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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:3aa9db6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/10 22:42
※遅くなってごめんなさい。番外編(tri)です
※いつものオリ設定&トンチンカン軍事知識
※『○×がこんな事言うかよ』とか『△□がこんな事すっかよ』とか『俺の●●がここまで☆☆なはずが無い』な事になってるやもです。ご容赦ください
※筆者の都合により、有明警備府の面々は事前の説明なく追加されたり追加されなかったりします。ご注意ください
※ひょっとしたらグロいやもです。注意

※少佐が二階級特進すると、大佐になりますよね?




 1件の新着メールが届いています。
 動画メールです。


【Extra Opration:『第三次菊水作戦』へのお誘い】(特別参加手当、全額前払い済)

 送信:帝国海軍大本営
 受信:有明警備府第一艦隊総司令官 比奈鳥ひよ子大佐
 本文:

 ミッションの概要を説明します。

 今回のミッション・ターゲットは、南方海域で確認された未確認の新型深海凄艦、ならびにその護衛艦隊の完全撃破です。
 1体はソロモン諸島、リコリス飛行場基地近海で確認された新型の超大型戦艦種。もう1つのターゲットである護衛艦隊は、未確認の超大型飛行種複数を中核とする、きわめて大規模な部隊です。
 目標は現在、旧沖縄近海、坊ヶ崎沖を北上中です。洋上でこれらを迎撃。撃破してください。
 今回は、細かなミッション・プランはありません。全てあなたにお任せします。
 なお、本作戦は複数の提督らとの共同遂行が前提となっております。現時点での作戦参加者とその麾下艦艇の名簿は揃えましたので、必要であれば申請してください。
 彼らと協力し、確実にミッションを成功させてください。

 ミッションの概要は以上です。
 帝国海軍は、帝国臣民の安心と、帝国の安寧のみを望んでおり、その要となるのがこのミッションです。

 貴女であれば、良いお返事を頂けることと信じております。



 ミッションを受注しますか?

 ≪Yes≫ ≪はい≫










「北上ちゃん! ぬいぬいちゃんからデータリンク確認。米倉型短魚雷、発射しちゃって!!」
『あいよー。40門の有線魚雷は伊達じゃないからね、っと』

 私の号令一閃、重雷装艦本来の姿に戻った北上ちゃんの各所に設置された魚雷発射管から、合計40にも上る対潜魚雷が一斉に吐き出されました。
 そしてそれらは、本来の仕様通りにさしたる音も気泡も立てずに海中に沈み、あらかじめ設定された敵目標――――潜水カ級へと進んでいきました。

『提督、魚雷のコントロールはいつも通りでいいの?』
「ええ。気が付かなければそれで良し。気付かれたら、いつも通り、ぬいぬいちゃんの真下まで誘導して」
『あい よー』

 北上ちゃんは普段警備府にいる時のような、気の抜けたような返事を返していましたが、その実有線魚雷の誘導に集中しているようで、いつもの軽口が続いてきませんでした。普段の演習時のように撃ちっぱなしではなく、40発全てのコントロールと対空・対潜警戒をしながらの艦体操作を同時に行っているのですから、負担が重いんでしょう。多分。言葉遣いもなんだかちょっと遅くなっている気がしますし。
 念には念をと思ったのですが、40発の同時制御はさすがに多すぎたんでしょうか。
 そんな事を考えていると、海の上を往く北上ちゃんの前方はるか遠くから、盛大な水柱がいくつもいくつも立ち上りました。

『命中。でも 一匹 にげた』
「まだ爆発してない魚雷は?」
『あ~……あと2本。予定通りぬいぬいちゃんンとこに追い込んでる。おぉーい、ぬいぬいちゃーん、そっち行ったからね~』
『だから北上さん、私はぬいぬいではなくて不知火だと』

 有線魚雷の操作から解放されて負担が軽くなったのか、普段の言葉遣いに戻った北上ちゃんがぬいぬいちゃんに合図を送ります。
 私達のいる海上からはまるで見えませんが、きっと、今現在の海中では、もの凄いデッドヒートが繰り広げられているのでしょう。縦横無尽に追う魚雷らと、それから逃げるカ級の。

『あ、やば。魚雷のワイヤーこんがらがっちゃった。切り離すねー』
「ええ。で、敵は?」
『誘導方式を親機RCよりスタンドアロンに移行。弾頭シーカー冬眠解除。ワイヤーカット』

 北上ちゃんの宣言と同時に、モニタに映っていた2発の魚雷のステイタス画面が『有線』から『自律』に切り替わりました。

「手際が早いわね。流石北上ちゃん。で、敵は?」
『司令、ご心配には及びません』

 通信機の向こうからぬいぬいちゃんの声が聞こえてくると同時に、水平線の向こう側――――ぬいぬいちゃんが待機していたあたりで大きな水柱が立ったのが見えました。

『不知火に落ち度などありません。仕留めました』

 やだ、何この娘かっこいい。
 通信機の向こうから聞こえてくるぬいぬいちゃんの誇らしげな声を聞きつつ、本日の任務――――対潜哨戒任務は無事、成功に終わりました。




「ゔ ぇ゙ ぃぃぃ~……広い湯船、最っ高~……」

 私が思わずそう呟いた拍子に、お風呂場の隅に積んであった木製の手桶の山が崩れて、盛大な音がお風呂場全体に響き渡りました。

「比奈鳥少佐。少佐のようなうら若い乙女に言うのもアレだが、その、何だ。オヤジ臭いぞ?」
「ていうかアンタ、なんでこっちのお風呂に入ってんのよ。今は薬入れてないけどここ、艦娘用の修復槽よ? 提督の個室にシャワールームあるじゃないの。そっち使いなさいよ、そっち」

 ちょうど私を挟むようにして湯船に浸かっていた、長門さんと叢雲さんの呆れたような声など聞こえません。

「あーあー聞こえない聞こえなーい。私だって湯船に浸かりたーいーんーでーすー。ていうかあんな棺桶部屋なんて使いたいくないですー。だって、肘伸ばせないんですよ? 肘」

 みなさんお久しぶりです。有明警備府の比奈鳥ひよ子少佐です。
 プロトタイプ大和2号さんの爆発事故よりはや数ヶ月。もうじき着任1年目を迎える私と、私の指揮する第一艦隊は出撃の頻度が日に日に増えてきました。爆発の影響で湾岸部の防衛システムや海中警戒システム群が全滅し、その隙間を縫って湾内に侵入してきた深海凄艦が近頃やりたい放題です。
 私は、あの事故の事はTVに映っていた記者会見で初めて知ったのですが、自分でも調べてみると、当時の被害の凄まじさが出るわ出るわでした。あの爆発で帝都湾の平均深度が100メートルも深くなったとか今でも信じられないです。

 そして何よりも、当時爆心地付近を航行中だった、西方海域へと派兵されるはずだった方々が例外無く全滅したというのも。

 中東各国やアフリカ大陸の地下資源の海上輸送路の復活を目的とする、第2次西方海域打通作戦こと『パスコ・ダ・ガマ作戦』のために集められた、今期生産分の6割にも及ぶ各種艦娘さん達と、私達のようなインスタントではなく十年単位で軍隊生活を続けてきたガチガチの歴戦の提督さん達、そして、才能有望たると判断されて高度な訓練を積んだインスタント提督さん達。
 彼ら全てが、あの光に包まれて消滅するか、衝撃波でなぎ倒されたりしたそうです。そして、そのシワ寄せで私達にも出動命令が掛かったのです。
 私に課せられた任務は帝都湾内の警備と、対潜哨戒任務の2つだけでしたが、それでも出撃の頻度は日に日に増して行っています。唯一の救いは、横須賀鎮守府や、他の鎮守府の方々の活躍により、例のステルス型を初めとした中・大型種の侵入を許していないくらいのものです。
 因みに。
 因みに、我が有明警備府の第2艦隊の副旗艦である長門さんは、あの光を見た途端にひきつけを起こして昏倒し、目が覚めてから半日ほど幼児退行を起こしていたそうです。
 看病に当たった第3艦隊副旗艦の叢雲さんが笑いながら話していたので、多分本当の事なんでしょう。ビキニがビキニがと泣き喚いていたそうですが、そんなに水着を着たかったんでしょうか。

「確かに、アレは見せたかったわねぇ。私と交代で看病していた秋雲も『我が魂の岸辺飛呂彦が目覚めていくのが実感できるッ! 1日で原稿が8ページも進む絶好調であるッッ!! このながもんちゃんすごいよ、流石ビッグ7のお姉さんッッッ!!!』とか言って、看病がてらバリバリ漫画描いてたくらいだし」

 そう言って思い出し笑いをする叢雲さんに対し、私を挟んで反対側で湯船に浸かっていたながもんちゃん、もとい、長門さんが苦虫を数百匹ほどまとめて噛み潰したような表情で呟きました。

「……ふん。人の失態をいつまでも楽しそうにネチネチと。そんな貧相な根性だから、何時まで経ってもお前の身体も貧相なままなのだ」

 この骨め。長門さんはそう言って手を伸ばし、指先で叢雲さんのあばら骨がかすかに浮いたわき腹を突きました。叢雲さん『あべし』は女の子の上げていい悲鳴じゃないです。

「……本気で力んだら背中に鬼の貌が浮かんでくるようなメスゴリラが何を偉そうに。深海凄艦相手にゲンコツで戦争する気? ていうか、腹筋6つに割れてるような女だから、浮いた噂の一つも無いんじゃないの?」

 この肉め。叢雲さんはそう言って長門さんよりも短い手を伸ばし、二の腕辺りをぐにぐにと弄っていました。うわ、長門さんの腕、見た目はほっそりなのにゴムタイヤ並の硬さじゃないですか。

「何だと。この骨め」
「何よ。この肉が」

 何という事でしょう。平和なお風呂時間が一瞬にして殺伐とした剣呑な雰囲気になってしまいました。
 というかお二人とも、湯船の中で取っ組み合いの喧嘩は止めてください。真ん中にいる私の顔とか目とか鼻の穴とかにお湯が入ってひどいんですけど。
 私は多少の苦笑いを浮かべながらも、お二人の仲裁に割って入りました。

「あの~。お二人とも。そろそろ出ないと、夕食、間に合いませんよ?」
「骨、骨、骨!」
「肉、肉、肉!」

 聞いちゃいねぇよ。
 これが本当の骨肉の争いというやつなのでしょうか。




 ある日の事です。私が廊下を歩いていて共同居間に差し掛かると、長門さんと叢雲さんが頭を抱えていたのが見えました。お二人ともソファの上で膝を抱えて座ってテーブル越しに対面し、両腕で頭や顔を覆って絶望していました。

「……すまない、叢雲。すべて私の責任だ」
「アンタだけのせいじゃないわよ。こんな単純な計算もしなかったアタシにだって責はあるわ」
「? どうなされたんですか、お二人とも?」

 お二人はそこでようやく私の事に気が付いた様で、生気を失い青ざめた顔をこちらに向けました。

「ぁ……あ、アンタだったの。ごめん、気が付かなかった」
「……すまないが比奈鳥少佐。有明警備府の全ての艦娘達をここに集めてくれ。大至急だ」
「え。は、はい」

 長門さんと叢雲さん――――有明警備府の中では、最古参に分類されるお二人のただならぬ様相に気圧されながらも、私は第一艦隊の執務室に向かい、そこでお二人に言われた通りに全館放送を行いました。




「よし。全員揃ったようだな。聞いてくれ……非常に言いにくい事なのだが、聞いてくれ。冷静に、聞いてくれ。どれだけ絶望的なふいんき(※翻訳鎮守府注釈:何故か変換できない)であろうとも、あきらめずに希望をもって、理知的に私達の話を聞いてほしい」

 有明警備府の共同居間に揃った艦娘の娘達と私を見回して、長門さんが言いました。まるで毒入りの盃でも飲み干す直前かのような悲壮さです。あと無駄に前振りが長いです。

「……比叡が、帰ってくる」
「?」「?」「?」


 まるで意味が分からんぞ!?
 とでも言いたげに首を傾げ、疑問に思っていたのが私と北上ちゃんとぬいぬいちゃん――――有明警備府の中では一番の新入り3人組です――――だけでした。
 対する他の方々は、ヒャッホゥイ! とでも叫んでその場で小躍りしかねないほどの歓喜の念を漂わせていました。

(ウチに比叡さんなんていましたっけ……?)

 という私の疑問が顔にでも出ていたのか、夕雲さんと古鷹ちゃんがその疑問に答えてくれました。

「そういえば。比奈鳥少佐はご存じなかったですわね。件の比叡さん、少佐の着任するちょうど一ヶ月前に『今度新しく作る料理の材料採りに行ってくる』って書置き残したっきりで、長期間の単独遠征に出ていましたの」
「比叡さんは凄いんですよ。お料理とっても上手なんです。私、あの時食べた駆逐イ級の目玉(※アイ・イン・ザ・スカイの代用品)入りの千年シチュウをもう一度食べられるなら私……私、平賀中将でも殺してみせます」

 古鷹ちゃん、普段のかわいい系じゃなくてガチで欲情した女の顔してます。
 ていうか恍惚とした笑みを浮かべて両手の指先で頬を撫でる様にして覆い、上気した艶っぽい顔でさらりと親殺しなんて怖い事言わないでください。イメージ崩れちゃいます。
 他の艦娘の娘達の反応を見ても、件の比叡さんについてはとても好評でした。
 何でも、センチュリースープやレンバスの薄焼き菓子、センギア男爵秘蔵の瓶詰めなどの、世界各地の伝説や民間伝承に名を残すようなものの再現料理が特にお上手なのだそうです。調理に熟成の必要がある場合は、お台所の片隅にある軍用の超音波熟成装置とかいうのと、工廠においてある特殊なバーナーで一気に仕上げてしまうそうです。
 ですがそれだと長門さんと叢雲さんの、この絶望っぷりがよく分かりません。お二人が味覚オンチでない事は、いつぞやだったかのお夜食のカツカレー(超大盛り)で証明されていますし。

「……比叡の帰還予定日時は明日――――金曜日だ」











































 沈黙。

 有明警備府の中には、私達の他にも警備の方や憲兵さん(黒服含む)達がいらっしゃるはずなのですが、今この瞬間だけは、恐ろしいまでの沈黙に包まれているように思えました。
 窓ガラスの外の冬の日差しと、平和そうな鳥の鳴き声が、妙に遠くの世界に思えて仕方ありません。

「あの、」
「サヨナラ!!」

 川内再び改善がニンジャ生存本能に従い、全力で飛び込んだ窓ガラスが木端微塵! そしてそのまま川内再び改善は恐るべきニンジャ跳躍力にて警備府正面のフェンスを飛び越え、その前方に広がる海面をニンジャ脚力で疾走し、そのまま水平線の向こうへと決断的速度で逃走。サバイヴ! 実際島風めいてハヤイ!
 一方、第2、第3艦隊の総旗艦である飛龍再び改善と蒼龍再び改善は急性のHKRS(比叡カレー・食わされるのかよ・リアイリティ・ショック)を発症し、音も無く失神していた。座っていたソファに広がるアンモニア臭について追及してはいけない。クウボはお漏らししない。いいね。

「えっ、えっ? あの」
「魔女だ! その女は長門さんじゃない! 魔女が化けているぞ!! 魔女を磔にしろ!!! 火炙りにかけろ!!!!!」

 今までの恍惚とした表情から一変。古鷹ちゃんが恐ろしい表情で絶叫を上げました。
 いつの間にか叢雲さんは姿を消し、秋雲ちゃんはうーうー呻きつつせっかく書き終わった原稿をGペンで病的なまでの執拗さで何度も突き刺し、大井ちゃんは話を聞いたその足で弾薬保管庫に安置してある酸素魚雷の元へと礼拝に向かい、いつの間にか中世ヨーロッパの村娘風の衣装に着替えていた夕雲さんは消火作業用の手斧を片手に異端審問官めいた恐るべき表情で長門さんに突撃しようとしていました。ボロ布巻いた松明や使い込んだ感のある農作業用のフォークや鍬まで用意してあるあたり芸が細かいです。
 他の娘達も、大体似たような感じのパニック具合でした。

 いったい何がどういう事になっているんでしょうか。
 突如として発狂した有明警備府の面々はそこいら中を駆け回ったり、手当たり次第に長門さんに物ぶつけたりしています。当の長門さんもただ黙って受け入れているだけです。流石に振り下ろされた手斧は白羽取りして奪い取っていましたが。
 私は当然として、北上ちゃんとぬいぬいちゃんもまた、この流れについて行けずに混乱していました。そして、いつの間にか私の背後に立っていた叢雲さんが私達三人に説明してくれました。

「……あー。アンタらは知らないんだったわね。ウチの比叡は、確かに料理上手なのよ。特級調理人クラスの腕前なのよ」
「え。だったらどうして、こんな……?」
「でも、でもね。カレーだけは駄目なの。カレーだけは、作らしちゃ、いけないの」


 ――――闇鍋もそうですけど、カレー粉ブチ込んだら大抵は何とかなりますよね! 新しい味を探すにはもってこいです!!


「……って、いろいろ冒険してくるのよ。金曜日には。カレーの日には」

 それお料理で一番やっちゃいけないパターンです。
 カレー粉ブチ込んだ程度じゃどうにもならないのよ。と叢雲さんは死んだ魚のような眼で乾いた笑いを漏らしていました。

「魔女め! 拷問だ! 兎に角魔女を拷も……いや、ウ=ス異端審問に掛けろ! 白く清めて世界の破滅を防――――」
「そんな、皆さん大げさな」

 先程からおっかない形相と暴言を連発する古鷹ちゃん達が私の一言で凍りつき、目を見開いた表情でこちらを見ました。

「何だったら、一番最初に私が食べてもいいわよ。カレー」


         !?


 その一言を言った瞬間、長門さんは救われたような表情になり、続いて、そんな自分を恥じるかのように俯き、悔しさと恥ずかしさのあまりに唇の端を噛みちぎっていました。
 暴走していた娘達からは得体のしれない化け物でも見るかのような、あるいはキ(自主規制)イでも見たかのような視線を向けられました。だから夕雲さん、いつの間にシスター服に着替えたんですか。ていうか私に純銀製の十字架突きつけてどうしようって言うんですか。
 たかがカレー1つで大げさな。どうせ思い出補正で色々とすごい事になってるだけなんでしょ。その時はまだ、北上ちゃんもぬいぬいちゃんもそう思っていました。
 ……私を含めて。




「作戦が完了! 比叡、帰投しました!」

 有明警備府に帰投した比叡さんを出迎えるために、私達はコンクリート製の係船岸壁に一列に並んで待機していました。
 初めて見た比叡さん――――というか戦艦は、とても大きかったです。
 男の人はよく、戦艦とか戦車とか鍋島Ⅰ~Ⅴ型を見てカッコいいだとかキュートだとか言いますけど、私にはよく分かりません。ですが、戦艦としての比叡さんはとても強そうだという事だけは一目見て分かりました。こんな強そうな戦艦が何百何千と生産されて、世界中の戦線に配属されているんです。絶対深海凄艦になんか負けるはずが無い。ごく普通にそう思えました。
 一瞬の閃光に包まれ、人の姿に戻った比叡さんが大地の上に立ち、私の方を見て不思議そうな目をしました(※翻訳鎮守府注釈:艦娘状態はあくまでも圧縮・保存状態です。戦闘艦の方が本来の姿です。あしからず)。
 短く整えた茶色の髪の毛、巫女さん服のような白い上と金の飾り紐、タータンチェック模様のミニスカート、背中から伸びるⅩ状の艤装とその先端に取り付けられた主砲。目鼻顔立ちも艤装の形状も違うはずなのに、どことなくプロトタイプ金剛と似たような雰囲気を持った艦娘でした。

「あれ? 知らない人だ。音鳥少佐と面鳥提督は? 尾谷鳥少佐は?」

 音鳥少佐と面鳥提督――――第2艦隊と、比叡さんの所属する第3艦隊の司令官ですね。
 尾谷鳥少佐というのは、私がまだ第4だった頃に第1艦隊を率いていた提督さんの事ですね。私もとてもお世話になりました(※翻訳鎮守府注釈:ご迷惑をおかけしました の誤字かと推測される)。
 私が何か言おうとするより先に叢雲さんが一歩前に出て、黙って首を横に振りました。それで察したのか比叡さんは、顔を歪めて何かを言おうとして何度も言葉に詰まり、それでも何とかたった一言だけ『そっか』と呟きました。

「後で詳しい話聞かせてね。で、この人達は?」
「は、初めまして! 第1艦隊総司令官の、比奈鳥ひよ子少佐です! 第4艦隊から再編成されました!」
「あ、どーもー。元第4の軽巡、北上です」
「不知火です。比奈鳥司令官、北上さんと同じく第4艦隊からの移籍です」
「第4? ……あー。ひょっとして、私と入れ替わりで新設されたって事ですね。初めまして。プロトお姉さまの妹分、比叡です。所属は第3艦隊です」

 プロトお姉さま――――プロトタイプ金剛の事でしょう。
 私が一番に敬礼し、続けて北上ちゃんぬいぬいちゃん、そして比叡さんが敬礼を返しました。
 一応、階級だけなら私が一番上なんですけど、軍隊生活は私が一番短いので敬礼とかは私が一番先です。ああ見えて北上ちゃんやぬいぬいちゃんも昔の船だった頃の記憶が染みついていますから、勤続年数は実質ウン十年ですし。

「兎に角、ここで立ち話も何だろう。警備府の中で話そう」

 長門さんの促しにより、比叡さんも私達も木枯らし吹き荒ぶ港湾部から一路、暖房ヌクヌクの警部府内への帰路につきました。

「あ、長門さん、先にシャワー浴びてきても良いですか? 久しぶりに帰って来たんで、垢落としたいんです」
「……いいだろう。私もついでだ。一緒にシャワーを浴びるとしよう」





 比叡さんは、強い人でした。
 ご自分の提督がどういう最後を辿ったのか。それを聞いて、警備府の裏に建てられた空っぽのお墓を見ても、少し涙ぐんで鼻声になっただけで、すぐに元の力強い笑顔に戻りました。もしも私だったら、北上ちゃんやぬいぬいちゃんのどちらと死別するようなことになったら、きっと、立ち直るのにとても時間がかかってしまうと思います。そういう意味でしたら、比叡さんは本当に強いお方です。

『星にも負けぬ数多のレシピ~、その数100億☆ 月よりしたたかな手さばきで~♪』

 薄壁一枚で隔てられたキッチンからは、比叡さんの楽しそうな歌声と、ぐつぐつにゃーにゃーと何かを煮込む音が聞こえてきます。
 そんなお強い心の持ち主である比叡さんのカレーです。きっと、素晴らしいものになるでしょう。

『太陽曰く煮えたぎれ大鍋! 私にふさわしいソイル……じゃなくて食材は決まった! 今宵は三日月、なので太陽蘭の実を豪華特盛3つもIN! 続けて黄金エビと太陽酒を目分量でぽぽいのぽい。最後に皮を剥いたエレキバナナと濃縮ネオソラニンをお鍋にどぼーんしちゃいます! 後は沸騰するまでお鍋をぐるこんするだけど、それだとつまんないし何を入れよっかなー。うーん……ちょっとエグ味強そうだし、お土産で貰ったカンパリ玉(夢味)で甘味つけて、あとは小麦粉か何かでとろみをつけて誤魔化そっと』

 ……たぶん。

「おお、おお、我が守護天使よ。我が希望の天使アヴァシンよ。貴女はいつまで獄庫の中でグリセルブランドと乳繰り合っているのですか。さっさと解放されてきて無敵の呪い黙らせで何とかしてくださいよぅ……」

 中世ヨーロッパの村娘風の衣装に着替たままの夕雲さんはテーブルに肘を付き、土気色になるまで青ざめた顔で両手を真っ白になるほど固く握りしめて一心不乱に異次元の大天使に祈りを捧げていました。その隣に座る大井ちゃんや古鷹ちゃん達も青ざめた顔で俯き、ガタガタと無言で震えていました。
 秋雲ちゃんは遺書のつもりか、いつも使っているGペンで自分の頬に『チラ裏の1ページ目に『嗚呼、栄光のブイン基地』が上がっていた → 最新話のページをクリックした → 今日の夕食当番は比叡さんだ。金曜日だ。どうしよう → 駆逐艦『秋雲』も殺された → 成長した比叡カレーに殺された』と書き殴っていました。
 他の艦娘の娘達もこの3人と大体同じようなリアクションを取りながら、テーブルに付いて待っていました。中には鼻声で『死にたくないよぅ』とグズる娘までいました。
 長門さんと叢雲さんは慣れたもので、ごく自然体で椅子に座って、この場にいないプロト金剛とプロト足柄と川内ちゃんにどれだけカレーを押し付けるかを相談し合っていました。
 たかがカレー1つで大げさな。
 つい先ほどまではそう思っていたのですが、キッチンから漏れ出る比叡さんの独り言を聞くからするに、何だか洒落になっていない気がします。

(私、いっぱい食べるって言っちゃったけど、大丈夫よね……?)
「はい、お待たせしました~! 比叡特製カレー、完成です!」

 私がかすかに不安に思っていると、大鍋を両手で掴んだ比叡さんがこちらに来ると同時に、誰かの――――あるいは全員の引き攣ったような小さな悲鳴が聞こえました。
 椅子に座っている私からは見上げる形になるので鍋の中身は見えないのですが、音と匂いはごく普通のカレーであるように思えました。

「これが、これが今回の比叡カレー……え?」

 戸惑いに包まれた長門さんの呟きを裏付けるかのように、私達の前に置かれたカレー鍋の中には、ごく普通のカレーが収まっていました。気になるところと言えば、加熱し過ぎたのか時折ポコポコと泡を吹き出しているくらいのもので、それ以外はごく普通の色と見た目と香りのカレーでした。

「あれ? 普通……?」
「私が食べた時は、もっと青味がかってたのに……」
「カレーに擬態するとは、面白そうね。味もみておこ……いや、やっぱやめとく」

 比叡さんごめんなさい。私も先程の比叡さんの独り言から、いったいどんな物体Xが運ばれてくるのかと戦々恐々してました。

「……問題は味よ、味」

 叢雲さんが漏らしたその呟きで、有明警備府所属の艦娘達(ただし比叡さんは除く)の視線が私に集中しました。
 ――――言い出しっぺなんだから、お前最初に行けよ、お前。
 何だか、そう言われているような気がしました。

「い、いただきます……」

 意を決してスプーンでカレーを掬い、口の中に押し込みます。
 ……辛いです。
 辛(つら)いじゃなくて辛(から)いです。ちょっと辛いだけで、後はごく普通に美味しいです。お米の炊き上がりも私好みのチョイ硬めですし、大きめの角切りにされたニンジンやジャガイモも、中までしっかり火が通ってて実は生焼けでしたー。とかそういうオチでもなかったです。
 比叡さん以外の誰も彼もが、何か信じられない物を見る目で私を見ていました。

「ひ、比奈鳥少佐? その、大丈夫なの……か?」
「か、身体大丈夫!? 無理しなくてもいいのよ!? 辛(つら)いなら辛(つら)いって、ハッキリ言わなきゃ駄目なんだからね!?」

 まったく。長門さんも叢雲さんも大げさすぎますよ。
 ほら、古鷹ちゃんもこんな薄暗い通信室にこもって書類仕事なんかしてないで、食べてみなさいよ。どれだけ美味しいか分かるから。

「は?」
「あ、あの提督? 私、今日の分の書類は全部終わらせちゃいましたけど……ていうかここ、共通居間なんですけど……?」

 あ、提督さん達だ。いっけなーい☆ 会議、もう始まっちゃっていたんですね。すみません、遅くなりましたー!
 うわ~、何ですか、この深海凄艦。え? 龍驤さんの遺した情報? ハワイの鬼? 北の荒球磨みたいな名前持ちなんですかー。へー。すごいなー。憧れちゃうなー。

「ひ、比奈鳥少佐……?」
「……ちょっと。これ、ヤバくない?」
「へぇ~、人ってこんな表情でラリるんだ。スケッチしとこー」

 すごいといえばこの図書館も凄いですよね。視界の端から端まで全部本と本棚で覆いつくされていますし。……え? そうなんですか!? 石版の破片まであるんですか。
 あ、ごめんなさい。私、次のカムパネルラ駅で降りなきゃです。今日の書類仕事があと1枚だけ残っているんでした。今度、少し遠出して小笠原諸島の三土上島っていう、人工島まで物資の補給遠征に逝くんですよ私。任務受領書にサインしなきゃ。ところで私は本を探さなければならないんですが。ご存じ、ないのですか!?

「だ、誰か医務室の先生呼んできて!!」
「ひよ子少佐、しっかり! しっかりしてください!!」
「衛生兵、衛生兵ー!!」





 2014年最後のうpにしようとして、気が付けば1月になっていました。解せぬ。そして社畜に年末休暇&正月休みなどありませんでした。ファッキン解せぬ。忌念の艦これSS

 嗚呼、栄光のブイン基地(番外編)
『有明警備府出動せよ! ~ 本物の深海凄艦』





 ある日の事です。
 重雷装艦本来の姿になった北上ちゃんに乗って海の上を往く私の手の中には、見慣れない書類が一枚ありました。タイトルにはこうありました。

『太平洋戦線、ミッドウェー島守備隊への物資輸送・回収艦隊の護衛任務に関する要綱』

 おかしいです。おかしすぎます。
 私がこの間サインしたのは小笠原諸島の三土上(みどうえ)人工島への補給任務であって、ミッドウェーだなんて――――太平洋戦線だなんて!――――そんな最前線中の最前線への補給任務ではありません!
 しかしサインの筆跡は確かに私のものですし、これは一体どういうことかと警備府の娘達に聞いてみても、誰も彼もがお茶を濁したかのような苦笑いを浮かべるだけですし。

「本当、一体いつサインなんてしたのかしら。ねぇ、北上ちゃん?」
『まあ、その書類は……そう、まあ……そうね』

 ほら、ちょうど今の北上ちゃんのように。

『司令、ここまで来てしまっては過去にこだわるのはもう止した方がよろしいかと』
『そだねー。ぬいぬいちゃんの言う通りだねー。提督、もー腹くくっちゃいなよ。島見えてんだし』

 北上ちゃんとぬいぬいちゃんの言葉に、私はため息で返事を返しました。

「解ってるのよ。わかってるけど、ねぇ……けど、何て間の悪い。古鷹ちゃん達が来れないなんて」

 そうなのです。この任務に参加できたのは、旧第4艦隊のメンバーこと、北上ちゃんとぬいぬいちゃんの2人だけなのです。
 古鷹ちゃんやプロト足柄を初めとした旧第1艦隊の面々は現在、ブラ鎮(※ブラック鎮守府)潰しの応援に呼ばれたために遠征中です。私も参加していたブリーフィングによれば、かなり大掛かりな制圧作戦だったと記憶していたはずなので、準備だけでも2~3日で終わるようなものではないはずです。
 飛龍さんと長門さん率いる第2艦隊もそちらの作戦の主力部隊として参加していますし、蒼龍さんと叢雲さんの第3艦隊には帝都湾内の警備&対潜哨戒という重要な任務を引き受けて頂いてしまっているので、人員を割いてもらうなんて事は出来ません。
 そして、私達が守るべき輸送船団は、20隻にも及ぶ大船団です。
 私達の他にもノーマル巡洋艦『とみか』を中核とした護衛艦隊の方々もいらっしゃいますが、それでも絶対的に護衛の数が足りていません。

「たった5隻でどうやってこの数を護衛しろっていうのかしら……」
『今まで敵と遭遇しなかったんだし、良いんじゃないのー?』
『そちらの『北上』の言う通りですね。出会わないに越した事は無いですよ』

 巡洋艦『とみか』――――正確にはノーマル式巡洋狙撃艦とみか型1番艦『とみか』の艦長さんからの通信でした。

『元々、私が受けた任務は物資補給よりも、物資回収の方がメインでしたから。帰りもこうであってほしいものですね』
「それもそうですけね」

 けど、何で私はこんな所にいるんでしょう。と『とみか』の艦長さんの言葉に心の中でため息とセットで返事をすると、再び前方を見据えました。
 ミッドウェー島、到着です。




 ミッドウェー島は、サンゴ礁島の上に正三角形状に配置させた3つの直線の滑走路が特徴の、小さな島です。
 正確に言えば、その滑走路のあるイースタン島を含めた諸島群の呼び名なんですけど、まぁ、細かい事は良いですよね。どうでも。
 何が言いたいのかというと……暑いです。むしろ熱いです。本土ではもう真冬なのに、どうしてここは真夏日なんでしょうか。厚着して、コートまで着てきた私がバカみたいじゃないですか! 日陰、日陰どこ!?
 そんな汗ダクダクの状態で島に降り立ち、すぐに日陰に避難した私を出迎えて下さったのは、2人の艦娘でした。背の高い方と、小っちゃくて破廉恥な格好をした娘。
 背の高い方が私に声をかけてきました。

「初めまして~。貴女が輸送艦隊の司令官さん?」

 何処かおっとりとしたような雰囲気の声と顔。機械化された天使の輪。首のあたりで整えた黒のショートヘア。黒を基調とした、どこかのファミレスのような制服。
 艦娘式天龍型軽巡洋艦2番艦『龍田』
 それがこの艦娘さんの正式な名前です。

「左手での敬礼失礼します。ミッドウェー島帝国側守備隊、第2独立混成水雷戦隊旗艦の龍田です。基地司令は戦死、提督も現在療養中ですので、暫定的艦隊総司令代理として私が参りました~」

 左手ひとつで敬礼をするその龍田さんには、右腕がありませんでした。失礼だとは分かっていますが、そちらについ目が行ってしまいました。

「? ああ、これですか~。修理用の鋼材は無かったけど、修復触媒(バケツ)はまだ少し残ってたから、右足の修理に使ったんですよ」
「え」

 絶句する私を余所に龍田さんは無い右腕をひらひらと振りながら、あははははと随分と朗らかに笑っていました。
 最前線なのに、資材が無いって、どういう事なんでしょう。

「利き手が無いのはちょっと戦いづらいけど、天龍ちゃんを守れたんだから、私はそれでいいのよ。ねぇ天龍ちゃん」

 そして龍田さんは、すぐ後ろにいた別の艦娘の娘に話しかけました。
 黒いウサ耳リボンを付けた、ものすっっっごく破廉恥な格好をした女の子。駆逐艦娘の『島風』ちゃんでした。

「……龍田さん、私、島風です」
「? あ、あら。ごめんなさいね~。また間違えちゃった。ところで、天龍ちゃんは何処に――――」
「と、ところで! 提督さん、補給物資持ってきたんでしょ!? 交換用のタービンある!? 島風、もうタービン周りを気にしながら戦うの飽きたの! 全速力出したーい!」

 島風ちゃんが何かを誤魔化すかのように、龍田さんの言葉に重ねて大声で私に物資の引き渡しを急かしました。
 多分、あの龍田さんが言おうとしていた事は、あまり他人には聞かれたくない事なのでしょう。
 私はポケットの中から業務用として支給されたスマートフォン(レプリロイド・ジュノ=モデル)を取り出し、あらかじめダウンロードしておいた納品リスト.pdfを開いて検索を掛けました。
 hit件数1『交換用備品:艦娘用タービン EMS-10(ヅダ社)』
 おそらくこれの事でしょう。

「……ええ。リストの中には入っていたから大丈夫よ。今、そっちの担当さんが納品チェックやってるから、それ終わるまで待っててね」
「タービンヤッター!!」

 島風ちゃんがその場で飛び跳ね、全身で喜びを表します。龍田さんは微笑ましそうにそれを見守っています。

「な、なァ、アンタ……」
「うひゃっ!?」

 島風ちゃん達の方に目と意識を向けていた私の背後から、突然声を掛けられました。言葉は確かに帝国語でしたが、どことなくイントネーションが変な感じでした。
 振り返って見ると、そこには、随分とくたびれたネイビー・ブルーの野戦服に身を包み、所々塗料の剥げた部分を上塗りした痕跡がいくつも残るケブラー樹脂製のヘルメットを頭に被った外国人の男性の方々がそこにいらっしゃいました。
 白人、黒人、プエルトリカン、それ以外にも様々に。
 私に声を掛けたのは、最前列にいた白人の大尉さんのようです。ですがこの方も後ろの隊の方々にも、何だか覇気が見えません。先程の龍田さんや島風ちゃんとは正反対です。

「あ、あの。あなた達は……?」

 言ってから気が付きました。こんな多種多様な人種で構成された軍隊なんて、世界広しと言えども一つしかありません。
 もっとも、向こうの方も私に声をかけてから気が付いたようで、一度私の顔を見て『何だこのガキ?』とでも言いたげな顔になり、続いて肩の階級章を見てギョッとした様に目を見開き、即座に敬礼をしました。
 こうみえても私、佐官なんですよ?(※翻訳鎮守府注釈:インスタント佐官です)

「? ……ア! し、失礼しました少佐殿! 自分は合衆国海軍太平洋艦隊所属、ミッドウェー島合衆国側守備隊隊長、サム・アンクル大尉であります」
「帝国海軍、有明警備府第一艦隊総司令官、比奈鳥ひよ子少佐です。ところで、私に何かご用でしょうか?」
「アッハイ。少佐殿、ブシツケナお願いで申し訳有りませんが……少佐のお持ちした補給物資の中にアイスは、アイスクリームはありませんか?」

 アイス?
 大の大男が、アイスクリーム?

「少佐殿」

 そう思ったのが顔に出ていたのか、アンクル大尉(と後ろの合衆国海軍下士官'sの方々)が、血相を変えて詰め寄りました。口調こそ荒くも何ともなかったのですが、妙な迫力があった事と、図体が大きかっただけにかなり怖いです。

「少佐殿。良いですか? アイスは、ただの嗜好品ではありません。我らステイツのソウルフードです」
「え」

 困惑する私を余所に、アンクル大尉以下、合衆国側守備隊の面々がまくしたて始めました。

「そうであります! 我々にとってアイスとは、帝国人にとってのミソ・ペーストやソイ・ソースなのです」
「ノーアイス・ノーライフ! 糖尿制限なんてクソ喰らえであります!!」
「ていうか前回――――半年前の補給の時にやって来た本土(ステイツ)の補給隊に帝国の連中が『ミソをくれーミソ置いてけー』ってゾンビみたいに這い寄ってたであります!」

 え。
 今、この方達は、何気に洒落にならない事を口走りました。

「ちょ、ちょっと待ってください! 前回の補給が半年前って!? 貴方達、合衆国の軍人さんでしょう!?」
『やったぞ! アイスだ!! アイスクリームが入ってた!!』
「「「Mam! Yes,mam!」」」

 納品チェックをやっていた方の叫び声が聞こえた途端、何故か合衆国の皆さんが一斉に――――アンクル大尉達だけではなく、海を挟んで向こうにあるスピット島やサンド島にいた方々までもが――――隊列を整え、私に対して一糸乱れぬ敬礼をしました。
 対する私も思わず反射的に敬礼を返してしまい、そして、それから思わずこう叫んでしまいました。

「合衆国が補給で困ってるって……どれだけ人類追い詰められているんですか!?」
『みんな喜べ! バニラやチョコチップだけじゃない! トスケ・キガワのペパーミントまで入ってたぞ!』
「ウィザードヤッター!!」
「ざまぁみさらせブインのクソぼったくり共! もうテメーらンとこの粉末アイス(1袋100g入り。末端価格:龍田のソックス~青天井)の世話になんてならねーからな!!」
「でも給油担当のミス・アカギはいつでも来てねー! 油何時でも足んないし、給油パイプ挿入れた時の声がエロいからー!!」

 物量万歳の合衆国が、正面からの物量戦で押されている。
 そんな私の驚愕の叫びなど、爆発する彼らの歓声にあっさりと掻き消されてしまいました。何で皆さんヘルメット一斉に放り投げるんですか。ブリテンの卒業生か何かですか。あなた達は。
 あ。そう言えば。

「『とみか』の艦長さんが言ってた、この島から回収する物資って何なんでしょう? ここ、逆に物資が不足しているようにしか見えないんですけど……」

 滑走路脇に待機しているジェット戦闘機群でも持ち帰るんでしょうか。それとも、機密文章か何かの受け渡しでもあるんでしょうか。
 アンクル大尉達にそう聞いて見たところ、深夜の通販番組に出てくる怪しげなMCのように『HAHAHAHAHA!』と無駄に爽やかな笑顔で笑われてしまいました。アイス取り上げますよ?

「Lieutenant commanderヒナドリ。貴女はジョークがお上手だ。後ろを向いて、それから上を御覧ください」

 後ろ? 上?
 いつの間にか艦娘状態で私の背後に立っていた北上ちゃんとぬいぬいちゃんらと共に、上を見上げました。
 今、私が立っている日陰を作り出しているモノがそこにありました。大きな岩か何かだと思っていたのですが間違いでした。何で今まで気が付かなかったんでしょうか。

「わ……」

 軋む金属の音。風に舞い上げられた砂に交じる赤錆の粉末。強烈な日差しを後光に受け、真っ黒な影としか認識できなくても分かる存在感。
 目が光に慣れると、ほとんど横倒し同然までに傾いだその影の中には、ほぼ完全に錆びつき、無数の亀裂と断裂が走り、所々が剥げ落ちたりひしゃげたりした装甲板があった事に気が付きました。そしてささくれ立っていたとはいえ、隅っこに寄せた艦橋以外には余分な物など何もない、一面真っ平らな飛行甲板の存在にも。
 正規空母の、残骸。

「帝国海軍、第一航空戦隊旗艦『赤城』」

 誰かの声に振り返るとそこには、私と同じ帝国人が立っていました。

「艦娘じゃない、本物の一航戦ですよ」

 インスタント軍人かつ女性である私からみても、およそ鍛えているとは思えないひょろひょろとした手足。無精ヒゲだらけの痩せこけた頬。ボサボサの寝癖が付いたままの白髪交じりの黒髪。お洒落なんぞクソくらえと暗に言っているかのような黒縁メガネには牛乳瓶の底のように分厚いレンズがはまっていました。顔のつくりからして、おそらくは20代後半から30代前半だとは思いますが、妙に老け込んで見えます。
 服装も明らかに私服と分かるTシャツ(アニメプリント入り)と短パンにビーチサンダルという、軍人だったら誤魔化しようの無い服装規定違反でした。
 もう、一目見ただけで分かるダメ人間スタイルでした。
 ですが、そのダメ人間はTシャツ(アニメプリント入り)の上から白衣を羽織っており、そのダメ人間の周囲には、まるで四つ子にしか見えない屈強なボディーガードと思わしき人達が威圧感全開で待機していました。

(あ、こちらの人達は見た事あります)

 憲兵さん達の詰所でたまに見かける、黒服さん達です。黒で統一された角刈りとサングラスと上下のスーツとネクタイまで一緒ですし。
 そんな黒服さん4人に四方を挟まれたダメ人間が、ズレたメガネを指で直しながら口を開きました。

「TKT。正規空母開発担当の塩バターラーメン技術大尉です」


 いっそ隠す気の無い偽名にはある種の清々しさすら感じられました。


「あ、有明警備府、第一艦隊総司令官の比奈鳥ひよ子少佐であります」

 TKT――――Team艦娘TYPE。
 聞くまでもありません。アイドルグループの方ではなくて、都市伝説ならぬ鎮守府伝説でまことしやかに囁かれている、研究チームの方でしょう。

「今回あなた達に本土まで曳航していただきたいのはこの『赤城』です。他の空母機動部隊――――『加賀』『蒼龍』と共に海底から引き揚げてここで応急処置を施して、本土まで自力航行させる予定だったのですが……最近になってこの辺りの戦況もかなり不安定になってきました。ですので、急遽として回収部隊を派遣して頂いた次第です」

 最初に送り出した『蒼龍』は護衛部隊の全滅と引き換えに前半分だけは無事本土に辿り着いたが、2回目に送り出した『加賀』は航行中にちょっとした “事故” で鹵獲されてしまいました。と塩バターラーメン技術大尉は続けました。

「あと『飛龍』は行方不明のままですし、最後に残ったこのサンプル、もといこの『赤城』をみすみす手放すのもアレです。本土まで運んで、腰を据えてからじっくりと研究することにしたんですよ」
「? あの。技術大尉? ちょっと分からない事があったんですけれど……」
「何でしょうか? 機密に触れる物でなければ何なりと」
「ありがとうございます。えとですね。どうして、深海凄艦が、空母の残骸なんて欲しがるんですか?」
「えっ」
「えっ」

 塩バターラーメン大尉は、大きく目を見開いて、私の顔をまじまじと見つめました。
 その表情には見覚えがあります。比叡さんのカレーを食べて『美味しい』と言った時に見せた、有明警備府の艦娘の娘達と同じ表情です。

「え……何でって、そりゃあ、深海凄艦は――――」

 塩バターラーメン大尉が何かを言おうとした瞬間、大音量のサイレンがミッドウェー諸島の全域に鳴り響きました。

【空襲警報! 空襲警報! 定期哨戒中のカンムス『霧島』およびノーマル戦艦『サウスダコタ2』より緊急入電! 巡回ポイントN-3にて、ミッドウェー島に向けて南下中の敵航空部隊を捕捉! 総数およそ2000、なおも増加中!『霧島』『サウスダコタ2』は阻止砲戦を開始! 防空部隊、ただちにスクランブル発進せよ!!】

 その警報を聞いてから5分もしない内に、島の付近に待機していた合衆国のミサイル駆逐艦達からは次々とスタンダード対空ミサイルが撃ち上げられ、続けて基地滑走路から次々とジェット戦闘機が飛び立っていきました。
 私はあまり詳しくないのですが、実戦で運用されているジェット戦闘機なんて、映画の中でしか見た事ありません。
 ですが、映画通りなら、プロペラ戦闘機と同程度の速度しか持たない深海凄艦の飛行小型種になんか負けるはずがありません。

「ガンバレよぉ~!」
「今日はお客さん来てんだ、カッコ悪いとこ見せんなよ~?」
「どうせ今日も数だけだ! 俺のメンテしたEJ-24に傷付けたらテメーの脳味噌、ヤスリ掛けしてやっからなー!!」

 整備士達は戦場に飛び立っていった飛行機乗り達を帽振りで見送った後、彼らの帰還に備えて給油装置の安全確認や、緊急消火用の装備や医療用担架の準備と点検を始めていました。この島の防衛部隊でもある帝国陸軍の方達は、ネットと草木で擬装した鍋島Ⅴ型や高射砲台を起動させて、静かに待機していました。歩兵部隊の方もライサンダー狙撃銃やゴリアス・ロケットランチャーを構えて砂浜に掘られた擬装タコツボの中に身を潜めていました。
 アンクル大尉ら合衆国陸軍も、機甲部隊は戦車やメック歩行戦車に搭乗しており、歩兵部隊の方も、物陰や半地下式トーチカ群に隠れて歩兵用の携行ミサイルランチャーを構えて待機していました。見れば海の上には、いつの間にか戦闘艦の姿になった島風ちゃんや龍田さん達がハリネズミのように装備している対空兵装の全てを北の空に向けていました。
 先程までの喧騒が嘘のような、寄せては返す静かな波の音と、風に揺れて擦れる草木のざわめき以外には何の音もしない、口の中がひりつく静寂だけがここにはありました。
 それからおよそ3分ほどして。

【ミサイル着弾まであと10秒! 9、8、7、6、5、4、3、2……Impact, Now!!】

 北の空で小さな光がいくつもいくつも光り、それからしばらくして微かに爆発音がこの島まで届いてきました。

【ミサイルは全弾直撃、なれど効果微小! 防空部隊、交戦領域に突入!】
「司令官、ここは危険です」
「そだねー。私らも海に出るか、何処かに隠れた方が良いかもねー。あ、無線傍受できたよー」

 ぬいぬいちゃんと北上ちゃんに促されましたが、私は迷ってしまいました。
 逃げる? 隠れる? どっちが正解なの?
 逡巡する私を促そうとした北上ちゃんが急に顔をしかめ、真面目な表情になって私を急かしました。傍受した通信先で何かあったようです。

「……提督、ヤバイ。防空部隊がガンガン押されてる」
「北上さん、それは本当ですか?」
「うん。白いタマネギだかタコヤキだかに目と耳と口をつけたみたいな新型だって。ミサイルも機銃も当たるけど、それこそタマネギの皮剥くみたいに、次から次へと新しい装甲が再生してきて、なかなか落とせないみたい。あと、高速飛行中に後ろを向いて銃撃したり、ホバリングしての機銃掃射も自由自在みたい」
「何ですかそれ。どこの異邦人のUFOですか」

 北上ちゃんとぬいぬいちゃんのやり取りを聞いて、私は決心しました。
 逃げも隠れもしません。討って出ます。ていうか、こんな状況では海に出てもただの的でしょうし、そもそも、小さくて平べったいミッドウェー島にはまともに隠れられる場所が無いじゃないですか。

「……私達も海上に移動するわよ。ぬいぬいちゃん、あっちで『展開』して私と北上ちゃんを乗せて対空戦闘用意。最悪の場合は『超展開』して、とみかの艦長さん達と一緒にあの『赤城』を沖まで引っ張っていくからね」
「了解しました」
「あれ? 私は出撃しなくていいの?」
「酸素魚雷の誘爆が怖いから。あと、対空装備ならぬいぬいちゃんの方が充実してるから」
「なるほどねー。了解です」



【敵機第一波、目視確認!!】

『展開』を終えたぬいぬいちゃんの艦橋内に私と北上ちゃんが乗り込んだまさにその時、島の各所に配置された高射砲や、ミサイル駆逐艦に搭載されているCIWSや主砲が一斉に火を噴きました。もう既に、ミサイル防空圏も高射砲の弾幕圏も突破されており、各艦個別の迎撃態勢に入っていました。
 先の龍田さんや島風ちゃんもすでに移動と攻撃を開始していました。
 お二人の艦体各所に設置されたバルカンファランクスが、レーザービームのような勢いで砲弾を吐き出しています。

『司令官! 龍田さんからデータリンク来ました! す、凄い数です……』

 ぬいぬいちゃんの声にレーダーを見てみると、前方全てが真っ赤に染まっていました。試しにレーダーを2D表示から3D表示にしてみると、赤い光点は全て上空に移動しました。
 これら全てが、深海凄艦の飛行機部隊なのです。

『ミサイルおよび航空部隊による撃墜率が20%を切っています。ミッドウェー島守備隊の攻撃も、あまり効果が無いように見られます』
「戦艦や重巡の三式弾は?」
『効果無し。敵新型の新陳代謝が活発で、ナパームが染み込むよりも先に、新しい表皮に生え変わるとの事です』

 冷静沈着がウリのぬいぬいちゃんですら、声に震えが混じっていました。無理も無いと思います。
 誘導ミサイル、機銃、熱火炎兵器。
 つい昨日まで有効だったはずの対空兵器の悉くが無力化されたのです。次に待っているのは一方的な蹂躙です。平静でいられるはずがありません。
 大口径砲の直撃ならもしやとも思いましたが、そんなの現実的じゃないとすぐに考え直して頭の中から消し去りました。空を飛んでる飛行機に大砲の弾当てられるのなんて、平家物語の那須与一くらいのものだと思います。

「ぬいぬいちゃん。こっちも弾幕張りながら移動開始! 加勢するわよ!!」
『了解! ……航空機など、一機残らず叩き落としてやる』

 そう小さく呟くとぬいぬいちゃんは急加速を開始。そして『展開』時の余剰エネルギーを利用して顕現させていた妖精さん達を配置につかせると、猛然と攻撃を開始しました。
 私の艦隊に所属するぬいぬいちゃんにはバルカンファランクスやゴールキーパー砲などは搭載されていませんが、何かと信頼性の高い事で有名なCOG社のトロイカ・マシンガン(※オムラ社がライセンス生産)を3つ並べた25ミリ3連装機銃を各砲座に配置してハリネズミのように武装させてあります。見てくれこそ70年前とそう大差無いですが、中身が違うんです。中身が。

『あら~、あなた達も加勢してくれるの?』
『援軍は嬉しいけど、遅っそーい!』

 無線の向こう側から龍田さんと島風ちゃんの声が聞こえると同時に、お二人に搭載されている全てのCIWSが最寄りの新型飛行種一機に火線を集中させ始めました。
 数秒間の飽和射撃に晒されたその飛行種は、再生するよりも早く身体を削り取られ、抱えていた魚雷が誘爆。空中で爆発してバラバラの破片になって燃え落ちて行きました。

『『『YEAAAR!!』』』

 守備隊の方々が攻撃の手を緩めずに歓声を上げ、艦長席に座っている私の隣で補助席に座っていた北上ちゃんが『何か来る!!』と叫び、その直後に何の前触れも無く島風ちゃんの船腹中央付近から水柱混じりの爆発が発生し、島風ちゃんはVの字に折れて沈んで行きました。
 レーダーには、敵航空部隊の反応に紛れる様にして、新たな光点がいくつもいくつも追加されていました。

「提督、あそこ!」

 北上ちゃんが指さす向こう。そこには、海の青を押しのけて浮上してきた深海凄艦の真っ黒がいくつもいくつもありました。
 駆逐種や軽巡種、そして雷巡チ級などが次々と海面に姿を現し始めました。そして、それら全てがミッドウェーを目指していました。

「提督、敵前衛24! 高速水雷戦隊! 駆逐16、雷巡チ級8を中核とす!! 後方より浮上中の本隊は空母ヲ級30隻を含む大部隊!!」
「て、敵襲!!」
『F*ck! とんでもない数じゃねぇか。先制爆雷部隊は何やってんだ!?』

 北上ちゃんが改二型特有の優れた索敵能力で敵奇襲部隊の詳細を丸裸にして守備隊の全員に緊急通信(メーデー)を発信し、私とアンクル大尉が叫んだのと同時に、龍田さんがいた辺りからもの凄い閃光と轟音が走り、それらが晴れるよりも先に『超展開』した龍田さんが薙刀片手に、浮上してきた敵奇襲部隊の先頭集団に飛び掛かるところでした。
 天龍型は旧式艦。今も昔も。
 私がまだインスタント提督候補生だった頃に座学で見た映像資料の中では龍田さんも、まだ見ぬ天龍さんも、どちらも『超展開』中の動きはぎこちなく、のっそりとしていた事を思い出しました(※ひよ子注釈:教科書によると、艦娘殺しこと重巡リ級が世に出回ってくるまでの間は、そこまでの機動性は必要とされてなかったとの事です)。
 ですが、この龍田さんはそこには当てはまっていませんでした。確かに、ひとつひとつの動きは其処まで機敏ではないんです。むしろ、そこだけなら私の北上ちゃん改二の方がもっとヌルヌル動きます。
 ですがこの龍田さん(と、そこに搭乗しているであろう提督さん)は、動きと動きの間に切れ目が見えなかったのです。これがスムーズな動きと言うものなのでしょうか。それともこれが歴戦の戦士が積んだ功夫がなせる業とか言うやつなのでしょうか。
 私がそんな脱線気味の思考をしている間にも、当の龍田さんは次々と深海凄艦の奇襲部隊を血祭りにあげていきました。
 全身のバネを利用して薙刀を振り回して最先頭にいた雷巡チ級の首を撥ね飛ばし、その隣にいた別のチ級の肋骨の隙間を通すようにして心臓を輪切りにし、背中の艤装にある砲台や魚雷で手近な駆逐種を次々と倒していきました。
 そして龍田さんは、さらに浮上してきた2匹の雷巡チ級の首を薙刀で撥ね飛ばし、3匹の駆逐種を砲撃で撃破し、小バエのように寄ってたかって来た新型の飛行小型種の群れを撃破できませんでした。
 龍田さんに増設されたバルカンファランクスはその砲身を回転させるだけで、まったく弾を撃ち出しませんでした。
 弾切れ。
 その一言が頭をよぎるのと殆ど同時に、私はぬいぬいちゃんに命令していました。

「不知火ちゃん!」
『了解!!』

 その一言だけで全てを察したぬいぬいちゃんが、搭載されていた全ての対空砲を龍田さんの頭上に向けて即座に発砲。
 その弾幕に数発ほど当たった白い新型が、ボトボトと落ちていきました。

「え」
『え』
【え】

 何で?
 ミサイルを何発受けても平気だったのに何で、こんな、豆鉄砲で?

【あらあら~。これは……干からびた干しブドウみたいねぇ】

 私達が疑問に思っていると、ちょうど目の前に落ちてきた一匹を空中でキャッチして軽く観察していた龍田さんと私達に、島の守備隊から通信が入ってきました。

『TKTの塩バターラーメン技術大尉です。こちらでも墜落した敵機を回収しました。原因はおそらく、餓死でしょう』

 餓死?

『恐らく、あの異常な再生能力を実現するためには大量のエネルギーを必要としているのでしょう。ですが、従来の戦闘機サイズの体格では蓄えられる養分に限りがあると思われます』

 サンプルを司法解剖した訳でも、深海凄艦の生態に詳しい井戸水中尉でも無いから断言はできませんが、そう大量に養分を蓄えられるとは思えません。重すぎると飛べませんし。と塩バターラーメン技術大尉は推論を述べ、敵の弱点を理解したアンクル大尉が全周波数帯で叫びました。

『……つまり、あのホワイトオニオンは、攻撃を当て続けていれば、いずれ勝手に自滅する……と?』
『そうなりますな』
『総員、撃って撃って撃ちまくれ! 敵の本隊が来る前に全滅させろ!!』

 二つ折り式の長大なスナイパーカノンを左膝で固定した重量2脚型の鍋島Ⅴ型が。装甲板を引っぺがして積載量を確保した両腕と上半身にこれでもかと搭載されたメック歩行戦車の長距離対空ミサイルが。合衆国海軍のミサイル駆逐艦に残されたCIWSが。帝国陸軍歩兵部隊の『帝国陸軍の勇猛さを見せつける時だ!!』と叫んで突撃する赤いヘルメットの小隊長を背中から。
 アンクル大尉の号令を受けて、ミッドウェー島守備隊の誰も彼もが一斉に雄たけびを上げつつ猛反撃を開始しました。
 空飛ぶ白い新型は、その波状攻撃を受けて、徐々に徐々に再生能力を失い、古くなった葉っぱが枝から落ちる様にしてぼろぼろと落ちていきました。
 ちょうど最後の一匹が撃墜されたのと同時に、龍田さんの超展開が時間切れで解除され、敵の本隊からの砲撃が次々と飛んできました。続けて、今しがたやっとこさ撃墜し終わったばかりの真っ白い新型も、今まで以上の数が次々と吐き出されてくるのがぬいぬいちゃんの望遠鏡(※ひよ子注釈:光学デバイス望遠モードっていうそうですが、普通に望遠鏡でも通りますよね?)にもはっきりと映っていました。
 そして、砲撃と敵航空部隊に今まで以上の苦戦を強いられる守備隊の方々の姿も。
 島で爆発。
 鍋島Ⅴ型の一機が燃え落ち、膝をついて崩れ落ちたのが見えました。脱出装置が作動したのかどうかまでは、ここからでは見えませんでした。続けて、どんどんとやられていくメック歩行洗車や歩兵部隊の方々の姿も。

「……北上ちゃん、ぬいぬいちゃん、旗艦交代。私達もいくわよ。今なら敵は守備隊に気を取られてるから、その隙に敵護衛部隊を突破。北上ちゃんの飽和魚雷攻撃で敵本陣の空母ヲ級を全部やっつけます」
『了解。比奈鳥高速水雷戦たん……高速水雷せんちゃ、……水雷戦隊! 突撃します!!』
「あいよー。んじゃ、私は外で展」

 開やってくるねー。と言おうとしてい北上ちゃんが、口を変な形のまま開けた状態でフリーズしました。

「? 北上ちゃん、どうしたの?」

 続けて、北上ちゃんから聞こえてきたのは、普段の北上ちゃんとはまるで異なる、機械的な声でした。

「メインシステム統括系より最優先警報発令。PRBR検出デバイスにhit. 感1。パターンH『ひ号目標』を検出しました」
『き、北上さん……?』
「何? どうしちゃったの北上ちゃん!? 何が来るって!?」
「回答不能。あなたにはその情報を閲覧する権限がありません」

 突如として雰囲気を変えた北上ちゃんに、私は思わず両肩を強く掴んで詰め寄りましたが、それでも北上ちゃんは普段見せないような、無機質な無表情のまま淡々と告げました。
 ぬいぬいちゃんはぬいぬいちゃんのままだったので、もしかしたら、私の知らない改二型特有の能力か何かなのでしょうか。

『……北上さん。ひ号目標に関する情報を提供できますか?』
「否定。あなたにはその情報を閲覧する権限がありません」
『現場の作戦ユニットとして情報を要求します!!』
「要求は了承。しかし、否定。この情報はS4機密属性を有しています。あなた方にはこの情報を閲覧する権限がありません」

 ――――S4機密?

 たしかに帝国海軍内部では、一般の下士官や訓練生、軍属の方が敷地内を出入りするためのS1から、将官クラスのお歴々が持つS3までの3段階のセキュリティ・レベルによって情報やモノの流れを管理していますが、4なんて数字のレベルは無かったはずです。

「D係数急上昇中。超至近。6時の方角です」

 北上ちゃんの言葉に、ぬいぬいちゃんが後部の望遠鏡を起動して島の方を見てみると、そこには、私達が運ぶはずだった正規空母『赤城』の姿が見えました。

「『え?』」
「D係数、100を突破。なおも上昇中」

 おかしいです。さっき見た時は、あの『赤城』はほとんど横倒し同然で砂浜に擱座していたはずです。
 だったら何故、あの『赤城』は今、垂直にそびえ立っているのでしょうか。
 そう、まるで、超展開直前のような――――

「D係数、256、512、1024、2048……4096を超過。発生します」

 無機質な北上ちゃんが告げるD係数の急上昇。

 音の無い閃光と爆発、
                                       衝撃波で吹き飛ばされる水際防衛部隊と上陸寸前だった深海凄艦、
           火花を散らしてオーバーフローするPRBR検出デバイス、
      白い光の中に消える『赤城』
                    地面に沈んだように見えたのは気のせい?
 敵も味方も手を止める一瞬の静寂、
                                       地震。生身どころか鍋島Ⅴ型ですら立っていられないほどの。
     風船のようにめくれ上がる地面、
          巻き添えで宙に浮く基地と滑走路、
              球体状を維持したまま天に昇っていく地面と基地と滑走路、
                                      砂と瓦礫が落ちる、中身が露わになる。
              球体状の白い外殻、正三角形状の滑走路模様、口の中から突き出す無数の砲身、
     その中身。
              白い髪、白いドレス、白い肌、

 目が合った。





 本日の戦果:

 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上


 本日の被害:

 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上

 特記事項

 当報告書には閲覧制限が掛かっています。





 ……次に気が付いた時、私は、何処かの部屋のベッドの上で横になって天井を見上げていました。

「――――あ」

 この天井には見覚えがあります。たしか、いつぞやだったかにカツカレー(超大盛り)を食べて気持ち悪くなった時にお世話になったベッドです。
 有明警備府の医務室です。
 けれども、私がいつ、どうしてここに戻って来たのかは、まるで記憶にありませんでした。

「……」

 カリカリという小さな音に気を惹かれてそちらの方に首を向けてみると、ベッドのすぐ脇に置かれたイスに座って、黄色と黒の表紙が特徴のスケッチブックに鉛筆を走らせる秋雲ちゃんと目が合いました。

「あ、駄目じゃん。せっかく寝顔スケッチしてるんだから……って! ひよ子ちゃん目が覚めたの!?」

 秋雲ちゃんは一度小さく驚くと再びスケッチを再開するかナースコールを押すかで一瞬迷ったようですが、私が気が付いた事を知らせる事を先にしてくれたようです。
 私の枕元に手を伸ばしてナースコールを押し、私が目を覚ました事を手短に伝えると、今度こそスケッチを再開させました。私の寝顔なんて書いてて楽しいんでしょうか。

「今、長門さんに連絡したからね。北上達もすぐ来るだろうし、それまでゆっくりしているといいさー」
「あの……どうして……?」
「? そりゃあ、ひよ子ちゃん……あっと、ひよ子少佐が目を覚ましたんだし、心配してる北上達にもすぐ知らせてあげるってのがスジってもんでしょー?」
「いえ、そういう事じゃなくて」

 どうして私はここに? と聞くと、秋雲ちゃんは驚いたかのように鉛筆を止めて、私の顔を見つめました。何か変なの付いていたんでしょうか。

「……ひよ子ちゃん、アンタ何も覚えてないの? 三土上島の監視所から連絡あって――――」
「ひよ子ちゃんが目を覚ましたって本当!?」
「ご無事ですか司令官!?」

 私の呼び方がオフ用に戻っている事にも気付かず、秋雲ちゃんが何かを言いかけ、それと同時に部屋の扉が勢いよく開かれました。
 北上ちゃんとぬいぬいちゃんでした。

「良かったよー……もう五日も眠ったままだったし、このまま目を覚まさなかったらどうしようかと……」
「私は大丈夫よ、ほら、この通……五日!?」

 思わずベッドの上から上半身を起こしてしまいました。風邪をひいている時に無理矢理体を起こしたような独特の重ったるさが私の頭にのしかかっていました。

「どうりで体が重いわけね……ていうか北上ちゃん離れて。お風呂入ってないから、その、クサいと思うのよ、私」
「起きて早々そんな心配が出来ると言う事は、どうやら大事無いようだな」

 鼻グズ声で私にしがみつく北上ちゃんの背後から、長門さんが部屋に入って来ました。

「長門さん……」
「無事で何よりだ。ところで、もう起き上がっても大丈夫なのか?」
「え、えぇ。はい。大丈夫です。ちょっと頭が重い気がしますが……」
「そうか」

 そう短く呟くと、長門さんは私のベッドの横まで来て、その両手を掛け布団の中に差し込み、そのまま中身を――――つまり私をご自分の胸のあたりにまで掬い上げました。
 俗に言うお姫様抱っこです。

「え!? えっ、あ、あの!?」
「北上、不知火。お前たちの提督、少しの間借りるぞ。独りでは立つのもままならなそうだしな。シャワー浴びせてくる」
「「アッハイ」」

 目を丸くしてこちらを見る北上ちゃんとぬいぬいちゃん、そして『長×督かぁ。二人ともかどっちかに生えてんのは何度か書いたけど、二人とも生えてないのは書いたことなかったなぁ』などと呟きつつ私達の姿をスケッチブックに何枚も何枚も速写していく秋雲ちゃんを後にして、長門さんは私をシャワー室まで抱っこしていきました。



 初めて入った艦娘用のシャワールームは、提督専用の個室に据え付けられた棺桶部屋とはまるで異なっていました。
 広いです。兎に角、広いんです。
 あっちは腕どころか肘すら満足に伸ばせないのに、床と壁の一面に水色のタイルが敷き詰められたこちらは両腕どころか2、30人は一斉に入ってもなお余裕がありそうな広さです。ついでに言うと備品の類もしっかりしていました。あ、これ私が実家にいた頃使ってたのと同じ椿油入りのシャンプーだ。

「そんなにシャワー室が珍しいのか?」
「いえ、部屋のよりも広くて、備品も値が張っていそうなものばかりだったものでつい……」

 シャワー室に入って来た長門さんは、全ての装備を外していました。服や下着、背中の艤装は勿論の事、宇宙アンテナとも鬼の角とも見て取れる2本の宇宙電探カチューシャすらも取り払い、駄目押しとばかりに艤装のコネクタ部には防水対策のためか、プラスチックの塊にしか見えない何かのアタッチメントを付けていました。
 そして脱衣所に置いてあった古びたラジカセを再生させて、何だか【Hな雰囲気】のBGMを大音量で流すと後ろ手に扉を閉めて鍵をかけ、こちらに近寄ってきました。何でシャワー室に内カギなんてついているんですか!?

「あ、あの、長門さん……?」
「大丈夫だ、すぐに済む」

 何で、何でいきなりこんな急展開!? と混乱し、恥ずかしさから思わず目を瞑ってしまった私の横をすり抜けると、長門さんはシャワーのカランを全開にしていました。呆然とする私を余所に長門さんは次々とシャワーを開けていき、やがて部屋全体が湯気で隠れて見えなくなってしまいました。勿論、声もシャワーの流れる音と脱衣所のBGMによって紛れて外には聞こえていないはずです。
 そして、プラスチック製の背の低い椅子を2人分持ってくると1つを私に差し出し、自分はもう一つの方に座って話し始めました。

「……盗聴されている可能性があったのでな。こういう手段を取らせてもらったぞ」
「え」
「ミッドウェーで何かあった事は私も聞いている。だが、北上と不知火は絶対に口を割ろうとしないのだ。よほど危険なヤマだという事は分かるのだが、それでも私は有明警備府の責任者(暫定代理)として事態を把握しておかねばならない。生存者323名――――ミッドウェーと、艦娘と、少佐たち補給部隊全員合わせてだ。いったい、あの島で何が起きたのだ?」
「え。あ、あの。私をここに連れて来たのって……」
「うん? それは勿論、誰にも話の内容を聞かれないためにだが?」

 ……そ、そうですよね。病み上がりなのにいきなりxxx板な事はしませんよね!
 アレやコレな事にはならないと安堵した私は、一度気持ちを落ち着けるべく深呼吸をし、それからミッドウェーで何があったのかを話し始めました。所々つっかえたり、時系列が乱れていたりで分かりづらかったはずですが、それでも長門さんは辛抱強く我慢して、私の話を聞いてくださいました。
 日差しが強かった事。アンクル大尉達のアイス狂っぷりの事。白い新型の飛行小型種の事。
 そして、ミッドウェーの『赤城』が変化したとしか思えない、あの白い人型の事について語り終えると、長門さんは片手で眉間を抑えて、深いため息をついてしまいました。
 も、もしかして、突拍子が無さ過ぎるとかで信じてもらえなかったんでしょうか!?

「……少佐。少佐は訓練学校で習った事を覚えているか? 深海凄艦は、どこからやって来るのかと」

 それは知っています。たしか、海底に何かがあって、放置したままだと比較的高い確率で危険である。という事ですよね。
 裏を返せば、それ以外何もわかっていないって事ですけど。

「そうだ。では、海底に眠っている『何か』とは、何だ」
「あ……」

 まさか、いえ、そんな。
 でもだとしたら、私達が深海凄艦と呼んでいるモノの正体とは――――

「……昔の、戦争で沈んだ船」
「そうだ。それが深海凄艦だ。本物の、深海凄艦だ。繭生まれの怪獣もどきではない、本物の、深い海の底から来た、21世紀スタイルの禍津日神だ」

 長門さんのその一言はまさに衝撃でした。古代スラン人とファイレクシア人が同一人種である事にショックを受けてたウルザおじいちゃんなんて目じゃありません。北上ちゃんやぬいぬいちゃん達艦娘と、深海凄艦が同一の存在から生まれてきただなんて、信じられません。

「北上達が正解だ。こんな事口にしてみろ。確実に消され……いや、待て。そうだ、比奈鳥少佐、今日から少佐達3人には川内とプロト足柄とプロト金剛を護衛につけるから、ほとぼりが冷めるまではなるべく3人で固まって行動しろ。風呂もトイレもだ。こいつら性格はちとアレだが、ガン・ファイトでも対艦戦闘でも私や飛龍・蒼龍を差し置いて警備府最強だ。最悪の事態になっても、きっとなんとかしてくれる。はずだ」
「りょ、了解しました……」

 私は、どもりながらも何とか返事を返すだけで精一杯でした。

 本物の深海凄艦と、艦娘。

 前者は海底に眠るモノが自然発生的に。後者は海底から引き揚げたモノから人為的に。そして海で沈んだ艦娘やその他の戦闘艦は誰の手も届かない海の底でまた――――
 ここまで考えが及んで、私の脳裏には、ある一つの恐ろしい仮説が浮かんできました。

(……この戦いに、人類絶滅以外の終わりはあるんでしょうか?)

 その考えは我ながらあまりにも恐ろしく、いつの間にか私の髪の毛をシャンプーしてくれていた長門さんには聞く事が出来ませんでした。

「――――さて。湿った話はこれまでにしよう。さっさと上がって少佐の快復祝いと行こうじゃないか。今日は比叡が腕によりをかけて作ってくれるそうだぞ。それと安心しろ、カレンダーだと今日は木曜日だ」

 私の雰囲気を察したのか、長門さんがパンと手を打って話題を切り替えました。
 何がどう安心なのかはよくわかりませんが、兎に角、期待しても良い事だけはよく分かりました。 

「ありがとうございます。それじゃあ、早く出ないといけませんね」
「うむ。そうだな」

 ――――お風呂から出たその後、長門さんが日めくりカレンダーを一日だけめくり忘れていた事が判明したとか、後日、大本営が合法的に私を抹殺すべく、超展開失敗時の死亡率が異常に高い事で有名な潜水艦娘、その最新鋭艦『プロトタイプ伊19号』との超展開実行試験を名指しで指名してきたりといろいろあったのですが、

 それはまた、別の機会にお話ししましょう。









 本日のNG(没)シーン


 有明警備府に帰投した比叡さんを出迎えるために、私達はコンクリート製の係船岸壁に一列に並んで待機していました。

「北上ちゃん、まだなのー? 比叡さん、11時ちょうどに到着しちゃうのよー?」
「あ、提督。ごめーん。コンタクト忘れてた!」

 え、北上ちゃんコンタクトしてたの?
 私の疑問は皆の疑問だったようで、私も皆も、外に出てきたばかりの北上ちゃんに振り返ります。

「うん。すぐすむからさ~」

 そう言って北上ちゃんは右手で天を指さし、見上げました。私達もつられて上を見上げます。
 そこには、空なんてありませんでした。

「「「……え?」」」

 ふぅおん、ふぅおん。と奇妙な低音をな断続的に鳴らしつつ、ゆっくりとした回転運動を続ける、幾何学的で精緻な模様が施された金属質の空だけがありました。
 その当時の私達は知る由も無かったのですが、サンタクロース追跡前の準備任務として、超展開中の駆逐艦娘『島風』を追跡観測をしていたNORADの正式発表によれば、当時の帝国、それも有明警備府周辺は、原因不明のノイズによって精査不可能であった。ただし、巨大な物体が空中にあった事は確かである。との事でした。
 金属質の空――――超を3つも4つも付けても足りないくらいに巨大な円盤です! 皇帝都市アダンもビックリです!――――から、一条の赤く鋭いレーザー光が下りてきて、北上ちゃんの天に付き出した指先に直撃しました。

「☆&’&#&%、!==)(’#$$?」
『¿))、}{+!(++--。 11:00(am)o'clock. #$#)(’&&%?2000%%¡』

 空の円盤は北上(?)ちゃんと、解読不能な言語っぽい何かで短くやり取りした後、音も光も無く忽然と消えてしまいました。

「「「……」」」
「おーい、提督ー。みんなー」

 空を見上げたまま呆然としていた私達の耳に、いつの間にか遠くで手を振っている北上ちゃんの声が聞こえてきました。

「早くしないと、11時ちょうどに到着しちゃうぞー?」
「「「何が!?」」」





 本日のNG(遅れまくったお詫びとして誰得の設定資料集一部公開します)シーン その2


 没キャラ軍団

 尾谷鳥つばさ(オヤドリ ツバサ)

『有明警備府出動せよ!』に出したかったキャラ。この話の中では名前だけ出演。
 フリルやレースを乱用した紫色のゴスロリ調ドレスと編み上げブーツと右目を隠す紫色のバラ状の眼帯と右腕全体を包み隠す包帯で完全武装した、有明警備府第一艦隊の元総司令官。是非とも『Lactobacillus casei Shirota.採ってるぅ?』と言っていただきたいお姿である。バストは実際豊満である。
 第2期インスタント提督であり、ひよ子(本編バージョン)が着任してから半年後に、健康上の理由から軍を退役。インスタントとは言え、ひよ子がやってくるまでの十余年間を古鷹と一緒に軍で過ごし、対人・対深海凄艦の秘密作戦にも多数従事している女傑。バストは実際豊満である。
 彼女がよく使う罵倒語の1つに、

『目玉も光らぬ半端者め』

 とあるが、これは彼女の所属する宗教団体『重巡教』の中でも、特に内情不明の一派で知られる大天使フルタカエル混沌派が好んで他派に使う卑罵語の一種であり、バストは実際豊満である。
 つばさは秘書艦である重巡『第一世代型古鷹(※普通に軽巡使えよと言われていたあの頃)』と高い同調適性を持ち、古鷹を初めとした有明警備府の面々と一緒に帝国の危機を何度も救ってきたスーパーウーマンだったが、超展開の度に古鷹に『喰われる』という現象だけは完全に止められず、徐々に人の形を失っていった。フリルがいっぱいのドレスも、眼帯も、包帯も、それを隠すための物である。

 お前はどこの不動卿だ。



 ウォール・コットン中佐

 ブイン基地の基地司令の没ネーミング。
 クリスマスのコスプレパーティ(没シナリオ)では、トランスバール皇国軍の佐官礼服を着て出席。同地を混乱に陥れた。
 この人が密輸だの二重帳簿だのやるイメージがわかなかったので没。結局、基地司令は顔も名前も不出のまま本編スタートに。因みに本編バージョンの基地司令の行動モデルはマッドブル34の署長さん。あっちも署内で麻薬密売やってたし。極稀にカッコいいし。

 没バージョンの外見? CV? 名前とコスプレ姿から察しろ。



 比奈鳥ひよ子(没バージョン)

 かの悪名高きブラック鎮守府『五十鈴牧場』が経営する、完全会員制の高級魚料理店『クラブ・コッド』の主力商品の1人だった少女。
 同店が有明警備府によって攻勢摘発された際、突入部隊の一番槍を務めていた戦艦娘『長門』の雄姿に一目惚れ。
 解放後は路上生活に逆戻りしたが、後に軍のライフボート・プログラムの存在を知り、インスタント提督を目指す。
 元々高いIQを持っており、クラブ・コッド内でも一晩3000万円(最低価格)という同店の最高級品であったため、高い教養を持たされていた。そのため、試験はさしたる苦労は無く首席で合格。インスタント提督となった後は、希望通り有明警備府への着任となった。
 ひよ子の秘書艦である青葉は人間不信である彼女にとって、唯一無条件に心許せる、魂の奥深い所で結ばれた親友である。

 これどこのアッシュ・リンクスよ。

(今度こそ終れ)


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