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No.38579の一覧
[0] DEVIL ALIVE -the LIGHT NOVEL- 著:椎名真音 サブタイ:思い出す日曜日[椎名真音](2013/09/25 01:57)
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[38579] DEVIL ALIVE -the LIGHT NOVEL- 著:椎名真音 サブタイ:思い出す日曜日
Name: 椎名真音◆de2f0835 ID:4d325781
Date: 2013/09/25 01:57
*DEVIL SURVIVOR2

平和な日本を突如襲った危機。

悪魔を使役する力を得た主人公達13人の悪魔使いは、謎の侵略者「セプテントリオン」と戦うことになる。

しかし極限状態に追い込まれ、次第に仲間達との軋轢と対立が起こる中、主人公は未来への決断に迫られる。

残された時間はあと7日間。


*DEVIL ALIVE -the LIGHT NOVEL-

あの日、終わりを迎えた日から1年後の話。

セプテントリオンの脅威の7日間を終えた、彼ら13人の悪魔使い達は新たな脅威を乗り越えられるのか…



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*





・1

「君たちはまた運命の歯車に囚われてしまうんだね」

僕は夕日の光が入るホテルの一室で憂いていた。いつから此処にいるのかは分からないが長い間そのことで頭を抱えている。

セプテントリオンの驚異の7日間が幕を閉じて1年、世界は何もなかったように回っている。

それは久世響希(くぜ ひびき)が出した答えであり、人類が出した答えだ。

そこに何の疑問も間違いもない。

それでこの話は終わり、希望の物語が始まりを迎えるはずだった。

「輝く者達に平穏を約束されたのではなかったのですか……」

僕は空に向かって顔を上げた。

天井にはなにも映らない。

僕の心と同じで何も映らない。

今のこの現状をいつか彼らに伝えなくてはならない。

それは遠い話じゃない。

明日…明後日…明々後日…もしかしたら今日ということもあるかもしれない。

その日が来るまで僕はこの部屋でただ憂いているのだろう。

そうすることしかできない。

なぜなら僕がそういう者だから

僕は待つしかないのだ。彼らにこのことを伝えるまで……






* 東京都渋谷区



「響希ーー!!新田さーーん!!」

後ろから友達の声が追いかけてくる。

大学の講義が終わり僕と新田維緒(にった いお)が大学の門を出ようというときだ。

後ろを振り返ると、足が絡まりそうになりながらも何とか体勢を立て直してこちらに走ってくる志島 大地(しじま だいち)の姿があった。

「大地遅いじゃないか」

「わりぃわりぃ物理の先生に捕まっちまってよ」

息を切らせながら大地は照れくさそうに笑って答えた。

「大地、またテストの点数悪かったんだろ。単位もやばいんじゃないのか」

「うっせぇ、俺は文系なんだよ」

「でも、この間の語学のテストも合格ラインぎりぎりだったんだよね」

「ちょっ!!新田さん!!?」

大地は驚いた顔をして、指を波打つように動かして、
「アーー!!……ぅぅ」と唸りを上げて頭を抱えてしゃがみ込んだ。

新田さんはそんな大地の反応を見てクスクスと笑っている。

僕もつられて笑い声を上げる。

それに対して大地が「なんだよ!!わらうなぁよ~!!」としゃがんだ体勢から僕と新田さんに襲い掛かろうとしてきたが、僕達はそれをひょいっとかわす。

バランスの悪い体勢から飛び出した大地は「えーーっ!!あやぁーー!!」と声を上げながらそのまま運動法則に従って顔面から地べたに倒れた。

「響希なんで避けるんだよ!!」

「いや、普通避けるだろ」

涙目になりながら立ち上がった大地は休むことなく文句を言ってくる。

僕は大地の唾の雨から逃げるように走りだす。

新田さんはそんな僕達の姿を見て笑いを堪えながら後を追いかける。

これが僕たちの手に入れた平穏で幸せな日常だ。



あのセプテントリオンの驚異の7日間のことは誰も憶えていない。

あの7日間の記憶は僕の中で夢として残されている。

忘れることのできない悪夢はこれからも消えることはないだろう。

だけど、僕は背負わなくてはならない。僕にはその責任がある。

その覚悟はあの時から変わらない。

大和と世界と約束したことを僕は守り続けると決めている。

だけど、今だけはこの友人達と楽しい時間を過ごしても罪にはならないだろう。



門を走り出た僕達は駅に向けて雑談をしながら歩みを進めていた。

「今日もあそこのカフェでちょっと喋ってこうぜ」

「大地、今日はとくに機嫌がいいけどどうしたの?先生に話しかけられた帰りはいつもブツブツ愚痴を言ってるのに」

「なんだよ、その言い種!!まるで俺がしょっちゅう赤点取ってるみたいじゃないかよ」

「実際そうじゃないか」

「まあ、そうなんだけど……」

さっきまでの高いテンションから大地は頭を下げた。

冗談で言ったつもりだったけど、どうやらホントにそうだったらしい。

僕は慌てて提案した。

「また一緒に勉強しよう」

「マジで!!あっ……」

と、そこで大地は口ごもった。

「でも、俺大学ではお前に頼らないって決めたんだった」

高校を卒業した日。大地は僕に「大学ではお前にばっか頼らず頑張ってみるよ」とそう宣言してきたのだ。

僕は嘆息して、それから笑顔で大地に向き直った。

「それなら仕方ないな。がんばれ大地!!」

これは大地が決めたことだ。僕がとやかく言えることじゃない。

「おう!!任せとけ!!」

大地はどこから沸いてくるのか分からない自信満々の笑みでそう答えた。

小さいときから変わらない屈託のない笑顔だけど、何処か頼もしさを感じた。

いつの間にか僕だけが取り残されているような気がして少し寂しくなった。

「でも本当に困った時は私たちを頼ってね」

と、後で新田さんが言うと「その時はよろしくお願いします」と綺麗に腰を90度に折って頭を下げていた辺りはやっぱり大地は大地なんだなと僕は思って少し安心した。


カフェに辿り着くと早々に注文を済ませて二階席へと上がった。

この時間帯は人が少なく静かな空間が広がっていた。

少し暗めの明りと茶色っぽい壁紙にコーヒーの香ばしい香りがプラスされて心を落ち付かせる。

僕達は交差点側の一人席に三席取って座った。目の前はガラス張りになっていて外の様子が窺えるようになっている。

スクランブル交差点になっているところを信号が青になった途端、凄まじい数の人々が行きかい道路を埋め尽くす。

そんな景色を見ることができるこの席はいつも僕達の特等席だ。

席について一息ついたところで、いつものように大地が話を切り出した。

「それにしても俺ら三人そろって同じ大学に進学して、まだ3ヵ月しか経ってないんだよなぁ。なのに全く高校のときの気分が思い出せないぜぇ」

「私は響希君達と話すようになったのが模試のときからだからよくは知らないんだけど、学校で見かけたときはいつも2人一緒で楽しそうに話してたよ」

「そりゃあ、親友だからな」

大地が恥ずかし気もなく堂々と宣言する。それを聞いていた僕が少し恥ずかしくなってきた。

僕が照れていることに気付いたのか、新田さんは僕の顔を見てクスクスと笑っている。

「夏休みも近いし、海に行こうぜ!!海!!」

大地はそんなことに気付く風もなく、もう次の話題へと移っていた。





そんな取り止めのない会話がしばらく続き、そろそろ店を出ようかという時、

「そういえばお前にちょっと見せたいものがあるんだった」

と大地が言って僕に携帯を差し出してきた。

「携帯がどうしたんだ?」

「携帯じゃねぇよ、ちょっと待ってろ…… ー あったあった」

大地はそう言って携帯を操作した画面を僕に見せた。

アプリのショートカットが表示されている画面だ。

「これがどうしたんだ?」

「このアプリめちゃくちゃ面白そうじゃね」

そう言って大地が画面右端を指で示す。



《ニカイア(死に顔動画)》



瞬間。僕は息を呑んだ。

「………っ」

目を見開いて画面を食入るように見つめる。

頭の中は一瞬で真っ白になった。

だけど今はボーッとしてる場合じゃない。僕はなんとか硬い口を動かした。

「どうしたんだ、それ」

「これか?この前気づいたら入ってたんだよ。おかしいなと思って消そうと思ったんだけどさ、死に顔動画なんて面白そうなタイトルしてるからよ。消すに消せなくてよぉ」

大地は興味津々にそう答えた。すると、

「私もそれあるよ」

と新田さんも画面を開いて僕達に見せる。

「おう、新田さんお揃いじゃ~ん」

と大地は嬉しそうにはしゃいでいたが、僕は

「そのアプリは絶対に起動しちゃいけない!!」

と気づいた時にはバンっと机を叩いて席を立ち、大きな声で怒鳴っていた。

視界が揺らぐ。呼吸も苦しい。

その真っ白になった頭に浮かんでくるのは、あの7日間の悪夢だった。

二人は驚いた顔で僕を見ていたがすぐに心配の表情へと変わった。

「響希どうしたんだよ、顔色悪いぞ」

僕は手で顔を覆い席に倒れ込んだ。

「響希くん早く帰って休んだ方がいいよ」

「そうだな!響希立てるか?」

大地と新田さんに心配をかけてしまっている。僕は「大丈夫」と一言返事をしようと思ったがうまく言葉が出てこなかった。

無言で席を立ち、ふらつく足を引きずるようにして店を出た。





*ジプス東京本部



「局長!!東京都上空に謎の陰が出現!!さらに増えていきます!!」

館内に男性局員の声が響きわたる。館内は緊迫感に包まれ、局員達が慌ただしく動き出していた。

そんな中、館内中央で一人の男がうすら笑みを浮かべていた。

「やっと来たか、ずいぶん待たしてくれたものだ」

気象庁・指定地磁気調査部。通称ジプスの若き局長、峰津院大和(ほうついん やまと)だ。

「謎の陰はいぜん増えながら、こちらへ向かってきます!!」

それを聞いた大和は局員達に指示を出した。

「例の作戦を決行する!各々配置に着け!」

「待ってください!局長!」

しかし、その命令に凛とした雰囲気を持った一人の女性が反対した。

「なんだ」

「この作戦は無謀過ぎます!!いたずらに部下達を死なせる訳にはいきません!!」

迫真琴(さこ まこと)は大和に向かってそう言い放った。

しかし、大和はそれを鼻で笑い飛ばし悪びれる風もなく言った。

「私の作戦は完璧だ。一局員の命などどうでもいい、私は世界を救わねばならんのだからな」

「それともお前は私の言うことが信じられないのか?」そう言われて真琴は口を紡いだ。

大和は一度目を閉じ、それから改めて指示を飛ばした。

「これより状況を開始する!!」




*渋谷駅 地下鉄ホーム






あれから駅までまっすぐに向かったのだろうが僕にはその記憶はない。気づいた時には駅のホームにある椅子に腰掛けていた。

体のあらゆる気管が外からの情報を取り入れることを拒んでいたせいで空間移動したような感覚に襲われた。

二人は僕の前で楽しそうに話していた。


「大地……」


まだ少し頭が眩むが喋れるようにはなっていた。


「おっ!!やっと戻ってきたか。もう大丈夫か?」

「ごめん……心配かけて………」

「気にすんじゃねぇよ、親友だろ。心配ぐらいさせろよ」

「そうだよ、私だって響希くんの力になれることがあったらなんでもするよ」

「ありがとう」


僕は涙が出てきそうになるのを拭って立ち上がった。

次の電車が来るまで後5分程度。

それまでにさっきの事を二人に謝ろう。

そう思ったときポケットで携帯のバイブレーターが振動した。



二人も携帯が鳴ったらしくポケットから取り出していた。

嫌な予感が背筋を逆撫でする。

僕は恐る恐る携帯の画面を開いた。





「新着の友達の死に顔動画が届いたよ~?見てみる~??」





僕は息を呑んだ。

画面には《見る?見ない?》と聞いているバニーガール姿の女性アバター【ティコ】が表示されている。


「響希、これ何か分かるか?」


大地の画面にもニカイアのアプリが起動されていた。


「ごめん…ちょっと待ってくれ……」


心臓の鼓動が早くなる。僕はゆっくりとテンキーを操作して《見る》を選択した。


「わかったよ~?じゃあ再生するね~?」


そう言って画面に表示されたティコは消えていった。

そしてすぐに動画の再生画面が表示された。





*《死に顔動画》東京都 渋谷駅 地下鉄ホーム 17:44








《ホームに電車が参ります。黄色い線より内側に立ってお待ちください》

ホームに注意を呼びかけるアナウンスが流れる。

僕ら三人は言われた通り黄色い線より内側で電車を待っていた。

携帯の画面にはニカイアのアプリが起動されていて、僕は画面を睨みつけたまま立ち尽くしている。

大地と新田さんはそんな僕を見て、また心配そうにしていた。

何か喋りかけているようだったけど僕には聞こえない。

頭の中では一年前の記憶が駆け巡っている。

そのとき、いきなりホームが揺れ出した。僕ら三人は立っていられずその場にしゃがみ込む。

地震かと思ったが騒音と共に脱線した電車がホームに突っ込んできた。

僕ら三人は電車の下敷になり、死んだ。





*《現実》東京都 渋谷駅 地下鉄ホーム 17:44









「、………」


僕の頬を涙が伝った。


「どうしたんだよ、響希!」

「響希くん大丈夫!?」


ホームには注意を呼びかけるアナウンスが流れている。

タイムリミットまで時間がない、二人だけでも助けないと!

僕は二人の手を持って駆け出そうとしたが遅かった。

ホームが揺れ出すと立っていられずしゃがみ込んでしまった。


「なんだよこれ!?」

「キャーーーーッ!!」


脱線した電車がこっちに突っ込んでくる。

僕は「くっそ!!」と目を瞑り、叫んだ。





「ビャッコ!!」







「ニカイアのご利用ありがとうございま~す、新しい悪魔が追加されたよ~?」







目の前が光に包まれた。

雷の閃光のような輝きの中に真っ白な獣が出現した。


「ビャッコ……」


虎のような外見だが大きさは桁違いで、二本の牙はさらに鋭い。銀色に光る真っ白な毛並みには青白い電気が走っていた。

ビャッコは雄叫びを上げて体から電気を放電した。

僕達に倒れかかってきていた電車の車両が形を変えて吹き飛んだ。

砂埃が辺りに舞う。

そして役目を終えたビャッコはゆっくりと姿を消していった。

携帯を見ると画面には《修復中》と表記されていた。



「………」



電気が消えて真っ暗になったホームは静けさに包まれる。

僕はハッと我に帰り二人の名前を叫んだ。


「大地!新田さん!」

「響希、今のやつなんだったんだ………」


二人は僕の後ろで唖然とした顔をしていた。


僕はそっと胸を撫で下ろした。


「後で説明するよ、それより今は外に出よう」

「そ、そうだな!新田さん立てる?」

「う、うん………」


僕ら三人はゆっくりと立ち上がった。

暗くて辺りが見えないので携帯の明りを頼りに壁を伝い外を目指す。

辺りは異様な静けさに包まれている。

あまりの静かさに僕は違和感を覚えた。

だが、その違和感も外に出た瞬間に払拭された。


「誰も、いない………」


街の風景はいつもと変わらないのに風も無く閑散としていた。

アナウンスや公表も消えているため世界は全くの無音だった。


「なんなんだよ、これ!」


大地の声が街中に響き渡る。

世界から僕達以外の人が消えた。

僕が立ち尽くしていると、新田さんが空を指差した。


「あれ、なんだろ……」


空を見上げる。


「なんだ、これ……」


僕は後ずさりして空を見渡した。

そこには空を覆わんばかりの大きな歯車。否、時計が浮かんでいた。

長針と短針だけが時を刻んでいる。

気付けばさっきまで晴れていたのにいつの間にか曇り空になっていた。

だんだんと視界が白く霞んでいく。

目がおかしくなったのではなく、霧が出始めたのだ。


「なにがどうなってるんだぁ」


大地が不安そうな声を上げる。

新田さんも声を震わせていた。

僕は歯を食いしばった。


「人を探そう、まだ僕達以外にも誰かいるかもしれない」

「じゃあ手分けして、」

「ダメだ!!」


力が入っていた僕は思わず怒鳴ってしまった。


「ここで離れるのは危険すぎる今は三人共に行動しよう」

「分かったよ」

「ごめん……」

「いいさ、気にすんな」


大地が軽く笑い飛ばしてくれた。


「ありがとう」


僕も少し固い笑みを返した。

駅から学校に戻る道を僕達は歩き出した。

この道はいつも人通りが多いはずだけど、誰もいない。


「なぁ響希、これ夢じゃないよな」

「そうだね、これだけはっきりしすぎてると現実かどうか分からなくなってくるけど、これは現実だよ」

「お前こんな状況なのによく落ち着いてるよな」

「そんなことないよ、ただ少し慣れてるだけさ……」


彼らが忘れてしまった記憶を僕はまだ覚えている。

あのとき、思い知ったこと。

焦ってしまったら、また大切なものを失うことになる。

また巻き込んでしまうことになる。

だから僕は落ち着いていないといけない。

あんな思いをするのはもうこりごりだ。

僕はさらに気を引き締めた。



駅から学校まで半分ぐらいの道を歩いてきたがやっぱり誰もいない。

僕達は少し諦めかけていたとき、後ろに気配を感じて僕は振り返った。

すると、一人の小さな女の子がぬいぐるみを両手で抱えて後ろをついて来ていた。

光を反射するほどの綺麗な金髪に、ふわふわフリルがたくさんついたドレスを身にまとったお人形のような女の子は、僕が突然振り返ったのに驚いたのか「はうっ!!」と声を上げて道路の脇に停まっていた車の陰に隠れてしまった。

追いかけようと思ったが、そこで思い止まった。

兄妹のいない僕はこんなとき、どうしたらいいのか分からない。

怯えてる子に安易に接して逃げられるのがオチだ。

大地も僕と同じらしく、じっと考えているようだった。

女の子は車の陰から少し頭を出してこちらの様子を窺っている。



「大丈夫だよ」


と新田さんさんが女の子に声をかけた。

距離感を持ったまま、姿勢を低くして女の子に向き合う。

それでも女の子は車の陰から出てこようとはしなかったが、新田さんはカバンに付けていたぬいぐるみを外して「一緒にあそびたいなぁ」と少しぬいぐるみを動かすと、女の子がゆっくりと陰から出てきた。

近くまで来た女の子に新田さんはやさしく微笑みかける。


「こんにちは」


「………こんにちは」


女の子がギュッと、持っている人形を抱きしめる。まだ少し警戒しているようだ。


「お名前は?」


「………羽冷美琉璃(はざみ るり)」


羽冷美ちゃんはじっと僕らのことを観察するように警戒の視線を向ける。


「迷子になっちゃったの?」


新田さんの言葉に羽冷美ちゃんは首を左右にふる。


「お父さんとお母さんは?」


羽冷美ちゃんはまた首をふった。

新田さんは少し困ったような顔をしたが、すぐに


「じゃあ、お姉ちゃん達と一緒に探しに行こうか」


と言った。

羽冷美ちゃんはそこでやっと口を開いた。


「………遊んで」


「いいよ、なにして遊ぼうか」


羽冷美ちゃんは少し考えて、何か思いついたらしく少しリアクションを見せてから答えた。




しかし、僕達はその言葉を聞き取ることができなかった。

いきなり街中に大きな鐘の音が鳴り響いたせいでその声は掻き消されてしまった。

音が大きすぎて何処から聞こえてきているのか分からないような状況だったけど、心当たりのあった僕は空を見上げた。

空に浮かんでいる時計の長針と短針が重なっていた。




しばらくして鐘の音が鳴りやんだ。

数字らしきものが記されていないので、いったい今が何時を刻んでいるのかわからなかったが鐘が鳴ったということは多分12時だろう。

確認のため携帯を開けてみると、しかし僕の予想は外れていた。



19時38分。



それも丁度、長針と短針が重なり合う瞬間だ。だとすると今の鐘がいったい何を告げるための鐘なのか分からなくなってしまった。

時を伝えるのにこの時間は不適切だ。

再び街に静けさがもどる。

大地も新田さんも羽冷美ちゃんも不安そうに空を見上げていた。

僕が考えを巡らせていると、遠くの方で風を切るような音が聞こえて来た。

少し視線を上げると遠い空にさっきまで無かった黒い点がいくつも浮かんでいた。

霧の所為ではっきりとは分からないが鳥のようだ。

近づいてくるにつれて、シルエットがはっきりしてくると、しかしそれは鳥ではなかった。



「天使………」



それは神話に登場する天使そのものだった。

人のような容をした翼の生えたもの。

天使は数百という数で僕らに剣を向けている。


「大地、新田さん。その子を連れて逃げてくれ……」


僕は皆を置いて前へ出た。


「響希(くん)!!」


後ろで二人の携帯が着信していた。


「ビャッコ!!」


僕は携帯でニカイアを起動してビャッコを呼び出した。

丁度一体目の天使の下あたりに出現したビャッコは跳躍し、天使の足に食らいつき地に引きずり下ろした。

そのまま前足で天使押さえ込み、頭に食らいついて胴までを引きちぎる。

辺りに天使の血肉が飛び散り、そしてだんだん粒子になって消えていった。

しかし天使達はそれを見ても怯むことなく次々に突撃してくる。

再び跳躍したビャッコは天使を足場に使いながら電撃を浴びせていく。

電撃を受けた天使は黒焦げになって落ちていく。


「大丈夫、僕にはビャッコがいる。二人はその子をつれて早く逃げるんだ」


二人はしばらく悩んでいたがすぐに「分かった」と言って走りだした。

足音がだんだん遠退いていく。

僕は後ろを振り返ることなく寂しさを堪えた。

さっき言ったことは虚勢だ。いくらビャッコでもこの数には敵わないだろう。

大地たちが逃げらるだけの時間を稼げればそれでいい。

徐々にビャッコが疲労してきているのが伝わってくる。

だけど天使の数は減るどころか勢いを増してきていた。

そのとき、


「響希ーー!!」


と、大地の叫び声が後ろで聞こえた。

後ろを振り返ると駆け寄ってきた大地に腕を掴まれた。


「響希早く逃げるぞ!!」


新田さんと羽冷美ちゃんの姿はない。何処か安全な場所に置いてきたようだ。


「俺は大丈夫だから大地だけでも早く逃げるんだ!!」


「親友を置いて逃げられる訳ないだろ!!」


大地は必死な顔で僕の腕を引っ張る。

だけどここで僕は引くわけにはいかない。このままじゃあまた、あの惨劇を繰り返してしまう。


「何言ってるんだ!!このままじゃ大地まで危ない目に………」


「何一人で全部背負い込もうとしてんだよ!!ちょっとは仲間を頼ってくれよ!!」


僕はそのときハっと我に返った。

だけどもう遅かった………。

そのとき手に持っていた携帯が振動した。







《新着の死に顔動画が届いたよ~》







僕はまた友達を巻き込んでしまっていた。


「響希危ない!!」


油断していた僕の背後に剣を振り下ろそうとする天使がいた。

大地に突き飛ばされた僕は地面に転がった。

身体全身に痛みが走る。

僕はまた同じことを繰り返してしまった……。

悔しさと悲しみと罪悪が入り乱れて声にもならない。

ただ涙だけが頬を伝って流れ落ちた。

体の底からじわじわと力が込み上げてくる。この感覚を僕は覚えている。涙を拭い右手の携帯を強く握り込んだ。


「スザク!!セイリュウ!!」


目の前に二体の悪魔が出現する。


「あいつらを薙ぎ払え!!」


翼を大きく広げたスザクの炎が周りの天使を蒸発させ、天を駆けたセイリュウの冷気がすべてを凍らせていった。ビャッコのイカヅチが天を切り裂き天使たちに降り注ぐ。

沸き上がる力は止まることを知らず、携帯を伝って悪魔達に力を与える。




三体の悪魔の攻撃にさっきまでの天使陣は一瞬にして一掃された。




三体の悪魔が役目を終え消えていく中、僕は膝から足を折ってその場に座り込んだ。

両手で顔を覆ってその場にうずくまる。

そのとき、


「お~~~い!」


と何処からか死んだと思っていた親友の声が聞こえた。

僕は顔を上げ、すぐに辺りを見回したが何処にも姿は無い。


「お~~~い!響希~~~!」


と、また大地の声が聞こえた。

空を見上げると大地が手を振って空に浮いていた。




「………」

「………………」

「…………………………よかった」




一瞬の時間はとても長く感じた。

よく見ると妖精ピクシーが服の襟首を掴んで必死に羽ばたいている。


「あれは……」


僕はもう一度辺りを見渡すと、後ろで新田さんが腰が抜けたように座り込んでいた。


「新田さん!!」


慌てて僕が駆け寄ると、新田さんは力無く「よかった」と少し泣きそうな笑みを浮かべた。

空から下りて来た大地もすぐに駆け付ける。


「新田さん大丈夫!?」


「だいじょう……」


そこで新田さんは力尽きて倒れそうになったところを僕は受け止めた。


「新田さん!!?」


大地が慌て声を上げていたが新田さんは気を失っただけのようだった。


「大丈夫だよ、気を失っているだけだから」


「そ、そうか……」


そう言うと大地は胸を撫で下ろしていた。






《確保、だ》






一安心した矢先、いきなりバッと照明に照らされた。

あまりの眩しさに僕らは目を瞑ってしまい何が起こったか分からなかった。

だけどすぐに聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「我々は政府の特務機構、指定地磁気調査部ジプス。君たちを拘束する」


「真琴さん……」


いつの間にか僕たちは黒服の局員達に囲まれていた。

《修復中》と表示され悪魔召喚アプリを使えない僕たちは誘導されるがまま車に乗り込み、ジプス本局まで連行されることになった。





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