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No.38578の一覧
[0] 【完結】ADVでもう一度[片岡君](2013/11/23 13:41)
[1] 2. スリリング・モーニング[片岡君](2013/09/25 22:17)
[2] 3. お前の脳みそチンパンジー[片岡君](2013/09/27 00:51)
[3] 4. 50分前行動[片岡君](2013/09/29 02:06)
[4] 5. 赤ちゃんは僕[片岡君](2013/09/30 17:26)
[5] 6. 空が飛べるはず[片岡君](2013/10/02 18:21)
[6] 7. 暗闇の旅路[片岡君](2013/10/06 23:03)
[7] 8. 誰だよあいつ誘ったの[片岡君](2013/10/06 23:03)
[8] 9. 恐怖の鉄床[片岡君](2013/10/09 20:20)
[9] 10. お花畑で真っ二つ[片岡君](2013/10/11 19:26)
[10] 11. マッスル・エクササイズ[片岡君](2013/10/13 19:38)
[11] 12. 幸せの定義[片岡君](2013/10/23 19:03)
[12] 13. トンチは鮮やかに[片岡君](2013/11/04 12:48)
[13] 14. 行き着く先は[片岡君](2013/11/17 00:57)
[14] 15. 0/47390[片岡君](2013/11/23 13:40)
[15] 16. 31-BB-31-BB-23-28[片岡君](2013/11/23 13:41)
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[38578] 【完結】ADVでもう一度
Name: 片岡君◆b7cdcd14 ID:eb8485a1 次を表示する
Date: 2013/11/23 13:41
0-1. スーパーマン轢死事件


「んっ……」

首がかくん、となって目が覚めた。どうやら寝てしまっていたらしい。夢を見ていたからな。飲みかけのコーヒーと読んでいたはずの小説が床でお昼寝をしている。
最近、ふとした拍子に眠ってしまう事が増えた。俺もそろそろ歳か。そりゃ、こんな平日の真昼間から自室で惰眠を貪るような若者はいないだろう。いたとして、それは人間じゃないからな。
落ちた本を拾い、閉じた状態で机の上に置く。もう一度読む気にはなれなかった。もう冷たくなってしまったコーヒーを無理矢理に飲み干し、席を立つ。
昔ながらの学習机でコーヒーを飲む男は俺だけだろうな。良いんだ、独り身の方が何かと気楽だという事だ。コップを洗いながら、先ほど見た夢の事を思い返す。
実は最近、同じような夢ばかり見ている。今日もそうだった。内容は、俺の高校時代の夢。別におかしいことはないと思うかもしれない。俺もそう思う。単純に、死期が近いとでも解釈すれば済む話。
……寿命が尽きる、か。長かったような、短かったような。一言では表せないな。猫は死期を悟ると、姿をくらましてしまうらしい。俺と同じだ。俺の前世は猫だったのかも知れないな。

「……はっはっはっ」

意味不明なことを考えていると、思わず声に出して笑ってしまった。何が面白いんだか。まぁ、人様に迷惑を……あまりかけずにここまで来れた。そう考えれば悪くはないだろう。……久々に、顔でも見せておくか。

「ん?」

洗い物を終えたところで、ピンポーン、と音がした。誰かが来たらしい。くそ、一人寂しく余生を送る老人を演じていた俺の邪魔をしやがって。NGを出すような野郎は、玄関を開けた直後に刺し殺してやる。
しかし、本当に誰だ? アポなんかなかったしな。迷惑なやつめ。老体に鞭打って、一気に玄関まで駆け抜ける俺。勢いそのまま無防備に、誰だ、という事を確認せずに思い切り玄関を開いた。

「こんにちは」

そこにいたのは、確かに人間だった。老い先短い老人を訪ねてきてくれたのは、高校……いや、中学生か? それくらいの女の子だった。見覚えは、……ない、はずだけどな。

「ミサと言います」

ミサというらしい少女。小柄で黒髪ストレートな長髪。全体的に、……ゴス、いや違うな。説明がしづらい。老人に何を期待しているんだ?
性欲など、とうの昔に尽き果てている。全盛期は凄かったがな。一日十五回の伝説を破れるものは名乗り出てほしいくらいだ。
あの、あれだ。フリルというやつだ。そんな感じの……わからん。パジャマにしか見えん。誘ってんのか? でも、色は白だ。マサイ族の俺が言うから間違いない。間違いなく白だ。

「あぁ、こんにちは」

「さっそくですが。あなたは今日、死にます。抗うことはできません」

可愛らしい……とはまぁ、お世辞程度では言えるくらいか。何故かはわからないが、少し不機嫌そうにしている。喜怒哀楽の喜と楽が欠けたような表情だ。
初対面の人間に挨拶を受けて、俺も挨拶を返す。これがコミュニケーションの初歩、社会で生きていく術だ。人見知りは淘汰される運命だからな。
そうすれば、社交辞令でもなんでも話は自然と繋がっていく。これがいわゆる経験だな。鶴は千年亀万年。億兆なくて、俺……えーと、今なんて? 君今、なんて言ったの?

「ちょっと待」

「自然の摂理に逆らうのは不可能です」

「あの」

「しかしあなたには役目があります」

「……」

「掛け違えたボタンは、放置しておくわけにはいきません」

「聞けやーーーっ!!」

ちょっと待て、え!? なんだって!? おいおいおい、こいつは誰に喋ってるんだ? 俺か? 俺なのか? え、俺死ぬの? 嘘だろ!? そんなの信じられるかっ!!
さっきはなんだかんだ言ってたけど、良いじゃんそういう気分になる時だってあるじゃん! 俺はまだまだ死ぬつもりはない!

「何か」

俺の言葉を遮った時は一気に喋り切ったくせに、俺が怒鳴ると大きく息を吐いてから俺を見つめてきた。育ちが悪い。甘やかされて育ったんだろう。しかし俺には通じない。
俺を老いぼれだと思って見くびっているのかも知れないが、それは大きな間違いだ。こんなやつにはまず、舐められてはいけない。コミュニケーション? 知ったことではない。
そんなものは生きていく上で全く必要がない。盲腸と同じだ。現実問題として、俺という存在が証明しているからな。……くそっ、精神攻撃か! 舐めた真似を……!

「もう一回言え。最初からだ。老人を甘く見るな。若さだけが取り柄なお前らとは何もかもが違う」

恫喝してやる。いくら老体とはいえ、女に軽く負けるようでは男として、いやむしろ人間として恥ずかしい。あってはならない事態だ。

「ミサと言います」

「おう」

「……」

「……」

「……」

「……こんにちは」

「では、さっそくですが本題に入ります」

「ジーザス!!」

予定が全部狂った!! ちょっと待て! タイムだタイム! ちょっ、だからその、甘く見るなってだから! 頭の回転が遅くなってるんだよっ!
予定外の言葉を最初に持ってこられて、動揺してしどろもどろになったところを相手のペースに持ち込まれる。これではまるで、俺が格下みたいじゃないか。
奇をてらっていたのはむしろ女の方。だからちょっと待て。何故俺の脅しに屈しない? そこから考え直す必要がありそうだ。

「何か」

「何? 俺が死ぬって? いつ? どこで?」

「いえ、もうお亡くなりになりました。お察しします」

「お前言ってる事おかしいだろっ!」

それってもう俺死んでるじゃないか! どこが!? ピンピンしたこの、ゲホッ、ゲホッ! ……違う。まぁいい。俺が死んでいるように見えるのは、この足りない女だけだ。

「死からは逃れられません。そもそもあなたには人権が存在しませんが、どちらにせよ、拒否権を行使することは不可能です」

「一の次は百だとでも思ってんのか! というか俺を何だと思ってんだ!? 人間だよ、人間! 人権くらい、いっぱいあるわ!!」

「あなたは、参政権をお持ちなのですか?」

「当たり前やろ! 誰が……いや待て待て、違うっ、このフリは違う! どう転んでも最低な結果しか見えない!! 正解があるならお前が言って全責任を押し付けられろっ!」

「簡単です。そう、俺は真っ黒だ、と」

これがホントの、ブラックジョーク! どうも、ありがとうございましたー。と、そう言って終われる問題ではなかった。
俺頑張って避けようとしたのに最低な結末だよ! これテレビなら全カットかピー音入りまくりだからな!? どす黒すぎる!! こんなクズともう話すことなんか何もない。

「もういい、じゃあな!」

玄関を力の限り引っ張り、豪快な音とともに叩きつけようとした。しかし扉はビクともしなかった。
え、俺、この一連の流れで体力消耗したか? などと冗談を言える状態ではなかった。ビクともしない。俺の百万馬力が通用しない……?

「人生を、もう一度やり直したい。そう思ったことはありませんか?」

ならばそのままハイテンションで乗り切ろう。そう考えたが、上手くはいかなかった。久しぶりに大きい声を出したのでのどが痛い。
苦しむ俺を見つめてくる、相変わらず残念な目をしている少女。無言で見つめ合うのは気まずかった。目をそらすつもりで、何気なく、開いたままの扉の外に目を向けた。
……よく見ると、小鳥が羽ばたきを始めた段階で静止している。反射的に、玄関に置かれている時計に目を向ける。……秒針すら、動いていなかった。……いや、そんなまさか。

「……俺、もう死んだのか? 本当はどっちなんだ」

「死という定義によりますが、少なくとも日々の生活を営むことは不可能な状態と言えます」

なるほど。結局どっちなのかはよくはわからんが、今の俺は営めている。この体は魂と言ったところか。笑わせてくれる。ハッハッハ!
幽体離脱というものは経験した事もないのに、本物の幽霊になってしまうとは。幸運、いや強運の持ち主かもしれない。やったぜ!

「死因はなんだ」

「一言で表すなら、老衰です」

「嘘だろ……。俺、全然衰えてないぞ……? つい昨日も百メートルを六秒台で走ってたんだけど……」

「では、どうぞ。七秒以内で済むのなら」

「……まぁちょっと、今日は調子悪いから十五秒とかかな」

「はい。大丈夫です。どうぞ。お待ちしております」

「……」

「……」

「……で、俺は一体どうなるんだ」

それでも、思っていたよりは動揺しない。まぁ俺が動揺するわけがないけどな。俺のような孤高の存在が取り乱すわけがない。
ボケをスルーされて心を痛めることさえあれども、動揺するなんてことは絶対にありえない。それが今証明されてしまったな。

「先ほどの質問。お答えはいただけませんでしたが、私達は確信しています。田上空翔(たがみ つばさ)さん。あなたには、あなたをもう一度やり直して頂きます」

そう言えば、さっきの質問に答えていなかったか。答えるまでもなく強制だったらしいが。でも別に俺は抵抗しない。だって、正しいことは訂正する必要なんかないんだから。

「やり直す?」

「十七歳の夏に生じた分かれ道。そこに、もう一度あなたを召還します」

「え? マジで!? ヒィイーーヤッハァァーーーーッ!!」

「ただ、今の田上空翔さんとしてではありません。心の最下層にねじ込みますが、基本的には表に出ません。この時間軸が変化する事もありません」

「……俺は、俺じゃなくなるのか?」

「あなたは、田上空翔さんではないのですか? ということです」

なるほどな。まったくわからん。わかるのはとりあえず、俺の心が痛いことだ。理解が追いつかない。何故こいつはこんなにも無表情で淀みなく人を痛めつけつつ答える事ができるのか。
俺は基本的に子供が嫌いだが、可愛げという表現は理解することができる。こいつも別にブスとは言わないがもう少し感情豊かなら、もうちょっと可愛らしくなると思うのに……。
……でも、結局のところ、なんで俺がこんなことになってるんだ? 死んだ人間は全員こうなのか? とりあえず、聞いてみるか。

「心優しきお嬢ちゃん。なんで俺が人生をやり直すのか。そこを、おじいちゃんにもわかりやすく説明してくれんか。年をとったらポンコツになっちまって……」

「ではまた、後ほど会いましょう。健闘を祈ります」

「……お前、また会うのか? どうやって?」

「それでは一旦、お疲れ様でした」

俺から堪忍袋が消失した。爆発したからだ。でも暴言は吐き捨てることが出来なかった。理性? そんなものはない。クソガキは世のためにならん。駆逐しなければならない。
ただ単純に、ぐにゃりと、漫画のように視界が揺れた。出来なかったといったが、もしかしたら出来ていたのかもしれない。でも俺にはわからない。わかるすべがなかった。
薄れていく視界の中、乱雑に頭を下げられて、話を切り上げられてしまった。どうやらこれ以上は受け付けない、という姿勢らしい。
認められるわけがないが、抵抗する手段を俺は持っていなかった。最後まで無愛想な少女の姿が視界から消えて、俺の意識も暗転した。


        ----------------------------------------------


どんよりとした曇り空。寝不足な俺の心と同じような空だ。気分が悪い。学校を休みたい。しかし、風邪でもないのに休んでしまうと怒られてしまう。
むしろあいつが学校に行っているから俺も行く。もし休むような事があれば、俺は行かない。一心同体だ。蒸し暑さを耐え凌ぎながら、自転車をこぐ。全ては、あいつに会うために。

「ゆーかっ!」

待ち合わせ場所に、いつものように立っている後ろ姿。秋月優花(あきづき ゆか)。俺の幼馴染だ。

「んー?」

俺の呼びかけに、くるりと俺の方を向く。あぁ、可愛い……。いついかなる時に見ても決して飽きが来ることのない容姿だ……。
気付いたら口を半開きにして、自然と空を眺めてそうな、ぽわぽわっとした雰囲気も最高だし、ゆるふわっとした茶髪も最高だし、何より胸が真っ平なのも最高だ……。

「おはようっ!!」

「うん、おはよー」

全速力からの急ブレーキで、優花の真横に停止する。やばい、襲いかかりたい。いや、性的な意味ではなく。だからと言って、俺はホモではない。
そんな事を言う人間はぶっ殺してやる。表に出やがれ。売られた喧嘩は必ず買う。それが俺である証だ。挨拶を交わして、優花が自転車に乗るのを待つ。

「よーし、おっけー」

俺の後ろに。ではなく。優花の自転車にだ。一緒にツーリングでもするような心持ち。俺としては、どっちが前でも後ろでも良いから二人乗りをしたいところだが。許可が得られない。
そして特に会話もなく走りだす。幼馴染とはいえ、高校まで一緒になると思っていなかったが。嘘です。言っておくが、どちらかが追いかけたというわけではない。学力が同じだった。

「あ、僕そっち行かなーい。こっちからにしよー」

「え、なんでだよ」

「あっち、犬飼い始めたんだって」

あぁ、なるほどな。筋の通った理由だった。こいつは、動物の類が大の苦手だった。ぽけーっとしているような女子は動物を見たらうへうへ言いながらじゃれつくような気もするんだが。
何故か優花はそれができない。遠足の行き先が動物園、となった途端に病気になる。犬小屋に入れられているはずなのに道を変える。猫型ロボットが出てきただけでチャンネルを変える。
挙句の果てには、黒い服を来たセールスマンが出てきてもチャンネルを変えてしまう。何故かは本当にわからない。昔からそうだった気がする。
動物ったって、そりゃカエルとかゴキブリとかを見て悲鳴を上げるのはわかるけど。猫とか犬って、全然怖くないんだけどな。むしろ可愛い。もちろん、優花の方が可愛いけどなっ。

「だからこっちー」

「え、道知ってるの?」

「え? 知らないよ?」

「なんでや!」

バカがいる! いやそれを言ったら俺もバカになるけど! 二年間通ってて、横道に逸れただけで迷うとかどうしようもないけど! それを平然で言ってのけるやつには負ける……。

「大丈夫大丈夫。樹海とかじゃないからっ」

当たり前だ。住宅街だからな。むしろ迷ったら恥ずかしいな。もう少しまともな例えは浮かばなかったのか。問題は、時間なんだが……。空がどんどんと薄暗くなってきている。……。



遅刻した。見事に間に合わなかった。到着した途端に雨が降りだす、というのがせめてもの救いだった。一つわかったことは、遅刻する連中の精神面は屈強だということだ。
二人して遅れて教室に入った時の、素晴らしい視線を俺は一生忘れないだろう。俺には耐えられそうにないな。顔の赤みが取れる頃には、一時間目は終了していた。

「濡れなくて良かった良かったー」

見当違いな心配をしている優花。これが優花じゃなかったら、眼球を破裂させるくらいにボコボコにするんだが……。優花だからな。俺もアハハと笑うほかない。

「アッヒャッヒャ! アホやアホ! アホがおるー! なんやねん、遅刻した理由が道に迷いましたぐぼあぁっ!」

あ、しまった。俺から見て右の顔面を殴ろうと思ってたんだが。手元が狂って、左側の顔面を殴ってしまった。ガシャーン! と音を立て、派手に机とともに吹っ飛ぶ。
いやでも、スーパーマンが急に運転中の車の前に降りてきたとして、それを撥ねても車が悪いわけだし……。わりと今回それに似てるし……。俺が悪いわけじゃないし……。

「ごめん、右の頬骨を折ろうと思ったんだけど」

「どっちでもあかんわーっ! 普通死ぬやろ! 俺なんで生きてるん? 普通死ぬやろっ! 俺めっちゃ頑丈じゃない!? 普通死ぬやろっ!!」

頭から豪快に突っ込んだために、脳挫傷にでもなるかと思ったが。どうやら不発だったようだ。顔に痣ができた程度。くそ、そのまま死ねばよかったのに……。
それよりか、もっと変になったんじゃないか……? アヒャアヒャ言っている時点で到底普通とは思えないが、ツッコミはもう少し上手かった気がするが……。
このままだと、俺がボケとツッコミをこなすオールラウンダーにならざるを得ない。こいつ、関西弁だからって簡単にキャラが立つとか、そんな甘えた考えを持ってるんじゃないだろうな……。

「ごめん、なんか目障りだった」

「なんでやっ! お前まさか、俺と毎日顔合わせるたびにそう思ってんのか!?」

「うん……。ごめん……。気付いたら包丁を握りしめてる時があるよ……」

「秋月ーっ!!」

ツッコミだろっ! そこはツッコミだろっ! 銃刀法違反だって言ってくれよ!! 俺がこれからの生活を悲観していると、何故か優花の名前を呼び始めた。ふっ、バカめ! 今に見てろよ!

「なにー?」

「ゆかぁ……」

呼ばれて、すぐに駆け寄ってきた優花。俺もすぐに、優花に駆け寄る。そして腰の辺りを、ガッと抱きしめてやった。

「なんか怖い人がいる……」

「どの口が抜かすんじゃボケー!」

……うわ、こっわ! お前もう小指どころか親指以外全部無いだろ! どう見ても俺が被害者に見えるぞ!?

「あ、東海林(しょうじ)くん。顔の形変えた?」

「変えられたんや! 保護者なんとかしろや俺そのうち殺されてまうわ!!」

おいおい、失敬だな。それだとまるで、俺が優花に守られているみたいじゃないか。今は単によしよししてもらっているだけだ。怖かったからな。血を見ると失神するだけだよ俺は。

「無料で整形できて一石二鳥じゃなーい。僕だったら、むしろお金もらっちゃう!」

「……何が言いたいか一瞬考えたけど、何っにもフォローになってへんからな!? そんな商売潰れるやろっ!」

いや、ツッコミはそこじゃないだろ……。殴られて少し腫れ上がった顔を、整形が成功した顔、と言われているわけだからな。やはり、少し打ちどころが悪かったか……?
そこで、キーンコーンとチャイムが鳴った。二時間目の始まりだ。休み時間だからな。もう少し長ければ良いのに……。ガラガラと音を立て、先生が教室に入ってくる。

「クソが! お前もこの社会から抹殺したろか!」

「……」

言葉の選択がまずかった。多分東海林は、俺の顔面を、という意味で言ったに違いない。俺は、多分優花もわかっているはず。しかし、それは会話に参加していた連中だけ。
たった今教室に入ってきて、今にも殴りかかろうと拳を振り上げた東海林だけを見ている先生はどう思う? 間に優花が入り、後ろで怯えている俺を見てどう思う?

「おいお前ら」

「はいはーい」

「後で職員室来いや」

と、こうなる。とてもいい先生だ。昨今は自殺する学生というのが問題になっているからな。即座に対応してくれるという点では、素晴らしい先生だと思う。
しかし、余計に面倒な事になってしまった……。今回は俺が加害者みたいな、まぁ加害者そのものだが。優花がはーい、と答えたのを機に、俺達は着席した。



放課後になり、帰宅部である俺と優花は帰途についていた。会話はない。そりゃ、朝からずっと一緒にいれば会話もなくなるというものだ。会話がないからといって、気まずいことはないしな。

「じゃ、まったあっしたー」

毎朝の集合場所で俺達は別れる。毎日の事。だから俺も、おうとだけ返して、自宅へと脚を踏み出す。
途中、ランニングをしている男性集団とはちあった。身長とユニフォームから見るに、どうやら野球部の連中らしい。青春だな。
俺の青春は、優花と共にあった。何か、変わったことでもやろうか、と思わなかった事もない。でもやめた。
優花が何もやっていなかったから。優花と一緒にいるのが楽しかったから。優花と一緒にいる事で安心する事ができたから。
何の疑問も抱く事のなかった日々。多分それは、これからも変わることのない日々。先を考えたところで、なるようにしかならないわけだから。与えられた日々を享受する。
そのありがたみを噛み締めたところで、自転車のスピードを上げることにした。


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