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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:cd7a7d50 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/10/23 23:23
※前回で最終回のはずじゃあ? 残念だったな、エイプリルフールだよ。
※毎回毎回飽きないオリ設定。
※いつも通りに『●●が××なのはおかしくね? ▲▲で□□やろjk……』な箇所多数。備えよう。
※地理とか生物とか国語とか現社とか、筆者の学生時代の成績は正直アレだったのでお察しください。今? そりゃおめー……アレだよ、アレ。
※第一部の『嗚呼、栄光のブイン基地』は鬱暗い話だったので、第二部では、スナック感覚でサクサク読める、底抜けに明るい話にしたいと思います!
※(2019/05/20初出。同10/23 誤字修正&Please save our Okinawa 03内の幼稚園児からの応援を追加)

※艦これ世界において、メガネとは武闘派の証



 引き続き台風情報をお伝えします。
 現在沖縄県に向かって北上(not艦娘)中の、史上稀に見る大規模な勢力をもった巨大台風■号に対する攻撃ですが、つい先ほど、一定の効果が認められたとの事です。
 これにより台風■号の勢力は大きく減少。
 しかし政府はまだ予断を許さないとして沖縄県全島避難命令を継続。那覇鎮守府に待機していた帝国陸海両軍は現在も活動中です。
 また、同地域に社会科見学に来ていた――――

        ――――――――『第三次菊水作戦(民間呼称:台湾沖・沖縄本島防衛戦)』前日の台風情報



 その日、新生ブイン基地で事務屋をやっている軽巡洋艦娘の『大淀』は、首元のポートにLANケーブルを差し込みつつ、近年稀にみるご機嫌で書類を処理していた。
 先日の駆逐イ級&雷巡チ級戦で負った吹雪と陽炎の損傷の修理の件についてだ。

「~♪」

 吹雪の方は一言で言うと、わんだほー、ハラショー、ベリマッチである。修復には油も金属資源も一切使ってない。駆逐イ級に船腹を噛みつかれて装甲の一部が破断し、獲物を咥えたワニよろしくぐるんぐるんと横ローリングされて浸水し、フィドル弾いてる猫の置物が盛大に転がって厨房のスプーンとお皿が何処かに逃げてったにも関わらず、である。
 使ったのは精々が多めの食料品と多少の医薬品くらいのものだった。

「流石、最新鋭の第三世代型艦娘ね。今までならこれだけの損傷を追ったら中破判定だったのに、自己修復の範囲で対応できちゃうなんて」

 次に第二世代型艦娘――――『艦娘殺し』こと重巡リ級との直接戦闘もある程度考慮された、現在主戦力となっている艦娘――――である陽炎の損傷について。
 こちらは相応に酷い。
 飛び込んだ砲弾の爆発で艦橋全損。おまけにその内側からの爆圧で艦体の一部と電装系にも損傷。魚雷や弾薬庫に誘爆しなかったのも、竜骨ユニットに異常が見られなかったのも幸運と言えば幸運なのだろう。これの完全修復には相応の物的・人的・時間資源を消費するはずである。
 だが、直さないという道理は無い。
 ブインの所属でもないのに吹雪の初陣にわざわざ付き合ってもらって、その結果負傷したのだ。修理も補給もしないという選択肢は水雷的に考えて有り得ない。

(というか、塩太郎さんと輝君達、たった5人だけでよく一晩で修理出来たわね……)

 あれ、でも修理の時艦娘形態に戻ってたし、そんなにひどい怪我じゃなかったのかしら。とひとり呟く大淀はLAN直結されたパソコンにコマンドを直で入力。エクセル表を開いて消費した各種資材の減り具合を入力。指定したセルに指定した計算結果が表示される。
 基地に残った資源は意外と少なかった。
 代わりに、次の補給まではだいぶあった。
 ふと、ご機嫌な思考に影が差す。自分は、何でこんな事やっているんだろうと。

「……」

 一年半前。最初にこの艦隊に配属された時は飛びあがらんばかりに喜んだものだ。まさかあの、沖縄の女神こと比奈鳥艦隊に配属されるだなんて、と。きっと明日からは他の大淀たちが羨むような充実した艦隊総旗艦生活が待っているんだと、無邪気に信じていたものだ。
 一年半前のあの頃は。
 だが、当の比奈鳥准将には、私、軽巡洋艦娘『大淀』との超展開適性が無かったのだ。
 超展開適性値12.3。カテゴリーF。
 足切りラインの40を遥かに下回る数値。
 ついてないどころの話じゃない。
 自分こと『大淀』と超展開出来る提督なら、どんなポンコツのクズが相手でも一定の水準以上のパフォーマンスを常に叩きだせるのが艦娘としての『大淀』最大の利点の片方なのに、そもそも適性が無いのではどうしようもない。
 もう片方の最大の利点は、70年前から設置されている大規模な艦隊指令部施設だが、こんなの、コンピュータの性能が爆発的に向上し、データリンクシステムも標準装備が当たり前の現代では骨董品もいいところだ。今では他の大淀らと同じく、各種データ解析専用のコンピュータを詰め込んだ予備の電算室になっている。風の噂によると、この予備電算室をゲームサーバとして民間に有料レンタルしている不届き者の大淀がいるとの事だが本当だろうか。

「……」

 その結果が今のザマである。
 ビールの空き缶を灰皿代わりにして(時々飲みかけのを灰皿にしてしまうのはナイショですよ?)一日中薄暗い事務室の中で端末とにらめっこ。
 しかもそんな量がある訳じゃないから精々2~3時間程度で一日の仕事終わるし。
 余った時間は、もしかしたら必要になるかもと思って旧203号室の中から発掘された深海凄艦に関する各種レポートをまとめたり自分なりに再考察してみたり。ていうかあれ量も内容もどう考えても陸軍の人間が持っていていい情報じゃないけどどういう事なんだろう。
 たまの出撃も近海の哨戒任務がほとんどで、水偵飛ばして索敵系を全開で作動させて、コロンバンガラ・ディフェンスラインの連中が遠出して来た時は緊急通報流して新生ショートランド泊地の千歳改二にエア・ストライクの要請出して水偵で観測続けて爆撃評価出してハイお終い。

「……」

 ここに配属されてからの一年と半年。魚雷はおろか、主砲の一発すら撃ってない。これは水雷屋として如何なものか。機銃だけなら何度か撃っているが、戦艦レ級なんて何匹殺してもノーカンだ。私はちゃんとした深海凄艦を討ちたいのだ。

「……」

 いや、よそう。
 事務仕事だって艦隊運営には絶対必須の業務だ。誰も彼もが前線バカでは艦隊はやっていけないのだ。
 そしてこの軽巡『大淀』こそが縁の下の力持ち。私がいるからみんなが普通の艦娘として出撃できるのだ。
 称えよメガネ。崇めよ真なるGF総旗艦。

(……とでも思わなきゃ、やってられないわよ、ホント)

 そこまで考えて大淀は一度小さくため息を吐いて首を振って気分を切り替え、少し離れた場所にあった戸棚から紙媒体のファイルを取り出すと目当てのページをめくり、近隣海域の民間業者の連絡先を再確認し、金を払って不足資材の工面を付けようとした。
 本土の連中の補給なんて待ってなんかいられない。連中はこっちが僻地なのだと見下しているのか、数週間単位で遅れるのは当たり前だし、挙句に『ご指定の量と種類は有りませんでした』何て返すのもザラだ。この一年半でどれだけ苦汁を舐め、飲まされたか。そのくせ最前線の1つとして防衛の責任だけはあると来た。仮にも一級戦線なら補給を優先しろ。先代の基地司令が密輸に走ったのもうなずけるというものだ。
 だったら民間業者にカネ払って物資の取り付けを手配した方が早いし確実だ。文句があるなら一度でいいから納期と分量守って見せろ。この一年半の記録全部録ってあるぞ。
 そう心の中で静かに憤慨しつつ大淀は自我コマンドを入力。
 業者にカネを払った後の、新生ブイン基地の今期予算のシュミレーション結果を脳裏に表示させた。
 残り7ケタ。

「……」

 ただし数字の左端に『-』の記号が付いていた。



「ここのTマスの空襲をかいくぐり、索敵5以上の電探と史実艦と支援攻撃をたくさん用意して、Vマスにいる戦艦レ級elite2隻をブチのめして侵攻していくことになります。」
「ZZマスを通るのが最短ルートじゃないのか?」
「そうです。」
「それならそんな――」
「駄目です。」

                   ――――こんな事書いてますが筆者は先のブイン基地防衛戦、乙のZZマスを越えて滑り込みセーフで海域突破しました。なのでロクに掘りする暇も無く結局ゴトランドもジョンストンも照月も早波も着任しませんでしたが、何と、我がブイン基地には浜波峯雲日進の3人がやって来てくれました。やったぜベイベー浜波ちゃんの前髪ぺろんってめくってさでずむしたいぜきゃっほー。とか書いてたらもうセッツブーンもバレンタインも全部終わってたでござる。っていうかそろそろひな祭りが近くなってきたこの頃が終わる前にうp出来たらいいな。とか書いてたらもう4月なんですけど。5月なんですけど。令和なんですけど。初期艦に選ばなかったゴトちゃん4-4で来たんですけど。っていうかもう次のイベント戦が数時間後に始まるんですけどー!? なのでこのSSがそれまでの間のお暇潰しとなれば幸いです。
 それでは皆様、数時間後のブイン基地サーバでお会いしましょう。
 な艦これSS。

 とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!
 第三話「いきなりではない純金伝説」



「お金が尽きました」
「……はい?」

 陽炎達が元々の所属の新生ショートランド泊地に帰っていったその次の日の朝食の席。大淀は開口一番、眼鏡を反射光で光らせながらそう言った。
 その言葉を受けたひよ子は、飲みかけのホットミロが入ったコーヒーカップを持ったまま、間抜け面を晒して先の言葉を呟いた。

「ですから、陽炎さんの修理に使用した分の資材を購入した場合、我が新生ブイン基地の、今年度の予算が、無くなります」

 そう言って大淀はプリントアウトした例のエクセル表をテーブルの上に置いて広げた。

「うわ。真っ赤っか」
「帝国は資本主義陣営だけど、予算だけは共産主義だったのねぇ……」

 吹雪は単純に赤字だとビックリし、ひよ子は皮肉交じりのため息をついた。

「でも資材が無いと今後やってけないし……はぁ、金さえ見つかれば全部解決するんだけど、ねぇ」
「金(キン)? ですか?」

 聞き慣れない単語に吹雪がオウム返しに聞き返す。

「そ。英語でゴールド、ラテン語でアウルム。私がまだ有明警備府にいた頃の話なんだけどね。ここの先代基地司令が、本土の帝国郵船と闇取引してたのよ。勿論それ以外のいろんな所とも。こっちからは金(キン)を。あっちからは各種資材や最新鋭兵器、各種優遇措置なんかを受けてたらしいのよ」
「は、はぁ……」
「実はね。この基地の司令官として着任してからしばらくした頃にね『アレの再開はまだですかー』っていろんな偉い人達から催促が来たのよ。勿論、その時は何言ってるのか全然分からなかったからまだ未定ですって言ってお断りしたけど。でもまあ、そう答えて一年もしない内に金探しする事になったんだけどね。一年経っても見つからないんだけどね」
「なんていうか、その。比奈鳥司令官は、前歴の事もあって、そういうのには厳しそうなイメージがあったんですけど……」

 その返答は、ブラ鎮(ブラック鎮守府)潰しがお仕事の一つである元・有明警備府所属であらせられたひよ子の隣に座っていた重雷装艦娘の『北上改二』がのぺっとした表情のまま答えた。

「今のひよ子ちゃんは若いし女だし沖縄で大戦果上げたしで上の御老体どもからやっかまれててさ、通常の定期補給と二ヶ月に一回の大補給だけじゃすぐに干上がっちゃうんだよ。その補給も数が減らされてたりたまに来なかったりするし」
「え。そ、そんなのってあるんですか!?」
「有るんだよねぇ、それが」
「組織は感情で動く、って昔どこかで聞いた事あるけど、それホントだったのよねぇ……でも、みんな餓えさせるわけにはいかないしね」

 ひよ子は長く盛大なため息をつくと、カップの中に残っていたホットミロを一気に飲み干し、柏手を一つ打って気分を切り替えた。

「よっし。それじゃあこんな暗い話はここでおしまい! みんなの今日の任務を発表します。まず私の艦隊――――北上ちゃん、ぬいぬいちゃん、夕張ちゃん、事務い……大淀さんと吹雪ちゃんは予定通り非番です。秋雲ちゃんとプロトタイプ伊19号ちゃんは明日の夜ごろか明後日に帰って来るそうです。翔太君とスルナちゃんの艦隊、っていうか皐月ちゃんと榛名ちゃんの4人も今日は非番、つまりお休みです」
「おっけー」
「了解しました」
「「やたー!」」

 北上は間延びした返事で、ぬいぬいこと不知火は静かな、だがハッキリとした声で短く返答を返した。翔太と皐月はその場で飛び跳ねた。

「輝君と雪風ちゃんは通常出撃。昨日隼鷹さんからの報告にあった島近海を特に入念にお願い。でも島や浅瀬には近づき過ぎないで。戦艦レ級が隠れてる可能性があるから」
「「はい!!」」
「千歳さんとのホットライン周波数は覚えてる? 何かあったらすぐエア・ストライクの要請出してね? 今日は千歳さんも隼鷹さんも第一種待機だったはずだから、Callすれば5分で飛んで来てくれるはずよ」
「「了解しました!」」

 輝と呼ばれた少年と、その胸元までくらいの背丈の艦娘が同時に返事を返した。

「(輝君、この二年でホントに背ェ伸びたわねぇ)で、塩太郎さんと明石さんだけど、お二人も今日は非番です」
「了解です」
「了解しました」

 やった休みだ! と明石は声に出さずに顔に出していた。塩太郎も厳めしい顔つきだったがよく見ると頬が緩んでいた。彼等と夕張の3人はここしばらく修理続きだったので疲労が溜まっていたのだろう。

「それじゃあ今日も一日、頑張りましょう! ……と、言いたいところですが」

 実に不吉な区切り方をしたひよ子が、続けてこう言った。

「お休み組は、今日はお休み無しです」

 沈黙。
 コンクリート製の護岸に波が当たって砕ける音、波打ち音にも似たヤシの葉の葉擦れの音。浜辺にある都合のいい岩場を巡って縄張り争いを始めた海鳥達とヤシガニ達の抗争音だけが、新生ブイン基地のメンバーを静かに包み込む。
 そして異口同音に放たれた『は?』の一音。

 吹雪はごく普通の気真面目さで『了解しました』と言っただけだったが、翔太と皐月は『えー! 何でだよー!?』とサムズダウンしつつブーイング。
 塩太郎こと塩柱夏太郎整備兵はショックのあまり同体積の塩の柱と化した。
 夕張と明石も真っ白に燃え尽きた火の無い灰と化して風に乗って散って逝った。ここ数日オーバーワーク気味だった3人の遺言はそれぞれ『休み……』『どこ……』『ない……』だった。
 ひよ子の秘書艦である北上改二は普段通りののぺっとした表情と口調のまま翔太と皐月にならってブーイングとサムズダウン。多分こいつは面白半分でやっている。そのエスコートパッケージである陽炎型の不知火改もといぬいぬいは『艦娘殺し』の異名で知られる深海凄艦、重巡リ級ですらおもわず道を譲りそうなほど強烈な眼光力をひよ子に向かって盛大に放射していた。どうやら休暇取り消しが相当残念だった模様である。何か用事でも入れていたのだろうか。
 そして大淀はメガネを朝日に白く反射させ、全ての表情を消してひよ子に質問した。別に怒っている訳ではない。ただそう見えるだけである。

「――――差し支えなければ、ご説明を」
「理由は事務い、大淀さんが持ってきたそれよ、それ」

 ひよ子は大淀の手元に置かれたA4用紙を指さした。民間業者に資材を手配させた場合に残る基地の推定予算残高と、現在の残り資材の数だった。
 推定予算の方の数字には左端に『-』の記号が付いていた。現在の資材の残量は不安を覚え始める数だった。

「ですから皆には今日、クジ引きでいくつかのグループに分かれて金探しをしてもらいます。この資料見る限りもうわりと切羽詰まってるので、そこの所よろしくお願いします」
「あの、司令官。ホントに金(キン)なんてあるんですか?」

 おずおずと手を上げた吹雪が疑問を発する。
 それに対しひよ子は「実際あったのよ。旧ブインと帝国郵船の裏取引」と前置きし、

「でもきっと、ここでいう金(キン)っていうのは、お宝とか、政治家のピーナッツみたいな、何か価値ある物の暗喩か何かだと思うのよ私は。一年近く探しても見つからなかったし。だから、みんなにも手分けしてそれらしい物を見つけてきて欲しいの。お願いね」

 ごめんねー吹雪ちゃん、着任早々で変な任務与えちゃって。とひよ子は軽く謝罪した。



 別にアンバランスでも神聖でもないクジ引きの結果、吹雪、大淀、夕張の接点無しトリオは日差し高らかな午前9時現在、ブイン島の浜辺を単横陣で索敵進撃していた。

 ランドマークになりそうな岩場や景色が直線状で交差する部分の砂浜を掘り返し、怪しげな大岩の根元を掘り返し、熱気と湿気にやる気をそがれて波打ち際で3人揃って足をちゃぷちゃぷさせたり、少し離れた所で『お宝は宝箱の中で海の底だー!』という謎の理屈に基づき海に潜って遊ぶついでに金を探す翔太と皐月の姿を3人揃って大岩の上に座って微笑ましく眺めたりと、金が隠されていそうな怪しげな場所を索敵していた。

「え、じゃあ大淀さんは、比奈鳥司令官と同じ場所で働いていたんですか!?」
「はい。正確に言うと、私――――大淀の原型(オリジナル)となった方が、ですけどね。私自身はコンタミ艦(※翻訳鎮守府注釈:contamination(汚染、混入)の意。ここでは艦娘化以前の記憶や人格、思い出のそれを指す)ではないのでその記憶はないのですけれど、比奈鳥提督からはよく事務員さんと呼ばれており、気が付けば事務仕事を押し付けられてて……」

 最初、吹雪は相手2人が軽巡洋艦――――水雷戦隊を編成する際、基本的に吹雪ら駆逐娘の上司になる――――だったので緊張して口数も少なくなっていたのだが、捜索開始から数時間もするとごく普通に2人に混じって雑談に興じる様になっていた。素晴らしい。その1%でもいいからそのコミュニケイション能力を是非筆者にも分けていただきたい。

「その考えで行くと、大淀って吹雪ちゃんの次に艦隊勤務歴短いのに付き合いは北上とぬいぬいちゃんと同じくらい長くなるのよねー。あー。提督、だから今でもたまに名前間違えかけたりしてるのか」

 夕張が付け加える。

「そういう夕張も、この艦隊に合流したのは沖縄の時からでしょう? おまけに最初はものすごく警戒されてて、初対面の時には顔面に塩投げつけられたとか。おまけのおまけに戦闘が始まった途端ドン引きされたとか」
「あ、あれは、最初のは私のせいじゃないし」
「?」

 過去を知らない吹雪が首をかしげる。

「そ、それは兎も角! 大淀! な、何かこの今座ってる大岩が怪しくない? いかにも中になんか埋め込まれてそうな感じで。よし探そう今すぐ探そう」
「はいはい」

 中にお宝隠すなら、男子トイレの小便器にジッパーでもつけた方が確実じゃないのかなぁ。六億円か百億リラくらいなら余裕で隠せそうだし、と吹雪は心の中だけで思った。
 そんな吹雪を余所に、大淀と夕張は瞬きせずに互いの目を見つめ合った。

「あ。吹雪ちゃんも。ほら。折角だし」
「は、はい」

 次は夕張と吹雪が互いに瞬きせずに見つめ合う。システムに着信。眼前の軽巡洋艦娘から光学で接続要求。艦娘としての吹雪がそれを許可。その三秒後、吹雪の視界ど真ん中に点滅する赤い光点が出現し『データリンク確立。対象:TKT/LC-YUUBARI_1.998β/km-ud/20010605-ff00/GHOST_IN_THIS_SHELL.』の文字に変化したかと思うと視界から消え、意識の片隅に最小化された状態で安定した。

「大淀、解析よろしく。聞き耳は私がやるから」
「どうぞ」

 夕張が大岩の表面を一度、軽くノックした。夕張が装備している各種ソナーはその反響音を細大漏らさず追跡し、採れたばかりの生データ群を大淀に宅急便として非圧縮送信。
 大淀は、艦隊司令部施設を潰して増設した解析用コンピュータをフルに使って宅急便の中身を解析。解析システムは『NOT MATCH(00.01% or less)』と受け取りのハンコを押した。
 その結果を夕張と吹雪の2人に送信。

「……ただの岩でした」
「岩かぁ」
「あ、でも考え方はあってるのかもしれませんね。今まで自然岩の中までは探した事なかったですし」
「でも大淀さん。それだと目印も何も無いから隠し場所忘れたら大変な事になるんじゃ?」

 最後の吹雪の疑問に3人が同時に沈黙。
 夕張は吹雪の言った事に対して『え、何。今日中にこの島中の全部の岩の中全部音響検査するの? 何、何なの? 馬鹿なの? 殺す気なの?』とでも言いたげな表情を浮かべ、大淀は大淀で、千歳さんにエアストライク要請出して島中の怪しげな岩盤岩石の類を全部吹き飛ばすのと、それら一つ一つを全部ノックして回るのはどちらがより効率的かしら、とかなり物騒な事を考えていた。
 そして吹雪は、これぞ名案とばかりに声を上げた。

「暗号! 暗号です!」

 お前は何を言っているんだ。
 夕張と大淀の目は間違い無くそう言っていた。

「そう言う事なら、きっと、どこかにヒントを書いたメモなり暗号なりが有るはずですよ!」



「で、ここまで来たと」
「考える事は私達と一緒ですね」

 旧ブイン基地の203号室。
 かつて井戸枯輝(イド カレテル)と呼ばれたインスタント提督が使っていた執務室の中。
 塩太郎と明石コンビは吹雪と同じく『金あるいはお宝の隠し場所はどこかにヒントがあるはずだ』と考え、紙媒体の資料が一番多く残っていたこの部屋を家探ししていたところに吹雪達も参加した次第である。木を隠すなら森の中、暗号文を隠すなら書類の中、というやつだ。

「朝から探していますが、それらしい物はまだ」
「でもまぁ」

 かつて、輝達が戻ってきた来た当初は土埃やらカビやらに薄く覆われて風化しかかっていた旧ブインのこの一室は、つい先日に新ブイン基地がオープンするまでの二年間の間に何度かの修繕がなされ、人が住む場所としてはとりあえずの様相を取り戻していた。
 いたが、この部屋の中に残されていた書類や雑誌の類は処分される事無く、表面のホコリを掃って新品のダンボール箱に詰め直されて部屋の隅に置いておくだけで済まされていた。もちろん理由はある。

「でもまぁ、私や塩太郎さんにしたらこの部屋自体が宝の山みたいなもんなんですけどね。例えば」

 例えば、これ。そう言って明石が部屋の隅のダンボール箱から無造作に摘まみ上げたのは、ホチキスで左上を無造作に綴じられた、黄ばんで四隅がよれよれになったA4サイズのコピー用紙の束の化石。
 1枚目の表紙には『古鷹整備マニュアル 追記・修正分草案』とだけ書かれていた。

「これ、塩太郎さんみたいな整備兵に通常配布される艦娘の整備マニュアルには載ってない裏技みたいな事ばっかり書かれているんですよ。超展開の維持限界時間を越えて超展開状態を維持させる方法とか。ていうか何ですか『艦コア内核の抗Gゲル交換の際に使う専用の挿入パイプあるいは排泄パイプが用意できない場合は周辺を隔離・滅菌完了してから同じく滅菌済みの醤油ちゅるちゅる。駄目なら挿入する側とされる側にメチルかエチルの大量散布。それも無いなら祈れ』とか。何で陸軍の人が艦コアの整備マニュアルに口出してるんですか。しかもなんで正しいんですか。古鷹さんのストーカーかなんかですか。昔ここに居た井戸大佐ってのはホントに陸軍さんなんですか!? 他にも見つかった書類とかメモにも――――」

 明石は喋っている内にテンションが高くなったのか、徐々に瞳孔が開きはじめ、塩太郎は黙々とヒントなり暗号なりを探すついでに別の資料を黙々と読んでいた。塩太郎が読んでいるのは、紺色のテープで閉じられ、同じく四辺が紺色で中心側が白色のA4サイズの分厚いノートであり、表紙中央のタイトルには『だいめい:203艦隊の日誌』とあり、表紙下側には『おなまえ:井戸枯輝』『かいきゅう:少佐』とあった。
 小学校低学年向けの学習ノートのノリだが、誠に遺憾長良、裏表紙の隅っこには小さく『帝国海軍大本営正式認可発行物。外部への公開・流出は厳に禁ずる』と書かれていた。
 つまりは帝国海軍の正式な発行物である。

「――――って事になってたからつまり抗浸食剤開発とか学校給食計画とかで時間稼いでも人類滅亡は確定済みだから俺とアイツの分のチケット早よってどういうことなんですか!? 単語の意味からしてまるで意味が分かりませんよ井戸大佐とか言う人ォ!?」
「……ここには無いみたいね。吹雪ちゃん、夕張、次いきましょう」

 血走った眼で絶叫する明石、黙々と資料を読みつつ片手でどうどう、と明石をなだめる塩太郎の2人をそのままにして、吹雪達はその場を後にした。



「……結局見つからなーい!!」
「無いですねぇ」
「見つかりませんね……」

 再び海岸線に戻ってきた吹雪らは、やはり怪しげな岩や岩場、果ては地面から足の裏の砂浜まで片っ端からノックして聞き耳を立てて回っていた。
 そんな吹雪ら3人を嘲笑うかのように、南国特有の殺人的太陽光線が容赦無く照り付ける。おまけに海辺という事で湿気は全開、駄目押しの本日無風によって不快指数は見るも愉快な数字になっていた。
 そして暑さと湿気と失敗続きで精神がささくれ立ち始めた夕張が岩の1つを乱暴にノック、というかノックアウトせんばかりの勢いで殴りつけ、大淀が黙って首を振り、音響解析ソフトをスリープさせようとしたその瞬間、夕張がキレた。

「うあー! 暑い、っていうか熱い!! 熱中症になったらどーするのよー! これくらいならならないけどー!!」

 そう叫び、背中から砂浜にどぅと倒れ込んで両手両足をジタバタさせ始めた夕張の姿を見て、夕張よりかはまだいくらか残っていたやる気を全部引きずり下ろされた吹雪と大淀もその場に腰を下ろした。
 大淀が自我コマンドを入力。現在時刻を脳裏に表示させると、ちょうどお昼だった。

「仕方ありませんね。夕張、吹雪さん。本当に熱中症になる前に一度星空洞窟まで――――旧ブインのドライドックまで避難しましょう。あそこには小型冷蔵庫置いてありますから、そこで休憩しましょう」
「ゔぇあ゙ぁ゙~!!」
「は、はい!」

 ヤケクソ半分で夕張は暑苦しく叫びつつ、大淀は汗でズレる眼鏡を片手の中指でしきりに直しつつ、吹雪はそんな二人の後を追う様にして。
 3人は砂浜を走って、太い蔦で覆われた海沿いの断崖へと向かって行った。
 そしてその蔦で覆い隠された、海と直接繋がっている洞窟の中。戦艦でも何とかギリギリ収まりそうな深度と高さを確保された、天然の海蝕洞穴を補強した旧ブイン時代のドック。
 奥に進むにつれて上り坂になっている洞窟の壁面沿いに増設された、木板の渡しの上を進みながら、二度目の来訪となる吹雪は口を半開きにして呑まれたように天井を見上げていた。
 イタリアにあるという青の洞窟とは違うものの、思わず息を呑むような光景が広がっていた。

「わぁ……」

 一度目は陽炎に連れられての旅行の最中だったからそこまで注意深く見ていなかったが、今は違う。
 まっ平らになるように掘り崩された天井には大形のハロゲンライトをいくつも設置され、艦艇固定用の大掛かりなハンガーアームや脱水システムを始めとした各種大形重機を運び込まれ、ドライドックとしての機能を期待された海蝕洞穴。
 旧ブイン基地(という名の丸太小屋)時代にあったという絶景の面影などどこにも残っていなかった。
 だがそれでも、洞窟の奥深くまで入り込んだ海面は静かに波打っており、外から入り込んだ光がそこに反射して天井や壁面が青色に揺らめいており、水面自体も光の反射で青白く発光しているように見えていた。さらには天井と壁面や、海底の揺らめく青の中にはまるで夜空の星のように小さく瞬くメタリックブルーの箇所が何ヶ所もあって、まるで、深い海と満天の星空を同時に眺めているような、幻想的な光景が一面に映し出されていた。
 吹雪は知らなかったが、それだけは、旧ブイン基地(という名の丸太小屋)の頃から変わらぬ光景だった。
 そんな光景に感動し、動きを止めて輝き揺らめく水面を見つめている吹雪を余所に、大淀は水面から離れた壁面に安置してあった真っ白い小型冷蔵庫(太陽光発電式)の扉を開けて中から黒のマジックで『大淀』『夕張』とそれぞれ書かれた2リットルサイズのラムネ入りペットボトルを取り出すと、夕張の分を彼女に手渡し、空いた手で冷蔵庫の中から未使用の紙コップを一つ取り出すと、それに自身の分のラムネを注いで、ペットボトルの方を吹雪に手渡した。

「あ、ありがとうございます」

 それからしばらく、3人は横に並んで座って静かに波打つ海面を、ぼぅっと眺めていた。
 そして、冷蔵庫の中から取り出したペットボトル入りのラムネを半分近く一気飲みしてようやく人心地ついた夕張が、揺らめく水面を眺めながら何気なく呟いた。

「ねぇ大淀に吹雪ちゃん。もしも本当に金なりお宝なりが見つかってさ、それ自分の好きにして良いって言われたら、どうする?」

 吹雪はしばし考えても特に思いつかなかったようで『基地運営の足しに使っちゃってください』と答えた。実によい娘である。
 対する大淀は、

「そうですね……もしも基地運営を左右出来るくらいの金額になるんでしたら、それ全額上納して、出撃申請通してしてみたいですね」

 その答えがあまりにも意外だったのか、夕張と吹雪が同時に大淀の方を振り向いた。

「大淀、人の事変だ変だって言うけど、あんたも相当変わってるよね。わざわざ出撃したいだなんて」
「私てっきり、赤字の補填か非常用のプール金に回すものとばかりだと思ってましたけど……大淀さんも水雷魂だったんですね!」

 夕張はあきれ顔で、吹雪は感激したかのように瞳を輝かせて。

「自分の好きにして良いって言ったのは夕張の方でしょ? さて、そろそろ捜索再開しますよ」

 パンパンと大きく手を叩いて立ち上がる大淀。それを合図に夕張と吹雪も相槌を打ちながら立ち上がる。
 その時だった。

『MATCHING(99.99% or more)』
「え?」

 休憩前にスリープさせようとして、そのままその存在をすっかり忘れていた音響解析ソフトからの報告だった。
 今の手拍子二拍を用いた反響解析。反応があったのは大淀の背後の壁面全域および足元全部。金の埋蔵量の概算は、50メートルプール50個分――――人類文明五十回分というバグか何かとしか思えない結果が返ってきた。
 その数字が信じられなかった大淀が壁面をノック。 ソナー装備の夕張程の正確さはないが、それでもその反響音を可能な限り追跡・解析する。
 人類文明五十回分 “以上” という意味不明な数字が返ってきた。

「……」
「?」
「大淀さん?」

 2人の疑問を無視して大淀が青い顔で固まる。
 艦隊司令部施設を潰して増設した彼女の解析用コンピュータは、この金(キン)の存在を公表した場合の悲観的な状況推移と楽観的なそれの2通りのシュミレーション結果を、彼女自身の脳裏にこう表示していた。
 
 悲観的:金市場の完全崩壊からくる経済的大混乱と、それに続く人類同士の内紛で、深海凄艦と戦う前に人類完滅。
 楽観的:アインシュタインの予言が成就する。

 そんな馬鹿な。何かの間違いよ。きっとエコーが小さすぎて変な結果になったに決まってるわ。再検査すれば、ほら。

「発ッ砕!」
「「!?」」

 大淀は腰を落として強めのパンチをその壁に一発。その反響音で今度は奥深くまで徹底的に精査する。幸運にも内部に小さな空洞があり、都合の良い出っ張りもあったので、ついでとばかりに物理サンプルも確保。
 結果はクロ。揺るがぬ証拠も手の中にあった。
 大淀からすれば、今すぐ膝から崩れ落ちそうになる結果だった。まさか、基地の経済的危機を救うチャンスが世界規模の経済危機を招く、一枚のコインの裏表だったとは。

「お、大淀……?」
「突然何を……?」

 吹雪と夕張からすれば、青い顔して固まっていたはずの大淀が突如として『(わたしおおよど。ことしで)八歳』と奇声を上げて背後に振り返り、腰を深く落として正拳突きを一発。おまけに鈍く大きな音がしたかと思えば手首まで壁にめり込んでいたのが見えた。何をしているのだ。おまけのおまけに、手の平の中に納まる程度のサイズといはいえ、壁の中の岩を引きちぎって抜いてきた。何の鍛錬だ。
 おもわず数歩下がって距離を取ってしまった二人を責めるのは酷というものだ。

「(! い、いけない! ここに金がある事が知られたら世界の危機! このままでは本当に第四次世界大戦のメインウェポンが石でサイドアームが棍棒になってしまう! 何とかして誤魔化さないと……!)す、すみません。金上納したら私も普通の出撃できるのかしらって思ってたらつい……」
「そ、そう」
「なんですか……」

 引きつった笑顔を浮かべ、そこから更に数歩下がってしまった二人を責めるのは酷というものだ。
 そのまま休憩を終えた三人は、洞窟の外に出て夕方まで金探しに精を出す事になったのだが、その成果は語るまでも無いだろう。



 その日の夕方。
 新ブイン基地の一階応接広間――――先日、陽炎達が夕方までブッ通しでゲームをやっていた場所だ――――に集合した各々は、夕食を前にして本日の成果を報告しようとしていた。
 先鋒は、今日一日海の中で遊んでいた翔太と皐月のチビガキコンビ。

「じゃあまずオレと皐月から!」
「じゃっじゃ~ん!」

 元気いっぱいな掛け声と共に、翔太と皐月は足元に置いてあった大きな紫色の風呂敷包みをテーブルの上にどんっ、と置いた。その拍子に布の中から、硬くて乾いた物がいくつもぶつかりこすれるような軽い音がした。

「「キレイな貝殻とか石とか~!!」」

 封の解かれた風呂敷から出てきたのは、宣言通りに真珠層の綺麗な貝殻や浅瀬の海底に転がっていた小さな赤い珊瑚枝、ダイバーズナイフ、赤錆まみれになった何かの金属片、翔太や皐月の小指の爪ほどの直径の天然真珠、翔太や皐月の身長よりも巨大な直径のコンタクトレンズ、そして、海藻やフジツボだらけになったとはいえ所々から覗く表面に見事な装飾が施された手乗りサイズの金属製の小箱などだった。

 なぁにこれぇ。

 他の面々の心境はそれで統一されていた。
 もちろん、否定的なニュアンスは無く、むしろひよ子を始めとした大人組の面々は、ほっこりとした表情をしていた。

(あー。親戚の小さな男の子が昔、こんな顔して集めたビー玉とか私に自慢してたなー)
(あー。癒されるー。あー良い、良いです、遥かに良い……私そういう趣味ないけどなんか目覚めそう)
(あのサイズ……艤装か何かの光学デバイス用のレンズか?)
(ていうか、そんな巨大なコンタクトレンズ、どこにどうやって仕舞ってたのかしら?)

 誰がどう思っていたのかはさておき、次鋒として塩太郎と明石が立ち上がった。

「では次に自分と明石さんから。旧203号室の資料発掘がひと段落付きましたので、その報告です」
「金(キン)に関する資料はまだ見つかってませんけど、艦娘、っていうか重巡洋艦娘の『古鷹』と軽巡洋艦娘『天龍』の物理構造とかゴーストに関係した未公表の資料が結構出土したので、帝国技研や兵器開発局にそのデータ流せば結構いいお金(カネ)になるんじゃないですかね?」

 多分、そんなことしたらTKTがあなた達ごと消しにかかるんじゃないかしら。ひよ子はそう思ったし、奇貨居くべしの名言もあるのでこれらのレポートは自分の一時預かりとした。切羽詰まったら本当に技研か開発局に流すつもりだったが。因みに夕張はそんなことしたら、何年か前のここで敷波が沈んだ時みたいに保安二課が殺人的に忙しくなるんだろーなーと他人事のように思っていた。

「あ。そだ。後で私も見てもいいですか? 整備の参考になりそうな気がしますし」
「いいですよ夕張さん」

 中堅。ひよ子と北上と不知火もといぬいぬい。

「じゃあ次は私と北上ちゃんとぬいぬいちゃんね。私達が見つけたのは、これよ」

 ごとり、と重たい音を立ててテーブルの上に置かれたのは、コルク栓と蝋で再封印された、真っ黒い一升瓶。
 吹雪は、かつてどこかでそれを見たような既視感に襲われたが、すぐに納得した。
 着任初日だ。
 着任初日に出会った比奈鳥准将が、北上から降りた時に手に握っていた一升瓶と同じものだ。

「この間、近海警備に出た帰りに海底から回収してきたサンプルを、今日の事務仕事の間に3人で成分分析してみたんだけど……やったわ。ついに見つけたわよ」

 うふ。うふ、うふふふふふ。とにやついた笑みを浮かべたひよ子の横から不知火もといぬいぬいが『成分分析結果』と書かれたA4サイズのコピー用紙を一枚、静かに一升瓶の横に提出した。

「小規模だけどマンガンノジュールに、レアアース泥。それとコバルトリッチクラスト! 大学にいた頃の講義で習った内容だと、普通ならどれもこれも深海1000メートルクラスの海底にしか存在しないはずだし、国連海洋条約でも採掘禁止されてたような気がするけど問題ないわ!」

 正々堂々と国際条約違反を口にする基地司令官殿に、その場にいた面々がぎょっとした目を向ける。
 レポート用紙を提出した不知火もといぬいぬいが言葉を継いだ。

「……司令の言葉を補足させていただきますと、こちらのサンプルは全て、撃破されてそのまま浅瀬の海底に鎮座していた深海凄艦の死骸、あるいはその艤装の残骸から回収したものです。死骸残骸が残っていたという事から、恐らくは第一か第二世代の物と推測されます。第三世代型の深海凄艦については、死骸どころか固形物すら残らないため不明です」
「まさか深海凄艦に、給食の時に食べてたお肉以外にも使い道があったなんて思ってもみなかったわ~。お肉の正体知ったのこっち(南方)に来てからだったけど」
「……」

 実に気まずそうな顔をして、夕張が小さく挙手。
 誰も気づかない。

「撃破された深海凄艦の調査って事で海底からじゃんじゃん引き上げて、じゃんじゃん売るわよ~。プロト19ちゃんが帰ってきたら『超展開』して私が直接潜ってもいいし――――」
「あの。提督」

 意を決して、夕張が声を上げた。

「ん、何? 夕張ちゃん」
「ものすごく言いにくいんですけど。あの、その……それ、もう、やってます。他の基地とか泊地でも。何年も前から」
「え」
「海軍と政府が合同で懸賞金出して集めてるんです。途切れてた輸入資源の代替として。面子があるから公にはしてませんけど。提督達のやる気出させるために変動相場制にして。でも最近は戦線も優勢でシーレーンも大分安定してるから懸賞金の停止が噂されてて、駆け込みで持ってきた各地の提督達が投げ売りしててどの相場も値崩れ起こしはじめてて――――」

 夕張の言葉を遮るようにしてひよ子が叫ぶ。

「じゃ、じゃあ禁漁指定種のハツネミクジラの歌声の録音データは!? コレのついでに録音ってきたばかりの今年の新譜よ!?」
「それももうやってます。ていうか、毎年毎年EAMSTEC――――帝国海洋研究開発機構の公式HPで一般公開されてますよ、それ。知らなかったんですか?」
「」

 ひよ子はその場に膝から崩れ落ち『orz』の姿勢のまま真っ白に燃え尽きた灰となった。遺言は『だって大学は勉強とか訓練とか忙しかったし軍入ってからも訓練とか実戦とか書類仕事とか忙しかったし』との事だった。

 そんな無駄な努力を長年重ね続けてきたひよ子はさておき副将戦。
 先日の自己紹介以来、何かと影の薄い榛名改二とスルナのコンビが戦利品をテーブルの上に置いた。

「わ、私達はこれ、です……榛名さんと、い、いっしょに……探してきて、見つけました。島の中で」

 テーブルの上に置かれたのは、虫の入ったプラスチック製の虫かごがいくつかと、花の植えられたプラスチック製の5号植木鉢がいくつか。虫かごの方は虫ごとに分けられており、植木鉢の方はごく普通に土が入っているか、ミズゴケが敷き詰められているかのどちらかだった。
『虫? スルナにしちゃ以外じゃん。花は似合ってるけど』とはクラスメイトの翔太の談。
 スルナの隣に控えていた榛名がミニスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、画面をいくつか操作し、テーブルの上に置いた。
 面々がスマートフォンの画面を覗きこむ。
 植物や昆虫や壺や絵画などのサムネイル画像に並んで、ハイパーリンク付きの人名がいくつか書かれた、どこかの個人サイトのホームページが開いてあった。
 榛名がさらに操作。その中にあったとある人物のページを開く。

「えと何々……タイクウホオズキ、時価15万円。ダンマクシャゲキンセンカ、時価35万円。デンシンバシ蘭、時価300万……」

 面々の視線が、スマホの画面と、テーブルの上の動植物らの間を何度も行ったり来たりし始めた。

「「「……え?」」」
「帝国国内のコレクターズサイトです。勿論、アングラでもイリーガルでもない、リーガルな個人サイトのです」
「マ、マニアの人って、欲しい物にはお、お金のいい糸目付けませんから……父のように……ていうかそこ、こ、このサイト、父の、い、いえ、父が、か、管理人、です……」
「スルナさん、貴女凄いですよ! 大戦果です! 大黒字です!! これで大体の不足分は相殺できます!!」

 脳内でソロバンを弾いた大淀が嬉々とした表情でスルナの両手を優しく包み込む。他の面々は拍手喝采でスルナを包み込む。復活したひよ子も拍手していた。
 スルナはそれを、耳まで真っ赤にした顔を俯かせながらも嬉しそうに聞いていた。

「あ、あありがとう……ございます……」

 そして大将戦。我等が吹雪と大淀夕張のトリオ。
 誰も何も出さない。

「……も、申し訳ありません!」
「我々は……何の成果も!! 得られませんでした!!」

 吹雪が意を決したように立ち上がり、それに先んじた夕張が膝をついて滂沱の涙を流しつつどこぞの壁の中の調査団長めいた謝罪を行うの見て、大淀は仕方ないと判断。艤装の圧縮保存技術のちょっとした応用で大淀自身の艦内に収納してあった一握りの小さな岩を取り出した。昼の休憩中に星空洞窟の壁からもぎり取ったものだった。
 蛍光灯に照らされて輝くそれに、誰もが目を奪われた。
 有史以来、史実創作を問わず人心を狂わせてきた魔性の輝きが、そこにあった。
 誰かが呟く。

「……金(キン)だ」
「執務室の中に、隠されていたんです。他はもうすべて掘り尽くされたそうです」

 もちろん大嘘だ。こんなもんがまだ50メートルプール何十個分も埋まってると知られたら世界の危機だ。深海魚の前に第三次世界大戦待った無しだ。そして石と棍棒だ。最近のならケータイと日本刀だ。
 故に大淀は、偶然にもこれだけしか見つからなかったと告げた。 

「……そっかぁ。なら仕方ないわね。でも、これだけあればなんとかなるでしょ」

 そこでひよ子は柏手を一つ、パンと打ち、話を締めた。

「みんな、今日は一日お疲れ様。それじゃあ夕食にしましょ。今日は皆に頑張ってもらったから、私も頑張ったわよ~」

 特に今日のMVPのスルナちゃんと榛名ちゃんには、私お手製のシチューにお肉(※駆逐イ級の肩ロース)たっぷり入れてあげる。そう言ったひよ子に対し、スルナが『お野菜たっぷりの方がいいです』と返し、皆が朗らかに笑いながら夕食の時間が始まった。
 始まるはずだった。
 最初に異変に気が付いたのは、シチュー鍋を持って来るために厨房に向かった北上だった。

「ねー、ひよ子ちゃーん。何かお鍋、冷えてるんだけどー!?」
「え……」

 沈黙。
 皆の視線がひよ子一人に集中する。

「あ゙! ……ご、ごめんなさい! お鍋に具入れてお水張ったところで丁度成分解析の結果出たから、そっち行ったらそのまま火つけるの忘れてて……その……あの……」
「ねー、ひよ子ちゃーん! 炊飯器のスイッチも入ってないんですけどー!?」

 皆の視線が本日の夕食当番であるひよ子一人に集中する。

「ご、ごめんなさい……」

 結局、この日の夕食はMVPの榛名スルナコンビを含めて『サラマンダーより早っやーい!!』の文字がパッケージ左下隅で激しく自己主張しているレトルトカレー『島風一番』と、本土にいた時に買い溜めしておいた市販のレトルト白米のみとなった。
 ちなみに、袋の底の端から伸びているヒモを勢い良く引っ張って30秒待つだけで完成するこのカレーに入っているお肉とお野菜を榛名スルナコンビに譲渡する事で、比奈鳥ひよ子准将に対する制裁措置は完了したものとされた。
 南方海域は、新生ブイン基地は、平和だった。
 まだ。




 次回予告!

 皆さんこんにちは。あるいはこんばんは。比奈鳥ひよ子です。
 お鍋の火かけ忘れただなんてドジやるなんて、実家の母の事もう笑えませんね。おゆはんに食べた具の無いカレーは、高校時代の夏休み中にお昼ご飯として食べた事のある、お湯味のパスタと同じくらい切なかったです。あ、そうそう、切ないと言えば。その夕食中、頬にカレールーが跳ねたので、4本の指で口の方に向かって拭ったら何故か夕張ちゃんが『せつないぜ』とか言ってきました。意味が分かりません。私、メロウリンク見たことないんで夕張ちゃんが何言ってるのか分かりません。
 さて次回のお話ですが、件の金塊が見つかった&何事も無く売れた事で基地の予算に大きな余裕が出来た事と、夕張ちゃんと吹雪ちゃん達からの強い進言に従って、いよいよ事務い……じゃなかった。大淀さんが出撃します。
 お望み通り、強敵が相手です。
 そう。旧ブイン時代から異常繁殖を続けるヤシの実とヤシガニ退治です!

 次回、とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!
 第4話『大淀の奇妙な出撃 ~ クレイジー・ココナッツが砕けない』

 を、お楽しみに!
 なお次話タイトル、次話投稿予定日、および投稿内容は何の予告も無く変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
 それではまた来週。
 あ、そうそう。業務連絡です。吹雪ちゃんも随伴艦として出撃してねー。





 本日のNG(ボツ)シーン その1


「「キレイな貝殻とか石とか~!!」」

 封の解かれた包みから出てきたのは、宣言通りに真珠層の綺麗な貝殻や浅瀬の海底に転がっていた小さな赤い珊瑚枝、ダイバーズナイフ、赤錆まみれになった何かの金属片、皐月や翔太の身長よりも巨大な直径のコンタクトレンズ、
 そして、海藻やフジツボだらけになったとはいえ所々から覗く表面に見事な装飾が施された手乗りサイズの金属製の小箱などだった。

「この箱の中、何が入ってるの?」 
「それが、開かないんです」
「よし、壊しましょう」
「お宝の匂いがプンプンしますねぇ」
「自分も手伝います」

 言うが早いか、夕張と明石がどこからともなく取り出した巨大なハンマー(側面にはそれぞれ『100t』『お仕置き』と書かれていた)で小箱を叩き割り、塩太郎は私物の13ミリ対戦車拳銃で内側に隠れている蝶番がありそうな部分を狙い撃った。
 数回目の殴打で見るも無残に砕けた箱の中から出てきたのは、表面にびっしりとお経が書かれたトイレットペーパーと小さなメモがそれぞれ一つ。
 しかもトイレットペーパーの方は使いかけだった。

「何これ」
「もしかして昔の人のごみ箱?」
「あ、このメモ読めます」
「えと何々……『財政難で、ありがたいお経の書かれた巻物も他の金銀財宝も全部売っちゃったけど、箱の方は唐渡りの高級品だよ』って」
「え」

「「「「……」」」」

 言葉を失った彼らが一様に視線を向ける先。そこには、夕張と明石が手にするハンマー(側面にはそれぞれ『100t』『お仕置き』と書かれていた)で滅多打ちにされ、塩太郎の私物の13ミリ対戦車拳銃で内側に隠れている蝶番がありそうな部分を狙い撃たれて跡形も無く壊された、海藻だらけのフジツボだらけでも所々から覗く表面には見事な装飾が施されていた手乗りサイズの唐渡りの高級品の箱だったものがあった。

(今度こそ終れ。つかコレの元ネタ知ってる人はいるのだろうか……)






 本日のNG(栄光ブイン見てない方々から何でレ級が雑魚扱いなんだよと言われそうなので、以前のNGシーンで掲載した戦艦レ級の設定集を再掲載します)シーン その2

 戦艦レ級

 はい閣下。ご安心ください。
 当SS内および、番外編の有明警備府~内において、戦艦レ級は、ノーマルからフラグシップ級まで、一切登場させない事をここにお約束いたします。

 深海凄艦側の概念実証機的存在。

 人類を排除するのに、わざわざ巨大で強力な艦娘と真っ向から戦う必要はないのでは? という疑問から開発された深海凄艦。
 人型の部分は全長百数十センチ、長大な尻尾を入れてもせいぜいが数メートル程度の、現在確認されている中では最小の個体。
 超展開中の艦娘の艦内に侵入して内部から艦娘を破壊、あるいは後方や人口密集地帯での撹拌工作を主任務とする。
 そういった運用思想のため、艦娘や鍋島Ⅴ型との戦闘は最初から考慮されておらず、ぜいぜいが飛来する小さな破片を防ぐ程度の防御力と、圧縮保存(艦娘)状態の艦娘を素手で引き裂く程度の馬力しか有していない。
 この小柄な深海凄艦の存在こそが、奇しくも第四世代型艦娘――――等身大の艦娘に、従来の戦艦クラスの戦闘能力を。というコンセプト――――の開発が始まるきっかけになった。

 これどこのPlan1211よ。



 戦艦レ級改/同elite/同Flagship

 第五世代型深海凄艦、その改良型。
 サイズは兎も角、形状があまりにも異形すぎたため人類社会にまったく浸透出来なかった戦艦レ級を、純粋な歩兵ユニットとして改造したもの。

 人型の部分は全長百数十センチ。長大な尻尾を入れてもせいぜいが数メートル前後の、現在確認されている中では無印レ級と同じく最小の個体。
 なのだが、自動車に走って追いつく、壁や天井を蹴って高速立体機動、艦娘や戦闘用日の丸人を素手で引き裂く、生体銃砲の他にも深海側の小型生体ドローンと思わしき艦載機を少数内蔵し近接戦闘時の武器や移動補助にも使える強靭で汎用性の高い尻尾、12.7ミリの集中砲火でも抜けない防弾コートを標準装備などなど、およそ常識外れのスペックを有する。
 分かり易く言うと、市街地などの障害物の多い環境における歩兵同士の戦闘では、ほぼ無敵。
 その結果、第4ひ号目標の本土侵攻を阻止するべく行われた第三次菊水作戦。その最中にあった那覇・名護両市遅滞防衛戦と、続く名護山間要塞防衛戦において軍民問わず多大な被害をもたらした。
 より高性能かつ生存能力の高い同eliteやFlagshipは分隊・小隊指揮、場合によっては軍団指揮を務める事があり、小柄な事もあって戦闘中の発見・撃破は困難を極める。

 海軍では当初、イロハコードに従い『不明レ級』⇒『歩兵レ級』と呼称していたが、実際にこれと遭遇・戦闘を経験した全ての将兵(国籍・陸海空軍不問)および艦娘らから『あんな歩兵がいてたまるか』とのクレームが多数寄せられ、その結果『戦艦レ級』と改名された。







 本日のOKシーン その1


 黄昏時とは、本来は『誰そ彼』といい、それが訛って黄昏となった。というのが一般の説であるらしい。

 夕陽が水平線に接触し始め、目の前に立つ誰かの顔もよく見えなくなり始めたその黄昏時の南方海域。
 同海域における、深海凄艦側の最前線拠点。人類側呼称『コロンバンガラ・ディフェンスライン』に、その二人の深海凄艦はいた。
 1人目。
 完全な少女型の上半身と異形の大口を模した機械の下半身、青白い肌、ボタン止め式の真っ黒なセーラー服、顔を模した胸元の黒いアクセサリー、腰まで届くストレートの黒髪は頭部の両側でお団子状にまとめられており、その瞳は勝気に吊り上がり、鬼火色の微かな輝きを放っていた。

「ヨッシ! 昨日ハ航行訓練モ見セテモラッタ事ダシ、ソレジャア今日コソ出撃ヨ! マズハ、警戒ノ薄イ敵輸送路ノ、一ツヲ潰スワヨ! 本日ノ主目標ハ、連中ノコトバデ『げーとうぉっち級』ッテ呼バレテル大形快速戦闘輸送艦『にこる・ぼーらす』ヨ! 敵航路ヤすぺっくナンカノでーたハ、後デ概念接続デ送信スルワ。因ミニこいつハ、護衛ガ全クイナイカラ、楽勝ネ!!」

 帝国海軍呼称『軽巡棲鬼』

「……はい。了解しました」

 もう1人。
 最初のとは違ってちゃんと二本の生足で海底を踏みしめ、Sの字型をした黒く短い角を目の部分から生やした独特のアイマスクをし、黒いノースリーブのセーラー服と黒のミニスカートで上下を揃えた、もう一人の完全な女性型の深海凄艦。
 かつて、新生ショートランド泊地で陽炎を始めとした駆逐娘達からサディスト、もとい神通改二と呼ばれていた艦娘その人である。

「……ッテ、言イタカッタンダケド。今日モ、チョット出撃ハ、無シデ」
「……………………………………はい。了解しました」

 二水戦なめんな。そんな腑抜けた事抜かす貴女には水雷的精神注入棒をスクリューから尿道にねじ込んで修正してあげましょうか。
 そう言いたくなる気持ちを喉から下にグッと抑え込むのに多少の時間を要した神通は、それでも何とか目の前の上司個体に返事を返した。

「御免ナサイネ。急ナオ客サンガ、コッチニ来タノヨ」
「そうでしたか」

 そして神通は、出撃出来ないと聞いて、一瞬落胆した自分の心の違和感に気付き、戦慄し、背筋を冷やした。

 ――――私、何で味方を倒す機会が無くなってガッカリしたの――――ッ!?

 そして、幸運にもその神通の動揺は、黄昏時の薄暗さと、顎に手を当てて中空をにらんで今後の予定を組み直していた軽巡凄鬼自身によって、誰にも見られる事は無かった。

「ンン~、待機ッテノモ芸ガ無イシ、航行訓練ハ昨日ヤッタシ……ヨシ。ソウネ」

 これぞ名案とばかりに軽巡凄鬼はぽんっと手を叩いて、神通の方に振り返って言った。
 その時にはもう、神通は一切の精神的動揺を鎮めていた。

「折角ダシ、貴女モ、人形姫ニ謁見シトキナサイナ」
「はい。了解しました……人魚姫、ですか?」

 姫。
 という事は、まだ人類が把握していない、未知のひ号目標だろうか。
 しかも人魚。
 という事は、下半身がお魚で、陽炎型の航洋直接教育艦娘で、歌声で船乗り誘惑したり、島の外からやって来ためざめの勇者にブラジャー返してもらったりして、最後には王子様と結ばれずに水面の泡に還るのだろうか。それとも魔女のお婆さんに扮した自称神様にとってのウォシュレットのビデ機能な程度のお人形さんを大きな石で撲殺して王子様の国の王妃様となってやりたい放題やってから最後には民衆に革命起こされてご満悦の内に水面の泡に還るのだろうか。

(……個人的にも、戦略的にも、その姫の情報は得ておかないといけませんね)

 神通は、己の置かれた状況にもかかわらず、ちょっとワクワクした。

「違ウ違ウ。人形姫ヨ。人・形・姫」
「そうでしたか。失礼しました」
「気ニシナクテモイイワヨ。デモ気ヲ付ケテ。ソノ呼ビ方、言ッタ奴ソノ場デ殺スホド本人ハ嫌ッテルカラ。アレデモ私ヨリモ上位ノ存在ダシ、目ツケラレタラ、カバイキレナイワヨ」
「はい。ありがとうございます。了解しました」
「オッケー。ソレジャア行キマショ」

 くるりと体全体で旋回した軽巡凄鬼の背中を見ながら神通は自我コマンドを入力。各種センサーに非圧縮・最高品質での記録を開始させる。
 軽巡凄鬼の感覚器は、神通のセンサー群が稼働する音と波をハッキリと捉えていたが、後で顔と名前合わせに使うのだろうと深く考えずに放置した。仮にもし、すでに洗脳が解けていて、どこかにそのデータを送信するつもりでも、捕まえた当初に神通自身に通信機の類は全て破棄させたから持ってないはずだし。
 2人の深海凄艦の背中姿が、段々と黒味を増しつつある赤の中に消えていく。

 南方海域に、夜が降りてくる。





 本日のOKシーン その2


 Please save our Okinawa 03.


 那覇鎮守府の食堂で、顔を赤くしたひよ子は呼吸を荒げながらも小さく呟いた。

「こんな気持ち、初めて……」

 まず初めに、右頬。次に足払い。最後にまた右頬に打ち下ろし。相手を潰すためではないので、意図的に正中線上は外す。
 駄目押しの追撃として靴底で蹴り抜かれた右頬に手を当てながらこちらを見上げる背広組に対し、ひよ子は般若面の如くまなじりを吊り上げて、静かに叫んだ。

「こんな気持ち、初めてですよ……こんな……こんな……! こんな思いっきり人をブン殴りたくなるだなんて生まれて始めてですよ! このクソ野郎!!」

 殴ってから言われても。という野暮なツッコミは、その場にいた北上も不知火も、秋雲もプロトタイプ伊19号も、輝も雪風も、誰も言わなかった。
 皆、同じ事を思っていたからだ。
 比奈鳥ひよ子提督。
 女性。有明警備府所属。
 先日までインスタント少佐だったが、本日の第三次菊水作戦参加と同時に二階級特進し、インスタント大佐に昇進。
 軍に来る以前は国立つくば宇宙科学大学、宇宙科学科に在学(※インスタント提督着任中につき無期休学中)。アルバイトとして忠国警備保障に勤務し、夏コミ冬コミ開催時の特別編成増強部隊、通称『300人部隊』において、十人隊長まで昇進。
 深海凄艦との戦闘では麾下艦娘の不知火と共に『艦娘殺し』こと重巡リ級を相手に寄り切り勝利を一回。
 最新の戦闘ではプロトタイプ伊19号と超展開し、横須賀スタジオ所属の軽巡娘『ドミナリアの球磨』との近接格闘戦(ステゴロ)を一回。
 これらの経歴を見てお察しの通り、比奈鳥ひよ子という人物は、その名前と普段の言動を裏切る、近距離パワー型の女子力の持ち主である。

「……気が、すみました、か……? でしたら、戻って、説明を続けさせて、いただきます……」

 そんなのに殴られてもなお、職務を遂行しようとするこの背広組も大した男である。
 追撃。顎にトーキック。
 正中線上は外す。という制約を力いっぱい破ってしまった事で、ようやく般若の如き表情を収められる程度には冷静になったひよ子が問うた。

「説明、しなさい」
「貴女には、これから、あの子供達を率いて――――」
「そっちじゃない!!」

 しばしの静寂。
 倒れた姿勢のまま、背広組がずれた眼鏡を中指と人差し指で押し上げた。

「……この那覇鎮守府にきて、私以外に誰かと会いましたか? 人でも、艦娘でも」
「突然何を――――」
「いなかったでしょう。皆、もう、先にいきました。現在発令中の第二次菊水作戦です」

 先にいきました。
 それが『行きました』なのか『逝きました』なのか、ひよ子には判断できなかった。

「私には、艦娘との超展開適性が全くなかったので、こうして後方の連絡要員として残っていたのですよ。ああ、非戦闘員の方々は名護山間要塞の方へ移動済みです。あちらは正面ゲートの開閉装置の調整がまだだったので、避難も兼ねてそちらのヘルプ要員として移動してもらいました」
「だからと言って、あんな子供達を矢面に立たせるなんて――――!!」
「そうしなければ、あんな子供達が住んでいる本土まで侵攻されることになるでしょうね。勿論、ここ、沖縄も含めて」
「ッ……!」
「話を戻しますが――――」

 背広組が立ち上がり、パンパンと土埃を掃い、ずれたメガネの左右のつるに両手の指をそえてクイっと押し上げた。
 そして懐から、ひよ子に仕事用として支給されたのと同じタイプと色のスマートフォンを一台取り出すと、2、3操作してその中に収められた一つの短い動画データをループ再生させ始めた。
 病的なまでに白い肌と、ネグリジェにも似た質素なデザインの黒いドレス。ドレスと同色のロングヘアに、額から伸びた二本の角に、酸素をたっぷりと含んだ新鮮な血液色に輝く瞳。
 そして、その背後には、うなじから伸びる無数の細長いケーブルで接続された、毛皮を引ん剥いた筋肉ゴリラのような顔の無い筋肉質の人型をした、異様な存在がナックルウォーク姿勢で立っていた。

「あなた方の任務は、あの子達を率いて沖縄に接近中の第4ひ号目標を撃破。ならびにその随伴艦隊を無力化する事です」

 フラッシュバック。
 ひよ子、北上、不知火の3人はあの日のミッドウェー。輝はあの夜のガダルカナル島の光景が蘇った。

「公には台風情報と詐称してその動向は随時観測しております。同時に、敵群の解析も進めております。最新の報告によると、どうも深海側からすると、今回の大侵攻は第4ひ号目標の実戦テストである可能性が高いとの事です」

 目を開けていられない閃光、オーバーフローしたPRBR検出デバイス、突然の地響き、宙に浮く滑走路、白い球体、白いドレス、白い巨体、
 目を開けていられない閃光、オーバーフローしたPRBR検出デバイス、天突く雲突く大巨人、髪も肌も服も白一色、艤装化したリコリス基地、積乱雲の如き艦載機の群れ、
 目が合った。
 フラッシュバック光景に固まった面々を脇に、唯一冷静だった雪風が問うた。

「つまり、その第4さえ倒せれば、敵群は作戦目的を失い、侵攻を中止する。と?」
「その可能性がある。というだけですが」
「那覇鎮以外の戦力は?」
「再編成中、もしくは本土近海の防衛中です。他国と、北方海域の深海凄艦の活動が活発化してきているとの事です」
「……もしも、任務を拒否した場合は」
「その場合は、貴女方艦娘と、提督であるお二人にはこれを注射した上で出撃してもらいます」
「「「ドーモ、失礼シマス!」」」

 アイサツと同時に部屋の中に入ってきた無数の黒服部隊――――黒の角刈り、黒のサングラス、黒のネクタイにダークスーツをして、同じ顔と体格で統一されていた――――を背にした背広組が、黄色に塗られた小さな金属製のケースを懐から取り出して中身を見せた。その際、背広の内側に隠すようにして、白木の短ドスを一本ベルトに差してあったのを、雪風は目ざとく見つけた。
 黄色いケースの表面には、皮の剥かれたバナナからバショウカジキらしき魚が飛び出している絵が黒一色で描かれていた。

「戦意高揚薬『バナナフィッシュ』です。ごく一部の最前線の泊地や基地に着任した提督に、麾下艦隊の艦娘の人数と同じ数だけ渡されるそうで」
「くたばれゲス野郎」

 雪風は、その幼く可愛らしい顔を歪めて呟いた。その薬の存在自体なら雪風も知っていた。かつての古巣であるラバウルにも同じ物が有ったし、使われる直前になった艦娘も何人かいたからだ。
 だが、実際にそれが使われた事は、雪風がラバウルに着任してから今日までの数年間。ただの一度も無かった。

「……少し、考えさせてください」

 フラッシュバックから復活したひよ子は、辛うじてそれだけを言えた。
 有無を言わさぬと面々が予想していた背広組は『どうぞ。結論が出るまでお待ちしますよ』とあっさりとひよ子の退出を認めた。
 黒服部隊が道とドアを開け、そのドアの影にひよ子の後を尾行てきた先の子供達の中の1人がそっと隠れ、ひよ子が部屋のドアを潜った瞬間、その背中に背広組が呟いた。

「ですが、深海凄艦は待ってくれませんよ」




「どうすりゃいいのよ……」

 無人の那覇鎮守府の訓練用グラウンドの端っこのさらに端。訓練用の小道具入れになっている小さなコンクリート製の倉庫の裏で、比奈鳥ひよ子大佐はひざを抱えて蹲っていた。
 頭の中ではもう理解できているのだ。私がやらねば誰がやる、と。

「こんな時、漫画やアニメだったら『私が来た』って言って都合良くスーパーヒーローとか歴戦の提督とその艦隊がやって来るのにな」

 さもなきゃ自分一人がよかった。自分一人、秘書艦一人だけ良かった。
 自分一人だけならどれだけよかった事か。
 最悪乗艦していた秘書艦が撃沈されても、罪滅ぼしに自分も一緒に沈んでやる事が出来る。あの複雑怪奇なシートベルトの迷路だって、そうなった時の為の理由付けの為に、わざと複雑にしてあるんだって噂もあるし。
 だが、人の命を背負うのは駄目だ。
 重い、重すぎる。
 自分が采配1つをミスれば、事前に立てた作戦に穴があったら、敵の情報が事前のそれと食い違っていたら。あの子達が予想もしないトラブルを起こしたら。
 何人死ぬ?
 先程待合室で見た、あの能天気で無邪気な子供達の、何人が明日の那覇鎮守府に残っていられるのだろう。
 1人だけでも重たすぎるのに、何十人も一度に?
 私が?

「何で私なのよ……もっと適任いるでしょ……探しなさいよちゃんと」

 突如としてフラッシュバックする光景。かつてひよ子が受けたインスタント提督の訓練生たちに対する座学の一環。映像資料の1つ。実際に深海凄艦との戦闘に巻き込まれ、実際に攻撃され、そこら辺の壁や道路に飛び散らかったどこか別の国の民間人のどこかだったパーツ群の、ボカシ・モザイク一切無しのあられもない姿。
 遮光カーテンの閉まった薄暗い視聴覚室の正面に置かれた箱型テレビの中の肉片と、あの子供達の笑い顔が一瞬重なって見えた。
 草むらの影で吐いた。

「畜生……助けてよ、誰か今すぐ助けてよ……」

 ひよ子は、胃どころか喉のすぐ上側にまで鉛を詰め込まれたかのような重圧を感じていた。そのくせ吐き気だけは全然収まらず、不安と焦燥感と静かなパニックだけが脳ミソの中で独楽のように高速でグルグルと渦まいていた。

(きっと、皆こうだったんだ。前線で戦ってる提督達は、今も昔も皆いつもこんな気持ちを堪えてたんだ)

 だからきっと、艦娘が生み出されたんだ。もうこんな思いをしなくていいように。撃破されてもすぐに次の、同じのを手配できるように。
 ひよ子はぐるぐるに渦巻く脳の片隅で、ふとそんな事を妄想した。
 そしてひよ子は今、かつて有明警備府の攻勢摘発で確保した各地のブラック鎮守府のクソ提督達と無性に話がしたくなった。特に、前線帰りの連中と。

(艦娘を物扱いしてたあの人達も、皆、昔はこんな気持ちだったのかな。どうやって乗り越えたんだろう。もしも話せたら、どうすればよかったのか、聞かせてもらえるかな)

 手の甲で口元を乱雑に拭い、金網フェンスに掴まって立ち上がると、無性に高い所に上りたくなったのでそのフェンスの金網を足場に物置の屋上によじ登り、疲れた目線を遠くに向けた。
 台風のたの字の気配も無い、見事なまでに青一色の空と、穏やかな水平線がどこまでも広がっていた。時折、常に吹き続ける風の音に混じって遠雷のような音がしている以外には何も無かった。
 絶好の避難日和。

「……」

 しばらくボケっと何も考えずに青を見続けていた視線を下に町に向けてみる。空港や港に通じる道路の至る所で大渋滞が発生していた。交差点という交差点は例外無くグリッドロックしていた。政府からの急な避難命令に従って、巨大台風から逃れるべく島外に脱出する沖縄本当の住民達だ。もっとも、今ここに迫ってきているのは、台風なんかよりもずっと危険な存在だったが。
 その中の一台。
 那覇鎮守府の、というかひよ子の目の前の道路。渋滞避けに那覇鎮脇の道路を走ったはいいが、表通りに通じる交差点で渋滞につっかえて出られなくなっていた一台のバス。
 やたらと目につく蛍光イエロー一色に塗られた、角の丸まった、どことなく愛嬌のあるデザイン。
 どこかの幼稚園の送迎バスだ。那珂にいる子供達の黒目白目もはっきりと区別出来るしバスの中の騒ぎ声もはっきりと聞き取れる距離。

「……」

 ひよ子はぼんやりと考える。あれに乗ってる子達もこれから避難するのだろうかと。
 いや、その前に出来るのだろうか。この大渋滞で。何度か信号が変わっても1ミリも動く気配を見せないこの車の群れの中で。

「……」

 嫌な妄想が脳裏を走る。
 何処の誰とも知らない幼稚園児たちが、大小さまざまな肉片の傍で目を閉じて静かに横たわっているのが、遮光カーテンの閉まった薄暗い視聴覚室の正面に置かれた箱型テレビの中に写っていた。

「……」

 目を閉じ、一度大きく深呼吸。ちょっと酸っぱい匂いが鼻につくが、そこはスルーの方針で。
 シンプルに考えよう。
 どちらがマシだ。
 とりあえず自分がやるのと、来るかどうかも分からないスーパーヒーローとか歴戦の提督とかをアテにするのとでは。
 自分の采配で皆が死ぬのと、来るかどうかも分からないスーパーヒーローとか歴戦の提督とかを待って、何もしないまま皆が死ぬのでは。どちらがより。
 かなり後ろ向きだが、やる気は出た。
 それと同時に、その黄色い送迎バスの中の園児の1人と、目が合った。

「あー! ぐんじんさんだー!!」

 その一言をきっかけに、車内の園児たちがひよ子に体ごと顔を向けてくる。

「ぼくしってるー! ていとくってひと―!!」
「おしごとがんばってー!」


「ぼくたちのおきなわをまもってー!!」


 保育士らしき女性が苦笑しながら車内でこちらにお辞儀。咄嗟にひよ子も手を振って返す。
 次の青信号で、バスは右に曲がって建物に隠れて見えなくなり、渋滞の中に消えていった。
 それをしばらく黙って眺めていたひよ子だったが。

「……やるしか、ないよね」

 言葉を絞り出した。

「あんな小さな子供達に頑張ってって言われちゃ、やるしかないでしょうが……」

 力無く呟き、取り出した仕事用のスマートフォンでどこかに連絡を取りつつその場を後にする。
 そんなひよ子を死角から見守っていた影が二つ。

「……良い提督じゃないか」
「良い提督にゃしぃ」

 那覇鎮に社会科見学という名目で連れてこられたガキ共とほぼ同じ背丈と年恰好の少女二名。
 片方は、茶のショートカットに快活そうな瞳の持ち主の、緑色のセーラーブラウスと同色のミニスカートに黒タイツを履いた少女。
 艦娘式睦月型駆逐艦娘の『睦月』
 もう片方は、緑色のロングヘアに三日月を模した小さな金色のヘアバンドを留め、上下黒のセーラー服に白のセーラータイをした鋭い眼差しの少女。
 制服こそ違うが艦娘式睦月型駆逐艦娘の『長月』

「着任の挨拶早々でゲロ吐いた時は正直どうしようと思ったが、何だ。どうしてなかなか芯があるじゃないか」
「伊達や酔狂で総司令官やってる訳じゃなさそうでよかったにゃし」

 これは自分達も頑張らねば。と二人の艦娘は無言で互いを見やり、頷いた。そして並んで2人を待つ子供達の元に歩き出した。

「ですが、ちょっと経験足り無さそうなのは、少し、不安だけどね」

 直後、そんな二人に合流する影が一つ。緩やかに波打つ黒のロングヘアに紫色の蝶の羽のような髪留めを付け、睦月と同じ制服を着た少女。
 睦月型駆逐娘の『如月』だ。

「如月ちゃん、もう調べたにゃし?」
「随分と早いな」
「いんたーねっと、というのはとても便利よね。今日出会ったばかりの総司令官の略歴くらいならあっという間に調べられるんだもの」

 この3人、ひよ子が退席したその直後から二手に分かれて行動していたのだ。睦月と長月はひよ子本人の追跡を。如月はひよ子の経歴から提督としての性能調査を。それぞれ。

「如月ちゃん、結果はどうだったにゃし?」
「……うーん。比奈鳥ひよ子大佐。帝都湾内での駆逐ニ級? との対艦戦闘が一回、対潜警備が複数回、MIっていう所からの物資回収艦隊の護衛が一回、プロトタイプ伊19号のテストパイロット任命、それと陸軍さんと合同で重巡リ級? っていうのを一体撃破。ってなってたわ」
「それだけ?」
「それだけ。あと、この作戦が始まる前日まで少佐だったとか。しかも促成栽培(インスタント)の」

 先程までとは真逆の、実に嫌な沈黙が三人を包む。
 そして、これは待っている皆と一緒にものすごーく頑張らねば。と三人は無言で互いを見やり、頷き、そして駆け足で子供達の元に進み出した。
 その途中。長月が思い出したように言った。

「そう言えば、私らの中では暁と榛名さんだけが改二化改修が間に合ったそうだ」
「改二化……なんだかすごそうな響きにゃしぃ」
「なんでも、機関完全停止状態から30秒もかからずに戦闘状態まで持ってけるらしい」
「それは素敵よねぇ。この作戦が終わったら、改装申請通るかしら?」
「通るさ。きっと」

 ひよ子、睦月、長月、如月。
 彼女ら4人が去った後、小さなコンクリート製の体育倉庫もとい訓練用の小道具入れになっている倉庫の中から、人影が一つ外に出てくる。

「……」

 そして、その人影はひよ子の後を追ってその場を後にする。
 後に残されたのは、酸っぱい匂いのするもんじゃだけ。



「私、やります」

 食堂に戻って来たひよ子は開口一番、背広組に向かって言い放った。
 対する背広組、というか部屋の中の面々は、ひよ子が帰ってきた事にも気付いていなかった。例外は扉の近くにいた黒服1名だけだった。皆、何かに注目していた。

『矢島さん! 敵残存空母、全艦撃沈!! 第二目標達成、スリガオ要塞からの報告にあったとおりの数を撃沈! 至急予備戦力で追撃を! 矢島さん!? 矢島一等通信士官!? 今日来るっていう援軍を――――きゃあ!?』

 テーブルの上に置かれた、ラジオから流れる誰かの声に、だった。
 ひよ子からは見えなかったが、軍用周波数に設定されていた。

『――――ッケン コラー! ッスゾオラー!!』
「霧島さん……」

 砂嵐混じりのラジオの向こうから聞こえてくる罵詈雑言。矢島こと背広組と同じ那覇鎮が参加しているという第二次菊水作戦の艦娘。背広組の呟きを信じれば、戦艦娘の霧島からの。
 その中の一言。

『テメーラ、コラー! 波形も周波 も知ら  PRBR値    って何 のつもり  コラー! 何が第 ひ号目標コラー!!』

 爆音の様なノイズでラジオが一瞬絶叫。その後、大昔のテレビの空きチャンネルを流れていたのと同じ砂嵐の音だけが流れ続けた。
 霧島の声は、もう、聞こえてこなかった。

「あ、ああ。比奈鳥大佐。お戻りになられたのですね。それで、ご納得いただけましたか?」
「はい。私、やります」
「そうですか。それは何より」

 後ろ向きだが腹は括ったつもりだ。とひよ子は心中で再確認。

「ですので、まずはあの子達と話をしてから――――」
「そんな貴女にご朗報です! 話は体育倉庫で聞かせてもらった、人類は滅亡しません! 私が来た!!」

 ひよ子の言葉を遮るようにして、誰かが部屋に入ってくる。
 緑色のポニーテール、黒色のセーラー服と赤いセーラータイ、緑色のミニスカートに黒みがかった緑色のタイツ。そして市販のサングラスと市販の風邪マスク。背中に接続された金属の塊――――艦娘の艤装はかなりの大形で、左右両側から挟み込むようにして艦種を模した部分が付き出していた。バストは実際十勝平原だった。
 艦娘だった。

「何モンじゃ我ェ!?」

 部屋の入り口に立っていた黒服の一人がスーツの内側に手を伸ばしつつ誰何する。緑色の不審人物は、マスクとサングラスを外して答える。

「私です!!」
「「「本当にどちらさま!?」」」

 部屋の中の面々が一斉に困惑のツッコミを入れる。

「あはは。ちょっと冗談すぎましたね。えと、比奈鳥ひよ子さんであってますよね?」
「え? はい」

 そこで不審人物もとい不審艦娘はひよ子に向かって敬礼し、言った。

「初めまして。私はTeam艦娘TYPE、外核研究班所属の艦娘式夕張型兵装搭載および実弾運用試験艦娘の『夕張』です。らりるれろからのらりるれろとらりるれろにより、らりるれろのため(※翻訳鎮守府注釈:この夕張は『Team艦娘TYPE内核研究班の行動食4号さん達と、塩バターラーメン技術大尉からの依頼により、貴女の生体データの収集&死亡時における可能な限りのサンプル回収、および貴女自身の護衛任務のため』と言っています。許可が下りていないので機密に触れる言動は自動的にマスキングされています)、本作戦中、特例的に比奈鳥ひよ子大佐、貴女の指揮下に入ります。本作戦中だけとはいえ、よろしくお願いしますね」
「ご免なさい。今なんて」

 ひよ子の顔から表情が消える。今のひよ子の聴覚と本能は、ラ行の乱舞の中に混じっていた一単語だけをピックアップしていた。

「え。Team艦娘TYPE、外核研究班所属の」

 アイドルグループじゃない方のTeam艦娘TYPE。略してTKT。
 フラッシュバック。騙して悪いが潜水娘との超展開試験、そのプロトタイプ伊19号&深海忌雷による●×△、脳の報酬系に電極、お茶に睡眠薬、触手服でM字開脚&ポールダンス、トドメのお尻丸出し。
 今の今までTKTにされた恥辱の数々が、ひよ子の脳裏をアクセルベタ踏みのフルスロットルで走り抜ける。

「――――所属の、艦娘式夕張型、兵装搭載試験および実弾運用試験艦娘の」

 夕張が言い直している途中にもかかわらず、ひよ子は今いる食堂の厨房に大股で入り込み、戸棚を乱暴に漁って目当ての物をみつけると、やはり大股の急ぎ足で夕張の方に取って返した。
 そして、

「『夕張』で――――」
「悪霊! 退散!!」
 
 そう叫んだひよ子は夕張の顔面に向かって、塩の袋(2kg)をフルスイングで叩きつけた。
 袋の封は、切られていなかった。



「比奈鳥先生、大丈夫かな」
「今日が楽しみすぎてゲロ吐くとか、小学生かよ」

 ごめんねー。先生、みんなに会えるのが楽しみすぎてちょっと体調壊しちゃったみたいなのー。
 ひよ子は無理矢理笑顔を作って子供達にそう説明すると、服を着替えるために北上らと共にその場を一旦後にした。何故か背広組も連れて。
 因みに、ひよ子が吐き戻した床の酸っぱい匂いのするもんじゃについては、どこからともなく湧いて出てきたお掃除用の円盤ロボが匂いを含めた一切の痕跡を残さず掃除していた。近所の電気屋や各動画サイト内で『床の汚物だけを殺す機械かよ!!』と紹介されていたのは嘘ではなかった高性能である。
 それはともかく、その場に残されたガキどもが大人しく待機していたのは最初の数分間だけで、そこから先は大喧噪に包まれていた。
 お付の艦娘達もいたが、そいつ等はそいつ等でひと固まりになって雑談しているフリをしながら先に偵察に向かった睦月達の帰還を待っていた。艦娘とは、見てくれと原材料と動作心理が少女なだけでその実は戦闘兵器である。先のひよ子の不審が、言葉通りの体調不良によるものだと考える間抜けは一人もいないからだ。おそらくは、何か不測の事態。先の雪風や伊19の反応からして、ひょっとしたら自分達の事は聞かされていなかったのかもしれない。
 もしかして――――

「こんないい天気なのに雷鳴り始めたし」
「長月トイレ遅ぇーな」
「睦月ちゃんもまだかよ」
「でもさ、本物の艦娘って、アニメに出てきたのと全然違うよなー」
「あー。確かに。艦娘っつったって普通の女子じゃん。アイドルグループの方もだけど。なのにアニメだと50メートルくらいのスゲーメカメカした巨大ロボットだったし」
「因みにアニメ艦これだとお前ら誰が一番好きだった? 俺大和さんの『処女神の鉄槌(アルテミス・ハンマー)』発射シーン」
「お前おっぱい星人かよ。俺如月ちゃんの変形合体して地球を背景に戦うシーンだな、やっぱ」
「ぼ、僕は天龍さんが好きなんだな……あ、天龍型軽巡の方じゃなくて、ティアマトー級の方ね」
「俺OPが好き。かかかっ、かかかっ、艦娘だー。かかかっ、かかかかっ、艦娘だー、の次のシーンのやつ」

 今だ、防空戦闘だ! 敵影直上、超10センチ、連装砲ちゃぁぁぁん!! と遠藤ボイスで絶叫するガキどもの群れの中に、1人の少年が血相を変えて飛び込んできた。

「みんなー! 大変だよー!!」
「地味男じゃん。なんだよ」
「い、今、今さっき! 今さっきこっそり聞いてきた話なんだけど――――」

 ――――もしかして、体験学習型の社会科見学だなんて嘘っぱちで、この子供達が今日、本当に、戦場に送り出されるのかも。



(今度こそ終れ。戦艦レ級の出番はもう少し待っててね☆)


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