本日のオススメBGMその1:シートベルツ『Tank!』 どこか薄暗い部屋の中。 カッチ、コッチ、と一定のリズムで時を刻む時計の秒針の音色をBGMに、比奈鳥ひよ子は語る。「永遠に続くものは無い。あらゆるものに終わりは来る。オインゴボインゴが歌ってるように、世に永遠に生くる者無し。ノー・ワン・リブズ・フォーエバーってやつよ」 提督指定の第二種礼装のスカート、そこにベルトで吊るされたガンホルダーからひよ子は拳銃を取り出す。今時珍しいマテバのリボルバー。マテバが好きなのだろうか。 これを読んでいるあなたに向かって構える。「突然ですが『とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!』は今日で最終回です。そこで今回は、今までにあった事や無かった事を振り返って色々と考えたり、思わせぶりな事書いてドヤ顔してみようと思います」 ひよ子が引き金を引く。 銃声が1発鳴り響く。『とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!』 ひよ子が引き金を引く。 銃声が1発鳴り響く。『第三話』 ひよ子が引き金を引く。 銃声が1発鳴り響く。 想起「うろ覚えのごった煮ブルース」 #01 フード・フォー・ライフ 今は遠き帝国本土の有明警備府の食堂。 そこの座席の1つに座って食事が運ばれてくるの待っている比奈鳥ひよ子――――肩の階級章は当時の少佐のままだった――――は、対面に座っていた艦娘ぬいぬいもとい『不知火』に、至極真面目な顔でこう呟いた。「いい、ぬいぬいちゃん? 食べ物というのはとても大事なの。【肉貪り/Devour Flesh】のフレーバー・テキストにもある通り私の身体も、ぬいぬいちゃんの身体の大部分も、食べたもので出来ているのよ。もしも並行宇宙にもう一人の私がいたとして、そっちの私が生まれてこの方天然食品しか食べた事が無いとしましょう」「はぁ」 ひよ子はコップになみなみと次がれたお冷を一口飲み、口を湿らせる。「天然食品ひよ子は立場的・遺伝子的には同じかもしれないけど、全く違う人間になっているはずよ。天然食品ひよ子は、私よりも神経質かもしれないし、千葉県の九十九里浜のど真ん中に鎮守府を建てているかもしれないし、14歳の冬にお国を代表するような提督さんにレイプされて男性不信の人間不信になってるかもしれないし、頭にまっ黄色のアルファベットのTの字をした被り物を被って海の上をスキーみたいに滑って出撃するのかもしれないわ。いずれにしても、天然食品ひよ子は私とは別人よ」「はぁ」 不知火もといぬいぬいは、この人突然何を言い出すんだろうと内心思っていたが、顔にも口にも出さないでおいた。こんなんでも一応は自分の司令官だし。「つまりね、ぬいぬいちゃん。食べ物を選ぶ時は、ちゃあんと考えてから結論を出さなきゃだめよ、という事なの」 ひよ子がそう結論付けた直後に、食堂と繋がる厨房の方から、本日の調理担当である戦艦娘『比叡』の声がした。『比奈鳥少佐ー、不知火ちゃーん! 今日の夕食ですけどー、昨日の残りのカレーをさらにアレンジしたのとー、再現料理のロブスターの味噌煮ー、どっちにしますー!?』「「ロブスターの味噌煮でお願いします!!」」 思考時間0秒。 まごう事無き脊椎反射の返答だった。 #02 フールズ・カットイン 南方海域の、新生ブイン基地。 其処に所属する重雷装艦娘の北上改二は、一度『展開』し――――重雷装艦本来の姿形とサイズに戻って――――艦内を清掃していた。 残すは弾頭を一時的に冬眠させて安全処理を施した魚雷本体だけであり、北上は、物に触れるほどの超高速・超高密度な立体映像の艦娘としての自分自身の映像を魚雷発射室に投射して、魚雷を磨いていた。「んー。こういうのは夜戦バカこと川内が言うべきなんだろーけどさー。夜戦ってーのは意外と奥が深い物なんだよねー。ただカットイン叩き出せばいいってモンじゃないのよ。夜戦に参加するそれぞれの艦娘にも一つ一つ個性があって、それぞれの個性を生かしてやらなきゃいけないの。運も雷装値も低い子に魚雷カットイン期待するのも正直アレだしねー」 北上は手にした新品のぞうきんをバケツの水に浸し、硬く絞り、魚雷の表面を拭き始める。「最近の提督達はみんな揃って魚雷で揃えようとしてる。魚魚魚のカットイン。主砲も照明弾もみんなまとめてカットカットカット。だけど、そのカットされた艤装をどう扱うかこそが提督の腕の見せ所であり、詫び寂びってヤツだとこの北上様は思ってる訳さー。そんな事も分からない提督は艦隊の指揮をするべきじゃないね。まったく。艦娘も装備品も可哀そうだよ」 ぶつくさと言いながらも魚雷を磨き終える。最後に別の乾いたぞうきんで魚雷表面の水気を完全に吸い取り、魚雷発射室を後にした。 北上が掃除用具を片手に部屋を後にする。 その直前、北上はふと思い出したかのようにこれを読んでいるあなたの方を振り向いて、言った。「え? これ書いてる作者? 妙高さん改二に時雨っち、あたしに潮ちゃんにプリンツ雪風。全員魚雷ガン積みしてたね」 同じく南方海域。新生ショートランド泊地。 そこに所属する陽炎型駆逐娘の1番艦『陽炎』は、お昼寝中に悪夢にうなされていた。 かつての上艦であり、今は自身の司令官共々MIAとされている軽巡洋艦娘の『神通改二』と、1対1での格闘訓練をしている夢だった。 どういう訳か、夢の中の神通は陽炎が知る川内型のオレンジ色の制服ではなく、真っ黒を基調としたセーラー服とミニスカートをし、どういう訳かSの字型に曲がった黒く短い角を生やしたアイマスクをしていたが。 夢の中で陽炎は、ヤバレカバレの突撃。砲も魚雷も投げ捨てて、握り拳1つで神通に立ち向かって逝った。 それをあっさりとクロスカウンターで迎撃した神通が、やたらとエコーのかかった声で陽炎に言った。「そうです。それで良いんです。水雷戦隊の基本は格闘です。砲や魚雷に頼ってはいけません」『それ水雷戦隊の存在意義全否定してるんじゃ?』そう疑問に思った陽炎に、神通から、サブマシンガンの如き勢いで撃ち出された無数の拳のラッシュが突き刺さる。 #03 ケ・セラ・セラ 新生ブインやショートランドと同じく南方海域。 同海域における深海凄艦達の最前線拠点であり、絶対防衛線でもあるコロンバンガラ島。人類側呼称『コロンバンガラ・ディフェンスライン』にて。Sの字型をした黒く短い角を目の部分から生やした独特のアイマスクをし、黒いノースリーブのセーラー服と黒のミニスカートで上下を揃えた、完全な女性型の深海凄艦、もとい神通改二と呼ばれていた艦娘その人は砂浜に腰掛け、物憂げな視線を西に――――新生ショートランド泊地の方角に向けていた。 誰にともなし呟く。「思想の無い方は嫌いです。たとえそれが自分の部下の艦娘であっても。でも思想を塗り潰そうとしてくる深海凄艦はもっと嫌いです。思考の鈍い方も嫌いです。鈍臭い方とでは水雷戦隊を組めませんから」 神通が足を組み替える。再び呟く。「危険な敵は好きです。でも、危険すぎるのもちょっと考えものかもしれません。部下の子達に教えを残せなくなってしまうかもしれないから」 その神通の背後。軽巡棲鬼は不安げな表情で神通の方をちらちらと見ていた。 そんな彼女を意に介さず、神通は呟く。「弱気な提督は嫌いです。でも、自分の弱さを分かってたあの人は好きです。あの人の楽観的だったところも好きです。他の基地や鎮守府の提督達のように一から十まで機械的に作戦を進めるなんて、気が知れないです。作戦なんて、どう進めたって、最初の物とは大きく違うものになってしまうのですから」 軽巡棲鬼は思う。(ダレモ居ナイ所デサッキカラブツブツト……洗脳ヤリ過ギチャッタカシラ? トリアエズ医療用ノ繭ノ準備ト、精神ちぇっくノ準備ヲ、ア。ソレト神通ノ代ワリニ誰カ定期警戒出撃ヲ――――) 意外と面倒見のいい軽巡棲鬼の心配をよそに、神通は新生ショートランド泊地の方角に向かって体育座りをしながら呟き続けていた。 #04 無情の料理 有明警備府所属の戦艦娘、比叡です! 料理の世界は広いです。まさに宇宙です! 比叡は皆さんにもっと美味しい料理を食べて笑顔になっていただきたいので、さらなる挑戦を毎週金曜、カレーの日に続けています! 昨日、気分を変えて裸足で厨房に立ってみたら、何だかビリビリしました! 漏水&漏電の殺人コンボでした!! ネットの海は広大で、お手軽レシピを探していたのに全然違うサイトを眺めていた事も何度かありました。 艤装に砲塔を乗っけて出撃すると、艦艇時代の本能で何だかワクワクしますし、新しい料理のレシピが浮かびそうでやっぱりワクワクします。 真理は42だと聞いたので、料理に生かそうとしましたが、そもそもどういう計算式だったのか分からなかったので、(真理は)やっぱり無いです。 カレーに欲しかった42は手に入りませんでしたが、カレーに必要な具材は手に入りました! 数年前の南方海域。 旧ブイン基地(という名の丸太小屋)が旧ブイン基地(という名のプレハブ二階建て)に代わってしばらくしてからの頃。 故 水野蘇子准将がまだ着任一月未満のインスタント少佐だった頃の、ブイン基地の近海。 そこで水野は、己の最初期秘書艦である朝潮型軽空母娘『龍驤』と超展開し、その状態での艦載機の制御訓練を行っていた。 結果水野は、その艦長席の上で目と耳と鼻とそれ以外の穴という穴からアニメ第十話の白笛のリコさんめいて大量出血し、嘔吐し、ついでに失禁脱糞した。「アッ、アバッ! アバ―――――!!」『ほらキミぃ。さっきも言うたやろ。目に頼りすぎや! ジブンはカメレオンやないんや。人間、そうあちこち見えへんように出来とるんよ!!』 #05 キー・オブ・艦載機の操作『人間は、っちゅうか人間もうちら艦娘も何かしらの動力源の鼓動によって生きとるんや。鼓動っちゅうんは規則的な繰り返し、つまりはリズムや」「アババババ―――――!!?」『そう。何をするにしても、大切なんはリズムや。超展開中の艦娘と同調したまま歩く時も、走る時も、殴る時も、元に戻って基地で昼飯食べる時も」「ゴボボ―――――!!」「……ふ、2人であ、愛し合う……と、時も……と、兎に角リズムや! リズムが重要なんや!!」「ゴボボー……」「そう、鳳翔なんかは『水のようになれ』って教えとるけど、ウチの場合はリズムが肝心なんやと思うとる」「……」『艦載機の思考操作もリズムで……て、あれ? って! アカーン! ゲロが肺に逆流して詰まっとる!? 衛生兵、衛生兵ーい!!」 水野蘇子インスタント大佐、訓練中の事故により二階級特進五秒前の事だった。 ジョン♪(×:winbomsは予期せぬエラーでプログラムを終了しました) ジョン♪(×:winbomsは予期せぬエラーでプログラムを終了しました) ジョンジョンジョンジョンジョン♪(×:wi(×:wi(×:wi(×:wi(×:winbomsは予期せぬエラーでプログラムを終了しました)「……ぬ゙ぅ゙わ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん!! このクソOSがぁぁぁ! 何度フリーズしやがれば気が済むんだこんちくしょぉぉぉ!! も゙ゔや゙だも゙ん゙ん゙ん゙ン゙ン゙~~~!!」 今からおよそ十数年以上も前。 Team艦娘TYPEの九十九里浜本部の地下に、井戸水冷輝(イドミズ ヒエテル)技術中尉の怒号が空しく響き渡る。 #06 ブギーフィッシュ・リサーチインスチチュート 目の下にたっぷりと濃ゆい隈を作った井戸水技術中尉(貫徹三日目突入)が、研究所内のオープンラボに運び込まれ、完全に拘束された第一世代型の特1号型生物――――数年後に駆逐イ級と呼ばれるようになる――――の生きたサンプルの腹部を、優しくなでていた。夜なので酷くヌメヌメしていた。 実にヤバ気な雰囲気と優しさで井戸水が1号に元気よく質問する。足元に土木作業用のチェーンソーを置きながら。「ねぇ被検体Ain(1号)。ねぇねぇAin。どうしてそんなにヌメヌメするの? はーい、それは、夜になると何か体表を覆う粘液の粘度が変化するからデース! 原因もプロセスも不明デース!」 たまたま近くを通ったTeam艦娘TYPEの内核研究員達が、何事かと井戸水の方に視線を向ける。一部の暇人は野次馬化する。 井戸水は気にせず元気良く叫ぶ。足元に土木作業用のチェーンソーを置きながら。「ねぇAin。そもそもAin? どうして他の海生哺乳類のように有意な音紋信号を発しないの? Oh、それは――――」 何の脈絡も無く井戸水が足元のチェーンソーを手にし、スターターを引いてエンジンを作動。一切のよどみも躊躇も無く1号の脳天にその高速回転する刀身を押し当てる。 激痛に1号が大絶叫し、力の限りもがくが、完全拘束されたその巨体は軽く身じろぎしただけにとどまった。 表皮を切り、肉を裂き、頭蓋骨の白い粉を削り飛ばし、内側に収められていた、クルミの実にも似た柔らかい灰色が見えたところで井戸水はチェーンソーの駆動を止め、その組織の中に肩まで手を突っ込んだ。 そして事前に撮影されたⅩ線写真の記録を参照に、中で何かを探るようにして腕を大きくまさぐり、中にあった目当ての物をしっかりと掴むと、身体ごと後方に引いて勢いよくそれを引きずり出した。 井戸水の全身とほぼ同じ大きさをした、何かの機械だった。「Oh、それは、こんな通信無線を脳内に仕込んでるからー!」『一般常識? 倫理観? なにそれ、新手の実験機材?』が平均値であるはずのTeam艦娘TYPE内核研究員達が、井戸水からちょっと距離を取る。中には突然のスプラッタ劇場に目を回してその場にぶっ倒れて介抱される奴もいた。 井戸水は気にせず元気良く叫ぶ。「ねぇAin。やっぱりAin。どうしてそんあに君は幸せなの? そうです、それは、この俺様の実験材料として使われ――――」 井戸水の肩に、背後から手が置かれる。井戸水の上司である草餅少佐が、生身で――――軽巡『川内』として提供したその体で――――立っていた。 草餅少佐は、真面目な表情のまま決断的に井戸に告げた。「もう寝ろ」 佐世保鎮守府に所属する陽炎型の駆逐娘『舞風』は、ベッドの上で陽炎型の制服を脱ぎ、真横に置いた姿見を使って作業着に着替え直していた。器用な事に下半身を一切動かさずに。「チャーリーは言った。手は手でしか洗えない。得ようと思ったらまず与えよ。チョコレート美味しい。ってことはどういうことか分かる秋雲? つまり、チャーリーはやれって言ってるのよ」 自信満々にそう言い切り、エアブラシとガスマスクとゴーグルとツナギで完全武装した舞風に対し、ベッドの隅に腰掛けて舞風の車椅子をキコキコと揺すって遊んでいたもう一人の艦娘、有明警備府所属の駆逐娘『秋雲』は何言ってんだお前と言う代わりにこう言った。「違うチャーリー混ざってない? それ」 #07 ウォーク・マイ・ウェイ 秋雲に車椅子を押してもらい、目的地に向かうまでの間に舞風はこう言った。「ゲーテによると、作者が読者に対して払い得る、最大の敬意とは『彼らが期待する事は一切書かない』事なんだって」「へぇー」「他にも、人間の働きにせよ、自然の働きにせよ、特に注目しなくちゃならないのは、その働きの意図なんだって」「いい事言うじゃん、ゲーテ」「だよねー。怪我で半身不随になった私が、ダンス棄てて絵描きになるなんて、他の舞風達どころか私の提督も全く想像すらしてなかったしね。みんな驚いてたよ、やっぱ。でもそれでいいじゃん。誰も思いつかなかった事をやる。ダンスでも絵でも。慰問通信の時なんか、他の舞風達は結構楽しんで聞いてるよ。でもさ」 でもさ。と舞風は一度言葉を区切り、これ書いてる作者と目を合わせた。秋雲も連られて空を見上げたが、彼女には良く晴れた青空しか見えなかった。この低啓蒙め。「? どったの舞風。空になんかあるの?」「でもさ、飛び出せブインの第三話が詰まってるからってこんなお茶濁しを書いてうpするなんて、折角見てくれてる読者の方々の誰が予想できたのかな?」「あー……舞風? 疲れてるんなら別の日にする? 私、まだ有給残ってるから今日じゃなくても大丈夫だよ?」 #08 ナチュラル・メモリー 夕陽の残滓だけが残るコロンバンガラ島の砂浜で体育座りをしたまま、神通は呟き続ける。「綺麗好きな方は好きですが、綺麗事は嫌いです。帝国軍人たるもの整理整頓は基礎基本。でも、最近はそうでもなくなってきました。ついでに言うと隠し事も嫌いです。陽炎ちゃんの顔、不知火ちゃんの顔、仮病使って訓練サボってた黒潮ちゃんの仮病がバレた時の絶望した顔。良いじゃないですか。個性的で。ただでさえ私は、自分の事が分からなくなってきているんです。深海凄艦が艦娘の神通のフリをしていたのか。それとも本当に艦娘の神通が深海凄艦になってしまっているのか。だから、手掛かりは消したくないんです。全部、私を繋ぎとめるものですから」 どこかの鎮守府にて、とある男性提督が本日の秘書艦である朝潮型駆逐娘の『霞』にこう言った。「霞にはいつも感謝しているよ。ま。そのツンデレ気味な態度もかわ゙お゙ッ!?」 言い切る前に、提督のつま先に力いっぱい振り下ろされた霞のカカトがめり込んでいた。 #09 インスタント・ツンデーレ! その日の消灯時間後の食堂にて。 ガタガタと強風の揺れる食堂の窓と、大きなのっぽの古時計の秒針の音をBGMに、2人の艦娘が床にあぐらをかいて対面していた。 1人は本日の秘書艦だった『霞』 もう一人は、何故か酒瓶を抱えて酔っぱらって(ドランキング)いる綾波型駆逐娘の『曙』だった。 そして司会こと地の文はこの私、綾波型の駆逐艦『漣』でございます。 ドランキング・ボノたんは慣れないアルコールで顔を真っ赤にしながら言いました。まぁ、飲ませたの私なんですけお。「セレンじゃない方のヘイズよ」「誰がレオーネメカニカの最高戦力よ」「アンタは何であのクソ提督にすぐ手を上げるのか知ってるの?」「知らないわよ。きっと、どこかの路地裏でくたばりかけてたヤク中の貧相なガキの肉でも使ってるからでしょう」 それには答えず、ボノたんは続けて言いました。「セレンじゃない方のヘイズよ。アンタのゴーストは何であのクソ提督に対して素直になれないのか知ってるの?」 シリエジオの専属リンクスじゃない方の霞は言いました。「知らないわよ。きっと、元金持ちの世間知らずのお嬢様の絞りカスでも使ってるからでしょ」 ボノたんの代わりに私が言いました。「その答えは間違っていて、合っている。この鎮守府の霞殿の肉体は他の全ての艦娘『霞』と同じでありながら、霞殿にしか成り得ない。霞殿のゴーストも、他の全ての『霞』と同じように表向きはツンケンしているけど、ホントはもっと素直になってイチャイチャしたいと奥底で考えておるのでs――――」「そ! そっそそそそそんなわけあるわけないじゃない! わ、わわわ私はべ、別にアイツの事なんて……! その……その……」 顔どころか首まで真っ赤にした霞殿を見て、ボノたんも私『漣』も、呆れた表情をしました。「……それは、この地上で何より普遍的なツンデレっ娘の反応ですぞ」 外の強風の音に混じった、時計の秒針のチックタック音だけが一定のリズムで無言の食堂内を満たしていた。 CM入りまーす。 CM開けまーす。 #10 シュガーズ・テンプテーション 南方海域、旧ブイン基地(という名のプレハブ二階建て)。 そこの203号室を教室に見立てて、着任7日目の目隠輝きゅんと、その秘書艦の特Ⅰ型駆逐娘『深雪』は座学講義を受けていた。 今日の担当は、その203号室を拠点にしている第203艦隊のクウボ娘『赤城』だった。 本日の講義は、こう始まった。「赤ん坊に甘い物ばかり与えると、肝心の栄養のある食事を受けつけなくなるそうです。やはり、甘い物の食べ過ぎは身体によくないのです。別に食べ物に限った話ではありません。平静の御代の現代は、インターネットの中にも外にも砂糖菓子がいっぱいです。そんなのばっかり見て食べてたら、脳味噌が腐ってヨーグルトになってしまいますよ? だから、時々はこうしてヤシとヤシガニを思う存分食べる事で少しでも腐敗を遅らせ――――」 赤城の背後から気配を殺して忍び寄った井戸少佐が、彼女の脳天にチョップを一発入れた。「ヤシとヤシガニは一日一個&一匹までだといったはずだぞ。貴様の頭蓋骨の中にあるヨーグルトはもう忘れたのか?」 #11 チェイン・オブ・クッキング 磯風だ。 いや、料理というのは実に奥が深い。ただ闇雲に焼いたり味を付けたりすればいいというものではない。 考えなしの連中はむやみやたらと調味料を付け、サンマなのかイワシなのか駆逐イ級なのか分からないような物体Xを作り上げる。 そういう輩は、厨房に立つべきではないとこの磯風は考える。 元の素材の味。つまり、イワシならイワシ。駆逐イ級なら駆逐イ級ならではの味を生かしてやらなければならないと思う。そうでなければ、駆逐イ級も悲しむというものだ。 つまり、だ。司令。この磯風が焼いたサンマの味は、つまりサンマそのものの味であって、決して炭の味ではないのだ。 #12 ドゥ・ギンバイ・ユアセルフ 南方海域、旧ブイン基地(という名のプレハブ二階建て)。 そこの203号室を教室に見立てて、着任8日目の目隠輝きゅんと、その秘書艦の特Ⅰ型駆逐娘『深雪』は今日も座学講義を受けていた。「働かざる者食うべからず。いいですか、深雪さん。このブイン基地では自分の燃料は自分で確保しなさい」「え」 口の端に冷蔵庫の中にあったケーキの生クリームを付けた赤城は、実に器用にも言葉を澱ませる事無く食べながらしゃべり続ける。「え、私ですか? 私はいいんです。空母はそこにいるだけで戦略的な価値を持っていますので」 赤城の背後から気配を殺して忍び寄った井戸少佐が、彼女のヨーグルトが収まっている頭を分厚い書類の束で力いっぱいはたき倒した。「俺のケーキ返せこのギンバイ野郎!!」 どこかの食堂の一席。比奈鳥ひよ子は珍しく酒瓶片手に北上に愚痴っていた。「大本営もTKTも、どーせすぐ裏切るのよ。不義理よ不義理。あーもー。信じらんないわー」「不義理、ねぇ」「少なくとも、私はそう信じてるわ」 #13 イフ・タイフーン・ワズ・ディープシーフリート あらゆるものを疑ってかかる事。それが一番大事なことよ。情報なんて所詮は情報。ミッション・メールに書かれてる事が真実だなんて思ったら大間違いよ。沖縄に接近してる巨大台風が本当に台風だなんて、誰が証明してくれるの? 目を見開いて本文をよく読んで、矛盾を見つけ出す事。そして、自分の直感を信じて物事を否定的に考える事。それが大事なの。 全てを疑い尽くした後に残った事実こそが、信じる事が可能なの。そう。信じるために全てを疑う事。 ま。何を信じたところで、最後に待ってるのは、私みたいに翔鶴型の再試験だと偽られてプロト19ちゃんとの超展開試験やらされたり、睡眠薬飲まされて触手服着せられてポールダンスさせられたりする未来かもしれないけれどね。 本土のどこかの鎮守府の応接室。 その室内では初老を迎えた歴戦の元帥閣下に、彼の秘書艦の軽巡娘『大淀』が困惑気味に反論していた。「提督。そんなの無茶すぎます。何の知識も経験も無い新人提督をあの元ブラック鎮守府に着任させるだなんて……! そんなの、バットもボールも無しに野球をするようなものです!」「いいんですよ、大淀さん。僕はそういうのが好きなんです」 爽やかな笑みを浮かべる好青年――――彼こそが元ブラック鎮守府に配属となった人物だ――――が、部屋から退出がてらこう呟いた。「バットもボールも無いなら、竹刀とテニスボールを使えばいいんですよ」 #14 アメイジング・ブラックチンジュフ その好青年が所属する事になった元ブラック鎮守府を運営していた、とある提督は、獄中にてこう証言した。「ブラック鎮守府を運営して一番いいところは、ルールが無い事だ。艦娘を運用するのに『こうしなければならない』ってーのが無いところだ。それなり以上の戦果を挙げれば黙認される。日の当たる廊下でその日の秘書艦を押し倒しても誰も何も言わねぇ。だが好き勝手やってると、ある日突然憲兵隊の査察が入ったり、それはルール違反だと怒られたり、どこかの二次創作で踏み台にされたり、俺みたいに裁判も何も無しにいきなり投獄されたりする。奴等はこの業界のルールに従って生きているつもりらしいが、そんなの、いったい誰が決めたんだ? 軍規には一行もそんな事書かれてなかったぜ。それでも文句があるんだったら、少なくとも、俺以上の戦果を挙げてから言って欲しいもんだぜ」 彼はここで一度席から立ち上がり、部屋の隅の洗面台でコップに水を注いでから一気飲みし、戻ってきた。 再び話す。「俺は誰かに従うためにインスタント提督になった訳じゃねぇ。あんな極上の女どもを自分の思いのままにするために提督になったんだ。脅されようがケツの穴掘られようが、このスタンスは変わらねぇ。残念ながら、俺達クソ提督の魂は芸術品だ。あ? その心は?」 自称『普通の人』とやらには永遠に理解んねぇんだよ。 ある日の有明警備府。 明日に迫った金曜日――――海軍カレーの日を前に、調理担当である戦艦娘『比叡』は何時になくテンションが高かった。「きょーくん教訓。知らない具材が合ったら、カレーに入れましょー♪」「「「やめて!!」」」 他の有明警備府の面々の悲鳴を無視して、誰も知らない小人、もとい誰も知らない具材がお鍋にどぼーんした。 #15 マイ・フェイバリット・クッキング 比叡は、今まで料理で苦労した事がありません。ひょっとしたら苦労してたのかもしれないですが、全然覚えてません。 どうしてかと言いますと、お料理は作るのも食べるのも楽しいですし、美味しく作れなかった料理も作ってる間は楽しいですし、美味しく作れるようになったらもっと楽しいからです!! でも、それでも美味しく作れなかった時は片付けて掃除して、お風呂入って歯を磨いてトイレに行ってから寝ます。寝たら、夢の中ではミスター特級調理人みたいにその料理を作れてるからです。 ある日、どこかの鎮守府の道場にて。 正規空母娘の『瑞鶴』は、同じく正規空母娘の『加賀』を力の限り殴り飛ばそうとして、右腕一本でいなされ、そのまま前方に半回転して背中から畳の上に叩き付けられた。「痛たたたた……加賀さん、今の何? 合気? それとも馬鹿力?」 ため息と共に加賀が答える。「単純な馬力やマシンスペックなら私よりも貴女の方がずっと上でしょう。何処にも力なんて入れてないわ。私は、貴女の無駄な力を利用しただけ。水のように、よ」「?」「……これだから五航戦は。良い? 私が、ずっと昔に鳳翔さんから教わった事なのだけれども――――」 #16 アンフィニッシュド・キュードースタイル『ブルース・リーはこう言ったそうです『心をからっぽにして、どんな形も形態も捨てて、水のようになるんだ』と。水を湯呑みに注げば水は湯呑みになるし、水を急須に注げば水は急須の形になる。水は小川のように流れる事も出来るし、滝のように激しく打つ事も出来ます。だから加賀ちゃんに赤城ちゃん。水のようになることを常に心がけなさい。龍驤さんはリズムだとおっしゃっていましたが、私からはそれだけです』 流石鳳翔さんは言う事の格が違います。今思い出しても気分が高揚します。と、加賀はワンセンテンス置いてから続けた。「そして鳳翔さんはこうも言っていました『私や龍驤さんが貴女達に教えているのは、艦載機の発艦方法とか、深海凄艦の倒し方とか、そう言うのではなくて、空母娘としての自分をどうやって表現するか。という事なんです。それが大食艦の汚名であれ、焼き鳥ネタであれ、某クソコラ画像であろうとも。つまり、符術や弓術に則った、艦娘の身体を使った表現方法です』鳳翔さんがただの居酒屋の女将さんでないのが良く分かるでしょう。だから五航戦」 そこで何故か加賀は弓を構え、片足を上げ、弓を引いた。「だから五航戦。私がどんな格好で弓を引いてても何も問題は無いのよ。弓なんて、弦を引っ張れて矢が飛んでけばそれでいいのよ」 それロアナプラの女海賊の拳銃哲学。 瑞鶴がそうツッコミを入れたかどうかは、当の2人にしか分からない。 #17 艦娘的義務 ある日の有明警備府。 その日、そこに所属する秋雲は過去に例が無いほど強烈で、スピリチュアルで、明確なネタが脳内に降臨していた。「こ、これが! これが舞風の言ってた脳が震えるっていう感覚! 脳に瞳! 宇宙は空に!! 脳を揺らすのはたしかに身体に良い事、実際遥かに良い!!!」 ハイテンションという概念そのものと化した秋雲が机に向かい、液晶タブレットの電源ボタンに指を掛けたところで、有明警備府内全域に緊急警報が鳴り響いた。『帝都湾内に深海凄艦出現! 繰り返す、帝都湾内に深海凄艦出現! 数多数! 有明警備府所属の艦娘は即時出撃せよ! 繰り返す、有明警備府所属の艦娘は即時出撃せよ!!』「……ああ、神様仏様。もしも本当にこの世にいるのなら、ひとつお願いします。全ての創作活動を阻害する森羅万象に、力いっぱいの天罰が下らんことを」 #18 胸いっぱいの結婚願望を プロトタイプ足柄は憂鬱そうにため息を吐き、婚活雑誌を斜め読みしながら少し離れた席に座って、溜まりに溜まった書類仕事をやっつけていたひよ子に愚痴を呟いた。「たまに思うわ、損な性格してるって。時々思うの、これじゃあイイ男に出会ってもすぐに逃げられちゃうって」 ひよ子はまたか。と思ったが、そんな事は口に出さずに指を動かし続けた。朝からやってるのに書類山の標高が全く減ってないからだ。新手のスタンド使いからの攻撃か、それともまだ未収容のSCPだろうかとひよ子は割と本気で思っていた。 そんなひよ子の事などお構いなしに足柄は物憂げに続けた。「まぁ、でもそれが私だからしょうがないのよね。猫被って『えぇ~、私、こう見えても~、結構家庭的なんですぅ~』って言って、一時期上手くいっても後で苦労、いや、絶対後悔するにきまってるわ。この私。プロトタイプ足柄そのままが良い。って人じゃなきゃ私も嫌よ。まぁ、世界は広いし、ひょっとしたら一人くらいはそんな男がいるかもしれないから、ちょっと街まで逆ナン行ってくるわね~」 手を振り、プロト足柄が執務室を後にする。残されたひよ子は書類から目を離さずに、もう一人の艦娘に問い掛けた。「ねぇ、プロトタイプ金剛?」「Yeah?」「貴女、よくプロト足柄と一緒に街に出ているけど、彼女、どんな男がタイプなの?」「Let me see... ...確か『理想を言うならカカロットで、妥協して範馬勇次郎』って言ってマーシター」 それを聞いて、ひよ子は飽きれたような声を出した。「それじゃあ、どんなに世界が広くても、プロト足柄が男を見つけるのは永遠に不可能ね」 ある日、どこかの鎮守府に所属するビバップ艦隊の執務室。 そのビバップ艦隊を指揮する提督は、艦隊が帰投するまでの間の暇つぶしとして、電話で元重巡娘の『高雄』と会話をしていた。『提督、この子ったら私やあの人と違って音楽の才能が凄いんですよ。きっと、将来は伝説に残るようなハーモニカ吹きになりますわ、きっと!!』「何でそんな事分かるんだよ。お前、その子産んだの半年前だろ?」『だってこの子、私のおっぱい吸う時には必ずワーブリング効かせてくるんですもの』「……そりゃ気の効いたガキだ」 #19 チンジュフ・スタイル「今から約100年前。チャーリー・パーカーというサックス吹きがいた。彼は譜面通りに演奏しなかった最初の奏者であるらしい。つまり、カタに嵌るのを嫌い、自分のスタイルを貫いたということだ。チャーリーのその音楽は後にBebopと呼ばれるようになった。そう。それがこの艦隊の名前の由来になった……んだけどなぁ」「司令官、艦隊、帰投しました!!」 ビバップ艦隊の執務室に、彼の麾下艦隊の艦娘が入室する。 旗艦の駆逐娘『朝潮』1名。それがこのビバップ艦隊の全戦力である。(……昔いた高雄もクソ真面目だったし、艦隊の名前と中身が一致してないんだよなぁ。でもま、ビバップの定義から外れるのもまたビバップだよな?) #20 デイドリーム・ビリーバー 歌う鬼『軽巡棲鬼』を撃退し、満身創痍でトラック泊地に帰投した目隠輝きゅんは、乗艦していた駆逐娘『雪風』の修理が終わるまでの間、その修理光景を少し離れたキャットウォークの上で眺めながら誰にともなしに呟いた。「あの頃の僕は――――君を深雪と思い込んでいた頃の僕は、夢を見ながら目覚めて、目覚めながらも夢を見ていたんだ。過去は事実、記憶は真実だという現実から目を背けて。……夢は、どこからが夢なのか。今でもたまに分からなくなる。でも、寝ながら見ていた深雪の夢、起きながら君に見ていた深雪の夢。どっちも同じだ。僕は、臆病だったんだ。見えるはずなのに、見ないようにしていただけだったんだ」 #21 私の意志のままに そしてそれは、ただの錯覚だ。この執筆期間三日、実質10時間未満で書き上げた挙句に推敲すらしてないこのSSが拍手喝采で迎えられ、見た事も聞いた事も無いような数の閲覧数とコメント数が付くなんてことは。 そしてとびだせブインの第三話の完成予定日は、筆者の遅筆っぷりに翻弄され、今もブ厚いベールに覆われたままだ。 でもそれは、ひっそりと、まるでタイタン変動重力源のように人知れず存在し、いつか何かの拍子にうpされるだろう。 #22 怒りを込めて書き上げろ だからもう、遅筆如きに目くじらを立てたりするのは止そうじゃないか。これは冗談なんかじゃない。フィクションなんかでもない。 それとも……俺は悪い夢でも見てるのか? 何で本日のOKシーンが本編ばりに長くなってんだ。 #23 ネタがこんがらがって 嗚呼、栄光のブイン基地に出てこなかった南方棲戦姫が、ブルースの定義を聞かれてこう言ったそうだ。『ぶるーすッテノハ、作者ニソノ存在ヲ今ノ今マデ忘レ去ラレテタ、私ミタイナ奴ノ事ヲ言ウノヨ』 #24 イッツ・オール・オーバー・ナウ、ネイビー・ブルー 本日のオススメBGMその2:シャカゾンビ『空を取り戻した日』 THIS IS NOT THE END. Because today is April fool's Day. YOU WILL SEE THE TRUE "とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!" SOMEDAY! 本日のオススメBGMその3:山根麻衣『THE REAL FOLK BLUES』 新番組!「ごきげんよう」「ごきげんよう」 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。 特別な瑞雲(※総プラチナ製の慰霊碑。出撃可)に見守られたお庭に集う乙女達が、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。 中庭でひとり、カタのポーズを黙々と続けている瑞鶴に、この学園の教師の1人である軽空母娘の『鳳翔』が声をかける。「イヤーッ! セイケン=パンチ! イヤーッ!」「瑞鶴=サン。体軸が曲がっていましてよ?」 実戦の穢れを知らない心身を包むのは、深い色の制服(※各艦娘の専用制服は卒業時に返却) スカートのプリーツは乱さないように。白いセーラーカラーは翻さないように。 そうすれば、お淑やかに歩こうが、数日前に編入してきたばかりの鈴谷(改)のように食パン咥えて『転校初日から遅刻遅刻ー!』と叫んで全速力で走ろうが、別にどっちでもいいのがここでのたしなみ。 もちろん、完全無欠のタイムアウトで封鎖された正門ゲートを、真横の電信柱を蹴って三角跳びの要領で飛び越える鈴谷(改)などといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。 聖セイヤ女学院、改め、軍立クウボ訓練学校。 明治三十四年創立の、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校(※対深海凄艦戦争の激化に伴い、同学院は帝都の武蔵野に移転)を接収して完成した、建造されたばかりの正規・軽空母娘達と、外部からの編入生組の航空戦艦娘や航空巡洋艦娘達の、近代化改修と訓練のためにつくられた、伝統はないが格式はある機動部隊系のお嬢さま学校である。 神奈川県。湘北の面影を未だに残している青の多いこの地区で、八百万の神々と靖国の英霊達に見守られ、試験管から提督の元へ配属されるまでの一環教育が受けられる乙女の園。「鳳翔先生、ごきげんよう」「ごきげんよう、熊野=サン。そろそろ授業を始めますから、着替え終わったらグラウンドに集合するよう、クラスの皆さんに伝えていただけますか?」「はい。承りましたわ」 戦況が移り変わり、最終防衛ラインがマリアナ海溝付近から本土側に向かって三回も書き直された今日でさえ、三十六ヶ月間通い続ければ温室育ちの純粋培養空母娘が箱入りで出荷される。 という仕組みが残っている貴重な軍の訓練学校なのである。 そんな学校の教師役でもある軽空母娘の『鳳翔』がグラウンドに整列した乙女達の前に立ち、長い白たすきで和服の両袖を固く縛り、普段通りの穏やかな笑みのまま告げる。「それでは本日の授業を始めます」「「「ハイ! 鳳翔=サン!!」」」「本日の授業は、やや実戦に寄った形式で行います。訓練用瑞雲で私の駆る震電改とドッグファイト展開しつつ、並列して私と物理カラテ・プラクティスです」「「「えっ」」」「大丈夫です。ちゃあんと意識が残るように手加減しますから。痛くなければ覚えませんしね?」 軍の訓練学校なのである。 新番組『多門丸が見てる』 第1回『多門丸も戦争に行った』(全1945回)は来週から始まります。お楽しみに。 あとがき。 エイプリルフール、エイプリルフールですから! カウボーイビバップのファンの方は物を投げないでください!! お願いですから、何にもしませんから!!