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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:dca4aee1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/12/18 21:40
 ※1:
 ああ、Pola、あるいはアル重よ。
 我の祈りが聞こえなかったのか。
 多くのアドミラール達にそうしたように、我の艦隊にお越しくださらなかったのか。
 酒匂と朝風と嵐と親潮のようにブイン基地に着任し、艦隊これくしょんの業を克させたまえ。
 掘りの泥沼に浸かり、最早正視に耐えぬボーキ残量……(残7でした)
 Polaよ!
 やがてこそ待とう。待ち尽そう……
 次のイベント海域を! 次の次の建造落ちを!!

(※翻訳鎮守府注釈:Arcadia海域の方言で
 ※1:
 そういえばプロト19ちゃんとの出会い編書いてなかったので書きました。時系列的には本編最終話のあたりです。
 輝君はまだ南方です。深雪もまだ生きてます。
 いつも通りの猛烈オリ設定とかあのキャラの●×▲■はこーなんじゃね? とか注意です。
 以外に優秀どころか軽巡最強の球磨ちゃんの妹が無能であるはずが無いのは確定的に明らか。
(2016/12/18初出。同、朝風と山風の名前を間違えていたため修正)
 の意)



 秋の虫の合唱以外聞こえないはずの時間帯に響くのは、大型冷凍トラックのアイドリング音。

「新潟県、寺泊(テラドマリ)泊地発、帝都の第三新築地市場行き。冷凍マグロ護送車が1、2、3、4……よし、OK。バード4よりママ・バード。バード4よりママ・バード。護衛目標の全車両のサービスエリアへの侵入を確認。全車異常無し」
『ママ・バード了解。引き続き周辺の警戒を厳となせ』
「バード4了解。交信終了(アウト)」

 月明かりも眩しい、新潟県と帝都を結ぶ高速道路。その帝都側にほど近い、とある大きなサービスエリア。
 配電制限など知った事かと言わんばかりに全力で輝くハロゲン灯によってとてもまぶしく照明された無人の駐車場。
 そこが今日の私達――――有明警備府第一艦隊のお仕事場所です。

『ひよ子ちゃーん、じゃなくてバード4ー。車両の貨物検査も終わったよー。薬物毒物危険物爆発物放射性物質指名手配犯密輸動植物の類一切無し。中身は全部出発前と同じ冷凍マグロだったよー。仕込んどいた密告タグにも変化なしー。あ。私バード5ねー。バード5』
『しらぬ……バード6よりバード4。引き継ぎの運転手たちにも異常ありません。事前に送られてきた書類の通りです。指紋、虹彩、全て機器認証を通りました』

 この作戦専用の慣れないコールサインにつっかえながらも、バード5と6――――北上ちゃんとぬいぬいちゃんが簡潔に状況を報告してきます。
 今の2人は、艦娘としての制服を着ておらず、デジタル迷彩柄の野戦服に予備弾装をこれでもかと引っ掛けたタクティカルベストを巻き付け、黒いガスマスクを被り、歩兵用の多目的リボルバー・ランチャーを手に、背中にポリカーボネート製のライオットシールドを背負って完全武装しています。
 これが有明警備府のにおける、対人制圧作戦時(※主に夏・冬コミ時に使用)の基本兵装です。ただ、改二型ではないぬいぬいちゃんはBDU(野戦服)の背中から、陽炎型艤装特有のアームが伸びて突き出していましたが。
 そんな二人の報告を片耳に仕込んだインカム越しに受けて、私は事前のブリーフィングで頭の中に叩き込んだ作戦チャートを思い出しながら、2人に次の指示を出していきます。

「了解。予定通りバード5とバード6は周囲の警戒を続行して。北か……バード5は電子索敵をメインで。川内ちゃ……バード2達が周囲の警戒に出てるし、ここまで来たら多分もう無いと思うけど、サシミ・ジャンキーとか、共生派とかの襲撃に注意」
『『了解!』』
『バード1よりオールバード。バード1よりオールバード』

 個別ではなく小隊共有の周波数で入って来た通信は小隊長のバード1――――普段は第三艦隊の副旗艦を務めている叢雲さんからでした。

『これより対象が出発する。ここから第三新築地市場までノンストップで行くからね』
『『了解!』』

 ゆっくりと発車し始めたトラックに遅れないように、私と北上ちゃんとぬいぬいちゃんの3人も、ここまで乗って来た簡易装甲ジープに急いで乗り込むと、サービスエリアを後にしました。

「バード4分隊移動開始。予定通り最後尾の護衛に回ります」
『バード1了解』

 目指すは第三新築地市場。
 そこまでこの冷凍トラックの貨物を運びきれば、晴れて私達の任務は終了です。



『急に暗くなり始めた空に声を上げ、はしゃぐ無垢な駆逐達~♪』

 トラックが走り始めてから十数分後。
 定時連絡以外の声が流れなかった小隊共有の周波数帯に流れてきたのは、バード2――――川内改二ちゃんの鼻歌声でした。

『……バード1よりバード2。今は任務中よ。集中しなさい』
『慌てふためく空母達を、余所に遠い瞳でー、夜の帳見つめてる~♪ ……えー。だってただ走ってるってだけのも退屈じゃん。せっかくの夜戦日和だったのに』
『それだって仕事の内よ。我慢しなさい』
『へーい、へい……ん?』

 無線の向こう側の川内ちゃんの声が真面目なものに戻るのと同時に、私も異常に気が付きました。
 今まで私達が走って来た無人の高速道路。その後方から、いくつものエンジン音とライトの明かりがやって来た事に。

『……バード2よりママ・バード。今現在、私らの他にこの高速使ってるのは?』
『ママ・バードよりバード2。否定。その高速道路は本作戦中、舗装工事の名目で完全に閉鎖されている』

 と言う事は、一般車両ではないと言う事でしょう。事前のブリーフィングでも私達以外の戦力は派遣されないという話でしたし。

『陽動部隊の飛龍と蒼龍、もとい、ドラゴン1と2の可能性は?』
『それも否定だ。今通信が入った。襲撃があったそうだ。全国各地の鎮守府に輸送中だった、昨年の冷凍秋刀魚を載せたトラックはIED(仕掛け爆弾)で完全に大破炎上。状況に対処中との事だ』

 有明警備府の作戦司令室に詰めているママ・バード――――第2艦隊副旗艦の戦艦娘『長門』さんが、肯定的な最後の可能性を否定しました。
 つまり、あれは敵性存在だと言う事です。
 そして、彼らが後ろから姿を見せ始めました。

 無数のバイクと、全体を長く鋭いトゲトゲで鎧った無数の違法改造車両が次々と、緩やかな丘陵の車線の向こう側から激しいエンジン音と搭乗者の奇声を引き連れてこちらに接近してきました。

「ヒャッハー! 匂いだ! It's smell!! 海の幸の香りがするぞ!!!」
「ヒャッハー!! 突然の道路工事とか胡散臭すぎるからまさかと思って拡散してみたけど、ホントに大当たりだったわー!!」
「ヒャッハハハハハハー!!! 今日この日のために申請した有給三連休が無駄にならんで良かったぜヒャッハー!」

 そんな違法改造バイクやら車やらに乗っているのは、背中にホッカホカの湯気が立つ銀シャリの詰まった大形の電池式炊飯器と巨大なしゃもじを背負った、老若男女の群れでした。
 群れの内側を分類してみても、普通の特攻服(トップク)羽織った不良学生、暇を持て余した有閑マダム、移動式ステージとして改造されたトラックの荷台の上で火炎放射器付きのギターを弾き続ける変な黒いアイマスクをした軽巡娘の神通さんのコスプレをした中年太り男性、某有名女子中学校の制服を着た女子生徒、翔鶴型2番艦の弓道着を着た加賀型正規空母娘に、冴えない中年男性サラリーマンなど、統一性など何一つ存在していない集団でした。

 慢性的な海の幸不足症候群の末期患者――――サシミ・ジャンキーの群れです。

 そんな彼らが共有するのはただ一つ――――刺身喰わせろ。ただこの一念だけです。

「もしかして、先ほどの停車中にコンテナを開けての確認中に匂いを嗅ぎ付けられたのでしょうか」
「そんなまさか。あれ全部冷凍されてたのに? そんなまさか……まさか、ね?」
「あー。バード5よりママ・バード。後方よりサシミ・ジャンキーの集団が接近中。索敵範囲内には25、30……あー、現在も増加中。ついでに電波の発信源複数。多分電話かなんかで増援かけてる。どする? もう撃っていいの?」

 北上ちゃんが、改二型で増設された強力な対人索敵能力で後方からやって来た珍妙団の詳細を露わにすると、手持ちのリボルバー・ランチャーに装填されている弾種を確認しながら指令室の長門さんに指示を乞いました。
 ぬいぬいちゃんは誰に言われるよりも前に、ジープの後部座席に据え付けてあった重機関銃の銃座に取りついて射撃許可はまだですかと呟いていました。因みに私はちゃんと前を向いて、アクセルベタ踏みで運転中です。

『ママ・バードよりオールバード。ママ・バードよりオールバード。限定的ブルースモーク。繰り返す。非致死性弾頭のみ射撃指示許可。障害を排除せよ』

 インカム越しに伝わった長門さんからの射撃指示とほぼ同時に、北上ちゃんがランチャーの引き金を真下に向かって6回連続で引き、道路を催涙ガスで包み隠しました。
 それから数秒遅れで、刺激臭と催涙煙でハンドル操作を誤ったのか、連続する『ヒャッバー!?』という悲鳴と玉突き事故の音。
 何事もなければこれで終わりだと思うのですけれど、夏コミ冬コミで毎回毎回発生している開会の拍手も待たずにフライングする男津波達はこの程度では怯むくらいしかしてくれません。
 だから、きっと、このサシミ・ジャンキーの人達も――――

「ヒャッハー!!」
「やっぱりねー!」

 やっぱり、全然数が減っていませんでした。バイクの2人乗り3人乗りや、車の外側に変な姿勢でしがみついているのが多いのは、きっと後続車両に拾い上げてもらったからなのでしょう。何気にチームワークがいいですね。
 バックミラー越しに背後を見た私の絶叫とほぼ同時に、銃座のぬいぬいちゃんが制圧射撃を開始。車の前方のアスファルトやタイヤを全く無視して、車の運転席や剥き出しのバイクライダーに弾幕を集中させています。ゴム弾だと分かっててもかなり怖い光景です。
 続けて、リロードを終えた北上ちゃんがリボルバー・ランチャーを再発砲。銃口より撃ち出されるのと同時に広がる暴徒捕獲用ネットが6つ、サシミ・ジャンキーの先頭集団に向かっていき、
 この喧騒の中でも何故かよく響き渡った指パッチンの音と同時に、6つのネット全てが空中で燃え尽きてしまいました。

「「「!?」」」

 座学の映像資料で見た事があります。
 加賀型空母は、それ特有の異常排熱に指向性を持たせた不可視の熱衝撃波をCIWSとして運用しているとかなんとか。
 つまり、あの、サシミ・ジャンキー達の先頭に立って、上半身を微動だにさせずに超高速で走り続けている、何故か翔鶴型2番艦の弓道着を着た正規空母娘こそが『加賀』その人なのでしょう。
 ……映像資料の中だと、もの凄いクールビューティだっただけに、背中に電池式炊飯器と巨大なしゃもじと『私は卑しい妾の五航戦の妹の方であって間違っても加賀様などという殿上のお方とは違うずい』と達筆で書かれた横断幕を背負ったその姿はものすごく残念です。
 北上ちゃんがリボルバー・ランチャーを再発砲。発射された弾頭は瑞鶴ちゃん(の弓道着を着た加賀さん)の前方の地面に着弾。破片を四方八方に巻き散らかして面制圧。

「じ、実弾!? そっちの許可はまだ出てないはずでしょ!?」
「空母が相手ならこれでも足んないくらいだし!!」
「北上さんの言う通りです!!」

 コールサインで呼ぶ事も忘れてぬいぬいちゃんが重機関銃で集中砲火。
 対する瑞鶴さん(の弓道着を着た加賀さん)は、何の前触れも無く3人に分裂(したかのような超高速連続ステップを)すると、爆破片を含めたその全てを回避。巻き添えを食った後方車両群が次々と脱落していくのがバックミラー越しに見えました。

「だったらこっちはどうよ!?」

 一度銃撃を止めた北上ちゃんが自分のガスマスクを剥ぎ取り、瑞鶴さん(の弓道着を着た加賀さん)と目を合わせたかと思うと何の前触れも無く、瑞鶴さん(の弓道着を着た加賀さん)は足をもつれさせ、大きくバランスを崩して後方に転がり脱落しかけ、大きく距離が開きました。

「すごいじゃない! 今何やったの!?」
「甲標的用の緊急停止コマンド! 中身ちょっとイジってレーザーで送りつけた!!」
「もう一度お願い! また来た!!」
「あいよっ……っと!」

 ですが、北上ちゃんの送りつけた即席の強制停止コマンドは自閉症モードに切り替えた瑞鶴さん(の弓道着を着た加賀さん)には届かず、とうとう最後尾にいた私達のジープの横をすり抜けてトラックの天井に取りつかれてしました。

「トラックが!」
『バード2対処しろ! 飛龍蒼龍がいない今、クウボの相手が出来るのはお前だけだ!!』
『バード2了解!!』

 そしてバード2こと川内ちゃんがトラックに飛び乗るよりも先に、瑞鶴さん(の弓道着を着た加賀さん)が、トラックの天井を握りしめて強引に引っぺがし始めたまさにその瞬間。
 私達の後方にいるサシミ・ジャンキー達よりも更に後方から、恐ろしいまでの速度で誰かがここまで走り駆けてきました。
 加賀さん(の弓道着を来た瑞鶴改二ちゃん)でした。

「こぉぉぉぉぉぉんの、おバ加賀がぁ!! 余所の鎮守府の方に迷惑かけてるんじゃああああ、ありませんッッッ!!!!」

 駆けてきた勢いそのままに跳躍し、コンテナの上で無防備に壁抜け中だった瑞鶴ちゃん(の弓道着を着た加賀さん)の後頭部に、ドロップキックが綺麗に入りました。
 その勢いで瑞鶴ちゃん(の弓道着を着た加賀さん)は前方はるかに吹き飛ばされ、サーフィンボードの要領で加賀さん(の弓道着を来た瑞鶴改二ちゃん)に頭を踏み押さえつけられたまま数十メートルほどアスファルトを削り取りながら疾走し、そこでようやく止まりました。

「大変、大変申し訳有りませんでしたぁ!!」

 そして、急停車した私達が何かするよりも先に間髪入れずに加賀さん(の弓道着を来た瑞鶴改二ちゃん)が土下座です。
 隣に座らせた瑞鶴ちゃん(の弓道着を着た加賀さん)の頭を押さえつけて一緒に土下座させてますけど、アスファルトにめり込んでますよ?

「五航戦風情が。頭にきました」
「うっさい! 余所は余所、ウチはウチでしょ! 寺泊で一番の新入りが生意気言ってるんじゃありません!!」
「……えぇと」

 どうすればいいんでしょう、こういう場合。
 土下座する2人の前で立ち尽くす私達に気が付いたのか、叢雲さん達や後方から追いついたサシミ・ジャンキーさん達も車から降りて来て一緒に困惑していましたし。
 そして、何の前触れも無く、私達は照明されました。

「「!?」」

 暗闇に慣れ切った私達の目ではこの明るさにはとても耐えきれず、思わず両手を目の前に掲げて両目を硬く瞑ってしまいました。
 そしてほんの少しとは言え目が明るさに慣れてくると、灰色の高く分厚いコンクリート製の防壁がほんの数メートル先にあったのが光の中に見え、そこから指の間を通して薄目で上に視線を移してゆくと、その防壁の上に据え付けられたいくつものサーチライトがこちらを明るく照らし出していたのが辛うじて見えました。
 無線に入電。

『あー。商品の護衛には感謝するが、関係ないコントなら余所でやってもらえんかね? もうすぐセリの開始時刻なんだが』

 私達の目的地である第三新築地市場の外隔壁の監視塔からでした。
 どうやら、気が付かない内に到着していたようでした。



「3等級のカビ抜きカツオブシ・インゴットが一本250万円とか……有り得ない、マジ有り得ない。安すぎでしょ……」

 目的地である第三新築地市場に到着してから後の事は、さして語るような事はありませんでした。
 私達を受け入れるべく隔壁が開いたので中に入り、積み荷をトラックごと受け渡して向こう側の検品担当官と一緒に中身を確認し、受領書にサインをもらってママ・バード――――長門さんに連絡を入れて帰還命令を貰った後『安すぎる』『ありえない』の二単語を延々とループし続ける比叡さんが放心状態のままお土産を警備府の年度予算で買い込み、そこでミッションは無事終了しました。
 因みに、サシミ・ジャンキーの方達は何事も無かったかのような顔をして市場の中に入り込み、全員でお金を出し合ってそこそこ値の張るカツオブシを1本購入したそうです。
 何でもこれから大鍋でお味噌汁作って皆で飲むのだとか。

『有り得ないマジ有り得ないカビの四度付けの桐箱入りも一億切ってたしマグロの中落ちが1グラム五千円てどういう事よ金(キン)と同じくらいまで値下がりしてるじゃない私が買いに行ったときは警備府の押収品保管庫の中にあったタナトニウム少しガメてこなきゃならないくらい高かったのは何だったのよだったら返せ返せ差額を返せ返せ返せ青い海を返せ返せ私の年俸2年分』
「あの、足柄さん。さっきの市場にあった商品ってそんなに安かったんですか? 私、合成品じゃない方のカツオブシって見るの初めてだったんで分からなかったんですけど」

 無線の向こうでは何故か心折れた比叡さんがもの凄い早口で何事かを途切れる事無く呟き続けていますが、そんなのは放っておいて、比叡さんと同じ車に乗っているはずのプロト足柄に聞いてみました。

『すごく安いわよー。ひよ子ちゃんが着任した頃はまだ西太平洋戦線どころか南西諸島海域も戦況が不安定だったから、小アジみたいに安い魚でも普通に一尾で一万くらいしてたのよ。遠洋漁業なんて滅多に出せなかったし。そのくせ需要だけは凄くあるし』
「ああ、どうりで。だから偉い政治家の人とかTVに出てるアイドルとかが粉末大トロとか脱法カツオブシを所持してたとかで騒ぎになってたんですね」
『そう言う事。さて! 何はともあれこれでミッションは終了ね。さっさと帰って寝ましましょ。夜更かしは美肌の大敵よ』
『私も賛成よ……けど。最近は配電供給もユルくなって来たねわぇ。もうすぐ日付が変わるのに、まだ街中に明かりが灯ってるなんて』

 叢雲さんの言う通りです。ほんの数ヶ月前までだったら配電制限で、午後八時か九時を過ぎた頃には辺り一帯が真っ暗になっていたはずなんです。
 ですが今は、ハロゲンランプの灯りが道路の両端を規則的に照明し、遠くに見える街の灯りは、少なく小さいながらも闇の中で宝石のように輝いていました。

『さ。帰りましょう。今すぐ帰れば、まだ5時間は寝れるわよ』










 3件の新着メールが届いています。
 動画メールです。


【サンプル輸送艦隊護衛】(最優先)

 送信:帝国海軍大本営
 受信:有明警備府
 本文:
(※このメールは、帝国本土内および、本土近海の全ての鎮守府、基地、泊地等に一斉送信されています)

 ミッションの概要を説明します。
 ミッション・オブジェクティブは、第三世代型の深海凄艦『重巡リ級』『軽母ヌ級』のサンプルを輸送中の輸送艦隊の護衛です。
 護衛対象である各オブジェクトへの質問は軍機ですのでお答えできません。あらかじめご了承ください。

 同輸送艦隊が輸送中のオブジェクトは、Team艦娘TYPEのもう一つの根拠地である帝都湾内のバビロン海ほたる最深部へと輸送される予定です。
 同輸送艦隊は現在、増強護衛艦隊に護衛されつつ西太平洋沖を帝国本土に向かって移動中です。

 今回は、細かなミッション・プランはありません。全てあなた方にお任せいたします。
 あらゆる障害を排除し、ミッションを完遂してください。

 ミッションの概要は以上です。
 あなた方であれば、良いお返事を頂けるものと信じております。



【潜水艦娘の排除】(最優先)

 送信:帝国海軍参謀軍団
 受信:有明警備府
 本文:

 ミッションを連絡します。
 帝都湾内に展開する、ブルネイ泊地第13艦隊所属の潜水艦娘『伊58』を拿捕、あるいは撃沈してください。

 ご存知の通り、ブルネイの第13艦隊は、同泊地の存在する南西諸島海域より産出される原油を輸送する事のみを目的とした臨時編成の艦隊です。
 ですが今回、彼らは突如として『いい加減に実戦に出せやでち!』との声明と共に武装蜂起し、帝都湾内での実弾演習という名目で同湾内を封鎖。現在もそこに潜伏中です。
 我々は、平和的な話し合いを求めておりますが、彼らは頑なにこれを拒み、攻撃的な態度を崩しません。

 このミッションは、輸送艦隊の安全を確保するための話し合いをするための示威行動です。
 暴力をちらつかせた交渉は我々の本意ではないのですが、この際仕方ありません。

 なお、排除対象の伊58はかつてのオリョールクルージングからの生還回数は9回。
 しかも、黄金月桂冠錨ダイヤモンド付き猫旭日勲章を授与された事のある、恐るべき実力者……から薫陶と訓練を施された、別の個体です。
 とはいえ、その実力は確かなものです。そうでなければ、現状況は発生していません。
 第13艦隊の主戦力である伊58が失われれば、彼女らの抵抗の意志など容易く折れ去るでしょう。

 そうなれば、帝国海軍の憂患は解消されるでしょう。
 正義のため、あなた達の力を貸してください。




【深海忌雷掃海任務】

 送信:帝国海軍兵器開発局
 受信:有明警備府
 本文:

 ミッションを説明しましょう。

 目的は、帝都湾海中に浮遊する、深海凄艦の新兵器の排除となります。
 敵新兵器は暫定的に『深海忌雷』と名付けられており、球体状の本体と4本の触手からなる、新型の生体兵器です。

 これまでに集まった情報や報告によると、これは駆逐艦や一部の軽空母のみを選択的に狙って攻撃するスマート機雷の一種であると考えられます。
 使用されている爆薬は従来の物と同じ深海凄艦由来の、二液混合式の強酸爆薬。
 触手部分が捕獲肢を兼ねた感覚野になっているらしく、触れたものに自動的に巻き付き、確実に固着させつつ本体部を圧迫。本体に内蔵されている二つの薬嚢を破裂させて液体爆薬の安定を崩した後、神経刺激によるトリガーで自爆するものと推測されます。
 随分と古臭い構造ですが、その分兵器としての信頼性はかなりの物です。誤作動や不発の類は期待しない方がよいでしょう。
 また、この触手の締め付けは極めて強力で、艦隊決戦用の駆逐艦程度なら、本体部分の爆発を待たずにそのまま圧潰されてしまうそうです。注意してください。

 これに対処する最も有効な手段は、戦艦や重巡洋艦など忌雷の攻撃対象外艦による遠距離からの砲撃による爆破処理、あるいは超展開を実行しての直接除去でしょう。
 ですが、触手部分にはクラゲやイソギンチャクなどの触手にもあるような刺胞の存在が確認されているため、超展開状態での接触はあまりお勧めできません。
 最終的にはそちらの判断ですが、あまり無理はなさらない方がよろしいのでは?

 また、帝国海軍兵器開発局はこの兵器の鹵獲に特別ボーナスを設定しております。
 可能であればの話ですので、破片だけでも持ち返っていただければそれに応じた追加報酬をお約束します。
 ……ったくよぉ、刺胞が無い珍しいの解体検査してる途中だったのにあの野郎、全部持ってきやが……あっ。

 失礼しました。説明は以上です。
 兵器開発局との個人的な繋がりを強くする、またとない機会です。
 そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?

 ミッションを受注しますか?
 ≪YES≫   ≪NO≫








『船が海へ向かう様にー♪ 皆いつか夜戦に出るんだー♪ できるーさー♪ 信じーてーるよー♪』
『五月っ蝿ぇーんだよ! このバカ夜戦!! さっさと寝ろ!!』
『朝の4時半はもう朝だ! とっとと寝ろ!!』
『折角瞼が重くなってきたところなのに何考えてんだこの野郎! 陸軍さんに標的艦として突き出したろか!?』

 私が毎朝目を覚ますのに使っているのは、最近買い替えたばかりのおニューの目覚まし時計(※ものすごく彫りの深い顔をした軽巡娘の阿武隈ちゃんが『アブウ! 目覚めたまえ、我が姉達よ!!』とか叫ぶ奇妙な目覚まし時計です)……ではなくて、自主的な夜戦演習から帰って来た軽巡洋艦『川内改二』の気持ちよさそうな歌い声。そして、それに熱い罵声(エール)を送る他の艦娘達の黄色い罵詈雑言です。

『空母たちが無くしてるー♪ 夜戦を今、取り戻そうー♪ 君にーもー、出来るはーずさー♪ でも♪ 僕もひとりじゃそーんなにー♪』
「んにゅうぅぅぅ……もう朝かぁ」

 寝ぼけ眼をこすり、枕元に置いてあった眼鏡を手探りで摘まんで取り、ぼやけた視界が鮮明になるのと同時に、眠気もようやくまともに取れてくれました。

『だけど君がもし、今すぐにー♪ 夜戦に参加してくーれたらー♪ We Can YASEN!! この海はー、僕達のー♪』

 提督専用に用意された個室の向こう側の廊下から、何間か離れた部屋の扉が開き、パタンと閉めた音が聞こえてきました。多分、今川内が帰って来てそのまま布団の中に潜り込んだのでしょう。
 毎晩毎晩、ヨソの部隊との砲撃・雷撃戦演習をこなし、相手の都合がつかなかったときでも、軽巡洋艦本来の姿に解展開して真っ暗な海の上での単独無灯火航行訓練。
 そうなると川内は一日数時間しか寝ていない計算になりますけど、きっと、夜戦『バカ』だから大丈夫でしょう。
 そんなことをつらつらと思いつつも、私は一度洗面台で顔を洗ってひとまず眠気を取り払った後、のろのろと着替えを済ませていきます。
 パジャマのボタンを全部外してから脱いで、もう一度全部のボタンを留めたらクローゼットの中につるしてあった空きハンガーに掛けます。パジャマのズボンも、簡単に二つ折りにしてからやはりハンガーに掛けてクローゼットの中に吊るしておきます。
 そして、クローゼットの下段棚にある下着入れの中から、今日一日お世話になるブラジャーとショーツを手に取り、入念に吟味します。見せる相手まだいないけど。

「……レース編みのアジサイ柄のパープルでバタフライ型とか、ホントに何で買っちゃったんだろう、私」

 どうしよう、足柄プロトの趣味に完全に汚染されちゃった。と独り言ちながらも、兎に角ごく普通の水色で上下を揃えてからストッキングを履き、帝国海軍通常礼装――――俗に言う肩紐付きの白い制服は一種礼装で、別物だそうです――――に着替えます。
 礼帽、メガネ、肩紐無しの白いフロックコートに同色のスカート(男性はズボンだそうです)に、帝国海軍服装基準違反の登山靴で頭からつま先までカッチリと身を固めます(軍指定のハイヒールだと上手く走れないんです。スプレーで白く塗り直してあるし、見逃してください)。
 そして本来ならこれらに加えてサーベルを佩くのですが、そんなの守っている人は誰もいません。
 何でも以前、サーベルを佩いたまま外に出たところ、偽警官として逮捕された提督さん(私のようなインスタントと違って正規の訓練を受けた方だそうです)がいたとの事で、上層部も普段なら無視してOKとのお触れを出したくらいです。
 普段の仕事着に着替え終わったら、クローゼットの横に置いてある大きな姿見の掛け布を取って、身だしなみを確かめます。

「……よし、完璧!」

 鏡の向こう側の私――――比奈鳥ひよ子少佐は、普段と変わらぬ笑顔を浮かべていました。




※2:ウオオオオ! うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉあぁぁぁ、あおん!!!!!
(※2:翻訳鎮守府注釈:Arcadia海域での方言で『社畜が夏コミ参加なんざ出来るわきゃーねーだろーがよぉぉぉー! とか思ってたらもうお彼岸すら終わってたどころか年末でした。遅くなってごめんなさい。しかも前後編になってしまいました。本当にごめんなさい。の艦これSS』の意)

 嗚呼、栄光のブイン基地(番外編)
『有明警備府出動せよ! 19番目のプロトタイプ伊19、抜錨します! なのねー☆ の巻(前篇)』



 朝です。
 今日はお休みです!!

「……太陽が昇ってる時間まで寝られるのって、幸せぇ」

 あの輸送ミッションが終わってやって来た平和な日、略して平日です。でも私の指揮する第一艦隊はお休みです。休日です。
 そう思っていたのは私だけではなかったようで、私の艦隊の総旗艦である『北上改二』ちゃんや、そのエスコートパッケージである駆逐艦娘の『ぬいぬい』ちゃんも、私の隣で目を細めて食後のお茶をすすって幸せそうな溜め息をついています。ぬいぬいちゃんは普段通りの鋭い目つきの無表情でしたが、雰囲気はいつも以上に和やかでした。

「そだねー。昨日が昨日だったしねー。たまにはゆっくりしようよー」
「そうですね。ここしばらくは激務続きでしたし、休める時には休むべきでしょう。来月には夏コミ(※執筆開始当時は7/23だったんです。本当なんです。信じてください陪審員さん達!!)が始まってしまいますし……」
「夏コミ、かぁ……もうそんな季節なのね」

 今年は何十万人がやって来るんでしょうか。
 そろそろ私達警備担当も特別増強部隊の300人部隊を解体して、3000人部隊とかに再編成して欲しいのですけれども。
 そんな事を三人で和気藹々と話していると、ポケットの中に入れていた業務用のスマートフォンがメールの受信音を短く鳴らして再び沈黙しました。

「メール? こんな朝から?」
「んー、何々ー?」

 私の両隣から手元をのぞき込んでくる北上ちゃんとぬいぬいちゃんの体温に挟まれながら、液晶画面に目を通してみます。



【再検査のお知らせ】

 送信:Team艦娘TYPE



 メールが届いたと思ったのですが私の勘違いだったようで、またすぐにポケットに端末をしまうと、飲みかけのお茶が入った湯呑みに再び手を伸ばしました。

「……太陽が昇ってる時間まで寝られるのって、幸せよねぇ」
「そだねー。おまけに今日、私らの艦隊全休だしねー。たまにはゆっくりしようよー」
「あの、今届いたメールは見なくてもよろしいのですか?」
「本当、何にもしなくてもいい全休なんて久しぶりね。モノレールに乗ってたら駆逐二級に砲撃されたり、夜の横須賀市街で重巡リ級とお相撲取ったり、帝都湾の上で扶桑さんからの艦砲射撃の的にならなくてもいいなんて、平和よねぇ」
「思い出してみると、ひよ子ちゃん何気にアレだよねー」
「あの、メール……」

 見ていません。私何も見ていませんってば!
『3秒以上目が合うと拉致られる』だの『刃向かったら輪切りにされてホルマリン漬けにされて額縁に飾られて帰ってきた提督がいた』だのといった、とても怖い噂話がいくつもいくつも聞こえてくるような組織からのお知らせなんて、私は知りません!!
 ていうか再検査って何!? 私、いつ、どこで、何の検査したの!?

「いえ、そんな危険な所からのメールなら、なおのこと目を通しておかないと、より危険なのでは?」

 見てなかった司令官が悪いとかいちゃもん付けられたら面倒ですし。と言うぬいぬいちゃんの言葉ももっともなので、恐る恐るスマートフォンを取り出し、再び画面をタップしてメールボックスの中にあった最新のメールを開いてみました。


【再検査のお知らせ】

 送信:Team艦娘TYPE
 受信:有明警備府 比奈鳥ひよ子少佐
 本文:

 Team艦娘TYPEより再検査のお知らせです。
 先日、正式な改二型改装がロールアウトされた『翔鶴改二』『翔鶴改二 甲』『瑞鶴改二』『瑞鶴改二 甲』の4隻ですが、この度、この4隻との超展開適性検査に不備な点が見つかりました。
 各地のブラック鎮守府より確保した提督を用いた追試の結果、クウボ適性の無い提督にも、上記4隻のいずれか、あるいは複数と超展開可能な場合がございましたので、皆さま振るって再検査にご参加ください。
 検査会場は帝都湾沖、バビロン海ほたるの地下13階となります。
 検査日時、および会場へのアクセスは  こちら  のリンク先の情報をご参照ください。
 恐れ入りますが、他にも不備がございましたら、ご連絡いただければ幸いです。
 お手数をおかけして誠に申し訳ございません。


「?」

 翔鶴型空母娘の『翔鶴』と『瑞鶴』
 この二人には覚えがあります。たしか、私がインスタント提督としての訓練を積んでいた頃にロールアウトしたばかりで、今でも最新鋭空母の娘達の事だったはずです。
 私にはクウボ適性が無かったからあんまり詳しくは勉強してなかったんですけれど、たしか、超展開状態でも海の上を跳んだり走ったりしちゃうんでしたっけ。
 それと、陸上の上でも戦える数少ない例外でもあるんですよね。改二型や一部の駆逐娘、潜水艦娘達のように。

「空母娘との適性の再検査、ねぇ……」

 かつて聞いた所によると、空母娘との超展開適性を持つ提督の存在とは、油田や金鉱脈と同じレベルの希少さとの事だそうです。
 故に、空母娘との適性検査は、他の艦娘と比べるととても厳重で、私が覚えているだけでもたしか、血液検査から始まり、空母娘との二者面談、身体検査、基礎格闘技能評価の上でようやく実際に超展開の実行。
 これらを何度も繰り返した上で空母娘を初期秘書艦として配属できるか否かの判定が出たんです。私の居た第16期インスタント提督の試験の時は。
(※ひよ子注釈:因みに、私には空母娘との適性は一切ありませんでした。水上機母艦娘や軽母娘、陸軍さんのあきつ丸ちゃんも含めて)
 そんな空母娘の、再試験?
 胡散臭いにも程があります。
 あ、でもこの間の加賀さんや瑞鶴ちゃんみたいにアクション映画の主役さながらの動きが出来る娘が私の所にやって来ると考えると結構……

「そういう時はさー、詳しい人に聞いてみたら?」
「ん?」

 何気なく呟いた北上ちゃんが人差し指で示すその天井。
 そこは、我が有明警備府の第2艦隊の執務室がある場所でした。






「事実だ」

 有明警備府の第2艦隊。
 そこの副旗艦であらせられる戦艦娘の『長門』さんは短くも、きっぱりと断言しました。こちらの方を見向きもせず。
 長門さんは事務仕事のためかフレームレスの細メガネをかけて、ご自身の座高以上の標高をもつ書類山に四方を囲まれながらもノート型端末で書類を作成していました。

「なんでも、改二型になった翔鶴型には前々からクレームが付いていたらしくてな。無印や改では問題ないのに、改二になった途端に超展開が出来なくなったり、何かの罰ゲームだか卑劣な艦隊内いじめの一環だかで提督でもない輩が改二型の鶴姉妹と超展開したら成功した。といった事例が少ないながらもあったそうだ」
「クウボ適性のある奴は数が少ないし、重要な戦力だから、可能な限り不具合は無い方が良いのよ」

 その長門さんの背後の机に座っていた、第3艦隊の副旗艦の駆逐艦娘『叢雲』さんが端末のキーボードを叩く指を止め「だからね」と、付け加えました。

「だからこの際、呼べる奴は全員呼んでクウボ適性の再検査をしておこうって話になったらしいのよ。もしかしたら他にも検査漏れのヤツが出てくるかもしれないし。つまり、アンタだけが呼び出し食らった訳じゃないのよ」

 叢雲さんはそう口にすると、再び端末での書類作成を再開しました。
 頭の上でふわふわと浮いている2つの奇妙な角型艤装が端末の通信状況と連動してチカチカと明滅していましたが、もしかしてあれ、無線ルーターか何かなんでしょうか。

「だから安心して……とは言えないな。Team艦娘TYPEが相手では。おまけに我々にも急な特別任務がいくつも飛び込んできてな。大変すまないが、件の再試験には比奈鳥少佐と秘書艦の北上、そして不知火の3人だけで行ってもらうしかなさそうだ。我々第二第三だけでは到底手が足りそうにない」
「ま、何かあったとしても大丈夫でしょ。私達もこの後、ちょうど帝都湾でミッションが――――」

 何の前触れも無く訪れた停電と共に、執務室の中が薄暗さに包まれました。
 窓の外から入る夏の日差しと、叢雲さんが捜査していた端末の液晶光の明るさ、そして当の叢雲さんの頭の上で浮かぶ、角型艤装の根元のランプ光だけが薄暗い執務室の中にやけにはっきりとしたコントラストを描いていました。

「また停電? ここ最近多いわね」
「南西諸島海域から運ばれてくるはずの石油がまだ届いていないからな」
「え?」

 西方海域が完全封鎖されてるのに?
 帝国最後の生命線なのに?

「オイルタンカーがまだ帝都湾の外で待機中で、発電所まで油が届いていないそうだ」
「……オリョクル軍団のストのせいよ。あの連中、あの連中が私の4時間を……!!」

 地獄の底に居を構える大悪霊のような恨めし気な声を上げたのは、長門さんの背後にいた叢雲さんでした。
 見れば、叢雲さんがつい今まで作業していた端末の液晶画面は、何か見た事の無い青い画面が映っていました。
 そして叢雲さんの顔も、およそこの世の者ではないかのような物凄い形相をしていました。液晶からの照り返しも相まって、なおのこと恐ろしげに見えます。

「行くわよ、長門、ひよ子!! 油の一滴も持ってこないのに油売ってるモグラ共に対潜魚雷と爆雷を食らわせるわよ!!」





 と、いうわけで。
 帝都湾内での味方の潜水艦狩り&敵新兵器の鹵獲ミッションに駆り出されたという叢雲さん達に同行する形で到着しました。
 帝都湾に浮かぶ、海上パーキングエリア『バビロン海ほたる』に。

 80年代のバブル期に第二の首都島として開発がスタートし、海底トンネルと高速が出来たところでバブルが弾けてそのまま放置され、つい最近になって一般高速道路のパーキングエリアとして再完成し、対深海凄艦戦争が帝国臣民に公表されてからは海上監視施設としての役割も兼ねているという、何だか奇妙な運命をたどっている建物です。
 地上部分はごく普通の海や水平線、そこを行き交う船艦の雄姿が楽しめる、一般開放された高速道路のパーキングエリアでしかないのですが、私達軍人からすればその真髄は地下施設にあります。
 関係者以外立ち入り禁止の札がかけられた通路の奥にある防火扉をくぐり、見取り図には防災区画とのみ表記されている区画の中にある小さな通路の奥にあるエレベーターに乗ってキーコードを入力して機能をアクティブにしてから2つしかないボタンの片方を押し、数十秒間の浮遊感の後に、やはり見取り図には無い地下施設に到着すると、そこには、訓練生時代に見た事のある光景が広がっていました。
 インスタント提督の最終試験。実際に艦娘と超展開をした、初めての時。
 あの時は九十九里浜沖に浮かぶ護衛艦の後部甲板の上で、ここは薄暗い地下ですけれど、あの、そわそわとするような独特の空気は変わっていません。
 座学と映像資料の中でしか見る事のなかった艦娘の娘達。その娘達が実際に、あの奥の扉の向こうに待っているのです。

「はい。それでは時間になりましたので、これより説明を始めさせていただきますね」

 その奥の扉を開けてやって来たのは、お揃いのセーラー服を着た4人の女の子達でした。
 綾波型駆逐艦娘の『曙(アケボノ)ちゃん』『漣(サザナミ)ちゃん』『朧防壁ちゃん』『槍持ってない方の潮ちゃん』の――――第七駆逐隊の4人でした。
 ですが彼女達は4人とも市販のプラスチック製の白いホイッスルを首元に掛け、メカニカル・バイザーで目線を覆い隠してうっすらとした微笑みを浮かべていました。
 特に、ヨソの鎮守府や基地で見かけた曙ちゃんは誰も彼も怒りんぼさんな印象があっただけに、何だか不気味です。

「皆さん。本日はプロトタイプ伊19号の超展開試験にお集まりいただき、ありがとうございます」
「私はTeam艦娘TYPE」
「第七駆逐隊および、D系列艦開発担当の、行動食4号と申します」
「ここからは私の七駆がご案内いたします」

 え? 空母は?
 私が思わず『翔鶴型の再試験だと聞いていたのですが』と聞くと、周りにいた提督さん方が一斉に『こいつ何言ってんだ?』という表情で私の方に振り返りました。
 そんな私の声に反応した、メカニカル・バイザーで目線を覆い隠した潮ちゃんが手元の端末を2、3操作していたのが見えました。

「ああ。貴女が比奈鳥ひよ子さんでしたか。ミッドウェーからの生還者の。よく来てくださいました」
「残念ですが、翔鶴型の再試験会場は屋外です」
「騙して申し訳有りませんが、上から貴女はプロト19との好適性がマッハだと聞いたものでして」
「つい、居ても立ってもいられなくなってしま――――」

 その言葉に誰よりも早く反応した北上ちゃんとぬいぬいちゃんが制服の背中の内側に吊るしたホルスターに手を伸ばすよりも先に、4人の内の誰かが短く、ハッキリと呟きました。

「裏コード入力:スンリビラ・キリブ」
「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」
「き、北上ちゃん!? ぬいぬいちゃん!?」

 その呟きを聞いた北上ちゃんとぬいぬいちゃんは一瞬、びくりと痙攣すると即座に直立不動の姿勢になって、無表情のまま民謡の『糸巻きの歌』を歌って踊り出しました。
 2人だけではありません。他の艦娘達も一斉に立ち上がって、やはり同じように歌って踊りだし始めました。何故か七駆の4人も含めて。

「「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」」
「さぁ、御同行願います」

 再び開いた奥の扉からやって来たのは、有明警備府でもたまに見かける、黒服さん達でした。
 黒の角刈り、黒の革靴、黒いスーツの上下、黒いネクタイ。そして、黒いサングラス。
 ですがその先頭の2人だけは、先の七駆の4人がしていたのと同じメカニカル・バイザーをしており、首元に市販の白いプラスチック製のホイッスルを掛けていました。
 その場にいた提督さん達の何人かは、咄嗟に駆け出そうとしていたのですが、メカニカル・バイザーがまた一言二言呟くと、自身の秘書艦に取り押さえられてしまいました。

「そんなに急かないでください。順番にお呼びしますので、どうかこのままお待ちください」
「何でしたら、ご見学なされますか?」
「死か生体素材」
「潜水艦娘の超展開時の失敗時における提督と艦娘の致死率の高さ、皆様も何とかしたいですよね?」
「や、やだ! 離して……っ! 誰か、誰かっ!!」
『ねー? その人がイクの提督さんなのー?』

 抵抗虚しく、寄って集って私の身体を押さえつけてきた他の黒服さん達に拘束され、そのまま無理矢理立たされたのと同時に、扉の奥から声がしました。
 半開きになった扉の奥は暗く、まるで、闇が寒天か煮凝りにでもなって詰め込まれているかのような不気味さを湛えています。
 あと床にいくつもいくつも出来ているひっかき傷は何なんでしょう。
 そんな半開きの闇の向こう側から聞こえてきたのは、この不気味さにはまるで似つかわしくない、明るくて能天気そうな女の子の声でした。

「ええ。そうですよ。プロト。こちらが新しい検体ですよ」
『にひひー。初めましてなのー。イクはー、19番目のプロトタイプ伊19なの。イクでもプロトでも、好きな方で呼んで欲しいなの☆』
「え、え。あ。どうも、始めまし――――!?」

 闇の向こう側から私を迎えるべく扉を押し開いたのは、イカやタコのような吸盤が無数についた、私の腰くらいの太さの青白い触手でした。
 私だけじゃなく、背後にいた提督さん達も思わず小さな悲鳴を上げていました。
 何あれ!? あっちに居るのは艦娘じゃなかったの!?

『じゃあ早速、イクと一緒にイイコトするのねー☆』
「や、やだあああああああああ!! 離して! 離して!! 誰か、誰かあああぁぁぁぁぁぁ!!??」

 その見た目を裏切る俊敏さで、闇の中から伸びたその触手が私の足に巻き付くと、私を床に引きずって扉の向こう側へと勢いよく引きずっていきます。
 咄嗟に床に爪を突き立てて減速を試みましたが全くの無力で、私はあっさりと扉の向こう側の真っ暗闇の中へと引きずり込

『あっ』

 真っ暗闇の中で、金属質の鈍い音と衝撃が私の後頭部から鳴り響き、急に視界と意識がぐるりと回って、急にぼやけだしました。
 目と意識が闇に飲まれる寸前、その向こうから差し込んでいた蛍光灯の明るさだけがやけに印象に残っていました。












「「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」」

 瞬き1つ自由にできないまま、ひよ子の秘書艦である北上改二は焦っていた。少し前に、不知火とひよ子から改二となった自身の異常の事は聞かされていたというに。
 対人戦争に特化している改二型には、本人にも認識できてない機能があると。
 そして艦娘とは、どれだけお綺麗に言い繕ったところで兵器だ。それも自由意志を持った、極めて強力な。
 だったら、改二ではない艦娘も含めて、人類に反逆した際にボタン一つで叩き潰せるような、そんなプログラムが全ての艦娘に秘匿内蔵されていてもおかしくはないというのに。

「「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」」

 身体は動かないのに酷使し続けている筋肉や瞬き出来ずに乾き始めた目の痛みだけはご丁寧に伝わってくる。反射も制御されているらしく、目に大きなゴミや汗が入っても瞼は1ミリも動かないし、筋組織は痙攣1つ起こさない。
 瞬き1つ自由にできないまま北上は思う。糞が、このプログラムを書いた奴は最低最悪のサディストだ。見つけたら40門全部の酸素魚雷をそいつの尿道にスクリューからねじ込んでやる。

「「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」」

 おまけに自我コマンドが受付拒否されている。システム各所にこびり付いた僅かな空きリソースをかき集めて何とか対抗プログラムを組んだまでは良いものの、こんな簡単なループコマンド1つの強制終了も出来やしない。
 反撃に使えそうなプログラムやソースコードはいくつか見つけたのだが、電子免疫系すら正規の制御から離れている。そうなるとゲートウェイで止められるから流せないし、どうにかして流しても間違い無く自分ごと消去(デリ)られる。
 何か、何かコマンドを流すための切っ掛けが一つでもあれば。

「「「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんとん♪」」」

 瞬き1つ自由にできないまま、ひよ子の秘書艦である北上改二は他の艦娘達と同様に無表情のまま歌い、踊り続ける。
 来るかどうかも分からない好機を待ちながら。








 潮の臭い。ちゃぷちゃぷとした微かな波打ちの音。
 意識を取り戻した私が最初に気付いたのがそれでした。

「ぅ……ぁ……」
『あ、気が付いたなの……大丈夫?』

 ゆっくりと開いた目にまず入ってきたのは、横倒しになったコンクリートの床。電灯の薄暗いオレンジ色。静かにたゆたう水面。
 そして、そこに浮かんでいる大きな鉄の塊。

『ごめんなさいなの……イク、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったなの』
「こ……こ、は……?」
「バビロン海ほたるの最下層、ウェルドックですよ」

 後頭部からの響くような痛みを堪えながら、横たわったままの姿勢で何とか後ろを振り返ってみるとそこには、黒服さんが二人立っていました。
 七駆の4人と同じメカニカル・バイザーを掛けていた事から多分、先程のTKTの人なんでしょう。
 ズキズキとした痛みで霞んだりぼやけたりを繰り返す視界でそう思っていると、今度は前の方から七駆の4人の声がしました。

「いやはや。ご無事で何より」
「先程手すりの角にぶつけた傷が思ったよりも深く、今まで意識を取り戻さなかったのでこのまま進めようかどうしようかと思いましたよ」
「しかしプロトの体液、薬品の添加率を変えるだけで止血剤の代わりにも使えるとは新発見ですね。脳がとてもよく見える深さでも完全に血は止まっているようですし」
「それに拒絶反応も無し……これは、予想以上の適性率ですね。貴女とプロトはもしやするとあの伝説の、プロト古鷹とそのテストパイロット並かもしれません」

 軍上層部もたまには正確な情報を渡してくれるものですね。と七駆の誰かで呟いていました。

「さて。ではそろそろご説明いたしましょう」
「今回開発に成功したプロトタイプ伊19号。その開発コンセプトですが」
「色々実装してみたかった新技術をいくつか。あとついでに超展開失敗時の死亡率の低下。これに尽き申します」
「ご存知の通り――――」

 ご存知の通り、潜水艦娘との超展開は失敗すれば提督もろともに死か生体素材かの二者択一。
 しかも数字では表せない要素が多分に絡んでいます。とTKTの人は喋り始めました。
 単語一つ一つの意味は分かるのですが、後頭部の痛みが段々と強くなってきたせいか、文章として上手く理解できていないような気がします。

「私の本体や各地の提督達を使った、初期の予備実験では先天的な適性の他に――――」
「――――などの 好感情が後天的な適性値に関係して いるのは 確実で――――」
「また、潜水艦娘との特殊な超展開方法は 軍事だけでなく、医学、材料工学にも応用が――――」
「――――。――――、――――」

 何か言っているのは理解できるのですが、また、後頭部頭が痛くなってきて、声と意識が 遠くに 遠く ……

「――――故に、消去法で性的快楽の爆発的な増大が潜水艦娘との超展開適性を大幅に上げるのだという結論に至りました」
「はい?」

 遠くから帰ってきました。

「ですから」
「潜水艦娘との超展開失敗時における死亡率の高さには、生まれ持っての資質の他に」
「人と艦娘という、お互いに明らかな異物への拒否感や嫌悪感といったマイナスの感情に左右されているのでは。という仮説に辿り着いたのです。消去法で」
「だから、戦略シュミレーション系のエロゲみたいにヤることヤっちまって好感度爆上げでステ補正がウハウハで薄い本が厚くなって夜のオカズがメシウマなのです」

 メカニカル・バイザーに隠れて表情は窺えませんでしたけど、この最後に喋ってた漣ちゃん、もしかして自我戻ってませんか。左右の握り拳の中から親指を突き出すとか下品な事やってますし。

『じゃあ、早速イクちゃんの中にご招待なのねー☆』

 目の前に鎮座する鉄の塊――――プロトタイプ伊19ちゃんの、潜水艦本来の姿の上部にある気密ハッチがひとりでに開き、私の体が勝手に立ち上がってそちらに向かって勝手に歩き出しました。

「え、ええ!? なな何で!?」

 私の体が勝手に動いたと思ったのですが、抵抗しようとして思わず腕を動かそうとしたら、腕は動いても服の長そでの部分で壁にでも押し付けたかのように止まってしまいました。
 いつの間にか服に細工――――というか別物に着替えさせられていたようです。私、ズボンなんて履いてませんでしたし白い手袋もしてなかったはずですし。
 ですが、一見ただの服に見えても、中身はただの服ではなかったようで、私がどれだけ力を込めて抵抗しようとしても全く歯が立たず、操り人形か何かのようにひょこひょこと歩き続かされました。

「プロト19と超展開する提督のために制作した、専用のパイロットスーツです」
「潜水艦娘との超展開に失敗した提督の方々から得られた生体素材100%です。どうですか。とても肌に馴染む感触でしょう」
「プロトには鈴谷改で得られたデータからフィードバックされた新技術や、潜水娘を運用している各地の提督からの意見が多分に反映されておりまして」
「その触手服は、最大六ヶ月間にも及ぶ超展開中の間、排泄や洗浄などの各種生理欲求を解消する目的の他、プロトとのデータのやり取りを楽にするための装備です」
「しょ、触!?」

 何やら不穏な事を呟く七駆の4人と黒服の2人に見送られ、私の体は――――正確に言うと私が来ている礼服モドキは――――勝手に潜水艦のハッチに取りつき、そのままするりと中へ入っていってしまいました。
 最後の抵抗とばかりに頭を振った際に見えた、先ほど私が倒れていた場所に大きく広がる赤黒い染みがやけに印象に残りました。
 そして、ハッチが独りでに閉じられ、艦内が真っ暗闇に包まれると同時に通路の電灯が自動的にオンに切り替わりました。

(……あれ? 普通?)

 薄暗いオレンジ色の光に照らし出されたプロト19ちゃんの艦内は、いたって普通の狭さと金属質でした。
 でしたら先程の触手はいったい、どこから伸びていたのでしょうか。

【じゃあ、艦長席座ったら、早速始めちゃうのね~☆】
「ひゃう!?」

 艦長席に強制的に座らされた途端、天井から太いビニル製の蛇腹筒が伸びて来て襟の内側に潜り込み、ブルリと震えたかと思うといきなりヌルヌルとした冷たい何かを吐きだし始めました。

「つ、冷!? 冷たッ!? 何これッ!?」
『鈴谷改にも使われているDJ物質ですよ』
『艦載機の操作や艦内操作の大幅な効率化にはこれが最適解なのです』
『これが全艦娘に実装された暁には、単独で艦娘を運用する提督達の負担も、艦娘自身のストレスも、大きく軽減する事が出来ます』
『今は夜間ではないのでだいぶ粘性は低いはずですが……どこかお気に召さなかった点でも?』
「大ありですっ!!」

 潜水艦の外にいる6人――――黒服さん2名と第七駆逐隊の4人が、メカニカル・バイザーで隠れた視線の下、一糸乱れぬアルカイックスマイルを浮かべているのがここからハッキリと見えました。
 ……え?
 その違和感に気付くのと同時に、外にいる6人のうちの1人が、手にしていた連装砲で私の表皮装甲を軽くこするように砲撃してきました。

「痛っ!?」
『どうやらきちんと繋がっているようですね』
『超展開はおろか、艦内モニタすら起動していないはずですね。ですが、見えていますし、触れた事にも分かっておられる』
『これがDJ物質。深海凄艦由来の新物質です』
『ですが充填開始直後から感覚野を、しかも無自覚にリンクするとは……これは、本当に匹敵するかもしれませんね』
【じゃあそろそろ、始めちゃうなのねー☆】

 私が何か言うよりも先に、私のすぐ隣の虚空にイクちゃんの立体映像が現れ、服に操られて動けない私に向かって――――






























『はうあっ!?』
『! どうした秋雲、敵襲か!?』

 ちょうどその時、帝都湾海上では有明警備府に所属する第一から第三艦隊までに所属する全ての艦娘(※ただしひよ子の護衛に回った北上と大井、および輸送艦隊の護衛に向かっている娘らは除く)が総出で掃海作業を行っていた。
 未だに復旧の終わらぬ海中警戒システムの間隙をついて帝都湾内に侵入してきた潜水カ級らが敷設したと思わしき新型の生体兵器――――帝国海軍仮称『深海忌雷』の除去と、同湾内で実弾演習中(という名目で同湾封鎖テロ真っ最中)のブルネイ泊地の伊58号らの排除のためである。
 この二つをどうにかしないと湾外で待機中のタンカーがいつまで経っても入港できず、最悪の場合はそのカ級に沈められる危険性があるからで、もしもそうなってしまった場合、帝国の国際的な信用は坂道を転がる石の様に急降下する(※帝都湾内で敵の潜水艦がやりたい放題という時点でもう国際的な信用度の大小なんぞお察しだが)だろうし、ついでに帝国内の電力事情も再び坂道を転げ落ちるようにして悪化するからである。
 つまり、物理的な意味でも政治的な意味でも、帝国の明日が明るいか否かは彼女達――――有明警備府の艦娘らの双肩に掛かっているのだ。
 いるのだが。

『な、何か今、何か今! 秋雲は今、現在進行形でイラスト描きとして最高のネタを見逃している気がするッ!』
『……じゃあ長門。さっきの打ち合わせの通りに行くわよ。各艦も再確認するから聞いて。まずは忌雷から片づける。ブルネイのモグラ共は見つかったらでいいわ、気が乗らないし。私と秋雲達が囮と本命。アクティブソナーで随時索敵して、近寄って来たのを片っ端から魚雷と爆雷で片付ける。海上付近に浮かんできたら長門達が精密砲撃。OK?』
『了解している』
『にしても、何か今日は波が高いわね。湾内で無風なのに』
『あああああ焦燥感、焦燥感が! ディ・モールト(とても)! ディ・モールト焦燥感ンンン~ッ!!』

 彼女達の全員がその事実をキチンと自覚しているかどうかは、息を潜めた潜水艦の居場所と同じく、誰にも分からない。

『はいはい。それじゃあ各艦、作戦の通りに展開してちょうだい』
(叢雲)

 叢雲の意識の片隅に、長門からの秘匿通信が入る。
 回線を開く前に裏コマンドを入力。
 システム資源の空き容量の一部を切り取ってデーモン領域を作成。通常のログとは別個に管理されており、移動も書き換えも不可能なはずの秘匿通信ログの記録先を専用の不揮発記録領域からそちらに変更させる。デーモンを削除すれば、そこに記録されているログもまとめて消える。そういう寸法だ。

(いきなり何?)
(やはりおかしい。今朝の比奈鳥少佐達の事だが……あれを見ろ)
(どれよ)

 長門がオープンチャンネルで起動していた光学デバイスの映像に叢雲がタダ乗りする。
 拡大ズームされたその先には、四隻の大型空母と、その甲板上に並んで待機している無数の人影があった。
 今日まさに行われているという改二型の翔鶴型空母姉妹の超展開試験、その試験会場である外洋へと移動中の一団の姿だった。

(何よ。試験用の鶴姉妹じゃない。あれがどうかしたっていうの?)
(……比奈鳥少佐の姿は、どこだ?)
(え?)

 範囲を生贄にして得られた倍率と解像度の先には、甲板に立っている人々の表情まではっきりと見えた。
 そして長門の視覚からでは、どこにも、比奈鳥ひよ子少佐の姿は確認できなかった。

(もしかして艦内にいる……訳ないわよね。超展開試験の際は、不正防止のために試験開始直前まで艦内は原則立ち入り禁止だし)
(今、あの翔鶴達に質問信号を送った。これから九十九里沖に出て、それから試験開始だそうだ。試験者情報は機密扱いだから取得できなかったが、少なくとも、バビロン海ほたるには一度も寄っていないそうだ)
(どういう事……まさか!?)

 何かに気が付いた叢雲が北上達に警告を発すべく通信を繋げようとしたその瞬間。
 叢雲の索敵系にhit. 数1。掃海任務中は定期的に発信しているアクティブピンガーに反応。叢雲の真下、深度10メートル前後からだった。
 事実上の密着状態だった。

『ッ!?』

 ここに来る直前に打ったアクティブには何も引っかからなかったのに。
 驚愕で一瞬頭の中が真っ白になった叢雲だったが、痙攣と同じメカニズムで自我コマンドを入力。無駄と知りつつも左右のスクリューを全力で回し、デコイをありったけ四方八方の海中にぶちまけた。
 そしてそこまでやってようやく、叢雲は、己の真下にいる物体が深海忌雷でも魚雷でもない事に気が付いた。
 葉巻を二つ、横に並べて溶接したかのような形状をした金属塊。
 重雷装艦娘や潜水娘などの一部の艦娘専用の艤装。かつて役立たずのレッテルを張られた骨董品を、現代技術を用いて徹底的に再開発した特殊装備。
 同艤装内のAIストレージ内にコピーされた妖精さんの人格データによって運用される遠隔操作艤装『甲標的 甲型』だった。

「……へ?」

 呆気に取られた叢雲らの事など知らぬとばかりに、その甲目標から低出力のアクティブソナーが規則的に発振される。
 二回と一回のピンガーの組み合わせで出来たモールス信号は、要約するとこう告げていた。

【こちらブルネイ泊地、第13艦隊所属、艦娘式伊号潜水艦『伊58号』である。当艦は現在、当海域内にて実弾演習中である。被雷の危険性があるため、即刻退去されたし】
『あ……』

 対する有明警備府の面々は、一瞬呆けていたがすぐさま気を取り戻すと即座にアクティブソナーで返答を打った。

『こちら有明警備府、第二艦隊副旗艦『叢雲』である。当海域における実弾演習の報告は受けていない。また、貴艦には大本営より手段無用での捕縛命令が出ている。即座に武装解除して原隊復帰せよ。今ならまだ間に合う』

 最後に付け加えた一言は、叢雲の本心である。
 分からないのではないのだ。自分がもし、ただの一度の戦闘をする事も許されず、輸送船の代わりとしてのみ――――しかも他の方法があるにもかかわらず――――そう使われたとしたら。
 そこまで考えて叢雲は、探照灯をブンブンと左右に振って頭の中の妄想を振り払い、自我コマンドを入力。
 アクティブをいつでも打てるようにスタンバイし、パッシブソナーを最大感度で再起動。続けて妖精さん達に命じて、甲板上の各所に配置されている汎用投射管の中身を半分だけ支給品の汎用爆雷から有線誘導式の対潜魚雷に入れ替える。続けて艦隊データリンクの設定を変更。各僚艦から送られてきた海中雑音データは一度に叢雲自身に転送させ、優先で処理した後に各艦に返送するようにプロトコルを変更。

『ご厚情痛み入る。されど、当艦にはこの海域を離れる意思は無い』

 どうやってもそっちに回せるシステム資源が足りないから無理。と、艦としての『叢雲』のメインシステム統括系よりブーイング。
 だったらデータの処理は長門にやってもらえば良いじゃないという考えから、艦娘としての叢雲は音響解析用のプログラムをコピーして長門に転送。長門の索敵系にプログラムが着床した事をデータリンクで確認すると、未処理データの送信先を自身の索敵系から長門のそれに変更させる。
 そして最後に、自身の索敵系を全力稼働させ、海流のうねり1つたりとも変化を聞き逃さないようにする。
 ノイズフィルター越しに聞こえてきた途切れ途切れの海中の音は、海上の波と連動しているかのように普段よりも若干激しく、荒立っていた。
 複数隻からの立体的な音響データ解析の結果、海底付近に、どう解釈しても自然物とは思えないラグビーボール型の巨大な金属塊の反響音が一つあった。
 叢雲のメインシステム戦闘系が確実なロックオンを完了したと、短い電子音で告げる。
 叢雲に設置されている汎用投射管の内、爆雷の詰まった半分は上を向き、対潜魚雷の詰まったもう半分は下を向いていた。

『当艦は第十三次オセロ海戦当時の戦時急造艦である。されど、処女航海は同海戦終結後なり』
(……!!)

 第十三次オセロ海戦。
 オセロ海とは、東部オリョール海がまだ最前線中の最前線かつ最終防衛ラインの1つであった頃の呼び名で、敵味方の支配権がクルクルと入れ替わっていた事から、当時の将兵らがそう呼んでいただけの事である。
 そして件の第十三次とは、同海域で行われた人類側勢力と深海凄艦側勢力との最終決戦であり、叢雲たちが知る中ではおそらく、もっとも短く、もっとも苛烈だった戦いである。
 あの広くは無い海に、当時深海側の最終兵器とまで謳われていた戦艦ル級と、ようやく不明から空母へと改名されたばかりのヲ級がそれぞれ10隻単位で投入されていたし、人類側からも当時最新鋭の艦娘だった『伊勢』と『日向』はもちろんの事、人間性や機能を限界まで削り落としてまで量産性を高めた戦時急造艦娘――――と書けば聞こえはいいが、要は心身共に粗製乱造品の艦娘だ――――を無数にバラ撒かなければならないほどの熾烈な戦いだったそうだ。
 そんな海域に放り込まれたら、少なくとも、今の有明警備府のメンツで生きて帰って来れるのは片手で足りるだろうなと叢雲は思う。負けるとは微塵も思っていないが。

『当艦は、戦うために生まれてきたはずである。我に生を。敵に死を』

 その短いメッセージから交渉決裂の気配を感じ取った叢雲は、我に返ると同時に自我コマンドを入力。

『馬鹿野郎が』

 空中高く放り投げられた爆雷が着水する音に合わせて、魚雷誘導用のワイヤーを静かにゆっくりと垂らし、対潜魚雷のロケットモーターを眠らせたまま静かに海中に降ろす。
 海底付近の金属塊付近へと着地した爆雷群が、一斉に爆発を巻き起こす。








「ぉ、ぉあ……へ、へひ……」

『そろそろ良い塩梅ですね。では最後の駄目押しとして』
『プロト。今までのプロト達と同じ様に脳に電極を。彼女と貴女ならきっとやり遂げてくれるはずです』
『大変都合の良い事に、頭蓋骨に穴を開ける手間が省けましたしね』
『ああ、それと、血止めに使っていた粘液は剥がしてしまって構いませんよ。すぐに超展開に移ってもらいますので』
【はーいなのねー☆】

 上から何か、頭の後ろに……下りてきて……も、だめ。何も考えられな ひ。

【さぁ、イクのお手てと針でチキチキしてあげちゃうのねー!!】
「ぉう゚っ」
『ですがプロト。今までのプロト達のように、あまり書き換え過ぎてはいけませんよ』
『嫌悪感や拒否感などのネガティブな感情は、多すぎてもいけませんし、全くの0になってもいけません』
『全てはバランスです。さもなければ、今までのプロト達と同じ結果になってしまいますからね』
『いくら保存が効くとは言え、生体素材は長期間冷凍すると鮮度も性能も著しく低下してしまうのです。気を付けてくださいね』
【分かってるのね☆ だから針をこことここに、この深さと角度で微電流を流すとぉ~……】
「あっあっあっあっ~~~~~~!!」
【ほら、強制稼働した報酬系がエンドルフィンでドーパったのねー☆ 何だかイクもアドレナっちゃいそうなのね☆】

 あ、頭が クラクラ 、して……目も、回っ て 舌もしひれ…て……
 れ、れも、チョッピリ……

『プロト。お楽しみ中の所すみませんが、そろそろ……』
【はーい☆ それじゃあ提督さんもー、イクの後に続いてー、こう言って欲しいなのー☆】

 チョッピリ……気持ち、い い……



【プロトタイプ伊19号、超展開なのー☆】
「ぷ、ぷろとたいふ いきゅ、ひょ、ひょうてんふぁい……」

 その一言と同時に、全てが劇的に変わり始めました。
 目の前の鉄が、機械が、熱したオーブンの中のバターのように溶け、私の服も溶け。
 そして、私の体も。
 皮膚が、伸ばした腕が、指が、爪が、骨が、視線すらもが音も無くドロドロにとろけて滴り落ち、

【にひひー、見えてきたなの。こっちが提督の記憶なのねー☆】
「……」

 そして、最後に、私という意識すらも――――










 北上が待ち望んでいたチャンスは、意外にも早く訪れた。

「いーとーまきまき♪ いーとーまきまき♪ ひーてひーて、とんとんと――――!?」

 遠雷にも似た突然の衝撃が床を大きく揺らし、北上達が大きくバランスを崩したのだ。
 自らの意思では瞬き1つできないまま踊り続ける北上は頭から床に転倒。盛大な音を立てて転がり、その状態でなお踊り続ける。
 そして予期せぬ物理的な衝撃でシステムに一瞬エラーが生じ、即座にエラッタされて北上は倒れた姿勢そのままに再び踊り始めた。
 システムの片隅に追いやられた北上には、十分すぎるほどの好機だった。
 エラーによって生じた数ミリ秒未満の間隙を縫って、なけなしのシステム資源を使って作成しておいた抗体プログラムを放出。
 抗体プログラムとは銘打ってあるものの、肝心のウィルス定義はただ一つ。例の無限ループコマンドの消去のみに特化したある種の攻勢プログラムである。おまけに乗っ取られた電子免疫系が消しにかかっても、それ以上の数と速度で増殖を続けながらループコマンドを消しにかかるように記述されている。どっちが電子ウィルスか分かったもんじゃあない。
 そして千のコピーが消される端から生み出された千五百のコピーがとうとう無限ループのコマンドをシステム群から完全に消し去るのに成功すると、今度はシステムの空き容量内に退避していた北上が猛然と反撃を開始。今しがたの抗体プログラムを新定義のウィルスと認定した電子免疫系がデリートを開始。コピーを続けてしぶとく抵抗を続ける抗体プログラムを完全に消去しきるまでの0コンマ数秒未満の時間を使って、メインシステム統括系に接続。
 今のエラーを錦の旗として、TKTのプログラムがあのような単純なエラーを生じるなどありえない。故に今の裏コマンド群およびシステム内に居座り続ける最上位属性持ちのコマンド群は悪意ある第三者からのクラッキング行為であると上告。
 そして、メインシステム統括系が真偽を確かめるべく裏コマンド群に質問信号を送った隙をついて北上は甲標的運用プログラムにアクセス。通常ならこちらも裏コマンド群の支配下にあるはずだが、今は不明なプログラムとして放置されていた。どうやら先日、暴走する加賀を止めるべく緊急停止コマンドの部分を弄ったのが引っかかっていたらしかった。今の北上にはこれ以上ないくらいの幸運だった。再び甲標的運用プログラムの緊急停止コマンドの停止対象部分を再び書き換える。

 実行(ラン)。

 裏コマンド群および各通信系をフリーズさせる。裏コマンド群のみ再起動。再びフリーズ。やはり裏コマンド群のみ再起動。
 この無限ループにも似た繰り返しを、システム統括系は予期せぬエラーと断定。これ以上のシステム資源の浪費を避けるべく、裏コマンド群全ての実行を一時中断。艦体の支配権を北上に一時返還させる。
 傍から見ていると、倒れたまま淀みなく歌い続け踊り続けていた北上の声と動きが段々とぎこちなくなり始め、最後には『だっしゃおらー!!』と普段の北上を知る者からすれば信じられないような謎の奇声を上げて硬く握った拳を天に振りかざしつつ立ち上がったようにしか見えなかったが、結果が全てである。
 北上は無事に艦体とシステムの支配権を取り戻した事を確認すると、通信系デバイスを再起動させずに、ソフトだけを適当にでっち上げた疑似情報に繋げると、ここにはいないひよ子に向かって通信を繋げる。
 フリーズさせたままの通信系が反応するはずも無く、当然接続は失敗した。続けて僚艦、有明警備府、最寄りの友軍、登録されている全ての基地泊地の類に接続Callを送る。
 フリーズさせたままの通信系が反応するはずも無く、当然、全ての接続は失敗した。
 同様の手順を正副予備3系統の回線を通じて繰り返す。当然のごとく全て失敗。
 その全ての通信途絶を、メインシステム統括系は後方を含めたすべての友軍勢力が北上1人を残して壊滅、あるいは撤退したと判定。
 残された艦娘としての北上に無制限・無期限行動を承認し、今まで北上を縛っていた全てのシステムロックが光の速度で次々と外されていく。

【メインシステム統括系より最優先警報:状況D0発令。D0発令に伴い、シリアルコード『SIMEJI_Factory/CLT-KITAKAMI_2.88β/km-ud/20140725-00022110/GHOST IN THIS SHELL.』当該個体に関する行動の全てを承認し、全てのシステムロックを解除します】
【状況D0発令に伴い、メインシステムは全てのシステムロックを解除。解除後に通常モードを終了し、対人戦争モードで再起動します】
【システムを終了します... ... ... メインシステム、対人戦争モード起動します】

 許可が下りた事によって不可視属性が解除されたファイル群の中に、対人兵装の1つである『甲標的 乙型』があった事に気が付いた北上は即座にそれを実行。
 立ち上がり、デバイスを起動し、周囲で未だ踊り続ける艦娘らに視線を合わせるとレーザー接続。
 問答無用で彼女らの身体を奪っていた裏コマンド群を蒸発させると、その空席に割り込む形でシステム全体を乗っ取る。それから裏コマンド群に上書きされたデータやシステムの優先処理順位を一度デフォルトに戻してから開放。
 裏コマンドから解放された艦娘らは、疲労とストレスから一斉に倒れ込み、それぞれの提督に咄嗟に支えられた。
 その中の一人、ぬいぬいもとい不知火がふら付く頭を抱えて立ち上がろうとし、力無く膝をついた。

「う……北上さん、すみません……」
「いいっていいってー。ぬいぬいちゃんは少しそこで休んでなって。後はこのハイパー北上様に任しときなってー」
「だから、私は 、ぬいぬいなどではなく、て、ですね……兎に角、提督を、お、お願い、しま……す……」

 不知火がうつぶせになってずるずると力無く崩れ落ちる。やがて小さな寝息が聞こえ始める。
 無理も無い、と北上は思う。色々と強化されているはずの改二型の自分でもようやく立って歩けるだけなのに、改型とは言え初期の駆逐艦娘では負担が大きすぎたのだろう。

「あ、そこの提督さん。ちょっとこのぬいぬいちゃんの事お願いしますね?」
「あ、はい」

 護衛と思わしき青葉を抱えたその提督の顔を覗き込み、ライブラリの中にあったその提督の情報を照合しつつ北上が言う。この顔には見覚えがあった。
 確か、自分がまだ改二じゃなかった頃にやった演習先の提督だったはずだ。夜間の臨時編成の電車でかなり遠方まで出向いていったからよく覚えている。

「き、君はどうするんだ?」
「ん? まー、あたしはアレよ。アレ」

 あのクソ共から提督取り返してくる。と、北上は普段から浮かべている気の抜けたような表情を全て消し去ったまま、その提督に返事をした。
 そして、あの巨大な触手が現れた闇へと通じる鉄製の扉に手を掛けたその瞬間、連続した轟音と衝撃が駆け抜ける。思わず足を取られてふらつく。

「「「――――ッ!?」」」

 北上達が驚愕に包まれるのと同時に、バビロン海ほたる全体が不吉に震え始め、天井から埃やら砂やら、あからさまに外れてはいけなさそうな細かいネジやボルトやらが落ち始めた。
 それに構わず北上は扉を蹴って奥へと急ぎ始める。
 北上には、今起こっている事が何一つ信じられなかった。
 TKT最後の砦として再建設されているはずのここ、バビロン海ほたるの地下茎構造が崩落し始めている事も、
 外の海上にいるはずの叢雲達との通信が取れないままでいる事も、
 改二型となって大幅に強化された北上の索敵系が、この扉の向こう側に深海凄艦の反応が突然出現したと告げた事も、

「嘘……嘘だよね!? 嘘だといってよ、ひよ子ちゃん!!」


 そして、ひよ子の生体反応とその深海凄艦の反応が、全くの同一座標に重なっていた事も。











 本日のNG(遅れに遅れまくった挙句に未完とか大変申し訳ありません。詫び石詫び掛け軸の代わりといっては何ですが誰得の設定資料集一部公開します3)シーン


 没キャラ&没予定キャラ軍団


 水上機母艦娘『秋津洲&二式大艇ちゃん』

 ブイン基地第二部があったら確実に出すキャラかも。
 後述の速吸ちゃんと同じく、中枢凄姫殲滅作戦『評決の日作戦』後に開発・建造された、数少ない艦娘の1人かも。
 超大型水上機『二式大艇ちゃん』を洋上にて整備・運用するためだけに開発された艦娘かも。
 コントロール下にある二式大艇ちゃんと、生き残った人工衛星から送られてきた生データ群を超高速で解析して、作戦領域内および近隣の海上・海中・空中における超広域・超早期・超精密索敵を唯一至上の目的として建造された艦娘かも。
 超強力な通信デバイスや解析用のコンピューターやその冷却システムで物理的に、超高速・高密度圧縮ツールや暗号化ソフトや解析プログラムなんかでシステム的に多大な負荷がかかってるから、武装や装甲は最低限になってるかも。
 だから戦闘は苦手なの。これだけはかもじゃないよ。
 当の二式大艇ちゃんも、過去の世界大戦当時とは違い、現代の対深海凄艦戦争においては『有気・有湿・有塵および1G環境下において、衛星搭載用の超大型PRBR検出デバイスを運用する』事のみを目的にレストアされた通常の飛空艇で、艤装じゃないかも。
 だから、他の空母娘達の艦載機のようにボーキ食って即再生、っていう芸当は不可能かも。大事に扱って欲しいかも。

 一行で纏めると秋津洲も二式大艇ちゃんも、武装も装甲もほぼ全部取っ払って、限界ギリギリまでセンシングデバイス群を搭載しているから戦闘なんてもっての外かも。

 企画の段階では単純にUS-2改二の開発・運用だけで事足りるんじゃないのかもっていう声が主流だったけど、Team艦娘TYPEの『何で艦娘造らないの?』っていう鶴の一声で秋津洲の開発は決まったかも……

 軽巡洋艦娘『夕張改二』

 対深海凄艦戦争終結後に建造された艦娘。またの名を究極互換娘。
 たった一隻のみロールアウトした彼女を最後にTeam艦娘TYPEは解散。その後、新たな艦娘が建造される事は二度と無かった。
 後世への技術継承を目的として建造されており、D系列艦を含めた、ありとあらゆる艦娘の艤装・内装・装備を運用可能。
 なお、言うまでもない事だが26世紀へのタイムジャンプ機能は搭載していないし、そもそも開発すらされていない。

 ……このR‐100娘、ゲーム本編で先に出てきたらどうしよう。


 補給艦娘『速吸』

 統一規格燃料、高速修復触媒(バケツ)に次ぐ、人類第3のチート。

 中枢凄姫殲滅作戦『評決の日作戦』後に開発・建造された、数少ない艦娘の1人。
 件の作戦の最終攻撃目標である中枢凄姫の持つ『ケーブル類を用いずにエネルギーを中継・収束・分配・徴集する程度の能力』を、Team艦娘TYPEなりの解釈と技術力をもって再現した艦娘。
 だが完全再現には至らず、能力仕様の際には専用の補助触媒が大量に必要となり、そのせいで鈍速・低回避・紙装甲の三重苦の艦娘となったが、それ以上に将兵達からは艦としても必要とされ、娘としても愛されていた。
 ちなみに、この補助触媒は人体にとって劇薬である。


 航空巡洋艦娘『鈴谷改』

 ジェル状デバイス試験管、もとい試験艦。
 ほとんど全ての深海凄艦にみられる、夜になると何かヌメヌメするジェル状の組織を応用した艦娘。
 本話においては一単語のみ登場。

 このジェルは自我伝達触媒と見られ「DJ物質」と呼ばれている。深海凄艦はこの物質を介して艤装の機械部分を操作していると考えられている。
 この艦娘は艦長室以外のほとんどの内装がDJ物質で構成され、超展開用の機材を用いずに提督の意識を、艦娘および艦載機に直接伝達すること(スイム・バイ・ジェル)に挑戦している。
 結果、操縦性能は重巡娘『古鷹(第二世代型)』と比べて40%、艦載機の操作性能も『伊勢改』よりも2%向上した。




 戦艦レ級改/同elite/同Flagship

 第五世代型深海凄艦、その改良型。
 サイズは兎も角、形状があまりにも異形すぎたため人類社会にまったく浸透出来なかった戦艦レ級を、純粋な歩兵ユニットとして改造したもの。

 人型の部分は全長百数十センチ。長大な尻尾を入れてもせいぜいが数メートル前後の、現在確認されている中では無印レ級と同じく最小の個体。
 なのだが、自動車に走って追いつく、壁や天井を蹴って高速立体機動、艦娘や戦闘用日の丸人を素手で引き裂く、生体銃砲の他にも深海側の小型生体ドローンと思わしき艦載機を少数内蔵し近接戦闘時の武器や移動補助にも使える強靭で汎用性の高い尻尾、12.7ミリの集中砲火でも抜けない防弾コートを標準装備などなど、およそ常識外れのスペックを有する。
 分かり易く言うと、市街地などの障害物の多い環境における歩兵同士の戦闘では、ほぼ無敵。
 その結果、第4ひ号目標の本土侵攻を阻止するべく行われた第三次菊水作戦。その最中にあった那覇・名護両市遅滞防衛戦と、続く名護山間要塞防衛戦において軍民問わず多大な被害をもたらした。
 より高性能かつ生存能力の高い同eliteやFlagshipは分隊・小隊指揮、場合によっては軍団指揮を務める事があり、小柄な事もあって戦闘中の発見・撃破は困難を極める。

 海軍では当初、イロハコードに従い『不明レ級』⇒『歩兵レ級』と呼称していたが、実際にこれと遭遇・戦闘を経験した全ての将兵(国籍・陸海空軍不問)および艦娘らから『あんな歩兵がいてたまるか』とのクレームが多数寄せられ、その結果『戦艦レ級』と改名された。

(今度こそ終れ)


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