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No.38665の一覧
[0] 【短編】理想の女性と薔薇乙女(ファンタジスタドール イヴ×ローゼンメイデン)[とうゆき](2013/10/06 15:42)
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[38665] 【短編】理想の女性と薔薇乙女(ファンタジスタドール イヴ×ローゼンメイデン)
Name: とうゆき◆87d25b54 ID:78170acc
Date: 2013/10/06 15:42
 思い出を脳裏に焼き付けるのは時間ではない。僅かな時間であっても鮮烈な記憶として残る出会いもある。
 あれは理論女性学を煮詰めていた時期だった。
 研究施設にいた頃の私は研究に没頭していたし、自分に向けられる奇異の視線が煩わしくて極力外出を控えていた。けれど女性理論は時間を対価にすれば成果を得られるというものではない。だからふとした気まぐれから遠智達、仲の良い四人と外に出た。それでも人目が避けたかったのか単純な好奇心か、経緯は覚えていないが、これまで歩いた事のない場所に足を向けた。

 大通りから一つ二つ入った通りにそれはあった。小さな人形工房。入口には「見学自由」と書かれた札がかかっていた。
 人形という単語に興味を引かれ、今後の参考になるかもしれないと言うと、皆も同意したので中に入った。薄暗い内部はひんやりとした空気に満ちていて、中々雰囲気があると私は思った。
 奥の壁際の棚には五体のアンティークドールが飾られており、それを視認した瞬間、私はそのあまりの精巧さに愕然とした。
 幼少の時分、ミロのヴィーナスを見た時と同等の衝撃が脳髄を揺さぶる。熱に浮かされたように棚に近付き、気品を携えた紅い人形の前に立った。
 近くで見れば見る程その出来の良さに感嘆の溜め息が漏れる。自分の遠近感が狂って生きた人間を見ているだけなのではと錯覚する程だ。人形の瞼は閉じられているが、もし目が合ったら赤面していたかもしれない。
 これ程の人形を見せられれば服の下がどうなっているか気になるのは自明の理。早速服を脱がせてみた。
 片腕では難儀し、やきもきしたが、全身を駆け巡る期待が鼓動を加速させる感覚が堪らなく心地良かった。

 しかし、脱がし終えた時、私は大きな落胆を覚えた。外界の視線を遮る覆いを取り払った先にあったのは、本物の人体では決して有り得ぬ球体間接。それがこれ以上なく眼前の存在は作り物だと訴えていた。
 さりとて私の胸中に渦巻くのは落胆だけではなかった。
 なだらかな起伏と小さいが確かに自己を主張する淡い桜のような突起は見事の一言。意識的に自覚しなければ人形だと忘れてしまうあまりに自然な造形。棚に寝そべらせて撫でると手に返ってくる微かな凹凸が恍惚な気分にさせてくれる。
 だからこそ惜しい。完成度が高いからこそ違和感がどうしよもなく浮き彫りになる。

 私が複雑な心中に感情を乱している中、横手の扉が開き、桃色を基調とした人形を抱き抱えた西洋人の男が現れた。
 私を含め思い思いに人形を愛でていた五人は些かばつの悪さを味わったが、男は微笑を湛えたまま人形を棚に置き、自分が出てきた部屋を腕で示した。
 本来なら初対面で得体のしれない男に従うのには抵抗があっただろうが、不思議とあの時の私にはこの男なら大丈夫だという安心感があった。
 それは遠智達も同じだったようで、リラックスした様子で案内された部屋の大テーブルについた。

 そしてローゼンと名乗る人形師は答えた。理想の少女を追い求めているのだ、と。だが彼が答える前に私は既にそれを知っていた気がした。
 彼との語らいは実に有益で、私達はまるで数十年来の友人のように気兼ねなく意見を交わし合った。

 ローゼンは口数こそ少ないが発せられる一言一言から豊かな教養と確固とした見識を感じさせた。造詣も多岐に渡り、元デザイナーのタチバナと服飾の色やデザインによる視覚効果について議論し、工房はドールを際立たせる為にレイアウトや素材を考えたのだと述べてニースを感心させた。
 またロングロウド氏とは女同士を戦わせるという物騒な案を検討していた。
 ただ、二人とも勝ち負けは重要視していないようだった。二人の見解としては、自己の存在を確立する為に他者と競うのは崇高な行いであり、切磋琢磨する姿に煌びやかな美があると言う。私が真っ先に感じたのは肢体に傷が付くのは好ましくないという事だったが。

 続く遠智との対話において、ローゼン自身は認識していなかっただろうが彼の意見が遠智の傷痕を抉った。曰く、慕われるのは良いが、盲目的な従属を望むのは創造者のエゴであり、華麗であるべき精神を汚す。それを聞いた遠智は苦々しさを滲ませながら一理あると頷いた。
 その一方、ローゼンは遠智が研究している情報空間にたゆたう心という概念に関心を見せた。現在、行き詰まりを覚えていると彼は語った。一見順調に進んでいるが、その道の先がゴオルに辿り着く保証はない。あるいは思考の飛躍が必要かもしれない。そこで遠智の話に新たな可能性を垣間見たという。

 物質的な束縛が窮極の乙女の誕生を阻むのではないか。
 生身の肉体は喪失への恐怖から玲瓏たる心の輝きを曇らせ、醜悪で身勝手な保身に走らせる。故に現実における器など不要。ローゼンはそう結論付けた。
 けれど、私個人に言わせれば触れる事の出来ない女体など夢現。無意味であり、妄想の産物にすぎない。だから彼の結論は馬鹿げている。
 声には出さなかったがこの大きな反発に私自身が一番驚いていた。人の手では理想の女体の創造は出来ないと言われたようで、私の矜持が敵愾心を燃やしたのかもしれない。

 だからといって異なる思想の持ち主を排斥するような子供染みた癇癪を起こしたりはしない。
 むしろ別の観点からの意見は貴重であり、新たな同志の登場に心が弾んだ。これでまた理想の女性像に一歩近付いた。
 けれど蜜月になると信じた日々は訪れなかった。翌日、工房に出向いたのだが、ある筈のものは全てが幻であったかのように消え失せていた。道を間違えたのかと周囲を散策したが遂に見付ける事は出来なかった。
 まるで白昼夢だが、ローゼンと語り合った言葉、触れ合せた信念、共に夢見た未来はしっかりと記憶に残っている。
 それらはY-omeにとって大きな契機となったイヴの創出にも生かされた。彼と私達の思い出は彼女の中にしっかりと息づいている。









イヴを読んで思いついたネタ。ローゼンや槐はY-omeに入る資格があると思う。
このSSはハーメルンと書き手の部屋というブログにも掲載しています。


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