ早に部下達に指示を出していた。彼の隣にいつもいるはずの艦娘式重巡洋艦『愛宕』(同少佐はハナと呼称)の姿は無かった。彼女もまた、戦場に出撃していたからである。
【パパ! じゃなかった。提督、護衛艦隊はみんなやっつけたわ。でも……】
「ハナ、兎に角撃ちまくれ! ダメージは無くとも足を鈍らせる事はできる! もうすぐ水野中佐と井戸少佐が帰ってくる! それまでの辛抱だ!!」
『少佐! 基地弾薬庫の回収部隊、ただいま戻りました!』
「受け入れハッチ開け! 15分で換装しろ!」
『そ、それが……! 無いんです!! 納品表の半分以下しか!!』
「以下でも未満でも良いから兎に角持って来い!!』
あの基地司令、あとで殺す。
メナイは腹の底から湧き上がる殺意と罵声を思わず辺りに吐き散らしたくなったが、上に立つ者の義務とたしなみとしてそれを何とか舌の付け根よりも下に押し込めて、その決意を再確認するだけに留めると、己の艦隊の指揮に戻った。
「少佐」
このCICの中にいる幹部クルーの中では、最も信頼のおける副官がそっとメナイに耳打ちした。
「マズイです。燃料はこの間の203のミス・アカギから買った分で回せてますが、今のペースで弾薬を消費すると、次の補給で尽きます」
この艦隊の分も、基地の備蓄も。と言外に滲ませていた。
「……非常事態だ。202と203のストック分をかっぱらう」
「もうやりました。それでもあの量です」
あのクソ野郎、金(キン)だけじゃなくて弾薬まで横流ししてやがったのか。
いつの間に。という奇妙な感心と至極真っ当な憤りを覚えつつ、メナイは周囲に漏れ出ないように口の中だけでそう吐き捨てると片手で顔を覆い、天を仰いで瞑目した。
長考に入った時のメナイの癖だ。
「ビッグボディ級2番艦『レオパルドン』轟沈! クルー全員の脱出を認む!!」
「制圧ヘリ『K2E』残弾0! 指示を求めています!!」
「ショートランド泊地より緊急通信です。読みます【敵ノ大攻勢。戦艦ル級6隻ヲ認ム。応援求ム】」
『MidnightEye-02よりFLAGSHIP!! PRBRデバイスにhit! 感多数! 敵増援です! こちらと202、203との航路を遮る形です!!』
幹部クルーやRECONチームからの悲鳴じみた報告が立て続けに入る。そのどれもこれもが、今のメナイにとっては聞きたくない類の代物ばかりだった。
「……タイプ・艦娘を開発してた頃の帝国の連中も、きっとこんな気分だったんだろうなぁ」
ややあって、何かを決意したように顔と姿勢を元に戻し、手元にあったマイクに火を入れ、前線で戦う『愛宕』に通信を繋げた。
「ハナ、一度戻ってこい。もう弾薬が無い。第201艦隊はこれより『超展開』による格闘戦を行う」
【パ、じゃなくて提督! 提督は私との同調率が……!!】
大丈夫だ。酔い止めの薬は飲んだ。とメナイは聞き分けのない娘を諭す時のように優しく語りかけた。
鎧触一蹴。
第202艦隊総旗艦の金剛の働きを表すなら、まさにその一言で事足りた。
【討ちます! FIRE!!! AIM!! READY!】
前方を遮る駆逐イ級やロ級やハ級の群れは主砲で文字通り木端微塵に粉砕され、そいつらを囮に左右から回り込んで魚雷を叩き付けようとした2匹の重巡リ級はCIWS――――ボクシンググローブのフリをした例のおっかないアレだ――――による左右同時の裏拳であっけなく迎撃され、金剛の片手ずつで掴まれたそれぞれの頭部から生卵を握りつぶした時のような音と液体を爆ぜさせながら呆気なく撃沈する。
『もう全部金剛さんと水野中佐だけでいいんじゃないかな』
那珂ちゃんのその呟きに、思わず203艦隊の全員が頷いてしまったが、そうは問屋が卸してくれないのが現状である。何せ、彼らの帰るべき基地と島がある方向から、敵がやってきているのである。
島がある方向から光が起きる。超展開中は完全に無防備になる艦娘と艦長を保護するための意図的な余剰エネルギーの嵐だ。
『前方にまた敵増援なのです!』
『MidnightEye-02よりFLAGSHIP!! PRBRデバイスにhit! 感多数! 敵増援です! こちらと202、203との航路を遮る形です!!』
『全ユニット離れろ! 超展開したアタゴ……じゃなくてハナが突撃するぞ!!』
『こちらK2E! 弾が無い! 補給はまだか!?』
不意に、無線が混信した。201艦隊は相当に混乱しているらしい。そんな混乱を吹き飛ばすかのように、超展開中の金剛が全砲門を一斉射。新たに海面に浮上した駆逐級の群れを、文字通り一撃で粉砕する。
【202Commander水野よりMidnightEye-02. 敵はどこだ!!】
『!? 帰って来た! MidnightEye-02よりALLUNIT! 202と203が帰って来たぞ!』
【敵はどこだと聞いている! 敵は!? ダ号目標はどこだ!!】
【水野中佐か! ここだ! こっちだ!】
水野がダ号目標に視線を向ける。
上空のMidnightEye-02を介してデータリンク更新。アップデートされた情報には『Huge Battleship [Target Da] is Approaching fast.』と表示されていた。
「デ、デカ……っ!」
思わず漏らしてしまった井戸のその呟きは、202、203の面々全ての心境を表していた。
ダ号目標――――ダークスティールは巨大だったのだ。
映像ではそんなものかと思っていたが、実際に見上げてみるとまるで違った。先の戦艦ル級よりも、頭2つか3つ分は抜き出ている。
仮に、今ここに超展開した『如月』『天龍』『金剛』と、戦艦ル級、ダ号目標を一列に並べてみれば、大体以下のような並びになる。
ダ号目標が一番の背ェ高のっぽで、その胸のあたりに戦艦ル級と金剛が、天龍はダ号のおヘソのチョイ上あたりで、如月(というか駆逐艦娘全般)に至っては、足の付け根よりも下といった具合である。
そして超展開した重巡『愛宕』は、そんな大巨人の足を集中的に狙っていた。
左の膝にローキック。左の膝にローキック。左の膝にローキック! 馬鹿の一つ覚えのようにそれだけを繰り返していた。現在の『愛宕』が取れる攻撃オプションの中で最も有効であると思われるのがこれしかないからである。なけなしの弾薬をつぎ込んだ20.3センチ砲の密着砲撃も、資材や燃料の代わりに海水を満載したタンカーによる殴打も、爆薬の詰まったトイレやキッチンによる集中空爆も、さしたる効果をあげられなかったからである。
ダ号目標は、愛宕必死の防戦すらも意に介さず、まっすぐ島に向かう航路をとっていた。
【いいから手伝え! もう基地に弾が無い! 全然止まらん!】
意図せずしてダ号目標の無防備な背後を取る事になった水野が、金剛に命じる。
【金剛、主砲発射用意! 弾種徹甲弾! お前の得意料理だ。熱々の穴開きチーズにしてやれ!!】
【ラジャー! 撃ちま、ああっ!?】
突如として金剛の主砲塔群が爆発四散。背後での爆発に金剛がつんのめる。金剛のメインシステム索敵系は、外部からの攻撃によるデース? と簡潔に答えた。
さらに追い撃ちで、破壊された砲塔の残骸に小口径砲と思わしき小さな衝撃がいくつも走る。水野と金剛が振り返るよりも先に、主犯の駆逐ロ級に那珂ちゃんと天龍が主砲の14センチ砲を叩き込み、死にかけを完全に死んだに変えた。
『このヤロ! まだ生きてやがった!!』
『今のでホントに取り巻きは最後みたい! 金剛さん、やっちゃえー!』
【Oh、サンキューデース!】
水野の指示で金剛が大破して完全にデッドウェイトになった主砲塔群をパージ。ダ号目標に向かって一気に増速する。
井戸は203の各艦に指示を飛ばし、残り少ない魚雷と艦爆の全てを、ダ号目標の左足に集中させる。
「メナイ少佐! 魚雷と艦爆撃ちます! 合図で離れて!」
【何時!?】
「今!!」
【もう少し早く言え!】
超展開した愛宕(メナイ少佐はハナと呼称)が飛び退く。直後、艦爆と魚雷が直撃。膝の裏という、人体を模した構造上避けられぬ脆弱な部位に連続して加えられた衝撃で、ダ号目標の無敵装甲に大きなヒビが走り、姿勢が大きく崩れる。
各艦隊の面々が沸く。
「「「おおっ!?」」」
【やったか!】
那珂ちゃんがいらん事を叫んだ直後、ヒビ割れの隙間からクリーム色をした粘液状の物質が滲み出し、大気と激しく反応して急速に発泡した。
そして次に泡が波によって洗われた時にはもう、傷一つ無い元の輝きを取り戻していた。
「「「じ、自己修復とぉ!?」」」
【何てインチキ!!】
【【インチキでも何でも!】】
ダ号目標が体勢を立て直すよりも先に、ダメ押しで金剛が超低空弾道の飛び蹴りを後頭部にかます。霧島直伝の艦娘式32文キック助走付き。立ち上がりかけていたダ号目標と金剛が同時に着水。津波めいた盛大な大波飛沫を周囲に飛び散らかせる。
いち早く立ち上がった水野と金剛が同時に吼える。
【【こいつは無敵じゃない! 壊せる! 殺せる!】】
再び起き上りかけていたダ号目標の顔面に変則的な打ち下ろし気味の右フック。続けてやはり顔面に左フック。再び右。鋼鉄の装甲に鎧われた拳がダ号目標の顔面に突き刺さるたび、大形トレーラー同士の正面衝突事故どころでは済まされない轟音と衝撃波が周囲に撒き散らされる。
【【敵討ちだ! これは雷の分! 響の分! 暁の分! そして龍驤の分!】】
左右ラッシュのペースがますます上がる。ダ号目標は、何もできないまま、ただ打たれ続けるだけであった。
【【あの世で皆に詫び続けろ!】】
全身のバネを使った、渾身の右ストレートが顔面に突き刺さる。
しばしの静寂の後、卵の殻をゆっくりと握りつぶしていった時のような、何かがひび割れていく音が聞こえてきた。小さな破片が波間に沈んでいく。
砕けたのは、金剛の拳を包んでいたCIWSだった。
誰もが、信じられない物を見たかのような表情で固まっていた。先程の重巡リ級なら容易く沈められたのに。先程の戦艦ル級ですらものの数発で小破させる事が出来たのに。
そんな彼らを余所にダ号目標が、何の違和感も見せずにゆっくりと立ち上がる。そして、頬を撫でるようにして張り付いていたCIWSの破片を取り除くと、その下からは全く無傷の死人色の皮膚状物質――――戦艦ル級の数少ない非装甲部分だ――――が現れた。泡の一つすらもついて無かった。
ここで初めてダ号目標がリアクション。左で握り拳を作る。上半身を目いっぱいに捻る。
振る。
【【ッ!!】】
深謀も遠慮も何も無い、心臓狙いの左ストレート。
痙攣と同じメカニズムで反応した水野と金剛の生存本能が両腕を交差させてガードするも、何事も無かったかのように艦体ごと後方に吹き飛ばされる。先の天龍の時とは違うのだ。大戦艦クラスの全長と重量を持つ構造物を一撃で、しかも水の抵抗をものともせずに後方に吹き飛ばすほどのパワーである。
映像資料の中にあった、重巡洋艦『加古』の竜骨を一撃でヘシ折るほどの攻撃を受けた金剛が当然無事で済むはずが無く、ガードした両腕は、艦娘達の魂の座ともいえる動力炉の無事と引き換えにほぼすべての機能を喪失した。
【提督! 左右兵装保持腕各所から断線警報デース! 五指トルクアクチュエイターのpingが毎秒6しか返りませんネー! Oilの内出血も止まりまセーン!!】
【拳を握れて肩が動くならそれでいい!】
指が駄目でも腕が動くなら最悪絞め殺せる。
屈辱と苦痛と憤怒、そして若干の殺意と恐怖が入り混じった概念を滲ませた金剛に、意識してそう返答した水野が海底を踏みしめ、前に進もうとしたが止まる。足の裏の砂がやけに滑る。
砂が、
【……砂?】
何かに気付いた水野が艦体としての『金剛』を後ろに振り向かせる。振りむいた金剛のそのすこし背後。
そこは、もうブイン島の海岸線だった。
【い、いつの間にこんなところまで……】
【て、提――――】
水野が驚愕にとらわれていたのはほんの数秒も無かったはずだが、それでも致命的な隙だった。金剛の悲鳴に水野が咄嗟に前に振り向き戻ったのと同時に、小さなビルのごときダ号目標のブッ太い腕が金剛の胸目がけて叩き付けられた。
技術も何も無い、力任せの一撃。ただそれだけで、金剛のシステム群が一時にエラーを起こし、不気味な痙攣を繰り返す。
その光景に誰もが絶句し、戦場から一瞬音が消えた。
ダ号目標は、敵に容赦しなかった。
『し、司令官さん!!』
二発目の拳が、同じ傷口に突き刺さる。
【メインシステムデバイス維持系より最優先警告:コア外殻にグレードBの亀裂発生。コア内核にグレードFの応力異常発生。機関部への浸水を確認。即時離脱を推奨します】
【メインシステムデバイス維持系より優先警告:区画211に火災発生。大動脈ケーブル一部断線。電圧低下】
【メインシステムデバイス維持系より警告:電圧低下により中枢を除く艦内電装システムを維持できません。300秒後に超展開状態を強制解除します】
【メインシステムデバイス免疫系より報告:コア保護膜『硬』『蜘』『髄』に異常無し】
【メインシステム戦闘系より報告:左腕部CIWSの想定耐久値が10%に低下。装備換装もしくは投棄を推奨します】
ダ号目標のハートブレイクショットで水野の意識が飛び、彼と同調していた艦娘としての金剛の意識も巻き添えで一瞬途切れた。
次に金剛が意識を取り戻した時、世界は闇に包まれていた。
艦娘の三半規管と戦艦搭載の三軸ジャイロは、仰向けになって倒れている事を無言で伝えてきた。と同時に、暗闇の中の金剛の意識にいくつもの囁き声が流れ込んできた。戦艦としての金剛のメインシステムと、妖精さん達からの緊急Callだった。
(金剛さん金剛さん。きかんぶへのしんすいはおさまったのですよ。でもでもろっこつユニットのぜんこっせつとたーびんぶれーどはどうにもならないです)
(ていうかひけしとさいつうでんだけでせいいっぱいなのです)
(きてー。めいんだめこんはんはやくきてー! おいるべんがしまらないのー!!)
目を開いている感覚はあるのに暗いのはどういうことかと思ったが、何の事は無かった。ケーブルが何ヶ所かで断線していただけだった。自我コマンド入力。生き残った回路をバイパスして視覚野を復旧させようとする。失敗。仕方なくガンカメラと艦各所の監視カメラ群に接続。一部成功。
普段の艦娘状態の肉眼よりもはるかに画質の荒い、砂嵐交じりの青空が視界いっぱいに広がった。聴覚野もデータリンクも途絶。そうだ今のヘタれたシステムでは復旧すらままならない。簡単でもいいから提督にケーブルの接続を頼もう。そっちの方が早い。提督とのアクセスを、
提督との、
提督は?
【メインシステムデバイス監視系より警告:内装デバイスK02との接続が確認できません。デバイスが正しく接続されている事を確認してください】
内装デバイスK02――――超展開中の艦娘に乗り込んでいる艦長の事だ。
何故今の今まで忘れていたのか全く理解できない。電撃にも似た驚愕が金剛の心の中を走る。自我コマンドを上書き。未だ復旧できていない艦橋内部の監視システム群にアクセス。
失敗。断線警報。
竜骨まわりから血の気が退いていく音がする。
『……フ、フハ』
【て、提督!!?】
『フハハ、フハハハハハハ! ハーッハハハハハハ!!』
辛うじて接続に成功したマイクからは、どこからどう考えてもこの状況には似つかわしくない笑い声が飛び込んできた。
度重なる戦闘のショックでついに壊れたのかと金剛は思った。自分達の娘同然に可愛がっていた第6駆逐隊の娘達を皆失い、その敵討ちにも失敗して、とうとう心が折れてしまったのだと思った。
【提督、しっかりするデース! 傷は深くはな……!!】
ようやくの事で再接続に成功した監視カメラの映像には、砕けてひしゃげた艦橋構造物に押しつぶされかけた艦長席と、胸に鉄パイプが突き刺さったままそこに座っている水野の姿が映っていた。
金剛は、叫び声すら出せなかった。
狂ったように笑う水野が片手で鉄パイプの周辺をまさぐる。
『フハハハ! すまん! すまんかった響!』
【て、提督……? 響ちゃんはもう……」
『チビで無愛想でぺったん娘で無口で紅茶よりもキツイ酒が好きそうっぽくて俺の好みとは性反対とかいつも思っててすまんかった響!』
ガスか? それとも見えないだけで相当ヤバい量の出血なのか?
今はもういないはずの娘の名前を叫びながら、懐から何かを摘まみ出した。金剛も、その時点で違和感に気が付いた。
刺さった鉄パイプの周囲から、血が、一切滲んでいない。
『お前は最高だ! 金剛と俺の母ちゃんの次くらいには最高にいい女だよ、お前は!!』
懐から抜き出された水野の右手には、彼の手元に最後まで残っていた駆逐艦『響』の装甲片があった。
【u,unbelievable……】
『Me tooだ。こんなの、マンガとか、戦意高揚映画の中くらいのものだと思っていたぞ』
水野も金剛も、普段から深海凄艦などというお化けモドキを相手にはしているが、奇跡だの何某かの思し召しだのと言った類の事柄は一切信じていない。特にそれは一年前に第6駆逐隊の面々を失って以来顕著であり、今では悪霊退治には塩を撒くよりも四方をお札で囲むよりも金剛の主砲の一斉射で地形ごと薙ぎ払う方がよっぽど効果があると信じているくらいである。
だが、そんな彼らでも、たった今見たこれに関しては、何者かの遺志が働いているとしか思えなかった。
響は言っている(のかもしれない)。ここで死ぬべき定めではないと。
不思議と、やる気が出てきた。
『金剛、いけるか?』
【Yeeees.私は、どこまでも提督について行きマース】
水野と金剛の意識が再接続される。水野の脳裏に更新された、艦体としての金剛のステイタスは、最早動く動かないどころの損傷ではなかった。視覚野はガンカメラを除いて全滅。その他の感覚デバイスや通信系もほぼ壊滅状態で、おまけに断線と漏電で左腕以外まともに通電すらしていない。タービンブレードからはさっきから異常な擦過音と不整脈のような振動が鳴り響いているし、超展開の強制解除のカウントダウンは止まる気配が無い。
お互いに満身創痍、なれど意気軒昂。あの憎き怨敵をブチ殺すには充二分に過ぎるというものだ。
『敵は?』
【ここデース】
ガンカメラが切り替わる。横倒しになった視界の中、ほんのすぐそばでは超展開状態の『愛宕』が真正面から格闘戦を仕掛ける後ろ姿と、残るすべての艦が停留用のアンカーを使ってダ号目標を沖合に引きずり出そうと決死の牽引作業をしてるのが見えた。カメラの下側には、金剛の物と思わしき指先と白い砂浜が映っていた。
島まで打ち上げられていたのか。と水野が心の片隅で思った。
『で、実際どこまで動ける?』
【……左腕なら、何とかいけマース】
これでは戦うどころの話ではない。だが、あいつの足を引っ張ってやる位の真似ならできる。
そう。例えば、今まさに停留アンカーの全てを引きちぎり、愛宕必死の防戦なぞハナから存在すらしていないかのような気軽さでこちらのすぐ傍を通り過ぎようとしているダ号目標のような。
何を思ったのか、ブイン島の砂浜に第一歩目を上陸させたダ号目標の動きが完全に止まる。
そしてそこは、ちょうど金剛が倒れているそのすぐ真横だ。
【左腕部CIWS、射ェ!!】
金剛が、残り全ての電力を注ぎ込んで左腕を動かした。技量もへったくれも無い、ただ単縦な肘より先だけを動かすだけの屈伸運動による裏拳モドキ。
しかし、大戦艦級の質量と速度を持った裏拳(モドキ)による弁慶の泣き所への奇襲である。棒立ちになっている深海凄艦の一隻如きが耐えきれるものでは無く、ダ号目標はまるでコント役者のように見事に顔面から倒れ伏した。
――――カマしてやったぜ、クソ野郎。
そう言おうとしていた水野であったが、ダ号目標が倒れ伏した際に発生した局所的な大震動と砂煙に咄嗟に口と目を瞑ってしまったため言えなかった。もっとも、金剛との各感覚野の接続は、一部運動系と視覚野以外は金剛側から意図的に切断してあったために目に砂が入ったとしてもそのフィードバックが来る事は無かったのだが。
砂煙が晴れる。口の端から湯気となったドス黒い瘴気をもうもうと吐き出す、怒りに満ち溢れた表情のダ号目標と目が合う。
憤怒の形相そのままにダ号目標が手をついて立ち上がるよりも先にせめて一矢とばかりに不敵な笑いの一つでも浮かべようとした金剛と水野の随意運動よりも先に悲鳴同然の絶叫を上げた海上の艦隊の面々よりも先に、
ダ号目標の腕が、何の前触れも無く、真っ二つに折れた。
誰もが――――それこそ当のダ号本人すらもが――――信じられない物を見た。という表情をして折れた腕を見ていた。あのクリーム色の発砲粘液は確かに機能していたが、不自然に折れたまま再接合させてしまっては意味が無いだろう。
ダ号目標の顔が再び砂浜に盛大な音と砂煙をまき散らしながら落着する。
首だけを動かしてこちらに振り向き直ったダ号目標と目が合った。
お前何やった――――その表情からはそう読み取れた。が、そんなのこっちが聞きたかったしわざわざ敵に教えてやる義理も道理も無かったが、無視は良くないしここは皮肉で返すべきが指揮官としての義務かつたしなみだと考えた水野は金剛に命じて返答を返す。
伝統と格式ある中指一本立ち。
それに怒り狂ったのか、まだ無事な方の片腕をついて立ち上がろうとする。失敗。先程よりも早く、さらに酷い崩れ方だった。
それを見ていた超展開中の愛宕が何をトチ狂ったのか、沖合の軽巡洋艦『天龍』――――203艦隊の総旗艦だ――――を両腕で掴み、頭上に掲げ、そして上空高くに放り投げた。
空中の『天龍』が掟破りの本日2度目の超展開を実行。自由落下の勢いそのままにダ号目標の背中に突撃する。愛宕もその後に続いた。
傍から見れば、超巨大なお馬さんごっこだ。まるで意味が解らない。
ホワイトノイズすら返さなかった金剛の通信系に砂嵐が混じる。否、音声データだ。
『 水野 佐! コイツ、陸に っ タカアシガ とヵ、 クジラ 同 ! 自重で れて !!』
一方通行の超強力な志向性の電波送信にも関わらず、歯抜けもいいところの、砂嵐交じりの短い接続。だが、水野と金剛が最後の1アクションを起こす動機となるには十分だった。
【金剛ォォォォォォォゥ!!!!】
【Sir! Yes!! SIR!!!】
中枢区画の維持に使う電力すら唯一動く左腕に回して、出来損ないのバネおもちゃのように金剛が宙に跳ぶ。
ダ号目標の頭上に落着。
軽巡洋艦、重巡洋艦、大戦艦に、そして自重。
海水浮力の存在しない陸上で、それだけの過重があんなちっぽけな両手両足に加えられているのだ。例え絶対無敵に等しい装甲を持っていようとも、最後に待つのは重量過多による圧潰・自滅という結末である。そう、陸に上がったタカアシガニやクジラが動けず立ち上がれず、ぐしゃりと潰れるように。
それを本能的に理解したのか、ダ号目標が四つん這いのまま何とか海へと戻ろうとする。それをダ号目標の上にまたがる3人が頭をハタく、尻を叩く、腰の上でぴょんぴょん飛び跳ねるなどして妨害する。
ハタから見るとダーク♀お馬さんごっこでしかないが、やっている方もやられている方も、どちらも必死なのだ。あ、ほら。ダ号目標がとうとう口の端から瘴気の代わりに泡吹いた。
崩落。
地響きと砂煙と共に、三度目の静寂が戦場にやってくる。
『……MidnightEye-01よりAllFleet. MidnightEye-01よりAllFleet. 目標からのPRBR反応を確認できず。繰り返す。目標の完全沈黙を確認!』
さらに静寂。ややあって、周囲が大歓声に包まれる。その一言を待っていたかのようなタイミングで金剛の超展開が強制解除される。
その時を待っていたかのようなタイミングで、上空から、小型飛行種数匹が金剛目がけてウミドリ・ダイブを仕掛けてきた。
『あ』
艦隊が芥子粒以下の大きさにしか見えず、音も届かないほどの高度からの、太陽を背にしたほぼ垂直の急降下。連戦の疲労と勝利の隙を狙った、そのまま教科書にでも乗せられそうなほど理想的な襲撃。
最初にそれに気が付いたのは、赤城だった。限定的ながらもAWACSとしての機能を有するMidnightEyeは、その限定された機能の殆どを対艦・対潜哨戒能力に割り振っていたので責めるのは酷であった。
かつての己――――正規空母としての赤城――――も沈められた憎き状況。敵機直上。赤城の憎しみは、誰のどの電気信号よりも圧倒的な速度だった。
心臓が膨らむ、自我コマンドの命を受けた迎撃部隊が発艦体制をとる、対空砲座の3次元照準が始まる、ターゲットエコーは3、いや4、くそ、太陽が邪魔だ。
心臓がしぼむ。赤城の敵意が激発信号をトリガする。
対空砲座が火を噴いた瞬間、4機が左右二手に分かれた。ピーナッツブレイク機動。文字通り、落花生の殻を二つに割って、中身を落とすような回避・投下機動。
空飛ぶ落花生の中身は、対艦用の爆弾だ。
『――――――ッ!!』
対空砲座が、落とされた4発中2発の空中迎撃に成功。1発は誰に当たる事無く海中に落ち、最後の1発は弾がかすった拍子に軌道が逸れ、よりにもよって赤城の飛行甲板のド真ん中に直撃。
赤城の意識が恐怖で凍る。
ここでようやく状況を飲み込めた他の面々が慌てて再配置につく。
「あっ、赤城! そ損害報告!!」
『ぶ、っぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶじでででででっでででです! ふ、ふは、ふはははははははつだん! ふは、不発弾です!!』
飛行甲板のド真ん中に大型爆弾のケツだけが生えているという、大層シュールな光景であるが、笑ってはいけない。そのすぐ真下では妖精さん達が大慌てで飛行機用の燃料が詰まったドラム缶や弾薬箱を避難中なのである。声色からでも赤城が青ざめているのもよく分かるものである。
そうこうしている内にも、メナイ少佐の有する戦闘機部隊の生き残り達が、手早く逃げの一手を指した小型飛行種達の追跡と迎撃に出向いていた。
“飛行種の連中は柔っこいし、速度も無いから東の連中に比べたら可愛いもんだぜ”とは、追撃から帰還した一人、Kerberos-13の後日談であるが、そんなの絶対嘘だろうとその話を聞いた203艦隊の面々は思っていた。
『MidnightEye-01よりAllFleet. MidnightEye-01よりAllFleet. 周辺海域にPRBR反応無し。AllClear. 繰り返す。周辺海域にPRBR反応無し。AllClear.』
その報告を聞いたメナイ少佐は一度大きく頷き、全周波数帯で宣言した。
【うむっ。作戦終了! 我々の勝利だ!!】
本日の戦果:(左から順に201艦隊、202艦隊、203艦隊の成果を示す)
駆逐イ級 ×42、32、68
駆逐ロ級 ×41、39、73
駆逐ハ級 ×40、33、59
駆逐ニ級 ×1、4、12(※大多数は作戦行動中に随時逃走)
軽巡ホ級 ×18、45、12
軽巡ヘ級 ×15、55、20
軽巡ト級 ×12、25、18
雷巡チ級 ×5、25.5、1.5
重巡リ級 ×4、15.5、3.5
軽母ヌ級 ×4、1、0
戦艦ル級 ×2、1.5、0.5
戦艦ル級(未確認変異種)×0、1、0
小型飛行種 ×100強(※小型飛行種は撃墜手当に含まれず)
各種特別手当:
大形艦種撃沈手当
緊急出撃手当
國民健康保険料免除
以上
本日の被害:
軽巡洋艦『天龍』:大破(右兵装保持腕機能停止、魚雷発射管脱落、艦内浸水・一部漏電、一部装甲の断裂・応力異常、超展開用大動脈ケーブル溶解、主機機能不全etc,etc......)
軽巡洋艦『那珂』:小破(至近弾による一部装甲・艤装の破損)
空母『赤城』:中破(飛行甲板損傷。爆弾の無力化・撤去作業進行中)
重巡洋艦『古鷹』:中破(直撃弾による一部装甲・武装の破損、機関部不調)
駆逐艦『如月』:小破(至近弾による一部艤装の破損)
駆逐艦『大潮』:健在
駆逐艦『電』 :健在(203艦隊所属)
戦艦『金剛』:大破(コア内核以外に無事な所が見つかりません。現地修理不可能。応急処置の上で本土の造船所に送るか、新品の艦体にコアを移植した方が早いです)
駆逐艦『電』 :小破(202艦隊所属。)
重巡洋艦『愛宕』:小破(右後方装甲金属疲労、右腓骨ユニット亀裂、主機異常加熱 etc,etc......)
零式艦戦21型:健在9、 未帰還機9
九九式艦爆:健在15、未帰還機3
九七式艦攻:健在36、未帰還機2
各種特別手当:
入渠ドック使用料全額免除(※1)
各種物資の最優先配給(※1)
勲章授与(※2)
以上
※1 基地の備蓄資材が枯渇しています。大本営に連絡を取ったので、追加物資が来るまで頑張ってください。
※2 第202艦隊総司令、水野蘇子中佐および、第203艦隊所属、艦娘式古鷹型重巡洋艦1番艦『古鷹』
以上2名の類稀なる武勇奮戦を賞し、銀剣突撃徽章を授与するものとする。
「整備班長殿?」
「おお、来たか水野」
この島の地下洞窟を対爆コンクリートで拡張改造して建造された、ブイン基地唯一のドライドック。そこでは現在、戦艦『金剛』の応急処置が急ピッチで施されている最中だった。
唯一の、という言葉が示す通り、このドライドックの定員は1隻までである。
常識的に考えれば、こんなガラクタ同然の金剛ではなく、掟破りの2回連続での超展開を実行した事により、ガラクタの一歩手前で踏みとどまっている天龍の方を優先して修理するべきなのだが、それは言わぬが花というものだろう。
「申し訳ありません。私の我儘を通して頂いて」
「なぁに。良いって事よ! お前の嫁さんはこの基地一番の大役者様じゃあねぇか! だったら、開演前と終演後の化粧に手入れは、俺ら裏方に任せとけってぇんだ! ……ところで、だ」
スパナ片手に腕を組み、自分の言葉に酔っていた整備班長殿が、急に声と顔を真面目なものに変えた。
「ついさっき、サルベージされたっていう金剛の主砲塔群がこっち入って来たんだがよ……お前さん、いったい何と戦ってたんだ?」
「は?」
整備班長殿がおーい、と手を上げて合図をする。天井付近の暗がりに、人間の胴回りくらいはありそうなブッ太いチェーンによって吊り下げられていた鋼鉄の塊がゆっくりと降りてくる。戦闘中に大爆発を起こしたためにやむなくアタッチメントごとパージした、金剛の主砲塔群だ。その周囲にへばりついている、“ボコボコと泡立つクリーム色の粘液”は、高速修復触媒だ。保存容器がそのまま掃除用のバケツの形をしているため、提督諸氏からは単に『バケツ』と称されることが多い。
ひどく特徴的な壊れ方をしていた。
艦娘状態、あるいは超展開中の金剛と相対する形でこの主砲塔群を見た場合、まず右側面が最もひどく破壊されているのが見て取れる。原型らしい原型などほとんど残っておらず、内から外側に向かってめくれ上がり、弾け飛ぶような破壊痕は、まるで悪魔の花が咲いたかのようにも見て取れる。
次に、左側面。こちらはほぼ無傷であるが、一か所だけ大きな穴が開いているのが見て取れる。装甲が内側に向かって破断している事と、右側に向かって真っすぐの穴が開いている事から、ここが敵砲弾の直撃箇所であり、砲弾は左から右にそのまま抜けていったのだと見て取れる。
「こ、これは……!!」
「主犯は護衛の駆逐種だって聞いてるが、そりゃウソだろ。どう考えても」
ほれ、あれが5inch単装砲の直撃痕さね。と指さす整備班長殿の視線の先、そこには、今しがたの大穴などとは比べるのもおこがましい、小さな凹みがあった。
今の大穴を握り拳だとすれば、この凹みはせいぜい小指の爪サイズだ。
「5inch単装砲じゃあ威力も口径もちと足りんな。やるんだったらもっと大口径で速度の出る徹甲弾か……いや、今の人類だと運動エネルギーミサイルでも無いと超水平射撃でコレの再現は、いや待て待て……」
スパナ片手にブツブツと独り言を呟きながら己の世界に没頭し始めた整備班長殿を余所に、水野はその傷跡を呆と眺めながら立ち尽くしていた。
水野の記憶がフラッシュバックする。
1年前の大侵攻。際限無く湧く雑魚の群れ。焼けつく砲身。別働隊の配置はまだか。電からの補給。最後の予備砲身。無線封鎖中の龍驤からの緊急通信。敵増援。殲滅。さらに大規模増援。全て潰す。作戦終了。海上・海底捜索。応答の無い周波数。発見された駆逐艦『響』の前半分。艦首付近の大穴。内側から破裂したかのような艦尾周辺。
無意識に水野が呟く。
「響達を殺したのは……ダ号じゃ、ない?」
「メナイ少佐」
クリップボード片手に現場で撤収作業の指示を出していたメナイ少佐の元に、一人の男が現れた。奇妙な格好をしていた。戦闘機乗り必須のフライトスーツを着込み、ヘルメットまで被ったままの姿をしていた。
最後の最後に奇襲を仕掛けてきた小型飛行種の追跡に向かえた唯一の追撃者で『Kerberos-13』のコールサインで呼ばれていた男だった。
さらに奇妙な事に、Kerberos-13は両手にそれぞれ奇妙な荷物を持っていた。機体側のデータディスクと、墜落時に回収される記録装置――――ブラックボックスだった。
「どうした?」
「お話があります。ここでは話せません」
「解った。……ハナ!」
メナイが、耳に挟んだ小型の無線イヤホンでCallした。接続先は、今二人が立っている足元の持ち主である重巡洋艦『愛宕』(メナイ少佐はハナと呼称)である。
【提督、じゃなくてパパ、どうしました?】
「お前の会議室を使いたい。開けておいてくれ。何らかの指示が必要な時は私の副官に仰ぐように皆に伝えてくれ」
【わかったわ。お掃除の皆さんにはそこだけ切り上げてもらっておくわ】
「助かる……では行こうか」
「はい。了解しました」
見事な敬礼を返したKerberos-13がメナイの後に続く。
「さて。部屋の入り口には鍵を掛けたし、窓も無いし、スタンドアロン端末もここには用意されている。内緒話には最適だな」
「はい。少佐殿。では端末をお借りします」
口数少なく、Kerberos-13がデータディスクを立ち上げた端末に飲み込ませる。ややあってビューアーが起動し、ディスクの中身が再生され始めた。
カラーなれど画質不鮮明。音声データ無し。ガンカメラによる映像のようだった。
「先の追撃戦の映像です」
メナイは無言で映像を見る。Kerberos-13も余計な口を挟まない。映像の光景は淡々と進む。
ボギーは4機。ピーカブーREADY、アイスハウンドREADY。FOX2、FOX2。ブレイク。スプラッシュ2。ボギー1減速。エンジントラブル? Kerberos-13、GUN。BINGO。最後のボギー4。右急旋回。急旋回。急旋回。ボギー4とKerberos-13の根競べ。ドッグファイト。さらに続く急旋回。
ボギー4の軌道がブレる。速度が落ちる。FCSが照準。ターゲットマーカー出現。ボギー4急上昇。Kerberos-13も追従。太陽の光でカメラとIRセンサが漂白される。ピーカブーもアイスハウンドも先のFOX2で品切れだ。
狙ったかのようなタイミングでボギー4が急減速。コブラ。瞬く間にフルスロットル状態のKerberos-13が追い抜く。Kerberos-13も急旋回。追撃の手を恐れて速度が落せない。ボギー4は遥か眼下。
それでも追跡続行。ボギー4はもうほとんど水平線の辺りだ。その先に、敵空母がいた。
ガンカメラが自動的に最大倍率。更に不鮮明になる画像。形状から察するに、軽母ヌ級。上顎を反対側まで倒した着陸態勢を取っているのが見て取れた。その滑走路代わりの口の中。
何か、いる。
不鮮明なKerberos-13のガンカメラからでは、人の上半身のようにも見えた。頭のような部分からは、放熱索のような、細長い何かの束が生えていた。そう、ちょうど、人の髪の毛のような――――
小型飛行種を格納した軽母ヌ級が口を閉じる。そのまま垂直に急速潜航。
Kerberos-13が端末を操作。映像を停止させる。
「……Kerberos-13、今の事実は他に誰か?」
メナイの表情は、最早驚愕と言って差し支えないものだった。
「はい。少佐殿。自分と少佐のみであります。記録も、このディスクとブラックボックスだけであります」
「よろしい。君も他言無用だ。そのデータはこちらで預かる」
「はい。少佐殿。それともう一つ、奇妙な事が」
「何だ」
「はい。その軽母ヌ級がいた海域なのですが……IFFは第202艦隊を示していたのです」
ちょうどその時Kerberos-13に背を向けていたメナイがどんな表情をしていたのか。
それは、誰にも分らない。
本日のOKシーン1
Q:基地司令がブリーフィングで言っていた応援とは何だったのですか?
A:拷問だ! とにかく基地司令を拷問に掛けろ!!
『いたか!?』
『いや、この部屋のどこかだとは思うのだが……』
ちょうどその時、ブイン基地の基地司令は、己の執務室の片隅にある汎用ロッカーの中に隠れて息を潜めていた。
待て。落ち着け。話せばわかる。
そう言ってここを飛び出す事が出来ればどれほど楽か。普段なら、まぁ、骨の2、3本で済むだろう。が、今回は無理だ。殺される。あれだけ絶体絶命のピンチに、あれだけの大見得切っといて何もしなかったのだ。何もされなかったらむしろ罠の存在を疑う。
だが、本当に何が起こったのか今でも解らないのだ。
この基地司令が応援を求めたのは、横流ししている金(キン)の最大の取引相手、ガダルカナル島のリコリス飛行場基地の基地司令である。あっちの基地司令も相当のワルで、飛行計画をいじくれる立場にあるので色々と後ろ暗いお客さん達のフライト計画でコツコツ銭を稼いでいたらしい。
そしてこちらは一攫千金の代名詞である金を、あちらからはお客さん達からの代金である武器弾薬や燃料、ちと国際法的にアウトなお薬などを融通してもらっていたのだ。
そして今回、ブインの基地司令は支払いの焦げ付いていた前回の取引のツケを支払いも兼ねて、今回の作戦に援軍として無理矢理リコリス防空隊の連中をねじ込んでやろうと画策しており、意気込んで無線機に飛びついたのだが、
―――――リコリス? ソレガ、 ワタシノ、 イマノ、 ナマエ?
その声が耳に入った瞬間、本能的に通信機上部に増設した自爆ボタンを押した。使用していた周波数帯には軍用出力のアクティブジャマーが突っ込まれたし、こちら側のログも火薬と酸で物理的に消去されたし、そもそもこの通信機自体がある種のリモコンであり、実際の通信には自前で無人島に敷設した偽装百葉箱(勿論自爆済み)を経由して通信していたので絶対にこちらの正体はバレないはずだ。
―――――ステキナ、 ナマエネ。 ヘンダーソン、 ヨリ、 ステキ。
だというのに、あの、誰の物とも知らない女の声が耳にこびりついて離れないのだ。
そう、今にも、このロッカーを開けてこちらにその手を――――
『いたぞ、この中だ!!』
その後、ロッカーの中で体育座りをしてしめやかに失禁かつ失神していた基地司令が発見された。
その姿はあまりにも哀れだったのか、それとも流石に拷問はやりすぎだと思ったのか、関係者一人につき一発(凶器持ち込みOK)で何とか許してもらえたそうだ。
本日のNG(没)シーン
ダ号目標破壊作戦終了から数日ほどたったある日の事である。
銀剣突撃徽章を授与することになった水野と古鷹は、何故か基地司令の執務室でも、要人歓迎のために桟橋でもなく、通信室に呼び出されていた。
何故か。
その理由は、今まさに二人の手の中にあった。
「……あのー、水野中佐? 勲章の授与って、普通こういうやり方なんですか?」
「い、一年前の時は、普通に偉い人から手渡しで貰ったのだが、流石にこれは……」
絶句する二人とその周囲の野次馬ども。
彼らの手の中には、A4サイズのコピー紙が一枚ずつ収まっていただけである。その表面には、件の銀剣突撃徽章をビロビロに押しつぶしたようなものが最高画質でプリントアウトされており、その周囲にはわざわざご丁寧にも『のりしろ』『キリトリ』『やまおり』『たにおり』の文字や点線まで入っている始末である。
故に、
「「「子供雑誌の付録かよ!!!」」」
……故に、怒った水野と古鷹がこの紙切れをズタズタに引き裂いてしまったとしても、それはやむを得なかったのだ。とは一応の弁明をしておく。あんなのでも正式な勲章であるわけだし。
本日のOKシーン2
【……お、戻ったん君だけ? お疲れやねー。……ホンマやなー。姫さん、話が違うっすよ。あの子は特別やー、て言うとったやないの。ねー? ……お、慰めてくれるん。ありがと。ほな、追撃隊が来る前に戻ろか? ……やっぱ水野少佐はカッコええし、強いなぁ。ますます惚れてまうなー、もー! 金剛はんやのうて、ウチの方に絶対振り向かせたるでー!】
今度こそ終れ。