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No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
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[38827] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:ccc713c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/26 04:45
※番外編!
※本編はもう少々お待ちください。
※突貫で書いたので色々と酷いです。後半に向かうにつれて特に。
※地理とか軍事とかその辺の知識はサッパリです。違和感は華麗にスルーしてください。ぜひともお願いします。
※いつも通りのオリ設定が満載です。
※『○×はこんなことしねーし、言わねーよ』な表現多々あります。そういうの駄目な人はご容赦ください。
※今回グロ表現そこまで無いはずです。多分。きっと。だといいな。
※アッー!

※(2014/07/25初出。26日誤字修正)



提督「川内ちゃん、陸軍から野戦演習の依頼が来てるわよ?」
川内「夜戦!? 大好きです!!」


                         ――――――――提督と川内(改二)のある日の会話より






『つーきはーしずんーでー♪ ほしかげもーなーしー♪ やーせんーするーならー、こよいがちゃーんーすー♪』
『五月蝿い夜戦バカ! 黙って寝ろ!!』
『朝の三時半はもう朝だ! とっとと寝ろ!!』
『また陸軍さんとの合同野戦演習(誤字にあらず)に突き出したろか!?』

 私が毎朝目を覚ますのに使っているのは、小学校時代から愛用しているお古の目覚まし時計……ではなくて、自主的な夜戦演習から帰って来た軽巡洋艦『川内』の気持ちよさそうな歌い声。そして、それに熱い罵声(エール)を送る他の艦娘達の黄色い罵詈雑言です。

「んにゃ……もう朝かぁ」

 寝ぼけ眼をこすり、枕元に置いてあった眼鏡を手探りで摘まんで取り、ぼやけた視界が鮮明になるのと同時に、眠気もようやくまともに取れてくれました。

『しほうろっぽう、はっぽーう、ほーうか♪ 冗談交じりでー、モールス打ったらー、撃ちかーえーされたよー♪ ワレアオバ~♪』

 提督専用に用意された個室の向こう側の廊下から、どこか別の部屋の扉が開き、またバタンと閉めた音が聞こえてきました。多分、今川内が帰って来てそのまま布団の中に潜り込んだのでしょう。
 毎晩毎晩、ヨソの部隊との砲撃・雷撃戦演習をこなし、相手の都合がつかなかったときでも、軽巡洋艦本来の姿に解展開して真っ暗な海の上での単独無灯火航行訓練。
 そうなると川内は一日数時間しか寝ていない計算になりますけど、疲れが溜まったりはしないのでしょうか。あ、いや、夜戦『バカ』だからまさか気が付いていないとか……いや、まさかね。
 そんなことをつらつらと思いつつも、私は一度洗面台で顔を洗って完全に眠気を取り払った後、テキパキと着替えを済ませていきます。
 パジャマのボタンを全部外してから脱いで、もう一度全部のボタンを留めたらクローゼットの中につるしてあった空きハンガーに掛けます。パジャマのズボンも、簡単に二つ折りにしてからやはりハンガーに掛けてクローゼットの中に吊るしておきます。
 そして、クローゼットの下段棚にある下着入れの中から、今日一日お世話になるブラジャーとショーツを手に取り、入念に吟味します。見せる相手いないけど。

「……う~ん、紫のレース入り(ジッパー付き)とか、何で買ったんだろう、私」

 足柄プロトの趣味に汚染されたかなぁと独り言ちながらも、兎に角ごく普通の白で上下を揃えてからストッキングを履き、帝国海軍通常礼装――――俗に言う、肩紐付きの白い制服は一種礼装で、別物だそうです――――に着替えます。
 礼帽、メガネ、肩紐無しの白いフロックコートに同色のスカート(男性はズボンだそうです)に、帝国海軍指定の白いハイヒールで頭からつま先までカッチリと身を固めます(男性は白塗りのローファーだそうですが、なんだか走りづらそうです)。
 そして本来ならこれらに加えてサーベルを佩くのですが、そんなの守っている人は誰もいません。
 何でも以前、サーベルを佩いたまま外に出たところ、偽警官として逮捕された提督さん(私のようなインスタントと違って正規の訓練を受けた方だそうです)がいたとの事で、上層部も普段なら無視してOKとのお触れを出したくらいです。
 普段の仕事着に着替え終わったら、クローゼットの横に置いてある大きな姿見の掛け布を取って、身だしなみを確かめます。

「……よし、完璧!」

 鏡の中の私――――比奈鳥ひよ子少佐は、普段と変わらぬ笑顔を浮かべていました。




 本編を書けば書くほど終わりが遠ざかる謎の奇病にかかった&夏休み(コミケ)なんて贅沢社畜にゃ無かったよファッキンマザーファッカー忌念の艦これSS

 嗚呼、栄光のブイン基地(番外編)
『有明警備府出動せよ! 比奈鳥ひよ子少佐の優雅なる一日 の巻』




 朝です。
 ご飯です!

「つまりね、北上ちゃん。私が言いたいのは、川内ちゃんはあんな生活続けていて大丈夫なの? って事なのよ」

 もぐもぐむしゃむしゃ。などというみっともない咀嚼音などさせません。
『お食事時は静かに素早く。お喋りするならお口の中身が無くなってから』というのが、有明警備府所属、第一艦隊――――ぶっちゃけ私の麾下艦隊の事です――――の鉄の掟です。
 今私の相談に乗ってもらっているこの娘、艦娘式重雷装艦『北上改』も私も、既に朝食を済ませて食後のお茶を一服しているところです。

「あー、提督。ソレやめといた方が良いわ」

 北上(改)ちゃんは、普段と変わらぬぽけっとした表情で、私が『どうして?』と聞くよりも先に続けました。

「私らも以前、提督とおんなじ事考えてさ、夕食に薬盛って強制的に寝かしつけたことあんだけどさ、結果最悪」
「薬!?」
「睡眠時間取れてるはずなのに目の下に凄いクマは出るわ、子日ちゃんを大井っちと間違えるわ、挙句の果てには『どうだ川内、私の身体は川内として最高か!?』とか意味分かんない事叫びながら手持ちのメモ帳に何かよく分かんない数式書き殴り始めるわでもう駄目駄目だったんだわ」
「あー……もしかして、先月の終わりくらいに川内が入渠ルームのボックス1つ丸ごと3日間ずっと占領してたのはもしかして、その時の後遺症?」
「うん」

 恐る恐る私が確かめると、北上(改)ちゃんはあっさりと頷きました。あの時は大騒ぎでした。普段なら遅くとも半日以内に出てくるはずの川内ちゃんが、いつまで経っても出てこないので、入渠ルーム内で川内ちゃんに何かあったんじゃないかと気が動転して思わず近くを通りかかった、第二艦隊所属の戦艦娘『長門』さんに『助けて、川内ちゃんが死んじゃう!』と泣きついた記憶があります。恥です。黒歴史です。
 このクソ上もとい北上(改)ちゃんにはそのネタで先週まで散々からかわれました。穴があったら死にたいです。いやむしろ殺す。先週の大掃除の際に間違って燃えるゴミに出しちゃった復讐に燃えたファラオ(Vengeful Pharaoh)よ、私は精神的戦闘ダメージを受けました。あいつを対象に貴方様の誘発型能力をスタックしてください。

「まー、アレだね。夜戦バカは夜戦させときゃ良いんじゃない? 流石に自分の体調の良し悪しくらいわかるっしょ。何かあったらあたしがどうにかするし」

 それだけ言うと北上(改)ちゃんは、ごっそさーん。と空になった湯呑を片づけにいってしまいました。北上ちゃんは心底どうでもいいような言い方をしていましたが、私は知っています。もし本当に川内ちゃんに何かあった時は、北上ちゃんは言葉通りに何とかしようとするでしょう。

「北上ちゃん、ありがとね。お話したら少し気が楽になったわ。貴女って、本当に頼りになるわ」
「……ッ、ま、まぁお礼を言われるほどの事じゃないって。それに、提督の気分が楽になったのは――――」

 突然、顔を真っ赤にさせた北上(改)ちゃんは少しどもりながら手の中にあったものをこちらに向かって放り投げました。風邪でしょうか?
 狙い違わず私の手の中に収まった物は、キノコでした。
 それも、悶え苦しむような人面にも見える奇っ怪な皺紋様を浮かべた、毒々しい白紫色をした手のひらサイズの一本茸でした。

 ――――ま゚み゚ぃぃぃィィィ……
「ヒッ!? しゃ、喋っ!?」

 私が思わずそのキノコから手を放すと同時に、北上(改)ちゃんは脇目も振らずに食堂入口に向かって全力ダッシュを開始。

「――――それに、提督の気分が楽になったのは、提督が美味しい美味しいって言って飲んでいたお味噌汁のお椀にだけそのキノコを入れたから」
「ま、待てやクソ上ィィィ――――!!!!」

 また始まったよ。とでも言いたげな視線が食堂の内外にいた艦娘達から注がれますが、そんなの知った事じゃあありません。
 椅子を蹴倒し、邪魔なテーブルにわき腹を突かれながらもクソ上(改)を追跡しましたが、そこは艦娘と人間の差とでも言うべきか、私が食堂の入り口に辿り着いた時にはもう、北上(改)ちゃんの姿はどこにもありませんでした。

「あー、もう! 北上ちゃんったらもう! 今度会ったら許しませんからんねー!」

 何か微笑ましい物を見るような視線がそこかしこから感じられましたが、多分気のせいでしょう。






「さて、ぱっぱっぱー。と片付けますか」

 てんやわんやの朝食を終え、執務室に入った私を待っていたのは、書類の山でした。実際にはもうほとんど完成しており、後は私の決済待ちだけでした。しかもこの書類の山、上の方にあるものほど締切期間が短い物なので、上から順番に片付けていくだけでたちまち〆切地獄から解放されるという素敵な仕組みになています。
 流石は我が第一艦隊の総旗艦『古鷹』ちゃんです。秘書艦に任命して大正解です。実戦闘でも書類戦闘でも大助かりです。

「これは許可。これは不許可。これは任命者の名前が未記入だから再提出、こっちはブイン島のブイン基地で次が……? またブイン? ブーゲンビル島のブイン基地? どこそれ?」

 どういう事でしょうか。宛先は大本営となっていたので誤配送なのでしょうが、全く同じ書面の書類が二枚。どちらも弾薬と鋼材とボーキサイトの追加申請の陳情書です。違うところと言ったら送り主の住所だけです。ブーゲンビル島ってどこなのでしょう?

「こういう時は古鷹ちゃんに聞いて……って、あれ? 古鷹ちゃーん? どこー?」

 執務室横のトイレの中にもいませんでした。あの古鷹ちゃんがお仕事ほっぽり出してどこかに出かけるとは思えないので、執務室のすぐ近くだとは思うのですが。
 そんな私の耳に、かすかな声が聞こえたような気がしました。

 ――――……
「ん? 声?」

 その微かな声は、私のすぐ横の部屋――――予備通信室の中から聞こえてきているようでした。もしかして、古鷹ちゃんはこの中にいるのでしょうか。

「失礼しまーす……」

 ついつい小声になって、こっそりと前かがみになって部屋の中に入りました。部屋の中は灯りも入れてないのにカーテンを引かれているため真っ暗で、そのため、部屋中に設置された通信モニタの無数の光だけがハッキリとした光源となっていました。
 私が捜していた古鷹ちゃんは、そこにいました。

(あ、いた)

 金属と機械と、ごくわずかな人工皮膚のみによって構成された、全然女の子らしくない無骨な右腕と左脚。右肩に乗せられた(艦娘サイズの)20.3センチ砲。
 私のアイデアで少し長めに伸ばした前髪で隠した左顔面の大火傷の跡と、完全機械化された左目は私がいる後ろからでは見えませんが、この娘が古鷹ちゃんで間違いないでしょう。声も一緒ですし。

 艦娘式古鷹型重巡洋艦1番艦『古鷹』

 それがこの娘の正式な名称です。が、私は古鷹ちゃんって呼んでます。
 そして、部屋中の無数のモニタの中にも古鷹ちゃんが映っていました。その、どれもこれもが全部、古鷹ちゃんでした。
 ここにきて、私は何故古鷹ちゃんがこんな部屋にいたのか合点が行きました。

(ああ、そっか。慰問通信の時間か)

 慰問通信とは、私や、私の麾下艦隊のように本土に配置されず、北のアッツ島や南のラバウルなどの遠方の基地や泊地に配置された人間や艦娘達に対する処置の1つです。
 その内容はいたってシンプルで、規定時間以内で軍機に触れない程度なら、本土にいる人物や法人(複数同時中継でもOK)を指定して、TV中継電話によるオンラインで会話できるというものです。本土勤務の私にはよく分からないのですが、週1~2回程度のこの時間の有る無しでその基地の運営や将兵の士気に大きな影響が出るそうです。
 たかが電話1つで大げさな。
 とは思っていますが、それでもわざわざ古鷹ちゃんのプライベートタイムを邪魔する趣味はありません。少し覗き見してからこっそりとこの部屋を後にしましょう。

『えっと、次は私だよね。みんな、これを見て』

 発言開始と共に一際大きくなったウィンドウの中に映っていた古鷹ちゃんが、カメラフレームの外から何かを取り出しました。
 私には誰が誰なのかまるで分らなかったのですが、よく見ると胸の名札にはそれぞれの所属先が書かれていました。因みに、今喋っていた古鷹ちゃんは件のブイン基地所属でした。どっちのブイン基地でしょうか。

『……何それ、ふざけてるの?』

 別の古鷹ちゃん(単冠湾所属)の剣呑な表情も尤もでした。古鷹ちゃん(ブイン所属)が取り出したのは、やたらと大きなヤシの実がいくつかと、木製のネジ式圧搾機、そして透明なプラスチック製の封入缶と小型の遠心分離機だったからです。

『私は真面目だよ。兎に角、最後まで見てってば』

 言うや否や、古鷹ちゃん(ブイン所属)は、その機械製の右手一本でヤシの実を掴むと、涼しい顔そのままに握り潰してしまいました。あらやだこの娘、とってもワイルド。
 そして破片から取り出した種子を乾拭きしてから圧搾機に掛けると、今度は木ネジを締め付けて、ヤシの種から汁を絞り出していきました。ジュースでも作っているんでしょうか。

『まさか……い、いや、そんな……』
『ブインの古鷹、貴女まさか!?』

 モニタの中の古鷹ちゃん達が一斉にざわめき始めました。ここにいる古鷹ちゃんも、身を乗り出して見守っています。古鷹ちゃん(ブイン所属)は、一通り絞り終えた汁を、布を使って濾し、別個に用意してあった遠心分離器に乗せて回転させ始めました。
 ややあって機械を停止させ、透明なプラスチック製の封入缶の上で傾けると、その中から透明でとろりとした、比重の大きそうな液体が静かに缶の中に溜まっていきました。
 もう、この時点で、誰もが固唾を飲んで見守っていました。
 映像の中の古鷹ちゃん(ブイン所属)が、満タンギリギリまで注いだ透明なプラスチック缶の中に粉末状の防腐剤を混ぜ、慎重に蓋をロック。
 アルカイックスマイルで告げる。

『私が今日出品するのは、たった今絞ったばかりの、この天然オイルです。防腐剤入りだから長期輸送でも安心です。合成オイルとは違った経験値が溜まりますよ。レートはALL200からです。どうぞ』

 直後、画面の内外にいた全ての古鷹ちゃん(有明警備府所属も含む)が、一斉に沸き立ちました。まるで半世紀前の為替相場の如き喧噪です。ですがこの古鷹ちゃん達が手に手に握りしめ、付き出しているのは暴落中の株券ではなくて、お小遣いの軍票です。
 何これ。

『250/30/200/30!!』
『300/300/600/600!!』
『400/200/500/700!!』
『燃2、鋼4、弾11!!』

『フォー・オブ・ア・カインド(999/999/999/999)』

 一瞬で静まり返りました。発言者は、舞鶴鎮守府所属の古鷹ちゃんでした。『ALL999って……』『そんなの敵いっこないよ』という諦めにも似た古鷹ちゃん達の呟きが聞こえてきます。
 
『誰もいませんか? なら――――』
『DMM(4000/6000/6000/2000)です』

 再び部屋中の視線が集中しました。発言者は古鷹ちゃん(呉鎮守府所属)でした。
 燃料4000、鉄鋼と弾薬が6000、そしてボーキサイトが2000。その全部を開発資材として使えば、正規空母を含んだ一、二個艦隊位まとめて製造できてしまう量です。
 何考えて生きているんでしょうか、呉の古鷹ちゃんは。

『呉の古鷹さん、正気ですか? 狂気ですか?』
『舞鶴の古鷹さん、ウチには比叡さんがいます。それに比べたらこの程度とてもとても……』

 呉には怪物でもいるんでしょうか。
 ごく普通の笑顔で受け答えする古鷹ちゃん(呉鎮守府所属)が怖いです。

(ま、まぁ、慰問通信の使い方は人それぞれよね……)

 痛くなってきた頭を抑えながら、私はこっそりと予備通信室を抜け出して執務室に戻りました。





『ランランラー、言えるかなー♪ 君はー、言えるかなー? ランランラー、言えるかなー? スリヴァーの名前~♪ クマー♪』

 執務室で付けっぱなしにしていたTVをラジオ代わりに聞き流しながら、今後の艦隊運用――――主に夏と冬の陸上警備と、近海の掃海任務のローテーション――――について頭を悩ませていると、廊下を誰かが走ってきました。ドアの前で聞こえてくるのは軽い足音だけなので、恐らく古鷹ちゃん以外の誰かでしょう。

「司令、大変です」
「あら、ぬいぬいちゃん。どうしたの」

 軽く息を切らせて執務室に入って来たのは、私が古鷹ちゃんと同じくらいに重宝している艦娘でした。

 艦娘式陽炎型駆逐艦2番艦『不知火改』

 それがこの娘の正式な名称ですが、そんなの全然女の子らしくないので私は『ぬいぬいちゃん』って呼んでます。
 昔はそう呼ばれるたびに戦艦クラスの眼光で睨み付けてきたのですけれども、北上ちゃん達も彼女の事をぬいぬいちゃんって呼ぶようになってきた最近では、何かを諦めたかのようなため息をつくだけに変わりました。可愛い呼び方なのに。
 あと、噂によると、一部の熟練提督の指揮する最精鋭部隊の下には『九十四式・壱型丙』というマイナーチェンジ版のぬいぬいちゃんが存在するとの事ですが本当でしょうか。
 それはそうと、普段真面目なこの娘がノックもしないなんて、よほどの事があったのでしょうか。

「だから指令、私はぬいぬいじゃなくて……いえ、今はいいです。兎に角来てください。プロト足柄さんとプロト金剛さんが男漁りに街に出ている今、私や憲兵隊の方々では対処不可能です」
「何があったの?」

 ぐいぐいと私の腕を引っ張るぬいぬいちゃんに引きずられるようにして、机から立ち上がった私に、ぬいぬいちゃんはとんでもない爆弾発言を投げつけてきたのでした。

「お隣の第2、第3艦隊総旗艦の飛龍さんと蒼龍さんが表で大ゲンカしているんです。それも全裸で」
「ナンデ!? 全裸ナンデ!?」








「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

 飛龍(全裸)がカラテシャウトと同時に、深く腰を落としたセイケン・パンチ。それを蒼龍(全裸)は同じく深く腰を落として左半身になりながら左腕でパリング・ウケナガシ! そして間髪入れずにその左腕によるレイピアめいたカウンタージャブ!

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

 飛龍(全裸)がカラテシャウトと同時にクウボ速度でブリッジ回避。そしてそこから繋げるサマーソルトキック。回避と反撃がアートめいてミックスされたワザマエ!
 対する蒼龍(全裸)も、踏み込んだ左脚をさらに前に押し出し、サマーソルトキックが十分な加速度を得る前に接触させて速度が相殺! 蛮勇めいた、なれど正規クウボを名乗るに相応しい、圧倒的カラテに裏打ちされたワザマエである。

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

 そのまま吹き飛べと言わんばかりに蒼龍(全裸)はカラテシャウトと同時に、左足を強引に蹴り上げる。その余波だけで、鎮守府正面港に広がる大海原がモーゼの十戒めいて一瞬割れる。飛龍(全裸)はとっさにクウボ・横ローリング回避。立ち上がると同時にカタのポーズだ。

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

 飛龍(全裸)がカラテシャウトと同時に、深く腰を落としたセイケン・パンチ。それを蒼龍(全裸)は振り上げたままの左足によるカカト落としで迎撃。撃ち落とされたパンチの衝撃波はそのまま地下へと浸透。地下数百メートル地点にある鎮守府の土台の基礎に飛龍(全裸)の拳と同じ形をした凹みを残してようやく雲散霧消!

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「何やってるんですか!? 飛龍さん、蒼龍さん!!」

 蒼龍(全裸)と飛龍(全裸)が同時に右ストレートを放つ! その拳が互いの頬に突き刺さる直前でピタリと止まる。
 そして悪鬼羅刹の如く(と本人は思っている)プンすかプンと怒っている比奈鳥少佐と、その背後で悪鬼羅刹すらも絶望のあまり失禁しそうなサツバツ眼光でこちらを睨み付けている不知火改に向き直ると、手を合わせて深くオジギをした。

「ドーモ。不知火改=サン。ドーモ、比奈鳥少佐=サン。飛龍再び改善です」
「ドーモ。不知火改=サン。ドーモ、比奈鳥少佐=サン。蒼龍再び改善です」
「えっ、アッハイ。ど、どうも。飛龍さん(改二)に蒼龍さん(改二)。比奈鳥ひよ子少佐です」

 突然ケンカを止めて綺麗なお辞儀をした二人に対し、私も思わず両手を合わせてお辞儀を返してしまいました。海軍なんだから敬礼しなくちゃいけないんですけど。

「って、そんな事はどうでもいいんです。二人とも、どうしてケンカなんてしていたの? それも……その、ぜ、全裸で」

 今の飛龍さんと蒼龍さんは、顔の下半分を隠す鋼鉄製のマスクと、風も無いのにバタバタと風を受けてたなびくマフラー以外には何も身に着けていませんでした。左右の肩から生えている飛行甲板は流石にそのままでしたが、それ以外には本当に何も着てもいないし履いてもいませんでした。おまけに隠そうともしていませんでした。
 なのにこれほどまでに堂々としているので、見ているこっちが逆に恥ずかしくなってきてしまいました。

「? 喧嘩、ですか?」
「あ。もしかして、今のカラテ訓練の事ですか?」
「え、空手? 訓練?」

 これが?

 あたりを見回してみれば、凄惨い。の一言に尽きました。
 ただの拳の風圧のみで叩き割られたH柱鋼の束、蹴りの余波で真っ二つに割られた地上格納庫の対爆ゲート。コンクリート製の護岸のそこかしこには大小さまざまな亀裂が走り、警備府の建物には二人の拳型や足型の穴が開いています。あの割れた窓ガラスの部屋から聞こえる『げ、原稿がー!?』という叫びはきっと、秋雲ちゃんのものでしょう。大井ちゃんに手伝ってもらってたのに、ちょっと可哀そうです。

「一応、カラテの訓練なのでカンサイキは封印してあります」
「ノーカラテ・ノークウボの精神です」
「じゃ、じゃあなんで全裸になっているのかしら……?」
「それは、私達がクウボだからです」

 まるで意味が分かんないわよ。

「室町時代の伝説のニンジャマスター、コールド・チンゲンサイも言っています『ニンジャは全裸で首を刎ねる。そして起こせ』と」

 意味分かんない。貴女達忍者じゃなくて空母じゃないの。
 やっぱ正規空母の娘達って、どこか変です。
 私の引きつった顔に反応した訳じゃあないのでしょうが、飛龍さんが語り始めました。

「……比奈鳥少佐=サン。五月の雪の日の事を覚えていますか?」
「え? え、ええ。深海凄艦が横須賀の湾岸沿いを攻撃して、壊滅的な被害を被った時の事よね。確か、貴女達も緊急で出撃した」
「ハイ、ソウデス。そこで私達は実感したのです。私達には、力が足りないと」
「あの時、私達は何も出来ませんでした。私達に出来たのは、加賀=サンと赤城=サンの後を追いて行く事だけ」
「だから、渡りにnice boat.だったのです。この、改二化改造計画は」
「もう嫌なんです、普段から二航戦二航戦と持て囃されているのに、肝心の所で何も出来ないのは……!!」

 強くなりたい……!

 そう締めくくった二人の、涙混じりの眼差しに嘘は無いように見えました。
 でも、流石に全裸は無いと思いました。




「提督ー。いるー?」

 ちょうど正午に差し掛かろうとした時間に、何処かに姿をくらませたままだった北上(改)ちゃんが、ノックと同時に執務室の中に入ってきました。
 因みに私の秘書艦である古鷹ちゃんは慰問通信から返ってきたら妙に気落ちしていたので、仮眠室で仮眠を取らせてあります。もしかして、昨日残業1時間やらせた時の疲れが出たのでしょうか。

「あー! 北上ちゃん、どこ行ってたのよ、もう! 心配したんだから!」
「やー、ゴメンゴメン。気を付けます。ところで、さ。提督、何か忘れてない?」

 北上(改)ちゃんは、さして反省した素振りも見せずに軽く謝っただけで済ませると、私の顔を見て言いました。

「え? 今日何かあったかしら?」
「提督……そりゃないよ~。今日は私の改二化改造の日じゃなかったのさー」
「え?」

 壁に掛けてあったカレンダーを確認してみると、そこには確かに私の文字で『北上ちゃんの改二化改造。一八〇〇までに九十九里浜第99要塞』とありました。どうも、来月と勘違いしていたようです。
 そして肝心の時間は、元の姿(重雷装艦)に戻った北上ちゃんに乗れば余裕で到着できる時間でした。まだ。

「ご、ごめんなさい。すぐに支度するわね!」
「あいよ~。ごゆっくり~」





「九十九里浜第99要塞。こちら有明警備府第一艦隊。事前に予約しておいた艦娘『北上改』の改造作業のため、入港を許可されたし」

 有明の海を抜け、房総半島をぐるりと回って一度太平洋側に出てから、太平洋戦線の最前線の1つである九十九里浜沖に到着しました。
 現在の九十九里浜は……なんというか、その、色々と凄いです。
 九十九里の長さに伸びる白砂の浜にして、海水浴場兼ハマグリの名産地だったころの面影など、ほとんどなくなっていました。
 かつての征夷大将軍の命により、1里(≒3.9km)ごとに矢を立てたところ、ちょうど99本だったという伝説になぞらえて、99個もの重合金製の要塞が約66メートル間隔で白い砂浜の上に並んでいるという、恐ろしくシュールな光景が南北66kmに続いています。これ全部一纏めにして建設したらいけないのでしょうか。無理矢理間隔を詰めているものですから、どこをみても違法建築状態です。箱詰めのカステラ状態で要塞群が立ち並んでいると言ったら、少しはこの光景も理解しやすいと思います。
 そんな無駄(無駄です。こんなの作る余裕があるなら物資統制をもうちょっと緩めてください)に数だけは多い要塞の1つ――――最南端に設置された第99要塞――――の管制室から、返答がありました。

『こちら九十九里浜第99要塞より有明警備府第一艦隊。了解した。貴官はそのままそのポイントで待機。改装作業に必要な物資を受領したのち『超展開』を実行されたし。以降はこちらからの指示に従い入港・接岸されたし』
「有明警備府第一艦隊。了解しました。ですが、超展開を実行する理由を説明願いたい」

 何故、改造するのに超展開をする必要があるのでしょうか。北上ちゃんを改型にする時だって、北上ちゃん本来の戦闘艦の姿のままで丸一日掛かったのです。それなのに、今度はたった15分で何をどうしろというのでしょうか。

『九十九里浜第99要塞より有明警備府第一艦隊。改二化改造計画は超展開を前提とした計画だと聞いている。詳細は担当の者に聞いてくれ。詳しくは聞かされていない。以上』
『あー、提督。こりゃ素直に指示に従った方が早いんじゃない?』
「……有明警備府第一艦隊了解。物資の受領後に、超展開を実行する」

 北上ちゃんの言う事も最もだったので、私はさっさとこの改造作業を終えて帰ろうという気持ちでした。
 そして物資を受け取った後、いつの間にか私の隣に顕現していた北上ちゃんの立体映像――――触れる映像というのも何気にすごいですよね――――の手を取り、二人同時にこくりと頷き、叫びました。

「北上、超展開!!」
『スーパー北上様、超展開だよー』

 直後、私の中に、有り得ないはずの記憶や思い出がいくつもいくつも浮かんでは消えていきました。

 大学のキャンパスにやって来た黒い献血車、おーっすバイトの北上だよー、各学部の学年ごとの強制検査、最近この店つか我が家の家計が赤字でヤバイわー、再検査の呼び出し、父ちゃんと母ちゃんまたケンカしてる、校長室に呼び出された私達、こりゃ大学行きたいなんて言えないよねーやっぱ、私達に付き出された赤紙、高卒の女学生でも働けるのは工場か立ちんぼかー、深海凄艦の数に対抗するためのインスタント提督計画、そいやいつもカフェイン錠剤の買い出しに来てる白衣のお姉さん被検体がどうのこうの言ってたな、そして――――

 意識の混濁が晴れ、私と北上ちゃんの心の区別がはっきりと付くようになった時、そこにはもう、重雷装艦としての北上ちゃんは存在しておらず、巨大な艦娘状態の北上ちゃんとなっていました。
 私のいる艦長室からでは見聞きできませんが、恐らくは左胸付近からは燃え盛る太陽のような動力炉の輝きが装甲越しにも見え、心臓の鼓動の様に規則正しく汽笛と排煙を出している事でしょう。

【北上改、超展開完了したよー。機関出力150%、維持限界まであと15分】
『九十九里浜第99要塞より有明警備府第一艦隊。北上改の超展開を確認した。これよりドライドックへの誘導を開始する。要塞前の海底は掘り下げてある。そのまま前進せよ』
「有明警備府第一艦隊、了解」




 この第99要塞は他の要塞と違って、地下に本施設が広がっていました。かなり広いです。超展開中の北上(改)ちゃんでも、あと4~50人はまとめて入りそうです。

『北上改、6番ハンガーへの固定を確認!』

 ゆったりとしたソファー状のハンガーに深く座り、強化繊維製のベルトで全身を固定された北上ちゃんの周囲を、整備用にカスタマイズされた鍋島Ⅴ型と、アインハンダー社製の五指一腕式アームクレーン車、そしてそれらに張り付いて移動する無数の整備妖精さん達が何やら忙しなく動き回っていました。

『送電ケーブル、強制冷却ケーブル、接続!』
『システム麻酔準備完了、接続ケーブルまだですか!』
『接続完了! 通信行けます!』
『7番ハンガーのブインの金剛さんはどうします!?』
『コアの移植先がまだ見つかってない! システム麻酔で眠らせておけ!!』

 そんな光景を眼下に見下ろす私達の意識に、外部から割り込み通信が入ってきました。どういう訳か、音声は加工されたものでした。

『合成音声のみで失礼します。あなたが有明警備府第一艦隊の司令官ですね。初めまして。私が艦娘改二化改造計画の責任者の、ユッケビビンバ技術大尉です』


 もうちょっとマシな偽名にしましょうよ。


「……は、初めまして。有明警備府第一艦隊の比奈鳥ひよ子少佐です。本日はよろしくお願いいたしますね」
『お任せください。それでは作業を始める前に質問ですが、洋上でお渡しした物資は装備していますか?』
「え、ええ。あの後すぐに北上ちゃんのトイレで履き替えましたけど……その、何で北上ちゃんを改造するのに、私が紙オムツをしなければならないんですか?」

 そうなのです。改造に必要だからと言って、九十九里沖で渡された物資は、長時間でも大丈夫なタイプの使い捨て紙オムツが一袋と、紙袋一杯に収められた科学雑誌や漫画に娯楽小説に携帯ゲーム機といった、暇つぶし用のアイテムの数々でした。紙袋には『要返却。借パク射殺』と黒のマッキーで殴り書きされていました。

『まぁ、皆さん同じ事言うんですよ。ご説明させていただきますと、改二化改造計画は従来の改装計画と違い、装甲や火力の向上だけではなく、陸上戦闘へ適応出来るようにするための改造なんです。そのため、通常展開時や圧縮保存状態では手出しできない脚部をフレームごと入れ替えるか新調する必要がありまして、そのため超展開状態でこちらまでお越し願った訳です』

 一応、冷却と通電は有線で供給していますので、時間切れの危険性はありません。ご安心ください。とユッケビビンバ技術大尉は言いました。確かに、北上ちゃんのステイタスを呼び出してみれば、言われた通り『外部電源供給』『過冷却中』のシステムメッセージが脳裏に浮かんできました。
 超展開状態のまま脚部をフレームごと入れ替えるというのも、相当大掛かりな作業ですね。超展開中の艦娘は、皮膚より内側の殆どが機械とはいえ、一度その両足を切除するというのは相当精神的負担が掛かりそうです。
 というか。

【それってつまりさ、私の両足ぶった切って、別の足に付け替えるってこと?】
『まぁ、そうなりますな。では、これより改造作業に入らさせていただきます。作業終了予定時刻は明日の午後三時……そちらで言うところの一五〇〇を予定しております。何かご質問などがあった場合は、お気軽にこの周波数へお接続ぎください。では』

 それだけ言うと、ユッケビビンバ技術大尉との接続はそっけなく切れてしまいました。ていうか、明日? まさか、それまでずっとここに座っていろと? まさか紙オムツとこの漫画本の山はそう言う意味だったんですか!?

【提督ー、あたしも暇だからマンガ読んでよー。監視カメラの角度弄れば中覗けるからさー】

 後悔しても仕方ありません。艦内放送で私にせがむ北上ちゃんにも見えるように、私は紙袋の中から適当に撮み出した(うすい)漫画を一冊を大きく広げると――――



『メッ、メナイ少佐駄目です……! お、俺には金剛が……!』
『フフフ……あんな女の事など忘れさせてやるさ』
『っぁ! ~~~~~~っっっ!?』
『ほぅら、見ろ。ここはこんなに正直で、こんなにもおねだり上手じゃないか。水野ちゅ・う・さ・ど・の?』
『……ッ』
『おや、次はだんまりかい。なら、そのまま大人しく飲み込んでもらおうか。そう、そのまま飲み込んで。俺の46センチ単装砲……』



「……」
【……】

 ぱたん。

「……ほ、ホホホホホホホ、ホm」

 ス、スミは!? スミでスミが男の人の大事なトコロがががム、むむ無修せムッシュー!!

【あー、このペンネーム、秋雲ちゃんが昔使ってたやつじゃん。墨ベタ入れ忘れ&検閲漏れでそのまま会場入りして、挨拶回りの配布の時に発覚して自主発禁した奴】
「ホモォ!?」(※翻訳鎮守府注釈:秋雲ちゃん何書いてるの!?)

 ちょうどその時、南方海域ブイン島ブイン仮設要塞港に所属する、二名の男性提督が同じタイミングで盛大なクシャミをし、同じタイミングで『あらぬ疑いを掛けられた気がする……』と呟いたが、放っておこう。




 翌日の帰りの電車の中の事です。

「一冊目のアレは兎も角、他の作者のマンガは結構よかったわねぇ。奇妙な空母とか」
「因みに提督はどこが好きだった?」
「私はやっぱり断然アレね。瑞鶴覚醒のシーン。『言葉ではなく心で理解ったわ、加賀お姉様! アウトレンジで決めたいわねって思った時にはもう、攻撃部隊は帰投してなくちゃならないのねッ!!』のとこ」
「あー、分かる理解る『やりました』なら使ってもいいッ! とか言って加賀姉が半死半生で浮かんでるヲ級の脳天に艦雷ブチ込むとことかもシビれるし、憧れるよねー。あとはやっぱアレでしょ『プラネットダイバー・タナベ』の最終話の一個前。月の裏側で怪我した相棒運んでたらついに自分の酸素が0になった時のさ『この空気さえあれば……私は、私だけは……!(CV:ここだけ雪野五月)』って台詞とタナベの表情。何で作者そこで休載しちゃうかな~」

 ガタンゴトンと規則正しく揺られながら、私と北上ちゃんは昨日読んだ、あの紙袋の中の漫画について語り合っていました。

(それにしても……)

 奇妙な。と言っては北上ちゃんにとても失礼なのですが、今の北上ちゃんは妙に気分が高揚しているようです。普段とあまり変わりないように見えますが、付き合いが長いとそれくらいすぐにわかるようになるんです。
 北上ちゃんは照れくさそうにしてポリポリと指先で頬を軽く掻くと、

「……あー。やっぱ分かる? いやさ、改二になってすごい力が湧いてくるような気分。ってのもあるんだけど、さ。一番の理由はコレかな。やっぱ」

 そう言って、パンパンと軽く自分の腕や腰を叩きました。
 そこには、何もありませんでした。重雷装艦の代名詞でもある40門の魚雷発射管も、普段から背中に背負っている煙突や機関部も、何もありませんでした。ですが、北上ちゃんは解体されたわけではないんです。これこそが改二型艦娘に実装された大きな機能の1つ『完全格納』です。
 この機能を一言で表すなら、艦娘最大の特徴である艤装が文字通り完全に圧縮・格納され、見た感じ普通の女の子にしか見えなくなるところです。もちろん、普通のお洋服も選び放題の着たい放題です。

「まさかさ、普通の電車乗れる日が来るなんて全然思ってもいなかったしねー」

 ほら、私達って背中のアレがあるから、一度も乗った事なかったんだよねー。と北上ちゃんは電車の中の壁広告や中吊り広告を物珍しそうに眺めながら言いました。遠方の鎮守府に赴く際に深夜の臨時編成に乗った事あるじゃないの。と聞いてみれば、真っ昼間に走ってるのには今日が初めて。と返されました。

「……そうね」

 彼女達――――艦娘が、電車を初めとした公共機関の一般利用を許されなかったのは、艤装が邪魔だからという理由ではありません。軍上層部がクローンの存在を明らかにされたくなかったからでもありません。
 彼女達が、艦娘だからです。
 人と同じ姿形をして、人と同じ言葉と文化を持ち、人などボロ雑巾のように容易く引き裂ける馬力と武装を持った人っぽい何か。しかも脳波コントロール出来ないけれど、巨大な戦闘艦の姿になる事は出来る。
 彼女達は皆、そのように造られたバケモノだからです。
 ですが、私はそんな考えは嫌いです。なので、せめて私の周りだけでも、彼女達を1人の人間として扱ってあげたいのです。

「……そうね、でも、これからはたくさん乗れるわよ」
「おぉ~、いいねぇ、痺れるねぇ……え?」

 年相応の笑顔になっていた北上ちゃんが、突然、真顔に戻って海の有る方角に首を向けました。

「……やば。提督、何か来」

 北上ちゃんが何か言うよりも先に、私達に支給されていたスマートフォンには緊急事態用のエリアメールが入ってきました。メールの文面にはこうありました。

『帝都湾内に深海凄艦が出現。構成:駆逐イ級3。横須賀鎮守府が状況に対処中』

 横須賀鎮守府の方々が出動しているという事は、少なくともここ(有明)からは相当離れています。なら何も心配ありませんね。距離もそうですが、横須賀には『北の荒球磨』とまで呼ばれる実戦帰りの
 急停車。
 人の少ない車両と時間帯だったのが幸いしたのか、私達は盛大につんのめって頭をポールにぶつけるだけで済みました。

「いっ痛ぁ~い……なんなのよ、もう」
「ねぇ、提督……」

 電車の外からは緊急警報サイレンが鳴り響き、そして窓の外、未だに北上ちゃんが食い入るようにして見続けている海の上には、

「あれ」
「え?」

 海の上には、深海凄艦が海中から浮上して来ているところが見えていました。

「……え?」

 私は、座学と図鑑でその個体を知っていました。
 緑色に輝く単眼。剥き出しの歯を生やした上顎だけの頭部前方。ドロップカットされた宝石のような、涙滴状の黒い多面体の船体。
 深海凄艦。

「く、駆逐ニ級!」

 なんで!? 横須賀じゃなかったの!? 警報は鳴ってなかったのに!?

「まさか……陽動!?」
「提督、急いで!!」

 あまりの急転直下に意識が呆けていた私の手を取って、北上ちゃんは列車のドアの前に移動し、そのまま力ずくでドアをこじ開けて外に出ました。彼女はいつの間にか、艤装を展開しており、いつもの見慣れた姿に戻っていました。
 突如として表れた艦娘の姿にざわめき始めた乗客らを余所に、北上ちゃんは私の手を引っ張って、線路の上を大急ぎで移動しようとしていました。
 ここでようやく、私の脳はまともな回転数に戻ってきました。私は提督。インスタントとはいえ、深海凄艦と戦える力を持った人間。勤めを全うしなくては。
 でもどうやって?
 ここは陸の上。北上ちゃんが展開できそうな広い場所といったら海の上ですが、そこは今まさにあの駆逐ニ級が居座っています。

「提督、線路! 線路の上!!」
「! 北上ちゃん、あっちまで走ったら即展開! その場で『超展開』行くわよ!!」
「合点でさー!」

 北上ちゃんの叫びで、私もようやく合点がいきました。確かに、電車の来ない線路の上なら都合のいい広場です。そして、そこがたとえ陸の上でも、新たなる機能を実装した改二型には何の問題もありません。

「北上『展開』!」

 遠くでそう叫んだ北上ちゃんの姿が、瞬間的な爆音と閃光と衝撃波に包まれ、それが晴れた時には線路の上にはもう、人の形をした北上ちゃんはどこにもおらず、代わりに鋼鉄の艦が一隻、鎮座していました。

『提督急いで。アイツ、こっちに気付いた!』

 お世辞にも良いとは言えない砂利の上を走り抜け、何発も何発も飛んでくる敵砲弾の爆風や流れ弾の破片に泣きそうになりながらも、何とか私は北上ちゃんの艦橋まで辿り着き、急いで艦長席に座ってシートベルトで体を固定すると、2、3度大きく深呼吸をして息を整え、北上ちゃんと同時に叫びました。

「【北上、超展開!!】」

 熱と光と純粋エネルギーの嵐が私達の周りを一瞬だけ包み込み、それが晴れると、巨大な北上ちゃんが二本の足でしっかりと着陸しました。足の周辺のコンクリートは薄っぺらい氷のように砕け、沈み込んでいました。

【北上改二、超展開完了したよー。機関出力200%、維持限界まで75分!】

 凄いです。北上ちゃん(改)の5倍の維持ゲインです。しかも、5500トン級の軽巡洋艦(重雷装艦)だというのに――――どう考えても、陸上戦闘は絵空事と言われている重量です――――だというのに、しっかりと二本の足で立っています。私が普段歩くように無意識レベルで動かせます!

【グランドウォーカーシステムも正常に作動中。温度は安全閾値内。問題無し】
「すごい……これが、これが改二型……!」

 これなら、これなら哨戒任務同行演習以外の実戦を経験していない私でも負ける気がしません!
 この圧倒的快感が、思わず口からこぼれ出ました。

「比奈鳥ひよ子、行っきまーす!」









 本日の戦果:

 駆逐イ級        ×3(横須賀鎮守府の成果)
 駆逐ニ級        ×1

 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上




 本日の被害:

 重雷装艦『北上改二』:大破(有明警備府所属。陸上での全力疾走中の転倒事故、敵直撃弾による酸素魚雷誘爆、超展開用大動脈ケーブル異常加熱、主機異常加熱、etc,etc...)
 軽巡洋艦『川内改二』:健在(〃所属。警備府内待機による)
  重巡洋艦『古鷹改』:健在(〃所属。警備府内待機による)
 駆逐艦『ぬいぬい改』:健在(〃所属。警備府内待機による)
 重巡洋艦『PT足柄』:健在(〃所属プロトタイプ。非番につき男漁りなぅ)
   戦艦『PT金剛』:健在(〃所属プロトタイプ。PT足柄の歯止め役)
    駆逐艦『秋雲』:精神的轟沈(〃所属。原稿破損による)
  重雷装艦『大井改』:精神的轟沈(〃所属。原稿破損による)





 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除
 各種物資の最優先配給

 以上


 特記事項

 比奈鳥ひよ子少佐は、後で戦闘報告書と共に、市街地で北上改二を転倒させた際に発生した被害に対しての始末書を提出する事。


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