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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:6ea11b1c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/07/17 04:30
※番外編4
※相も変らぬオリ設定。
※ひょっとしたらグロやもしれません。人によっては要注意。
※これの冒頭シーン考えてる途中で『オドンストラッシュ』なる名状しがたき冒涜的なヒサツ・ワザが脳裏に浮かんだのですが、この場合、私はSANチェックの為にダイスを振るべきなのでしょうか? それともこれがアイデアロールなのでしょうか?
※今話において、一部の艦娘、および一部の艦種を扶桑にもとい不当に貶すような表現が見受けられますがご安心ください。幻覚です。
※足柄さんごめんなさい。割とマジで。
(※2016/07/11初出。7/12、本文中の雪風の説明を一部修正&一部の艦種についていくらなんでも説明不足にすぎる事から、NG(補足説明)シーン追加)
(※7/17、誤字修正&本文一部加筆)



『決まったァァァ――――!! 仮面の女ファイター、マスク・ド・カインハーストの大肉片おろしが炸裂ゥゥゥ――――!! 動かない! クワイア・アルフレート、リングの上で大の字、大の字だァァァ!! 恩師ローゲリウスの雪辱果たせず! 雪辱果たせずに第一ラウンド開始30秒でノックアウトぉぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおああああああぁぁぁ、あおん! 先日のウェイト計量の際にはすばらしい笑顔とダブルピースのセットで『絶対にカインハーストなんかに負けたりしない!!』と力強いコメントを頂きました! そしてこの様であります!! これがG-1、これがGー1の厳しさよ! 今、この瞬間、今年度のG-1ミドル級王者が決定しました!! ああっと、マスク・ド・カインハースト、喜びのあまりコーナーポストの上で簡易拝謁! 勝利の簡易拝謁のポージングを決めています!!』

 有明警備府の共通居間に持ち込まれた、プロト足柄の私物であるラヂヲから、もの凄くやかましくて物騒な実況の声が私の耳に飛び込んできました。
 そして、そんな大騒音を掻き鳴らすラヂオの前で頬杖ついて婚活雑誌を流し読みしていたプロトタイプ足柄が、ぼそりと呟いたのが聞こえました。

「あー。やっぱり今回も駄目だったかー、アルちゃん。あー、でもG-1いた頃の私に一度も勝てなかったくらいだし、当然かしら」
「え。プロト足柄さんってG-1選手だったんですか?」

 G-1とは『この地球上でもっとも野蛮で非文明的なスポーツ競技』と称される、知る人ぞ知る非合法なアングラ格闘技『GATINKO NO-1』の略称です。
『この地球上でもっとも野蛮で非文明的な』と謳っている通りとても血生臭く、故意の殺害と凶器使用の禁止、それと1vs1で3分1ラウンドを計15ラウンド戦い抜く以外には細かいルールが存在しないそうなんです。
 しかも凶器禁止と明記してあるにも関わらず、観客のテンションとレフェリーの判定と視聴率次第では栓抜きや毒霧、一人二人の乱入程度なら黙殺される事もしょっちゅうで、それに伴い死傷者の数も結構な数に上っているそうです。
 当然、完全無欠なまでに違法な上に、試合には、今はもう取り潰された、とある鎮守府の艦娘や提督も関わっていたと言う事なので、警察だけでなく私の所属する有明警備府も何度か地下ジムや試合中のリングに攻勢摘発をかけた事がありますし、私自身も何度か摘発に参加した事だってあります。
 ていうか私、なんで提督なのに深海凄艦よりも先に人間相手に実戦をこなしているんでしょうね。
 赤紙で海軍に呼び出されてインスタント提督になったのに、何か納得いかないです。
 まぁ、要するに、G-1というのはバーリトゥード以上に何でもアリのケンカ、という事なんだそうです。

(ていうか、そんなのが堂々とラヂオで放送されているって言う事は、それだけ帝国臣民の心が追いつめられて荒んできてる証拠なんじゃあ……)
「あら。言ってなかったかしら? 昼はOL、夜は男女無差別級のG-1ファイター『ボンバイエ荒木』って言ったら、同じ男女無差別級にいた、あのジェイムズ・ゴールドマンや久土利屋風香と並んで数えられるくらいの人気スターだったのよ?」
「初耳です」

 初耳です。ていうか『あの』と言われても私、G-1の事なんか全然分からないんですけど。
 このプロト足柄がコンタミ艦(※翻訳鎮守府注釈:contamination.(汚染、混入)の意。ここでは艦娘化以前の記憶や思い出、人格のそれを表す)である事は聞いていましたが、人間だった頃に何をやっていたかまでは聞いた事がありませんでした。

「あれ? でも、それって……」

 ですがそれだと、このプロトはG-1業界からしたら裏切り者なんじゃあないでしょうか。有明警備府では何度かG-1関係者相手の摘発とかやってますし、私も制圧作戦に参加した事ありますし。
 不安に思った私がそう問うと、プロト足柄は手招きするように右手を振り、カラカラと笑ってあっさりと否定しました。何だかおばちゃん臭い仕草でした。

「大丈夫大丈夫。むしろ私のいたジム、G-1に対するスタンスの違いから結構余所のジムやら事務所やらなんかとは対立してたのよ? 私の居たジムの方針はG-1はあくまでもエクストリーム・スポーツの斜め上の延長線上である、って考えだったし。だから、残虐上等八百長万歳なあいつらってかなり目障りだったから、あの頃から――――ひよ子ちゃんが有明に来る前からずっと、有明警備府にはそれと無く情報リークしてたのよ?」
「あ。もしかしてブリーフィングの時によく耳にする『とある筋からの情報』ってもしかして……」
「そ。ウチのジム会長」

 ほら、このポスターにあるコイツとコイツとコイツの所属してるジム。前々から結構過激な事やってて私達以外からも煙たがられてたのよ。とプロトが婚活雑誌の裏表紙に印刷されていた集合写真の一番左下に小さく印刷されていたジムや事務所の名前を指で指し示しました。
 その名前には見覚えがありました。たしか、どれもこれもかつて有明警備府による攻勢摘発(という名の強襲制圧作戦)により、壊滅させたはずの名前でした。
 表向きにはG-1地下ジムでも、裏では艦娘の違法風俗店を経営してたり、違法物品の密輸入してたんですよね。かの伝説のブラック鎮守府『五十鈴牧場』の末端組織として。

「私の提督だった尾谷鳥少佐には今でも感謝してるのよー? G-1にかまけてたばっかりに婚期逃しそうになってたから、噂話一つを頼りにTKTの本部を探し出して、そこにいたお偉いさんの口利きで無事に『足柄』になって、ギリギリ20代で肉体年齢止められたしね」

 何気に私利私欲まみれな理由で艦娘に成ったんですね、プロトは。

「まぁ、G-1やってた頃よりかなり贅肉ついて、だらしない体型になっちゃったけど……ひょっとして、それがモテない理由なのかしら?」
「え?」

 だらしない体型? 今のプロト足柄が?
 身長もバストも私よりも上なのに? 腰もちゃんと括れてて、お腹や二の腕周りの贅肉だって全然無いのに? 廊下を歩けば警備府内の男性職員が鼻の下伸ばして胸とかお尻とか目で追っちゃうくらいスタイルがいいのに?

「だらしないったらありゃしないわよ」

 ほら。これ私の現役時代の写真。そう言って私の前に突き出されたスマートフォンの画面。
 そこには、人の形に切り出した花崗岩に星条旗ビキニを着せたものが写っていました。


 ――――コントロール。こちらデルタ。ベルセルクに遭遇した。指示をくれ(CV:ここだけ廣田行生またはJohn DiMaggio)


「ほら。こっちの方が引き締まってて良い身体よね? ね?」
「え。え、えぇ……」

 何と言ったらいいんでしょう。
 確かに引き締まってますね。筋肉が。鋼や岩のように。
 体脂肪率およそ0%。世の女性たちが羨むボディ……なんでしょうか。勢いよく突進したら歴戦の歯車達でも一発でバラバラの挽肉にしちゃいそうなほどの逞しさが溢れるワガママボディです。
 ていうかこんなナリで普通のOLやってたっていう方がビックリです。よく入社できましたね。

「比奈鳥少佐ー。プロト足柄さーん。お昼ご飯出来ましたよー!」

 そんな事を考えていると、厨房から、警備府の炊事担当である比叡さんが私達を呼ぶ声がしました。

「……ひよ子ちゃん。逝きましょうか」
「……はい」

 今までの会話が嘘のような重苦しい雰囲気に包まれたプロト足柄が、決死の形相でたった一言だけを絞り出しました。
 今日は金曜日。海軍カレーの日です。



 カレーは茶色。これは常識だったと思います。
 ですがそれならば今、食堂の席に座った私達の前に出されたこの赤黒い粘液は何なんでしょうか。なんか地獄にあるという血の池ような不吉な色味です。乾いた血の色、レッドショルダー色です。
 ていうか普通のカレーは食べたら『もぐもぐ』っていう音がするはずです。なのに、何でこの分泌物は『くぷも』っていう音がするんでしょうか。
 我が有明警備府の比叡さん、他の料理はものすごく美味しいのに、何でかカレーだけは……その、あの、野心的なんですよね。叢雲さんから聞いた話では更なる味の探求のためだそうですが、お願いですからそういうのは1人でやってください。
(※ひよ子注釈:カレー以外の料理がどれくらい美味しいのかというと、以前、慰問任務として訪れた老人ホームの、とあるおじいちゃんに比叡さん特製のおかゆを食べさせたら『美ー味ーいーぞー!!』とか叫びつつ目や耳や鼻や口からビームを吐きだしつつ車椅子で階段上って富士山がいきなり噴火して生焼けの鷹と割りばし刺したなすび馬の群れが火山弾として落下してきたくらいた事があったくらいです。因みにそのおじいちゃんは『これが俺の本当のハンサム顔だッ!』とかいって何の前触れも無く若返っていました)

「……ぅぇ」

 これ、残しちゃいけないんでしょうか。と、隣に座るプロト足柄に小声で聞いて見みたところ『比叡が拗ねちゃうからダメ』と即答されました。何でも以前にそれをやったところ、一週間三食全てが行動食4号(主食)とナナチ汁(汁物)と廃棄王女の焼きそば(主菜)だけの、一汁一菜の食生活になってしまったそうなんです。凄惨い時にはクオン何とかだったか、何とかガタリだったかとかいう、見た事も聞いた事も無いような昆虫の幼虫の踊り食いなんてものが出た事もあったそうです。
 つまり逃げ場はないと言う事ですか……

「食事をしながらでいい。皆聞いてくれ」

 あからさまにカレーではない色をしたカレーを前にして、有明警備府の皆が固まっていたところに、長門さんが口の端からカレーの具材の1つであるイモの茎を覗かせながら声を掛けました。

「つい先週に比奈鳥少佐と北上、不知火達がミッドウェー島で見たものについての話なのだが――――」

 長門さんによる、何一つ前フリの無い爆弾発言に『へぶぅ!?』と口からカレー(?)を吹き出したのが私の艦隊に所属する駆逐艦娘のぬいぬいちゃんで、カレー(?)汁が気管支に入ったのか盛大にむせびこんだのが同艦隊総旗艦の雷巡娘『北上』ちゃん改二、そして『ちょ!? な、長門さん!?』と叫んだのが私でした。

「……見ての通り、口にするどころかその存在すら明かしてはいけないものを見たらしくてな。すまないが今一度、念のためにここで緘口令を敷かせてもらう」

 何て心臓に悪い言い回しを……と思った私の念が通じたのかどうかは分かりませんが、長門さんは少しバツの悪そうな顔をした後、こう続けました。

「なので……どうしたら比奈鳥少佐の身の安全を保証できるのか、皆の知恵を借りたい。巻き添えで私達が被害に遭うのも避けたいしな」
「んなの簡単じゃん。始末するより生かしといた方が利が有るって思わせとけばいいんじゃない?」

 長門さんの無茶振りに即答したのは第一艦隊の駆逐艦娘『秋雲』ちゃんでした。発言の内容はかなり殺伐としていましたが、確かに真理を突いていました。
 ですが、どういう利がどれだけあればいいんでしょう。
 ミッドウェーで採れた敵の新種の飛行小型種との戦闘データくらいなら兎も角、例の白い人型深海凄艦の映像データをそのまま渡すのはいくらなんでも危険すぎると思うのですが。
 ていうか、そもそもどうやって軍上層部と渡りをつければいいんでしょう。

「あー。そういう話なら尾谷鳥提督に任せれば……って、提督、もう退役してたんでしたっけ」
「今年の正月は、ブルネイから年賀状代わりの写メ来てたわね。たしか、変な名前の居酒屋のゲテモノ料理が美味いとかなんとか」

 テーブルの上に突っ伏して、スプーンで比叡さん謹製のカレー(っぽい分泌物)を突っつきまわしていた秋雲ちゃんに代わり、同じ第一艦隊の大井ちゃんが別の案を出そうとして頓挫しました。かつての有明警備府の第一艦隊総司令官であらせられた尾谷鳥つばさ少佐は、健康上の理由で軍を退役して久しいのです。詳しい理由は知らされていませんが。

「あー提督といえば、第二と第三艦隊の提督の欠員補充の話もまだ宙ぶらりんのままだったしねー」
「来たら来たで、そいつらの身元調査もしなければならないしな」

 そして、そのあたりから議論は迷走し始めました。
 誰かが『じゃあ多額の裏献金で安全を買うとか?』と言えば別の誰かが『ちょっと前にブイン基地とかいう所が闇取引してるのすっぱ抜かれてから、大本営そういうのにピリピリしてる』とか『カネだけ受け取って消されそう……』と返し、その娘が(多分)冗談半分に『じゃあひよ子ちゃんがお偉いさんに色仕掛けで……』と言えば私が『そういうのを取り締まるのが有明警備府のお仕事です!!』と断固拒否いたします。
(※翻訳鎮守府注釈:これと時を同じくして、平行世界の地球に存在する九十九里浜鎮守府所属の比奈鳥ひよ子元帥が盛大なクシャミをしたそうだが、関連性は不明)

「ねー提督ー。ミッドウェーにいたTKTの人に連絡取れないのー? ほら、あの塩ジャガバターとか何とかとかいってた」
「ごめん北上ちゃん。連絡先分からないの。そうでなくてもTKTって機密度の高い部署だから、下手に接触すると逆に危ないらしいの……」
「そっかー」

 でも、折角近場の九十九里に本部があるんだから、最悪の場合は塩なんとかの名前出して、そこに逃げ込めばいいよねー。と北上ちゃんは普段通りのぽけっとした表情と口調でそう返しました。
 喧々囂々とし始めた中、1人無言でカレー(?)を涙目になりながら消化していたぬいぬいちゃんが、片手で鼻を摘まんで最後の一口を一息に飲み込むと、あまりの不味さに気分を害したのか、普段以上に不機嫌そうな目付きでこう呟きました。

「もうこの際、変な事など考えずに真っ正面から全鎮守府に情報リークしてしまえばよろしいのでは……?」

 右ストレートでぶっ飛ばす。まっすぐ行ってぶっ飛ばす。と、ぬいぬいちゃんの心の中の声がハッキリと聞こえてくるようでした。
 おかしいですね。ぬいぬいちゃんは陽炎型駆逐艦娘の次女であって、現役ボディビルダーの魔法少女の男性(35)でも、元霊界探偵の屋台のラーメン屋のおじさんでもなかったはずですが。

「「……あー。その手が、いや、でも……」」

 その手があったかと言いかけた長門さんと叢雲さん――――それぞれ第二艦隊と第三艦隊の副旗艦です――――でしたが、結局情報テロとして圧力を掛けられて潰されるのがオチだからそちらも最終手段に留めときなさい。と、ぬいぬいちゃんを説得しました。意外といい案だと思ったのですが。
 それからいくつか案は出たのですが(※ひよ子注釈:私もちゃんと案出しましたよ。全部蹴られましたけど)そのいずれにも致命的な穴があり、最終的に会議室代わりに使っている共用居間には重苦しい沈黙が支配してしまいました。
 そんな胃に悪そうな静寂の那珂、居間のテーブルの隅っこで電源を付けっぱなしだったTVの音だけがやけに虚しく響いていました。
 何とはなしにそちらに視線を向けてみると、そこには横須賀鎮守府、もとい横須賀スタジオでアイドル活動をやっている那珂ちゃん(改二)の姿が写っていました。

『よーし! それじゃあ~、今日はまず、那珂ちゃんの新曲『私の彼はアドミラル』続けてブッダズンビーさん達とのデュエットで『海を取り戻した日』行っちゃうよ~☆』
「よし。有名人になろう」

 どうしましょう。長門さんが何を言ってるのか分かりません。










 目を閉じで深呼吸を一つ。

 続けて、座学教室を脳裏にイメージ。
 大学時代の教室のような、教授の立つ舞台を見下ろすタイプの半ホール型。教室に備え付けのプロジェクターは、私が小学生の時に使われてたような旧式のOHPじゃなくて、出来れば展開中の艦娘や妖精さんに使われているような、積層表示も可能な立体映像の出力装置。
 よし。
 その教室に繋がる扉の外で私は、金色の肩紐の付いた白の第一種礼装で上下を固め、帝都湾内の対潜哨戒任務をこなし続けている内に貰ったリボン・バーを胸に付け、映像資料用のデータDISCと教師用教科書とクリップボードを胸に抱き、意を決して扉に手を掛けます。
 伝統と格式ある黒板消しトラップは無しの方向で。
 ここまでよし。
 教室の中の生徒役には、とりあえずとして私の知ってる人や艦娘達を適当に配置。
 北上ちゃん、ぬいぬいちゃん、長門さん、叢雲さん、比叡さん、秋雲ちゃん、プロト足柄に、ミッドウェー島で出会った合衆国海軍アイスクリーム教徒の方々。
 ぬいぬいちゃんや長門さん達は真面目だから、礼儀正しく最前列の席に座っているんでしょうけど、北上ちゃんあたりは教室の真ん中らへんで漫画雑誌か何かをアイマスク代わりにして机の上に足を投げ出して寝てるでしょうし、秋雲ちゃんは教科書立ててその後ろで早弁ならぬ早原稿でもやってるでしょうし、アンクル大尉を初めとしたアイスクリーム教徒の方々は教室の後ろの方で私ガン無視して足を机の上に投げ出しての昼寝か雑談でもしてるような気がします。

「ま」

 声が裏返った。どこからともなく聞こえてくるこれ見よがしな忍び笑い。
 えぇい、無視です無視! 一人前の教師(レディ)は退かず、媚びず、顧みないんです!

「ま、まず。海上における、対深海凄艦格闘ですが、これには、遠浅の海を舞台とする近海での作戦行動時と、艦娘の背丈以上の水深がある遠洋での作戦行動の二種類があるのですが――――」
「ひよ子せんせー。声が小っちゃくてよく聞こえませーん」

 北上ちゃんが挙手し、許可も待たずに発言。

「なら、もっと近くに来ることね」

 ナイスカウンター、私。と思ったのも束の間。北上ちゃんは読んでた漫画雑誌を片手に戦略的前進。私の目の前の座席に移動し、普段通りののぺっとした目線で私を照準し続けます。
 ていうか教科書もノートも持ってきてないってどういうことなのよ。
 しかし私はうろたえません。帝国軍人はうろたえない。うろたえないんですったら!

「……こ、この2つの大きな差異は、常に水平状態に保たれているカカト・スクリューの取り付け角を、遠洋ではマイナス90度、つまり足の裏に移動させる事と、専用のフローターを脚部に装備する事で、深い海の底に沈む事無く、通常通りに海上で戦えるという事ですが、実際には深海凄艦の垂直浮上攻撃に曝され続けるという危険性や、艦娘と提督にかかるストレスが尋常ではない事から、あまりにも非現実的であるとされ――――」

 どんどんと話が支離滅裂になっていくのが、自分でもよく分かります。
 アンクル大尉達なんかもう飽きたのか、教室の後ろの方で『らっせらー、らっせらー、ペッパーミントのウィッザードー。らっせらー、らっせらー』と、謎の音頭を取りながら組体操までしているくらいです。
 それでも何とか話を続けようとして――――

「も、もう駄目です~!」

 思わず目を開けて現実世界に帰ってきてしまいました。
 蘇った光の中に浮かび上がった、鏡の中の私はそれはもう、カチンコチンに緊張しているのがハッキリと見て取れました。
 メガネ、良し。スーツ、良し。カンペ、良し。
 覚悟……無いです。

「うぅうあうぅ~……緊張するぅぅぅ……」

 何で私が、艦娘だけとはいえ、観衆の前で講演ぶたなきゃならないんでしょうか。
 長門さんに曰く、私の知名度が上がればそれだけ手を出しづらくなると言うのは分かるのですが……
 でもやっぱり駄目です。私は昔っから自己紹介というのが苦手な人種なんです。

「たったの20分か30分、深海凄艦の特徴について映像資料とセットで簡単に説明するだけなんだけど、ねぇ……」

 もしも今すぐTVに出てくる横須賀の那珂ちゃんのようにセンターで歌って踊るか、特別な瑞雲でマイナス7Gまで急加速するかどちらか選べと聞かれたら、私は間違い無くマイナス7Gを選んじゃう人間です。
 なのになんで、大勢の人の前でしゃべらなきゃならないんでしょうか。世の中の理不尽さが垣間見えます。
 ですがいつまでも、出張先のトイレの鏡の前で愚痴愚痴としている訳にもいきません。

「……よし! こうなったら女は読経、じゃなくて度胸! 何でもやってみるもんだって昔尾谷鳥少佐も言ってました!」

 比奈鳥ひよ子、気合、入れて、行きます!
 ……トイレから出てきた艦娘の子に、怪訝そうな顔で見られた事は無かった事にします。



 結論から言うと、私は無事にやり遂げました。多分。
 先方からクレームが入っていないと言う事は、何も問題が無かったと言う事なんでしょう。多分。

「お帰り、比奈鳥少佐。クウボ学園での授業は上々だったようだな」

 散々でしたよ。
 教室に入ってから、何話したのか全然覚えていませんでしたし。
 そう憤慨する私に対し長門さんは、第二艦隊の執務室のデスクに置いてある端末の前に陣取り、フレームレスの細メガネを着用してひたすら未決裁書類の山をやっつけ続けながら笑ってそう言いました。

「まぁ、人前での演説なんてのは場数を踏めば自然と慣れるものさ。よし。次は横須賀スタジオで撮影だ」

 ごめんなさい長門さん。ここは帝国です。帝国語で喋ってください。



 久しぶりに訪れた横須賀鎮守府。もとい、横須賀スタジオの外観は、まるで変っていませんでした。
 ごく普通の赤レンガの鎮守府様の建築物。ごく普通の鉄筋コンクリート製の防壁&有刺鉄線(高圧電流付き)。そして映像を配信するための超大型パラボナ。
 そのどれもが、かつて訪れた時のままでした。

「えぇと、迎えの方が来ているって長門さんからは聞いていたんですけれど……ど?」
「あ、もしもしお母さん? うん。ぬいぬいちゃんでーす」
「ぬいっ!?」

 何かどこかで聞いた事のある声の方に振り返ってみたら、ガラパゴス携帯電話ことガラケーを片手に、民間の方と楽しそうに談笑しながら横須賀スタジオの所属と思わしきぬいぬいちゃんが、正門前で立ち尽くす私達の横を通り過ぎていきます。満面の笑みって、ああいう表情の事を言うんですね。
 顔も髪色も陽炎型の制服も、何もかもがぬいぬいちゃんと同じなのに、上手く言葉には出来ませんが、雰囲気のようなものが決定的に違っていました。

「……うん。今収録終わったとこ。……うん。何かね、詳しい事は知らされてないけど、沖縄での遠征ロケ中止になっちゃったんだって。だから今日はもう上がっていいって伊頭プロデューサーが。……うん。今日は夕飯前にはそっち帰れまーす」

 何かもの凄い光景を見た気がします。そう思ったのは私だけではなかったようで、私の所のぬいぬいちゃんも奇声を上げて、そのぬいぬいちゃんが通り過ぎていった背後を凝視していますし。

「なんか、同じコンタミ艦でもプロト足柄とは全然違うわね……」
「……人間だった頃の記憶がある不知火は、あんな風に笑うのですね」

 そう呟くぬいぬいちゃんは普段通りの無表情でしたが、その声には微かに、ですが確かに羨ましげだったのが私にはわかりました。
 そんなしおらしいぬいぬいちゃんを見て、私は思わずぬいぬいちゃんを抱きしめ、頭を撫でて慰めの言葉を発していました。

「大丈夫よ。ぬいぬいちゃん」
「司令?」
「ほら、偉い人も言ってたでしょう?『頭空っぽの方が夢詰め込める』って。だからぬいぬいちゃんはこれからよ」
「……ありがとうございます。ですが、私はぬいぬいなどではなく」
「あ。あれがお迎えの人かな? うん。やっぱりそうみたい。手を振ってこっちに……って、どうしたの? ぬいぬいちゃん。そんな顔して」
「……いえ。別に」

 そう呟くぬいぬいちゃんは普段通りの無表情でしたが、その声には微かに、ですが確かに不満げだったのが私にはわかりました。



「はいカァァァット! クランクアップです! お疲れ様でした!!」
「おっぐ、えぐ、ゔぇぇぉああ゙おぁ……!!」

 感動です! ひよ子は今、猛烈に感動しています!!
 私なんかがあの、金11ドラマ『猫夜叉 -NEKOYASHA-』の最終話の撮影現場にお邪魔してるなんて、夢みたいです!!
 ドラマ見始めた当初は『あれ? 双子の立場入れ替わってない? 何で?』とか思ってたけど、全てはあのシーンの為だったんですね!
 意識を失ったままの山城さんと衣服取り換えた後、扶桑さんがハサミで自分の髪切って『これでやっと山城になれる』って、怪我を押し通して! そのシーンの為だったんですね!!
 三上役の時雨ちゃんも閉ざされた隔壁を次々と開いていきながら最後には『山城でなくて悪いね』って! 山城さんも『今度は同じ母様のお腹から一緒に産まれてきましょうね』って!! 原作ファンを代表して勝手にありがとうございます!!
(※翻訳鎮守府注釈:設定資料集に書いてあったのとは配役違うけど見逃してください。アレ書いた時はそこまで深く考えてなかったんです。これはリメイク版だと言う事にでもしといてください。ごめんなさい)

「ほみ゙ぃぃぃぇえぇん……!!」
「あの、司令官。何というか、その、不知火はこういう事はあまり言いたくないのですが、しかし、婉曲的な表現というのは不得手なのですが……その、あの、正直、気色悪いです。今の司令官」
「「「「「私も同意」」」」」

 ぬいぬいちゃんと北上ちゃんと、私達の護衛役として同行した川内さんとプロト足柄とプロト金剛の計5人が、若干引き気味になりながら小声で囁いてきました。
 酷いです。ファンとしての素直な表現なのに。

「あらあら。そんなに感動していただけるなんて」
「役者冥利に尽きますわ。ねぇ、姉様」

 そんな私達の元にやって来たのは、件のドラマの主役を張っていたお二人――――戦艦娘の『扶桑』さんと、その妹で航空戦艦娘の『山城改二』さんでした。
 長い黒髪を、長いパゴダマスト艦橋型のカチューシャを左前髪で留め、無数の対空砲座が連なった鋼鉄製のベルトで紅白の巫女衣装を締めた、たおやかな印象の美人な方が姉の扶桑さんで、短い黒髪に白ハチマキを締め、長いパゴダマスト艦橋型のカチューシャを右前髪で留め、やはり独特の形状のベルトをして居る方が妹の『山城改二』さんです。

 ――――次は横須賀スタジオだ。あの『北の荒球磨』直々の依頼でな。絶賛姉妹喧嘩中の扶桑姉妹の仲を取り持ってほしいそうだ。
 ――――これが成功すれば、かなり強力なコネが期待できるだろう。やっておいて損は無いはずだ。

 確かに長門さんは、そう仰っていました。
 ですが、今私の目の前で上品そうに笑っているこのお二人は、そんなにも仲が悪いようには見えないのですが。

「本当に、良かったわねぇ。航空戦艦だなんて火葬戦記に片足どころか両肩まで浸かった、戦艦のままでいる事に耐えられなくなった負け犬根性丸出しの山城ちゃん?」
「ええ、本当ですわ。『戦う違法建築』だなんてご立派な二つ名を持つ、化石のような設計思想の欠陥戦艦のままでいる扶桑姉さま?」

 あ。これあ艦ヤツや。

 一瞬で凍り付いた撤収途中の大形スタジオの那珂、私達の心はこの瞬間、確かに一致したと確信できました。





 私はギャグが全然書けない系の人間なんで、今回だけは頑張ってシリアス0%ストーリー性0%整合性0%、略して0%0%0%の完全ギャグ仕立てで頑張ってみます。
 あ。それはそうと、書けば出るって聞いたんですけれど、こないだ迎え損ねたPolaちゃんこの話に出したら明日の大型建造辺りにでも来ますかねぇ?
 と現実逃避してみる艦これSS

『有明警備府出動せよ! 比奈鳥ひよ子少佐の濃密なる1日 ~ また彼女は如何にして貴重なる休日をトラブルシューティングで潰してしまったのか の巻』





「おーう、比奈鳥少佐。お久りぶりだクマー」
「く、球磨さん!」

 扶桑さんと山城さんの間に突如として発生した、局所的な殺気の放電現象に誰も彼もが身を竦めて動けなくなっていたその時。その場の雰囲気をまるで無視するかのような、どこか間と気の抜けたような声に呼びかけられて、ようやく私達は動きだせるようになりました。
『つ、次のドラマの収録迫ってんだ、総員撤収準備急げ!』とADさんがわざとらしいまでの大声で指示を出し、誰も彼もがそれに従って、ぎこちないながらも何とか元の流れに戻って行きました。確か、この次のドラマというと……『トックリ』でしたね。色々と話題になったり映画になったりした。
 それはさておき。

「球磨さん。ご無沙汰しております」
「おぅ。ぬいぬいちゃんもお久しぶりだクマー。足はもう大丈夫なのかクマ?」
「はい。おかげさまで。……ところで、私の名前はぬいぬいではなくて」
「ひよ子少佐もお久しぶりですクマー」

 いけません。こういうのは一番の新人である私からお辞儀をするのが礼儀なのに、球磨さんの方から頭を下げさせてしまいました。
 今まで気づかなかったのですが、球磨さんのお辞儀の動きに合わせて首から下げた無数のシルバーチェーンがじゃらりと擦れる音が鳴りました。以外とお洒落なんですね、球磨さん。

「えっ、あ。ど、どうも。お久しぶりです球磨さん」

 咄嗟に私も球磨さんに続けて礼をしましたが時既に手遅れだったようで、周囲の横須賀スタジオ所属の艦娘達からは『あの球磨さんが先に頭を下げた……だと……!?』『ただの少佐じゃないの!?』『そういえば昔、有明警備府には『黒い鳥』って呼ばれた化物提督が居たって』『まさか、こんなにも青くないのにぽややんとした感じの少佐が!?』だのといったヒソヒソ話が聞こえてきてしまいました。
 ていうかここ、海軍なんだからお辞儀じゃなくて敬礼するんじゃあないんでしょうか。
 そう現実逃避気味に考えていた私の思考に被せる様にして、球磨さんが説明を始めてくれました。

「いや、本当に済まなかったクマー。こういうのは、身内でケリをつけるのが筋だっていうのは承知してるクマ? でも、ちょっと球磨達だけじゃどうにも出来なかったクマ」
「いえ。お呼ばれした事は(収録現場見れたし)大歓迎なのですけれど……いったい、何があったんですか?」
「あー……実は、クマ――――」

 球磨さんに曰く、次の実戦にて出撃する艦隊メンバーの選定で揉めているとの事だそうです。
 引率役の球磨さんを含めて5人までは既に決定しているのですが、フリー枠の最後の1人に扶桑さんと山城さんがそれぞれ立候補し、そのまま対立したそうです。

「えー……」
「クジ引きでは駄目だったのですか?」

 ぬいぬいちゃんの質問はもっともでしたが、お二人以外の戦艦娘や航空戦艦娘の方々は、時間と仕事の都合が付かなかったり、もう既に実戦を経験しているので、未だ出撃経験の無いこのお二人に出番を譲ったそうです。
 立候補した戦艦娘の扶桑さんに曰く『航空機による爆撃雷撃など花拳繍腿。純粋かつ高精度・高密度の砲撃を実現する戦艦こそが海戦の王者』で、もう一人の立候補者である航空戦艦娘の山城さんに曰く『火力投射のための海上プラットフォーム思想など化石も同然。航空機との連携による立体的な砲打撃戦を実現する航空戦艦こそ21世紀を導く戦闘艦のあるべき姿』との事だそうです。
 おかしいですね。
 以前演習で赴いた、他の鎮守府や基地に配属されていた扶桑さん達の姉妹仲はとても良好なものだと記憶していたはずなのですが。
 このお二人がドラマの中で演じていたホモ・サピエンス・ネオジーニスの双子も、ここまで仲が悪くなかったと思うのですけれど。

「まだ出撃までには日数があるし、それまでに何とかこのわだかまりを解消してもらおうと、ひよ子少佐にはお呼ばれ願ったクマ。流石に、幌筵(パラムシル)式修正術は顔が命のアイドルには不味いクマ」

 顔の前で力強く拳を握る球磨さんが何気におっかない事を言っていましたがそれも当然で、この横須賀鎮守府、もとい横須賀スタジオに所属しているこの球磨さんだけは、実戦部隊からの異動だったのですよね。
 でしたら。

「でしたら、他のご友人をまず頼ればよかったのでは? 私みたいな新入りなんかじゃなくて」
「……皆ここだクマ」

 そう言って、球磨さんが胸元へ無造作に手を突っ込み、首からジャラジャラとぶら下げていた細いチェーンの束を引きずり出して目の前に掲げました。
 スタンダードな楕円型。合衆国陸軍のクリムゾン・オーメン式歯車型。そして、錨と世界樹を組み合わせた帝国海軍型。
 その全てが、ドックタグでした。

「あ……」

 私だけではなく、周囲の方々や、周囲の方々そっちのけで大喧嘩に突入しかかっていた扶桑さん達まで沈黙してしまう気まずさが立ち込めていました。
 どうして私はこう、人の地雷を易々と踏み抜いてしまうのでしょうか。こういう時、本当に自分が嫌になります。

「あ……そ、そんな事より今は私達の事だし! ですよね、姉様!?」
「え、ええ! そうね、そうよね! ねえ、山城!?」

 そんな気まずい沈黙の中、扶桑さん達が咄嗟に声を上げて、無理矢理空気を変えようとしてくれました。
 なんだ。仲いいんじゃないですか、貴女達。

「そうですね。では、決闘で雌雄を決する。というのはどうでしょうか」

 一瞬前の重苦しい空気など何処吹く風とばかりに、ぬいぬいちゃんが意見を挙げてくれました。
 最近思うのですけれど、ぬいぬいちゃんって冷静そうに見えて実は脳筋、もといものすごく直情的なんじゃあないでしょうか。
 ほら、目は口程に物を言うって言いますし。

「決闘とは……これまた随分とストレートに来たクマね。なら顔面狙いと殺しは駄目クマよ?」
「で、肝心の決闘内容は何にするの? ラッキョウの早食い? 鉄球? それとも、アイドルらしく歌バトル!?」
「それとグレンキャノンも……じゃなくてダンスもね!!」
「「当然!」」

 いつの間にか野次馬の中に混じっていた、横須賀スタジオ所属の那珂ちゃんと舞風ちゃんが発したその質問に、扶桑さんと山城さんは全くの同時に那珂ちゃんさんの方に振り返り、全くの同時に一言一句違えずにこう答えました。

「「実弾演習よ!!」」



 どうしてこうなった。
 それが私――――有明警備府所属の、比奈鳥ひよ子少佐の偽らざる心境です。

【ねぇ、貴女。ちゃんと聞いてるの? この決闘で勝利するために、わざわざ私の艦長席(の隣の補助席)に貴方を座らせているのよ?】

 私の現在地は帝都湾海上――――の上を単艦で征く、航空戦艦『山城』の艦橋です。戦艦の姿になった山城さんの、艦橋です。
 高いです。ものすごく高いです。
 戦艦だとこれくらいの高さの艦橋が普通なのだそうです(※翻訳鎮守府注釈:全て山城の自己申告です。あしからず)が、北上ちゃんやぬいぬいちゃんのような駆逐艦や巡洋艦の高さしか知らない私にとっては高すぎて怖いです!

「あの、だって。超展開する訳じゃないのに、どうして私がこんな所に……?」
【そりゃあ決まってるなじゃい。立会人よ立会人。決闘にはつきものでしょう? 扶桑姉様の方にも那珂ちゃんが乗り込んでるし、条件は対等よ】

 艦長席の隣の補助席に手錠と足枷で無理矢理座らされた私の隣。つまり艦長席に座る山城さんの立体映像が鼻息も荒く【見てなさい時代遅れの扶桑姉様! 古いのが強いのはロストシップと発掘戦艦だけで十分よ!!】と叫んで虚空を指さしていました。
 ていうか、こんな場所で立会人って何をすればいいんでしょう。
 実弾演習ですし、まさか、撃破された事を示す訓練用バルーンやターゲットの代わりに実物の人間を使ってとか……

(まさか、ですよね――――っ!?)
【さぁて、瑞雲隊全機発――――!?】

 そんな事を思っていると突然、山城さんの回りに巨大な水柱と轟音がいくつもいくつも立ちあがり、防音・防衝撃処理されているはずの艦橋がビリビリと震え、不吉なくらいに傾き始めました。
 なんか、窓ガラスの上の方まで全部、青一色の壁で塞がってるように見えるんですけど気のせいですよね!?

「ひぃぃぃ!!」
【そんな、いきなり挟差!?】

 後で山城さんに聞いてみた所、彼女は水柱が立った時点で散布界からの脱出を始めており、その回頭に際して大きく傾いただけで、間違っても転覆ではなかったそうです。
 ですが、扶桑さんからの砲撃はその後もまったく精度を落とす事無く続けられ、直撃こそなかったものの、山城さんは相当な数の至近弾を貰ってしまいました。

【瑞雲隊、全機緊急発艦! 目標、扶桑姉様! 各機連絡を密にして索敵開始! ……攻撃しようとした矢先だったのに。不幸だわ。直撃弾貰いそうなくらい不幸だわ」

 お願いですから艦橋にだけは直撃弾貰わないでくださいね!? 私こんな所で死にたくない!!

【でも、どうして私よりも先に見つけられたのかしら……? RWRにも反応は無いし、やっぱりスゴ味かしら? 流石姉様ね】
「……あの、山城さん。あれって何でしょうか?」

 艦橋の窓ガラスの向こう側に広がる水平線。
 そこには、天に向かって伸びつつある、細く黒い塔が映っていました。

【! あれは姉様の無限艦橋&無限測距儀! あれで見つけられたのね!!】

 何ですかそれ。
 何かもう、名前からして何かもう、とんでもない代物の予感がします。

【何って……あれこそが艦娘の展開・圧縮機能のちょっとした応用でつくられた『戦艦娘の』扶桑姉様専用の特殊兵装システムの無限艦橋&無限測距儀よ。そんな事も知らないなんて、貴女、モグリなの!?】

 知りませんよ。そんなヘンテコ装備。

【艦橋の総段数一万段と二千段。測距儀の間隔も一万メートルと二千メートル。背の高い艦橋と幅の広い測距儀という2つの観測機器を備える事で、従来の戦艦では有り得なかった『砲弾の最大到達距離 = 必中距離』を実現した夢のシステムよ。……まぁ、実際には艦橋も測距儀も自重で歪んで全然使い物にならなかった上に、私や日向の使ってる偵察機からの弾着観測や、公安警察も使ってる『鷹の目』とかの衛星照準の方がずっと安上がりで高性能なんだけどね】

 嗚呼、姉様もなんて不幸なのかしら。私とお揃いね。と妙に楽しそうな声色の山城さんはさて置くとして。
 色々と突っ込みたい所が扶桑さんのジェンガ型艦橋のように山積みなのもさて置くとして。

「それってつまり、あの塔の根元に扶桑さんがいるって事になるんですよね? でしたら、ここから主砲で塔の根元を狙い撃てばいいんじゃないですか?」
【は? 主砲? 航空戦艦がそんな不細工な物、積んでる訳ないじゃない】
「。」

 ……え?

【そんな重石なんか全部外して、浮いた分全部瑞雲の予備機の追加積載に回してるにきまってるじゃない。貴女ふざけてるの?】

 ふざけてるのは山城の方だと思います。航空機との連携による立体的な砲打撃戦とやらはどこに逝ったんですか。

『あらあら。そちらは随分と楽しそうね』

 不意に、今の今まで沈黙していた通信機から、扶桑さんの声が流れてきました。その向こうからは那珂ちゃんの『やだー! こんなの那珂ちゃんの芸風じゃないのにー!!』という叫び声が聞こえてきますが、もしかして私と同じ目にあっているんでしょうか。

『仮にも戦艦の名前を冠しているのに砲塔を外してしまうなんて……一緒にオツムも取り外しちゃったのかしら。ああ、でも、航空機用の骨素材と一緒で中身スカスカだったから取り外しても大して変わらないわね』
【扶桑姉様ブチ殺す!! 瑞雲隊、突貫!!】
≪はぁくいしばれー、おまえのようなせんかん、ルーデルしてやるー!≫
≪ここからいなくなれー!≫
≪瑞雲は、瑞雲は命なんだ! 瑞雲は、この宇宙を支えている物なんだ!!≫

 夜叉の形相と化した山城さんの立体映像が中指を勃て、彼女の航空隊の妖精さん達が絶叫すると同時に、水平線の向こう側の塔の根元で連続した爆発が発生しました。どうやら航空隊の瑞雲達が爆弾を叩き付けたようです。

【それだけじゃないわ。爆弾を投下し終わった瑞雲の一機を艦橋の根元に突き刺してやったわ! これであのジェンガ、もとい扶桑姉様の艦橋は一気に崩落するわ!!】
『ぎゃ゙あ゙あ゙あ゙ー!! 何か、何かスイカバーの先端みたいな色した瑞雲が! 瑞雲のフロートが鼻の先までー!!』

 その言葉通り、扶桑さんの塔は根元を残してあっけなく崩落し始めました。
 繋げっぱなしだった無線機の向こうから扶桑さんの『折れる……折れてしまう……これは、修理が面倒な事に……長期ドック入り……空があんなに青いのに……けれど!』という呟き声が聞こえてきました。

 ここまで見える水柱をいくつもいくつも立てながら崩れ落ちる扶桑さんの無限艦橋。その崩落のドサクサに紛れて、扶桑さんが『貴女の艦橋だけは連れていく!(CV:ここだけ島田敏)』と叫んで放った一発の砲弾が山城さんの艦橋を直撃し、削り取っていきました。

「ああ、天井が、天井が! 窓も!!」

 私のすぐ頭の上には、すごく綺麗な青空が一面に広がっています。これぞまさに魂の抜けるような青色というやつです。
 子供の頃に読んだ絵本の中に出てきた、影踏丸の見た青色というのは、きっとこれの事なんでしょう。

【ふ、ふふ……化石風情がァ!! この私を! この山城を!! この航空戦艦を無礼るなぁぁぁ!!!】

 山城さんの怒号とは裏腹に再び扶桑さんからの砲撃が再び飛来しました。ところで、航空機にせよ何にせよ、爆弾を使い切ったら補充のために戻らなくてはいけないはずですが、山城さんの、とても短い滑走路で着陸なんてできるのでしょうか。
 そして、艦橋と測距儀を破壊された扶桑さんからの砲撃はぜんぜん不正確で、山城さんから遠く離れた無人の海面に大きな水柱をいくつもいくつも上げ、その爆発と海中衝撃波に巻き込まれた無実の駆逐イ級(※ひよ子注釈:後の調査で判明したところ、例のステルス型でした)が力無く浮き上がって来ただけでした。

「【……え?】」

 ここでようやく山城さん(改二)の索敵系が反応。山城さんのメインシステム統括系が緊急事態対処要綱に従い、近隣全ての友軍に対し緊急通信(メーデー)を発信。それを受け取った帝都湾内全域に、敵襲警報が鳴り響きました。

『く、訓練中止! 訓練中止クマ! 第二艦隊即時出撃! お前ら2人は即座に帰投しろクマ!!』

 そのサイレン音が気付けになったのか、目を回して横腹を浮かべていたイ級は大慌てで私達から距離を取ると、山城さんの周囲をサメのようにグルグルと回りながら砲撃戦を開始。
 腐っても戦艦である山城さんの装甲はその砲撃に平然と耐えていましたが、肝心の反撃手段が存在していませんでした。
 山城さんの瑞雲隊は主火力である爆弾を全て使い切っており、扶桑さんの元から飛んで帰って来たのはいいものの、私達の頭上でただ虚しく旋回を続けるだけでした。
 そしてその扶桑さんの主砲は、当たるどころかかする気配すらありませんでした。

【爆弾は無い、機銃も全機ジャムったなんて、いくらなんでも不幸すぎだわ……ていうか何でチェインガンがジャムるのよ。意味分かんない……】
『当たりさえすれば駆逐艦のような木っ端如き、撃ち負けはしないのに……』
「あ、あのぅ……」
【『何よ!?』】

 山城さんと、無線の向こう側の扶桑さんが示し合わせたかのように同時に返事を返しました。
 さっきからもしかしてと思っていましたが、やっぱり仲良かったんですね。

「それでしたら、お二人で協力してみては? ほら、扶桑さんは主砲が無事で、観測手段が皆無。この山城……、さんは観測機は無事だけど武器が無い。ですので、山城さんの瑞雲で弾着確認を行ってもらえば――――」

≪あ、それむりです≫
≪とちくるって、おともだちになってもありえないのです≫
≪ところでさ『まやかすなぁ!』と『摩耶、貸すなぁ!』って何か似てると思わない? 国語の先生よォォォ≫

 山城さんの航空隊の妖精さん達に即答されました。どれだけ姉妹仲が悪いと思われてるんですか、このお二人は。

『……その提案、私は乗ったわ』
【姉様!?】
『山城』

 扶桑さんの声は、まるで変らぬ静かで落ち着いたものでありながら、不思議とよく耳に通りました。

『戦艦の誇りを捨ててもいい。火葬戦記に逃げてもいい。けれど、けれどね。艦娘としての誇りだけは、捨てちゃ、駄目よ』
【っ!】
『伊勢に負けてもいい。日向に(瑞雲への愛で)負けてもいい。でも、艦娘として生まれたからには、深海凄艦にだけは、負けちゃ、駄目よ』
【ね、姉様……私、私……!!】

 扶桑さんのその言葉の意味は、私にも分かりました。
 かつての世界大戦において、扶桑型戦艦は、あまりにも活躍の機会が無さ過ぎたと座学で学んだ事がありました。
 戦艦『金剛』のように次々と戦場を駆け巡っていたわけでも、長門さんのように被災者救援に向かった事も無ければ、その妹の陸奥さんのように、やんごとなきお方が進水式にご臨席賜れた事も無い。テレビで記者会見に出ていた戦艦娘の『大和』さんのように最新最強と言う事で温存されすぎたという訳でもない。
 ただ、本当に、活躍の機会に恵まれなかっただけの旧式戦艦。
 ただ唯一と言える実戦の機会は捷一号作戦――――あの、レイテ沖海戦のみです。
 だからこそなのでしょう。深海凄艦と戦うために蘇った今、こうまで負けたくないと言っているのは。戦艦に拘り続ける扶桑さんも、航空戦艦に可能性を見出した山城も、きっとそれぞれの方法でその答えを出そうとしているのでしょう。

【……分かったわ。扶桑姉様】

 山城は短くそう呟いただけでしたが、何度も何度も北上ちゃんやぬいぬいちゃんの戦闘中のやり取りを見てきた私にはわかりました。今、このお二人は自我コマンドで何かのデータのやり取りをしています。
 私のその予想は正しかったようで、扶桑さんから瑞雲隊とのデータリンクが確立したとの通信が入ってきました。

『ありがとうね、山城。外部ポート開放、不明なユニット群のデバイスドライバを取得、同ユニット群『瑞雲隊』を増設デバイスとして認識……コントロールパネル、同デバイス群からの観測データを最優先に設定……FCS再起動……データ受信、諸元入力……主砲、副砲、撃てぇぇぇ!!』

 扶桑さんの号令一閃、水平線の向こうから大口径の砲弾が山なりの軌道を描いて次々と飛来してきました。
 遠弾、遠弾、山城さんに至近弾、遠弾、近弾、挟差。
 当たりこそしなかったものの、今までの乱雑さが嘘のような、狭い散布界でした。

『誤差修正……主砲、副砲、もう一度一斉射!!』

 そして、都合三回目の一斉射が、とうとう回避行動をとっていた駆逐イ級を直撃し、木っ端微塵の肉片に変えてしまいました。
 ですが、飛び散った血や肉片が艦橋に空いた大穴から降ってきて、私はそれを頭っからもろに被ってしまいました。頭のてっぺんからつま先までまっ赤っ赤です。
 山城じゃないけど不幸過ぎます……
 ですが。

『やったわね、山城。貴女の瑞雲がいなければこうはいかなかったわ!』
【何をおっしゃいますか! 全ては扶桑姉様の主砲の火力があってこそです!】

 ですが、お二人の関係を修復する事は出来たようです。




 本日の戦果:

 駆逐イ級(第四世代型)×1

 有明警備府所属の比奈鳥ひよ子少佐が、第四世代型深海凄艦の内臓片および血液サンプルを確保しました。
 これにより、同少佐の発言力が劇的に向上しました。
 Team艦娘TYPEから、同サンプル群の引き渡し要求が出ています。


 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上


 本日の被害:

 戦艦        『扶桑』:大破(艦橋破壊)
 航空戦艦    『山城改二』:大破(艦橋破壊)
 軽巡洋艦 『那珂ちゃん改二』:健在(ただし肉体的なものに限る)

 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上













 と、そこでお話が終わっていれば、『いい話だなー』で済んだのですけれども……
 数日後に、再び球磨さんから呼び出された私が横須賀スタジオで見た光景。
 そこには。

「扶桑姉様の分からず屋! 戦艦は国の象徴でしょう!? どうして航空戦艦だなんてパンジャンドラム並みに使っかえない珍兵器に改装しちゃったのよ!? ていうかパンジャンドラムの方が予算も味方の被害も少なくて済む分まだマシじゃない!! 今の姉様はそれ以下よ!!」
「どうして解ってくれないの山城!? 火力と装甲以外に何の取り得も無い戦艦だなんて骨董品にいつまでもこだわり続けるの!? これからの海戦は航空機との綿密かつ有機的な連携が重視される時代よ!」
「あー……ひよ子ちゃん。マジで済まねークマ……」
「あれは流れ星かな。いや、違うよね。流れ星ならもっとうこう、右手は猫の手握りで人差し指と那珂指に挟んで握ってるはずだもんね」

 そこには、バツの悪そうな顔をした球磨さんと、惚けたような表情のまま車椅子に座って壁に何事かを呟き続けている那珂ちゃん、戦艦と航空戦艦の単語を入れ替えた以外には何も変わっていない、扶桑さんと山城のお二人の姿がありました。

「「こうなったらもう、決闘よ!!」」

 何なのよ、これ。








(本日のOKシーン)



 何やかんやで再びの決闘を回避し、扶桑さんと山城さんのお二人をなだめすかして、球磨さんから謝罪代わりとして、那珂ちゃん&舞風ちゃんを筆頭とするギニュー四水戦のサインやら横須賀鎮守府もとい横須賀スタジオ特製のレトルトカレー1年分やらハズレのたわし(メイドインブイン)やらのお土産を山と持たされて、有明警備府に戻って来れました。
 なんというか、前回よりもすごく疲れました……前と違って海には出てないし、戦闘も無かったんですけど……

「ただいま戻りましたー……」
「お帰り、比奈鳥少佐。だいぶお疲れのようだな」
「お疲れのところ悪いけど。新しい提督がやっと配属されたわよ」

 そうなんですよ長門さん。聞いてくださいよ。
 そう言おうとした私の愚痴は、長門さんの隣にいた叢雲さんの発言によって遮られてしまいました。

「え。新しい方ですか?」
「そうよ。それも提督と秘書艦のどちらも実戦経験者……なんだけど、ねぇ」
「それに、大本営からのスパイの可能性も無いだろう……多分」

 実戦経験者で、スパイの可能性も無い。だったら大歓迎じゃあないですか。
 そう思ったのですが、この場に集まっていた、長門さんと叢雲さんを初めとした有明警備府の面々がそこはかとなく不安そうな表情を浮かべていたのが妙に気に掛かりました。

「……あの?」
「……まぁ。実際見てもらった方が早いわね。ほら、こっちよ」

 叢雲さんの紹介を受け、有明警備府所属の娘達が私のためにモーゼの前に広がる紅海のように道を避けてくれたその先。
 そこにいたのは、2人の子供でした。

 一人は小さな艦娘の娘でした。真っ白いマイクロミニのワンピースと、首に下げた大きな双眼鏡、そして胸元に留めた、戦艦娘の『陸奥』さんともカタツムリともつかない、奇妙な生物をレリーフにした黄金のピンバッヂが特徴の娘でした。直接見た事は無かったのですが、お話には知っていました。
 提督との超展開の成功率の低さは元より、原因不明の問題から――――どういう訳か、クローンから作ったクローンが艦娘として機能していないが故に――――大量生産が不可能な艦娘。
 そこから転じて、その娘を艦隊に有する事自体が幸運と精鋭の証であると言われている、奇跡の駆逐艦娘『雪風』

「南方海域ラバウル基地。ラバウル聖獣騎士団筆頭騎士、艦娘式陽炎型駆逐艦8番艦の『雪風』です。よろしくお願いします」

 そして、もう一人。

「は、はじめまして!」

 叢雲さんどころか大抵の駆逐艦娘よりも低そうな背丈。目深に被った白い海軍礼帽と前髪によって完全に隠された目線。
 それより小さなサイズは無かったのでしょうか、ちょっと袖周りがダボ付き気味の白いフロックコート。白ズボンも似たような感じで、裾を追って丈を無理矢理合わせています。Gパンか何かじゃあないんですから、素直に裾上げしてもらいましょうよ。
 足に履いている、ちょっとよれてほつれた白いローファーもちょっとブカブカ気味で、非常時にはちゃんと走れるのか不安になってきます。提督というのは深海凄艦からの砲撃をすり抜けて、秘書艦の艦橋まで走り抜けなきゃいけないことも多々ありますし、服装規定違反だとはいえ、靴には拘った方が良いと思います。

「じ、自分は帝国海軍、南方海域ブイン仮設要塞港所属、目隠輝少佐であります! こちらは僕、あ、いえ。自分の秘書艦の『深雪』であります!! 南方海域の艦隊再編成に伴い、こちらの警備府に配属となりました!! よ、よろしくお願いいたします!!」

 自分の秘書艦の名前を堂々と間違える、どこか変な敬礼をする小さな男の子。
 それが私の、輝君との初めての出会いでした。





 本日のNG(説明不足にも程があったので補足説明)シーン


 Q:お前航空戦艦disり過ぎじゃね?
 A:
 滅相も無い。最前線の方々からすれば、万能ツール的に活躍できるのでむしろ重宝されています。まぁ、それぞれの方面に特化した空母や戦艦には劣りますが。
 元々、超展開可能な人材の幅が狭すぎる正規・軽空母に代わる、クウボめいた機能を有する艦娘として開発されたのが航空戦艦娘および航空巡洋艦娘です。
 弱い航空戦艦娘(あるいは航巡娘)というのは存在しません。航空戦艦を使う強い提督がいる。航空戦艦を使う弱い提督がいる。ただそれだけの話です。


 駆逐艦娘『雪風』

 史実でも数ある創作でも、異能生存体やら戦闘妖精やらと呼ばれている駆逐艦娘。当ブイン世界においても大体似たようなもんである。
 世界大戦当時の乗組員達の高い練度が影響しているのか、提督との同調成功率が極端に低い事で知られる。
 当栄光ブイン世界内においては、艦娘を増産する際、あるいは生産元のスープが不足している場合、クローンを潰してスープを補充し、艤装を粉砕して得られた破片を心霊力学(オカルト)的にクローン胚に移植して艦娘を量産するのだが、この雪風の場合、その艤装(他の雪風から得た破片)を移植しても霊的に成長せず、破片はそのままでクローン娘だけが育つ、という原因不明の不具合を抱えている。
 故に、雪風の生産には江田島に保管されていた錨と舵輪を破砕した物を使用する他なく、その生産数は最初から頭打ちが見えている。
 そのため、雪風と超展開可能な提督への優先配備を除けば、雪風は高い発言力を有する提督か、そのスペックを十全に発揮できる精鋭部隊にしか配備されておらず、そこから転じて、雪風を艦隊に配備している事は精鋭部隊の証なのだと、各提督や艦娘達の間では噂されている。

 また、雪風と同じく超展開可能な人材の幅が狭すぎるという理由から、駆逐艦娘『初風』には、超展開可能な人材に対して3億円の懸賞金がかけられている。

(今度こそ終れ)


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