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No.38705の一覧
[0] KID(過度のグロ注意)[胃の中](2013/10/15 09:55)
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[38705] KID(過度のグロ注意)
Name: 胃の中◆abfc750a ID:05125992
Date: 2013/10/15 09:55


 あるべき場所へ、行くべきだと思ったんだ。私が彼の道へ行くためにも、そうするしかないって、思った。
 だけど、それが正しかったかなんて、今でもよくわからない。だって、あの人は正しいと言ったけれど、言ったよ。けど、もしかしたら、あるいは。嗚呼駄目だ。たまそんな事を、考えては。やりとげなきゃいけないって、あの人は言っていたじゃないか。言う通りに、しなきゃ。いう、とおりに、だってあの、ひとがた、だしい、って、い、っ、  

 薄れた人格は、咆哮と共に失った。
 柔らかな肌で包んだ血袋と化した人で在った女の顔を、それは嬉しそうに素手で剥ぎ取る。咽せ返るほどの血と肉の臭いが充満するが、構わず続けていた。
 ちなみに、本人は埃一つでもあれば虫酸が走るほどの潔癖性だ。
 肉ごと皮を剥ぐと、中から赤い肉と目玉と白い歯が、さらに吹き出る血に塗れる。
 まるで、絵の具のチューブでべた塗りをしたかのように、とても鮮やか赤だった。血は、余す事なく手や顔や腕や服や床を染め続ける。匂いも、また然り。
 後で洗わないと。結構大変なんだよな。
 添えた指をブジュッという音を起て、彼は死体の片方の目玉を潰す。
 感覚を既に失っている。むしろ本人は、自分を何と認識しているのかどうかも、実のところ怪しい。だがしていては困るのも事実。
 とにもかくにも、開発依頼を頼んだこちらでさえ、もはや確認仕切れぬ領域であるのは確かだ。

「相変わらず、きったねぇ」
「無理して此処にいる事はない。吐きたければ吐きにいけ」
「いいですよ。ボクは慣れっこですし」

 隣りの少年は、ゲラゲラと面白そうに笑う。年は確か十五と聞いた気がした。なら、幼い顔つきをしているのは当然か。そんな部下は先ほどから繰り広げられる殺戮を、覚めぬ興奮と共に見いている。
 人を象った兵器の、見せ物を。

「すげ、また折った」
「当然ですヨぉ、アレは殲滅型ですからネ」

 もう一人、同じような目で見続けている白衣の男がいた事を先ほどの言葉で思い出す。出来ればもっとも関わりを持ちたくも、知りたくもない類いの輩だ。何せアレを作り出した張本人が、あの男を含む開発チームなの。
 だが妙に白々しいまでな親心を持っているようで、様子を見つめるその目は、まるで我が子の成長を見つめる優しい父親のようだった。胸くそ悪い。
 しばらくすると飽きたのか、捻り取った首を床へと投げ捨てると、アレは大きな声で、「次」と、遊び道具でも欲しがるかのように、強請った。まるで普通の子供のように。

 不可思議な光景だ。不似合いな光景だ。馬鹿げた光景だ。皮肉な光景だ。明らかに、確実に。紛う事ないほどに。

 すぐにマイクに口を近づけながら、その男はこう言った。

「ハイハーイ。今もって来ますから、もう少し待っててクダサイネェ?」

 毎度、コレを見た私は小声で「イカレてやがる」と呟く。
 と同時に、「いや」とも呟いた。

 こんな残虐な光景を、週に一度新米研修育成のためにと見せている我々ーー政府のほうが、イカレている。

 正常など、此処にはない。
 我々は皆、同じ穴の狢にいる、同胞なのだ。








 9月10日 午後13時8分47・92秒

 "当時【檻の庭】内の状況書を元に作成された再現フィルムである"
 "品データの持ち出し、コピー、許可のない上映は一切として禁ず"



【品番5729番が逃走。除去班は直ちに処理せよ。繰り返す。品番5729番が逃走。除去班は直ちに処理せよ】

 同じようなアナウンスが響く。確かすでに29回ほど。
 一先ず言いたい事は、五月蝿いから静かにして欲しいという、まるで隣りの犬が吠えているから黙らせたいとでも言いたいような内容だ。
 しかし彼女は、毎回幾度も流れるこの声は常に機械的に発音しているのが、たまには人間の声だったら面白いのに。などと思ったりしていた。
「いったい何人目よ今日……」
 煙草の煙とため息を同時に吹かしながら、苛立った様子で目の前のモニターに置かれた古椅子へ音を起てて深々と腰掛ける。
 そろそろ新調しないと、いつか後ろから転げ落ちるのではないかと思うほど痛み具合だが、座り心地の良さから未だに変える気がなかった。組足を変えつつ、使い慣れたキーボードを操作すれば、素直に画面を切り変わる。
 愛用しているわけではないが、使える事に超した事は無い。未だの入力画面の際に数秒の遅れが出る事は気に食わないが、性能はトップクラス。それが事実である以上、文句は自然と潰れた。
 映ったのは、一人の少女が必死に逃げている様子。画面範囲から見えなくなると、後を追う数名の影が通り過ぎる。服装は正規の軍隊と異なる、純白の軍服を着ていた。
「あら、珍しく出動してる。へぇ」
 キーを打ち込むと、さらに別の映像が流れる。画質が悪いが、状況が把握出来るから問題はないと彼女は自分を宥める。
 ハッキングして見ているのだから贅沢は言えまい。とも、思いながら。
 今度は先ほど逃げていた少女が必死に足をもたつかせながら壁へと追い込まれ、その周りを白い軍服で身を包んだ4人が囲むように包囲している映像が映る。
 それは、小さな野ネズミを追い込む白い大蛇が、今にも丸呑みしそうとする絵図、にも似た光景とも言える。
 遠目の映像だが、ここからでも予想せずともだいたい理解できる。おそらく思っているであろう少女の小さな切望も、数分の内に半永久的に奪われる事となるだろう。
 ツマミを調節すると、運良く声が聞こえてくる。どうやら、最終通告の真っ最中のようだった。
「ーーーである。これより、僕らは君を処理する。安心したまえ命は奪いやしない」
「よかったじゃないですか。貴女の卵子がとても貴重であったのが、幸いでしたね」
「ただ、貴女はこれから品番より削除されますので今後の事はどうかご理解願おう」
「自我を手にした君なら、僕らが言っている意味全てを理解出来ると願っているよ」
 訪れる恐怖に怯え、涙と鼻水をだらしなく流す少女の腕を真ん中にいた男は軽く掴めば、鈍い音が鳴る。骨が砕けたのだろう。
 その間に引き裂かんばかりの叫び声が場に響く。と同時にツマミを一気に0まで戻す。女のは叫び声は、いつだって喧して嫌いだった。
 しばらく様子を見てから少しツマミを上げれば、少女の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。掴まれた腕はあり得ない方向へひん曲がっていた。いや、曲がっているというより、ぶら下がっていると言ったほうが正しい。
 砕けた骨が余程尖っていたのか、一部が少し、腕から出てきてしまっている。
 へし折れた腕を掴んだまま、今度は空いている片手で少女の肩を持つと、そのままゆっくりと引っ張り始めた。
 きりきりと、焦れたく勿体ぶる内に、少女は何か予想がついたのか必死に叫ぶ。うまく聞き取れないが、これ以上の痛みから避けたいがための逃避であるのは、確かだった。

 数十秒後、少女の腕は叶わず引き千切られた。
 痛みと「ない」という現実が、少女の視界と思考を塗りつぶす。おそらく、今ので耐えられる精神は完全に崩落のだろう。
 少女はすでに現実からの逃避を決定したらしく、しばらくすれば不気味な笑みを浮かべ「あ、あ、」と、口を開いて呟く。
 その様子を、腕を裂いた本人は満足したのか、少女の引きちぎった腕を放り投げたその手で、優しく頬を撫でた。
「どうやら気に入って頂けたようだね。うんうん、それは何よりだ」
「ごろ、じで」
「それはいけませんよ。だって貴女は、これからまだ3本抜かなきゃいけないんですから」
「ざん、ぼん」
「そうですよ。んでもって達磨さんになった貴女は、これからチーフ達のお相手をする大事なお人形さんになるのです」
「にん、ぎょ」
「ご安心ください。例え貴女がどう孕もうが、その子達はちゃんと全員産めますし、大切に育てられる事になるでしょう。立派な後釜として」
「あ、あ、あ、あ、ああ」
「その前に、貴女をちゃんとチーフ達のお相手を出来るように、仕付けをしなくてはいけませんね。万が一に粗相が在った際に怒られるのは、貴女ではなく僕らなのですから」
 そう伝える間に、どんな表情を少女が見せたのかは、不気味なまでに不自然な少女の笑みと声が、全てを物語る。
 男は堕落した少女の片足を掴み、ずるずると引きずりながら、他の三人を引き連れてその場を去っていく。

 口元を大きく広げて笑みを浮かべて、少女はまだ、監視カメラを見つめていた。




 9月10日 午後14時05分9・99秒


 ブツっという音をたて、彼女はモニターの電源を消す。吸い殻を払わなかったからか、動くと吸い殻がパラパラと床やデスクへあちこちに散らばる。あ、と思い灰皿を探し周りを見渡すと、どこからとも無く灰皿が目の前に差しだされる。差し出す人物は咳払いを一つしてこう言った。
「吸う際は灰皿を近くに置くべきだと、忠告したはずだ」
「・・・あっそ」
 灰皿を受け取ると、そのまま無造作に煙草を押し付ける。ため息をつく男の視線など気にも止めていない。その証拠に、悪びれた様子もない。
 口元に微笑を描いて見せる一連の動きは、見惚れるほど可憐さが滲み出ているが、それは性悪な性格さえ知らなければの話。
 目線に気づいたのか、ふと笑みを浮かべてこちらを見つめると、少し撫でたような声で男に話しかける。
「本当に、絵に描くたような真面目なのね。大尉は」
 こつり、と、靴音をたてる。
 白衣が揺れ、間から見える黒いワンピースはいつ見ても悪趣味だ。それと比べれば、実に珍しい真っ赤な長髪はまだマシだと思える。
「少なくとも、あのような悪趣味な映像を眺めている君よりはな」
 悪趣味な映像とは、おそらく先ほどの始終の事だろう。確かに普通考えてみれば直視出来る彼女は多少、悪趣味かもしれない。
 苛立ちから眉間にしわを刻む大尉を一瞥し、可笑しそうにクスクスと笑いつつ、近くにあった大きな機材の上に腰掛けながら言い返した。
「趣味じゃないわよ、あんなの」
「なら、何故見ていた」
 最も意見だ。常人であれば、見ているに耐えかねる映像だろう。
 最も、此処にはそんな人種は存在しない。いるのは頭のイカれた連中ばかりだと、大尉は知っていた。彼女も、そんな一人だった。
「研究のためよ。それに」
 腰掛けた機材の近くに受け取った灰皿を置くと、着ていた白衣の外側のポケットから新しい箱を取り出す。馴れた手つきで一本を取り出し、箱もしまうと今度はマッチを取り出して擦った時の特有の音を立てて火をつける。
 そうして灯した火で煙草を灯しながら、また含んだ笑みで笑う。
「見るより、見られるほうがイイもの」
 組足を変えながら、ふと笑うその姿に、男は今日一番のため息をついた。その様子で何かを察したのか、可笑しそうに声を出して笑い始める。
 不快、とは思わないものの、やはり笑われるという行為に慣れという事は無いらしい。現に男の口は、への字に曲がっていた。
「大尉、貴方やっぱり面白いヒトね」
「お褒め預かり光栄だ」
 ため息と共に放つ言葉は、嫌みと呆れが込められた皮肉であったものの、相手には全く通じていないようで、ただ、笑われるだけ。
 大尉が監視をし続けてすでに3年と165日目になるが、未だに彼女の素性を一切知らなかった。上層部からの護衛監視の任のみを賜っているだけで、彼女という人間がどういう存在なのかは、未だ明確に知ることもなく。
 ただ、彼女は一角とした研究者であることは分かっていた。研究だの実験だのという単語が話の中に出てくる事と、彼女が常に居るこの場が物語っていたからだ。常に単独であり、何を研究し実験しているのかは一切不明。
 むしろ、研究や実験をしている姿など一度も見た事もなかった大尉は、最近では本当に研究者なのかという本末転倒的な予想を立て始めていた。
 それもそうだろう。なにせ報告書をまとめる度に何を書こうか悩むほど、彼女は日頃、何もしていない。大尉が居ても、常に馬鹿にされたような話し方で遊ばれるか、無視されるかの二手しかない。
 救いなのは、彼女から興味を持たれていないということが、確かだと言うことくらいだ。
「ところで大尉。一つお願いをしていいかしら」
 そんな彼女が、今日はやけに話すなと感じたのは、この一言。
「何を急に」
「大尉にしかできないお願いなのよ。協力してくれないかしら」
 そうして見せる笑みは、今まで見たことがないほど穏やかな笑み。一言で綺麗だと言えるほどの笑みだったが、嫌な予感がしてならない不吉な兆しにしか見えなかった。
 しかし監視の任を下りて、初めての頼まれ事あるゆえ、断るは少しばかり気が引けると思った大尉は、安易な思いで聞き返す。
「……何をすればいい」
「何も。ただ人質にさえなってくれれば、それで」
 耳を疑った。どう考えても、大胆不敵な発言がさらりと軽く話されたからだ。
「今、なんて言った」
「人質になってもらいたいと言ったのよ。もう時間がないわ。一緒に来て」
 機材から下り、吸っていた煙草の吸い殻を手早く灰皿へ押し捨てたと同時に大尉の手を引っ張った。
「な、何をする!」
 手に触れたと同時に慌てて振り払った大尉に対し、彼女は怒りを露にさせ怒鳴り散らす。
「何って、一緒に来てもらわないと困るじゃない」
「馬鹿な、人質になどになる気は」
 そんな抵抗をしている間、彼女は一人ドアの前で何かをしていると、密集していたコードが一本ずつ除けて、やがて一つの通路が出てきた。
「言うのは勝手だけど」
 様子を一部始終呆然と見ていた大尉に彼女は一言、こんなことを告げる。

「逃げないと、殺されるわよ」

 矢先、爆音が後ろから聞こえたと同時に、爆風で僅かに巻き込まれ吹き飛ばされた大尉が最初に目にしたのは、先ほどのモニターに映っていた純白の軍服を着こなす青年たちだった。
 爆煙が晴れ、少しずつ良好になる視界が、何とも言えない演出を醸し出してしまっている。
 何食わぬ顔で登場した彼らは、先ほどと変わらぬ様子で二人に話しかけた。
「困りますよぉ。いきなり逃げようとするなんてぇ。しかも妙な仕掛けまで施してあるなんてぇ、悪質な!」
「貴女は常に監視されている身なのです。妙なことをすれば即座に我々が動くことなど頭に在ったでしょう?」
「しかも人質を取るなんてそんなチャチな真似をしたところで我々が何もしないとでも思っていたのですか?」
「貴女は我が共和国において不可価値であり火種でもあるということを、まだ分かっていないのですね……」
 純白の軍服は、培養槽が照らすライトグリーンの光に反射し、揃って近づくにつれ色濃く染まっていく。逃げ場などないと、大尉は本能で悟った。
 彼らは主に実験体の始末や戦地、主に内乱やクーデターの敵兵を排除、もしくは回収しサンプル化させるという役目を帯びた連中であり、その実行方法の残虐さゆえ身内からは人の皮を被ったバケモノだとも言われている。
 年端もいかない頃から刷り込み式で教えられたことで、彼らは何の疑いもなく残虐な行動をとる事ができる。のだという噂だ。
 その彼らが、今、目の前にいる。大尉の腰は、抜けそうだった。
「大人しくなさい。そうすれば、命までは取らぬと、チーフたちが仰っています。投降なさい」
 大尉の額から、冷や汗が溢れ出る。
 実際に彼らの実行を目にしたこともある大尉は、すでに死を覚悟していた。
 野戦で慣れた肉弾戦も、彼ら相手で歯が立たない事を悟っていたのもあったが、何より、自分は巻き込まれただけなのだから逃がしてほしいという気持ちで、頭がパンクしかけていた。その時、
「っ」

 一瞬、何か聞こえたのか分からなかった。彼らにも聞こえたのか、表情が変わる。
 耳を澄ますように、静寂の室内で聞こえたのはーー、忍び笑いをしているかのような声だった。

 主に後ろ、ちょうど彼女がいる辺りだと感じ振り向くと、面白そうにクスクスと笑いながら煙草に火をつけている、彼女の姿。
 その表情、仕草、体勢に、恐れる様子はない。むしろ、逆だ。まるで、
 「期待通りね。さすが、2・3verの殲滅型だわ」
 大尉が頭を傾げる代わりに、表情を凍らせたのは彼らの方。一人が、悲鳴のような声を上げた。
 未だに状況の分かっていない大尉は干され、言葉区切るようにクスクスと笑いながら煙草を吸い、ゆっくりと吐煙を吐き出した。
「実験体と民間兵相手の狩りに調子にのるなんて、大した判断知能力だこと。全く、だから処分するように提案しておいたのに、こんなところで経費を削減するなんて。全く緩いくせに金の紐は固いんだから。ホント、救いようがない単細胞以前の塵の役にも立たない連中ばかりなのね、今も、昔も」
 何を言いだすかと思えば、悪口というよりはすでに中傷にしか聞こえない暴言を発した彼女は、随分と楽しそうに笑っている。
 壁に寄りかかり煙草を吸い続ける彼女からすれば『人間が一人』と『欠陥品が4体』というだけで、軍内部でどれほど大尉や他の軍の連中から恐れられ、その能力が如何程であるかなど、どうでもいい話。ただ、それしきの話だった。
「人間を何千と殺し、何万という実験体と試作品を破壊したところでお前達の能力に何か得に、理由があったわけじゃなく、ただ見合うだけの仕事を任されていただけのこと。ただ、それだけ。だから決して、お前達が特別に優れているわけではないわ」
 反吐を吐き捨てるかのように放たれた口調は、全身全霊に彼らを否定している。
 その目つきも、今まで見たことがないほど険しく、穢れた物を仕方なく見る、そんな目で、見ているように、大尉は思えた。

「作られたアンドロイドが人に勝る事はありえないわ。ただのアンドロイドなのに」

 言い終えると同時に、軍服の一人が発狂した。まるで獣が叫んでいるかの聞き間違えるほどの凄まじい怒声が響き渡り、その反動で鉄パイプが数十本ほどが派手に割れる。
奇声と雄叫びの中間のような声を発し、今も可笑しそうに笑う彼女へ叫ぶ。
「何がオカしいッ!」
「別に。ただもうすぐ死ぬっていうのにあんまりに必死になってるから、可笑しくって」

 そう言った、直後。
 血の気を変えて発狂しかけていた青年は、突然、地面に叩き付けられた。
 轟音が響き渡って居ることを知ったのは、2秒後。
 聞こえたのは、何かが割れる鈍い音。
 共に地面から、大量の血飛沫と、何かの片が飛び散る。
 何が起こったかなど、想像もしたくないのが、本音だった。もし、言えと言われるならば、見て分かる範囲での、頭がなくなったと答えるだけにしたい。
 そう、頭はなくなった。その頭という物体は、目の前で跡形もなく粉砕した。故に、ないのは当然だ。残された体は、真っ二つに裂けている。一直線に地面へ叩き付けた際に、引き千切られたのだ。
 しばらくして、残された体はバランスを崩し左右違った方向に地面へと倒れる。同時に内からは、反吐のように臓物と血が吹き出した。

 大尉は吐き気を覚えた。
 覚えると同時に、胃液が喉を通り口まで押し寄せる。寸前で食い止めたが、少しばかり抑えた手の間から漏れだす。
 死体は見慣れていたと考えていたが、それは誤りだと大尉は感じた。
 あくまで今まで見ていた死体は、事務管理上で調べる際に清掃された綺麗な死体であって、目の前に在る物は、別枠だったことに。
 意識が広がると、血飛沫と肉片が自身の衣服に大量に付着している事に気づいた瞬間、耐えられず口を抑えていた手を退け、思う存分、嘔吐した。
 そんな大尉の横で、彼女は平然とした様子を見せ、新たに取り出した煙草を吹かす。そして、彼らは、先ほどの勢いも消沈し、何かに恐れを成した様子を見せる。
 別段、死体を恐れているわけではない。恐れているのは惨殺された仲間でも退屈そうに煙草を吸う彼女でも、今も嘔吐を繰り返す大尉でもない。

 一瞬で頭蓋骨諸共を潰した拳を握り、殺人集団である彼らに恐れなく殺気を向けるーー少年の、眼。

「……アンドロイドなのか」
 彼らの先頭にたつ一人が、少年に話しかける。
「型はなんだ」
「ないよ」
 少年はそう言いつつ、顔に付いた血を服の袖で拭く。ミンチとなった肉片が服に染み付いていたが、気にする様子はない。
「あと、僕の名前はキッドって言うんだ」
 ね?と言いたげに、少年は後ろにいる彼女ーーマッドに笑いかける。それに答えるように、少し頷き笑顔で応じる。
「ど」
 マッドに対し驚愕と疑問の言葉を投げかける前に、一瞬とも言える間に少年は男のそばへ近づき、両手が男の頭に触れそのまま挟み込むと、まるで水風船のように破裂し、血と肉、砕けた頭蓋骨は弾け飛ぶ。顔や服に付着する破片は、豪雨のように降り注ぐ。
 それでも、気にも止める様子もなく、平然とした態度で残り二人を見る。
 その目に、子供独特の無邪気さも伺えると同時に、その風貌からは決して感じられるはずもない殺気を浴びた二人は、空かさず距離を保つため壁側へ下がる。
 百戦錬磨であったはずの彼らに、ひたりと訪れた絶対的な死の敗北が、目の前に在る。
 昔に自分を罵る敵軍の一人が言った、死神というソレと、死という現実が具現化した何かが、いる。
「こうなった以上、弁解の余地はありませんね」
「我々の内、二人を殺害した以上、言い逃れはできませんね」
 血の舞台で、二人は確信する。幕が上がるその時は、もう間もなくだと。
 吸い終えた煙草を床に落とし、血で出来た水たまり諸共、マッドは煙草を踏みつぶす。
 
 その際に浮かべていた表情は、かつてないほどの幸福で、満たされていた。

 





 アルトロス共和国。
 そこは、世界の5分の1を占める大国であり、旧主権ガルレリア帝国からクーデターを起こし勝利を治めた革命首謀者達が主権を取る、比較的に新しい国家だった。
 その国に檻の庭が設立されたのは建国された翌年であり、当時は檻の庭という名称ではなく、単に兵器開発施設と呼ばれていた。
 主な目的は敵国に備えた兵器を開発及び製造等であったが、当時は資金もそれほど無かった事から主に同盟国への兵器発注も担っていた。
 ところが、ある境に共和国は一切の機械兵器の開発を取り止め、ある開発に特化した施設として稼働し始める。
 
 その開発とは、人体兵器。
 即ち、アンドロイド製造計画を打ち立てたのである。

 開発自体は何世紀にも渡り各国が取り組れてきたが、いずれも成功例は一度もなく、実際に戦場で使用されたと言う記録はない。
 試作品はいくつか点在するものの、そのどれもがいずれは失敗、或は不良を起こす始末。
 結果、その代用品として、現在は生物兵器を導入する国家が多く、不本意ながらそれ等を主戦力としていた。

 そうして、時代も鉄から生物へ変貌しつつあった時代の中で、共和国が用いていた戦力はもはや時代遅れ。
 つまり、他国に比べ確実に劣っていたのだ。
 そこで、共和国は実用的且つ高性能な兵器を開発すべく彼らが目を付けたのは、未だ誰にも手を付けられていない、各国がどれほど羨んであろう理想的な兵器ーーアンドロイドの開発だったのである。

 だが、大きな問題があった。
 試作する過程として、古今より不可欠の素材として、人の肉体が必要とされていた。それも生きたまま、なるべく鮮度の高い品が、である。
 当然、そう易々と使えるものでも手に入れられるものでもない。数にも、品質にも、その他諸々を含めても限界があったからだ。
 他国が開発を断念したのも、そこにあった。どう繋ぎ合わせても、敵国の捕虜や自国の犯罪者だけでは、それ等を補う事ができない。
 いずれにしても、度重なる戦火で削られていく民を使わざるおえなくなる。それは、あまりに非生産的な結論だった。
 いつ出来る、いつ完成するも分からない実験に使うくらいならば、目の前の戦いに使わせた方が、よほどいい、と。

 しかし、共和国は、そんな一般論を蹴るように、開発を決行した。

 まず使ったのは、報酬として頂戴した各国の敵国の人間だった。
 だが、すぐに尽きる。あっという間だった。
 次に犯罪者、反抗勢力、危険分子となる、大凡実験体になり得る理由を付けられる人間達も、皆全員排泄されるように実験材料として扱われていった。だが、
 しかしすぐに尽きた。これもまた、あっという間に。
 ここまではいい。前例にもある事だった。だからもう、止めるだろう。
 各国はそう思い、誰もがそう思った。それを見越して、協力していたのだから。

 だが、次に取った対策で、共和国はその本性を剥き出しにする。
 彼らは、以前より機械兵器開発に関わっていた研究員、及び携わっていた関係者、軍人を皆殺し、それを糧に実験を行ったのである。
 もちろん様々な事情も生じたが、それも単なる「殺すに値する尤もらしい理由」を取ってつけてどうにかした。
 その後も躊躇なく、未栄えもなく実験は繰り返され、無用な言いがかりで集めた肉体は余す事無く使い、実験と評した凶行は続行され続けた。
 この、常規を逸した展開を知った各国は、ようやく、共和国は名ばかりの国であると認識した。
 やがて、一度入れば二度と出る事を許されない牢獄と、狂人の住処という意味を込め、実態を知る者達はそこを【檻の庭】と名付けたのである。

 かつて、人道と取り戻すべく立ち上がった英雄達の子孫は、未だかつてない非道外道の悲劇の幕を開けたのである。

 この、一線を越えた実験開発が約三世紀ほど流れた頃、ようやく試作品の一体が正規品として活躍し始める。
 生物兵器を主にしていた各国は、その古くながらの物理的な攻撃と兵器の聞かない兵器に翻弄され、壊滅的な打撃を受けていった。
 以降、共和国は必要異常なまでに国家を肥大化させていき、大陸の5分の一を占める大国にまでのし上がる。
 全ては、アンドロイド開発が実った形となったという一報が世界に轟くも、一つの言葉が、各国から共和国に届いた。

「己が祖国の地の色を、なおも欲するか」
 これが、後として語られる【人造戦争】の幕開けとなる大変有名な言葉となるのだがそれはさておいて。

 かくして、
 各国が結託し結成された連合軍と、血塗られた歴史を背負う共和国との間には熾烈な世界戦争が勃発し、永きを経て、現在と到った。

 簡素に説明をすれば、この世界とは、こういう状況に、あったのである。








9月10日 午後14時37分9・15秒

「おや?おやおや?おやおやおやおやぁあ?困りましたねぇ」
 大げさに言葉を並べ、惨状となった現場へ到着したのは、白衣を着た赤髪の長髪男だった。
 現場の検問をしている兵士に、笑いかけると、有無言わぬ間に通り抜け、キョロキョロと見渡せば、地面が極度に凹んだ中央で頭がなく、体も引き裂かれた死体を見ていた兵士の中に、ひと際目立つ、上位軍師にしか配布されない軍服を着た、短髪で黒髪の女の元へスキップしながら向かった。
 元々、男に取って目当てはその女で、自分が作ったアンドロイド達の壊れた姿を見にきたのが目的であって、さして壊れてしまった事、或はこの惨状に興味がなかった。
 この事事態は、当然と慣れた日常的な光景の一種でしかなかったからだ。
「やはり、頭蓋骨と思われる部分が採取されました。頭部は粉砕されているようです」
 黒縁眼鏡をかけた軍医の青年は、少し顔色を悪くさせながら中佐に伝える。
「粉砕とは、随分野蛮な方法で殺してくれる」
「恐らく、この、不自然な裂かれ方は、」
「頭がくっついたマンマ上から潰されちゃったからじゃないですかねぇ?」
 と、先ほどの男はケタケタと特有の笑い声を出しながら、顔の潰れた死体のそばへ座り、はみ出た首の骨を指で突っつく白衣の男は、女の顔がこちらへ振り向くと、嬉しそうに血にまみれた手を降りながら笑った。
「アロン。貴様ここで何をしている」
「何ってぇ、自分の作ったのが壊れちゃったのを確認しに来たの他に何か理由があるって言うんですかぁあ!セルディア??」
 汚れた手を、死体の着ていた白い服で拭う。それでも完全には取れていない事が分かるほど、その手は汚れている。
「それにしてもぉ、白服が全滅じゃないですかぁ。いやだなぁ。アレを作るのにそれなりに苦労したんですがぁあ!無駄だったようですねぇ??」
 ワザと大げさに話すアロンを放り、部下に指揮を執る。ズレた眼帯を治す仕草からかなり苛立っている事は明らかだ。
「あぁあッ!ツレナイですネぇ。まだ怒っているんですかぁ?貴方の目玉を実験用に採取したことぉ。アレは冗談半分で進言したらホントにそうなっちゃっただけでぇえ!私のせいじゃな」
 言い終える直後、アロンは突如吹っ飛んだ。原因は痺れを切らしたセルディアによる攻撃で、殴られた蹴り飛ばされた挙げ句、勢いよく吹っ飛ぶ先にあった機材にぶつかり、凄まじい音が響く。そのまま、壊れた機材の中で昏倒した。
「逃亡者は?」
「現在、中枢塔に侵入中との事」
「……面白い」
 顎をしゃって笑んだ瞳と口調は、久しぶりの死力戦に心踊らされている。
「後方部隊に知らせろ。第弐と第参部隊を車庫へ先回りさせ、第壱部隊はその間の時間稼ぎし、配置に付き次第連絡、後、撤退を命じろ。先方は」
「壊滅、との事です」
 緊迫した伝達を、セルディアは「そうか」と言い返した。







1話 リアル・シミュレーション


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