<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.38827の一覧
[0] 【チラ裏より】嗚呼、栄光のブイン基地(艦これ、不定期ネタ)【こんにちわ】[abcdef](2018/06/30 21:43)
[1] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/11 17:32)
[2] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】 [abcdef](2013/11/20 07:57)
[3] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/02 21:23)
[4] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2013/12/22 04:50)
[5] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/01/28 22:46)
[6] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/24 21:53)
[7] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/02/22 22:49)
[8] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/03/13 06:00)
[9] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/05/04 22:57)
[10] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/01/26 20:48)
[11] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/06/28 20:24)
[12] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/07/26 04:45)
[13] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/02 21:13)
[14] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/08/31 05:19)
[15] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2014/09/21 20:05)
[16] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/10/31 22:06)
[17] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2014/11/20 21:05)
[18] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2015/01/10 22:42)
[19] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/02/02 17:33)
[20] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/04/01 23:02)
[21] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】[abcdef](2015/06/10 20:00)
[22] 【ご愛読】嗚呼、栄光のブイン基地(完結)【ありがとうございました!】[abcdef](2015/08/03 23:56)
[23] 設定資料集[abcdef](2015/08/20 08:41)
[24] キャラ紹介[abcdef](2015/10/17 23:07)
[25] 敷波追悼[abcdef](2016/03/30 19:35)
[26] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/07/17 04:30)
[27] 秋雲ちゃんの悩み[abcdef](2016/10/26 23:18)
[28] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2016/12/18 21:40)
[29] 【不定期ネタ】有明警備府出動せよ!【艦これ】[abcdef](2017/03/29 16:48)
[30] yaggyが神通を殺すだけのお話[abcdef](2017/04/13 17:58)
[31] 【今度こそ】嗚呼、栄光のブイン基地【第一部完】[abcdef](2018/06/30 16:36)
[32] 【ここからでも】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(嗚呼、栄光のブイン基地第2部)【読めるようにはしたつもりです】[abcdef](2018/06/30 22:10)
[33] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!02【不定期ネタ】[abcdef](2018/12/24 20:53)
[34] 【エイプリルフールなので】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!(完?)【最終回です】[abcdef](2019/04/01 13:00)
[35] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!03【不定期ネタ】[abcdef](2019/10/23 23:23)
[36] 【嗚呼、栄光の】天龍ちゃんの夢【ブイン基地】[abcdef](2019/10/23 23:42)
[37] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!番外編【不定期ネタ】[abcdef](2020/04/01 20:59)
[38] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!04【不定期ネタ】[abcdef](2020/10/13 19:33)
[39] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!05【不定期ネタ】[abcdef](2021/03/15 20:08)
[40] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!06【不定期ネタ】[abcdef](2021/10/13 11:01)
[41] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!07【不定期ネタ】[abcdef](2022/08/17 23:50)
[42] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!08【不定期ネタ】[abcdef](2022/12/26 17:35)
[43] 【艦これ】とびだせ! ぼくの、わたしの、ブイン基地!!09【不定期ネタ】[abcdef](2023/09/07 09:07)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38827] 【不定期ネタ】嗚呼、栄光のブイン基地【艦これ】
Name: abcdef◆fa76876a ID:14aa3c64 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/11 17:32
※前話同様にオリ設定の嵐です。
※よくも俺の○×を!! と言われかねん表現が乱用されています。お許しくださいメガトロン様。
※作者は地理も歴史も駄目駄目です。かといってプロレスとかのスポーツもダメダメです。お察しください。
※人によってはグロテスクな表現が一部にあります。
※今回引用した『ファイレクシアのアートは感染する』は、ネット上に実在する読み物です。今回の話を書くにあたりとても参考になりました。
※(11/11追記:副題および本文の一部が消えていました。訂正済)






(中略)――――実際、我々は目の欠如をファイレクシアの暗示としている。鍵は目というものが物語ることだ。目はコミュニケーションを助け、その由来を明らかにし、そして魂をその中に見ることができる。
 救済しがたい怪物を作るなら、その目をめちゃめちゃにしてしまえばよいのだ。膿漿で覆うか、目を無くしてしまえば、そのクリーチャーは謎めいていて不可知で、それゆえひどく恐ろしいものになる。


                           ――――――――読み物『ファイレクシアのアートは感染する』より一部抜粋





「井戸少佐」
「はい。水野中佐殿」

 先日の緊急出撃より開けて翌日。井戸らは寝坊する事無く、他の提督や艦娘達と共に、プレハブ小屋脇のグラウンドに整列していた。
 が、朝礼が始まる直前、井戸は隣に立っていた別の提督から声をかけられた。
 水野中佐。
 井戸のお隣202号室に居を構える第202艦隊の司令官であり、身長185センチ――――食の肉食化が進んだ現代帝国でもそうそうお目にかかれない背高のっぽだ――――が、その高すぎる位置から、獲物を狙う大鷲のような鋭い殺気と視線を井戸に向かって照射していた。
 何故に。

「貴様、昨日の緊急出撃で俺の妻(※翻訳鎮守府注釈:金剛の事かと推測される)を出撃させたそうだな。そこに直れ、殺してやる」

 駄目だコイツ。早く何とかしないと。と井戸が思ったかどうかは定かではない。

「はい。中佐殿。ですが自分の指揮下で運用せよとの御通達だったはずでは?」
「覚えているとも。その必要があったとも理解しているとも。だが、俺の理性と感情が納得しないのだ」
「はい。中佐殿。理不尽すぎます」
「半分は冗談だ。忘れろ……時に井戸少佐」

 じゃあどこまで本気なんだよ。とは言い出せなかった。

「はい。中佐殿」
「海(sea)も彼女(she)も、どちらも読みはシーだな」
「はい。中佐殿」
「海の彼女。つまりは愛しい愛しい我らが艦娘達の事だ」
「はい。中佐殿」
「海の彼女こと艦娘にはシーが二つ。つまりはC2(しーしー)だ」
「……はい。中佐殿」
「艦娘にはしーしー。艦娘がしーしー。俺の愛しい金ご、もとい艦娘が羞恥に顔を赤く染めながら海の中でC2……」
「はい。中佐殿。憲兵詰所はあちらです。基地司令の訓示まであと1分もありますのでお早目に」





 201から203艦隊までの全ての人員、および艦娘達が全員、プレハブ小屋脇のグラウンドに集まったのを見て、基地司令が口を開いた。

「諸君、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

 ――――ふざけんな馬鹿野郎。あんな時間にいらん放送で叩き起こしやがって。

 その場にいた全員から、貴重な睡眠時間を削られたことに対する負の感情と殺意がたっぷりと乗せられた気迫が上がり、近くの木に止まっていた野鳥が驚いて地面に落ちた。間違い無く基地司令にも感じ取れたはずである。が、司令はそれを意に介した様子も無く続けた。

「昨夜の緊急放送でも言ったと思うが、203艦隊の遠征部隊の二名――――軽巡洋艦『那珂』と駆逐艦『大潮』が、深海凄艦のオリジナルを発見・回収した。二人は現在、更なる詳細を聞き取るために別室にて質疑応答中だ」

 ――――ふざけんな馬鹿野郎。だったらまずは俺らを通せ。
と、その二人が属する203艦隊の面々――――昨日付けで配属された電を除く――――が、一様に顔をしかめた。基地司令にバレないようにコッソリと。

(なぁ、提督)
(とりあえずとは言え、あんなのでも基地司令だ。私語は慎め天龍)

「ああ、それと。何か誤解している連中が多いようだから言っておくが、深海凄艦のオリジナルというのは、全ての深海凄艦の生みの親という意味ではない。ただ単に、新たな超大規模発生源が確認されたというだけである。諸君らにはその殲滅作戦に従事してもらいたい。回収してきたというのはどこぞのバカが沈めたタンカーの中身の一部を、という意味だ。本日の朝礼は以上だ。仕事に入れ」

 ――――ふざけんなクソ野郎。紛らわしいんだよ。

 今この瞬間、ブイン島仮設要塞港基地に属する全ての人員と艦の心が一つになった。約一名を除いては。





 深海凄艦がどこからやってくるのか。そしてどうやって生まれてくるのか。それを知る事は、人類が深海凄艦との戦争を勝利するために必要不可欠な研究の一つであった。
 長きに渡る研究の結果、海底に何かがあって、放置したままだと比較的高い確率でヤバイ。という事だけは体験学的に判明した。

 超大規模発生源――――誤報だったこのブイン近海を除いて今までに十数ヶ所確認された――――ディーペスト・ホールとも、単に大巣穴とも呼ばれるそれは、かつての世界大戦当時の艦船と、彼女らと命運を共にした英霊達が眠る地である事が多い。なお、誠に遺憾ながらこのホールには歩兵用のグレネードをいくつ放り込んでも潰せないのであしからず。
 そういった背景から、深海凄艦はかつて沈んだ艦に怨霊が憑りついただの、夏の昼間が夕暮れ時に見えたらそれは新たな深海凄艦が生まれる直前であるだのといったオカルトな話の温床にもなっており、海軍上層部は噂話として流れ出たそれら一部事実を噂話のままに留めておく事に奔走され、結果として一応の成功は見せているが、そのシワ寄せでブイン基地のように半ば放ったらかしにされている前線の基地は意外と多い。
 佐世保や呉なんかの、本土に近くて有名どこなんて週にいっぺんの割合で大補給があるのにこっちは三月に一回だぞ畜生め。凶器使ってブン殴るんだったらせめてタンカーじゃなくて左手のマストブレード使えよ畜生。とは、ブイン基地に所属するとある提督からのコメントである。

 閑話休題。

 無論、超大規模というからには、対となるごく小さな発生源もあり、そういった小さな物がシーレーンの付近で見つかった場合は、普段の定期巡回や遠征任務のついでに、爆雷をしこたま放り込んで丁寧に潰して処理手当を貰うおまけに鎮守府やシーレーンの安全確保に努めているのだが、この“大巣穴”があるとまるで話は違ってくる。
 普段なら駆逐艦の1、2隻で仕事の片手間に済ませてしまうような子供の小遣い稼ぎが、数ヶ月から数年単位で消化される専用のミッション・プログラムが組まれ、最低でも大戦艦クラスを複数有する6個艦隊が日替わりで――――それでも足りない場合は全セルに対潜アスロックを満載したイージス艦隊から完全爆装の空軍スクランブル機や、陸軍の弾道弾迎撃ミサイルや気化爆撃デバイス群までが――――全力出動するような大騒動に発展するのだ。
 しかも。
 しかも、それだけの資材人材を投入しても、人類が大巣穴を完全に無力化できた作戦は、かなり少ない。
 現在までに成功を収めたミッションは、

 合衆国主導による真珠湾奪還作戦『シナリオ11』
 帝国独力による硫黄島打通作戦こと『桜花作戦』
 そしてシドニー解放作戦『オペレーション:ハシント・ブレイクダウン』

 このたったの3つのみである。
 しかもこのブインにいるのはたったの3個艦隊で、しかも203艦隊の井戸提督のところは先日配備された電が来てようやく一個艦隊の定数――――6隻を超えたばかりで、挙句に201艦隊には、艦娘式高尾型重巡洋艦二番艦『愛宕』の他には通常戦力しかいないというのだからもう笑えない。
 そんなわけで、本土からの応援が来るまでの間、この3個艦隊の提督達は普段の仕事の片手間に連携訓練や戦術共有、そして超展開中の艦娘を含めた実戦形式の演習を繰り返していたのである。
 が、

『爆撃雷撃なぞ花拳繍腿! (砲)打撃技こそ海戦の王者の証!!』
【YEEES! 提督、最高デース!! でもワタシの体で中指一本立ちはNO! なんだからネー】

 第202艦隊の水野中佐と総旗艦である戦艦『金剛』に、第203艦隊の井戸少佐と同艦隊の総旗艦である軽巡洋艦『天龍』

『天龍、落ち着け! 栓抜き! 栓抜きはマズイ! 一応とはいえこれ模擬戦だ!!』
【五月蝿ェクソ提督! このまま殴られっぱなしは趣味じゃあねぇんだよ!!】

 そして第201艦隊のファントム・メナイ少佐と、書類上では同艦隊の旗艦となっている重巡洋艦『愛宕』(同少佐は『ハナ』と呼称)

【て、提督……じゃなかったパパ、大丈夫!? 同調酔い!? 人類色とは思えない顔色よ!?】
『……黙れ、お前はハナじゃない!』

 超展開したこの3隻と、彼女らに乗り込んだ3名の提督たちによる模擬戦は、なんか違っていた。




 伊19ちゃんの中破立ち絵と羽黒ちゃんの中破時ボイスから立ち上るHANZAI臭が凄すぎて、思わず『うむ』と頷いた俺はもう駄目だ記念

『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 暁の水平線』




「……えー。ブイン基地所属の皆さん。本日はお疲れ様でした」

 その日の夜。プレハブ小屋1階の食堂に集合した艦娘達、および提督らに、くたびれた声色で井戸が労いの声をかけた。

「「「お疲れさんでぇす……」」」

 それに返する彼ら彼女らも、大体似たようなくたびれ方だった。
 何の事は無い。あの朝礼の後から定期巡回と事務処理を昼メシ前に終わらせ、少し休憩を挟んでから夕食の時間である一九〇〇時現在までぶっ通しで3艦隊合同の演習を行っていたのである。
 艦娘達は良い。補給(食事とは別個である)と食事を済ませ、簡単なメンテナンス(入浴とは別個である)を済ませ、残るは食事と湯浴みと就寝とあとついでにこのブリーフィングだけなのだから。
 翻って、三人揃って不吉三兄弟と揶揄される井戸、水野、メナイの三提督達は演習終了後の報告書の作成と、これから行う事前ブリーフィングのための突発的な資料作りに奔走されられており、メシ風呂どころかクソする暇も無い。というのが彼らの現実である。
 そして夕食を終えた現在、第201から第203までの全艦隊に所属するすべての艦娘とシップクルー達、および提督らは、来るべき2週間後の大作戦に備えて、ここ――――プレハブ小屋の一階にある、食堂に集合していたのである。

「では、不肖このわたくし井戸が説明させていただきます……二週間後に予定されていた大巣穴潰し作戦ですが、増援は来ません」

 時間が、止まった。

「駆逐艦一隻、猫一匹たりとも増援は参加しません。1から〆まで全てやれと、ブイン基地でやれと、帝国海軍大本営、およびオーストラリア海軍総司令部からお達しが来ました」

 一瞬の沈黙の後、驚愕と罵声とその他もろもろの大絶叫により、食堂のドアと窓のガラスにヒビが入り、運よく赤城が食べ残したヤシの実を狙って木に登っていたヤシガニが驚きのあまり地面に落下した。

「はっ!? なっ、ば、ばはばばばば馬ッ鹿じゃねぇの!? もしくはアホか!?」

 とは我らが203艦隊の天龍で、

『nice joke.』

 とはお隣202艦隊の旗艦、金剛の談である。どうでもいいが吹き出した紅茶くらい拭ってほしいものである。折角の美人が台無しだ。

「あー。落ち着け落ち着け落ち着いてください! 説明続けますので静粛に。静粛に!!」

 手元の机にバインダーの角をカンカンメゴリ、と裁判長よろしく打ち鳴らし、周囲が静かになるのを待った。
 続けて井戸は、最も入口に近い席に座っていた201艦隊のシップクルーの一人に部屋の電気を消してもらうと、あらかじめ準備してあったOHPにフィルムを通し、その内容を壁に投影させた。

「まずはこれを。人工衛星からの撮影です」
「んだよ、コレ」

 天龍の疑問ももっともだった。映っていたのは、ただひらすらに紺碧な写真だったからだ。
 中央付近は群青色と藍色の中間地点のような円形を描いており、それ以外に特徴らしい特徴と言ったら、小さな白い線のようなものがその中によく映えていたくらいのものであった。
 203艦隊の電――――電は202艦隊にもいるので、見分けが付くようになるまでは実に紛らわしいのでそれぞれ『202』『203』の名札を胸につけている――――が、おずおずと、その小さな手を上げた。

「あの、提督さん。これってもしかしてブルー・ホールですか?」
「半分正解。正確には『展開』あるいは『超展開』時の余波による、人為的な海中クレーターだな」

 へぇ、真上からは初めて見た。と、水野が呟いた。

「サイズから察するに、重巡洋艦クラスの余波です。……次を映します。一枚目の拡大写真です」

 クレーター中心部のアップのようだった。
 中途半端に荒い解像度のせいで所々にデジタルノイズが走っている静止画像の中央部。青の中に小さく、黒い影が伸びていた。

 何か、いる。

「三枚目。衛星搭載のPRBRデバイスで、同地点のパゼスト逆背景放射量を視覚化したものです」
「Possessed? お化けでも出たんデースカー?」

 これから出るかもしれんがな。

 金剛のその疑問に、井戸は心の中だけでそう返すと、フィルムを入れ替えた。
 今までの澄み渡ったブルーは隅に追いやられ、代わりに、真っ黒の下地に赤交じりのオレンジ色に塗りたくられた光の帯が、写真の中央にいる何かの影を起点にして、歪んだ放射状に伸びているのが写っていた。

「これが撮影されたのが今から約6時間前。最新の画像です。そして……」

 ここで、井戸が言い詰まった。

「……? 提督?」

 すでに大本営からは、戦局の変化に伴い、ある程度の情報開示も止む無し。との指令は降りてきている。だが、どこまで真実をバラしていいのやら。

「提督……如月は提督がお望みならいつでもどこでもオーケーですが、作戦会議中の焦らしプレイは流石にちょっと……」

 おそらく、いや間違い無くここから先の情報は劇薬だ。上手い事取り扱わなければ取り返しのつかないことになる。
 自分は前の職業柄故に知っていたが、軍歴の長いメナイ少佐や、何かと帝国海軍上層部に顔の利く水野中佐ですら夕方の大本営からの通信指令でようやく聞かされるまで知らされていなかったわけだし。

「……えー。まー、その。あの、これはつまり」
「何だハッキリしねぇな、おい」

 腕と足を組んで椅子にふんぞり返って座っていた天龍が、苛立たしげに貧乏揺すりを始めた。
 天龍と目が合った。俺は全て知ってるから大丈夫だし、下手打っても何とかしてやるぜ。と言わんばかりにウィンクされた。コイツ、天龍に加工される前と全然変わってねえなぁ。と井戸は心の片隅で思った。
 同時に、心の固さが少し取れたような気がした。

「……まー。あー、一言でいうとアレです。羽化直前の深海凄艦が発する特殊な力場を可視化して撮影したものです。この規模なら、あと3日か4日と言ったところでしょうか」

 再び、食堂の中にざわりとした動揺が走る。
 スライドが4枚目に入った。

「で、こちらが比較用の大巣穴――――朝に基地司令が言ってた超大規模発生源のPRBR画像です」

 4枚目のスライドには、生物の内臓のように複雑怪奇で不快な曲線を描いた、赤交じりの黒が写真一杯に映っていた。
 それ以外の色など、どこにもなかった。

「撮影時期は1999年、現地時刻の6月30日。はっきり言うと『シナリオ11』の戦闘開始直前に撮影されたオアフ島です」

 ――――島どこだよ、島。

 とその写真を見ていたすべてのものが思った。
 これ以上話が長くなると面倒だし、いつボロ出すかわからんと思った井戸は早々に話を切り上げることにした。

「この二枚を見比べて見れば一目瞭然でしょうが、昨日発見されたアレは超大規模発生源ではありません。重巡クラスの深海凄艦が一隻、羽化しかけているというだけの事です。故に増援の必要無し、と上は判断したものです。2週間後に本土からやってくる十個艦隊とやらも合衆国の孤立艦隊が本土に向けて帰港するのを途中までお見送りするだけ。との事です」

 ずいぶん派手なお見送りだな、おい。と201艦隊のシップクルーの誰かが漏らしたが、誰も咎めなかった。

「なお、先の羽化直前であるという理由により、作戦は大幅に前倒しとなります。明日からは第203艦隊は全ての遠征任務を中止。通常通りの定期巡回任務と緊急出撃のみを許可します。明々後日中に全ての艦の整備を終え、日付変更と同時に、我々が出撃します。201艦隊はタンカーの引き上げミッションを優先してください。202艦隊は定期巡回をお願いします」

 若輩者が先輩方を差し置いて心苦しくありますが、何卒宜しくお願いします。と井戸は頭を下げて締めくくった。
 部屋の電気が再び点る。
 水野は水野で、俺の金剛がいらんケガせんでええから許したる。とにべも無く言ってのけ、メナイ少佐の方も、確かに我が艦隊には大形サルベージ艦が2隻ありますし、サルベージダイビングの経験者も多数いるので適任でしょうな。と快く承諾した。


 その日の夜の男子風呂の中での事である。

「……深海凄艦、か。改めて考えると、不可思議な連中だな」

 固く絞った手拭いを頭の上に乗せ、肩まで大湯船に漬かってアイン、ツヴァイ、グーテンモーゲン……と100まで大声で数え終わったファントム・メナイ少佐湯船から身を出して言った。

「いきなり。というか、何を今更ですね。メナイ少佐」

 ちょうど風呂から出ようとしていたメナイと出入り口で並ぶ形となった水野が、バスタオルの一つを手渡しながらそちらを振り返って答えた。
 水野の身長は帝国人としてはかなり長身の部類に入る185センチだが、メナイは190センチとさらにその上を伊19。
 俺はどこぞの旅行記に出てきた巨人の国にでも紛れ込んだのだろうか。それともアレか。ここが神話として語り継がれる巨人と火の忘都、アノール・ロンドなのだろうかと、一足先に風呂から上がってパンツの穴に片足を通していた井戸(175センチ)は思った。

「ああ。ふと思っただけさ。奴ら、雷巡チ級や重巡リ級みたいに上等な連中になればなるほど、人間と似通ってくるじゃあないか」

 こないだ井戸が噛み殺したヲ級に至っては完全な人型だったしな。と水野は笑いながら返答した。

「そう。そこなんだよ。連中、どこから来たんだ?」

 寝間着代わりのTシャツに首を通していた井戸の動きが止まった。二人は気が付いていない。
 メナイ達はさらに続ける。

「どこって、そりゃあ仄暗い、海の底からでしょうに」
「それはいままで戦ってきた深海凄艦――――連中との戦いで傷つき、沈められた艦が浸食汚染されて変質化したモノの事だろう。駆逐から空母級まで。だが、私が言いたいのはそうじゃあない」
 井戸は、Tシャツに首を突っ込んだままという不自然な姿勢のまま、そろそろ口挟まないとヤバイかなー。とタイミングを聞き測っていた。
 とうとう言った。

「表沙汰になっていないとはいえ、貴国の『あさうみ2000』が連中とのファースト・コンタクトだろう。私が言いたいのはそれ以前の事だ。ならば、そこで接触する以前、一番最初の深海凄艦というのは、いったい――――」
「メナイ少佐」

 Tシャツに首を突っ込んだままでも井戸の声は、この狭い脱衣所の中ではよく通った。

「それ以上は、駄目です。そこから先は、黒服連中の対象です」

 黒服――――各基地や鎮守府に数多いる憲兵隊の中でも一際異彩で、そのくせ一切の詳細が不明な連中の事だ。
 当然、このブイン島にも存在しており、黒の角刈りに黒のサングラスに黒いネクタイと黒の上下スーツという、見事なまでに非個性的に統一された黒服どもについて解っている事はただ二つ。
 基地司令の特例権限でも逆らえないほど上位の権力で動いている事と、そいつらに連れてかれた連中は二度と帰ってこないという事だけだ。

「あ、ああ……ありがとう」
「さすがに、知った顔が黒服に捕まるのは嫌ですから。それではお先に」

 Tシャツに首を突っ込んだまま、井戸が脱衣所を後にする。ややあって、外から『司令官さーん、ジャミラごっことか年齢バレるなのですー!』と、どちらかの艦隊の電の声が聞こえてきて、そこでようやく男二人は我に返った。

「……出るか」
「……出ますか」


 夜が更ける。
 メナイ少佐の下に黒服共がやって来たのは、幸いにも彼の夢の中だけで済んだ。






 男どものシャワーシーンから二日後。
 203艦隊はかねてからの予定通り、深夜の海の上を月明かりと夜間哨戒機の目を頼りに、水溜り同然の珊瑚浅瀬の隙間を縫うようにして、目的地まで静かに進行していった。
 本作戦に参加している艦は、旗艦の天龍と電の2隻のみである。
 目標――――羽化直前の深海凄艦が確認されたのがここ、珊瑚平原だの水溜りだのと揶揄されるほどに水深が浅く、駆逐艦や軽巡洋艦のような艦以外には侵入不可能な海域であったためである。もう一隻の駆逐艦『如月』は先の戦闘による損傷が激しく、高速修復触媒による修復はかえって危険との事で、絶対安静で入渠中である。因みに、以前の戦闘で天龍が件のタンカーをヘシ折ったのも、この珊瑚平原の別の水域である。
 しかも、船が通れるほどの深い水深域が食中毒を起こしたウミヘビのように細く複雑にうねっており、夜間という事も相まって艦のみで進むのは危険と判断した井戸が夜間哨戒機を一機、水先案内人として飛ばしてもらったのだ。

『MidnightEye-01よりFlagship,MidnightEye-01よりFlagship. 前方300で進路変更。ターンレフト60。それが最後のコーナリングだ』
【Flagship天龍よりMidnightEye-01。貴君の正確無比なる誘導に感謝する】
『MidnightEye-01よりFlagship.なぁに。こんな美人のエスコートならいつでも大歓迎さ』

“飛ばしてもらった”の表現からもわかる通り、この夜間哨戒機は203艦隊のものではなく201――――メナイ少佐麾下の飛行機である。
 しかも、

「……FlagshipCommanderよりMidnightEye-01。確か貴様は『何で手柄横取りした他所様の艦隊の手伝いしなきゃならねーんだよ!?』と作戦前に叫んでいた気がするが?」
『MidnightEye-01よりFlagshipCommander.……あー。それは、だな。い、いや。それはですね。最初からこんな美人さんがいると知っていたらたとえ火の中水の中に決まってやがるだろうが……です』
「FlagshipCommanderよりMidnightEye-01。とりあえずはそう言う事にしておいてやる。海図だと目標まであとしばらくあるが、そちらでは確認できるか?」
『MidnightEye-01よりFlagshipCommander.現在高度では目視確認できない。周囲にも敵影無し。PRBRデバイスも穏やかなままだ……です』
「FlagshipCommanderよりMidnightEye-01。了解した。では予定通り、到着後は夜明けを待ってから攻撃開始だな。……しかし、メナイ少佐も太っ腹だな」
【ホントだぜ。オレ、飛んでるジェット戦闘機なんて初めて見たぞ】
【電も、公園に飾ってあるのなら見たことがあります】

 そう。MidnightEye-01が乗る夜間哨戒機とは、月光やヘルキャットなどのかつての世界大戦当時の名機――――海沿い各国の復刻戦艦と同じく復刻戦闘機と呼ばれる――――ではなく、深海凄艦の跋扈により資源不足が表面化する直前まで世界の空を飛び回っていた、第5世代型のジェット戦闘機だった。
 しかもその背中に、自機よりも大きな丸皿状のレドームを(無理矢理)取り付けて限定的ながらも早期警戒機としての機能を持たせた、関係者の間では『人類製のフライング・ソーサー』『ある意味スーパーグッピーより凄惨い』などと揶揄される変態飛行機であった。

「FlagshipCommanderよりMidnightEye-01。貴様も、とても頼りになっている。我々だけでは途中で何度も座礁していただろう。貴君の正確無比なる誘導に感謝する」
『……まー、ウチの艦隊は、タイプ・艦娘と満足な数以外は大体揃ってる。ってのが最大の売りだからな』

 ただ、そのおかげで島の反対側は全部201所属の空母やら何やらで埋め尽くされているんだがな。と井戸は心の中だけで付け足した。
 今作戦で再び旗艦に舞い戻れた天龍――――作戦行動中なので、当然『展開』済みである――――が、己の艦長席に深く座っていた井戸に艦内放送で質問を飛ばした。これならば他の艦や機には伝わらないからだ。

【なぁ、提督。こないだのブリーフィングで言い淀んでたところだけどよ……】
「うん?」
【多分、あのまま言っちまってても大丈夫だったと思うぜ。どうせいつかは対面することだろうし。そりゃ流石に新人の電や、食い殺したばっかりの如月にはちと荷が重いかもしれないけどさ。それでもあいつらだって艦娘――――戦闘艦だぜ。何とか折り合いを付けるだろうさ】
「……」

 確かに、そうかもしれない。だが、そうじゃあないかもしれない。誰も彼もが皆、天龍のように強い心の持ち主という訳ではないのだ。
 そして井戸は前の仕事柄故に、真実を知った者は最悪の場合、壊れる。という事を知っている。特に、心が壊れる確率は普通の人間よりも艦娘達の方が遥かに高い傾向にある事も。
 さて、実際ウチの面々にはどう説明すべきか。天龍はもう知っているし折り合いもつけているから大丈夫だとしても、如月辺りは大丈夫だろうか。今後ずっと肉が食えなくなるんじゃあないのか。
 その長考による沈黙を何事かと勘違いした天龍が、慌てたように続けた。

【あ、あぁと。そ、そう! お前がいつもらしからぬ暗い顔してたから張り合いが無かっただけなんだよ! べ、別にお前が元気なさそうだったから大丈夫かなー。なんてお、思ってなんかいないんだからな!! 大体お前はだな――――】
「……」

 慌てたような天龍の声と連動するかのように、井戸の背後で艦橋と通路を遮る重金属製の気密扉がバコンバコンとひとりでに開け閉めを繰り返していた。多分、いつもの耳ピコピコに相当するアクションなのだろう。

 ――――やっぱコイツ、天龍になる前から全然変わってねぇや。

 同時に、今の今まで小難しく考えていたのが馬鹿らしく思えてきた。出たとこ勝負。成るように成れ。小細工ハッタリスカしにフカし、どれもこれも初体験という訳じゃあない。コイツを連れて軍に逃げ込む前にやってきた事ばっかりじゃあないか、井戸よ。

「……なぁ、天龍」
【――――だし、だからいつもシャツとか上着にアイロンかける前にちょっとぎゅっとしたり臭いをにゃあああああー!?】
「て、天龍!? どうした、敵襲か!?」
『MidnightEye-01よりFleet203,レーダー、およびPRBRデバイスの反応はネガティブ。まさか、ステルスか!?』
【だ、大丈夫大丈夫! な、なな何でもない! 何でもないったら! うん、ちょっとびっくりしただけ、だけだから!!】

 大慌てたような天龍の声と連動するかのように、井戸の背後で艦橋と通路を遮る重金属製の気密扉、および通路各所に設置された緊急災害用の隔壁シャッターがガシャコンガシャコンとひとりでに開け閉めを繰り返していた。多分、大慌ての心理状態に相当するアクションなのだろう。
 そして今まで静聴していたはずの電が、止めを刺した。

【人のシャツに顔突っ込んで臭い嗅ぐとか、天龍さん、やっぱり原型(オリジナル)の電が実家で飼ってた犬さんみたいなのです】

『MidnightEye-01よりFlagship.……ぅゎぁ』
「……なぁ、天龍。何やってんだよ。ていうか何やってたんだよ」
【……面目無いです】

 今度は艦内照明がしょんぼりと薄暗くなった。可愛い奴め。
 その時、目標上空で旋回待機していたMidnightEye-01から、緊急の通信が入った。
 お遊びの時間の終わりを告げる口調だった。

『PAN,PAN,PAN. MidnightEye-01よりFleet203. PRBRデバイスにhit. 発生源1。D係数22.5、30、30.5、40、55、……オイ、どんどん上がってきているぞ! あと3日は大丈夫じゃなかったのかよ!?』

 そんな馬鹿な。 
 井戸のその叫びは、MidnightEye-01の更なる絶叫によってかき消された。

『D係数90突破! 羽化するぞ!!』





 暁の水平線に、朝日が昇る。

 血のように赤く、しかし深い海の底のようなドス黒さを宿した、不吉な色味の夜明けだった。
 しかし大気や太陽に異常があるわけではない。
 異変の原因は、この珊瑚平原にぽっかりと空いた底の浅いクレーターの中央部に位置する、見ているだけでも不安になってくる不気味な形状をした黒い物体――――深海凄艦の繭とも蛹とも呼ばれる、材質不明のオブジェクトから煙のように立ち上る、ガスでも蒸気でもない、全くの未知なる物質(軍内部では暫定的に『瘴気』と呼称されている)によって周囲の空間が汚染されているためである。
 オブジェクトにヒビが入る。その開いたヒビから更に濃い瘴気が勢いよく噴出する。ガス圧ならぬ瘴気圧で小さな亀裂の拡大がさらに加速し、瘴気の噴出量もまた、一段と増加する。
 そしてついに、オブジェクト全体が内側からの圧力に耐えかね、弾け飛んだ。
 晴れた瘴気のその中には、一つの人型が何をするでもなく、ただ朝日を惚けたように眺め、立ち尽くしていた。
 そして天龍、および電がある程度自由に動ける海中クレーターの中に侵入してくると、そちらの方に顔を向けた。

【提督、アイツは……】
「数値や形状から察するに重巡リ級。か? だが……」

 何かと深海凄艦に関して造詣の深い井戸と天龍であったが、その二人も困惑していた。
 空母ヲ級と同じく完全な人型、剥き出しの歯茎と歯が並ぶ大顎状に変化した黒色の異形の両腕。黒のビキニ。
 そういった特徴がある以上、とりあえずは重巡リ級と見て間違いは無いのだろう。

 だが、その深海凄艦には、顔が無かった。

 正確に言うと、歪な形の真っ黒な兜――――恐らくはあの繭の破片の一部が上手い事収まったのだろう――――がすっぽりと顔の上半分を覆い隠しており、目が全く見えなかったのだ。そしてその隠れて見えない目元からは、真っ黒い油のような物が二筋の流れとなって、涙のように滴り落ちているのが見て取れた。

「また変異種か?」
【さぁな。だけど、やる事は変わらねぇだろ】
「ああ、そうだな」

 艦としての天龍の艦長席に座る井戸の右真横。そこにはいつの間にか艦娘としての天龍が顕現しており、手すりに預けてあった井戸の手の上にその手を重ねていた。
 二人の目が合う。同時に頷く。
 艦娘式天龍型軽巡洋艦『天龍』の船首が天を目がけて大きく傾いていく。船底が大気に晒されていく。

「【天龍、超展開!!】」

 光と音、そして現在いる場所ほどの規模では無いが、新たな海中クレーターが出来上がるほどのエネルギーの奔流が二人を包み込んだ。

 今日もあいつは夜勤、手元に届いた『天龍』の適性個体候補生のリスト、貰ったスペアの合鍵、目を疑う、よし今日はあいつの好きなヒヨコ豆とソラ豆のトマトスープにしよう、詰め寄る、戸棚を漁る、『それはギャグで言っているのか?』という表情のチキンブロス大尉、手が滑って床に落ちて潰れたトマト、俺的ケース991『考えたくもない事態』、立てつけの悪いドアに鍵が差し込まれる音、試作段階でポシャった生体デコイと高速培養剤はどこだ、そして――――

【天龍、超展開完了! 機関出力150%! 維持限界まで600秒!!】

 先日の『如月』の時のような酷い記憶混濁は無かった。

 ――――天龍、攻撃開始。電、砲雷撃で支援頼む。
【おっしゃあ! 行くぜ井戸、電ァ!】
【はいなのです!】

 超展開状態となった天龍が一直線に駆け出す。元々が珊瑚平原などと言われていただけあって、今の天龍と井戸にとっては、この海中クレーターの中でも本当に少し深めの水溜り程度にしか思えないほどだった。
 右腕部の14センチ砲を乱射しながら天龍が一直線に距離を詰める。
 この時点で、ようやく敵――――重巡リ級は己が狙われている事を悟ったのか、怯えたように2、3歩後ずさった。

 ――――ぶちかませ!!
【応よ!!】

 コマンドはそれだけで十分だった。
 天龍が自我コマンドで61センチ酸素魚雷の最終以外の安全装置を解除。勢いそのままにアッパーカット気味なボディブロー。4つ同時に炸裂する魚雷の炎。
 攻撃失敗。右腕を挟まれた。
 めげずに続けて左の魚雷でボディを集中砲火、流石に堪えられなかったようで、リ級がくの字に体を折ったところで素早く両手でリ級の頭を掴んで左のヒザを連打連打連打!!
 都合数発目の膝蹴りで、ようやくリ級が、腕を振り回して天龍を振り払おうとしていた。既にズタズタになっていた腕から真っ黒い油の飛沫が天龍の顔に飛んできた。目に入りかけた油に怯んだ隙に拘束を解かれる。指で拭うついでにぺろりと舐め取る。

 ――――油?
【いや、コレはオレらも使ってる統一規格の燃料だ。しかも結構質がイイ】
『MidnightEye-01よりFlagship. 目標のD係数、なおも上昇中!』

 深海凄艦が何故? と考える暇も無く、リ級に変化があった。
 顔面の上半分こそ黒い殻に覆われて見えないが、殻の隙間や、憎々しげに食いしばられた歯の隙間からは赤みを帯びたドス黒い瘴気が湯気と立ち上っていた。
 リ級の口が何事かを呟くかのように動かされる。井戸も天龍も、地獄耳や読唇術などという高尚な技能の持ち合わせは無かったため、何を言っているのかは――――いや、そもそも本当に言葉だったのかすら不明だが、兎に角何も――――解らなかった。

 十分すぎる油断だった。

 リ級が見た目を裏切らぬ素早い動きで突進。健在な左腕でのウェスタンラリアット。
 首にモロに決まった天龍が仰向けに吹き飛ばされつつ倒れ込む。そのままマウントをとろうとしたリ級を、背後から殺到した12.7cm連装砲の弾幕と魚雷が阻む。

【なのです!!】

 その隙に天龍が横に転がって危機を脱する。油断無くリ級を見据えながら、左腕を支えにして艦体を立ち上がらせる。その際こっそりと魚雷を2本だけ抜き取る。1つは手の中、残りは海中。激発信号を送る。発射数2。接触起爆、遠隔点火。READY。READY。

 ――――やる気になったようだな。
【ヘッ、丁度いい。弱い者イジメは趣味じゃあねぇんだ……よっと!!】

 左手に掴んだ魚雷を投擲。水しぶきに合わせて海中の魚雷にもGOサインを出す。続けて突進。

【オレをなめんなッ!!】

 全て読まれていた。
 空中に投擲した魚雷は死に体だった右腕一本を千切り飛ばしただけで終わり、海中の魚雷は半歩ほど足の位置を外に開くだけで避けられた。

 重巡リ級。

 かの悪名高き雷巡チ級に対抗すべく艦娘式戦闘艦が量産され、一定以上の戦果を上げ始めるようになり、開戦当初のように深海凄艦何するものぞという雰囲気が各地の最前線に流れ出した頃に登場した、深海凄艦側勢力の艦娘式戦闘艦へのカウンターメジャー(対抗手段)である。
 その形状は、魚雷発射管と主砲群格納殻を兼ねている異形の大顎のような形状の両腕以外は後の空母ヲ級と同じ完全な人型であり、チ級以前の種と違って、何と首と足がついている。
 超展開機能を有する艦娘式戦闘艦と渡り合うために、魚雷以外にも中距離戦に対応するべく連装砲を有している。
 そして何よりも、

 ――――待て、天龍! 早まるな!!

 そして何よりも、この重巡リ級最大の特徴は、雷巡チ級より備わった格闘戦能力を、さらに先鋭化させている事にある。

【クソが! なめ】

 健在の左腕のみによるワンツーのカウンターが綺麗なまでに天龍の顎に入る。その衝撃で天龍の索敵系が瞬間的にシステムダウン。システム復旧までの数瞬を井戸がコントロール。咄嗟に天龍の上半身を祈るように丸め、両腕を十字に組んだクロスガード。次の衝撃は後頭部と背中に来た。
 復旧した天龍のメインシステムデバイス維持系は、右のカカトと敵主砲の8inch三連装砲だと、天龍と井戸の二人の脳裏に電子の文字で答えた。
 盛大な水音と水飛沫を上げ、再び水溜りに倒れ伏す。リ級が主砲のみを電の方に向けて牽制射撃を行いつつ、ストンピングによる追撃をかける。

 ――――舐めるなと言ったはずだ!!

 上位コマンドで天龍の制御系を一時的に奪った井戸がリ級の軸足を掴んで倒し込む。続けて天龍が右腕部の14センチ砲を乱射するよりも先に全身を捻って足首の拘束を強引に振り払ったリ級が回転の勢いそのままに距離を取って主砲を向けるよりも先に今の今まで乱戦状態だった上に、そっぽ向いてた割に無駄に精密な照準の敵主砲から逃げ回っていたために援護の出来なかった電が今までの鬱憤を晴らすかのごとく主砲と魚雷を一斉発射。当の電が『くたばれワカメ野郎』と呟いたように聞こえたのは戦闘ダメージの蓄積で脳が幻覚を起こしただけに違いない。
 しかしそれでもリ級は残された左腕一本で倒立し、電と天龍からの十字砲火を全弾回避。

【……信じらんねぇ。コイツ、本当に生まれたてか?】
 ――――わからん。あるいはこれが、噂のタイプ=エリートとかいう亜種なのかもしれん。

 そのありえない光景に、井戸も天龍も電も、動きを止める。
 そして何故か、当のリ級までも。

【……あ?】
 ――――何かの罠か?
【そのまま死んでくれてたら楽なのです】

 井戸と天龍の意識に流れ込んできた電とよく似た声色の幻聴を意識的に無意識の外側に追いやり、未だに水面を向いたまま動こうとしないリ級を警戒し、そろりそろりと天龍がにじり寄る。
 猪突猛進の天龍も、このリ級の格闘戦能力には文字通り痛い目を散々味あわさせられたためか、今までのような衝動的な攻撃概念は鳴りを潜めており、代わりに警戒と疑心暗鬼、そして不安の概念が渦巻いていた。

 ――――大丈夫だ、天龍。俺がいる。俺が何とかする。

 井戸としてはそこで思念の流出を止めるはずだったのだが、やはり一体化している現状では如何ともし難く、結局逃げ出すも捕捉され、結局『天龍』として加工される所まで流れ出してしまった。

 ――――スマン。ヤなとこ思い出させた。

 だが、天龍から返って来た概念は穏やかで優しいものだった。

 ――――天龍。
【あ……】

 二人の意識と概念がレイヤー階層的に重複し始める。
 直後、何かが盛大に着水した音と水柱で二人が我に返った時には、リ級が水面に倒れ込み、大の字になって日が昇った青空を見上げていた。
 電の追撃によるものだった。

【司令官さん……戦場で女房恋人の名前を口に出していいのは、死にかけの甘ったれだけに許された特権なのですよ? それと、敵は死ぬまで敵のままなのです】

 なにこの娘、すごいおっかねぇ。

 井戸と天龍がそう思ったかどうかは、目下のところ調査中である。




【海底に戻りやがれ。なのです】

 電(とよく似た幻聴)が12.7cm連装砲を試し撃ち。
 反応無し。

 ――――完全に機能停止したな。多分。

 超展開中の井戸と天龍が、14センチ砲の砲口で頭の殻をつつく。
 口元が動いたのを確認できたのは、井戸だけだった。

【しかし、これだけ激しく動いても取れてないのな。この黒い殻だかヘルメットだか】
【折角ですから、剥ぎ取って基地の皆さんへのお土産にしてみたらどうでしょう】

 ――――……。

 井戸から天龍への秘匿通信。
 しかし当の天龍は眉の動き1つすらも変化させずに電と、上空に待機していたMidnightEye-01に向けて言った。

【……それもいいかもなー。じゃあ二人は先に帰っててくれよ。剥ぎ取ったらすぐに追いつくからよ】
『MidnightEye-01よりFlagship. 言われずともそうさせてもらうぜ。燃料がヤバイ。行きの時のルートデータは入ってるな?』
【は、はいなのです……】
『それひっくり返せばそのまま帰りのデータだ。……あー、MidnightEye-01よりHOMEBASE. ミッションコンプリート。RTB』
【あ、あの天龍さん、私もゆっくり進みますので、それではお先に失礼いたします】

 あれ? さっきのドス黒い発言をしていたのはいったい誰だったんだろう? という井戸と天龍の疑問はもっともだったが、それを探るには、二人に残された時間はあまりにも少なかった。

 ――――維持限界まであと3分切ってる。天龍、頼む。
【……ああ】

 思い返してみれば、不自然な点はいくつもあったのだ。
 こちらを認識してもなお、積極的な攻撃行動を起こさなかった事。明らかに場馴れし過ぎているとしか思えない格闘戦能力。流れ出した統一規格燃料。
 そして、あの倒立中の不自然な硬直。

 あの時、リ級は下を見ていたのではない。水面に映った己の顔を見ていたのだ。見てしまったのだ。

 両手を開けた天龍がリ級の頭部を覆い隠していた殻の破片に手を掛ける。黒い油色の涙は、未だに流れ続けていた。
 殻の破片は、予想を裏切ってあっさりと外れた。

「……だめ。見ないで……見ないでぇぇぇぇ!!!!」

 殻の内側にあったもの。重巡リ級かと思われていたもの。
 その正体は、艦娘式妙高型重巡洋艦四番艦『羽黒』だった。

【……やっぱり、かよ】
 ――――よりにもよって、一番辛い成り方とは……

 殻の内側にあった瞳は、既に深海凄艦特有の、光を返さぬ浅い緑色に成り果てていた。
 もう、手遅れだ。
 天龍が、14センチ砲を向ける。狙いは、艦娘の魂の場所ともいえる心臓部だ。

「見ないで、見ないでよぉ……ペナンの時も、今も、私が戦わなきゃ、あの子たちが……私が 守らなきゃ……提督、援軍にCallを、」

 羽黒が、もう途中から先の無い右手を宙に伸ばす。その緑色の瞳には、何が映っているのだろう。

【……】
 ――――……

 天龍が、狙いを定めていた14センチ砲を静かに降ろす。

「提督、Callが、繋が 、 みんな、あの娘達、ちゃ んと逃げ切れ 、 って。 か   た    」



 もう、その必要は無くなったのだ。











 本日の戦果:

 重巡リ級        ×1

 各種特別手当:

 大形艦種撃沈手当
 緊急出撃手当
 國民健康保険料免除

 以上




 本日の被害:

 軽巡洋艦『天龍』:中破(竜骨ユニット応力異常、背面装甲板破損、内臓機器一部浸水、索敵装備機能不全、、主機異常加熱)
  駆逐艦『電』 :小破(数発の全貫通を確認。誘爆・引火・浸水の恐れ無し)
 軽巡洋艦『那珂』:恐らく健在(現在尋問中につき詳細不明)
  駆逐艦『大潮』:もしや健在(現在尋問中につき詳細不明)

 各種特別手当:

 入渠ドック使用料全額免除(※1)
 各種物資の最優先配給(※1)(※2)

 以上


 ※1 ただし、やんごとなき一族からお預かりした大事なタンカーを武器代わりにした挙句に大破させ、国民の血税の結晶ともいえる各種補給物資を海の藻屑と化した井戸少佐は除く。

 ……と言いたかったところだが、タンカーの中身が無事だったので不問にしてやる。有難がる様に。(By基地司令)


 ※2 追記。貴様からの陳情にあった艦core用の高速浄化剤と培養剤の手配と浄化槽の再運用の件であるが、浄化剤と培養剤は地下第2倉庫のK2コンテナに期限切れ間近のストックがあり、浄化槽も同じ第2倉庫内で埃被ってるので、使いたきゃ勝手に整備して使え。
 ただし、書類への記入を忘れないように。(By基地司令)









 本日のNG(没)シーン1


『嗚呼、栄光のブイン基地 ~ 故郷はブイン ‐Summer evening‐』


「海軍大本営からの命令を伝えます。『重巡“羽黒”を抹殺セヨ。誰ニ正体ヲ知ラレル事無ク、一ツノ、凶悪ナ深海凄艦トシテ葬リ去レ』……以上です」

 ここまで書いて心が【石臼/Millstone】で削られていったので没になりました。



 本日のNG(没)シーン2


「三枚目。衛星搭載のPRBRデバイスで、同地点のパゼスト逆背景放射量を視覚化したものです」
「Possessed? お化けでも出たんデースカー?」

 これから出るかもしれんがな。

 金剛のその疑問に、井戸は心の中だけでそう返すと、フィルムを入れ替えた。
 今までの澄み渡ったブルーと違い、真っ黒の下地に、赤交じりのオレンジ色に塗りたくられた光の帯が、写真の中央にいる何者かの影を起点にして、歪んだ放射状に伸びているのが写っていた。

「これが撮影されたのが今から約6時間前。最新の画像です。そして……」

 ここで、井戸が言い詰まった。

「……? 提督?」

 すでに大本営からは、戦局の変化に伴い、ある程度の情報開示も止む無し。との許可はもらっている。だが、どこまで真実をバラしていいのやら。

「でよ、結局これは何なんだよ」

 おそらく、いや間違い無くこの情報は劇薬だ。上手い事取り扱わなければ取り返しのつかないことになる。
 自分は前の職業柄故に知っていたが、軍歴の長いメナイ少佐や、何かと帝国海軍上層部に顔の利く水野中佐ですら夕方の大本営との通信報告で聞かされるまで知らなかったわけだし。

「……えー。まー、その。あの、これはつまり」
「何だハッキリしねぇな、おい」

 腕と足を組んで椅子にふんぞり返って座っていた天龍が、苛立たしげに貧乏揺すりを始めた。コイツ、天龍に加工される前と全然変わってないなぁ。と井戸は心の片隅で思った。

「つまりですね天龍さん。これは、撃沈された艦娘さんが深海凄艦にどれだけ汚染・変質しているかをあらわしているんですよ」

 誰もが電を――――どっちかは分からなかったが兎に角そちらの方へと――――振り返った。

「衛星搭載で帝国側に供給されているってことは、デバイスはジオメトロニクス・アンド・パッチワークス社のGPC-LSatOnlyLens-1999αシリーズですよね。ならパゼスト逆背景放射のカラーが赤交じりのオレンジってことはまだ汚染はフェイズ2で、最悪でも真皮装甲の剥離と運動デバイスの除染さえ済ませればほぼ確実にその艦娘さんは助かる。という事ですよね。司令官さん」
「な……」

 誰もが、信じられない化け物を見るような目付きで二人の電を見ていた。
 202の電は『私知らない! 何も知らない!』とでも言いたげな必死の表情でブンブンと首を横に振っていた。

「な……何ごく普通にS3機密バラしちゃってるのこの娘―――――――!?」

 叫ぶムンクもビックリな驚愕の表情を浮かべた井戸の叫びで、辛うじてヒビだけで済んでいた窓ガラスが木端微塵に砕けた。



 今度こそ終れ。











「……ねー! 提督ー!! もう長めのオフとか欲しがりませんからー!! 早く迎えに来てー!!」
「大潮はまだ大丈夫だから大潮はまだ大丈夫だから大潮はまだ大丈夫だから大潮はまだ大丈夫だから大潮はまだ……」


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026579856872559