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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:3aa9db6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/02/02 17:33
※やっと本編入れた気がしマース
※いつものオリ設定
※『えー、○×がそんなのとか無いわー。マジ無いわー』やもです。ご注意ください
※地理、歴史、算数。何それ美味しいの?
※GoogleEarth先生どうもありがとう
※グロ中尉
※英語の正確性? 日本語も怪しいのに……
(2015/01/31初出。02/02、誤字脱字修正)





 帝国海軍横須賀鎮守府所属、二星中佐および紐野少佐、艦娘式伊勢型航空戦艦1番艦『伊勢改』ならびに同2番艦『日向改』
 以上の4名(以下乙)に、以下の内容を命令する。

 1:
 乙は合衆国主体による、第11次ハワイ諸島奪還作戦(第11次O.N.I.殲滅作戦)に参加せよ。
 これは非公式なものであるが、合衆国上層部は承認しており、同作戦に参加する将兵らへも既に通達済みである。

 2:
 乙の攻撃目標は『泊地凄鬼』1体のみとし、これの完全撃破をもって本作戦は成功したとみなされる。
 また、乙はシナリオ11の作戦進行の推移如何に関わらず、泊地凄鬼の撃破を遂行せよ。

 3:
 本作戦の成功・失敗を問わず、作戦終了時には、合衆国に艦娘のデータを渡さぬよう、伊勢改、日向改の動力炉を暴走させて自爆させよ。
 二星中佐および紐野少佐もその場にて自決せよ。
 ただし帝国は本作戦成功時、その対価として4人の願いをそれぞれ1つずつ、帝国の名と責任において必ず叶えるとここに約束するものである。


                              ――――――――秘密作戦『絆地獄』作戦命令書より一部抜粋





 ここで君達に、最新ではないが最高機密の情報を提供しよう。

『合衆国の皆さん、おはようございます。CNNのオスカー・アストラです』

 擦り切れる一歩手前のVHSテープに記録された、若干の砂嵐にまみれた若い男性の合衆国人リポーターが、英語で現地からのリポートを伝えていた。

『本日私は新パナマ運河条約の締結により、パナマへと返還された運河に来ています。現地時刻ではまだ午前8時前なのですが……すごい歓声です。町中が、いえ、国中がパレード騒ぎに……え? 何です? meteo?』

 画面がブレる。左隅にパンする。
 そこに映っていた、上空より音も無く速やかに落下する大火球の速度は、最新の計測ではおよそマッハ24。爆心地の地下数百メートル地点より発掘された弾芯部分は、旧モース硬度表記でおよそ18。
 CNNのオスカー・アストラが、周囲の野次馬が、何だ何だあれは何だと口々に火の玉を指さす。
 着弾。
 見えない壁にでも跳ね飛ばされたかのように、人や物が放射状に吹き飛ばされる。
 爆心地からカメラの位置までは、人の姿が小指の爪程に小さく見えるほどの距離があったにもかかわらず、不可視の衝撃波は衰える素振りをまるで見せていなかった。その爆心地に至っては、衝突時のエネルギーが高すぎたためか、灼熱化し発光していた。ここまで来てようやく、火の玉が空気をカチ割って落下してくる音が響いてきた。
 続けて、音をおいてけぼりにして飛来する2発目の火の玉の姿も。

『No, no, oh my......my god! RUUUUUN! RUN! RUN RUN RUN RUN RUN!!!』

 衝撃波で人や車どころか、群衆が暴徒化した際に備えて待機していた戦車が空き缶のように吹き飛ばされるのを見て、リポーターのアストラもカメラさんも、悲鳴を上げて逃げ出す周囲の群集と共に踵を返して逃げ出そうとする。
 カメラのマイクに嫌なノイズが走る。バランスを崩したのか、地面が画面いっぱいに映し出される。奇妙な事に、カメラと地面との距離はかなり離れているように見えた。
 かなり荒い砂嵐と共に映像がフリーズ。記録映像の再生が終わる。




「……ねぇ、那智姉ぇ。会長がドック封鎖して何時間だっけ?」

 封鎖された重合金製の隔壁を前に成す術無く立ち尽くす重巡娘『足柄』が、己の隣に立っていた那智に呟いた。

「およそ8時間だな」

 今を遡ること8時間前。
 南方海域の総司令部として機能しているラバウル基地の大深度地下に建造されたドライドックに、同基地に間借りしていたTeam艦娘TYPEの名誉会長――――この足柄と那智の提督でもある――――が、外部からやって来た技術中尉(どういう訳か、足柄達も何度か話した事のあるブイン基地の少佐さんだった)を連れて、何百枚ものビニールシートを張り付けた鉄パイプの仕切りで覆い隠された、酷い腐臭のする『何か』を運び込んだ。
 そして名誉会長は各種資材や設備を運び込ませると、TKTの権限でそのままドックを封鎖した。
 これに異を唱えたのはラバウル基地に所属する提督の面々と、同基地所属の整備スタッフ一同である。何せ、ドライドックは艦娘化できないほどの重傷を負った艦娘達の命綱である。いくらドライドックが各個独立型でないからと言って、全てのドックを閉鎖するのはいかがなものか。せめてパーテーションか何かで仕切るくらいにしてくれ。
 その反論に名誉会長は短く、一つだけ異議を唱えた。曰く『あまり人に見せるもんじゃない』と。

 ――――これ、ひょっとして、ガチで重要機密なんじゃね?

 その言葉に含む物を見つけた者は大人しく引き下がり、納得がいかなかったとある提督は監視を目的に同行を要請。会長が機密保持を条件にそれを承認した事で議論は一応の収束を向かえた。
 そして会長お気に入りの龍驤改二と那珂ちゃん(無表情)、そして、監視目的で彼らに同行したラバウル基地の提督の1人とその秘書艦『陸奥』も一緒に隔壁の中に消え、1時間もしない内に提督と陸奥が真っ青な顔で口を押さえながら逃げ出すようにして外に飛び出し、そのまま二人仲良く同じトイレの同じ便座に同じタイミングでゲロ吐いて、『嫌な感じがするから』と1人だけ中に入らなかった駆逐艦娘『雪風』の手によって地上にある医務室まで引きずり出された。
 彼ら2人が外に出てから以降、この隔壁は降りたままである。

「あの提督さん、那珂で何があったのか喋ろうとしないし、何やってるのかしら。会長」
「……あのブルーシートだが」
「ん?」
「少しめくれていたところがあってな。少しだけだが中を覗けたんだ」

 腕を組んで伸びをしながらぼやく足柄に、那智がそう切り出した。

「中身は深海凄艦だった……と思う。死骸だと思うし、水槽か何かで運搬されているわけでもなかったな」
「ってことは第一世代か第二世代型? 珍しいわね。でも、深海凄艦の解体くらいなら、私達も何度か手伝った事あるのにねぇ。何でのけ者にされてるのかしら」
「ただ……いや、何でもない。見間違いだ」
「?」

 那智は嘘を言っていない。
 青いビニールシートを何百枚も重ねた厳重な包みの一か所だけがめくれていた事も事実だし、その中身が死んでいた事も事実だ。第三世代型の深海凄艦なら死骸なんて残るはずが無いし、那智と足柄と、今は亡き羽黒と妙高(※妙高は死んでいません)が名誉会長のお手伝いとして、第一世代型の駆逐イ級の掻っ捌かれた腹から潜り込んで、2人とも頭のてっぺんから足のつま先まで胆汁塗れになりながら、4人がかりで切除した肝臓を担いで這い出してきた事だってある。

(ただ……深海凄艦にも、艦娘と良く似た顔の持ち主がいるのだな)

 那智は、嘘を言っていない。



 何を今更と言われるかもしれないが、ここで今一度、艦娘を運用するための基地や泊地、鎮守府の構造について説明させていただきたい。

 海沿いにあって、敷地の周囲を金網や塀などで囲み、艦娘運用のために必要な各種の専用施設の他、事務仕事や通信などの基地運営に直接関わる仕事や機能を集中させた本棟や、防衛設備などで一応の体裁を整えていれば、軍施設として見て取れる。一応は。
 そして艦娘運用のための専用施設と一括りにされている物をそれぞれ個別に拾い上げていくと、その鎮守府や基地あるいは泊地に所属する艦娘達の住処となる生活寮(※翻訳鎮守府注釈:ブイン基地では敷地面積の都合上、提督の執務室=艦娘の生活寮となっています。フスマで仕切られているとはいえ、お寝坊さんと散らかしっぱなしは自殺行為なのです!)に、日々の精神的活力を得るための食堂&浴場と、その近くに設置されている各種パウダー・フレーバーが入っている艦娘専用の赤い自動販売機、出撃から帰投した後に艦娘化して細かな傷を癒すための入渠ルーム、色々と開発したり修理したりする工廠、対爆コンクリートと業務用エアコンと重合金製の多重隔壁で隔離された地下弾薬保管庫、艦娘化できないほどの損傷を負った際に使われるドライドッグと、艦娘が出撃したり余所の船を迎え入れるための正面港などがある。
 そして、声を大にしていうものではないが、どの鎮守府にも、ある程度以上の規模を持った基地にも、例外無く『解体室』と言うものがある。
 これは、艦娘化している状態(圧縮・保存状態)の艦娘の生体部品から飛び出している艤装を除去するための処置室であり、この処置を施された艦娘はメインシステム統括系から破損したファイル扱いされるため、展開・解凍が不可能になる。除隊処分の対象となった艦娘はこの処置を行い、人間の年頃の娘っ子の外見になってから手荷物をまとめて住み慣れた鎮守府を後にする事になる。その後の生活や心身の安全について軍は一切保障しないが。
 そして、艦娘化していない――――つまり、本来の姿である戦闘艦の状態で艦娘を解体する場合には、工廠やドライドックを丸々一つ貸し切って行われるのが常である。こちらについて特に語る事は無い。普通の艦船と同じく、大型の破砕カッターやプラズマトーチでブロック単位で切り出し、妖精さん用の大型コンピューターからまだカビてないカーペットまで、使えそうなパーツを片っ端から根こそぎ剥ぎ取り、ネジクギ一本の単位になるまで分解していくだけだ。
 そして本日。
 そして本日、ここ――――ラバウル基地では、地下にある対爆仕様のドライドックに秘密裏に運び込まれた、とある深海凄艦の死骸の解体作業が行われていた。
 その深海凄艦の艦種は軽空母。そのコア外殻に凸字刻印されたシリアルコードは【HIRATAKE_Factory/LAC-RJ_1.85β/km-ud/20090815-000ff24/GHOST IN THIS SHELL.】で、かつてのIFFは【IN:Buin Base-Fleet202】

 その個体識別名を、ブイン基地の龍驤と言った。




 連載化した第二話投稿から約一年強。ようやく本編に入れました。当初の予定では全6話だったと言っても誰も信じてくれそうにないです記念の艦これSS

『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 鉄底海峡① 出撃準備』




 その日は、古鷹の悲鳴から始まった。
 起床ラッパまであと僅かとなった早朝未明、今日も今日とて通信室に缶詰めになって徹夜で書類仕事をやっていた古鷹の、絹を裂くような悲鳴でブイン基地は目を覚ました。
 不寝番をやっていたメナイ少佐が真っ先に駆けつけると、通信室の中から顔面蒼白になった古鷹が半泣きで転がり出てきた。歯の根も合わずに泣きじゃくる古鷹をあやしつつ、メナイが何とか事情を聴き出してみると、幽霊が出たのだという。メナイ達が普段制服としてきている白い提督服――――第二種礼装に身を包み、カレーの入ったお皿を片手に持った、メガネをかけた帝国人の若い女性提督で、書類仕事なんかやってないでカレー食え食えと勧めてきたところで、音も無くすぅ、と消えてしまったのだという。

 ――――カンムスだって、半分はオバケみたいなもんじゃねぇか。

 思わず喉の上の辺りまで出かかったその一言を何とか飲み込んだメナイは未だに泣きじゃくる古鷹の世話を、集まって来た面々の中にいた那珂ちゃんに一任すると、今度は古鷹と入れ替わりで通信室に缶詰めとなって、飛行場姫と泊地凄鬼に関するデータの収集を開始した。
 幽霊は、出なかった。



「「「……」」」
「……笑えねぇ」

 ブイン基地に駐在するメナイ、水野、井戸の三提督と、つい先日ここの配属となった輝と深雪、そして、基地司令代理の漣は皆一様に苦々しい表情を浮かべ、オツヤめいた陰鬱な雰囲気に沈み込んでいた。

「すみませーん、遅くなりましたー!」
「おう、今始めたばかりだ。さっさと座れ」

 そんな薄暗い面々が座っている会議用の長テーブルの隅っこに、遅れて入って来たひよ子がカレーの入ったお皿とスプーン片手にこっそりと座る。

「……笑えねぇ」

 誰かが再び呟く。
 無理もない。彼らが一様に見つめる大型液晶テレビ(基地司令の密輸入品その4)の中では、一匹の深海凄艦が縦横無尽に暴れ狂い、古今無双の英雄の如くに人類側の兵器の悉くをなぎ倒している光景が映し出されていたからだ。
 当時の合衆国の最新鋭空母『ジョン・C・ステニス』が怒り狂った頑固オヤジのちゃぶ台の如くひっくり返され、両手で頭上高く担ぎ上げられた重巡『ネオ・インディアナポリス』の艦体は航空戦艦娘『日向改』に増設された対艦ミサイル群の雨を防ぐ盾となる。
 自重に負けて『へ』の字に折れ曲がった『ネオ・インディアナポリス』が画面の向こうにいた、超展開中の航空戦艦娘『伊勢改』に勢い良く投げつけられる。

『伊勢ェ! 二星中佐ァ! 大丈夫か!?』
『『何のこれしきぃ!!』』

 映像のタイムスタンプは1999年、6月30日。
 第11次O.N.I.殲滅作戦――――公表作戦名『シナリオ11』
 たった一匹の深海凄艦を殺すために行われた、合衆国が持つ、核以外の全ての攻撃オプションを投入した11度目の作戦。この作戦の記録映像には、非公式に参加した航空戦艦娘の『伊勢』と『日向』の2人の姿も映っていた。

『Go! ISE, Go!!』
『Do it! Do it! Do it! Stick the bitch!! HYUGA!!』
『You go get them! Kiss hers ass! F*ckin' mother_f*cker!!』

 この時点で辛うじて生き残っていた、たったの十数隻ぽっちの合衆国海軍のノーマル式駆逐艦が、伊勢と日向と鬼を遠巻きに取り囲み、その3人を中心としたリングを形成していた。
 そして、鬼には毛ほども効かぬと知りつつも主砲の5インチ砲をポンポンと間断無く撃ち続け、甲板上にいた陸軍の歩兵ユニットや海兵隊らの生き残りも、手に持つアサルトライフルや携行用のミサイルランチャーをバカスカと撃ちまくっては伊勢と日向の援護に努めていた。
 映像の中で、右腕一本だけとなった伊勢が手にした斬艦刀を逆袈裟に振り上げる。鬼がその細く美しい、左の白腕一本で受け止める。薄皮一枚も切れていない。だが伊勢は動じない。

『結構、ばっちりじゃない、私達ってば!』

 五体満足な日向が鬼の背後の海中から斬艦刀を右手一本に持って飛び掛かった。鬼が背後を振り返るのとほぼ同時に投擲。上半身を捻っていたため多少無茶な姿勢になりながらも、鬼は右の裏拳で撃ち出された斬艦刀の迎撃に成功。この時点で、鬼の胸元に致命的な死角が生まれた。
 その死角を狙って、未だ空中にいた日向が手すきの左手でパージした航空甲板を保持。

『航空戦艦、第五の艦載機! 発艦!!』

 掛け声一閃、日向がブーメランめいた投擲の態勢に入る。
 それを見た伊勢も、鬼も、周囲の合衆国の軍人さん達も皆一様に目を見開いて⇒驚愕する。鬼にいたっては、あまりの出来事に掴んでいた左手から刀が抜けた事にも気付いていなかった有様だ。

『待て日向! ソレは駄目だ!! 偉い人に怒られる!!!』
『……まぁ、そうなるか』

 伊勢が日向の暴挙にツッコミを入れつつこっそりと鬼の手から抜き取った己の斬艦刀を投げて寄越す。日向は素知らぬ顔でそれを受け取る。鬼はこの時点で己の失策に気が付いた。
 もう遅い。

『オ、オノレ! イマイマシイカンムスドモ 、メ!?』

 それでも何とか抵抗しようとした鬼の動きが一瞬止まる。刀を受け取った日向に気を取られた、ごくわずかな隙を縫って伊勢が懐に隠し持っていたクナイ状のCIWSを両手で握りしめ、鬼の白い脇腹に突き立てていた。
 巨大な鬼からすれば、どうということの無い一撃だったが、そのクナイの刃に塗られた、やけに粘性の高い蛍光イエローが目についた。
 それの正体が超即効性の神経毒であるとは知らなかったはずだが、突き立てたクナイで傷口をえぐり回し始めた伊勢を見て鬼は、本能的に『奥の手』を出した。
 両端を切り詰めたカヌーのような下半身の両側から生えている巨大な両腕が――――片手だけで超展開中の伊勢のほぼ半分が隠れてしまうような大きさが――――伊勢の上半身と下半身を握りしめ、そのまま雑巾でも絞るかのように捻り上げる。

『まぁ……やるだけやったかな。ひゅ』

 伊勢が何かを言い切るよりも先に、硬く握りしめられた鬼の奥の手の中からエビの殻でも握り潰したかのような軽い音と、それに若干遅れて小爆発が一度だけ起き、ドス黒い統一規格燃料が滴り落ちる。

『―――――――――――――!!』

 その一瞬で人の言葉を蒸発させた日向が着水と同時に突撃する。伊勢にばかり気を取られていた鬼が、まさしく悪鬼そのものの形相と化した日向の方に振り返ると同時、鬼の首が真一文字に裂かれる。鬼の目が驚きで見開かれる。
 突進の勢いそのままに日向が左肩のタックルで追撃。超密着状態で全主砲を一斉発射。四基八門の四一センチ砲から吐き出された化学弾頭が鬼の装甲を容易く貫通し、体内を毒色に染め上げていく。
 苦悶の表情を浮かべ、片手で喉の大出血を少しでも押さえ、痙攣にもがき苦しみながら鬼が海の中に沈んで逝く。

 周囲は沈黙し、ややあって大歓声が上がり、井戸がそこで映像を一時停止させた。
 そしてその映像の横に並べて表示させたのは、現在のリコリス飛行場基地の様子だった。

『お、鬼さんやないの。どしたん?』
『……ィメ、ァガシテタ』

 かつて202の龍驤だったもののコアから抽出・復元した、フラッシュバック・メモリーだった。
 軽空母としての龍驤ですら子供に見える巨大な体躯、白く長い髪と同色の皮膚、頭部から伸びた髪飾りとも耳っぽい角ともとれる奇妙な石質状の黒い突起物、黒で統一されたボディスーツと腰止め式マント、両端を切り詰めたカヌーような下半身と、背中に担いだ己の身長にも匹敵するほど長大な砲身。
 そして、この鬼の首に横一文字に走る、切り裂かれたかのような古い傷跡。

 ハワイの鬼は、生きていた。

「……笑えねぇ」

 映像がここで一時停止される。全ての暗幕が下ろされ、即席の映写室と化していた食堂の明かりが灯される。
 井戸、水野、メナイ、輝&深雪、基地司令代理の漣、カレー食ってるひよ子。
 誰も彼もが、沈黙したままだった。

「あの……お恥ずかしながらひとつ質問が。今映っていた深海凄艦って、何だったのでしょうか」

 ひよ子のそのおずおずとした発言に、輝と深雪もうんうんと無言で頷く。
 対する井戸達は、お前話聞いてなかったのかよという表情を浮かべようとして、そういえば機密解除命令があったのは自分達3人だけだったという事実を思い出し、その事を踏まえてひよ子達に答えた。
 Need to Kenow.――――必要最低限知ってればいい。という機密保持に関する大原則があるが、ここまで情報垂れ流しておいて今更機密もクソも無いんじゃないのかな。と井戸は思った。

「それは先ほどお話しした通り『ハワイの鬼』こと泊地凄鬼の事です。合衆国のシナリオ11で仕留めたと発表されていたんですがね。龍驤の遺したデータをチェックしていたところ、これの生存を裏付けるデータが出て来ました。今の映像の事ですね」
「ハワイの鬼……『北の荒球磨』みたいな二つ名持ちなんですか? 深海凄艦なのに?」
「その通り。鬼と呼ばれる艦種は、この泊地凄鬼と、緘口令が敷かれている西方海域の、鬼の量産型と思わしき新種以外には確認されておらず――――って、誰だお前!?」

 井戸の今更なツッコミに、他の面々もようやく気が付いたようで、思わずひよ子の方に振り返る。
 誰もいなかった。喰いかけのカレーライスが入った楕円形のお皿と、飲みかけの冷えた麦茶の入ったグラスだけがテーブルに置かれていた。

「「「「「「……」」」」」」

 その後、誰も何も言わずに会議の席を食堂から徒歩10秒の所にある運動用グラウンドのド真ん中に移し、プロジェクター代わりのパソコンと延長ケーブルを引っ張ってきた彼らの会議は、地方巡業(遠征任務)から帰投した那珂ちゃんと大潮と、自主トレのブイン島外周全力疾走3週(補給:ヤシガニ0匹とヤシの実0個まで)から帰投した赤城の計3人に不審な目で見られるまで続いたという。
 その後、その食堂は一時封鎖され、その扉や窓という窓の全てには、古事記に記される後白居近衛門駒之守が発明したという十二進数血液回路(飼ってたニワトリの血液を使用)による魔除けの封印が施されることになったのだが、それは今語るような事ではなかろう。




 深海凄艦がどこからやってくるのか。そしてどうやって生まれてくるのか。それを知る事は、人類が深海凄との戦争を勝利するために必要不可欠な研究の一つであった。
 長きに渡る研究の結果、海底に何かがあって、放置したままだと比較的高い確率でヤバイ。という事だけは体験学的に判明した。

 超大規模発生源――――ディーペスト・ホールとも、単に大巣穴とも呼ばれるそれは、かつての世界大戦当時の艦船と、彼女らと命運を共にした英霊達が眠る地である事が多い。なお誠に遺憾な事ながら、このホールには歩兵用のグレネードをいくつ放り込んでも潰せないのであしからず。
 無論、超大規模というからには、対となるごく小さな発生源もあり、そういった小さな物がシーレーンの付近で見つかった場合は、普段の定期巡回や遠征任務のついでに、爆雷をしこたま放り込んで丁寧に潰して処理手当を貰うおまけに鎮守府やシーレーンの安全確保に努めているのだが、この“大巣穴”があるとまるで話は違ってくる。
 普段なら駆逐艦の1、2隻で仕事の片手間に済ませてしまうような子供の小遣い稼ぎが、数ヶ月から数年単位で消化される専用のミッション・プログラムが組まれ、最低でも大戦艦クラスを複数有する6個艦隊が日替わりで――――それでも足りない場合は全セルに対潜アスロックを満載したイージス艦隊から完全爆装の空軍スクランブル機や、陸軍の弾道弾迎撃ミサイルや気化爆撃デバイス群までが――――全力出動するような大騒動に発展するのだ。
 しかも。
 しかも、それだけの資材人材を投入しても、人類が大巣穴を完全に無力化できた作戦は、かなり少ない。
 現在までに成功を収めたミッションは、

 合衆国主導による真珠湾奪還作戦『シナリオ11』
 帝国独力による硫黄島打通作戦こと『桜花作戦』
 そしてシドニー解放作戦『オペレーション:ハシント・ブレイクダウン』

 このたったの3つのみである。
 しかもこのブインにいるのはたったの3個艦隊で、しかも203艦隊の井戸提督のところは以前配備された電を入れてようやく一個艦隊の定数――――予備艦を含めた7隻になったばかりだし、水野率いる202艦隊も龍驤ら4人の欠員は未だ埋まらず金剛と電の2隻のみのままだし、挙句に201艦隊には、艦娘式高雄型重巡洋艦二番艦『愛宕(メナイ少佐はハナと呼称)』の他には通常戦力しかいないというのだからもう笑えない。

 そして先日送られてきた作戦コードR-99こと『ラストダンサー作戦』とは、そんな大事を、ブイン基地の戦力のみでやれと正式に言ってきたのだ。もう笑えない。

 佐世保や呉なんかの、本土に近くて有名どこなんて週にいっぺんの割合で大補給があるのにこっちは三月に一回だぞ畜生め。しかも大補給とか言ってるくせに量が足んねーんだよ量が全力戦闘3回分にしかならねーよ畜生。それでどうやって攻略しろってんだよksgとは、ブイン基地に所属するとある基地司令代理の駆逐艦娘からのコメントである。

 閑話休題。

 この件について、というかこの作戦――――ラストダンサー作戦について、ブイン基地の意見は2つに割れた。命令が下された以上、任務遂行しない事にはどうにもならないのだが、そこの所に目を瞑って各個人の意見を聞くと、こうなる。

『死んでも反対』
『賛成。龍驤達の敵討ちだ』
『反対。折角天龍を安全に解体できるようになったんだし、もう軍に居続ける理由も、ヤバい橋渡る理由も無い。FAX届かなかった事にして握り潰しちまおう』
『賛成。ここで大きな戦果を出せれば、きっと実家も僕の事を認めてくれますよね!?』
『深雪さまのゴーストがもっと輝けと囁いてる』

 前から順に201~204艦隊。つまりメナイ、水野、井戸、輝&深雪の順番である。この中では一番の古株であるはずのメナイが強く反対しているのは、彼がハシント・ブレイクダウンで一番槍をつけた強襲偵察部隊の数少ない生き残りなのだからだろう。
 前情報も無く、まともな数や武装も無しに敵泊地に乗り込む事の怖さを、この中では誰よりも詳しく知っているのだ。
 そんなメナイが会議用の長テーブルに握り拳を力いっぱい叩き付け、意気満々の水野と輝を睨み付ける。

「……死んでも反対だ」

 ――――……大佐殿、その歳でZ旗に落書きとかないわー。マジないですわー。
 ――――猫が縁起物扱いされてるのは、商売人と陸軍の中だけですぜ?
 ――――二階級降格&左遷だけで済んで良かったじゃないですか。ところで、左遷先のブイン島ってどこですか?

「……貴様らは、何も知らないから、そんな呑気な事が言えるんだ」

 1995年の5月30日。シドニー、ジャクソン・ベイ。
 それが、ファントム・メナイ(元)大佐が知る、地獄の名前だった。
 単純な物量と、単体の高性能による一点突破のゴリ押しで全ての海上防衛網を突破してオーストラリア湾岸部の首都ともいえるシドニーのジャクソン湾を制圧・占領し、同地を瞬く間に要塞化した深海凄艦に対し、祖国奪還に燃えるオーストラリア陸・海・空の三軍は即座に解放作戦を展開。
 偵察衛星と内陸部から浸透させたごく少数のタスクフォースからの偵察情報によると、敵こと深海凄艦は陸に一切上がらずに樹枝状に成長した巨大な正体不明の黒い物質――――繭とも卵ともつかない、例の黒いオブジェクトの構成物質だ――――を用いて、湾全体を巨大なドーム状の防空壕に改造していたとの事。枝と枝の隙間も、黒い樹枝から滲み出てくる瘴気によって鮮明な画像は得られなかった。水平線付近からの超望遠偵察も、敵の哨戒網に阻まれて失敗に終わった。
 そこで提案されたのが、当時帝国から派遣されていた、いくらでも使い捨ての効く艦娘と、難を逃れた本国のノーマル艦、そしてごく少数のジェット戦闘機による強行偵察部隊の派遣である。
 強行偵察。
 そう書くと聞こえは良いが、その実は洒落にならない。まず第一に、戦闘ではなく偵察が任務であるために、武器武装よりも先に光学、熱、音、線などの各種センシングデバイスが搭載される。意外といえば意外だが、この手のデバイスは小型化が難しい。広範囲かつ高精度な情報を得るためには多少の大型化はやむなしだし、後で機材を拾いに行けるのなら話は別だが、様々な外的要因や敵からの攻撃による破損や鹵獲などの可能性も考慮して、一方通行の超強力な送信デバイスと独立装甲の二つをセットにしたものが機体に組み込まれる事が多いからだ。
 その上で船ならば小型快速、飛行機ならステルス性や高高度飛行能力などが要求される。シドニーでの一件では、高高度からの偵察は不可能であったため、飛行機側には速度と運動性能が要求された。偵察デバイスは小型・軽量化が難しいのに。である。
 ついでに言えばデータの圧縮や暗号化にも機体や艦のシステム資源を喰われてしまうため、偵察デバイス用の専用リソースの他、艦体維持や操作、索敵系などにシステム資源を割り振り、その余りで武器を積む。と言った感じになる。もしもこの時、メナイ(元)大佐が書類を誤魔化して関係者に鼻薬を利かせ、小型高速艦と銘打って大型戦艦――――もちろん、システム資源や物理的な積載限界も、戦艦の名に見合った立派なもの――――である『ストライカー・レントン』を持ち込まなければどうなっていた事やら。
 強行偵察部隊の内訳は旗艦『ストライカー・レントン』の他、アデレード級フリゲート艦の7番艦『ポートワイン』に、艦娘の『天龍』『北上』『吹雪』『望月』『足柄』『プロトタイプ足柄』の計8隻ならびに各艦の乗組員。ジャクソン湾沖で陽動に回ったノーマル艦および艦娘の合計は2000を下らない。
 そして今更言う事ではないが、これは偵察任務である。
 つまり、何がどこでどれだけ待ち受けているかなんて、誰も知らないのである。立ちはだかる邪魔者を排除して、それを調べに行くのが彼ら強襲偵察部隊のお仕事なのである。

 ――――ちょっとプロト、聞いてるの!?
 ――――何よ? 今は作戦行動中よ? 電波(おおごえ)大出力さないで。

「あの時、軽母ヌ級より新しい敵艦は無い。つい最近になって、ようやくヌ級が開発されたばかりなんだから、それ以上の脅威は存在しない。そう聞かされていた」

 ――――艦娘の足柄はどいつもこいつも男に餓えてるって悪評広まってるの、全部あんたのせいなんだからね!? 私も鎮守府だけで何度声かけられたのか覚えてないわよ、もう!
 ――――何よそれ!? 私にも1人くらい紹介しなさいよ!!
 ――――うるさいバカ! いい? この作戦が終わったら演習でギッタンギッタンにしてやるから、首を洗って待

 結論を言おう。
 作戦は完全に成功し、続く主力部隊の波状攻勢によりシドニーは無事、奪還された。
 突入部隊の生存者は重軽傷者を含めて合計159名+4。旗艦『ストライカー・レントン』の乗組員の他、艦娘の『望月』『天龍』『プロトタイプ足柄』の計4隻ならびに、当時オーストラリアとの合同演習に赴いており、シドニーからの脱出に失敗して取り残されていた合衆国陸軍のΔ部隊4名。
 対する戦死者は578名。轟沈艦艇は『ポートワイン』と、艦娘『北上』『吹雪』『足柄』の合計4隻だが、陽動支援に回っていたメンバーを含めれば、その死者数は4238名。轟沈艦艇はノーマル艦が12隻と、艦娘『天龍型』『球磨型』『睦月型』『特型』『古鷹型』『妙高型』に、当時の最新鋭だった艦娘『鳳翔』『龍驤』が合計で1955隻にまで膨れ上がる。
 ここで被害が甚大となったのは、湾最深部に突入した彼らを待ち受けていた複数の未確認大型種――――当時は要塞級と呼ばれていた、後の戦艦ル級である――――による奇襲によるところが大きい。
 湾外部の陽動部隊も別の戦艦ル級と交戦を開始しており、敵のエアカバーの殆どが内陸部から同時進行していた陸・空軍への迎撃に回されていたから制空権の確保は容易だったとはいえ、敵艦隊の壊滅どころか陽動の継続すらも怪しくなるほどに叩かれたのだという。
 KD=1:1000
 それが当時の戦艦ル級一隻が撃破されるまでの間に叩き出す、平均的な艦娘撃破数である。対処法が確立された昨今になっても、戦艦ル級の集中投入により突破される戦線や、今までの快進撃を巻き返されて名誉の戦死を迎える提督や艦娘達の数は相当な数に上る。

「もう一度言う。貴様らは、何も分かっちゃいない」

 部屋の中を沈黙が包む。
 だがこの日の夜、彼らは態度を一変させることになる。



「なぁ、司令官」
「ん? どうしたの、深雪」

 その日の夜。最早一緒の布団で枕を揃えて寝る事が日常と化した輝に、不安そうな声色の深雪が問いかけた。

「……その、さ。司令官は、本当にあの作戦――――ラストダンサー作戦ってのに参加するの?」
「うん。昼の会議でも言ったけど、そうすれば、僕の夢も実現できるかもって思ったからだよ。深雪は?」
「嫌な気持ちだよ。こんなの、全然楽しくないし、怖いよ」
「怖い?」
「うん。あのさ、この間の、初めての慰問通信の時なんだけどさ――――」

 深雪は戦う事にも彼我の戦力差にも恐れを感じていない。むしろ、人間だった頃の記憶を取り戻す以前のプロトタイプ足柄と同様、もっと戦場を寄こせと公言してはばからないタイプだ。
 故に、この深雪が今不安に感じているのは作戦そのものではない。書類には書かれていない作戦の不穏さと、ひいては輝の身を慮っての事である。
 R-99『ラストダンサー作戦』
 送信されてきたA4用紙にはそうだと書かれてはいなかったが、どう考えてもこれはブイン基地に対して、良く言えば支援艦隊的な働きを期待して。ぶっちゃけて言ってしまえば露払い程度にしか考えていないのだろう。作戦名や、最後に添えられた追記からもそうと伺える。
 深雪は、反射した月明かりに浮かぶ、安っぽい白一色で塗り染められたプレハブの天井に視線を固定したまま、あのA4用紙の最後に付け加えられた一行を思い出す。

 追伸:最後の1人、最後の1隻になっても踊り切れ。

 つまりは、事実上の撤退不許可命令であろう。
 最悪だなぁ。と深雪は口の中だけで呟いた。
 自分こと深雪――――艦娘式特Ⅰ型駆逐艦4番艦『深雪』は、このブイン基地にやって来るより以前には、友達どころか知り合いすらいなかった。同じ工場で同期に生産された深雪達もいたが、同期の中で南方に送られたのは自分だけだった。
 そして工場の中庭で皆と別れを告げ、皆が派遣される海域別に大型バスに分かれて乗ってあちこちに散っていくのを余所に、自分一人だけが工場長の自家用車で空港まで送り届けられた。ミニのセダンの助手席に座っていた自分に工場長が色々と話しかけて来てくれた様な気がするが、あの時は正直、初めて乗った車酔いがひどくて半分くらい機械的な相槌しか打っていなかった気がする。もの凄く悪い事をしたとは思うが、あの気持ち悪さだけはどうしようもないと思う。工場長は何であんなのに乗ってて平気な顔していられるんだろう。
 そして、辿り着いた帝国空軍の滑走路脇で、初めて司令官と出会ったのだ。

 ――――は、初めまして! あ、あなたが僕の艦娘、さん?

 そして、輝司令官と一緒にブイン基地に配属され、歓迎パーティや出撃前の訓練やら訓練中の迷子やらで、あっという間に時は過ぎていった。
 楽しかった。と素直に言える日々だった。訓練中にいきなり死にかけた事もあったし、その後にあった何度かの実戦もヒヤリとするような物ばかりだったが、楽しすぎて、なんだか申し訳無いような変な気持ちになった。
 なったので、慰問通信の時に、西方海域打通部隊の配属になった深雪達に連絡を入れてみた。別に最初の慰問通信はここにしようと以前から決めていたわけではなかったし、別に神仏の類から霊夢や託宣を受けた訳でもない。ただ、本当になんとなく、他の深雪達は今どうしているのか無性に聞きたくなったのだ。
 10回に満たないCall音の後に、画面に映ったのは、ひどく沈んだ雰囲気の『白雪』だった。深雪と同じ艦娘式特Ⅰ型駆逐艦の2番艦だった。その鎮守府の中では、古参に分類される艦娘だった。

 ――――昨日の出撃で、最後の深雪が轟沈しました。
 ――――この鎮守府にはもう、深雪と言う名前の艦娘は一人もいません。

 詳しく聞けばそれは、第二次西方海域打通作戦『パスコ・ダ・ガマ作戦』に組み込まれるはずだった増援部隊が何時まで経っても送られてこない事から、止む無く採られた『捨て艦』なる戦術行動の一環であるとの事。ブインに来た当初の深雪のように、ロクな近代化改修のされていない、あるいは極めて低練度の艦娘を数集めて盾や囮にし、主力部隊を温存したまま進撃させ、敵主力に一気にぶつけて効率的に敵勢力を駆逐するのだという。

 ふざけるな! お前の任務だろうが! お前が前に出ろよ、前に!!

 その言葉は深雪の口から出る直前に、満足に修理も補給もされていないことが容易に伺えるボロボロの白雪の姿の前にして消えた。白雪はなんとなく困ったような笑顔で、絶句したままの深雪に告げた。

 ――――私も明日、出撃します。貴女と話せて良かった。この鎮守府に来た深雪達の事、気にかけてくれていた子がいたって分かったから。

 そしてその時、深雪は直感的に確信した。これは未来だ。未来の帝国の縮図だと。
 バシーやオリョール海を初めとした南西諸島海域の制海権と製油プラント群が確保されているとはいえ、帝国最大の資源輸入ルートである西方海域の封鎖を解かない限り、ブイン基地の自分達や、今も本土で生産され続けている後進の深雪達も、いずれはこうなるのだと。
 この白雪が所属する鎮守府の提督は恐らく、いや、確実にその事実に気が付いている。だからこそ捨て艦戦法を採用してまで――――自分が手塩にかけた白雪や艦隊を削ってまで西方海域の打通作戦を進めているのだ。
 恐らく、ブイン基地に下命されたラストダンサー作戦とやらも、その捨て艦戦法とやらと同じ類のものだろう。ならば居る筈だ。本命の主力部隊が。どこかに。きっと。

「でもまさかさ。一つの基地を丸ごと捨て艦にするなんて思わなかったけど……って司令官? 寝ちゃったの?」
「……」
「私も寝よっと」

 眠気は来ないのかと深雪が窓の外に目をやると、地上から天に向かってゆっくりと伸びていく二筋の流れ星が外の星空に映った。

「うっわ!? 何あれ。珍しー! ねぇ、しれ……っとと。寝ちゃってるんだった」

 明日は何かいいことあるかも。
 とても珍しい物を見て、若干気分が晴れた深雪がタオルケットを掛け直し、静かに寝息を立てる輝とおでこを合わせて瞼を閉じた。
 深雪が思っていた以上に早く、眠りは訪れた。



 奇妙な騒がしさと違和感を感じた深雪が薄ぼんやりとした意識のまま目を開けると、基地全体が慌ただしくなっていた。重たい瞼を片方だけ開けて、枕元にセットしておいた目覚まし時計に注目した。
 01:27
 上下左右が逆さまの枕元に置かれていたアナログ式の目覚まし時計の針は、常夜色でまだ夜だと無言で告げていた。

「……んぅ。夜、ぅ?」
「むにゃ、深雪ぃ……すゃぁ……」
「起きろネボスケ共!!」

 そんな二人のまどろみは、部屋に駆け込んできたお隣203号室の天龍の怒声にも、廊下の電灯の眩しさにも、まるで怯まなかった。

「んぅ……何ですか何ですかぁ?(CV:ここだけ日高里菜)」
「むゅぅ……起床ラッパ鳴らなかったんだから、今日はお休みなんじゃないんですかぁ……?」
「深雪、キャラも声も違ってるぞ。目隠、寝ボケた事を抜かすな。軍人の基本は月月火火水木金(土日は有給)だ。兎に角、2人とも急いで着替えて急いで通信室に出頭しろ。状況が変わった。かなりヤバイ」

 そんな二人のまどろみは、全く冗談味を感じさせない天龍の一言で、一瞬にして掻き消えた。



「目隠輝少佐、および駆逐艦『深雪』出頭いたしました!」

 開け放たれたままの扉の前で敬礼し、立ち尽くす輝と深雪に誰も構わなかった。
 ここにいる誰にも、そんな事をしている暇など無かったからである。

「CQ、CQ。どなたか応答願います。こちらINSOA‐B02ブイン島ブイン基地仮設要塞港。CQ、CQ。こちらINSOA‐B02ブイン島ブイン基地仮設要塞港――――」
「整備班のソフト衆より伝令! 駄目です『サザンコンフォート』との再接続が出来ません! こちら側の山頂レーダーは破壊されたままですが、パラボナは無事です。衛星側に物理的なトラブルがあったとしか――――」
『Fleet203大潮! 周辺海域および海中に敵影無し! 海上からの目視範囲内にも敵機の反応はありません! 同伴のMidnightEye-01からも同じです!!』
『Fleet202金剛デース。あの、不審船団Foundしたので停船させたんデスケド……呉の古鷹ちゃんでした。203の古鷹ちゃんに、天然オイルの代金持ってきたとかなんとかって言ってますけど、どうしマショー。輸送艦で船団組んでマース』『輸送船かっぱいd……基地に停泊させて、その古鷹も哨戒に組み込んどけ!』
『INSOA‐B02、こちらINSOA‐A01ショートランド泊地。夜間哨戒部隊の『多摩』ですニャー。現在、我がショートランド泊地では南方監視衛星『サザンコンフォート』との通信がオフラインですニャー。原因不明。深海凄艦側の奇襲に要警戒されたし。ですニャー』
「INSOA‐A01。こちらINSOA‐B02ブイン島ブイン基地仮設要塞港。警告感謝します」
『INSOA‐B02、こちらINSOA‐B01ラバウル基地。夜勤の『陸奥』です。こちらも現在、戒厳令を発動し、夜間哨戒を密にしています。衛星との交信はオフライン。やはり原因不明。ですがパプワニューニギアの陸上中継局を経由して、オリョール海でサービス残業中、もとい作戦行動中の潜水艦娘達に連絡を取ることに成功しました。現在、本土および南西諸島海域の基地群からのリレーバトンの返信待ちです』

 普段のおちゃらけた雰囲気を微塵も感じさせない漣が、私物のアマチュア無線(漣個人の密輸入品その1)で四方八方にCallを呼び掛けていた。
 駈け込んで来た整備班の伝令が大声で手短に用件を伝えると、再び己の戦場たる整備場へと駆け戻っていった。

「来たか、目隠少佐」
「え、えと……? あ、あの! メナイ少佐、これは一体……!?」
「敵襲だ。それも極めて綿密に計画された」

 メナイの返答は、簡潔かつ衝撃的だった。

「今から約30分前、南方海域全体をカバーしている静止衛星『サザンコンフォート』との通信が途絶した。以前の長距離狙撃で、山頂付近の大型レーダーは破壊されたままだったのでな、ウチのMidnightEye小隊と、各艦隊から偵察に出てもらっている」

 輝とメナイが同時に大形液晶モニタに表示されたブイン近海の海域図に目をやる。グリッド上に表示された島とその周辺は明るく表示され、一定よりも遠くの海域は暗いブルーで表示されていた。その中でゆっくりと動いている三角形には『201 MidnightEye-01』や『203 OOSHIO』などの名前が表示されており、その周囲は暗いブルーの中でも変わらず明るく表示されていた。その中でも一際大きな丸が『201 MidnightEye-01』と02、そして『202 KONGOU Ver_2.00』の3つだった。おそらく、それが各艦の索敵範囲を示しているのだろうと輝は思った。

「目隠少佐、君も今すぐに出撃しても――――」

 不意に、その索敵範囲内に黄色い丸がいくつも表示されたかと思うと、一瞬もたたずに赤に変色した。

『Fleet202電より緊急連絡! 敵襲、敵襲なのです! 総数12、駆逐イ級を中核とする高速水雷戦隊!!』
『Fleet201、レーダーに感、総数14。PRBR検出デバイスにhit. いずれも駆逐イ級! 202電への支援と同時に交戦開始する。ミサイル諸元入力開始!!』
『Fleet203那珂ちゃんだよ~。軽巡ヘ級2、駆逐イ級2、やっつけといたよー。目視範囲とレーダー索敵圏内に反応無ーし。202の電ちゃんの所にゲリラライブ行って来ま~す☆』
「ふ、フリート204! 目隠少佐および旗艦『深雪』出撃します!!」
「よし行け!」
「2人のポジションは西側。現地では203の如月ちゃんの指示に従って!」
「「はい!!」」

 輝と深雪が同時に敬礼をする。メナイと漣の二人も短く敬礼を返し、ただちに201艦隊の指揮と、他基地や鎮守府との通信に戻って行った。
 ブイン基地の、長い夜が始まった。





 次の日の昼過ぎ。嵐のような一夜を一先ず乗り越え、ひと段落付いた頃である。
 ついに封印が解けられた食堂に揃った一同を井戸は一瞥すると、中指でメガネを押し上げ説明を始めた。食堂の中には、本来ブインには居るはずのない佐々木提督や名誉会長大佐殿などの、他の基地や泊地の面々まで椅子に座って黙って説明を聞いていた。

「では状況を説明します。昨日未明、南方海域全域を監視していた静止衛星が撃墜されました。犯人は分かっています。ハワイの鬼――――泊地凄鬼の仕業です」

 ざわつき始めた室内の面々に落ち着け、静粛に。と告げ、あらかじめ用意してあったパソコンを操作し、スライドショーを再生させはじめた。室内の面々に見えるように接続してあった大型液晶TVに、ゆっくりとしたコマ送りの速度で移り変わる画像が映し出される。
 1枚目には、鬼のつむじが映っていた。そこから何枚か続いてからようやく鬼が衛星の存在に気付いたようで、こちらを見上げている姿が写っていた。
 その時点で、既にカメラと目が合っていた。
 次の写真では、鬼の右肩にある砲がこちらを向いていた。続けて砲口部に白い閃光。次の写真では真っ黒一色に『DISCONNECTED』の素っ気ない文字が真ん中に表記されているだけだった。
 おそらくは、その時点で破壊されたのだろう。

「画像と画像の撮影間隔は15分。衛星の位置は機密レベルが高すぎて不明でしたが、静止軌道と言う事は少なくとも3万5千キロメートル以上の高度にあった事は確実です。また――――」

 その説明を聞いていた深雪は、奇妙な確信を抱いた。
 これだ。昨日の夜に見た、逆さまの流れ星の正体はこれだったんだ。と。

「――――であり、この精密狙撃能力は1977年にパナマ運河を破壊した衛星軌道曲射よりも、単純な水平射撃時において特に凶悪なパフォーマンスを発揮するものと推測されます。これは1年前に撃沈されたという駆逐艦『響』に、先日のダ号目標破壊作戦時に破壊された金剛の主砲、そして、龍驤のフラッシュバック・メモリーから抽出した鬼自身の証言からも明らかです」

 ここで一度、井戸は言葉を止めた。
 食堂の中には、不安と困惑、そして、突拍子も無いとしか言いようのない鬼の性能に対する静かなどよめきが広がっていた。
 井戸の麾下にあるはずの203艦隊の面々も――――203の十得ナイフこと那珂ちゃんでさえも!――――例外ではなかった。
 やがて、段々と周囲が冷静さを取り戻していったのを見計らってから、井戸は再び口を開いた。

「……説明を続けます。大本営からはリコリス大巣穴の破壊を命じられました(俺は参加したくなかった)が、この鬼を放置する訳にもいきません。したがって本作戦においては、この鬼と第3ひ号目標こと飛行場姫、この2体の撃破を第一目標として設定します」

 スライドショーが次の画像に映る。
 画面にはサーモン諸島こと、旧ソロモン諸島とその周辺を表記した地図が表示されていた。井戸は、いつの間にか手にした指揮棒(食堂のお箸)で画面をコツコツと叩いて説明を続けた。

「本作戦の第一段階として、我がブイン基地に、ラバウル、ショートランドの2拠点から抽出した戦力および当基地の全戦力を集結。連合艦隊を結成してサーモン海――――旧ソロモン海を南下。第二段階としてコロンバンガラ沖、ニュージョージア海峡を敵勢力を撃破しつつサボ島まで前進し、同島および同海域の制海権を確保。第三段階としてサボ島、およびルンガ湾を確保し、ここをリコリス大巣穴攻略の前線基地とします」

 井戸の説明と連動して、スライドショー上の地図に次々と赤い矢印や丸印が書き込まれて行き、作戦の進行度合いが一目でわかるようになっていた。

「ここで作戦は第四段階に移行。すなわち、敵本拠地への直接攻撃に移ります。まず、ラバウルおよびブイン201艦隊、そして、アルマゲドンモードを起動させたショートランド泊地の伊8号による長距離飽和ミサイル攻撃により、敵拠点およびその周辺に展開しているであろう敵部隊に対する徹底的な面制圧を開始。第一次面制圧終了と同時に、施設焼却用の三式弾を搭載した主力部隊はサボ島より南進を開始。撃ち漏らした敵防衛戦力を撃破しつつ、旧リコリス飛行場基地――――リコリス大巣穴に接近。同基地に対して攻撃を開始。この時、支援部隊はミサイル弾頭をクラスターナパームに切り替え、リコリス飛行場に範囲を集中させた面制圧をかける。この際、通常弾頭やバンカーバスターではなく、三式弾やナパームを使用する理由ですが、これは基地レーダーサイトや防衛システムに搭載されている砲弾類の熱暴走や誘爆を狙っての事です。基地にある対艦・対空ミサイルも、IR系は炎でオツムが温い事になってしまうでしょうし」

 こちらの攻撃にも同じ事が言えますので、IRセンサや赤外線感知ミサイルを使用する際には注意してください。と井戸は続けた。

「これらの攻撃により基地機能を完全に喪失させた後、基地内部に潜伏しているであろう姫の本体を捜索し、破壊。その後は残敵を掃討しつつ、アイアンボトムサウンド全域の制海権を確保し、晴れてミッション終了です……と、言いたいところですが」

 嫌な区切り方で説明を区切った井戸が、とんでもない事を言ってのけた。
 一瞬、誰もが何を言われたのか理解できなかった。出来なかったので、井戸はもう一度同じ言葉を繰り返す事になった。

「その作戦はすべて破棄します」

 時間が止まった。
 一瞬の沈黙の後、驚愕と罵声とその他もろもろの大絶叫により、食堂のドアと窓のガラスにヒビが入り、最近赤城が全然食べてないおかげで毎日が豊作なヤシの実を狙って木に登っていたヤシガニが驚きのあまり地面に落下した。
 我らが203艦隊総旗艦の天龍は一度沈黙し、何かを考えるかのように軽く俯き、何とも言えない無表情っぽい表情で、

「ば~~~~~~っかじゃねぇの!? もしくはアホか! じゃあなんで説明したんだよ!?」

 というツッコミを井戸に返した。ごもっともな話である。

『Why?』

 とはお隣202艦隊の旗艦、金剛の談である。いいから鼻から噴き出した紅茶くらい拭け。折角の美人が台無しだ。

「あー。落ち着け落ち着け落ち着いてください! 説明続けますので静粛に。静粛に!!」

 手元の机に指揮棒代わりのお箸をカンカンズドム、と裁判長よろしく打ち鳴らし、周囲が静かになるのを待った。

「現在我がブイン……というか南方海域には、もうまともな量の備蓄物資が残っていません。しかもそれすらも先日の深海凄艦の奇襲を迎撃した際に殆どすべてが枯渇しました」

 それ知ってる。と誰もが無言で頷いた。

「唯一の救いは、同混乱の最中にやって来た呉鎮の古鷹が運んできた大量の物資(内訳:燃料4000、弾薬6000、鋼材6000、精錬済み超々ジュラルミンインゴット2000、ダミーハート20)と、それを運んできたウェザーライト級快速輸送艦――――『ウルザ』『テイザー』『ダリア』『フレイアリーズ』『クリスティナ』『ウィンドグレイス』『アドミラル・ガフ』『ボウ』『テヴェシュ(※流れ弾により轟沈。積載していたジュラルミンは海没)』の合計9隻――――を接収出来た事くらいです。因みに件の呉鎮の古鷹はドサクサに紛れて逃げました。ですので――――」


 姫を暗殺します。


 井戸は、確かにそう言った。

「具体的な手順を説明します。まず、物資が致命的に足りないという事実から目を背けないでください――――特に赤城、お前だ」

 艦載機を体内精製するのに必要な物資――――ナマで齧った事が一度も無い超々ジュラルミン――――を満載した輸送艦『テヴェシュ』が沈没したと聞いて、絶望した表情のまま固まっていた赤城が、青ざめた顔そのままに頷いた。

「ですので、不要な戦闘は可能な限り避け、最優先目標である飛行場姫の本体と、その近くの海域に潜伏しているであろう泊地凄鬼に最接近し、ただの一戦で撃破する事が必要になります。その為、攻略部隊を3つ――――A、B、C隊に分けます。こちらをご覧ください」


 井戸が手元を操作し、スライドショーが切り替わる。偵察写真から、ゴシック体で表記されたABC各隊の簡素な説明文に切り替わった。

 A:リコリス・ヘンダーソン(飛行場姫)暗殺部隊
 B:泊地凄鬼攻撃部隊(接収した輸送艦『ウルザ』『テイザー』『フレイアリーズ』『アドミラル・ガフ』はこちらに随伴)
 C:超長距離支援部隊(接収した輸送艦『ダリア』『クリスティナ』『ウィンドグレイス』『ボウ』はこちらに随伴)

 井戸が手元を操作し、スライドショーが再び切り替わった。
 偵察衛星から得られた、ソロモン諸島の詳細な写真だった。

「まず、C隊は南太平洋上の友軍戦力圏内に一時退避。作戦が最終段階に移行するまで待機です。次にA隊はブイン島からフォーロ島、チョイスル島、チョイスル島のSiruka湾北東部よりマニング海峡を越え、バロラ島およびサンタ・イザベル島に上陸。その後は同島の南に位置するサン・ホルヘ島に上陸し、同島の南側海岸付近まで走破。ここを最後の休息地点とし、翌朝未明に南東約50キロ地点にあるブエナビスタおよびダニサボ島を目指し進軍開始。同島沖にて南進し、サボ島を右手側にみて、約60キロ地点にある旧リコリス飛行場基地――――すなわち、リコリス大巣穴を目指してください」

 幸運な事に、これらの島々は豊富な密林に覆われていますので、こちらの姿を隠すのも容易でしょう。と井戸は取ってつけたように言ってのけた。
 つまり、コイツは、艦娘に陸の上を歩いて敵本拠地のすぐ近くまで進めと言っているのだ。

「ただ、サン・ホルヘより先は相当数の敵――――それも極めて高い練度を持った精鋭部隊との交戦が予想されます。ここで作戦は最終段階に移行。C隊の出番になります」

 スライドショーが切り替わる。ソロモン諸島の概略地図の上には、赤い矢印で表記されたAB各隊の侵攻ルートと、C隊の支援攻撃範囲を示す赤い丸が付け加えられた。

「支援艦隊はB隊――――泊地凄鬼攻撃部隊への支援を優先してください。あの超射程、超精密狙撃能力は本作戦遂行における最大の脅威です。放置は出来ません。可能な限り素早く、確実に無力化する必要があります。作戦の最終段階の流れは、先に説明したボツ作戦とほぼ同様です。サンタ・イザベル島から出撃したAB各隊はその時点で無線封鎖を解除。艦娘を『展開』し、A隊はリコリス航空基地の無力化と姫の本体の捜索と破壊を。B隊は泊地凄鬼の捜索と攻撃を優先してください。繰り返しますがAB各隊は施設焼却用の三式弾、C隊はクラスターナパーム弾頭の用意を忘れないでください。どちらも第5物資集積島からありったけをかき集めてきましたので。説明は以上です。何か質問は?」

 部屋の電気が灯される。
 深雪が力いっぱいに挙手。言う。

「はい! 井戸少佐、質問です!!」
「どうぞ。所属を先に明らかにしてから、どうぞ」
「ブイン基地204艦隊の深雪です! 井戸少佐、今の説明で “姫の本体” とおっしゃっていましたが、それはあの映像に映っていた、等身大の白い人型という認識でよろしいのでしょうか?」

 何か深海凄艦っぽくないけど。と呟く深雪を余所に、井戸は返事を返した。

「いいえ、違います……失礼しました。その点に関しての注意事項を説明するのを忘れていました。こちらをご覧ください」

 スライドショーが最小化され、代わりに動画ファイルがビューアーで再生され始めた。
 どこかの建物の廊下にいる白い姫が、カメラを見ていた。

『U⑨、不明なオブジェクトを発見しました』
『そいつが敵だ! 全ユニットに通達! 最優先目標!!』
『U⑨、ターゲット確認。排除開始』

 受領と同時にU⑨が発砲。パルスマシンガン、チェインガン、垂直発射式ミサイル、グレネード砲による弾幕が基地の廊下にいた姫とその周囲を徹底的に破壊する。
 奇妙な事に、建物やその装飾品は見る間に破壊されて行くというのに、その破片や砲弾が直撃しているはずの姫には何の変化も無かった。ただ、砲弾や破片が直撃するたびに姫の身体にデジタルノイズが走り、一瞬その姿がブレるくらいのものである。

『U⑨、目標に有効打を認めず。火力支援を要――――』

 そこで途切れた映像を数秒ほど巻き戻したところで一時停止。ちょうど、姫の姿にデジタルノイズが走っているシーンだった。

「見ての通り、この等身大の白い人型は立体映像です。それも、我々の艦娘には対人インターフェイスの一部として搭載されている、超高速・超高密度情報体を投射できるタイプのプロジェクターよりもずっと高性能な物です」
(司令官、何ソレ?)
(触れる立体映像の事だよ。ほら、こないだ深雪の各所に監視カメラと一緒に増設されたでしょ? アレ)

 自分から質問しておいてヒソヒソ話とはいい根性だ、このクソガキ。この作戦が終わって天龍と一緒に退役する前に、ウチの電と1on1で実弾演習させてやる。と井戸は思ったが、グッと堪えて顔にも声にも出さずに説明を続けた。

「……この立体映像のプロジェクターがどこにあるのかは不明ですが、兎に角、あの等身大の飛行場姫は偽物で、本体が基地施設内のどこかに隠蔽・安置してある可能性が極めて大きいと言う事です。A隊はそれを捜索し、確実に破壊する事が最優先任務になります」

 再び誰かが挙手。

「ショートランド、第八の佐々木少佐です。A隊の任務にある施設捜索についてですが、我々も突入任務を請け負うと?」
「はい、少佐殿。いえ、施設内の捜索には、ショートランド泊地第七艦隊所属の『あきつ丸改』と、その艦載機である対人機械歩兵『SSS(シャルクルス・ステルス・スタイル)』が主任務に当たります。我々が突入するのは、あくまでも先行したSSSが全滅した場合のみです」
「成程。了解しました」

 佐々木が着席する。続けて水野が挙手。

「ブイン基地、202艦隊の水野中佐。B隊の――――泊地凄鬼攻撃部隊の行動計画が書かれていないが、それはどこに?」
「……B隊は、当ブイン基地からの出撃です」

 ざわり。と食堂の中の空気がどよめいた。
 それはつまり、AやCのような秘策もクソも無い、ただの海上特攻であると言う事か。だが水野とメナイ、そして基地司令代理の漣は平然としていた。202の電が何かを思い出したかのように『あっ』と小さな声を上げた。

「あ、あの。これってもしかして……一年前の大攻勢の時に、深海凄艦が取った戦術……!?」
「正解。奇襲部隊の侵攻ルートが陸の上か海の上かという違いはあるが、連中がやった事をそっくりそのまま返させてもらう」

 ――――連中には散々煮え湯を飲まされているんだ。たまには飲んでいただこう。しこたまに。

 そこまで説明されて、佐々木らを初めとした他の1年前の大攻勢に参加していた者達にも納得の顔が浮かぶ。
 そして井戸はそこから、ABC各隊の人員の割り振りと、衛星が撃墜される直前に送ってきた、リコリス大巣穴周囲に浮遊している奇妙な巨大な球体に関する写真や、泊地凄鬼が潜伏していると思わしき海域の割り出しについての説明を述べ、ブリーフィングを終了させた。

「作戦開始は明日1830時。説明は以上です。帝国海軍大本営とオーストラリア海軍総司令部は、このミッションに強く注目しています。こちらにとっても、悪い話ではないと思いたいですが」



「これが……これがジュラルミン……! ううっ……キンッキンッに精錬されてますっ……!」

 その日の夜、一航戦の赤城は艦載機と燃料の補充に勤しんでいた。

「あ、ありがてぇっ……涙が出るっ…犯罪的だ…うますぎるっ……これに比べたら今まで食べてたボーキなんてっ……糞っ…犬の、糞っっっ……!!」

 海没した輸送艦から辛うじて持ち出しに成功した、超々ジュラルミンのインゴットを摂取して、体内で艦載機に錬成している最中である。ざわざわとした感じの、妙にアゴの尖った妖精さん達を余所に、赤城が二本目のインゴットに手を伸ばす。

「ぐっ……溶けそうだ……! 今の私なら本当にやりかねない……このインゴット1本のために……ギンバイだって……」

 少し前まではしょっちゅうやってたくせに今更何を。という妖精さん達の呆れ顔など何処吹く風。赤城はブイン基地での最後の夜に、燃料片手に補給作業に邁進していった。因みに彼女の大好きなパウダー・フレーバーは『江戸前ピルスナービール味』である。
 そして、口元にできた泡の髭を手の甲で乱雑に拭い去り、ふと窓の外に目をやった。満月によって、夜でもそこそこ遠くまで見渡せる明るさだった。
 見た。



「あ……品切れ」

 リコリス・ヘンダーソン暗殺部隊の配属となった大潮は、赤い自販機の前で立ち尽くしていた。行軍中に持っていく予備燃料に混ぜるためのパウダー・フレーバーを買いに来たのだが、お気に入りの激圧炭酸ブルーハワイ味のボタンには品切れランプが灯っていた。それだけではない。基地内で人気のあるフレーバーには、もう全部品切れランプが灯っていた。
 あと残っているのは『炭酸抜けたヌル目のドクターペッパー味』か、お隣202の金剛がよく買っている『泥水コーヒー味』の二者択一である。
 どちらも一度試してみて、もう二度と飲むものかと決意できる味だった。

「はぅぅ~……しょーがない、原液の味で我慢するし、か……?」

 肩を落としてため息をつき、視線を戻したその先に不思議なものを見た。
 植え込みの陰に、同じ艦隊所属の赤城が隠れて何かを見張っていた。

「……あの」
「シッ!」

 背後からこっそりと近づき、何をしているのか聞こうとした矢先に植え込みの陰に引きずり込まれ、赤城はアレを見ろとばかりに一点を指さしていた。
 大潮と赤城の所属する、第203艦隊の総司令官である井戸少佐と、同艦隊の総旗艦である天龍が、スゴク良い雰囲気になっていた。
 ここからでは距離があった上に、波の音に紛れていたので2人が何を話していたのかは分からない。だが、井戸が天龍の肩を抱き、二人の顔がゆっくりと、確実に接近していくのはここからでもよく見えた。

(((おおおおお~!!!)))

 いつの間にか那珂ちゃんや、お隣202の金剛と水野中佐に、基地司令代理の漣、ヒマを持て余した201クルー。
 そして、かつての世界大戦当時にこのブインにて散って果てた英霊さん方(連合・枢軸不問)までもが大潮達と一緒にデバガメしていた。

(いけ、そこだ、やれ井戸少佐! チューだ! そこでえぐり込むようにチューだ!!)
(WoW! そういえば、水野提督とは一度もお外でやった事ありませんネー☆)
(いかんなぁ! 最近の若いもんはけしからんなぁ! もっとやれ!!)

 天龍の上に井戸の影が覆いかぶさる。

(((う、うおおおおおおおおおおおおおおおー!!!)))

 お前らさっさと寝ろ。




 そして翌日の午後6時30分。R-99『ラストダンサー作戦』の開始時刻。
 彼らは、出撃前に撮ったポラロイドカメラ(漣個人の密輸品その2)で取られた集合写真1枚を残し、基地を後にした。
 その写真の裏地には『俺さ、この戦いが終わったら……』だの『ん、今何か物音が……?』だの『こんなブラックな作戦に付き合い切れるか! 俺は天龍と一緒に帰らせてもらう!』だのと言った、あからさまなキーワードの数々が書き殴ってあった。
 これを提案した漣に曰く『これだけ死亡フラグ書いときゃあ、逆に大丈夫っしょ? それに、こんなこっ恥ずかしい写真残して死ねないしねー』との事だった。
 地獄が始まるというのに。
 それを聞いた面々は飽きれるなり苦笑するなりしたが、それでも気持ちが少しは落ち着いたのだから、漣も大したものである。

「メナイ少佐、水野中佐。それでは、また後で」
「応。また後で」
「水野中佐も井戸少佐も、作戦終了後にまた会おう」

 井戸、水野、メナイ。3人そろって不吉3兄弟などとも呼ばれる事もある3人が、そろって一斉に敬礼をした。

「ご、御武運をお祈りいたします!!」
「「「誓って吉報を……って、お前も出撃だろうが!!」」」

 そこから一拍遅れて、輝と深雪が敬礼し、敬礼の代わりのツッコミを返された。
 その場に集まった面々はひとしきり笑い、そして、誰も何も言わずに配置に散っていった。
 遥か数十年後の未来において『鉄底海峡決戦』と称されることになる、超大規模発生源殲滅作戦がとうとう開始された。

 地獄が始まる。






 部隊編成:

 A隊:(リコリス・ヘンダーソン暗殺部隊)
   ブイン基地『天龍(203)』『那珂ちゃん(203)』『大潮(203)』『如月(203)』『電(203)』『深雪(204)』
  ラバウル基地『龍驤改二(TKT)』『絶滅ヘリ “大往生” (TKT)』『羽黒(TKT。遺影のみ)』
 ショートランド『多摩(第八艦隊)』『あきつ丸改(第七艦隊)』

 B隊:(泊地凄鬼攻撃部隊)
   ブイン基地『ストライカー・レントン(201)』『愛宕(201)』『金剛改二(202)』『電(202)』『赤城(203)』『古鷹(203)』『漣』
  ラバウル基地『ラバウル聖獣騎士団』『足柄改 (TKT)』『那智改 (TKT)』『妙高改 (TKT)』『那珂ちゃん(無表情)』
 ショートランド『金剛改二(第八艦隊)』
     輸送艦『ウルザ』『テイザー』『フレイアリーズ』『アドミラル・ガフ』

 C隊:(超長距離支援部隊)
   ブイン基地『201艦隊のストライカー・レントンおよび愛宕以外の全艦艇』
 ショートランド『伊8(第七艦隊。アルマゲドンモード起動済)』
     輸送艦『ダリア』『クリスティナ』『ウィンドグレイス』『ボウ』

 本日の戦果:

 戦闘が発生していないため、双方に戦果はありません。
 
 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上



 本日の被害:

 戦闘が発生していないため、双方に被害はありません。

 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上



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