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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:0be32ca1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/21 20:05
※番外編2(dos)!!
※オリ設定がモリモリすでのな
※俺の○×がこんなはずは無い。な事になってるかもしれません。ご注意ください。
※当SSにおける横須賀鎮守府の扱いが不当な気がしますが気のせいです。オリ設定の範囲内とお考えください。そういう事にしておいてください。見逃してください。
※時間と太陽を目安に南に進んでいたら、素で北に行ってしまうようなうp主に地理的センスを求めてはいけません。軍事的センスもしかりです。
※お彼岸前の突貫作業。後半に向かうにつれてのやっつけクオリティ注意。
※いつも通り人によってはグロ表現有りやもです。注意重点で。
※(9/16初出。9/21誤字脱字修正×2&本日のOKシーン追加)

※本日のステマ:
Pixiv様にて、id_890名義でACⅤ二次SS『地球の兎は月見て跳ねる』やってます。
昔、SSの書き方も知らん頃に書いてたやつなんで『猫の地球儀』の劣化コピーですが、よろしければ是非。
novel/show.php?id=3760745




『Team艦娘TYPEからのお詫びとお知らせ』


 拝啓 時下ますますご隆盛のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご厚情を賜り、お礼申し上げます。

 さてこの度は、私どもの確認不足で、バゼスト逆背景放射線検出デバイスの略称に下記の誤植がありましたこと、心よりお詫び申し上げます。
 私共で確認しましたところ、誤記がありましたので、下記のとおり訂正いたします。
 つきましては、正誤表をご確認ください。
 
 お手数ですが、以前の表記は脳内修正のうえ、皆様へ周知していただけますようお願いいたします。

 敬具


 記
 -訂正箇所-

(誤)PRBRデバイス
(正)PRBR検出デバイス

 以上




『――――だからさ。君が言ってるそれはあくまでも机上の空論にしか過ぎないだろ? 私が欲しいのは理論値じゃなくて限界値の方……うん、そー。元々『Y』の試作2号機はブッ壊す予定で用意したんだからさ、臨界点スレスレでガンガン回しちゃってみてよ。それこそ爆発しちゃってもいいからさ……は? 責任? そんなの、私が取るにきまってるじゃないの』


               ――――――――『Y裁判』にて、原告団が提出した証拠音声より




 平静26年8月17日、二〇〇〇時現在。
 我が有明警備府の食堂内には、淀んた空気が漂っています。

「あ、有明警備府の皆さん、お疲れ様でした……」

 理由は簡単です。我が警備府最大の戦争が半分、ようやく終わったからです。
 コミックカーニバル86。
 通称『夏コミ』
 太平洋戦線なんてメじゃありません。地獄の最前線です。
 開催の拍手を待たずに突撃を開始する総数7ケタ近いフライング野郎共を増強部隊を含めた300人ちょっとで押し戻したり、車道に出てショートカットしようとしたアホを(シールドバッシュで)ドついて列に押し戻すという実にソフトな対応をしたり、待機列の置き引き現行犯を川内ちゃんが飛龍さん仕込みのジツで捕縛したり、徹夜組を相手に足柄プロトが気を付け顎引け歯ァ食いしばれや元気ですかーと喝入れのビンタをかまして(※翻訳鎮守府注釈:それ目当てで徹夜するアホもいます。言うまでも無くコミケはルールとマナーを厳守重点です)ペナルティとして開催時刻になるまでお台場を延々とフルマラソンさせたり、そのマラソンから逃げ出そうとした不届き者共にはどこからともなく急行したプロト金剛が走者の列に蹴り戻したり、会場内で『なのよ完売! なのよ完売!!』と叫ぶ戦争犯罪人を川内ちゃんが蒼龍さん仕込みのカラテで物理制圧したり、閉会後の会場の掃除をしたりと、色々あったんです。
 文字通り、休む暇も無い三日間だったのです。
 そして、それらの後始末が全て終わったのが今からおよそ10分前なのです。鉄板仕込んだ警備服を今すぐ脱ぎたいです。背中に背負ったポリカーボネイド製のライオットシールドも外したいです。ですが、特別警備期間中にのみ張り出されている『Arbeit macht frei(労働だけが自由への道)』の標語を引っぺがして、頭のフルフェイスを外したところで力尽きました。もう腕どころか指一本動かす気力もありません。
 私を含めて誰も彼もが皆、同じ警備服を着たまま――――あのぬいぬいちゃんや古鷹ちゃんまでもが!――――食堂のテーブルの上に上半身を投げ出して、逆Lの字になって突っ伏しています。ほっぺたに当たってるテーブルのヒヤヒヤが気持ちいいです。

「「「おつかれさまで~す……」」」

 そんなだらしない格好になっているのは私達第一艦隊の皆だけではなく、提督不在のまま放置されている第2、第3艦隊総旗艦である飛龍さん(着衣)と蒼龍さん(着衣)ですら例外ではありませんでした。彼女達も普段の和服ではなく期間中の制服である警備服と腕章を着用したまま、警備府内の中庭で燃える篝火の前で膝を抱えて静かに座り込んだまま動いていません。
 ていうかあの二人は何で中庭で篝火なんか焚いているんでしょうか。何で火の中に西洋直剣が突き刺さっているのでしょうか。そして何でお二人はずっと小声の英語で『人の心を成す魂よ』だの『主を失い、漂うだけの魂よ』だのと、聖句を繰り返し呟いているんでしょうか。もしかしてお二人は不死教の教徒だったのでしょうか。
 やっぱり正規空母の子達って、ちょっと変です。
 因みに夕雲ちゃんは現在『私は眠気に負けて新刊落とした敗北主義者です』と書かれた看板を首から下げつつ廊下で正座しながら土下座しています。それに付き合っている大井ちゃんは本当に気立ての良い娘です。酸素魚雷に性的興奮を覚える変態性癖の持ち主なのが玉に瑕なのですけれど。

「も゙……駄目……」

 突然、誰かが顔面をテーブルに叩き付けたかのような、鈍くて激しい音がしました。
 驚いてそちらの方に振り返ってみると、川内ちゃんがお味噌汁のお椀に顔を突っ込んで寝落ちしていました。何てことでしょう。

「た、退屈な夜にぃ……退屈な、朝を……待つことはない…んだから……や、夜戦……ZZZzzz......」
「おい、夜戦バカが沈んだぞ……」

 何てことでしょう。明日はきっと【石の雨/Stone Rain】か【溶鉄の雨/Molten Rain】です。絶対に。

「寝かしといてやれ。アイツはこの三日間のMVPプレイヤーだ」
「そうですわね。川内さん、この三日間ほとんど不眠不休で頑張っていらっしゃったもの」

 厨房の奥から、大きなトレーを持って出てきた長門さんと夕雲さんが、川内ちゃんをフォローしました。
 やはりお二人ともお昼の時と同じ服装のままで、長門さんは腕章付きの警備服で、夕雲さんは胸元に『!』マークを付けたメイド服を着ていました。ふわふわフリルのスカートに刺繍された『ゐむえ』とは何かの暗号でしょうか。

「川内には後でもう一度夜食を温めてやろう」
「そうですわね。川内さんには、後で私が持っていきますので、皆さん先にお夜食を頂きましょうか」

 そう言って長門さんと夕雲さんは、手にしていたトレーの上に乗っかていたおかずを配膳し始めました。

「さぁ、食え。ビッグ7手製の夜食だぞ」
「わぁ、それは凄そうね」

 私の簡単の声に気を良くしたのか、長門さんは意気揚々とした表情で私の目の前にお皿を置きました。
 一瞬、テーブルがズドンと揺れたのは気のせいでしょうか。

「「「……」」」

 食堂にいた誰もが、こんなの初めて見た。という表情で配られたお夜食を注視していました。
 カツカレー(超大盛り)

「……おやしょく?」
「うむ。足柄プロトの大好物だそうだ」

 お夜食なのに?
 当の足柄プロトがさっき、ちょっと味のキツイ栄養ドリンク飲んだ途端に吐き戻したくらい心身ともに疲れ切ってるのに?
 これを、食えと?

「遠慮はいらんぞ。お代わりはまだあるからな」
「い、いえ。そういう事ではなくて……」
「ん? ……ああ、そうか! 済まない、私としたことが! カレールウが足りなかったんだな」

 そういう事ではなくて!!

「……」

 ちらりと横目で壁に掛けられている標語に視線を向けます。
 有明警備府、第一艦隊鉄の掟その2『おのこしは、許しまへんで』
 まさか提督自らがその掟を破るわけにはいきません。

「さぁ、これだけルーがあれば大丈夫だろう」
「……(気合! 入れて!)い、いただきます!!」

 一皿だけでも完食した私は、褒められてしかるべきだと思います。




 次の日の昼頃の事です。

「……提督、生きてる?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………死にそう。ていうか吐いて死にたい」

 私は現在、私に無理して付き合った北上ちゃんと一緒に仮眠室で横になっています。
 キツイです。
 寝返りうちたいのに、うったら乙女の終わりが上から出てきそうなのでうてません。同じ理由で深く眠れもしません。精々が何度かウトウトした位です。
 結局あの後、残ったお夜食のカレーはその匂いに連れられて食堂にやって来た飛龍さん(着衣)と蒼龍さん(着衣)、そして当の長門さんの3人によって、残さず平らげられました。しかも許しがたい事に、この3人はまだ食べ足りないとか言って、厨房の中にあった出来合いの料理を追加で温めて食っていました。川内ちゃんのために残しておいた分も含めて。
 あいつら人間じゃねぇ。

「そういえば提督……さっきの覚えてる?」
「……さっき?」

 ウトウトしていた時の事でしょうか。北上ちゃんがベッドの上でゴロリと横になってこちらを見ながら言いました。

「さっき、長門さんが来て、第2艦隊の執務室に来てくれって――――!!?」

 あの量に加えて、横になったのが致命の一撃となったようです。喋っている途中で北上ちゃんはビクリと嫌な感じに痙攣し、大きく目を見開くと、口を押えながらベッドから飛び起きるや否や一目散にトイレに駆け込みました。張り手一発でドアをこじ開ける音。跳ね上がった便座カバーがその反動で北上ちゃんの頭にぶつかる音。
 水の流れる音。

「……北上ちゃんの魂が、暁の水平線に辿り着けますように」

 水の流れる音に混じって微かに聞こえてきた『ぎゃー! 服にー!!』という酸っぱい叫び声は聞こえなかった事にします。







「比奈鳥少佐、入ります」
「どうぞ」

 もの凄い量の書類の山に囲まれた部屋の中で待っていたのは、お隣の第二艦隊所属の、艦娘式長門型大戦艦一番艦『長門』さんです。
 すらりとした長身、長い黒髪、宇宙アンテナとも鬼の角とも見て取れる2本の宇宙電探カチューシャ、6つに割れた宇宙腹筋、そしてつい先日の警備服とも、従来の戦艦娘の制服とは異なる宇宙的意匠の近未来的かつ布面積不足な衣装。ルックスもイケメンです。女性ですけど。

「長門さん、私に何かご用があるとの事でしたが」
「ああ。少し待っていてくれ。もうすぐ済む」

 長門さんは私の方を見向きもせず、一言も発さず、部屋の中にはただひたすらに端末のキーをタイピングする音だけが響いていました。あ、よく見たらフレームレスのメガネかけてます。わー珍しい。

「……よし、終わった。すまない、待たせた」
「お疲れ様です。それにしても、すごい量の書類ですねぇ」

 長門さんの横に積まれた書類の束は、文字通り山と化していました。椅子に座った長門さんの頭よりも標高が高いです。普段なら握り拳一つ分の高さで済むはずなのですが、どうした事でしょう。

「ああ、それは第3、第4艦隊の分の書類仕事もまとめてやっているからだな。第3艦隊は――――というか、私のいる第2艦隊もそうだが提督が不在だし、総旗艦ドノも正直アレだからな。私がやらねば誰がやるというのだ」
「えっ、でも、たしか第4には確か事務の方がいたはずでは……」

 現在、我が有明警備府には第1から第4まで、合計4つの艦隊が書類上には存在しています。
 書類上には。
 ですが、実際に活動しているのは、先任提督さんと入れ替わる形で私が着任した第1艦隊と、この長門さんが所属する第2艦隊、そして第3艦隊の3つだけです。
 問題の第4艦隊には私と秘書艦の北上ちゃんとエスコートユニットのぬいぬいちゃんの合計3人が在籍していたのですが、当の第1艦隊の提督さんに何か色々とあったらしく、私が着任して半年ほどでリタイアしてしまい、第2、第3艦隊の提督の方々もちょうど不在だったので、そのままなし崩し的に第1と第4が併合され、今に至ったという次第です。もちろん、第2と第3の提督さん方には後で正式に許可をもらいましたが。
 そして、艦隊数を減らすと月々の補給量も、週に一度の大補給の量も減らされてしまうので、事務の女性の方に頼んで第4艦隊の名目上の人員として配置されてもらい、今に至ったという訳です(※ひよ子注釈:風の噂によると、三か月に一回しか大補給が無い基地もあるそうです。そんなド辺境なんかに基地があるわけないですよね)。

「ああ、彼女なら夜逃げしたぞ。夏コミ当時のドサクサに紛れて」
「ヨニゲ!? ヨニゲナンデ!?」
「うむ。つい最近、破片の回収に成功した軽巡洋艦『大淀』との艦娘適性値があったそうだ」
「え」
「本人や我々には伏せられていたそうだが、友人のツテとやらでそれを知ったそうだ」

 ほら、この通り。と長門さんが書類山の中から引っ張り出した一枚は、緊急指令書でした。そこには『探しています! 艦娘式軽巡洋艦『大淀』候補生(この顔にティン! ときたらTKT』と、大きな顔写真が中央にレイアウトされた一枚の書類でした。
 まるで広域指名手配犯そのものです。

「うわぁ……」
「まぁ。よほどお上がヒマでもない限り、そっちは放っておいても問題ない。有望な候補者はまだ他にもいるらしいからな。本題に入ろう。良い本題と悪い本題。どちらから先に聞きたいか?」
「それでは……悪い方からお願いします」

 私は嫌いなオカズから先に片付けちゃう派の人です。

「分かった。つい今朝方――――ああ、まだ比奈鳥少佐が寝込んでいた頃に来た辞令なんだが、少佐に、というか少佐と2人に異動命令だ」
「え」
「他の基地や鎮守府の提督達にも同じ辞令が来ているそうだ。南方海域への増強派兵らしい」

 南方のどこに配属されるのかはまだ未定だし、艦娘だけではなく提督も一緒に。というのは珍しいがな。と長門さんは言いました。
 2人――――北上ちゃんとぬいぬいちゃんの事でしょう。

「南方……ですか」
「ああ。南方への増強というのは私も初めて聞くな」

 南方海域。
 かつての世界大戦当時は、最前線中の最前線だった海域です。連合・枢軸問わず数多の艦の残骸で海底が埋まった事が名前の由来となった鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)や、ガ(ダルカナル)島ならぬ飢島、アナベル・ガトー無双など、兎に角物騒な逸話に事欠かない海域でもあります。
 ですが、対深海凄艦戦争中の現在では二級戦線です。
 大本営や参謀軍団も、過去のそう言った逸話や深海凄艦の発生傾向から考えて、再び南方こそが最前線になると踏んでいたらしく、ラバウル基地を初めとしてブイン島やショートランド諸島群を要塞化し、敵主力との決戦に備えていたそうです。
(※翻訳鎮守府注釈:諸般の事情により、南方海域の “一部の” 基地や泊地ではまだ要塞は建設中です)

 しかし、当の深海凄艦側がこれを華麗にスルー。主戦場は太平洋に移った後、徐々に徐々に北上を続け、今では太平洋全域と北方海域が主戦場になっています。
 そして南に残されたのは、艦娘制作に必要な最低限の量だけをサルベージされ、手付かずのまま放置されているアイアンボトム・サウンドと、戦う相手のいない基地や要塞だけ。という話です。
 一年前の大攻勢があったとはいえ、今でも『南方海域への栄転』とは左遷の意味合いが強いです。
 大本営や参謀軍団も一年前の大攻勢については『おそらくはぐれの深海凄艦が偶然にも集まってできた一時的なものであり、連続してのスタンピードはあり得ない』との公式発表を出していますし。

「流石に初陣で大ポカやらかしたくらいで島流しになるとは思えんし、案外、南方で本当に何かあったのかもな。では、良い方の本題だ」

 話をそう締めくくると長門さんは、今度は書類山の中から一枚の便箋を抜き出しました。真っ白なこの便箋には蝋で封印が施されており、その封印に使われていた模様は横須賀鎮守府の物でした。

「実は、横須賀鎮守府から我々の提督宛に招待状が届いたんだ。夏コミ警備の慰労を兼ねて、スタジオ見学でもどうかと」
「スタジオ見学! 素敵じゃないですか!」

 横須賀鎮守府と言う事は、アイドルグループ『Team艦娘TYPE』の総本山じゃあないですか!
 そしてそこのスタジオ見学という事は、私が密かに応援している金11ドラマ『猫YAHSHA』の主人公役である、双子の航空戦艦娘『扶桑』さんと『山城』さんの撮影現場にもお邪魔できるという訳じゃないですか。先週オンエアされた回の中で言っていた、扶桑さんの『航空戦艦は進化の頂点じゃない……進化の袋小路よ!』というセリフには痺れました!! ところでシン役は誰になるんでしょう。同じ航空戦艦の伊勢さんと日向さんは、ネット上の予想だと続編の『アダムの寝起き』に出演るんじゃないかって予想ですし。
 つまり長門さんはこれから、お二人の撮影現場をナマで拝めるという訳なんですね。
 羨ましいです。

「羨ましいです」
「ははは。少佐。素直なのは良いが、一応は君も人の上に立つ人間だろう。少しは気持ちを外に出さない努力をしたらどうだ。それに」

 少し困った顔で、長門さんは一度言葉を区切りました。

「それに……今、我々――――第2、第3艦隊は提督不在でな。勝手にこの招待を受けるわけにもいかないのだ」
「あ……」

 そうでした。飛龍(着衣)さんと蒼龍(着衣)さんがそれぞれ艦隊総旗艦を務める第2、第3艦隊は、現在提督不在のまま放置されていたのでした。あの季節外れの雪の夜に、飛龍(着衣)さんと蒼龍(着衣)さんと共に出撃していったお二人はそのまま、帰らぬ――――いえ、帰還予定時不明の長期パトロールに出撃していったのです。

「かと言って、それを理由に断るのも先方の面子に関わる。送り主はあの『北の荒球磨』だ。銀剣(※銀剣突撃徽章。一会戦中に単独で軽巡以上を7隻撃沈確定で授与)3回も授与されているような歴戦の猛者の誘いを断ったらなんて……正直、考えたくも無い」

 そういうと長門さんは、ぶるりと身を震わせました。横鎮の球磨さんの略歴は存じ上げていましたが、まさか、あの長門さんがここまで怯えるとは思いませんでした。

「そこで、だ。我々有明警備府の、現在唯一の提督である比奈鳥少佐に――――」
「ハイヨロコンデー!!」

 この時は即答してしまいましたが、実はこの時、私の艦隊には動ける娘がもういなかったんですよね。たった1人を除いては。





 シリアスの次は何も考えずにギャグにすると話に緩急がついてGoodだと思うのなのです。それはそうと前に秋雲ちゃんの名前出したら次の日のAL-1で出てきました。なので今度は胸元に『!』マーク付けてメイド服着た夕雲姉さん出てこいそしてこれ書き始めた当時はホントに8月17日だったのでそこまで季節外れじゃないと信じたい祈願の艦これSS

 嗚呼、栄光のブイン基地(番外編)
『有明警備府出動せよ! 本土防衛! 陸軍の手柄横取りして面子を潰せ!! の巻』





「北上さんと川内さんは体調不良。古鷹さんは待機要員。プロトタイプ足柄さんとプロトタイプ金剛さんは市街まで男漁りとその歯止めに。……不知火は消去法ですか、そうですか」
「ご、ごめんね。ぬいぬいちゃん……あの時、つい勢いで返事しちゃったものだから」

 現在私は、帝国海軍支給のジープ(やはり、オートマ車は素敵です。マニュアル車だなんて立体パズルに乗って喜ぶ人の気持ちなんて分かりません)に乗って、横須賀ス、もとい横須賀鎮守府に向かって一路、首都高湾岸線を突き進んでいました。利用したルートは有明二丁目付近から375号線に乗り、お台場中央で首都高湾岸高速にシフトし、そのまま道なりに横須賀スタ、もとい横須賀鎮守府へと進んでいます。
 異常事態です。
 車に乗ってからずっと、渋滞が、ただの一度も発生していません。交差点付近でも、高速入口の料金所でも。
 異常事態です。

「? 司令、それはそんなに不思議な事なのでしょうか?」

 ぬいぬいちゃんは車の後部座席に乗ってからずっと、窓の外を食い入るようにして見ています。何か面白い物でも見えるんでしょうか。運転席の私から見えるのは、前の道路と左手の海、そして右手側の都市部しか見えないのですけれど。

「不思議も不思議よ、ぬいぬいちゃん。今は平日の昼間よ? 悪名高き帝都の高速道路よ? なのに今の今まで、出会った車は私達の同業車――――もとい軍関連のトラックかジープが大半で、民間の自動車なんて対向車線のを入れても30にも届いてなかったじゃない。これはもう異変よ異変。帝方道空譚とか言ってもいいレベルよ」
「はぁ、すみません。不知火は一度も自動車に乗った事が無かったもので。勉強不足でした」
「あ……」

 ここで私は、自分の失言に気が付きました。
 先日初めて電車に乗った北上ちゃんと同じく、このぬいぬいちゃんもまた、警備府と海の間を行ったり来たりするだけの生活をずっと送ってきていたのです。

「ご、ごめんなさい……私、つい、いつもの感覚で……」
「いえ。司令が気にする事ではありません。ひとえに不知火の勉強不足です。我々艦娘に改二改造が導入された以上、改二化されていない不知火も陸上戦闘も視野に入れておくべきだったというのに……不知火の落ち度です」

 自己嫌悪のあまり、食べ過ぎの時とはまた違った種類の吐き気がこみ上げて来て死にそうになります。比奈鳥ひよ子、この愚か者め。何が艦娘も普通の人間として扱いたいだ。たまの休日に外に連れ出す事もしないで、よくもそんなお題目を唱えられたものだ。
 そんな私の内心を知る由も無いぬいぬいちゃんは、窓の外にベッタリと顔を寄せて外を見ていました。ぬいぬいちゃんは普段が普段ですから、かなり珍しい物を見ているような気がします。ところでFnキーとPrtScキーはどこでしょう。
 そんな私の落ち込みを察したのか、ぬいぬいちゃんが若干焦ったように続けて言いました。

「ですが。ですがやはり外は――――陸の上は凄いです」
「すごい?」
「はい。警備府よりも背の高い建物がいくつもいくつも並んでいます。もしかして『超展開』中の不知火が小突いたら、ドミノのように倒れてしまうのではないのですか?」


 \\ビルーのまちーでぬいー♪(ぬいー!)よるーのハイウェイでぬいー♪(ぬいー!!)//


「ぶふっ」

 ご、ごめんなさい、ぬいぬいちゃん。ハンドルとられて車揺れちゃいました。

「なんでしょう……不知火に、何か、落ち度でも?」
「ご、ごめんなさいね。その光景想像したら、ちょっと吹き出しちゃっただけだから」

 私の頭の中では、3頭身にデフォルメされたぬいぬいちゃんが、燃え盛る国会議事堂を背景に、口から放射能火炎を吐いている光景が浮かんだままでした。
 だから、そんなおっかない目で睨み付けて来ても全然怖くないですよ。

「ほぅ……」
「あ、そ、そうだ! ずっと走り続けているだけだからぬいぬいちゃんも退屈でしょう? ラヂヲつけるわね!?」

 バックミラー越しにこちらを睨み付けるぬいぬいちゃんの眼光が、戦艦クラスの剣呑さを滲ませてきたことを察した私は、話題を入れ替えるべく、咄嗟にラヂヲのスイッチを入れました。

『――――れでは視聴者の方からのリクエストナンバーです。応募者は、ブイン島の胃炎になりそうなオールドホークさん。リクエストナンバーはカザンオールスターズの『王子とマンモス、時々金塊』です。どうぞ!』
「あら。通な選曲」

 というか、またブインの単語です。最近よく聞きますねえ。一応監査部に件の重複書類は送っておいたのですが、どうなったのでしょうか。

『――――番組の途中ですが、緊急報道をお伝えします。たった今、我が国と友好関係にあるゲロニアン帝国の首都でクーデターが発生しました! 今までに入ってきた情報によりますと、ゲロニアン帝国の王妃を指導者としたクーデター側勢力は自らを旧ティラミス王国解放軍と名乗り……え? え、え? こちらは未確認情報なのですが、クーデター側勢力に、超展開中の艦娘が加勢しているとの未確認情報が――――』

 ぶつん。
 私は咄嗟にラヂヲの電源を落としました。

「司令、今のニュースは」
「不知火ちゃん。気にしちゃ駄目」

 予想はしていました。
 改二型艦娘に実装された機能の中には、明らかに対深海凄艦用とは思えない機能がいくつもいくつも搭載されていた事からも明らかです。完全格納などその最たる例ですし、スペックシート上には記載されておらず、北上ちゃんとの超展開中にのみ認識できた不可視属性ファイルの対核爆撃モードに至っては何をいわんやです。
 軍上層部の言う、我々の敵とは、ひょっとして――――


「……あ、司令。工事中の看板です」
「え? あら……」

 いけません。高速でヨソ見運転とか何考えてるんでしょうか私は。
 意識を正面に戻した時、左――――海側のガードレールの一部と、道路の左半分が大きく砕けていました。一応の対策としてブルーシートが被せられていましたが、誤魔化せるような規模ではありませんでした。そして一瞬で過ぎ去ったそれらの代わりに、トンネルの中に突入しました。
 長く緩やかなカーブの続くトンネルを潜り抜け、外の光と共に飛び込んできた景色に、私も、ぬいぬいちゃんも言葉を失ってしまいました。
 都市の残骸でした。

「「あ……」」

 上半分がヘシ折れ、無残な破断面を晒す高層ビルの群れ。かつては鏡面処理され、巨大な鏡のように青空を映していたはずの真っ平らな壁面に空いた大きな虫食い穴と、放射状に走る無数のヒビ割れ。黄色と黒のキープアウトラインと簡易隔壁で隔絶されたいくつものエリア。所々が砲撃で削られた空中高架。廃墟同然のこの光景の中では、不気味なまでの違和感を発揮する真新しいコンビニエンスストア。そしてここからではよく見えませんが、あの壁に走っているミシン目の出来損ないのような線は、恐らく弾痕でしょう。

「司令……あそこが、もしかして」
「ええ。あそこが『季節外れの赤い雪』――――深海凄艦の奇襲部隊による惨劇の現場よ」

 そして、貴女達艦娘の存在が、初めて国内で知らされた事件の現場の1つでもあるわね。と心の中だけで付け加えました。
 良く晴れた今日この青空の下、廃墟同然のあの場所の沈黙が、私達の耳にも届いているような気がしました。




 そういう暗い事もありましたが、私達は無事に横須賀スタジ、もとい横須賀鎮守府に到着しました!!
 正面ゲート前で私達を出迎えていただいたのは、艦娘式球磨型軽巡洋艦1番艦『球磨』さんでした。アイドル活動中の現在では『ドミナリアの球磨』という芸名のはずです。

「いらっしゃいだクマー」

 腰まで伸ばした茶のロングヘア、針金でも接着剤でもないのに『?』あるいは変なものを見たエリマキトカゲと遭遇したスリヴァーのような形状を維持する正体不明のアホ毛、白を基調としたセーラー服とショートパンツ、そして背中の3つのそろばん煙突、バゴス神を称えるルーン文字が刻まれた爪。
 ですが、私は知っています。この、能天気な笑顔を浮かべた女子中学生モドキの経歴を。

「ど、どうも初めまして……もしかして、あの、出会って早々失礼なのですが、貴女があの『北の荒球磨』ですか? 幌筵(パラムシル)泊地の? 過去2年間で銀剣突撃徽章を3回、アリューシャン諸島経由の大規模輸送作戦『ラインアーク作戦』で人類平和貢献賞を授与された、あの?」
「うん。そーだクマー」

 球磨さんは、あっさりと頷きました。

「ていうかアンタ、じゃなくて、えぇと……」
「? ……あ! ひ、ひよ子です! 有明警備府、第一艦隊総司令官の比奈鳥ひよ子少佐です! 現在同警備府には私以外の提督が不在なので、私とこの不知火がご招待受けてまいりました! と、と到着の挨拶も無しに、申し訳ありませんでした!!」
「クマー。いえいえ。こちらこそ招待状出したクセに、先方のお名前も調べておかずに申し訳ありませんでしたクマー」

 少佐(私)と艦娘がお互いに敬語を使い、頭を下げ合うという奇妙な光景が横須賀スタジオ、もとい横須賀鎮守府の正門前にて繰り広げられていました。

「兎に角。横須賀鎮守府にようこそだクマ。とりあえず、中へどうぞクマ」
「本日はどうぞ、よろしくお願いします」
「ご指導ご鞭撻、よろしくです」

 こうして私とぬいぬいちゃんは、横須賀スタジオの中に入っていきました。
 余談ですが、車で来たことを球磨さんに話すと『え? 憲兵さんに頼んで艤装に封印テープしてもらえば、普通の艦娘でも街中出れるクマよ?』と返され、私のすぐ背後を歩くぬいぬいちゃんの視線が宇宙戦艦クラスどころか、漆黒とか琥珀色の瞳孔レベルの圧力になって来たのを、私は確かに背中で感じ取っていました。




 舞台以外の全ての照明が落された撮影スタジオ。
 そこでは、横須賀鎮守府所属の雪風ちゃんが、専用の衣装を着て、新曲のPV――――プロモーションビデオの撮影をしていました。
 デビュー曲『I Just Called to Say "It is EMEMY"』の次にして、現在収録中の新曲のタイトルは『30億ギルタンのJAMの味』だそうです。

「いっちご味~♪ ブルーベリー♪ タイプ1~♪ いろんなジャムが、あっるっけっれっど~♪ 私の好きなジャムは~……(そこに!)あるんだよ~♪」

 うずうず。
 今の私の心の中を一言で表せと言われたら、間違い無くその一言に尽きます。

「……ねぇ、ぬいぬいちゃん」
「司令。突っ込んだら負けですからね」

 間違ってもマイクに拾われないようにぼそりと呟いた私の囁きに、ぬいぬいちゃんが目もくれずに即答しました。
 確かに、歌詞とタイトルからしてツッコミ待ちなのは確定的に明らかです。ですが、私が言いたいのはそんな事ではありません。
 雪風ちゃんの衣装の事です。

「雪風はー、ジャムが好き~♪ でもね、パパは『好きとか嫌いとかはいい。トマトを食べるんだ(CV:ここだけ若本紀夫)』って言うけれど~……たとえ神にだって、雪風は従いません!!」

 うずうず。

「……ねぇ、ぬいぬいちゃん」
「司令。突っ込んだら負けですからね」

 歌詞の中にも頻繁に出てくるイチゴジャムを意識したのか、普段の超マイクロミニのワンピースを真っ赤に染め上げ、ご丁寧にもイチゴの種を意識したのか、等間隔でツブツブ模様まで入れてあります。

「雪風はー、コーヒー好き~♪ 質を問わなきゃ何時でも飲めるから~♪ でもね、ウド豆は、むせるから嫌いです☆」

 そして、その赤染めのワンピースは何故か、右肩だけが真っ白なままでした。

「もうこれツッコミ入れろって言ってるようなもんでしょうがコレェェェェェェェ!!!!」
「し、司令官!?」

 発作的に足元に転がっていた赤いペンキ缶を片手にスタジオに突撃する私。直後に聞こえてきた提督(球磨さん達のプロデューサー(兼業提督)さんとは違う方だそうです)の「カット、カットカットカットカットォ!」の叫び声にスタッフ達が私を取り押さえにかかりました。

「何でよ!? 何でみんな気にならないの!? 何で右肩だけ赤く塗ってないの!? ねぇ!? ナンデ!?」

 そんな私の素朴な疑問に、ぬいぬいちゃんですら口を揃えて異口同音に叫びました。

「「「貴様、塗りたいか!?」」」







「……クマー。到着15分で鎮守府の外に摘まみ出されるとか、マジで有り得ねークマー」
「司令官。普通なら始末書モノですよ」
「うぅ……面目ないです」

 現在私達は、横須賀の街中を歩いています。
 球磨さんがおっしゃっていた様に、憲兵さん達に球磨さんとぬいぬいちゃんの艤装の可動部及び砲口部分に封印テープ(陸軍製)を張って、鎮守府外活動報告書に場所と時間と目的を書けば、それだけでオッケーなんだそうです。私が着任した頃はそんな制度無かったのですが、聞けば隼鷹さん達が起こしたテロ活動が切っ掛けとなって、各地の艦娘や提督達からも要望や意見の上申が次々と大本営に舞い込み、とうとう上層部も折れたそうです。
 因みに球磨さんや那珂ちゃんを初めとした横鎮の娘達は、以前から『背中の艤装はアイドル衣装』という事で通して街中に出ていたそうです。余所の鎮守府や警備府でも、やはり以前からアイドルのコスプレや、軽く変装してそっくりさんという名目で外出していたそうです。私なんかとは気合の入れ方が違います。参考にせねばなりません。
 ぬいぬいちゃんの封印を担当したあの憲兵さん(お土産に持ってきたお饅頭を見て『風が語りかけ……』と呟いていました。きっとご実家が埼玉県なんでしょうね。私と一緒で)から聞いた話では、隼鷹さんの生みの親である帝国郵船の方でも、軍部と絡んでまた何かやらかしそうな雰囲気だから監視が重点と言っていました。
 ところでどうでも良いですけど、何かあの憲兵さん、飛龍さんや蒼龍さんと雰囲気が似ていましたね。何ででしょうか。

「ま、過ぎた事は過ぎた事クマ。逆に考えるクマ。横鎮の外に出れたんだと。花の帝都で遊び回れるんだと(※翻訳鎮守府注釈:職務ではないので経費では落ちません)。そう考えるとかなりお得クマー」

 球磨さんのその一言に、私とぬいぬいちゃんは顔を見合わせました。

「「帝都!」」



 それから、私達は球磨さんのリードで散々遊びつくしました(※翻訳鎮守府注釈:職務ではないので経費では落ちません)。
 原宿ウィンドウショッピング、池袋乙女ロード走破、聖地(秋葉原)にてウ=ス異本の大量摘発、有明の皆にお土産として買った帝都タワー名物『ドラゴンのミサイル焼き(塩味)』のつまみ食い、成り行きから参加した重巡教フルタカエル混沌派の黒ミサ鎮圧、他にもあれこれ……
 それらの移動には主に電車を利用したのですが、本当に大丈夫でした。
 しかも、何処かの基地や鎮守府の艦娘達の姿もチラホラ見られたくらいです。コンビニの棚だって端から端まで商品で埋まっています。流石は帝都です。物資統制中であるとは言え、人や物がいっぱいです。
 ですが、駅の時刻表には、午後九時より下を覆い隠すようにして『第一次配電供給制限につき、午後8時を終電としています。何卒ご了承・ご協力の程をお願いいたします』と書かれた張り紙が張られており、表通りには民間の自動車の姿はほとんど無く、時折走っているのを見かけるのは都営バスか軍用のトラックやジープ、そして、陸軍の主力兵器『鍋島Ⅴ型』をハンガーに乗せて走る大型トレーラーくらいのものでした(無許可の撮影どころか、パス無しで記録媒体を向けただけで逮捕されるそうです。帝都は怖い所ですね)。

 そして、一通りの事が終わった時にはもう、空は真っ暗になっていました。
 横須賀スタジオの前に戻ってきた私達は、そこで球磨さんにお別れする事になりました。スタジオ見学が15分で終了してしまったのはアレですが、それ以上に楽しかったのだから良しとします。

「やー、最初はどうなるかと思ってたけど、今日は楽しかったクマー」
「はい。不知火もです。球磨さん、ありがとうございました」
「クマー。ぬいぬいちゃんも楽しんでもらえたようで何よりだクマー」
「……だから、私は、ぬいぬいではなくてですね」

 最初は顔が強張っていたぬいぬいちゃんも、いつの間にか球磨さんと打ち解けていました。パッと見は普段と変わらない無表情ですが、私にはわかります。今のぬいぬいちゃんは、かなり緩んだ無表情です。
 流石は北の荒球磨です。

「アンタ……じゃなかった。ひよ子少佐はたいそう現代戦史に詳しいみたいクマー。銀剣3回は兎も角、ラインアークの方は知ってる人結構少ないクマー。あの『トルコの傭兵』が八面六臂の無双してたからクマ……ていうか佐渡の白銀少佐じゃあるまいし、20秒足らずで敵防衛部隊が全滅とか有り得ねークマ」
「確かに、あのトルコ人傭兵さんの活躍に隠れてますけれど、球磨さん自身の戦果も十二分に誇れるものですよ。球磨さんと提督さんが指揮していた輸送艦隊だけが脱落0だったじゃないですか。戦果は他の艦隊とほぼ同じだったから隠れていますけど、すごいですよ」
「クママママー。照れるクマー」
「確か、その時の功績で中将に昇格したんですよね、その提督さん」
「……」

 でもどうして、そんな栄光を蹴ってまで本土に? と私が続けると、球磨さんは突如として暗い顔になってしまいました。
 目のハイライトが消えています。コワイ!

「……球磨の握り拳くらいある腫瘍だったそうだクマ。あの時、提督は、蒼い顔して油汗流していても、昼飯の油に当たったとしか言わなかったクマ。でも、超展開していた足柄さんは全部知ってたはずだったクマ」
「え」
「作戦が終わった直後、足柄さんはそのままキングストン弁を自抜して提督と一緒に沈んで行ったクマ。2人とも、今でも見つかっていないクマ。全てが分かったのは、提督の私物整理の際に出てきた薬の袋と日記からだったクマ」
「そ、それは……」

 聞かなきゃよかった。

「球磨は、提督の健康管理も出来ないどころか、あの顔色の嘘すら見抜けなかった大間抜けクマ。もう艦隊には居られなかったし、居たくもなかったクマ。丁度本土でTKTの球磨の代わりを探してるって知り合いから聞いて、そのまま入れ替わったクマ」

 聞かなきゃよかった。それが今の私の嘘偽りの無い感想です。
 重いです。重過ぎです。着任してまだ5ヶ月とそこらの私には重すぎる話です。

「……ああっと! こんな話、こんな時にする話じゃないクマね。少佐、申し訳ありませんでしたクマー」
「い、いえ! こちらこそ土足で踏み入るような質問、失礼いたしました!!」

 少佐(私)と艦娘がお互いに敬語を使い、頭を下げ合うという奇妙な光景が帝都の街中で再び繰り広げられました。
 そんな私達の頭上で午後8時を告げる鐘が鳴り響き、街頭スピーカーが声を発しました。

『帝国臣民の皆さん、お勤め、ご苦労様です。午後8時になりました。ただいまから15分後の、午後8時15分より、第2次配電制限時間に入ります。まだ仕事中の方は、速やかに帰宅の準備をしてください。帝国臣民の皆さん――――』

 そのアナウンスを合図に、私は一度お辞儀をすると、車に向かって歩き出そうとしました。

「それでは、またクマー」
「はい。球磨さんもお元気で」
「(司令官が)お世話になりました」

 直後、横須賀スタジオ正面に広がる海面から、何かが飛び出してきました。
 突然周囲が暗くなったので、最初は月が雲に隠れたのかと思いました。次に、上から滴がいくつもいくつも落ちてきたので雨かとも思いました。ですが、雨にしてはやけにまとまった塊で落ちてきた事と、磯臭い匂いが気になったので上を仰いで見ました。

 深海凄艦と目が合いました。

 あまりにも至近距離かつ相手が巨大だったので、その全貌は掴めませんでした。ただ、炎のように揺らめいて輝く、赤い双眸だけが印象に残りました。
 その深海凄艦が、興味を失ったように私から視線を外し、よっこいしょとでも言わんばかりの仕草で両手両足を使ってコンクリート製の大堤防を乗り越え、横鎮には目もくれずに市街地の方に進んでいきました。
 そこまで遠ざかってようやく、その深海凄艦の全貌が明らかになりました。
 ちょうどその時、私の頭の中では何故か、インスタント提督として徴用された後の座学の時間に視聴したビデオ映像の一部が浮かんでいました。


 ――――か、艦長! 深海凄艦の艦娘です! 首と足があります!!


 完全な人型。剥き出しの歯茎と歯が並ぶ大顎状に変化した黒色の異形の両腕。黒のビキニ。スレンダーな体型を裏切る馬力とスタミナと、それらに支えられた圧倒的な格闘戦能力。
 深海凄艦の、艦娘への対抗手段。

「じゅ、重巡リ級!? 何でそんなのがここにいるクマ!? 腐れ谷の観測所は何やってたクマ!?」

 そこでようやく、耳をつんざくような大音量の警報サイレンが周囲一帯に鳴り響き、私やぬいぬいちゃんに支給されている軍用のスマートフォンにも一斉にエリアメールが着信しました。
 横須賀スタジオの中から、スーツ姿の方々や艦娘達が何人も飛び出してきました。恐らく、横須賀スタジオ所属のプロデューサー兼提督さん達なのでしょう。その流れに合流するように、球磨さんも走っていきました。彼らの目指す先は重巡リ級とは逆。海です。

「え!? く、球磨さんどちらへ!?」
「プロデューサーと合流するクマ! 沖で『超展開』して急いで戻ってくるクマ!!」
「だったらどうしてここで――――」

 それをしないんですか。という私の叫び声は、コイツ馬鹿か? とでも言いたげに歪められた球磨さんの表情に遮られてしまいました。

「それは不味いクマ! 球磨達軽巡以上の艦種だと、陸上での『展開』は爆発の影響が出るクマ! あと、駆逐艦娘は今、遠洋訓練中か地方でのアイドル活動中クマ!!」
「あ……」

 そうでした。座学でも軽巡洋艦以上の艦種が『展開』あるいは『超展開』を実行する際には、艦と艦長を保護するために、意図的な純粋エネルギー爆発を起こしてそれを保護すると習ったのに、どうして忘れていたのでしょう。

「司令」

 数少ない例外が改二型と潜水艦と、主機出力が低い駆逐艦のみです。彼女らなら今ここで超展開を実行しても何ら問題は無いのでしょうが、肝心の駆逐艦が不在ではどうしようもありません。

「司令」

 リ級の周辺で発光と爆発。急行した鍋島Ⅴ型と、陸軍の潜水艦娘『まるゆ』が交戦状態に入ったようです。しまった、まるゆの変身(Transform)を見そこないました。展開は兎も角、超展開のノウハウを一切持たない陸軍渾身のギミック、一度でいいから拝んでみたかったのに。

「司令」
「な、何!? ぬいぬいちゃん!?」
「我々も出撃しましょう。あのリ級はどういう訳か、陸に上がる事が出来るようです。ですがまだ、海岸線沿いに移動しています。今ならまだ、不知火でも追撃できます。海中に引きずり戻せば、不知火でも戦えます」

 そ、そうでした。ぬいぬいちゃんもまた、駆逐艦娘でした。
 普段の眼光の鋭さから、ついてっきり戦艦か重巡娘かと思い込んでいました。

「え、ええ。そうね! こんな状況で縄張りがどうのとか言ってられないものね!? ぬいぬいちゃん! あっちの湾が開いてるから『展開』急いで!!」
「了解しました。不知火『展開』します!!」

 足から真っ暗な海に飛び込んだぬいぬいちゃんがドボンと着水すると同時に、もの凄い大爆音と閃光が周囲を包み込みました。
 光と音が過ぎ去った後、海の上には人の形をしたものは無く、あったのは鋼鉄の艦船が一隻だけでした。

『駆逐艦『不知火』解凍作業終了しました。司令、お急ぎを』
「え、ええ! ぬいぬいちゃん。私が席に着いたら即『超展開』いけるわよね!!」
『期待に応えてみせます』

 降りてきたタラップを駆け上がり、脇目も振らずに艦橋を目指します。
 目指す先は、艦長席です。






【U1、深刻なダメージを受けています】
【U2とのデータリンク途絶。U3、システムダウン】
【U4、残弾30%】
【まるゆ399より全ユニット。警邏隊は周辺住民の避難を完了したとの報告です】
【まるゆ401と402。配置につきました。待機中】
【まるゆ403と404。射線が取れません。移動中】
【まるゆ397より全ユニット。大破したまるゆ398と私の回収をお願いします】
【まるゆ400! そんな暇ありません! 現在A1を誘導中です! 狙撃ポイントまであと20!!】

 超展開時の記憶酔いも晴れ、海の中をぐるりと回って現場に到着した時、そこにはまだ破壊の痕跡は大してありませんでした。
 そこにあったのは配電供給制限中の暗闇と、緊急点灯された無数のサーチライトに照らされた重巡リ級と、周囲のビル壁を跳び回る鍋島Ⅴ型、そして、ビルを盾にゆっくりと後退しながら砲撃戦を続ける、白いスクール水着を着た小さな――――といっても、全長数十メートルオーバーですが――――少女の姿がありました。
 艦娘式潜航(?)艇『まるゆ』
 それがあの少女の名前です。手に持っている小さな銃砲でリ級を撃っていますが、大したダメージにはなっていないようです。リ級の両腕を覆っている、真っ黒な主砲塔群格納殻に弾かれて火花を散らしているだけです。何発かは装甲化されていない死人色の皮膚状物質に着弾しているようですが、それでも青アザ1つできておらず、大したダメージになっているとは思えませんでした。
 まるゆちゃんを公園の広場の端に追い詰めたリ級が腕を大きく振り上げ、見えない何かに吹き飛ばされたかのように大きく弾かれました。
 狙撃。
 今しがた混線していた陸軍さんの通信にもあったとおり、今のまるゆちゃんは囮だったようです。たしか……キルゾーン・サツマとか言いましたっけ。わざと弱い振りをして、適当な所まで誘導してありったけの攻撃をする戦法です。

【まるゆ401。攻撃失敗、移動中!】

 頭部に直撃したかと思われた攻撃は、咄嗟に挙げられた右腕によって防がれていました。ですが、今までのまるで無力な攻撃とは違って、盾にした右腕の皮膚には大きくてきれいな丸穴が開いており、そこからドクドクと血が流れおちていました。
 それに激高したのか、炎のように赤く輝く瞳のリ級が左右の腕口から主砲を生やし、砲弾が飛来した方向に向かって一斉射。当のまるゆちゃんは低い背と乱立するビル群を盾に砲撃をやり過ごし、どこかへと遁走します。
 その背後から再び狙撃。
 ヘッドショット。
 ですが、突然周囲を包み込んだ閃光で照準がブレ、リ級の頭を撃ち抜くはずだった砲弾はかすりもせずに背後のビルに穴をあけるだけに留まってしまいました。

【まるゆ403。外した! 何今の光!?】

 幸運にも狙撃をかわしたリ級が背後に振り向いて砲撃。主砲の8inch三連装砲と副砲の6inch連装速射砲による制圧砲撃で、その周辺がひっくり返されたおもちゃ箱のようにグシャグシャになっていきます。

【まるゆ401より全ユニットへ。120ミリなら敵の皮膚を貫けます! 予備のAPFSDS誰か持っていませんか!?】
【まるゆ403より401。残弾2。ポイントCで受け渡します。現在移動中】
【まるゆ399より海上の所属不明機。タレカ】

 突如として私と、超展開中のぬいぬいちゃんに向かってサーチライトが一条、向けられました。とんでもなく眩しいです。

 ――――え、えと、あ、ああの!!
【帝国海軍、有明警備府第一艦隊所属、不知火改です。こちらは同艦隊司令官の比奈鳥ひよ子少佐。救援に参りました。状況を】

 突如として誰何を受けてしどろもどろになった私と違って、ぬいぬいちゃんは立て板に水を流すかのように返答しました。しかもご丁寧な事に、手の甲を見せない陸軍式の敬礼までつけて。

【……帝国陸軍、湾岸防衛隊のまるゆ399号です。状況は見ての通りです。敵勢力は既に本土に上陸。数は1。ピケットラインの内側から直接侵入・上陸されたので、被害はこのあたりのビル群を除いてはごく軽微。いったい、どうやってここまで来たんでしょうか……】

 手の甲を見せる海軍式の敬礼を返したまるゆちゃんの言う通りで、本当に不思議です。重巡リ級ほどの大型種になれば、一昔前のPRBR検出デバイスにだって必ず引っかかるはずなのですけど。
 ですが、今はそんな事を考えている暇はありません。私は提督です。深海凄艦と戦える力を持った人間。勤めを全うしなくては。

 ――――了解しました。超展開の持続時間が心元有りません。比奈鳥ひよ子少佐、これより吶喊します。
【え?】
【え?】

 ハッキリ言って、すごく怖いです。いつぞやの駆逐ニ級と戦った時が私の初陣ですが、大型種と戦うのは今日が初めてです。しかも、警備府の他の艦娘達と違って、ぬいぬいちゃんも今日が初の実戦です。しかも相手は軽母ヌ級と並んで『艦娘殺し』とまで呼ばれた重巡リ級です。

 ――――だからと言って、怯んで良い訳がありません!
【あ、あの。司令、まさか実戦で緊張しすぎて……?】

 着任してから半年もたってないような私が策を練っても、どうせ自滅するだけです。だったら、こちらに背後を向けているリ級の背中に直接、射突型酸素魚雷を叩き付けてやればいいのです。シンプルイズベスト。
 先程のリ級を真似て、陸に上陸させたぬいぬいちゃんの艦体に自我コマンドを入力。ぬいぬいちゃんの左腕に酸素魚雷を展開し、艦体を全力疾走させます。
 直後、私の両足に激痛が走り、思わず転倒してしまいました。

【メインシステムデバイス維持系より警告:左右脚部の運動デバイスに異常な過負荷が発生しています】
【メインシステムデバイス維持系より警告:左右脛骨ユニットに異常圧力。亀裂が発生しています】

 咄嗟に機転を利かせてくれたぬいぬいちゃんが痛覚接続をカットして、わざと転倒してくれたおかげで、私はこれ以上痛みに呻かないで済みました。そして、その瞬間に流入してきたぬいぬいちゃんの焦燥や困惑、怒りといった概念から、私がやらかしてしまった大ポカの正体が判明しました。

【司令官……不知火は、不知火は改二型ではないのですよ!? 川内さんや北上さんのように陸戦には対応できていないのですよ!?】

 何という迂闊でしょう。前のめりに倒れたまま足元を見てみれば、酷い有様でした。カカト・スクリューは見るも無残にひしゃげて曲がり、人間で言うところの筋繊維沿いに沿って足の皮膚は裂け、所々から断線した運動デバイスの繊維と、血液代わりのドス黒いオイルが流れ出していました。
 デバイス維持系に質問信号を通してみれば、見た目ほどの損傷ではないとの事でしたが、全力疾走なんてもってのほかだと警告されました。
 転倒した時の音で、重巡リ級がこちらに振り向きました。
 そして、今までのゆったりとした動きが嘘だったかのように、機敏に走り出しました。こちらに向かって。

 ――――あ、ぁあ……!!
【司令官! 立って! 逃げて!!】

 ぬいぬいちゃんから伝わる焦燥感に押されて、私の頭の中は真っ白になっていました。それでもぬいぬいちゃんの必至な声に従って、私が何とか艦体を立ち上がらせた時、リ級はもう目の前にいました。
 ショルダータックル。

 ――――ヒッ!?

 急に世界がスローモーションに見え始め、私が何か考えるよりも先に、本能が私の身体を動かしていました。

 ――――あれ、この光景、前にもどこかで……?

 ぬいぬいちゃんの膝を大きく曲げ、足を広げて深く腰を落とし、お相撲さんのように前かがみになりながら両腕を広げて、突進してきた重巡リ級の腰を掴みます。踏ん張りがきかなかったアスファルトが砕けて削られ、後方に押し出され続ける両足から金属のひしゃげ捻じ曲がる不気味な音が聞こえますが、それでも上半身丸ごとを使って抑え込み、突進の勢いを完全に殺します。

【と、止まった……】
【駆逐艦が……重巡を正面から抑え込んで……!?】
 ――――【ァィ】

 思い出しました。
 彼我共にたった一人だけとはいえ、このシチュエーションはとても良く似ていたのです。あの、夏と冬の戦場の光景に。あの、開催の拍手を待たずに突撃を開始するフライング野郎共の人津波に。
 それさえ分かれば、もう何も怖くないです。
 自我コマンド入力。
 ぬいぬいちゃんの足がさらに歪んでひしゃげるのにも構わず、最初の一歩を踏み出します。最初は一歩。次は二歩。そして三歩。身長も体重も、私達よりもはるかに上であるはずの重巡リ級は、砂の上を滑るかのようにあっけなくアスファルトの上を押し戻されて行きます。
 その当時の私達からは見えなかったのですが、後々まるゆさん達から聞いたところによると、その重巡リ級はハッキリと分かる表情で困惑していたそうです。

【ど、どんどん押し返して!?】
【まるゆ401より海軍さん! そのまま後ろのビルまで押し出してください! 仕留めます!!】
 ――――【サァィ】

 呆然と私達を見つめるまるゆちゃん達の呟きにはもう答えるだけの余裕がありませんでした。私も、ぬいぬいちゃんも、有明警備府の本能に従って魔法の呪文を叫びながら反撃に打って出ました。

 ――――【カイサアアアァァァイ!! コミ(ックカー)ニバル!!】
【【【ナンデ!?】】】

 その掛け声と共に自我コマンド入力。全運動デバイスにマックストルクをオーダー。力強く一歩を進める度に加速し、5歩目のあたりから私達が押し出す速度は目に見えて早くなり、最終的には全力ダッシュとそう大して変わらない様相になっていました。
 リ級を押し出しながら背後にあったオカメ建築式ビルに突撃。叩き付けられ、ビル壁面に大の字になってめり込んだリ級が首だけを動かしてこちらを憎々しげに睨み付けます。今こそまさに、射突型酸素魚雷を叩き付ける絶好の機会なのですが、そこまで人生は甘くありませんでした。
 時間切れ。

【司令官……超展開、解除されました】

 突如として、陸の上では無力な駆逐艦本来の姿に戻ってしまったぬいぬいちゃんを見て、リ級に嗜虐的な表情が浮かびました。
 そしてそのまま、マッハの速度で飛来した2発の120㎜APFSDSが大きく見開かれた左右の目玉に向かって吸い込まれるようにして着弾。その運動エネルギーでリ級の首から上を綺麗に挽肉に変えてしまいました。
 フェメレフ・ショット。
 あまりにも突然すぎて、何が何だかわかりませんでした。

【まるゆ401。排除完了】
【まるゆ403。排除完了】

 膝から崩れ落ち、急速に体組織を劣化させながらグズグズと溶けていく重巡リ級の腐敗臭と、陸の上の公園の隅っこに打ち揚げられた駆逐艦と私。
 あとに残されたのは、たったそれだけでした。






 本日の戦果:

 駆逐イ級        ×3(横須賀鎮守府の成果)
 駆逐イ級(※1)    ×1(〃)
 軽巡ヘ級        ×2(〃)
 雷巡チ級        ×4(〃)
 軽母ヌ級        ×2(〃)
 重巡リ級(※1)(※2)×0.5(有明警備府および陸軍の共同撃沈のため)

 深海凄艦側勢力が、本土上陸を成功させました。
 帝国本土全域における、深海凄艦の脅威指数が急上昇しています。
 大本営が、帝国本土防衛網の再編成を開始しました。
 それに伴い、第1次南方海域増強派兵隊の人員も再編成されました。
 南方海域ブイン仮設要塞港(ブイン基地)の、不正な資材受注(二重帳簿)が発覚しました。

 


 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上




 本日の被害:

 駆逐艦『ぬいぬい改』:大破(有明警備府所属。スクリューシャフト破損、左右脚部運動デバイス全交換の要有り、超展開用大動脈ケーブル断裂、主機異常加熱)




 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上

 ※1 太平洋戦線、および西方海域にて確認された亜種『タイプ=フラグシップ』と情報が一致しました。
 ※2 南方海域で確認された突然変異種『ダ号目標』と性質が酷似しています。TKTが詳細を調査中です。



 特記事項

 比奈鳥ひよ子少佐に対する南方海域への異動命令を取り消す。従来通り、艦隊の練度を維持・向上させつつ本土防衛の任に当たる事。
 比奈鳥ひよ子少佐は、後で戦闘報告書と共に横須賀鎮守府内で起こした、同鎮守府の任務妨害行為についての始末書を提出する事。







 本日のOKシーン


 比奈鳥ひよ子少佐が、重巡リ級に寄り切り勝利を得たあの日から数えて、一週間ほど時計の針が進んだ。

「比奈鳥少佐、入ります」
『どうぞ』

 部屋の中から返事が返ってきたのを確認し、失礼しますと一言告げてから第2艦隊の執務室の中に入ったひよ子の目に写ったのは、いつぞやの時よりも更にうず高く積まれた書類の山と、その中で端末を使って入力作業を黙々と続けている戦艦娘『長門』の姿だった。誠に遺憾な事に、メガネは装着していなかった。
 ひよ子の方を振り向きもせず、ワードで書類作成を続けながら長門が言った。

「比奈鳥少佐。ニュースが二つある。ロクでも無い話と、とことんロクでも無い話の二つだ」

 とことんロクでもないってどんなのかしら。とひよ子は思ったが、口には出せなかった。嫌いなオカズから片付ける派の彼女でも、聞くのはためらわれた。

「……では、ロクでもない方からお願いします」
「わかった。TKT――――ああ、研究Teamの方からだ。そっちから、少佐と陸軍が交戦した重巡リ級の調査結果が入って来た」
「随分と速いですね」
「ああ。今回の襲撃と似たような件が以前にもあったらしい」

 そう言って長門は一度タイピングの手を止めて、書類山の中からホチキス止めされた資料の紙束を引っこ抜き、ひよ子に手渡した。ひよ子の手に渡った資料は、彼女自身の小指ほどの厚みもあった。タイトルには『井戸水レポート(Team艦娘TYPE検閲済・総集編)』とあった。
 長門が再び入力作業に戻る。故に、五十鈴牧場と呼称される臓器密売およびクローン売春を主力産業としたブラック鎮守府および提督の撲滅は窮務、休務、急務であり、我々有明警備府の中でも、

「……井戸水レポート、ですか?」
「ああ。詳しくは私も知らないが、TKTのフロントライナーが今、南方海域に派遣されているらしい。その彼だか彼女だかは知らないが、兎に角その井戸水とやらの報告書にあった『ダークスティール』とかいう戦艦ル級の突然変異種と、今回本土上陸を成功させた重巡リ級。艦種の違いこそあれ、内臓器官や設計コンセプトがほとんど同じものらしい」

 上陸戦を前提とし、ステルス機能を有する、第四世代型の深海凄艦。

 ひよ子の手の中のレポートはその内容の大半が検閲によってマスキングされていたが、拾って読める所をまとめると、そう書かれていた。
 最初期の第一世代。対艦ミサイルなどに対抗すべくして皮膚状組織の肥厚化や内外骨格の多層化が進んだ第二世代型。そして現在主流となっている、嫌気装甲や好気性肉食バクテリアを寄生させた機密保持能力を有する第三世代型。

「そして件の第四世代型は、そのステルス機能をもってピケットラインの内側、あるいは陸上へと隠密接敵し、第三世代型の機密保持能力を廃して得た長時間の継戦能力をもって軍事施設や都市部への奇襲攻撃を旨とした深海凄艦。それが今回交戦した重巡リ級の正体ではないかと推測されている。もっとも」

 もっともコイツはタイプ=フラグシップを素体にしてるくせに、機密保持能力を維持したままだったし、言うならば第三・五世代型だな。と長門は画面から目を離さずに呟いた。急務であり、我々有明警備府の中でも特に練度と経験に優れたる我々第2艦隊こそがその任務の遂行に相応しいと愚公、愚行、愚考する次第であります。

「つまり……どういう事なんです?」

 ひよ子が心底訳が分からないとでも言いたげな表情で首を傾げた。
 対する長門は、思わずタイピングの手を止めてひよ子を見た。こんなのがここの警備府唯一の提督で大丈夫なんだろうかと大真面目に心配していたが、艦娘と提督という立場上、顔には出さなかった。

「……つまり、だ。あのリ級は我々で言うところのプロトタイプやテストヘッド的な存在なのだろう。という事だ。バグの洗い出しなんかに使うアレだ。つまり、深海凄艦は、そう遠くない内に、ステルス機能を持った連中を量産してくる可能性が高いという訳だ。この間みたいなのが当たり前になるという事だな」

 そこまで聞いて、ようやくひよ子の顔に理解と驚愕の色が浮かぶ。

「お、大事じゃないですか!?」
「やっと理解してくれたか。では次のニュースだ。……我々艦娘という存在が、海軍から消えるかもしれん」

 大事にも程がある。
 ひよ子は、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「?」
「……あのリ級との戦闘中、激しい閃光が起こっただろう」
「は、はい。でもあれは、沖合で横須賀の誰かが『超展開』を実行したからなのでは……?」
「違う。というか少佐。テレビのニュースくらい見たらどうだ。少佐の南方行きが取り消された理由もそこでやっていたというのに」

 長門が作成したファイルを保存して、一度時計の針を確認してからひよ子の方に振り返って言った。

「時間か。丁度いい。私が言うよりも、今日のニュースを見た方が早いだろうしな」

 長門が部屋を後にする。ひよ子も、部屋の電気を消して窓の鍵かけをチェックしてからその後に続いた。



「あ、長門さんお疲れ様です!」

 有明警備府の共同居間に向かった長門とひよ子を出迎えたのは、同室内のテレビの前にかじりついて離れない有明警備府の第1から第3までのほとんど全ての艦娘達――――警備内を巡回中の足柄プロトと、近海哨戒中の川内改二は除く――――の姿だった。
 この時間ならいつもは道着に着替えて道場でチャドー・ゼンを組んでいるはずの飛龍(湯上りジャージ姿)と蒼龍(湯上りパジャマ姿)の2人の姿まであった。

「うむ。お疲れ様。秋雲、すまないが、そろそろ記者会見が始まる時間だと思う。チャンネルを変えてくれないか?」
「了解でーす」

 そう言うと秋雲は手に持っていたTVのリモコンを操作して、壁に掛けてあった極薄EL画面のチャンネルを変えた。
 画面の中ではちょうど、金6アニメ『Can't Dead Wonder.』の最終回が映っており、主人公の村雨妹紅がサムズアップしながら薪の火となった瞬間が映し出される直前であった。チャンネルを変えた張本人である秋雲は、後々神シーン認定されたその瞬間を見損ねた事を激しく後悔する事になるが、今は放っておこう。
 映像がアニメから実写に切り替わった。
 記者会見場。
 白い布がかけられた無人の長テーブル、その上に集められたマイク、気の早いカメラフラッシュと記者群のざわめきだけが映っていた。

 会見場に入って来た誰かがテーブルの上のマイクの1つを手に取る。フラッシュが激しくなる。
 そのスーツ姿の男は痩せぎすで、いかにもアイアム中間管理職の人間ですといった雰囲気を滲ませていた。
 口を開く。

『――――ではこれより、説明会見を始めさせていただきます。まず初めに、我々Team艦娘TYPEについてですが、その性質上、暗殺や誘拐の危険性が常に存在しています。その為、偽名での進行となりますが、なにとぞご了承ください』

 フラッシュが一段と焚かれる。

『私は、今回の説明担当となりました『Y』開発担当のロックアイス主任です。では、今回の爆発事故について、さっそくご説明をさせていただきます』

 のっけから爆弾発言だった。

「ば、爆発……!?」
「シッ」

 呆然とつぶやくひよ子に、今更何に驚いているんだろうという視線がいくつも横目で突き刺さる。ぬいぬい改(両足にまだ包帯)が静かにしろとジェスチャー。
 ソファのど真ん中を占領している北上改二が無言でボリュームを上げる。

『今回の爆発ですが、現在開発中の『Y』の試作二号機の臨界試運転中の爆発事故であると調査の結果、判明しています。試運転の理由ですが、これは『Y』の超展開実施試験の為であり――――』
『ダブルスポイラーの姫海棠です。ロックアイス主任、あなたは今『超展開』とおっしゃいましたが、その『Y』というのは艦娘なのでしょうか。それも、テレビ出演しているアイドルの方ではなく、実際の戦場に送られている方の』

 ロックアイスの言葉を遮り、記者の一人が挙手。返事も待たずに質問を投げかける。
 テレビの向こうのロックアイス主任は顔にこそ出していなかったが、礼儀知らずな事を差し置いてもこの記者はよく勉強してきているな。と素直に感心していた。
 隼鷹達の電波ジャックにより、アイドルではない艦娘の存在が明らかにされたのはつい最近の事だし、戦場の艦娘を知っているのは兎も角、超展開という単語をどこでどうやって入手したのだろう。生半可な情報統制ではない筈なのだが。ひょっとして、このあいだロックアイスの仕事場に取材に来たあの犬塚とか言うフリーのカメラマンと同じで、実際に最前線まで行きでもしたのだろうか。

『はい。そうですね、私がいちいち説明するよりも、現物を見た方が早いでしょう。入ってきなさい』
『はい。失礼します』

 最近の若い子の行動力ってすごいなーなどと考えつつ、ロックアイス主任は顔色一つ変えずに爆弾発言を投下した。この手際の良さから察するに、ひょっとしたら、最初からこの爆弾は投下する予定だったのかもしれないが。
 カメラが右にパンする。
 さらに焚かれたフラッシュをまるで意に介さず、穏やかな笑みを浮かべた一人の女性が会見場に入室してきた。

 異様な艦娘だった。

 その娘が一歩進むたび、鈍い音と揺れが会場に小さく響いた。
 艦娘最大の特徴であるその艤装は娘の体全体を包み込むほどに巨大で、大小無数の砲塔が据え付けられていた。
 対する艦娘自体は見目麗しい娘であり、桜模様の簪で1つにまとめられた長大な黒髪のポニーテールで、金網状の測距儀が横に伸びる鉄色のカチューシャを付け、やんごとなきお方の御家紋が彫られた首輪をかけて、赤いスカーフのセーラー服と赤のミニスカートを履いていた。絶対領域を形成している左の黒いサイハイソックスには白い達筆で『人生紙吹雪』とあった。
 バストは実際豊満()だった。

『新聞記者の皆様方、初めまして。大帝圀海軍総旗艦『大和』です』

 一瞬、
 ほんの一瞬だけだったが、テレビの向こうの記者群も、有明警備府の面々も、どこかの基地や鎮守府でこの記者会見を見ていた誰も彼もが皆、動きを止めた。
 有明警備府の誰かが呆然と呟く。

「あれが……大和」

 戦艦『大和』

 軍事知識に疎いひよ子ですら知っている戦艦だ。空を飛んだりワープしたり平静からタイムスリップしたお化けが乗り込んでいたりと、色々な作品でも取り上げられている事から、民間での知名度も高い。何で今まで艦娘がいなかったのに誰も疑問に思わなかったのか、逆に不思議なくらいである。
 ロックアイス主任は続ける。

『すでに『Y』――――大和は、各地の一部最精鋭艦隊に先行量産型として少数配置されております。今回の実験は大和に使われている主機の負荷限界、および脆弱性を確認するための実験であり、今回の爆発事故は大和の戦闘信頼性を損なうものでは無い。とこの場を借りてご報告差し上げます』

 会場がざわめく。フラッシュすら焚かれない。
 誰かが挙手。どうぞと言われてから起立し、言う。

「ニューズウィーク帝国支社のマックス・ロボです。ロックアイス主任。今回の事故は被害総額およそ2兆ドルとの試算結果が出ていますが……どのように責任を取るおつもりで?」
「爆発した『Y』――――プロトタイプ大和2号機が残したデータの内容には大変満足しています」

 テレビの向こうの記者群も、有明警備府の面々も、どこかの基地や鎮守府でこの記者会見を見ていた誰も彼もが皆、動きを止めた。

「次は失敗しません。ご期待ください」

 ロックアイス主任が手元にあった資料をまとめて退席する。
 隣に立っていた大和は、困惑と不安に満ちた表情でロックアイスが出ていった方と正面をオロオロと見比べていたが、軽くお辞儀をすると小走りで会場を後にした。
 さらに数秒間の呆然とした沈黙の後、とんでもない量の大罵声が記者会見場を埋め尽くした。その音量だけで有明警備府のテレビがガタガタと揺れているくらいだ。

「「「な……」」」

 有明警備府の誰もが呆然と呟く。

「「「何て野郎だ……」」」

 呆気に取られたままの有明警備府の面々がいる共同居間。
 そこの片隅に鎮座しているスタンド式ハンガーに吊り下げられている一週間分の新聞には、七日間の一面記事には、それぞれこう書かれていた。

『帝都湾沖、謎の大爆発!』『帝都湾防衛網に大損害、事実上の機能停止状態へ!!』『250名を超える死傷者数(※艦娘は除く)まだまだ増える……』『戦艦娘『陸奥』は関与を否定!!』『軍の新艦娘の事故!?』『高まる艦娘への不信! 安全性への疑問!!』『艦娘は不要! 通常兵器の強化を求める市民の声!』『後日の記者会見にて軍が公式発表を宣言!!』

 いずれも、プロトタイプ『大和』2号機の事故によって生じた事故の被害の大きさや悲惨さを取り上げた物であり、日を追うにつれて艦娘そのものへの不信感が高まってきているのが見出しからでもよく分かる。
 だが、先程長門が言ったように『本当に艦娘というカテゴリの兵器が消えるのか?』という疑問については、はっきりとNOであると言える。
 艦娘ほどコストパフォーマンスに優れた対深海凄艦戦争用の兵器は未だ開発されていないし、通常兵器として見た場合でも(軍も政府も公式見解は出していないが)改二型などに代表されるように、色々と対人的に優れたパフォーマンスを秘めた兵器でもあるからだ。
 そもそも、南方海域増強派兵を取り消してまで本土防衛網の穴を埋めているほどだというのに、本当に艦娘を――――世界的に見て数千・数万単位で生産・運用されている全ての艦娘を――――戦線から外して、そこに開いた穴をどう埋めるつもりなのか。また、『帝国には艦娘ありき』が前提になっている各国間の軍事バランスはどうするつもりなのか。この新聞記事を書いたライターどもはそこんとこもう少し調べてから書き直せ。

 兎に角、それらに代表される真っ当な理由と、人類存亡の危機という免罪符があるからこそ艦娘は消えはしないだろう。少なくとも、この戦争が続いている限りは。
 だが、
 だが、今回の記者会見にて、その艦娘の立場が著しく悪化したのは明らかである。
 それが今後の――――街中を出歩けるようになったばかりの艦娘達に――――どのような悪影響をもたらすのか。また、いずれ来るであろう戦後にどのような禍根を残すのか。

 それはまだ、誰にも分からない。



 今度こそ終れ。


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