歳月を経ても変わらぬ貴女を夢見ている……
変わり行く私を見て、貴女は何を思うのか……
貴女に笑っていて欲しいだけなのに……
眠る貴女は答えない……
例え、世界が私を拒んでも……
貴女にさえ拒まれることがないのであるならば……
私は世界を灰にする……
貴女のいない世界など……
滅ぼすことを躊躇(ためら)わない……
だから、答えて欲しい……
俺が変わる前に……
人を捨てる前に……
エリーナ……
君のいない世界はこんなにも残酷だよ……
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世界を統べる証である【魔王の美酒】を【怠惰シンクレア】が手にしたと言う情報は千里を走り、魔人の領内において知らぬ者は皆無であった。
魔人達は新たに誕生するかもしれない魔王に対する興味で溢れ、シンクレアが彼女の主君である【傲慢クラリス】に対してどう出るのか等、様々な噂が当時は飛び交うに至ったが、シンクレアが何も行動を起こさない為に二年を過ぎる頃には次第に噂も消えていった。
「最近、牧場の人間の質が下がった様な気がしますわね……」
彼女が飼育する愛玩(あいがん)動物である黒竜のクリームを放ち、生餌を与えていた際に彼女が唐突に口にした。
彼女の治めるスフィーリアにも人間が暮らす街はある。しかし、その実態は彼女がクリームの為に用意した餌場に過ぎない。
黒竜の好物は人間であり、しかも年端もいかぬ子供を好んで食している為に彼女は数年に一度、隣に位置する【ライオネル王国】への侵略を行い、定期的に餌を補給している。だが、ここ数年は狩を全く行っていなかったので、質と量共に彼女の満足のいく物には程遠い。
阿鼻叫喚の最中で、子供を抱えた親子が黒竜に咀嚼(そしゃく)されていく様を平然と眺めていたシンクレアは誰に聞かせる訳でもなく、ぽつりと呟いた。
「クリームも子供をお腹一杯食べたいでしょうし、そろそろ狩りでもしようかしら……」
まるで、夕食のメニューを決めるかの如くにライオネル王国への侵略が決定した。