暗く陰気の地下室に雁夜はいた
「召喚の呪文は間違いなく憶えて来たであろうな?」
「わかってる、こんなところでヘマはしないさ」
臓硯を一瞥してから、中央の魔法陣を見つめる。
そう、間違えるわけにはいかない。魔力を無駄にしてはならない、急造の魔術師である俺はこれから始まる聖杯戦争のマスターの中で一番弱いだろう、しかし勝たなければならない、桜ちゃんのために、凛ちゃんのために、葵さんのために。
「おお、それとな雁夜、お前にはバーサカーを召喚してもらう」
「どういうことだ?」
「なに、簡単なことじゃよ、お前はほかのマスターどもよりも比べ些か以上に弱い、ならばパラメーターそのものを底上げしてやるほかあるまい」
「・・・・・・くそじじい」
確かに召喚する英雄は強くなるだろう、その分バーサーカーは魔力を喰らう、雁夜にとっては致命的だ。しかし、臓硯には逆らえない、ならば短期決戦で決着をつけるまで、この身はもう余命いくばくか、生き残ろうなどどとは思わない。
呼吸をととのえる。-そして。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
強い風圧と稲妻のなかで彼は来た、怪しくたたずむ。
部屋が暗く顔がよく見えないが、銀髪で顔の左半分にクモのタトゥーが不気味に光っていた。
過去の英雄とはあまりにも違う外見。
そして―召喚者たちは次の瞬間驚愕した、ありえないからだ。
「やぁ、こんばんは。こんな卑しいボクを呼び出してどうするんだい?」