<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38827] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:14aa3c64 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/22 04:50
※オリ設定が盛ーり盛りです。
※お、俺の○×ー!? と言われかねん表現が濫用されています。ご勘弁ください。
※作者に対して、国語力や地理歴史軍事科学的な描写や知識等を期待するのは……その、なんというか、宗教に近いです。
※作者は格闘技とか全然サッパリな人種です。お察しください。
※人によってはそこそこにグロテスクかと思われる描写が一部有ります。
※後編へ続くと言っておきながら、ひと月近くかけておいてこの体たらく……まこと申し訳ありません。




 ダ号目標破壊作戦決行は、3日後だと基地司令官は言っていた。
 作戦が発令された昨日までとはうって変わって、今日は朝から雨だった。



『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ ダ号目標破壊作戦 - Destroy target Darksteel.』(中編)



 ブイン島仮設要塞港基地こと二階建てのプレハブ小屋の1階には、基地の運営に関して最も重要とされる3つの部屋がある。
 一つ、食堂。
 これは当然である。温かくて美味くて硬すぎない食事が将兵の士気に直結している事もあるが、食事の度に一々町の定食屋なりどこへなり行くのは効率が悪すぎるからである。第一、外出中に出撃警報が鳴ったらどうしろというのだ。
 己の秘書艦の手料理という選択肢もあるが、ほぼ完全な自給自足(ただし食住のみに限る)が可能なブイン基地ではどちらかと言えば艦娘同士や一部の有志らでローテーションを組んで給仕当番(給食のおばちゃんのお手伝い)を回している。おばちゃんのフォローもあるが、それでもメシの不味いヤツが当番だった日は胃薬片手に覚悟を完了すべし。
 次に、基地司令の執務室。
 これは書類上はともかく実際には正直どうでもいい。
 語弊が無いように言っておくが、このブイン基地の、現在の基地司令だから言えるのである。なぜならば、現在の基地司令は指令としての仕事を全部彼の秘書艦の駆逐艦『漣』に放り投げて、自分は銭勘定と現地住民の雇用捻出という屁理屈で採掘させた金(キン)の横流しと着服に専念しているようなクズだからである。ただしこのクズ、その際に基地運営に必要な各種物資や時間という名の最重要資源をきっちりもぎ取ってくるあたり、単なる無能のダメ人間ではないという事を物語っている。が、この男の場合、本土からの目が届かない場所で甘い汁が吸えなくなるのが嫌なだけ。という可能性も十二分に考えられる。
 最後に、通信室。
 ここも文字通りの場所ではあるが、各地の軍司令部と直結している大型テレビや電話の中継器やインターネット(衛星中継のため接続時間は1日最大15分まで)設備の他にも、ファクシミリにカラーコピー機に押し切り裁断機にラミネートメイカーにファイル棚やマグネット付きホワイトボードにM+計算の出来る大形電卓など、通信室とは名前だけで、中には事務仕事に必要なあれこれの大半がそろっている。実際、古鷹や202の水野や基地司令のところの漣も事務仕事が溜まった時には執務室ではなくてこの部屋でカンヅメになっている事の方が多い。

 そしてその日、井戸は朝も早よから通信室に籠っていた。

 新ジャンル『引きこもり軍人』の開拓ではない。ただ単に、関係各所に総当たりして敵――――ダ号目標に対する情報を掻き集めていただけである。映像資料、交戦データ、数少ない生存者からの証言を纏めたプリントにTeam艦娘TYPE以外のその他色々。ガセか真実かはさておいて、兎に角情報源の母数を増やして多角的なアイデアは出てこないかと悩んでいたのである。丸いコインも横から見ると四角い。美味しそうなリンゴも裏側は虫食いかもしれない。つまりはそう言う事である。
 本土との慰問通信(各艦隊に付き週1回。1人15分まで。インターネットの使用時間も含む)に訪れた各艦隊の面々の罵声や懇願を右の耳から左の耳へと吹き流してまで調査に没頭していた井戸が掴んだ結果は、

“侵徹性能に優れた徹甲弾か何かあればいけるんちゃうの?”

 というひどく曖昧なものだった。
 交戦した各艦隊の装備品を洗ってみたところ、どいつもこいつも対空用の三式弾やCIWSや広域制圧用の有澤弾ばかり――――察するに、少数の大型艦よりも無数の小型艦艇や航空機による四方八方からの浸透戦術を警戒していたものと思われる――――で、対戦艦級の装甲を貫けそうな砲と言ったら35.6cm連装砲くらいのもので、九一式徹甲弾すら積んでいなかった始末なのである。お前らそんなに小型種が怖いのか。それともそんなに面制圧が好きなのか。
 つまり結論としては、陸軍さんが『貫通弾のゴールデンスタンダード』などとフカシをこいているAPFSDSなる徹甲弾(12センチだなんて豆鉄砲がスタンダードとは笑わせてくれる)をどうにかして用意するか、それ以外の各種徹甲弾頭を、数を揃えてからのつるべ撃ちで穴開きチーズにしてやるのが一番確実なのでは。と井戸は扉の外で殺気立っていた面々にホワイトボードの図解入りで説明した。

『五月蝿え黙れ能書きはいいからとっととそこを開けろ』

 普段は大人しいはずの赤城や古鷹を含めた関係者面々――――というか201から203までの大半の面々にそのような類の事を殺気立った形相で言われて首根っこを掴まれ、部屋の外に放り出された井戸に弁明の機会は無かった。




「水野中佐、おられますか?」

 顔にしこたま青アザをこさえた井戸がノックを3回。ややあって中から返事が返り、失礼しますと一言だけ告げて中に入った。
 外は雷混じりの大雨なのに電気も付けていなかった部屋の中はひどく静かで薄暗かった。この部屋の主である水野は窓の縁に腰掛けて、手にしていた大きなペンダント――――井戸の立っている位置からは何かの破片にチェーンを通しただけの無骨なものに見えた――――を見つめており、金剛と電はこの部屋の大半を占拠しているベッドの縁に腰掛けて水野を静かに見守っていた。
 水野が破片を胸元に仕舞ってから顔を入り口に向けた。

「応。井戸か。どうした……どうした、その顔も」
「はい。慰問通信の時間です。作戦前という事で基地司令が特別に基地要員全員に通信室を解放したので。顔は気にしないでください」
「そうか。分かった。今行く……金剛、電。お前らはどうする」
「私はどこまでも提督について行きマース」
「わ、私もご一緒します……工場で同期出荷だった電ちゃん達とも久しぶりにお話がしたいのです」

 水野達が部屋を後にする。入り口にて井戸とすれ違った際に、嗚呼、そうそう。と水野が思い出したかのように告げた。

「今のうちに言っておくが、あいつは――――ダ号目標は、俺が、俺達が殺る」

 何かの罠か。一瞬で井戸はそう考えた。
 だってこないだの重巡リ級の繭の時も金剛が傷つくからヤダみたいな事抜かしてたし、その前の前の、天龍単艦でタンカーブン回してリ級3隻を沈めた時も何か似たようなこと言ってたし。

「……とでも言いたげな表情だな。だがな、井戸少佐。今回は大真面目だ。本気と書いてマジと読め。何もするなとは言えんし言わん。むしろ積極的に手伝え。だが、最後のトドメだけは俺達に討たせろ。無茶な事を言っている自覚はある。だが、頼む」
「井戸少佐、私からもお願いしマース」
「お、お願いします……」

 水野だけではない。いつの間にか彼の背後に立って彼と一緒に頭を下げていた金剛と電からも、普段の様相からは想像できないほどの、深くて冷たい圧迫感を静かに放っていた。
 ただ事ではない。

「それは構いませんが……何か、あったのですか?」

 井戸のその問いかけに水野は、やっぱ話さなきゃ駄目だよな。と頭をボリボリと掻きながら言った。

「あれは――――ダ号目標は、1年間探し続けてきた敵だ……と思う。龍驤達が最後に送ってきた情報とも一致している」

 龍驤? という疑問が井戸の顔に浮かんでいたのか、水野が付け加えた。

「貴様がここに着任する半年くらい前の話だ。その日、餓島方面から進出してきた深海凄艦の大群がブインに向けて進撃を開始してな。ショートランドからの選抜部隊と、俺と金剛と電が正面で派手に暴れて敵の目を引き付け、メナイ少佐の艦隊と、龍驤、暁、雷、響の4人が大きく迂回して敵の背後から魚雷と艦雷でまとめて仕留める。その予定だった」

 そこで水野はだが、と一度言葉を区切った。

「だが、連中も似たような事を考えてたらしくてな。別働隊と鉢合わせしたそうだ……作戦終了後に海底を総ざらいして見つかったのは、駆逐艦『響』の前半分と、響のコアの一部だけだった。暁と雷と龍驤の3人に至っては欠片1つ見つかりゃしねぇ」

 そのコア片や残骸だってTKTの連中が研究用の材料として持って行っちまいやがって、手元に残った『響』は、もう隠し持ってたこれだけになっちまった。と、胸元に仕舞っていた破片を取り出した。

「今でも夢に出てくる。4人の声が海の底から響いてくるのだ。助けてよ、どうして来てくれないの、と。だからお願いだ。井戸よ。俺に、俺達に敵を討たせてくれ!」

 ブイン島仮設要塞港基地所属、水野蘇子中佐。
 ここではメナイ少佐と並んで最先任であり、帝国海軍でも3人しかいない黄金剣翼突撃徽章持ちでもある。そんな大英雄が一介の少佐に頭を下げているのである。
 井戸に、否と言えるはずが無かった。



「アラ、新しい方のイナズマちゃん」
「あ、商店街のおばーさん、こんにちわなのです」

 ちょうどその時、203の電は慰問通信を行わず、商店街を歩いていた。
 通信を掛けたところで本土には誰も出る相手がいないという訳ではない。佐世保や呉に配備された同期出荷の電達とは今でも手紙でやり取りをしているし、203の電はクローン養殖品の艦娘にしてはたいそう珍しいコンタミ艦(※翻訳鎮守府注釈:contamination.(汚染、混入)の意。ここでは艦娘以前の記憶のそれを表す)である。超展開中で意識容量や処理速度が大幅に拡張されている訳でもないのに、生まれ故郷の所在番地も当時通っていた学校のクラスメイトの名前も実家で飼っていた犬の名前と好きなオヤツも空で言えるし、自分をミキサーにかけてスープにしやがった執刀医のチョコレイト先生の厭らしいニヤケ面だってまだしっかりと覚えている(執刀中に麻酔が切れたのは絶対に故意だと、この電は今でも考えている)。
 彼女ほど濃い記憶を持った艦娘は、稼働中の全ての艦娘を総ざらいしても滅多に居ないだろう。前もって申請しておけば今日の慰問通信でも、電はやろうと思えば実家に電話を掛ける事も出来るし、機密に触れない程度の会話ならできたのである。
 だが、それをしなかったのは単に気が乗らなかったのか、それとも見知った顔が一度に何人も何人も同時に電話をかけてくるのはちょっとアレかな。という考えが頭をよぎったからである。

 閑話休題。

「イナズマちゃんイナズマちゃん、ゴコーキ=サンが出撃するってホントなのかい?」
「ご……ごこ?」

 ひこーきゴゴゴ……なのです? と電が首をかしげていると、商店街のばーちゃん(煙草屋)は、ああそうそうと手を打って、

「護国鬼=サンだよ護国鬼=サン。ゴコーキ・ミズノチューサ=サンのことだわさね」

 護国の鬼。水野中佐。
 何それ怖い。

 電には、その厳めしい二つ名と、真っ昼間から自分ンとこの旗艦と壮絶な夜戦(意味深)を繰り広げている、あの助平のお隣さんがイコール記号で結ばれているなど、まるで想像できなかった。
 その後、電はばーちゃんに対して、詳しくは分からないのですが水野中佐も出撃するみたいなのです。とだけ答え、翌日の出撃に備えて早々に基地内に戻り、同じ事を考えていた他の艦娘達と一緒に整備と砲弾の補給を済ませ、早めの夕食を取り、入浴を済ませ、そのまま就寝した。途中、202の電や金剛らと合席した時に昼間の事を聞いてみたが、良い顔はされなかった。

 電を初めとした203艦隊の面々がブイン島の『護国の鬼』を拝むまで、あと1日。


 そして作戦当日。
 有効な策など、何もなかった。


『MidnightEye-01よりAllFleet, MidnightEye-01よりAllFleet. 衛星が確認した接触予定海域まであと7分。予定海域に深海凄艦の大型種を確認。作戦海域に変更無し。繰り返す。作戦海域に変更無し』

 上空で旋回警戒していたMidnightEye-01――――以前の作戦と同じ機体と同じ乗組員だ――――が、警告を促す。

 結局ブイン艦隊が採れたのは、衛星での定時撮影および航空機による広域索敵で敵の潜伏海域を割り出し、201および203艦隊が先行して精密索敵&先制攻撃。そしてダ号目標をこちらが有利に戦えるような海域まで誘導し、202艦隊と合流して手持ちの全火力を後先考えずに叩き込む。という、策どころか最低限の戦術ですらなかった。映像資料にあった前衛部隊も大体同じような事をやって全滅したというのに。
 数少ない救いと言えば、交戦予定海域内で目標らしき深海凄艦が見つかった事と、井戸が各艦隊に用意出来た徹甲弾の存在と、202艦隊の士気の高さに、201のエアカバーくらいのものである。救いの手はゼロやマイナスではなく4つもあった。ここは悪魔に基地司令の寿命を売っ払ってでも5つ目が欲しかったが、誰も悪魔の電話番号など知らなかった。
 そして現在、第203艦隊は、同艦隊最大の火力を持っている正規空母『赤城』を中心に輪を描いたような陣形――――輪形陣――――で、最後にダ号目標が確認された地点へと移動していた。
 その輪形陣よりもさらに単独で先行していた同艦隊の旗艦『天龍』が通信を返す。

【Fleet203天龍よりMidnightEye-01. 大型種の詳細を知りたい。それは目標か?】
『MidnightEye-01よりFleet203天龍。詳細は不明。偵察衛星が送って来たPBGRの波長および周波数から、高い確率で戦艦ル級と思われるが、脅威ライブラリ内の数字と一致しない。要警戒されたし』
【Fleet203天龍。了解だ。実際見て見なきゃ分からねぇってことか……さー来い来い。新装備で全員纏めてブッ潰してやる。囮役が獲物を仕留めてはいけないなんて法律無いしな!】

 出港後に戦闘艦としての本来の姿への展開作業を終えた第203艦隊に所属する艦娘の面々が程度の大小こそあれ、天龍のそれに同意した。何せ、電が赴任してきて以来の全艦艇での出撃任務は事実上これが初だったからであるし、天龍の言葉に間違いは無かったからである。見た目のナリや材料は小娘でも、その本質はあくまでも戦闘艦。策が無いだの攻撃が通らないだのと言った多少の逆境如きで萎える士気の持ち主は一人もいない。それが艦娘である。

「相手が大型艦なら、喫水線の下を狙える魚雷が一番有効ですよね! 大潮頑張ります!!」
「定数は満たしておりませんが、一航戦の名に恥じぬ制圧爆撃、とくとご覧に入れましょう」
「那珂ちゃんはー、何も無いから歌を歌うねー」

 普段は地方巡業(遠征任務)を専門職としているはずの那珂ちゃんと大潮、そして201クルーから麻雀で巻き上げ、燃料を売っ払ってまで求めたボーキサイトのありったけを喰ってどうにか定数の半分は艦載機を補充できた赤城までもが艦隊に加わっていた。
 そして宣言通りに那珂ちゃんが歌いだした。いつも通り大潮のBGM付きで。


\\われはーかいぐん、わがてきはー、うみーのそこのあーおびょうたーん♪ それーにしたごうつはものはー、ともーにびょうじゃく、死人面ー♪//


 それ陸軍さんの行進曲じゃねーか!! というツッコミが帝国海軍の軍人2名および彼らの所属する全艦艇から入ったのは、歌い出してから間もなくの事だった。井戸と水野の二人に至っては、構造上開かないはずの艦橋の窓を開けてまで那珂ちゃんに向かってツッコミ代わりのネジを投げつけていたし。

『……MidnightEye-01よりFleet203. お前らずいぶんと楽しそうだなぁ』
「203CommanderよりMidnightEye-01. まぁ、大目に見てやってくれ。今日がウチの電の初陣なのでな」
『MidnightEye-01より203Commander. ああ? この間の珊瑚平原の時はどうした? ……んですか』
「艦隊全員での出撃では。という意味でだよ」
『Oh, I see.……っと』

 上空を先行偵察していたMidnightEye-01との会話線が、強制的に緊急コール回線に切り替わった。

『PAN,PAN,PAN. PBGRデバイスにhit. 発生源6。急速浮上中。20秒後に艦隊と交差。構成、中型3、小型3。大形もそちらに移動を開始している。こいつら囮だぞ』

 それに対する203艦隊の反応は、劇的だった。

「203CommanderよりMidnightEye-01. 了解。全艦、敵浮上予定地点にヘッジホッグ全弾投下!」
【了解! 赤城と古鷹以外の全艦、爆雷投射! 面だ、徹底的に面で押しつぶせ!!】
『『『了解!』』』

 井戸の指示を天龍が復唱し、各艦娘達が一斉に自我コマンドを入力。駆逐艦と軽巡洋艦用の固定装備として搭載されている汎用投射筒から一斉に連鎖起爆式の爆雷が吐き出され、さしたる音も水柱も立てずにに海の中へと吸い込まれていった。
 しばしの静寂の後、海中より連続した爆発音。
 那珂ちゃんが叫ぶ。

『やったか!?』
『MidnightEye-01よりFleet203! 中型2健在! 重巡リ級! 浮上!!』

 艦隊の真正面に立ち上がる大きな水柱が二つ。MidnightEye-01からの通信にあったとおり、敵前衛の生き残りである重巡リ級だった。

【お、おい井戸!】
「構うな! 201のエアカバーに任せろ! この至近距離でリ級の相手は無理だ!! 全艦、最大戦速を維持!!」
『りょ、了解なのです!』
『Balmung-01 FOX1!!』
『Balmung-02 FOX1!!』
『Balmung-03 FOX1!!』

 井戸の声が聞こえた訳ではないだろうに、上空後方から急降下してきた3機編成(ケッテ)の大型巡航機『バルムンク』が、一斉にそのどてっぱらに抱えていた、はげたか級の特殊巡航ミサイル『スレイプニル』を発射し、シャバの空気を吸い込んだばかりの重巡リ級2匹を、再び暗く冷たい海の底へと叩き落とした。

『BINGO!』
「203CommanderよりBalmung, 支援に感謝する!」
『良いってこ――――』

 前方に抜けていった3機のうちの右端が突如として爆発四散。残った二機は雲の中へと急上昇しつつ散開して退避。それすらも喰われる。

『MidnightEye-01よりFleet203! 戦艦ル級が増速した! それだけじゃない、敵エスコートパッケージを確認。構成、駆逐ハ級2、重巡リ級1、軽母ヌ級1。戦艦の陰に隠れて逆背景放射を誤魔化してやがった! ケニー達をやったのもこいつらだ!』

 その通信からほんの数瞬で、井戸は思考を煮詰める。
 あの戦艦ル級が目標かどうかは分からない。だが、ここまで来たら逃げられない。この距離で回頭運動でも始めようものなら、どんなヘボでも2発に1発は当てられるはずだ。つまり結論、殺らなければ殺られる。
 203艦隊に無線を飛ばす。

「203艦隊、砲雷撃戦用意! 赤城、艦隊指揮任せる! 天龍『超展開』行くぞ、隊から距離とれ! 203各艦、超展開中の支援頼む!!」
『赤城、了解しました! ……メインシステム統括系からも受理下りました、これより一航戦赤城、艦隊の臨時指揮を取ります!!』

 艦娘システムの最大の利点は、普段の整備や補給の容易化・超高速化以外にも、こういったところにもあると井戸は思う。彼女達には確かな自我も知性もあるし、焼き込みの戦術データと座学だけとはいえ出荷前から海戦や艦隊運用に関してのかなりの知識も有しているし、世界大戦当時の記憶や経験だって(個体差は激しいが)しっかりと持っている。解り易く言うなら人と機械の美味しいトコ取りしているようなものだ。ハッキリ言ってそんじょそこらの新品少尉なんぞよりも、進水したばかりの新品の駆逐艦娘の方が数千倍はマシな仕事をする。ましてや赤城程の大物になれば何をいわんやである。
 もしも艦娘システムが存在しなかったら、今頃人類はどこら辺まで追い詰められていたのだろう。いや、ひょっとしたらそれに相当する別の技術なり兵器なりを開発していたかもしれないな。と井戸は戦闘中にも拘らず、そんな不謹慎な事を考えていた。

『MidnightEye-01よりFleet203, 201艦隊も超展開を実行した。完了まであと5分。頼む、あいつらの敵を討ってくれ!!』

 MidnightEye-01からの懇願に井戸と天龍は答えず、行動で示した。
 艦隊から独り離れた軽巡洋艦『天龍』の艦体が、天を目がけて大きく傾いていく。船底が大気の中に露わになる。そちらに攻撃が向かないよう、赤城が航空隊を発進させて敵に圧力をかけ、古鷹らによる砲打撃が激しくなる。

「【天龍! 超展開!!】」

 飛来したいくつかの砲弾の軌道を光と音とエネルギーの奔流で逸らしながら、軽巡洋艦『天龍』が輝きの中に消えていく。
 丁度その時、井戸の脳裏には様々に入り乱れた記憶と思い出が次々と浮かんでは消えていった。


 肺と培養槽の中から抜き取られる保護液、解放されるカプセルユニットの固定具、艦生初の肺呼吸、所長との契約、目の前で泣いているコイツがオレの提督か? 最濃・最密の原液による意図的な完全コンタミ艦、そんなにオレが怖いのか、高速培養剤で水増しした余所行き用の『天龍』など知った事か! 昔の事を喋って落ち着かせようとしたらさらに泣かれた、戦争は終わらせる、もう訳わからん、終わったらまた元の体に戻してやるからな、元に? そして――――


 記憶の混濁で、井戸の脳の片方から悲鳴が上がったが、如月の時ほど酷くはなかった。
 片頭痛が収まる頃にはもう、軽巡洋艦として海に浮かんでいた天龍は存在しておらず、代わりにいたのは、艦娘としての天龍だった。外観は多少機械の部分が多くなっており、背中の煙突からは心臓の鼓動のように規則正しく排煙と汽笛を吐き出し続けており、左胸の心臓――――動力炉から燃えるような輝きの光が装甲越しにも見えているとはいえ、普段艦娘として井戸と喧嘩してたり、井戸と一緒に干物作ってたりしてる天龍とそう変わらない形状をしていた。
 ただ、そのサイズだけは艦娘とは言い難い巨大さだった。

【天龍、超展開完了! 機関出力155%、維持限界まであと600秒!!】
 ――――天龍、最大戦速で前進! 敵エスコートと距離を詰めろ! 後方のル級に砲撃される前に残らず片づけろ!!
【応よ!!】

 超展開状態となった天龍が、腰の近くまで海水に浸かりながらも竜骨のついでに新調した主機のパワーとカカト・スクリューの力を借りて、水の抵抗をまるで感じさせない力強さで水をかき分けてリ級に向かって進んでいった。いつぞやの珊瑚平原の時のように走り回る事は不可能だったが、それでも海の上を行く船としては破格の速度だった。
 対するリ級も、その異形の大口と化した腕から砲身を生やし、牽制射撃を行いながら天龍との距離を詰めてきていた。

【……なぁ、井戸?】

 天龍と一体化している井戸の意識に、そわそわとした好奇心のような概念が不意に流れ込んできた。
 やれやれと思いつつもちゃんと意識して答える。後で拗ねるからだ。

 ――――……天龍、CIWS抜刀せよ。
【待ってました! 戦闘電圧チャージ完了、ソー全力回転中!!】

 やれと言われる前に済ませるのは美徳だが、これはちょっと違うのではないのか? という井戸の懐疑的な概念などどこ吹く風で、天龍は嬉々とした概念を隠すことなく滲ませて、左手で佩いていた大太刀を両手でしっかりと握り、大上段に構える。
 指呼の距離にて天龍と相対した敵リ級が、主砲を生やしていない、もう片方の腕から射突型21inch魚雷を叩き付けようとさらに接近する。
 まさしく天龍の望んでいた状況だ。

【海底に戻りやがれ!!】

 振り上げていた大太刀を力の限り叩き付ける。リ級が咄嗟に砲身を掲げてガード。天龍がさらに力を込める。リ級も負けじと開いていたもう片方の腕も添えて押し返しにかかる。接触部から激しい火花と金切音が連続して立ち上り、徐々に徐々に砲身に刃が喰い込んでいく。否、高速で回転する無数の超硬度チェーンチップが、その砲身をヤスリ掛けするかのようにゆっくりと削り取っているのだ。
 砲身を半ばまで削り取られたリ級はその事に気付き、他の仲間に助けを求めるようにして背後を振り返る。駆逐ハ級はすでに2匹とも海中に没し、軽母ヌ級も赤城の航空隊によって、搭載していた飛行小型種の殆どを撃ち落され、自らも古鷹の同時攻撃で撃沈寸前の有様である。頼みの綱の戦艦ル級に至っては、この距離で砲撃支援を頼もうものなら自分ごと撃ち抜かれるのがオチだ。再び天龍の方に首の向きを戻す。目が合う。壮絶な笑顔が返って来た。海の底でもないのに視界が滲んできた。
 ついに砲身が切り取られる。




【これでラストをっ!?】

 護衛艦隊の最後を仕留めたと思ったら、後方の戦艦ル級からの砲撃が始まった。第一砲ははるか後方に着弾。なのに天龍のいるあたりまで衝撃波が届く。

 ――――どうやら奴さん、相当お冠のようだ。
【らしい、な!】

 天龍が14センチ単装砲を発射。1発目は大きく後方に外れ、二発目で至近弾を得、三発目がル級の左肩に直撃するも、角度が悪かったのかその丸みで弾かれ、後方で爆発を起こす。

【マジかよ……ぉわぷっ!?】

 敵ル級が再度発砲。至近弾による爆発で、天龍が大きくバランスを崩して顔面から海に突っ込む。反射的に目を閉じたまま海底に手を付き、何とか立ち上がろうとした天龍の右腕を、何かが掴んだ。
 反射的に目を開けた天龍と、それこそ口付けでもできそうなほどの超至近距離に重巡リ級の顔があった。

 ――――【ッ!!?】
『MidnightEye-01よりFleet203! さらに敵増援、急速浮上中! 中型の反応多数!! 包囲されたぞ!! 201の金剛がそちらに向かっている! それまで何とか時間を稼げ!!』

 もう少し早く言え。
 そう言った愚痴が二人の脳裏に浮かぶよりも先にリ級が天龍の腕を全力で引っ張る。すぐ目の前にあったほぼ断崖同然の大陸斜面――――浅瀬続きの大陸棚の終わりで、深海の始まりだ――――へ引きずり込まれる。

 更なる深みへと沈むよりも先に重巡リ級が残りの両手両足を天龍に絡ませ、動きを拘束するのとほぼ同時に天龍と井戸の生存本能がコマンド。背中の艦橋状ハードポイントにマウントしてあった14センチ単装砲を零距離接射。即座に着弾。空気中よりも遥かに強く早く伝わる海中衝撃波に脳と顔面を揺さぶられながらも何とか拳一つ分のスペースを引き離し、手にしていた大太刀を突き立てようとする。さらに衝撃。腕と足と腰に何かが更に絡みつく。新手のリ級が3匹。
 完全に拘束された。
 二人の脳裏の片隅に表示されている簡易の高度計に意識を傾けてみれば、自重と数体のリ級による引き込みによって、恐ろしい勢いで数字がマイナスに傾いてゆく。天龍の各所を包む金属装甲から、水圧に耐えかねて歪みに呻く不吉なうめき声が聞こえてきた。

【ひっ……や、やだ! し、沈!?】
 ――――天龍! 全バラスト緊急ブロー! カカト・スクリュー、マックストルク!! 何が何でも振りほどけ!!

 まだごく普通の軽巡洋艦『天龍』だった頃の、かつての世界大戦当時の最後の記憶がフラッシュバックしつつも天龍は、そのトラウマから逃げ出すためにも、正確無慈悲で知られるTeam艦娘TYPE発行のカタログスペック以上の出力を発揮。単純な馬力差で引き剥がせないはずの4匹のうち、真正面に組み付いていたリ級との間に再び拳一つ分の隙間をこじ開け、再び大太刀をその隙間に割って入れさせる。
 戦闘電圧を出力。チェーンソーが深い海中であるにも拘らず高速で回転し、周囲に不吉な高転音を響かせる。そして間髪入れずにそれを押し付ける。
 元々、相手もこれ以上離されまいと力を込めて全身で締め付けてきていたのだ。高速回転する微細なチェーンチップは面白いほど勢い良く相手の胸元に吸い込まれていく。
 焦燥と恐慌に駆られた天龍が叫ぶ。

【死ね! 死ね死ね死ね! 早く死ね!!】

 リ級の前面装甲を食い破り、生物で言うところの筋肉のような形状と機能を有した運動デバイスを粉砕し、最後の守りであった肋骨状の内部装甲を木端微塵に砕き飛ばし、その最奥部に安置してあったコア(と思わしき無駄に硬い手応えの何か)に到達したあたりで、最早不気味な痙攣を繰り返すだけであったその重巡リ級から完全に力が抜ける。
 唯一動く首と頭で不格好な頭突きを入れて完全に体から引き剥がし、間髪入れずに大太刀を逆手に持ち返る。背後の2匹目に突き立てる。

 ――――て、天龍! い、いぞげぼぼ……!! ほゔのごんどろーる゙ ごっぢ、……に゙ !!

 海中にいる艦体としての天龍と一体化しているために、自分は確かに空気を呼吸しているはずなのに、肺の奥まで海水の味と感覚が流れ込んでくるという、およそ最悪の部類に分類される幻覚に殺されかけながらも、井戸が激と指示を飛ばす。
 井戸に指揮権が譲渡された2門の14センチ単装砲が両足を拘束していた2匹の重巡リ級に照準される。天龍が背後のリ級を斬り捨てると同時に斉射。左右それぞれの頭部に直撃。大破撃沈には至らずとも、その衝撃で拘束が外れる。
 全ての枷が外された天龍が、現状出せる最高速度で海面を目指す。
 光を感じるよりも先に、空気の存在を知った。
 最初の一呼吸目よりも先に、片足を引っ張られる。

 ――――【ッ!!?】

 見なくても理解できるが理解したくない。今しがた振り払った2匹だ。足元を振り返るよりも先にもう片方の足も拘束される。手を伸ばせばもう肩の近くまで大気に触れているのに、そこから先がどうしても届かない。
 井戸のパニック的な概念が天龍にも感染する。

【Hi! 今日は雨だからッテー、そんな所で沈んでるのはNo,なーのデース!】

 不意に、場違いに明るい割り込み通信が二人の脳裏をよぎった。それに反応する暇も無く、誰かに伸ばしていた右腕を掴まれ、足元の2匹のリ級もろともに海面に引きずり出される。

 ――――こ、金剛か! スマン、助か

 っていなかった。

 完全な人型。死人色の肌。新月の夜のようなストレートロングの黒髪。金属様の光沢を放つ漆黒のボディスーツ状の表皮装甲。ウニのトゲのようにいくつもの大口径砲を生やした、黒瑪瑙色のブ厚い装甲に覆われた両腕。そして超展開中の天龍よりも頭二つ分は突き抜けた巨躯。
 流れ込む海水に耐えて目を開いた井戸と天龍の手を掴んでいたのは、戦艦ル級だった。

 ――――【。】

 二人の脳ミソが事実を理解するよりも先に体が動いた。拘束されていない左腕で握りしめていた大太刀を起動。文字通り目と鼻の先にあったル級のどてっ腹目がけて高速回転する刃を突き出す。黒いスーツにも見える表皮装甲に接触。猛烈な勢いで火花が飛び散り、刃がジリジリと喰い込んでいく。それ以上突き刺そうとしたところで、ル級が手すきの左腕部装甲から生えている大口径砲群の一門のみを発砲。腕を掴まれて拘束されていた天龍にそれを避ける術は無く、精々が体を捻って心臓部への直撃を避けるくらいのもだった。
 ただ、それを成した対価として、発射された敵砲弾は体を捻った天龍の右肩付近に瞬間的に着弾。大爆発を起こして天龍の右腕部のシステムを完全に絶命させる。続けてル級は、天龍の腕を握りしめたまま――――それこそ子供が濡れタオルで遊ぶかのように軽々と――――ブンブンと上下に振り回して幾度も幾度も海面に叩き付け、最後にはアンダースロー気味に天龍を軽々と放り投げた。
 軽巡洋艦としてのサイズと重量を持つはずの天龍はまるで嘘のように盛大に宙を舞い、再び海面に顔面から叩き付けられ、海面を数回バウンドしてからようやく勢いが収まった。
 ここまでされてもなお、右腕が繋がったままであったのは整備班らによる近代化改修のお陰か。
 天龍のメインシステムデバイス維持系より無数のエラーと警告ウィンドウが二人の脳裏に吐き出されるも、それらすべてを意識の隅に追いやり、立ち上がる。

【右兵装保持腕信号途絶! 酸素魚雷は投射管ごと脱落!!】
 ――――天龍、足を止めるな!!

 井戸が指揮権を握ったままの14センチ単装砲を乱射。背腰部の艦橋状のハードポイントにマウントされた、左右2門のそれらの発射のタイミングをずらす事で簡易の弾幕を張る。ル級は左腕で顔面を、右腕でボディを守るような体勢を取り、左右腕部装甲から生えている無数の大口径砲群から砲弾をバラまきつつ天龍ににじり寄る。先程から数発がニアミスするも顔を防御している弊害か、まともな照準など付けられていないようだった。
 こちらの放った徹甲弾仕様の14センチ砲弾が直撃。黒瑪瑙色の分厚い腕部装甲に醜い砲痕がいくつも出来、大口径砲群のいくつかが不具合を起こしたのか、砲撃の頻度と密度が劇的に低下する。

 ――――天龍、CIWSで切り刻んでやれ! さっきは傷が出来てた!!
【応よ!!】

 その隙を縫って接近戦に持ち込もうとした井戸と天龍だったが、突如としてル級の左右を固める様にして浮上してきた2体の重巡リ級――――先程からこちらの足を引っ張り続けている連中だ――――が阻止砲戦を開始。
 あと数歩で必殺の間合いに入れたはずの天龍がその余波でたたらを踏む。逆にリ級の片方が距離を詰める。大きく振りかぶった異形の大口と化した左腕から、射突型21inch魚雷が付き出される。

 ――――魚雷!!
【!!】

 艦体のバランスを致命的なまでに崩していた天龍にそれを避ける事は出来ず、ただ、己の顔面に向かって突き進む魚雷弾頭を眺める事しかできなかった。
 異様に遅く感じられる時間の中、何の前触れも無くリ級が横っ飛びに吹き飛ばされる。数瞬遅れで飛来した爆発の衝撃波に、天龍が三度海面に顔面をぶつける。顔を上げたちょうどその時に、最後の重巡リ級が吹き飛ばされるのが見えた。艦砲射撃。
 誰だ。203の面々は包囲網の一点突破に集中していてこちらの援護などする暇など無いのに。
 井戸と天龍の意識に割り込み通信。
 202艦隊の水野中佐と、その旗艦『金剛』からだった。

【Hey,提督ー。何かちょっとギリギリSAFEな感じだったみたいデース】
【ふむ。だがまぁ、間に合ったようだな。おい。井戸。離れろ。その位置だと巻き込むぞ】

 戦艦ル級に対して半身になり、腕を組んで不遜な笑みを浮かべて背中の大兵装の照準を付けていた金剛――――言うまでも無く超展開中だ――――が再び主砲の35.6cm連装砲を斉射。着弾時の爆発衝撃で、天龍の上半身が後ろにハッ倒されそうになる。
 この時点で敵、戦艦ル級も金剛を最大級の脅威と認識したのか、止めを刺す絶好の機会と位置にあった天龍を放置して金剛と向き合った。ここで初めてル級は拳を作り、金剛に対する構えをとった。両拳で顎を重点的に守るスタイル――――ピーカブースタイルだ。

【金剛、CIWS起こせ】
【Sir,Yes Sir!】

 対する金剛も、水野中佐の指示を受けて格闘戦へと移行する。その白魚のように綺麗な指を握って作った二つの拳を、胸元で力強くぶつけ合う。
 一度二度までは大岩同士がぶつかり合うような低く鈍い音だったものが、3度目には分厚い鋼鉄の板同士をぶつけ合ったかのような金属質の大低音が響き渡った。
 金剛の両手は、展開機能をちょっと応用して格納していた鋼鉄製のボクシンググローブ(のようなおっかない何か)によって覆われていた。錆止めのオイルを塗っただけの青みがかった暗い鉄色のそれは、人間用のボクシンググローブなんかとは違って溶接リベット剥き出しで、ブ厚いゴム板で鋼鉄板同士を繋いで最低限の関節稼働領域を保証しただけの兎に角無骨な見てくれの角ばった鉄塊だが、その分当たれば痛いどころの話ではない。そんな雰囲気をにじませている凶器だった。
 そんな凶器で拳を握った金剛が、無造作に距離を詰める。一応の構えは取っているのだが、格闘技にはまるで素人な井戸の目からしても隙だらけである事が容易に見て取れた。
 先手は、ル級が取った。
 牽制ついでの左ジャブ。それを金剛は、あろうことか右のアッパーで迎撃。ル級の上半身が泳いだのを見逃さなかった金剛が左のフックでル級の脳天に追撃を掛ける。完全にバランスを崩したル級の脳天に、祈るように握りしめられた両の手によるハンマーナックルを振り下ろす。ル級が苦し紛れに無茶な格好からボディを狙い撃つ。無茶な体制故に力なぞ入らなかったはずだが、それが元々の地力の差か、調子付いていた金剛の体が『く』の字に曲がる。

【上等DEATH!!】

 更に足を止めての殴り合いは続く。そのどれもが、ただの一撃で周辺に轟音と軽い衝撃波をまき散らす必殺の攻撃である。戦艦同士の殴り合いを初めて、しかもこんなかぶりつきの特等席で拝む事になった井戸と天龍はただひたすらにその光景に圧倒された。

 ――――こ、これが大戦艦同士の戦いか!!
【ブ、ブインにいる時は俺と同じくらいの背の高さだったのに!?】

 それからさらに数号撃ち合い、決着の時が訪れた。

【HIGH!】

 金剛の右ストレートがル級の顔面を強かに打つ。

【KNEE!!】

 その反動で半ば無意識に下がったル級の顔面を、金剛が両手で掴んで右の膝で力強く蹴り付ける。

【YEAH!!!】

 脱力した一瞬の隙をついて金剛がル級の体を持ち上げ、肩の上に乗せるようにしてル級の顎と足を拘束。そのまま自分の首にマフラーでも掛けるかのようにして、ル級の竜骨を曲げてはいけない方向へと曲げていく。
 霧島直伝の艦娘式アルゼンチン・バックブリーカー。
 己の末路を予想出来たル級が最後の抵抗とばかりにもがくが、金剛は微塵も拘束を緩めない。それどころか掴んでいる首と足を握りつぶさんとばかりに力がますます籠められる。
 その数秒後、ル級の竜骨が完全にヘシ折れた事を首元の感触で知った水野と金剛はル級だったものを無造作に投げ捨て、呟いた。

【どうやらダークスティールではなかったようだ】
【NewWeaponの出番までも無かったデース】
『MidnightEye-01よりFleet202,203. MidnightEye-01よりFleet202,203.』

 MidnightEye-01よりの緊急通信。
 こちらの無事を伝えるよりも先に、MidnightEye-01が最悪の事態を告げた。


『目標発見。至急ブイン島へ急行せよ。ダ号目標および随伴艦隊が上陸を試みようとしている。現在、201艦隊が防衛戦を展開中。繰り返す。目標発見。至急ブイン島へ急行せよ!』







(今度こそ)後半へ―、続く。





 本日のNG(没)シーン1

Q:前篇の龍驤が言ってた『無人空母の運用上における安全性の確保』って何? どういう意味?
A:最近の核兵器は小型高性能化が著しいですね。それこそ戦闘機や潜水艦に積める位に。つまりはそう言う事です。


 本日のNG(没)シーン2

 出港後に戦闘艦としての本来の姿への展開作業を終えた第203艦隊に所属する艦娘の面々が程度の大小こそあれ、天龍のそれに同意した。何せ、電が赴任してきて以来の全艦艇での出撃任務は、事実上これが初だったからであるし、天龍の言葉に間違いは無かったからである。見た目のナリや材料は小娘でも、その本質はあくまでも戦闘艦。策が無いだの攻撃が通らないだのと言った多少の逆境如きで萎える士気の持ち主は一人もいない。それが艦娘である。

「相手が大型艦なら、喫水線の下を狙える魚雷が一番有効ですよね! 大潮頑張ります!!」
「定数は満たしておりませんが、一航戦の名に恥じぬ制圧爆撃、とくとご覧に入れましょう」
「那珂ちゃんはー、何も無いから歌を歌うねー」

 普段は地方巡業(遠征任務)を専門職としているはずの那珂ちゃんと大潮、そして201クルーから麻雀で巻き上げ、燃料を売っ払ってまで求めたボーキサイトのありったけを喰ってどうにか定数の半分は艦載機を補充できた赤城までもが艦隊に加わっていた。
 そして宣言通りに那珂ちゃんが歌いだした。いつも通り大潮のBGM付きで。

\\.........yyyyyYYYYYYEEEAAAAAAAAA!!!!!//

 途端、穏やかな海原には似つかわしくない、デスメタル調のロックビートが大音量で鳴り響いた。


\\私はブインの運送屋! 昨日は燃料運んDAZE! 明日は鋼材運んでやれ!! 運べ運べ運べ運べ運べ運べ!!//
\\UNPANせよ! UNPANせよ! UNPANせよ! UNPANせよ!(by大潮)//


 ( ゚д゚). . .

 ( ゚д゚ ). . .


 那珂ちゃんの歌を聞いた面々の顔と表情を表すと、大体以上のようになる。
 そんな呆然とした面々を余所に、那珂ちゃんの歌と大潮のBGMはさらに激しくクライマックスに向かって突き進んでいく。


\\あの島にボーキ生ゴム欠片も無ぇ!(←赤城の声真似で)それは私が運んだから! キス島の守備隊誰もいねぇー!?(←K提督の声真似で)それは私が運んだからー!!//
\\UNPANせよ! UNPANせよ! UNPANせよ! UNPANせよ!(by大潮)//


 大体そんな感じの歌詞が続く事およそ5分間。
 その無駄に長く感じられた300秒間に渡る熱いパトスの迸りを肺腑のドン底から絞りつくした那珂ちゃんは、全てを成し遂げたもの特有の穏やかな笑みを浮かべ、こうのたまった。

「万雷の拍手をどうぞ、世の愚民どもめ☆」

 直後、手前ェ五月蝿ぇんだよKAITAIすっぞ!! というツッコミが帝国海軍の軍人2名および彼らの所属する第202および203の全艦艇から入ったのは語るまでも無い事だろう。井戸と水野の二人に至っては、構造上開かないはずの艦橋の窓を開けてまで那珂ちゃんに向かってツッコミ代わりのネジを投げつけていたし。

『……MidnightEye-01よりFleet203. お前らずいぶんと楽しそうだなぁ』



 今度こそ終れ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.032819032669067