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No.38587の一覧
[0] 【短編】修羅の初陣[鯉庵](2013/09/27 10:49)
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[38587] 【短編】修羅の初陣
Name: 鯉庵◆3f619157 ID:575910f6
Date: 2013/09/27 10:49
まえがき

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

この作品は当執筆者鯉庵がアルカディア様にて投稿している『恋する赤鬼』の外伝的短編です。

小説家になろう様にて投稿させて頂いてる『修羅の初陣』の改訂版が本作となります。

文章力向上の為、厳しい感想も糧にして頑張りたいと思っておりますのでどうぞよろしくお願い致します。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






――軋む、軋む。
音。
音。
其れは“鉄”
其れは“扉”
儼乎(げんこ)たる鉄扉が軋みを上げている。
 一人の男が、鉄扉と向き合って佇んでいる。
黒を纏う男。
黒髪赤眼の男だった。
着流しを崩した着こなしがよく似合う。
襟元から覗く鎖骨はひどく無骨で。
しかし、それは扇情的な形をしている。
 ――ひゅう、と風が吹いた。
絹のような黒髪が、横へ流れる。
左手に持った煙管を薄い唇へ。
たゆたう紫煙は、音もなく溶けてゆく。
 一歩。
男が足を踏み出した。
踵の音がよく響く。
漆黒の外套を翻し、男は深淵に呑み込まれた。
 青い炎が闇に灯る。
其れは、男を導くようにして。
石畳の回廊を薄く照らした。
踵の音だけが響いている。
赤い瞳が、暗闇によく映えていた。
黒い外套の袖を揺らしながら、闊歩する。
左手に持った煙管を遊ばせて、一切の迷うことなく。
 不意に、踵の音がやんだ。
「――おい」
 低い声が響いた。
けれど、よく通る声。
鎖が地を這う音。

――視線の先に、鬼がいた。
――人の容をした鬼だ。
鬼の証たりえる蒼角が、白い額から伸びて。
銀色の髪がしだれて、その貌を覆っている。
形のいい鼻が、ひくついた。
「――やぁ、久しぶりだね。君か」
四肢の自由を、奪われても。
白い肌に無数の傷が、あろうとも。
その貌は嗤っている。
薄く、けれど血色の良い唇がにやりと伸びた。
その端から八重歯が覗く。
「相変わらず、胸糞悪い餓鬼だな、てめえは」
「相変わらず、胸糞悪い男だね。君は」
 黒髪の男が踵を返し、黒外套が音を立てて翻る。
背を向けたまま男は、言った。
「釈放してやる……付いてこい」
「見て分からない? 僕、鎖で両手両足拘束されているんだけど」
舌打ちをして、男はこう返した。
「“そんなもの”でお前が大人しくなるなら、苦労はしねぇんだよ阿呆」
「ちぇ」
 ――その唇が、微かに動く。
音もなく。
唐突に、其れは起こった。
鎖に纏う。
青い炎。
螺旋を描く。
まるで、蛇が這いまわるように、溶けてゆく。
四肢の自由を奪った鎖は、形を失う。
地に足を付いた青い鬼が、ほくそ笑みを一つ。
「待ってよ」
 男は、応えない。
背を向けたまま、声を無視して。
深淵の闇に消えた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 赤。
壁一面を赤で統一した一室だった。
部屋、というよりは、空間と表現した方が正しいかもしれない。
野太い柱が、幾つも聳えている。
金で装飾されて、雅さを演出していた。
対し、磨き上げられた床は黒一色だった。
黒だというのに、その表面には人影がきっちりと浮かんでいる。
人の容をした鬼。
黒い詰襟服の上に、純白の着物を纏っている。
 襟元と袖口には、青い炎が刺繍されて、一見しただけで上等な逸品であることが伺えた。
黄金で書かれた“閻魔”の文字。
其れを背にした男が、長卓に積まれた書類を片手に煙管を吹かす。
 少年の姿をした鬼は長卓の上で、小忙しく動き回る小鬼の後ろ襟を指で摘んで宙へ。
虚空を蹴る小鬼を眺めては、加虐的な笑みを浮かべている。
小鬼と少年の視線が重なった。
 赤い長卓に透明な雫が滴り落ちた。
青い鬼の唇が薄く、横に伸びて。
赤い小鬼の身体が炎に包まれた。
悲鳴も、嘆きも、一切なく。
小鬼は形を失った。
童の戯れは、残酷で純粋だ。
虫の羽を一枚、また一枚と毟る事と大差ない。
其れは、童の持つ純粋な好奇心と変わらない。
「――おい」
「何?」
「そいつの仕事はてめぇで補えよ。糞がき」
「君の怒った貌を見るのが、僕は大好きなんだ」
くっきりと。
顳顬(こめかみ)に青筋が浮かぶ。
手にした煙管が、軋みを上げた。
「……まぁ、いい。それよか、お前には他の仕事をしてもらう」
玉座に背を凭れさせながら、灰を落とす。
「仕事?」
小首を傾げる少年に、男は淡々と続けた。
「ああ、そうだ。仕事だ。獄卒(ごくそつ)として、お前が殺した阿修羅の代役をやれ」
「獄卒?」
唇に指の腹を触れさせて、もう一度首をかしげた。
「青鬼の仕事は、地獄へ落ちた鬼や亡者の監視と地獄の守護だ。てめぇが鬼兵隊を皆殺しにしてくれた御陰で現世に蘇ろうとしてる連中が湧いて出てきやがったんだよ」
「ふーん、大変そうだね」
頭の後ろで手を組んで、にたりと嗤う。
男は、煙管を折りたい衝動を必死で抑えた。
「お・ま・え・が! 原因なんだよ阿呆が! “十王”の老害共は使い物にならん上に、これから審議しなきゃならん連中の魂を好き勝手喰い散らかす莫迦ども相手をする兵隊もいやしねぇ……俺の近衛兵全員をそっちに当ててるが、はっきり言って手に負えん。俺が出れば済む話だが、生憎てめぇがしでかした“あの事件”の後処理で暇がない! いよいよもって笑うしかねぇな! おい!」
 捲し立てて怒鳴る男の声に、両耳の穴を指で塞ぐ。
「いやぁ……それほどでも。キシシ」
「褒めてねぇよ阿呆が」
黒髪赤眼の男は、そのまま脱力して玉座に腰を降ろす。
「――つまり」
 少年の唇がひどく歪んだ。
赤い舌が、牙を這う。
「僕がその、有象無象を一掃すればいいって話でいいんだよね」
「……そういうこった。ただし――」
かっと音がした。
煙管に溜まった灰を落とす音だ。
その燃える様な赤い瞳で、少年を、青い鬼を見つめた。
「加減しろ。てめぇの炎は魂まで焼いちまう」
「やだ。面倒くさい」
あっけらかんと言う。
「ほほう」
男の武骨な手が少年の頭蓋を捕える。
軋む、軋む。
音、音。
指が食い込む。
頭蓋が軋みを上げていた。
「あだ、あだだだだだ! いたい! いたい! いたい」
「おう、おう、そりゃ良かったな。どうせ直ぐに再生するんだ……どうだ? このまま逝くか?」
「ごめんなさい! すいません! もう言いません!」
……案外仲が良いようだ。
「ちぇ、仕方ない。ほんじゃ、ま、行くとしますか」
頭を振って、踵を返す。
靴音が良く響いた。
「――おい」
声に反応して後ろを振り向いた。
乱雑に放られた刀と脇差が放物線を描いた。
「っとと、わぷ」
其れに遅れて羽織が、少年の視界を塞ぐ。
「お前の為に誂えた刀だ。持ってけ」
拵えは肥後。
鞘は青。
柄を握って、ゆっくりと引きぬく。
刀身に青い瞳が映り込む。
自然と、唇が釣り上がった。
「ふとっぱらだねぇ」
「さっさと片して来い。テメェが燃やした書類は責任持って作れよ」
「うへぇ」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『――零兄さま』
穴。
其れは、穴だった。
虚空に突如として浮かんだ漆黒の穴は、螺旋を描く。
やがて、人の容に変わって。
 男の前に、佇む少女が一人。
桃色の華服を纏う少女が、赤い瞳で男を見据える。
動き、仕草。
 どれとっても少女は美しい。
肌は、白く唇の色を引き立たせる。
下衣の襞が横へ流れる。
「夜魅(やみ)か」
「零(ぜろ)兄様。あのじじ――お爺様たちは一先ず大人しくなりました」
「ご苦労……で、親父は?」
「相も変わらず、女と淫義に耽っております」
少女が、吐き捨てる様に言った。
「あの猿め……」
玉座に凭れかけて足を組む。
揺蕩う紫煙を嫌うように、夜魅が袖で口元を覆った。
「けれど、本当に宜しかったのですか?」
「何がだ」
眉間のに皺が寄る。
「あの気違いの事です」
「ああ、あの阿呆にも使い道はあるさ。それに……」
「それに?」
「“あの糞野郎(帝釈天)”がアイツに何をしたか位は検討がつく」
「情状酌量の余地があるってことね……兄様も甘いわ」
夜魅の言葉に沈黙する。
「図星を突かれると黙る癖、直したほうがいいですよ」
「うるさい」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 剣呑とした空気が漂っていた。
今なら岩盤に落ちる汗の音さえ聞こえてくるだろう。
漆黒に浮かぶ赤色。
それは瞳。
 地獄に巣食う異形達。
赤い肌をした者。
青い肌をした者。
虎の頭蓋をした者。
馬の頭蓋に人の容をした者。
牛の頭蓋に人の容をした者。
槍を持つ者。
太刀を持つ者。
斧を持つ者。
戟を持つ者。
――鬼の群れ。
――畜生の群れ。
――亡霊の群れ。
 一様にして、高く聳える“鳥居”を睨みつけている。
其れに対面して、漆黒の鎧を纏う巨躯が、佇んでいた。
『其処を退いて貰おうか』
『そうだ』
『そうだ』
鬼が言う。
畜生が言う。
亡霊が言う。
『そうはいかぬ』
『そうはいかぬ』
『貴様らは此処から先へは通さん』
黒鎧の兵達がが言う
 手にした戟の矛(ぼう)で岩盤を叩いた。
轟音が、轟く。
咆哮が岩盤を揺らした。
――鞘を這う白刃の音が。
――螺旋を描く、鉾の儼乎な音が。
――鬼の激昂が。
――畜生の咆哮が。
――亡霊の嘆きが。
響いて。
揺らぐ。
耳を劈く、刃の音、音、音。
擦れ合い。
鬩ぎ合い。
弾けて。
交わり。
頭蓋が飛ぶ。
腕が飛ぶ。
臓物が飛ぶ。
斬り。
穿ち。
千切り。
へし折り。
捻じれ。
歪み。
軋み。
拉げ。
転がる。
どれもこれも。
異形の形をしている。
 岩盤に溝が奔った。
やってのけたのは、戟。
鬼の持つ巨大な戟が、分厚い岩を“抉った”。
鮮血が舞う。
其れは、敵か、味方か。
わからない。
構うものか。
構うものか。
我先に、鳥居へ。
あの、高く高く、聳え立つ鳥居の向こうへ。




――残念でした――



――一拍に遅れて。
――青色に包まれた。
――其れは炎。
――修羅の業火。
悲鳴はない。
嘆きはない。
ただ、異形の鬼を包み込んで。
黒い影は蠢くだけで。
伸びる、伸びる異形の手。
高く、高く。
振り上げて。
やがて、形を失った。

 一閃が奔る。
ひゅん、と鋭い音がした。
其れは白銀が奏でる音。
 鳥居の前に鬼が一匹。
美しい貌の鬼だ。
白銀の髪が、たなびいている。
その額には、鬼の証たる蒼角一つ。
血色の良い唇が、にやりと伸びて。
その端から、八重歯が覗く。
「あ、さっそく燃えちゃった。ま、いっか。たかが一匹」
ひどく、明るい声だった。
抜き身の刀を肩へ担いで、青い鬼が嗤う。
背に纏う漆黒の羽織が揺らめいた。
 一歩。
足を踏み出した。
踵の音がよく響く。
それ以外の音はない。
不意に、声が上がった。
『誰だ、貴様!』
『誰だ!』
『何だ!』
『止まれ!』
『動くな!』
それらを無視して。
羽織の袖を遊ばせながら、歩く。
罵声の雨の中、ただ、ひたすらに。
――ひゅっと短い風の音。
――次いで、ごろりと頭蓋が転がる。
 平らな断面から覗く、肉と骨。
灰色の岩盤に赤色が広がる。
「うるさい」
抜き身の刃に舌が這う。
「四の五の言わず、さっさと来なよ」
声と、同時に。
左手が、天に伸びる。
高く、高く、何処までも。
白い腕が、露わになって。




――それから、指を弾く音がして――






 青い炎が、辺りを呑み込んだ。
さながら其れは、檻だ。
やがて炎は、蛇の容を成す。
無貌の大蛇。
ぞろりと頸を擡げて、異形を見下ろした。
だれぞかれぞ、構わずに。
焼き尽くす。
骨も肉も。
その形さえ残さずに。
「さぁて、仕事仕事」
青い鬼の、視線が動く。
硝子細工のような瞳が、獲物を捉えた。
予備動作なく、視界から“消えた”
悲鳴は、あがらず。
馬の頭蓋が飛んだ。
その横に、立っていた虎の鬼が血を浴びる。
視界が赤色に染まった。
『目がぁぁ』
「うるさいよ」
黒い足袋に、刀が刺さる。
蹲った虎の頭蓋が堕ちた。
牙の間から、舌がだらしなく垂れている。
眼球が上を向いる。
狗が、牙を軋ませて唸っている。
ひい。
ふう。
みい。
いつ。
むう。
指を折る。
けれど、意味などありはしない
“やる”事は決まっているのだから。
砂利が弾けて、狗が飛ぶ。
青い鬼の唇が歪む。
その端から、牙が覗いて舌が這う。
岩盤を抉る爪も。
肉を千切る牙も。
骨を砕く顎さえも。
修羅の青鬼の前では、すべて。
そう、すべてが意味を失う。
 抜き身の刃が音を奏でた。
瞬き一つ。
それでいい。
宙で解体された四肢が四方へ降り注ぐ。
白銀の髪が赤く濡れて。
純白の着物を汚す。
「きしし」
嗤う。
嗤う。
青い鬼。
「くし、くしししししし」
腹を抱えて。
腰をくの字に折って。
「しししししし、あっは、ははははは」
両手を高らかに。
天へ伸ばして。
嗤う。
嗤う。
――枝垂れた髪の隙間から。
――黒色が覗く。
――それは、瞳。
――青く煌めく眼光は、獣の其れ。

『化け物め』
誰かが言った。
狂って嗤う鬼を、指さして。
ゆらり、ゆらり。
揺れる、揺れる。
修羅の鬼。
 音も無く。
視界から消えてた。
黒鎧に身を包んだ兵士の背中から。
赤みを帯びた刀が、生えている。
鈍い音がした。
其れは、臓物を抉る音か。
其れは、骨が砕けた音か。
『おげ』
横を向いた刀身が。
徐々に、徐々に。
骨を砕いて。
肉を裂いて。
腸(はらわた)を引き摺る。
『ぎ、が、ぎ』
口蓋から赤い泡が溢れ出る。
声にならない音がして。
眼球が上を向く。
鋼の鎧が呆気なく砕け散った。
その巨躯が地に伏した。
白刃に這いずる赤い雫を振り払って。
横で口を開けて、呆然と立ち尽くす兵士の頸を刎ねた。
高く舞い上がった頭蓋を一様に視線が追う。
躯が、奇妙にくねって倒れた。
足元に黒い兜が転がる。
青い双眸が其れを踏みにじった。
眼球には薄肉が絡み付いている。
白い歯は、赤く染まった。
『ひっ』
悲鳴が上がる。
『何だ貴様は! 誰だ貴様は!』
屈強な兵士の絶叫が響く。
赤く染まった貌を此方へ向けて。
唇に舌を這わせて、修羅は嗤う。
「僕の名前かい? それはね――」
刹那。
鼻先が擦れる程、近くに其れはいた。
「羅毘だよ」
――何故。
――何故。
瞬きもせずに、見ていた。
視線を外す事など、ありえない。
 確かに、其処にいた筈なのに。
視線が重なる。
『たすけ――……』
「駄目だよ、全然駄目だ」
『――え』
全身が、硬直して動けない。
白い歯が、かちかちと音を立てている。
「そんな様(ざま)じゃ、駄目だよ。あの色男の護衛が、そんな様じゃ、全然、まったく話にならない」
『あ』
視線、下へ、下へ。
脇腹に熱が広がっている。
漆黒の鎧の上からでも、はっきりと浮かぶ赤色が。
痛みを呼び起こす。
『ああ、ああ……慈悲を……どうかご慈悲を』
鮮血を吸った襟を掴んで咽び泣く。
「はっ」
嘲笑が聞こえた。
「何言ってるのさ! 此処は“地獄”だよ? 冗談にしたってあんまりだ! はは! はははは」
刀の刃が上を向く。
峰に白い手を添えて、一気に押し上げた。
けたたましい音がして。
赤色が迸(ほとばし)る。

『調子に乗るなよぉ、小童め』
 重厚な風に、羽織がたなびいた。
牛の頭蓋をした鬼が、武骨な棍棒を振り回す。
烈風が轟音響かせ、吹き荒れる。
絶望も、嘆きも呑みこんで。
 津波の様に押し寄せる異形達。
其れに逆らう様にして。
羅毘の歩みは止めない。
その貌には、嘲笑が浮かぶ。
唇の端から覗く八重歯。
『莫迦めが! 貴様なぞ粉々に粉砕してくれるわ!』
言葉通りに、黒く武骨な棍棒が岩盤に叩きつけられた。
砂煙が立ち込める。
牛の口が、大きく裂けた。
――けれど。
――一拍遅れて。
――青い煌めきが広がった。
――修羅の鬼が、ほくそ笑みを一つ。
「莫迦は、君だったね? こんな棒じゃ僕は殺せないよ」
『なんだとぉ!』
腕の肉が、盛り上がる。
野太い筋が浮かび上がる。
噛み合わさった牙が軋みを上げた。
岩盤に亀裂が奔る。
両足がめり込む。
それでも、青い鬼の貌から笑みは消えない。

 ぞろり、と首を擡げた蛇が一匹。
牛頭鬼の頭上から、見下ろしていた。
揺らめく牙が、その頸筋を捕える。
肉の焼ける音がしている。
肉が焼ける臭がしている。
黒々と煙が上がった。
牛頭鬼の巨躯が、青い炎に包まれる。
黒い影が、蠢いて。
やがて、形を失った。
蒼炎の蛇が、羅毘に頭(こうべ)を垂れる。
ひょい、と頭の天辺に飛び乗る。
漆黒の羽織が翻った。
そのまま腰を下ろした。
立てた膝に、肘を乗せている。
無貌の蛇が鎌首を擡げて、異形の者共を見下ろした。
「あーあ、つまらないなぁ。退屈だよ。君ら」
羅毘は、侮蔑を孕んだ視線を送る。
「面倒だから、全部全部焼いてしまおう」
薄い唇が、にたりと横へ伸びた。
「よっこらせっと」
声を上げて立ち上がる。

――それから。
――それから。
――白い手が天へと伸びて。
――指が、弾ける音がした。

轟々と。
炎が迸(ほとばし)る。
青い煌めきは、忽ち異形を飲み込んで。
嘆きと悲鳴が、跋扈する。
歪む、歪む。
黒い影。
――救いはない。
――情けはない。




――修羅の鬼が嗤うだけ――


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